東京地方裁判所判決 平成20年1月24日

症状固定時40歳の男性自動車運転手が高次脳機能障害、右下肢短縮等(併合2級)の後遺障害を負った場合において、妻200万円、子2人各100万円の後遺障害慰謝料を認めた。

       主   文

 1 被告Y1及び被告Y2株式会社は,原告X1に対し,連帯して,1億0348万5929円及びこれに対する平成12年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告Y1及び被告Y2株式会社は,原告X2に対し,連帯して,220万円及びこれに対する平成12年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 被告Y1及び被告Y2株式会社は,原告X3に対し,連帯して,110万円及びこれに対する平成12年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 4 被告Y1及び被告Y2株式会社は,原告X4に対し,連帯して,110万円及びこれに対する平成12年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 5 被告Y3保険株式会社は,原告X1に対し,被告Y1及び被告Y2株式会社と連帯して,701万円及びこれに対する平成15年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 6 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 7 訴訟費用はこれを20分し,その6を原告らの,その13を被告Y1及び被告Y2株式会社の,その余を被告Y3保険株式会社の負担とする。
 8 この判決は第1項ないし第5項に限り,仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 請求
 1 被告Y1及び被告Y2株式会社は,原告X1に対し,連帯して,1億6023万6294円及びこれに対する平成12年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告Y1及び被告Y2株式会社は,原告X2に対し,連帯して,330万円及びこれに対する平成12年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 被告Y1及び被告Y2株式会社は,原告X3及び原告X4に対し,連帯して,各220万円及びこれに対する平成12年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 4 被告Y3保険株式会社は,原告X1に対し,被告Y1及び被告Y2株式会社と連帯して,771万円及びこれに対する平成15年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
   本件は,後記1(2)の交通事故(以下「本件事故」という。)につき,原告らが,被告Y1(以下「被告Y1」という。)に対しては,民法709条に基づき,被告Y2株式会社(以下「被告会社」といい,被告Y1と併せて「被告Y1ら」という。)に対しては,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条又は民法715条に基づき,それぞれ損害賠償金及び本件事故日である平成12年3月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,原告X1(以下「原告X1」という。)が,被告会社との間で自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)の契約を締結していた被告Y3保険株式会社(以下「被告Y3」という。)に対し,自賠法16条(いわゆる被害者直接請求)に基づき,その後遺障害に応じて本来支払われるべき保険金額の限度内の損害賠償額と既に支払われた金額との差額及び弁護士費用並びに被害者直接請求に係る書類が被告Y3に到達した日の翌日である平成15年10月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 1 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)等
  (1) 当事者
   ア 原告ら
     原告X1(昭和35年○月○○日生)は,本件事故により障害を負った者である。原告X2(同月○○日生。以下「原告X2」という。)は,原告X1の妻であり,原告X3(昭和61年○月○○日生。以下「原告X3」という。)及び原告X4(昭和63年○月○○日生。以下「原告X4」という。)は,いずれも原告X1の子である。
    (甲2)
   イ 被告Y1ら
     被告Y1は,後記(2)ウ①の被告車を運転していた者であり,被告会社は,本件事故当時,被告車の保有者であった。被告Y1は,本件事故当時,被告会社の従業員であった。
   ウ 被告Y3
     被告Y3は,被告会社との間で,上記の被告車について自賠責保険の契約(証明書番号E○○○-○○○○○)を締結していた者である。
    (甲1)
  (2) 本件事故の発生(甲1)
   ア 日時    平成12年3月18日午前5時50分ころ
   イ 場所    埼玉県入間市〈以下省略〉(以下「本件事故現場」という。)
   ウ 関係車両 ① 被告Y1が運転し,被告会社が保有する普通貨物自動車(登録番号大阪○○く○○○○)(以下「被告車」という。)
          ② 原告X1運転の普通貨物自動車(登録番号群馬○○え○○○○)(以下「原告車」という。)
   エ 態様    原告X1が原告車を運転して本件事故現場付近の道路を走行していたところ,原告車の対向車線を走行していた被告車が中央線を越えて逸走するなどし,原告車に衝突した。
  (3) 被告Y1らの責任原因
    被告Y1は,被告車を運転するに当たり,自らの走行車線を走行させて対向車線へと逸走させない注意義務があるにもかかわらずこれを怠り,中央線を越えて対向車線へと被告車を逸走するなどさせて原告車に衝突させた過失があるから,民法709条に基づき,損害賠償責任を負う。
    被告会社は,被告車の保有者で運行供用者であり,また,被告Y1の使用者であって,被告Y1は被告会社の事業の執行について本件事故を発生させたのであるから,自賠法3条及び民法715条に基づき,損害賠償責任を負うところ,本件においては,自賠法3条に基づく損害賠償責任を選択することとする。
  (4) 原告X1の受傷内容及び治療経過
    原告X1は,本件事故により,外傷性くも膜下出血,頭部外傷,左手母指・中指背側挫創,右膝外側挫創,右股関節後方脱臼骨折,右手示・中・環指挫創,右手中・環指伸展筋断裂,右肩甲骨頚部骨折,右肋骨骨折,血気胸,肺挫傷,左腎挫傷,下顎骨骨折,口腔内裂傷等の傷害を負い,次のとおり入院等をした。
   ア 埼玉医科大学附属病院(以下「埼玉医大病院」という。)
     入院 平成12年3月18日から平成13年4月18日まで
   イ 医療法人原病院(以下「原病院」という。)
     入院 平成13年4月18日から平成14年6月22日まで
   ウ 群馬県立身体障害者リハビリテーションセンター(以下「リハビリセンター」という。)
     入所 平成14年6月22日から平成18年5月31日まで(ただし,平成15年9月13日から同月30日までの間は仮退所)
    (甲21)
  (5) 自賠法16条に基づく請求について
    原告X1は,被告Y3に対し,自賠法16条に基づき,損害賠償額の支払の請求の手続をし,同請求に係る書類は,平成15年10月22日,被告Y3に到達した。
    原告X1は,平成16年1月23日,①頭部外傷後の神経系統の機能又は精神の障害について自動車損害賠償保障法施行令別表第2の5級2号,②右下肢の短縮障害について同表の10級8号,③右手指の機能障害について同表の12級9号,④右膝関節の機能障害について同表の12級7号の各適用と評価され,自賠責保険後遺障害等級併合4級適用と判断された。
   (甲10,11)
    この結果,原告X1は,同月27日,被告Y3から1889万円の支払を受けた。
  (6) 労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)における後遺障害認定
    桐生労働基準監督署長は,原告X1の後遺障害につき,労働者災害補償保険法施行規則別表第1の身体障害等級表第1級の3(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの)に該当すると判断し,平成18年10月17日付けで,原告X1に対する障害補償年金及び障害特別支給金の支給を決定した。
    原告X1は,同決定に基づき,平成19年6月15日までに,障害補償年金として合計1011万0015円の支払を受けた。また,他に,労災保険としての介護補償給付として,51万0390円の支払がされている。
   (甲27の2及び3,原告X2本人)
  (7) その他の損害のてん補
    原告X1は,被告会社がいわゆる任意保険契約を締結していた保険会社から,2988万0202円の支払を受けた。
    また,原告X1は,国民年金法に基づく障害基礎年金として,平成19年6月15日までに,697万8003円の支払を受けた。
   (甲17ないし19,24の1及び2,32,33)
  (8) 高次脳機能障害の程度に関する認定基準
   ア 自賠責保険における補足基準
     高次脳機能障害認定システム確立検討委員会の平成12年12月18日付けの「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムについて」と題する報告書(甲22)においては,当時新たに広く認識されるようになった高次脳機能障害につき,自賠責保険制度の運用における後遺障害認定の補足基準として,
    3級3号 「自宅周辺を1人で外出できるなど,日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また,声掛けや,介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力,新しいことを学習する能力,障害の自己認識,円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって,一般就労が全くできないか,困難なもの」
    5級2号 「単純くり返し作業などに限定すれば,一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり,環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており,就労の維持には,職場の理解と援助を欠かすことができないもの」
    との考え方が示された。
    (甲22中の7頁)
   イ 労災保険における認定基準
    (ア) 労災保険における後遺障害の等級に関しては,次のとおり規定されている(労働者災害補償保険法施行規則別表第1参照)。
     第3級の3 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの
     第5級の1の2 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
    (イ) そして,平成15年以降の労災保険制度の運用上は,「神経系統の機能又は精神」の障害のうち,高次脳機能障害の等級該当性については,①意思疎通能力,②問題解決能力,③作業負荷に対する持続力・持久力,④社会行動能力の4能力(以下「本件4能力」という。)の各々の喪失の程度に着目し,評価を行うものとされている。
    (ウ) 上記の各能力の喪失の程度の評価を行う際の要点は,次のとおりとされている。
      ①意思疎通能力(記銘・記憶力,認知力,言語力等)については,「職場において他人とのコミュニケーションを適切に行えるかどうか等について判定する。主に記銘・記憶力,認知力又は言語力の側面から判断を行う。」とされる。
      ②問題解決能力(理解力,判断力等)については,「作業課題に対する指示や要求水準を正確に理解し適切な判断を行い,円滑に業務を遂行できるかどうかについて判断する。主に理解力,判断力,又は集中力(注意の選択等)について判断を行う。」とされる。
      ③作業負荷に対する持続力・持久力については,「一般的な就労時間に対処できるだけの能力が備わっているかどうかについて判定する。その際,意欲又は気分の低下等による疲労感や倦怠感を含めて判断する。」とされる。
      ④社会行動能力(協調性等)については,「職場において他人と円滑な共同作業,社会的行動ができるかどうか等について判定する。主に協調性の有無や不適切な行動(突然大した理由もないのに怒る等の感情や欲求のコントロール低下による場違いな行動等)の頻度についての判断を行う。」とされる。
    (エ) 本件4能力の喪失の程度は,高次脳機能障害整理表を参考として,それぞれ「多少の困難はあるが概ね自力でできる」から「できない」までの6段階で評価し,その喪失の程度に応じた認定基準に従って障害認定を行うものとされ,本件4能力のうちのいずれか1つ以上の能力が全部失われているか,又は2つ以上の能力の大部分が失われている場合には第3級の3に該当し,本件4能力のいずれか1つ以上の能力の大部分が失われているか,又はいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われている場合には第5級の1の2に該当するものとされている。
    (甲23)
   ウ 自賠責保険制度の運用における労災保険基準の位置づけ
     自賠責保険における後遺障害等級認定については,平成13年金融庁・国土交通省告示第1号「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」において,等級の認定は,原則として労災保険における障害の等級認定の基準に準じて行うものとされており,本件4能力に着目する労災保険の認定基準に対しては,自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会の平成19年2月2日付けの「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」(報告書)において,「就労者である成人の被害者に対しては,従前の考え方を用いて後遺障害等級を認定した後,労災保険で使用している「高次脳機能障害整理表」に当てはめて検証し,最終結論とすることが労災保険に準拠する自賠責保険としての妥当な認定方法と考える。」と報告されている。
    (甲31)
 2 争点及びこれに対する当事者の主張
  (1) 原告X1の高次脳機能障害の程度
   (原告らの主張)
   ア 原告X1の上記の後遺障害の程度を評価するに当たっては,労災保険における認定基準が参考とされるべきであり,本件4能力につき原告X1の各能力を評価すれば,次のとおりである。
    (ア) 意思疎通能力
      原告X1は,コミュニケーション自体は可能であるが,記憶障害は激しく,数分前のことを忘れてしまい,メモの利用ができない。また,原告X1には記憶障害による誤りが多いことも考えれば,その意思疎通は,「ごく限られた単語を使ったり,誤りの多い話し方をしながらも,何とか自分の欲求や望みだけは伝えられるが,聞き手が繰り返して尋ねたり,いろいろと推測する必要がある。」ものであり,「困難が著しく大きい」(大部分喪失)に該当する。
    (イ) 問題解決能力
      原告X1は,複数の工程がある作業ができず,次の工程に至るまで理解を保持することができない。また,場所や内容など一部が類似している事項は混乱することから,作業にミスが出ないような環境を他者が整える必要がある。原告X1が本人なりに行った問題解決は,記憶障害や注意障害により作業全体が見渡せないため不適切であり,作業をやり直さなければならない事態が起こる。
      これらを評価すると,原告X1の問題解決能力は,「①手順を理解することは著しく困難であり,頻繁な助言がなければ対処できない。②1人で判断することは著しく困難であり,頻繁な指示がなければ対処できない。」ものであり,「困難が著しく大きい」(大部分喪失)に該当する。
    (ウ) 作業負荷に対する持続力・持久力
      原告X1は,とにかく「めんどくさい。」が口癖であり,日常生活動作にかかわる行動に移すには,他の者が誘導して実施させる(これを,「スイッチを入れる」と呼ぶことがある。)必要がある。
      原告X1が好きな洗車作業であっても,準備等を合わせて50分程度のプログラムであるにもかかわらず,他者による多数回にわたる促しが必要であり,促してもできないことが多々あり,時には,促しに対して暴力的行為に及ぶ。複雑な作業は,集中力や記憶力の問題で不可能であるが,単純作業を持続するための持続力・持久力もない。
      これらを評価すると,原告X1の作業負荷に対する持続力・持久力は,「障害により予定外の休憩あるいは注意を喚起するための監督を頻繁に行っても半日程度しか働けない。」よりも程度が重いものであり,「できない。」(全部喪失)に該当する。
    (エ) 社会行動能力
      原告X1は,自らの嗜好である缶コーヒーやたばこを,医師から制限されているにもかかわらず何かと理由を付けて要求するなど,自らの欲求をコントロールすることが全くできない。また,原告X1は,感情のコントロールの低下により,妻である原告X2や,他の施設利用者に対し,突然暴力を振るったこともある。
      これらを評価すると,原告X1の社会行動能力は,「障害に起因する非常に不適切な行動が頻繁に認められる。」よりも程度が重いものであり,「できない。」(全部喪失)に該当する。
   イ 以上のとおり,原告X1は,本件事故により,本件4能力のいずれにおいてもその全部又は大部分が失われ,看視(見守り),声掛け(指示)や適切な援助が必要であるものであるから,原告X1の高次脳機能障害は,自賠責後遺障害等級3級を超えるものに相当し,他の後遺障害と併せて,自賠責後遺障害等級2級に相当する後遺障害を負ったものと評価すべきである。
    (被告Y1らの主張)
     原告X1の知能程度は,検査の結果によれば正常範囲内を示していることからすれば,知能面の能力はそれほど落ちておらず,身体能力等についても問題がないことから,原告X1には相当程度の労働能力があるものと認められる。
     原告X1は,リハビリセンターにおいて28回の洗車訓練を受けたところ,うち21回は遂行することができ,そのうち17回は,他者による促しが必要であったが,実際には原告X1の親族よりも,第三者から促された方が従う可能性は高いとされている。また,原告X1は,現在も週1回程度は自発的に洗車を実施しており,自分の嫌いな作業については長続きしないが,好きなことであれば継続することができる傾向にあり,意欲もある。このように,就労環境が整えば,原告X1は,相当程度の労働能力を発揮して就労することが可能である。
     そうすると,原告X1の高次脳機能障害の程度は,自賠責保険後遺障害等級5級2号に相当するものであり,他の後遺障害と併せて,自賠責保険後遺障害等級4級に相当するものと評価されるべきである。
     上記以外については,被告Y3の主張を援用する。
    (被告Y3の主張)
   ア 原告X1に対する自賠責保険における後遺障害認定に当たっては,高度な専門的知識が要求され,判断が困難な事案において外部専門家が参加する「自賠責保険(共済)審査会高次脳機能障害専門部会」において審査された結果,原告X1の高次脳機能障害は,頭部外傷後の神経系統の機能又は精神の障害として,後遺障害等級5級2号適用と判断され,他の後遺障害と併せて,併合4級適用と判断されたものである。
     このように,原告X1の高次脳機能障害についての認定は,専門的かつ客観的見地からされたものであり,十分信頼するに値する。
   イ 原告X1の本件事故後の状況について見るに,原告X1は,歩くとふらつかない,左右の手は動くなど,身体機能面では特に問題はなく,知能検査の結果でも,成人知能検査(WAIS-R)において,言語性IQ99,動作性IQ83,全IQ91と,知能面でも目立った障害はない。
     また,原告X1のいわゆる日常生活動作(ADL)は自立していて,指示すれば家事手伝いができ,気が向けば犬の散歩をすることもでき,買物に1人で行くことができ,釣銭も分かり,公共交通機関に乗ることができ,決まった場所には行くことができる。さらに,原告X1は,リハビリセンターにおいて,洗車訓練も28回中21回は行うことができた。また,行うことのできなかった7回のうち,促しに対して暴力的行為に及んだことが3回あり,他にも数回暴力的行為に及んだことが報告されているが,4年間を通じての回数であり,就労を全く妨げる事情とまではいえない。
     洗車以外の単純作業については,好きではないから行わないのであり,やろうと思えば行うことができるものと理解される。
     現在は,妻である原告X2の指示に抵抗して暴力的行為に及ぶことはなく,週に4日通っている群馬県立精神医療センターでのデイケア施設でも大きな人間関係上のトラブルはなく,易怒性も特にはうかがわれない。
     以上の原告X1の状況を踏まえれば,「単純繰り返し作業などに限定すれば,一般就労も可能」と評価することができ,原告X1の高次脳機能障害については,自賠責後遺障害等級5級2号に相当するといえる。
   ウ 以上に対し,原告らは,脳外傷による高次脳機能障害に関して,労災保険における本件4能力を使用した基準が参考とされるべきであるとするが,同基準は,オーストラリアにおける考え方を参照したもので,我が国における妥当性を検証したものではない点で問題があり,しかも,当てはめ自体に評価を伴うため,当てはめを適正に行うことができるかという点にも疑問があるとされているものである。
  (2) 損害
   (原告らの主張)
   ア 治療関係費                 1249万4400円
   イ 付添交通費                   50万7879円
   ウ 装具代                        3500円
   エ シューズ補高代                    2400円
   オ 入院雑費                   124万0500円
     入院雑費としては,日額1500円が相当であり,本件事故により原告X1が負った傷害の症状が固定した平成15年8月6日までの入院日数は827日であるから,上記金額となる。
   カ 付添看護料(症状固定前)           906万9000円
     原告X1は,本件事故により重篤な傷害を負ったため,原告X1の妻である原告X2らが,上記の症状固定日までの1237日間,毎日付き添って看護した。
     入院中の付添看護料については,原告X1の傷害が極めて重篤であったことにかんがみれば,日額7000円が相当である。
     また,通院期間中の付添看護料については,症状固定後の介護料の近親者介護料と同じく,日額8000円が相当である。
     そして,平成15年8月6日の症状固定までの入院日数は827日,通院日数は410日であるから,次の計算式により,上記金額となる。
    (計算式)
    7000円×827日+8000円×410日=960万9000円
   キ 休業損害                  1265万0799円
    (ア) 基礎収入 日額1万0228円
      原告X1は,本件事故当時,有限会社A(以下「A」という。)に勤務しており,本件事故前3か月の給与は92万0492円であった。これを90日で除した額は,上記金額となる。
    (イ) 休業日数 1237日
    (ウ) よって,休業損害は,上記金額となる。
   ク 逸失利益                  7559万0110円
    (ア) 基礎収入 年額547万8100円
      原告X1は,本件事故当時40歳で,症状固定時には43歳であり,その後の昇給等にかんがみれば,将来にわたって賃金センサス平成15年男子学歴計全年齢平均賃金である547万8100円の収入を得られる蓋然性が認められる。
    (イ) 労働能力喪失率 100%
      原告X1の後遺障害は,自賠責保険後遺障害等級2級に相当するものであるから,その労働能力喪失率は100%である。
    (ウ) 労働能力喪失期間 24年間
      原告X1は,本件事故がなければ,満67歳までの24年間にわたって就労することができたものである。
    (エ) よって,逸失利益は,次の計算式により,上記金額となる。
     (計算式)
     547万8100円×100%×13.7986(24年間に相当するライプニッツ係数)=7559万0110円
   ケ 将来付添費(介護料)            4879万6704円
     原告X1の後遺障害は自賠責保険後遺障害等級2級に相当する重篤なものであり,将来にわたり,日常生活における付添い(介助・看視・声掛け)が必要である。このことは,原告X1を診察した医師らの意見によっても裏付けられている。
     将来介護料としては,日額8000円を下ることはない。
     そして,原告X1は,症状固定時に43歳の男性で,平成16年簡易生命表によれば,その平均余命は37.11年であるから,37年にわたって介護が必要である。
     したがって,次の計算式により,将来付添費として4879万6704円が損害と認められるべきである。
    (計算式)
    8000円×365日×16.7112(37年間に相当するライプニッツ係数)=4879万6704円
   コ 慰謝料
    (ア) 傷害慰謝料               400万0000円
      原告X1の傷害が極めて重篤であったことや,症状固定日までの期間が長期にわたること等の事情にかんがみれば,傷害慰謝料としては,上記金額が相当である。
    (イ) 後遺障害慰謝料            2600万0000円
      原告X1の後遺障害は,自賠責保険後遺障害等級2級に相当するものであるから,後遺障害慰謝料としては,上記金額が相当である。
   サ 遅延損害金                  365万1204円
     原告X1は,平成16年1月27日,自賠責保険において1889万円の支払を受けたところ,これに対する本件事故日である平成12年3月18日から平成16年1月27日までの1411日間に発生した民法所定の年5分の割合による遅延損害金は,365万1204円である。
   シ 損害のてん補                4877万0202円
    (ア) 自賠責保険              1889万0000円
    (イ) 任意保険               2988万0202円
   ス 上記損害額の合計            1億4523万6294円
     原告X1については,上記アないしコの合計1億9035万5292円の損害が生じ,これに,上記サの確定遅延損害金を加えると,1億9400万6496円となる。
     同額から上記シのてん補額を控除すると,てん補後の損害額は,1億4523万6294円となる。
   セ 弁護士費用                 1500万0000円
     原告X1は,原告ら訴訟代理人に対し,上記損害額の約10%に相当する上記金額の手数料・報酬の支払を約した。
   ソ 原告X1の損害額の合計         1億6023万6294円
     上記スの金額に上記セの弁護士費用を加えた額が,原告X1に生じた損害額である。
     よって,原告X1は,被告Y1らに対し,上記金額及びこれに対する遅延損害金の支払を求める。
   タ 原告X2,原告X3及び原告X4の損害  合計770万0000円
     原告X1が本件事故により自賠責保険後遺障害等級2級相当という死にも比肩すべき重篤な後遺障害を負い,原告X2,原告X3及び原告X4の精神的苦痛は極めて大きく,その慰謝料の金額として,原告X2について300万円,原告X3及び原告X4について各200万円を下ることはない。また,原告X2らの弁護士費用として,合計70万円を要する。
     よって,原告X2らは,第1の2及び3記載のとおり,各損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める。
   チ 被告Y3に対する請求額        合計771万0000円
    (ア) 自賠法16条に基づく損害賠償額 701万0000円
      被告Y3は,被告車に自賠責保険を付した保険者であるところ,損害保険料率算出機構による自賠責保険後遺障害等級併合4級適用との後遺障害の認定に基づき,原告X1に対し,1889万円を支払った。
      しかしながら,本件における原告X1の後遺障害は上記等級2級に当たるものであるから,被告Y3は,原告X1に対し,上記等級に応じた保険金額である2590万円から既払金である1889万円を控除した701万円の損害賠償額を支払う義務があり,原告X1は,上記金額に後記(イ)の弁護士費用を加えた771万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める。
    (イ) 弁護士費用 70万0000円
   (被告Y1らの主張)
   ア 治療関係費,付添交通費,装具代及びシューズ補高代 争う。
   イ 入院雑費 不知。
   ウ 付添看護料(症状固定前) 争う。
     入院付添いの単価は,日額6500円が相当である。また,通院付添いについては,必要性を争い,仮に認められるとしても,単価は日額3000円程度が相当である。
   エ 休業損害 争う。
     基礎収入は,休業損害証明書に記載されているとおり,日額1万0227円であるとしても,休業日数は,症状固定日である平成14年8月8日までの874日であって,休業損害額は,893万8398円である。
   オ 逸失利益 争う。
    (ア) 基礎収入 争う。
      原告X1の本件事故前の実収入額である年額364万3432円を基準にすべきである。
    (イ) 労働能力喪失率 争う。
      原告X1の後遺障害は,自賠責保険後遺障害等級4級に相当するものであるから,その労働能力喪失率は,92%とすべきである。
    (ウ) 労働能力喪失期間 争う。
      症状固定日は,平成14年8月8日である。
   カ 将来付添費(介護料) 否認する。
     原告X1の日常生活状況はほぼ自立しており,身体的障害はそれほどではなく,指示があれば,洗車や犬の散歩といった軽易な作業も可能であり,基本的には介護は必要とはされない。自発性・感情面でのコントロール等に問題があり,入浴や更衣等に適宜指示を要する場面もあるようであるが,これはいわゆる家族間で行われる声掛けの延長上のものであり,介護や看視といったレベルには当たらない。
   キ 慰謝料
    (ア) 傷害慰謝料 争う。
    (イ) 後遺障害慰謝料 争う。
      原告X1の後遺障害は自賠責保険後遺障害等級4級に相当するものであるから,1670万0000円とするのが相当である。
   ク 遅延損害金 争う。
   ケ 損害のてん補
    (ア) 自賠責保険 認める。
    (イ) 任意保険 認める。
      なお,上記既払金のほかに,国民年金法に基づく障害基礎年金,労災保険としての障害補償年金及び介護補償給付の既払分として,合計1763万6392円が控除されるべきである。
   コ 弁護士費用 争う。
   サ 原告X2,原告X3及び原告X4の損害 争う。
   (被告Y3の主張)
    原告X1が自賠責保険において平成16年1月27日に後遺障害分として1889万円の支払を受けたことは認めるが,その余の損害についての主張は否認し,又は争う。
    原告X1が被告Y3に対して請求できるのは,保険金額を限度とするから,仮に被告Y3に自賠法16条に基づく支払義務があるとしても,その範囲は保険金額を超えるものではなく,このことは,仮に弁護士費用が損害として認められるとしても,異なるところはない。
    その余については,被告Y1らの主張を援用する。
  (3) 消滅時効
   (被告Y1らの主張)
    本件提訴は,平成17年12月21日にされたものであるところ,本件事故は平成12年3月18日に発生し,かつ,原告X1の後遺障害は平成14年8月8日に症状が固定したから,いずれの時点からも本件提訴の時点で3年が経過している。
    したがって,本件の請求については消滅時効(民法724条)が完成しており,被告Y1らは,平成18年2月9日の本件口頭弁論期日において,この消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
   (原告らの主張)
    原告X1の傷害の症状が最終的に固定したのは平成15年8月6日であり,その旨の診断書の発行を受けたのは平成16年1月16日である。
    したがって,原告らは,症状固定の日及びそれを知った時のいずれの時点からも3年を経過しないうちに,本件提訴をしたものであり,消滅時効は本件提訴により中断している。
    また,B保険株式会社は,被告車に付された任意保険の保険者であり,原告X1との間で,被告Y1らを代理して,損害賠償額に関する示談交渉を行っていたところ,平成15年12月26日,原告X1に対し,30万6840円を支払っているのであるから,被告Y1らは,この支払により損害賠償債務を承認したものであって,消滅時効は中断し,原告らは,その後3年を経過しないうちに本件提訴をしたものである。
第3 当裁判所の判断
 1 原告X1の診療経過,症状の推移及び現在の状況
   上記前提事実(第2の1参照)に加えて,証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
  (1) 本件事故前の原告X1の状況
    原告X1は,昭和58年1月23日,自動二輪車を運転中に交通事故に遭い,当初は医療法人堀江病院に入院したが,錯乱状態等が見られたことから,原病院において診療を受けた。原告X1は,原病院に同年3月25日から同年4月28日まで入院し,その後は通院したが,同年5月14日に加療は中止された。この際には,後遺障害の存在は見られなかった。
    なお,原告X1は,昭和53年に群馬県内の工業高等学校を卒業した後,就職して自動車整備関係の業務に従事し,その後一度転職していたが,本件事故の3年程度前の平成9年に運送会社に就職し,以後運送業務に従事して,本件事故の発生した当時は,Aに勤務していた。
   (甲25,乙1の7,2の2,4,原告X2本人)
  (2) 診療経過
   ア 埼玉医大病院
    (ア) 原告X1は,平成12年3月18日に発生した本件事故後,原告車内から搬出され,直ちに埼玉医大病院救急外来に搬送され,頭部打撲,外傷性くも膜下出血,頭部多発外傷,脳挫傷,右肋骨骨折,右肩甲骨骨折,股関節脱臼骨折,左腎損傷,下顎骨骨折,口腔内外裂傷等と診断され,救急部において治療を受けた後,経過観察がされ,同年4月18日,整形外科へ転科した。
      原告X1の外傷性くも膜下出血及び脳挫傷に対しては,脳神経外科において経過観察がされていたところ,保存的治療により硬膜下水腫等は消失傾向となったが,人格障害が見られたほか,遅くとも上記の転科の時点までには本件事故前5年程度についての逆行性健忘の症状がみられた。
    (乙1の1ないし3並びに5及び6)
    (イ) 原告X1は,埼玉医大病院救急部入院中から,見当識障害等の症状が出るとともに,不穏状態になることがあり,他の患者から苦情が出るなどの状況で,上記のような事情が著明なためにリハビリテーション等の診療行為が不可能であると判断され,平成12年5月25日,精神的安定等を目的として,精神科に転科となった。
    (乙1の1ないし7)
    (ウ) 原告X1は,埼玉医大病院精神科において,薬物療法,精神療法を施行されながら,リハビリテーションとして歩行訓練を受け,平成12年12月28日,症状のより軽度な患者を対象とする病棟へ転棟となった。
      原告X1は,転棟して以降も,周囲の状況が理解できない状態が続き,同内容の訴えの繰返し,ささいな理由で情動が不安定となり他患に対し怒鳴るなどの行動もあったものの,薬物療法上の調整により,症状は落ち着きを見せ,原告X2らが自宅付近の病院での治療を希望したこともあり,平成13年4月18日,原病院へ転院となった。
      なお,埼玉医大病院精神科山下医師から原病院への診療情報提供書(平成13年3月22日付け)(乙2の1中の5頁)においては,埼玉医大病院精神科への転科後の経過につき,「失見当識著明で言動にまとまりなし。指示には素直に従うが,記銘力障害あり,記憶の保持が困難。食事,用便は自立している。下肢に障害を残しているが,独歩可能。ときに些細な理由で情動不安定となり,他患と口論に至ることもあるが,口頭での静止可能なレベルである。」と評価されている。
    (乙1の7,乙2の1)
   イ 原病院
     原告X1は,原病院入院当初は外泊を禁じられていたが,その後,月に1度程度,1泊2日又は2泊3日の外泊等を実施し,日常生活に関連する主な動作(食事,服薬,更衣,入浴等)についてほぼ自らできるようになったものと評価された。
     原告X1は,より専門的な治療を受けさせたいとの家人の希望により,平成14年6月22日に原病院を退院した。
     なお,原病院精神科清水医師から転院先であるリハビリセンターへの診療情報提供書(平成14年7月26日付け)(乙2の1中の14頁)においては,「当院退院時は情動面は安定していましたが,意欲低下が目立っており,当初比較的積極的に参加していた院内作業にもでず,無為・好褥的生活でした。」と評価されている。
    (乙2の1及び2)
   ウ リハビリセンター
    (ア) 原告X1は,平成14年6月10日からリハビリセンターの利用を開始し,同月22日には,原病院を退院してリハビリセンターに入所し,リハビリテーション治療のほか,職員看視の下で洗車等の訓練を受けるなどし,平成18年2月14日以降は,デイケア施設に通所する訓練を実施し,同年5月31日,リハビリセンターを退所した。
    (甲21,乙2の1,乙3の1及び2)
    (イ) リハビリセンター入所中の原告X1は,いわゆる日常生活動作(ADL)自体は自立しており,夜尿時の寝具処理以外に介助は受けなかった。しかしながら,原告X1は意欲が低下しているために,職員において入浴,洗髪等に当たり指示を頻回行う必要があった。また,着替えについても,確認していないと同じ服を着続けていることもあった。一方,原告X1は,職員の指示等に必ずしも素直に従わず,職員から受けた指摘等に対し,その場しのぎの言い訳でごまかすこともあった。
      原告X1については,記銘力低下の問題が指摘されていたため,記銘力保持のためにスケジュールノートの活用が試みられたが,原告X1は自発的に記入することはなく,腕時計や携帯電話のアラーム機能等を補助的に利用しても,記入内容を確認することもないため,スケジュールの自己管理ができなかった。なお,原告X1は,洗車訓練中等に,ノートを投げるなどし,平成17年12月ころからは,担当医師によって,人格変化がはっきりしてきたものと評価されていた。
    (甲21,乙3の1,原告X1本人)
    (ウ) 既に述べたとおり,原告X1は,リハビリセンター入所中に洗車訓練等を受けていたところ,原告X1は,与えられた作業の内容の概略を理解することはできるが,記憶を保持することができず,1つの作業でも途中から課題に適合しなくなる,複数の工程がある作業では,最初に全体の手順の説明を受けても,それを覚えておくことができず,自分で手順を見つけることもできない,内容等が一部類似している事項については混乱を来してしまうなどの問題が見られたほか,意欲の低下が顕著で,本件事故前の職業との関係で興味を抱くことのできた洗車訓練以外の訓練は,リハビリセンター入所中に継続して行うことはできなかった。週1回行われ,1回当たり50分とされていた洗車訓練については,28回実施され,自発的に行ったのは4回,促しによって行うことができたのが17回,促しても行うことができなかったのが7回で,そのうち3回においては促しに対して暴力的行為に及んだ。また,原告X1は,意欲や集中力の低下のため,頭痛や腰痛等を訴えて訓練につき休みを取ろうとするが,他方,そのような場合でも休憩時間に限るとされている煙草やコーヒーを受け取りに行くために歩くなど,欲求の抑制を欠き,コーヒーがもらえなかったりすると短気を起こしたりしていた。
    (甲21,乙3の1)
    (エ) さらに,原告X1は,リハビリセンター入所中,外出することは可能だが,場所・交通手段・交通機関の運行時刻,行程などについて,練習して慣れたものを基点にしなければ行動することができず,単独で行動した際には,目的地まで到達することができなかったため,1人での帰宅等のための訓練が必要であるとされた。
     (甲21,乙3の2)
    (オ) 原告X1は,平成15年9月13日から同月30日までの間,リハビリセンターを仮退所し,同月17日から,群馬障害者職業訓練センター(以下「職業訓練センター」という。)に,8週間を目途として自宅からの通所を開始した。
      原告X1は,職業訓練センターにおいて,ボールペンの組立て作業等の単純作業に従事したが,スピードが遅い上に能率が悪く,また,職業訓練センターにおいて人間関係をうまく築くことができず,4日目以降には訓練に対して拒否の姿勢が見られるようになり,その後も,作業所に到着してから直ちに作業を開始することができず,面接を実施した後でなければ作業を開始できないなどの状態が継続し,同月30日には,職業訓練センターへの通所を嫌がって粗暴な振舞いをして,再びリハビリセンターに入所し,同年10月16日に,職業訓練センターへの通所を取りやめた。
    (甲9,21,乙3の2,原告X1本人,原告X2本人)
  (3) 原告X1の現在の生活状況等
   ア 原告X1は,現在,群馬県立精神医療センターのデイケア施設に週4回通所し,運動,昼食作り,工作などを,スタッフ見守りの下で行っている。
     原告X1の日常のサイクルの基本は,午前6時30分ないし7時ころに起床し,食事をして新聞やテレビのニュースを見たり,自ら購入した中古車情報誌等の雑誌を見て過ごし,午後7時ころに夕食をとった後,入浴し,午後10時ころに就寝するというものであるが,日によって相当の振れがある。
     なお,原告X1は,新聞やテレビ番組のニュースを見たりするが,その内容については,直近のものであっても記憶していない。また,原告X1は,家ではメモをほとんど取っていない。
     このような生活状況の中,原告X1は,気の向いた時に犬の散歩をしたり,自転車で近所を散歩したり,自宅の車両を洗車するなどしており,平成19年6月7日に行った本人尋問の際には,将来的には何らかの作業に従事したいという希望を述べていた。
    (甲9,21,25,29,原告X1本人,原告X2本人)
   イ 原告X2の原告X1に対する日常生活における対応の主な例は,次のとおりである。
     原告X1は,起床時間が一定ではないため,原告X2が声を掛けて起床させ,1日の予定を立てることができないため,デイケア施設への通所があるか否か等について知らせる必要がある。また,着替えを自ら進んで行うことができないため,着替えを準備し,着替えるよう声掛けをしなければならない。
     原告X1は,自ら食事をとることはできるが,簡単に調理できるもの以外には自分で食事を準備することはできず,後片付けも自ら行わない。また,コーヒーは自分で入れることができるが,コンロにやかんをかけたまま忘れてしまうことがある。食欲の制約ができず,金銭や服用する薬の管理も自力ではできない。
     原告X1は,1人で入浴することはできるが,入浴させるためには声を掛けなければならず,また,声を掛けないと,身体を洗ったり洗髪をしたりしない。
    (甲9,25,29,原告X1本人,原告X2本人)
  (4) 検査結果
   ア リハビリセンターにおける検査(乙3の3)
    (ア) 長谷川式簡易知能評価スケール(平成14年6月11日実施)
      26/30(なお,同検査においては,21以上は非痴呆とされる。)
    (イ) ウェクスラー成人知能テスト(WAIS-R,平成14年12月10日実施)
      言語性IQ99 動作性IQ83 全IQ91
    (ウ) 三宅式記銘力検査(平成14年12月4日実施)
      有関係対語1-2-3 無関係対語0-0-0
    (エ) 日本版リバーミード行動記憶検査(平成14年12月4日実施)
      標準プロフィール点12/24 スクリーニング点3/12
   イ 帝京大学病院における検査(甲12の1)
    (ア) 長谷川式簡易知能評価スケール(平成17年1月18日実施)
      20/30
    (イ) WMS-R(平成17年2月10日実施)
      一般記憶53 言語性記憶64 視覚性記憶<50
      注意・集中力101 遅延再生<50
    (ウ) Raven色彩マトリシス検査(平成17年2月10日実施)
      32/37
  (5) 原告X1の脳機能障害に関する診断・評価等
   ア 平成13年4月27日付けの原病院における検査結果に基づいての「心理評価と診断」(乙2の2中の71及び72頁)
     記銘力障害が認められる。失見当識がある。即時再生には問題がないが,保持の時間は非常に短く(おそらく1分くらい),それを超えると課題に失敗する。そのため物品再生は正答数が少なく,物語の再生は繰り返しても正答数が上がるといった学習効果が見られない。このことは短期保存された情報を長期記憶に転送できないことを意味する。図形の模写は問題ないが,その再生は全くできない。視覚情報の短期保存は,言語情報と同様に問題がない。物語の遅延再生は全くできず,作話が見られ,全く違った話を作り上げた。
   イ 平成14年9月25日付けのリハビリセンターにおける作業療法士及び心理判定員による「作業療法評価・心理評価報告」(乙3の3中の18頁)
    (ア) 記憶
      過去の記憶の想起は,事故当時の勤務先名以外は良好であったが,記銘力は,言語性,視覚性ともに低下していることから,生活を送る上で支障が出ており,保続(以前の内容が修正できずに反復してしまうこと)も見られた。ごく短いものの即時再生は可能だが,物語になると困難で,物語中の単語がいくつか想起できるが,それらの単語を関係づけてまとまりのある内容として記憶することはできない。やったことを覚えていないことへの認識はあり,まめに日記風のメモをとるが,これからやることを覚えていられないことも重大な問題であるのに,それについての認識は甘い。
    (イ) 注意
      特定の刺激に注意を向けることや複数の刺激に同時に注意を向けることが困難なこともあった。そのため,何か行う,伝えるときは一つずつにした方がよい。常に注意が低下しているわけではないが,突然落ちることがあり,うっかりミスや思い込みを生じてしまう。また,自分の行為を監視する力が低下しているため,おかしさや間違いに気づけなかったりする。
    (ウ) 遂行機能(手順を計画し,効率的に行う)
      ルールを保持できず,主ではないルールに固執し,計画のないまま行っていたため,効率的な処理は困難だった。練習による効果はあるが,うっかりミスにより結果が安定しない。
    (エ) 思考
      固執性が見られ,関心の幅が狭い。
    (オ) 情緒面
      現在のところ問題となる面は見られず,場面に応じた感情のコントロールはできていると思われるが,今後も観察していく必要がある。
    (カ) 行動面(社会性)
      状況に応じた行動ができていない場面が見られた。洗面所にて人が待っているにもかかわらず,お構いなしにしばらく歯を磨いていた。声を掛けたが何のことかといった感じであった。また,そこを去るときに少しも悪びれた様子もなく,何もいわずに立ち去ってしまった。社会性の低下を否めない。
   ウ 平成15年1月9日付けのリハビリセンターC医師(以下「C医師」という。)による後遺障害診断(甲4)及び「脳外傷による精神症状等についての具体的所見」(甲7)
     物忘れ症状(a),新しいことの学習障害(b),粘着性,しつこい,こだわり(d),飽きっぽい(e),集中力が低下していて気が散りやすい(g),発想が幼児的で,自己中心的(j),計画的な行動を遂行する能力の障害(m),複数の作業を並行処理する能力の障害(o),行動を自発的に抑制する能力の障害(r),社会適応性の障害により,友達付合いが困難(u)といった点について,高度の障害が残存している。
     また,短気,易刺激的,易怒性(b),感情の起伏や変動がはげしく,気分が変わりやすい(f),感情が爆発的で,ちょっとしたことで切れやすい(h),性的な異常行動・性的羞恥心の欠如(i),多弁,おしゃべり(k),自発性や発動性の低下があり,指示や声かけが必要(p),暴言・暴力行為(q),服装,おしゃれに無関心あるいは不適切な選択(s),睡眠障害,寝付きが悪い,すぐに目が覚める(t)といった点については,中等度の障害が残存している。
     記憶が断片的で,欠落部分を誤情報で埋め,当てにならない。即時記憶は保たれているが,近時記憶,遠隔記憶としては定着しにくい。覚えていることを他者から手がかりを与えられないと検索,想起できない。場面が変わると,直前の内容を忘れる。スケジュールノートによるスケジュール管理には,常に他者の援助を必要とする。時間の見当識が著しく障害されていて,人の名前,場所の見当識も障害されている。情報処理速度が遅く,自分の行為をモニターする能力が低下していて,ミスを犯していることに気付かない。課題を正しいやり方で続けられない。自己の障害について正しく認識することが困難であるために,将来についての深刻さが欠けている。複数人がいる場面では,周囲との関係性を感じ取りながら反応するのが困難である。
     一見すると外見上の障害は目立たないが,実際の障害は著しく社会生活を送る上で常に援助を必要とする。
   エ 平成17年3月3日付けの帝京大学医学部脳神経外科D医師による医学意見書(甲12の1)
     原告X1には,認知・遂行障害及び性格変化を主体とする高次脳機能障害の症状が認められ,今後のその回復が困難であることから,就労は極めて困難であることが推測され,ほとんどの基本的な日常生活動作では自立しているが,食事の準備や後片付け,洗たく,掃除,病院の予約,各種手続,金銭管理等は原告X1の家族が行わなければならず,また,外出(特に,初めての場所への外出),食事や衣類の選択等には指示が必要であるなど,家族の看視や援助が欠かせないものも存在する。
   オ 平成18年5月18日付けのC医師による「脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書」(甲29中の2頁)
     高次脳機能障害の程度判断における本件4能力のうち,原告X1の意思疎通能力及び問題解決能力については「困難が著しく大きい」(大部分喪失)に,持続力・持久力及び社会行動能力については「できない」(全部喪失)に,それぞれ該当する。
     事故の後遺症による人格変化が顕著であり,深刻味が欠如。現実性はなく,常時援助・指導が必要。記銘力障害著しく,ノート管理も困難。意欲,集中力の低下著しく,放置すると何もやらない状態が続く。時に抑制欠如のため,暴力,器物破損あり。
     原告X1に対する介護の要否等については,自発性,意欲の低下,記銘力の障害等により,挙げられた項目(食事,入浴,用便,更衣,外出、買物)について,いずれも介護が必要である。
   カ 平成18年5月31日付けのリハビリセンターE臨床心理士による陳述書(甲21)における原告X1の本件4能力に関する評価
    (ア) 意思疎通能力については,言葉によるコミュニケーション自体は可能であるが,記憶障害が激しいため,グループ発表において自分が既に発言したことを数分後に忘れたり,5分後に訪問するよう依頼されたことを忘れたりする。また,メモを取ろうとせず,取っても重要な事項を落としてしまうため,後でメモを見ても再現ができず,話す内容に事実と異なることが含まれることが多い。
      これらを評価すれば,「E:困難が著しく大きい」(大部分喪失)に該当する。
    (イ) 問題解決能力については,1つの作業を指示すればおおよそ理解できるものの,一定の条件を満たすカードの書写し訓練を実施したところ,途中から条件を満たさないカードを書き写すなど,他者による見守りがなければ課題に適合しない作業になる。また,複数の工程のある作業については,作業工程を記憶しておくことができないこと等から,他者が手順を整理するなどする必要がある。
      さらに,原告X1には注意障害のためミスが見られるが,気付かないため,他者が指摘する必要がある。
      これらを評価すれば,「E:困難が著しく大きい」(大部分喪失)に該当する。
    (ウ) 作業負荷に対する持続力・持久力について,原告X1は,「めんどくさい。」が口癖となっており,原告X1に何らかの行動をさせるには,他者が声を掛けて「スイッチを入れ」なければならない状態である。また,原告X1が興味を持っていた洗車作業でさえも,リハビリセンターに入所中の28回の訓練中,自発的に行うことができたのは4回であり,残りは強く繰り返して促すことによるか,又は促しても作業を実施しなかったものである。さらに,原告X1は,単純なものであるリハビリセンターにおける手提げ袋の制作(原告X1によれば,手提げ袋に紐をかける作業)や,仮退所中に通った職業訓練センターにおけるボールペンの組立て作業も嫌がった。
      これらを評価すれば,「F:持続力に欠け働くことができない」(全部喪失)に該当する。
    (エ) 社会行動能力について,原告X1は,感情や欲求をコントロールする力に著しい障害があり,その好みとするたばこや缶コーヒーについて我慢することができず,他者の管理がなければコントロールできない。また,感情を抑制できずに突然暴力を振るったり,怒り出したりする行動が見られた。
      反面,自己のこのような行動についての認識には,深刻さが欠如しており,一見協調性がありそうに見えながら,自己に負荷がかかる事態で,器物損壊等の暴力的行為といった不適切な行動で,他者との人間関係を覆すこととなる。
      原告X1は,自己の病識(特に記憶障害)に関して正確な理解に欠けている。
      以上を評価すれば,「F:社会性に欠け働くことができない」(全部喪失)に該当する。
 2 争点(1)(原告X1の後遺障害の程度)について
  (1) 原告X1に,本件事故の後遺障害として,頭部外傷による高次脳機能障害が生じ,また,右下肢の短縮障害(自賠責保険後遺障害等級10級8号相当),右手指の機能障害(同12級7号相当),右膝関節の機能障害(同12級7号相当)が生じていることについては,当事者間に争いがないところ,高次脳機能障害の労働能力に対する影響については,原告らは,少なくとも自賠責保険後遺障害等級3級3号に相当し,労働能力が100%失われたと主張するのに対し,被告らは,自賠責保険における後遺障害の等級認定の結果(5級2号)を踏まえ,79%にとどまる旨主張するので,まず,この点について検討する。
  (2) 確かに,原告X1は,平成16年1月にされた上記の等級認定の際,その理由中で考慮されたように,「食事は自分で食べることができる」「衣服は自分で着ることができる」,「大小便はもらさない」,「歩くとふらつかない」,「左右の手は動く」,「新聞を見る」,「お風呂に入る」,「声をかけて気が向けば散歩にいく」といった動作が可能であって(甲9,10),また,上記認定事実のように,リハビリセンターにおいて,原告X1は,いわゆる日常生活動作(ADL)自体は自立していて,日常生活において職員が実際に手を貸して介助していたのは,夜尿時の寝具の処理に限られていたものである。
    しかしながら,原告X1は,リハビリセンターにおいて,意欲や集中力の低下が著しく,「タバコを吸う」,「コーヒーを飲む」,「(用意された物を)食べる」,「排泄する」,「寝る」といったこと以外は,自発的に行うことはなかったもので,例えば,入浴,洗髪等は繰り返しての指示なくして行うことはなく,着替えについても同様であり,このような日常生活の状況は,リハビリセンター退所後も変わらなかった(甲21,25,原告X2本人)。
  (3) また,上記認定事実のように,原告X1は,言葉によるコミュニケーション自体は可能であるものの,記憶障害は激しく,リハビリセンター入所中から,わずか数分前のことも覚えておらず,退所後も,コンロにやかんをかけたまま忘れてしまうなどのことがある状況にある。原告X1に対しては,スケジュールノート等を利用した記憶の喚起が試みられたが,結局,原告X1がメモによる記憶喚起及びこれによる自己の行動の管理を自発的に実施するには至らなかった。
  (4) 原告X1は,1つの作業を指示すれば,おおよそ理解することができるものの,その記憶障害等のために,これを持続することが困難であるほか,応用作業も困難で,ミスをしても言われるまで気づかないことから,原告X1が作業に従事するに際して,頻繁に指示を与える必要性が認められる。
  (5) 作業負荷に対する持続力・持続性についても,リハビリセンターが原告X1の興味に沿って訓練に採り入れた洗車作業にあっても,28回の訓練中,自発的に行ったのはわずかに4回で,促しによってすることができたのが17回であって,残りの7回は,促しによっても作業が不可能で,このうち3回は促しに対し暴力的行為に及んでいる。このようなリハビリセンターにおける洗車訓練の経過を見ても,原告X1が興味を抱く事柄でありさえすればすべて独力で実施できているわけではなく,上記認定事実のとおり,意欲がなく作業を拒否する,訓練を開始するために原告X1を誘導しなければ作業を開始しない,腰痛等を訴えて休みを求める,訓練後にコーヒーをもらえなかったことにより易怒するなどからすると,就労という観点から見れば,原告X1が最も興味を抱き得る対象であるはずの洗車作業ですら,不可能ではないにしても,著しく困難を伴うものと評価せざるを得ないところであって,その他の作業に至っては,「面倒くさい。」などと意欲すら見せず,継続することができない状況にあった。
  (6) 原告X1が自らの欲求や感情をコントロールできるのかについては,上記認定事実のとおりであり,職業訓練センターに通所した際も,他の利用者との人間関係がうまくいかず,通所を嫌がり,粗暴な振舞いをしたため,結局,通所は中止せざるを得なかったのである。
  (7) 以上のような原告X1の日常生活動作,意思疎通能力,問題解決能力,作業負荷に対する持続性・持久性,社会行動能力のほか,労災保険において診断書や本人との面談結果等により「高次脳機能障害が顕著」であるとして「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの」と認定されたこと(甲27の2及び3)や,平成14年3月5日,群馬県から,障害等級を1級として,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律45条による保健福祉手帳が交付されたこと(甲35の1及び2)も併せ考慮すると,原告X1は,一般就労はもとより,極めて軽易な労務にも服することができないものと認められる。
    このように,原告X1は,自賠責保険又は労災保険のいずれの後遺障害の認定基準によっても,高次脳機能障害により労働能力を100%喪失したというべきである。
  (8) 以上に対し,被告らは,原告X1は,洗車作業等についての作業意欲を有し,かつ,洗車訓練については実施することができ,現在も自宅の車両を洗車していること等の事情に照らせば,一定の軽易な作業に限定すれば就労が可能である旨等を主張するが,リハビリセンターにおける洗車訓練の状況は上記のとおりであって,しかも,同訓練は,リハビリセンターでのプログラムの中で唯一労働に結びつくようなものであったこと(甲21)のほか,既に述べた事情からすると,被告ら摘示の事実があるとしても,上記認定を覆すには足りない。
 3 争点(2)(原告らの損害)について
  (1) 治療関係費                1249万4400円
    証拠(甲24の2)によれば,原告X1に対する治療関係費として1249万4400円を要したことが認められ,同額を損害と認める。
  (2) 付添交通費                  50万7879円
    証拠(甲24の2,25,乙1の7,乙2の1及び2,乙3の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば,原告X2は,原告X1が埼玉医大病院に入院している間,少なくとも数日から1週間に1度程度の割合で来院等して原告X1の身の回りの世話等をしていたこと,その後原告X1が原病院及びリハビリセンターに入院又は入所をしていた際にも,原告X1を訪れ,外泊の際には原告X1を送迎するなどしていたことが認められる。
    そして,証拠(甲24の2)によれば,原告X1の家族の付添いのための交通費として50万7879円を要したことが認められることに加え,既に認定した原告X1の症状に照らせば,原告X1の入院等の間も,家族による付添いが必要であったと認められるから,上記金額を損害と認める。
  (3) 装具代                       3500円
    証拠(甲24の2)により,上記金額を損害と認める。
  (4) シューズ補高代                   2400円
    証拠(甲24の2)により,上記金額を損害と認める。
  (5) 入院雑費                  124万0500円
    証拠(甲3)によれば,原告X1は,埼玉医大病院において,本件事故による各種の後遺障害のうち,症状の固定が最後となった関節機能障害について,平成15年8月6日症状固定との診断を受けたことが認められるから,同日をもって原告X1の症状が最終的に固定したものと認める。
    原告X1は,上記症状固定日までの間,埼玉医大病院,原病院及びリハビリセンターに入院又は入所をしていたものであり,そのうち埼玉医大病院及び原病院に入院していた827日について,日額1500円として,124万0500円の入院雑費を損害と認める。
  (6) 付添看護料(症状固定前)          350万6000円
    上記のとおり,原告X2は,原告X1の入院又は入所中,毎日原告X1に付き添っていたとまではいえないものの,既に認定した原告X1の症状の推移等も踏まえ,症状固定までの期間を通じて,その期間の半分に当たる日数につき,原告X1の埼玉医大病院及び同病院への入院中については1日当たり6000円の付添費を,リハビリセンター入所中については1日当たり5000円の付添費を認めるのが相当である。そして,原告X1の入院日数は827日,症状固定日までのリハビリセンター入所日数は410日であるから,次の計算式により,350万6000円を症状固定前の付添看護費と認める。
   (計算式)
   (6000円×827日+5000円×410日)×1/2=350万6000円
  (7) 休業損害                 1265万2036円
    証拠(甲13の1ないし3,甲14の1ないし19)によれば,本件事故が発生する前である平成11年12月から平成12年2月までの3か月間の原告X1の総収入を単純に日額で計算すると,1万0228円であり,原告X1が発行を受けた休業損害証明書上も同額をもって基礎収入として扱われていることが認められ,被告Y1らも,休業損害の計算に当たっては,同額をもって計算することを争わない趣旨であると解されることを踏まえた上で,上記(5)のとおり,原告X1は,本件事故から症状固定日までの1237日間休業を余儀なくされたことに照らせば,原告X1の休業損害は,上記金額と認める。
  (8) 逸失利益                 6735万2346円
   ア 基礎収入 年額488万1100円
     既に認定したとおり,原告X1は,群馬県内の工業高等学校を卒業後,就職して自動車整備関係の業務に従事するなどし,本件事故の3年前である平成9年に運送会社に転職して,本件事故の発生した当時はAに勤務していたところ,原告X1の本件事故前の休業損害証明書上の収入は,日額1万0228円であり,これを基礎に,365日分につき,夏期及び冬期の賞与を各5万円として計算した合計の年収は,約383万円である(甲13の1ないし3,14の1ないし19,15)。もっとも,原告X1は本件事故当時40歳で,将来にわたって継続してトラックの運転手として勤務する可能性があったこと,原告X1は,本件事故時に勤務していたAに平成11年9月に就職したばかりであり,今後,収入の増加が見込まれる長距離運送に従事することが期待できたこと(甲25,原告X2本人),後述のような労働能力喪失期間の長さ等を考慮すると,原告X1には,将来において,賃金センサス平成15年産業計全労働者平均の年収額である488万1100円程度の賃金を得る蓋然性があったものと認める。
   イ 労働能力喪失率 100%
     原告X1は,上記2認定のとおりの高次脳機能障害及びそれ以外の障害により,一般就労が極めて困難な状態となっており,本件事故によって労働能力を100%喪失したものというべきである。
   ウ 労働能力喪失期間 24年間
     原告X1は,症状固定時に43歳であり,67歳に至るまで24年間にわたって稼働することができたものと認める。
   エ よって,逸失利益は,次の計算式のとおりの金額となる。
    (計算式)
    488万1100円×100%×13.7986(24年間に相当するライプニッツ係数)=6735万2346円
  (9) 将来付添費(介護料)           3049万7940円
    既に認定したとおり,原告X1は,日常生活において,食事,着替え,入浴,排泄等を,基本的に他人の介助によらずに行うことが可能であるが,原告X2が,原告X1に対して,食事や着替え等の準備をする必要があるほか,日常生活のほぼ全般にわたって随時声掛けを行って行動に出ることを促す必要があり,また,食事の量,火の取扱い,金銭管理等について注意することなども必要であることからすれば,親族による付添いが必要であると認められ,その額については,必要とされる付添いの内容としては声掛け及び看視が中心であることからすれば,平均余命期間(37年間)の全期間を平均して,日額5000円をもって相当と認め,次の計算式のとおりの金額を将来付添費と認める。
   (計算式)
   5000円×365×16.7112(37年間に相当するライプニッツ係数)=3049万7940円
  (10) 慰謝料                 2770万0000円
   ア 傷害慰謝料 400万0000円
     原告X1の受傷内容及び治療経過に照らし,これを慰謝する金額として,上記金額を認めるのが相当である。
   イ 後遺障害慰謝料 2370万0000円
     原告X1の,上記のような後遺障害の内容・程度に照らし,これを慰謝する金額として,上記金額を認めるのが相当である。
  (11) 遅延損害金                365万1204円
    原告X1は,平成16年1月27日,被告Y3から,自賠責保険における後遺障害分として,1889万円の支払を受けた。
    同受領金について,本件事故日から上記支払日までの1411日間に生じた年5分の割合による遅延損害金は,365万1204円である。
  (12) 損害のてん補             -6612万2276円
   ア 自賠責保険 -1889万0000円
   イ 任意保険  -2988万0202円
   ウ その他公的給付 -1735万2074円
     原告X1は,平成19年6月15日までに,国民年金法に基づく障害基礎年金として697万8003円を(なお,平成19年6月15日の受領額は,16万5016円と認める。甲33),労災保険としての障害補償年金として1011万0015円を,介護補償給付金として51万0390円を,それぞれ受領したことが認められるから,これらの金額については損害額から控除する。
  (13) 原告X2,原告X3及び原告X4の慰謝料
                   原告X2につき,200万0000円
             原告X3及び原告X4につき,各100万0000円
    原告X1が高次脳機能障害を中心とする重篤な後遺障害を負ったことについては,親族の心情を慰謝する必要があることに加えて,本件事故前と比較して精神状況が大きく変化してしまった原告X1に対し,原告X2は,これまで献身的に看護し(なお,看護の過程で原告X2自らパニック障害に陥っている。甲20,25,原告X2本人),また,これからも看護していかなければならない状況にあるのであり,原告X3及び原告X4についても,記憶障害が生じ意欲が低下してしまった父親を目前にして,強いショックを受けたものと推認できるので,上記金額を原告X1の親族固有の慰謝料と認める。
  (14) 弁護士費用
                   原告X1につき,1000万0000円
                    原告X2につき,20万0000円
              原告X3及び原告X4につき,各10万0000円
    事案の難易,請求額,認容額等の事情を斟酌して,上記金額を本件事故と相当因果関係のある弁護士費用と認める。
  (15) 原告X1の被告Y3に対する請求
   ア 自賠法16条に基づく損害賠償額        701万0000円
     原告X1は,上記2認定のとおり,高次脳機能障害につき自賠責保険後遺障害等級3級に当たる後遺障害を負い,その他,右下肢の短縮障害について10級に,右手指の機能障害について12級に,右膝関節の機能障害について12級に当たる後遺障害を負ったものである。
     そして,上記のような原告X1の後遺障害に対応する自賠責保険の保険金額は,2590万円であり(平成13年政令第419号附則2条1項の規定により,なお従前の例によるものとして本件に適用される同政令による改正前の自動車損害賠償保障法施行令2条1項2号ニ参照),原告X1に対し,自賠責保険において1889万円が支払われていることについては当事者間に争いがないから,被告Y3は,原告X1に対し,自賠法16条に基づき,差額である701万円の範囲で損害賠償額を支払う義務を負う。
   イ 弁護士費用                         0円
     上記アのとおり,原告X1の後遺障害に対応する自賠責保険の保険金額は2590万円を限度とするものであるから,これを超えて弁護士費用を請求することはできないというべきである。
 4 争点(3)(消滅時効)について
   既に述べたとおり,原告X1は,最終的に,平成15年8月6日に症状固定と診断されたことが認められ,同日に至るまでの治療経過等に照らすと,同日をもって消滅時効の起算点と解するのが相当であり,本件訴訟は,同日から3年以内である平成17年12月21日に提起されたものであるから,同訴訟提起により消滅時効は中断したものというべきである。
 5 結論
  (1) 原告X1の被告Y1及び被告会社に対する請求
    原告X1の被告Y1らに対する請求は,上記3(1)ないし(11)の合計額(1億5960万8205円)から(12)の額を控除した9348万5929円に,(14)の弁護士費用額(1000万円)を加えた1億0348万5929円及びこれに対する本件事故日である平成12年3月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。
  (2) 原告X2の被告Y1及び被告会社に対する請求
    原告X2の被告Y1らに対する請求は,上記3(13)の慰謝料額に(14)の弁護士費用を加えた額である220万円及びこれに対する本件事故日である平成12年3月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。
  (3) 原告X3及び原告X4の被告Y1及び被告会社に対する請求
    原告X3及び原告X4の被告Y1らに対する請求は,それぞれ,上記3(13)の慰謝料額に(14)の弁護士費用を加えた額である110万円及びこれに対する本件事故日である平成12年3月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。
  (4) 原告X1の被告Y3に対する請求
    原告X1の被告Y3に対する請求は,上記3(15)の額である701万円及びこれに対するいわゆる被害者直接請求に係る書類が被告Y3に到達した日の翌日である平成15年10月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
  (5) 被告Y1ら及び被告Y3は,担保を立てて仮執行を免れる宣言を求める申立てをしたが,本件の事案の内容等に照らし,相当でないので,これを宣言しないこととする。
  (6) よって,主文のとおり判決する。
    東京地方裁判所民事第27部
        裁判長裁判官  八木一洋
           裁判官  齊藤 顕
           裁判官  浦上薫史

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