千葉地方裁判所判決 平成22年5月28日

症状固定時26歳の男子大学院生が頭部外傷に起因する神経系統の機能又は精神の障害(5級2号)の後遺障害を負った場合において、父母各50万円の後遺障害慰謝料を認めた。

       主   文

 1 被告は、原告X1に対し、1億2468万5185円及びこれに対する平成21年3月23日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告は、原告X2及び同X3に対し、各自55万円及びこれに対する平成16年3月31日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 被告は、参加人に対し、3000万円及びこれに対する平成21年3月24日から支払い済みまで、年5分の割合による金員を支払え。
 4 原告X1のその余の請求を棄却する。
 5 訴訟費用は、被告の負担とする。
 6 この判決は、第1ないし第3項に限り、仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 請求
 (2848号事件)
  1 被告は、原告X1に対し、1億2491万8529円及びこれに対する平成21年3月23日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  2 主文2項同旨
 (1258号事件)
   主文3項同旨
第2 事案の概要
   本件は、交通事故により長期にわたる加療を要する重傷を負った被害者が、加害車両の運転者及び保有者に対しては不法行為または自賠法3条に基づき損害賠償を請求し、また、被害者の両親が加害車両の運転者及び保有者に対し、同様にして慰謝料等を請求し、さらに被害者の加入する保険会社が、被害者に保険金を支払ったため、被害者の被告に対する賠償請求権に代位し請求した各事案である。
 1 争いのない事実等
  (1) 原告X1は、平成16年3月31日午後6時20分ころ、原動機付自転車(市原市せ○○○○号。以下「原告車両」という。)を運転して、千葉市緑区おゆみ野中央9丁目6番地先道路を同市同区おゆみ野南6丁目方面から、同所中央8丁目方面に向かい直進進行中、対向進行してきた被告運転の自家用普通貨物自動車(千葉○○つ○○○○号。以下「被告車両」という。)が、本件現場直前で道路反対側の駐車場に入るため右折を開始したため、原告車両に自車を衝突させ同原告を負傷させた(以下、「本件事故」という)。
  (2) 原告X1は、上記事故により、急性硬膜下血腫の傷害を負い、事故後、千葉県救急医療センターに平成16年3月31日から同年6月24日まで86日、千葉リハビリテーションセンターに同日から同年12月18日まで177日間入院し、同17年1月4日から同19年12月7日まで実日数25日間通院し、医療法人社団良志会リハビリテーションクリニックに平成16年12月20日から同19年3月31日まで実日数214日、医療法人社団淳英会おゆみの整形外科クリニックに平成17年9月8日から同19年2月28日まで実日数78日間、市原筋整復院に平成16年12月24日から同17年5月13日まで実日数25日間、整体ピュアに平成17年6月1日から同19年2月28日まで実日数175日間、各通院し、同年12月7日症状固定した。同原告は、本件の後遺症として、頭部外傷に起因する神経系統の機能又は精神の障害により自賠等級別表第二5級2号の症状を残した。原告X2は、同X1の父であり、同X3は、同X1の母であり、上記の入通院期間中同原告を介護した。
  (3) 原告X1は、本件事故に対する損害の填補として、別紙損害填補計算書のとおり、合計7060万9642円の支払いを受けた。
 2 当事者の主張
  (1) 原告らの損害額
   (原告らの主張)
   (原告X1の損害)
   ア 治療費 447万3912円
   イ 入院雑費 39万4500円
   ウ 交通費 180万2772円
   エ 症状固定前の介護料 496万1500円
    (ア) 入院期間中(263日間)分 170万9500円
      日額6500円が相当である。
    (イ) 退院日から症状固定日まで(1084日間)分
      日額3000円が相当である。 325万2000円
   オ 症状固定後介護料 961万6568円
      1週間あたり1万円とし平均余命に対応するライプニッツ係数を乗じる。
   カ 休業損害 424万8190円
    (ア) 本件事故日から大学院卒業まで 102万4190円
      基礎収入日額1403円、対象期間730日として計算
    (イ) 大学院での1年の卒業の遅れの間 322万4000円
      賃金センサス平成18年度大卒男性20才から24才により計算
   キ 逸失利益 9245万9344円
     基礎収入を賃金センサス平成18年度男性大学・大学院卒平均賃金、労働能力喪失率79%、喪失期間41年として計算
   ク 傷害慰謝料 374万円
   ケ 後遺障害慰謝料 1700万円
   コ モバイルツール代 4万2000円
   サ 物損(バイク修理代金等) 36万1200円
   シ 介護器具レンタル代 100万6176円
   ス 家屋増改築代 406万5000円
   セ 学費 85万0600円
   ソ 短下肢装具代 12万0510円
   タ 文書料 4万8930円
   チ 弁護士費用 1198万円
  (原告X2及び同X3の損害)
    慰謝料として各50万円、弁護士費用として各5万円が相当である。
  (被告の主張)
  (原告X1の損害)
   アについては、市原筋整復院及び整体ピュア分を除き認める。その余は否認する。本件では東洋医学による施術について医学的必要性を欠く。
   イは、認める。
   ウについては、原告X1分は、平成18年4月分までのうち必要性及び相当性あるものは認め、その余は否認する。原告X2及び同X3分については、原告X1退院後平成18年4月までのうち、ガソリン代の相当額分、高速料金代、公共機関利用代、駐車場代は認め、その余は否認する。ドクターズカー利用代金は認める。
   エ及びオについては、千葉県救急医療センターにおいては、原告X1に対して万全の医療体制が整えられていたから、付添看護を認める必要はない。千葉リハビリテーションセンターにおいては、リハビリを施行するほど症状回復の目処がたっていたから、付添看護は必要なく、必要だとしても1日2000円が相当である。同退院後の分は、同原告が学校まで付添なしに通い始めた平成18年4月以降の必要性を争う。将来介護費は、同原告が現在では一人暮らしをしながら会社勤めができていることから、その必要性がない。
   カ(ア)は、基礎収入額は争わないが、期間は1年が相当であり算定は逓減法によるべきである。カ(イ)は認める。
   キについては、基礎収入につき、原告X1が現実に得ている収入は、入社初年度と次年度とを比較しても確実に増加していることから、賃金センサスから、同原告の現に得ている収入を控除した額で逸失利益を算定するか、その5割程度とすべきである。
   クは認め、ケは、1400万円が相当である。
   コは、その必要性を争う。
   サについては、事故当時の時価額である19万3600円が相当である。
   シないしタについては、スは必要性・相当性がないが、その余は認める。
   チについては、金額の相当性を争う。
  (原告X2及び同X3の損害)
   相当性がない。
  (2) 過失相殺
   (被告の主張)
    原告X1は、路外に出ようとしている被告車両の安全確認を怠った過失があり、事故当時、ヘルメットを着用していなかった過失があるから、2割の過失相殺がなされるべきである。
   (原告らの主張)
    被告は右折の前に右折の合図をせず、また、明らかな前方注視義務違反があるから、過失相殺はされるべきではない。
  (3) 参加人の代位できる金額
   (原告X1の主張)
    仮に、同原告の損害賠償請求権に対して過失相殺がされるとしても、参加人が支払った人身傷害保険金については、同金員が同原告と被告との訴訟における被害者の過失割合に対応する損害額を上回るときにはじめて、その上回る金額についてのみ、参加人は損害賠償請求権を代位取得することができると解すべきである。
   (参加人の主張)
    争う。
第3 当裁判所の判断
 1 原告X1の受傷内容及び介護の必要性等について
   証拠(甲74、76、79、91、後掲各書証、原告X1、同X3)及び弁論の全趣旨によれば、原告X1の本件事故後の症状内容と原告X3・同X2の実施した介護の内容等について、次の各事実が認められる。
  (1)ア 原告X1は、上記事故により、右急性硬膜下血腫、右脳挫傷、右頭蓋骨骨折の傷害を負い、事故後、千葉県救急医療センターに平成16年3月31日から同年6月24日まで入院した。同原告は、入院当時、グラスゴーコーマスケールが開眼なし、発語なし、異常な屈曲運動あり、瞳孔散大、対光反射なしなどと極めて重篤な症状であった。同原告は、入院直後から減圧開頭血腫除去手術、頭蓋内圧センサー設置術を受け、その後約1月間、頭蓋骨を外したままになっていた。同原告は、同年5月10日には、頭蓋形成・硬膜修復術の施行を受けたが、予期せぬ、出血、感染、全身麻酔合併症の危険のある手術であり、術後の危険も大きかった(甲25ないし28、乙6の8頁)。
   イ 原告X2及び同X3は、前記入院直後、医師から今後1週間から10日は状態が悪化して致命的ともなりうること、生存できても植物状態となるなどと告げられた。原告X3は、入院以後、毎日、病院に行き、原告X1を見守るほか、看護師の指示にしたがい、声掛けやCDを聞かす、手をさするなどの施療を行った。同原告は、同年4月10日一般病棟に転棟したが、看護師の手が回らないことなどから、原告X3は、原告X1の足や指のマッサージ、アイコンタクト、話しかけ、手紙の読み上げなどを行い、洗濯物を持ち帰り洗う、同原告の病院内の連れ回し、排尿・摂食などに従事した。意識障害下での看護には、刺激としての環境の提供と内部環境の整理が指針となるとされているところ(甲72)、原告X2らの上記看護は、これにそうものであり、被告の主張するような単なる「肉親の情誼」の発露などと評価すべきものではない。
  (2)ア 原告X1は、同年6月24日、千葉リハビリテーションセンターに転院した。同原告は、覚醒し、会話は可能であるが、軽度認知障害の疑いがあり、失見当識があり、左側優位の四肢の麻痺があり、左上下肢はゆっくりと屈伸できるが、指先の細かい運動はできず、右上肢は肘から挙上は可能、下肢は軽度屈曲できる、食事は自力摂取でき、介助により車椅子に移乗可能、排泄は失禁、重度の構音障害があり発語は不明瞭でコミュニケーションがなかなかとれないという状態であった(甲25、29、30)。
   イ 同原告は、自ら車椅子を動かすことができなかったので、原告X3は、これに付添い病院内を移動させる必要があった。また、作業療法における時間の計測や、補装具を使った歩行練習の手伝いもした。摂食の介助も以前同様必要であり、衣類の洗濯も同様必要であった。原告X1は、週末には帰宅したが、原告X3は、病院における作業療法、理学療法等を真似て自宅でも実施させていた。上記帰宅中の排泄や入浴、車椅子による移動なども原告X3が介助した。なお、原告X2らは、同年7月から10月にかけて、原告X1の退院に備えて、自宅のリフォームを行った。それは、車椅子利用に備えて1階和室の床をフローリングにすること、湯船にしゃがみ込めるように座る椅子を設け、座ったまま体を回転できる椅子を設けること、車椅子で入れるように洗面所を改造すること、引き戸にすること、洗面台の高さを調節できるものとすること、居間や階段等に手すりを付けることなどであった(乙7の診療録部分42頁以下、14ないし16)。
  (3)ア 原告X1は、同年12月18日、千葉リハビリテーションセンターを退院し、自宅から、医療法人社団良志会リハビリテーションクリニック等に通院してリハビリを実施することになった。前記退院時の原告の症状は、移動はT字杖と右短下肢装具装着、軽介助下で15分間連続歩行可能、整容・更衣・排泄等も修正自立し、屋内ADLは自立レベルに達した(甲31、乙6の250頁)。知能検査においては、VIQ99、PIQ62、IQ82まで回復した。同原告は、身体の右膝が曲がり緊張でかかとが上がってしまい地面に付かないとの症状が出ており、それに伴い身体に歪みが生じていたが、そのため、左肩側が前に出てきて、右肩側が後ろに下がってしまい、左斜めに身体が倒れそうになるのをかばおうとして転倒したりしていた。駅のホーム等で転倒を起こした場合、重大な事故となるおそれがあったが、整体は、このような症状を緩和し、リハビリの効果も高めるものであった。同原告は、主治医である千葉リハビリテーションセンターの大賀優医師の許可のもと、市原筋整復院に平成16年12月24日から同17年5月13日まで、整体ピュアに平成17年6月1日から同19年2月28日まで各通院した。これにより、歩容の矯正が得られ、歩行障害は軽減し、転倒の機会も著減するなど、治療の効果があった(甲35、75、78)。
   イ 前記各治療の場所への送迎は、原告X3が行った。また、原告X1は、自力ではトイレで排泄することができず、トイレへの出入りに原告X3らの援助を要した。同原告は、原告X1の介護のため、1日2時間程度勤務先の勤務時間を短縮して貰っていた。原告X1は、平成17年4月に、大学院に復学したが、車椅子による歩行であることから、通学には原告X3の送迎を要し、自力による歩行も思うに任せなかった(乙8の9頁、17頁、20頁、乙9の26頁)。原告X3は、授業終了まで大学内で待機していることも必要となった。この間のタクシー利用に関しては、平成17年1月20日、同年2月17日、同月22日には高額な利用があるが、自宅から復学のため野田のキャンパスに赴き教授と打合せをした際のものであり、都内で利用した分もあるが、就職活動等によるものであり、いずれも支出の必要性が認められる(甲86)。また、原告X1は、平成18年4月以降も、同人が転倒することが多く、荷物を持って外出する場合にはタクシー利用が必要であり、雨の日や体調不良の日にもタクシー利用が必要であったことから、タクシーを利用することがあった。また、電車通勤も可能となったが、自動車による送迎も併用せざるを得ない状況にあった(甲35、70、71、86)。
  (4)ア 原告X1は、同19年12月7日症状固定したが、本件の後遺症として、外傷性脳損傷後遺症を有し、右前頭葉等に脳挫傷が認められる他、身体障害として、両手指巧緻運動障害、右握力低下、右膝関節屈曲拘縮、右内反尖足、左下肢耐久力低下、軽度バランス障害等の各症状を残し、また、高次脳機能障害として、記憶力の低下、易疲労性、複数の作業を同時に行えない、性格的には粘着性、感情の変動が激しい、易激怒性などの精神症状を示している。このため、日常生活上は、食事動作についてはときどきの声掛け、入浴動作や更衣動作についてはときどき介助、尖足のため歩き出すのが遅く、これに5分掛かることもあり、転倒も頻繁であるため、屋外歩行は遠くへは行けない、食事の準備や食器洗いや洗濯、掃除などが十分にできない、日用品程度の物品を選んで買い物ができないなどの状況にある。自賠責保険においては、上記症状に対し、外傷に起因する神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができない、として、別表第二5級2号と判定された(甲10ないし14、35)。なお、身体障害の程度は、身体障害者等級表1級の認定を受けている(甲23)。同原告は、同年4月1日、株式会社Aに障害者雇用枠で就職し、東京都江東区所在のマンションに独居している。
   イ 原告X1は、週末は原告X2らの許に帰宅するが、同原告が高次脳機能障害の影響により、自分のマンションではリハビリをしないことから、原告X3は、このときに声をかけて原告X2方でリハビリを実施している。また、原告X1は、この機会に併せて原告X2方から千葉南病院にリハビリのため通院する。原告X1は、最近ではむしろ歩行の量が減り、体力の低下を来している。原告X1は、後遺症により、重い物を持てないことから、原告X2らが、日曜日に原告X1とともに、前記マンションを来訪し独居に伴う食料品の買い物を代行する。また、その際には、原告X1が十分に行えない上記洗濯、掃除、ゴミ捨てなどを代行している(甲17,35)。上記介護は、同原告の上記した後遺症に対応するものであり、親子間の援助の域を大きく超えるものである。
 2 そこで、上記認定事実をもとに、原告らの損害について判断する。
  (原告X1関係)
  (1) 治療費 447万3912円
    市原筋整復院及び整体ピュア分を除く353万3042円は当事者間に争いがない。上記1(3)に認定の事実によれば、整体の治療は本件事故と相当因果関係を有するということができ、その治療費額94万0870円は、証拠(甲15の3、51、53、63)及び弁論の全趣旨により、別紙計算書1のとおり認められる。
  (2) 入院雑費 39万4500円
    争いがない。
  (3) 交通費 180万2771円
   ア タクシー代 57万9120円
     原告X1の使用したタクシー代分は、平成18年4月分までは必要性・相当性がある部分については、当事者間に争いがなく、前記1(3)イによれば、その全てについていずれも支出額や必要性が肯定され(甲86)、原告X2らが同期間中に利用した分についても、本件事故から原告X1退院までの間の付添介護の必要性は、前記1(1)(2)のとおり認められる。その余のタクシー代は、同月分以降も前記1(3)イのとおり必要性は肯定され、その支出額については、証拠(甲16、54、56、58、60、62、70、71)及び弁論の全趣旨により、別紙計算書2のとおり認められる。
   イ 原告X2及び同X3分のその余の交通費について
    (ア) 本件事故から原告X1退院までの間の付添介護の必要性は、前記1(1)(2)のとおり認められ、ガソリン代の相当額は、証拠(甲65)及び弁論の全趣旨により、実額の8割とするのが相当であり、その額は別紙計算書3のとおり13万6982円(甲40ないし46、65)と認め、高速料金分は4200円(甲43、45、46、68)、同計算書4のとおり公共機関利用代は、2万9150円(甲41、44、46、69)と認められる。
    (イ) 同退院後から平成18年4月までのガソリン代40万0027円、高速料金代2万8200円、公共機関利用代8480円、駐車場代1万0800円、ドクターズカー利用代金2万5560円は、必要性を含め、当事者間に争いがない。
    (ウ) 前記1(3)によれば、平成18年4月から平成19年3月までの自動車による送迎の必要性は認められ、ガソリン代として、36万4592円(甲54、56、58、60、62、なお、甲54のガソリン代計算にあたり円未満は切り捨てる。)が認められ、同月以降症状固定までの送迎の必要もまた認められ、その総額は、甲17により21万2660円と認められる。
  (4) 症状固定前の介護料 496万1500円
   ア 入院中(263日間)の分
     前記1(1)(2)記載の原告X1の症状や原告X2らの介護の非常な有益性にかんがみると(甲72,74,76、乙6、7)、その日額は6500円とするのが相当である。被告は、千葉県救急医療センターの集中治療室においては、原告X1に対して万全の医療体制が整えられていたから、付添看護を認める必要はないとするが、「一部署あたり3~4名」(乙5)の看護師の人員配置では、細やかな看護が可能か疑問がありとりえない。以上によれば、同介護費は次の金額となる。
      6500円×263日=170万9500円
   イ 退院後症状固定日までの分
     前記1(3)記載の原告X1の症状や原告X2らの介護の内容からすると、退院日から症状固定日まで(1084日間)について、原告X2らの介護が必要であったことが認められる。その日額は3000円とするのが相当である。
      3000円×1084日=325万2000円
  (5) 症状固定後介護料 961万6568円
    上記1(4)記載の原告X1の後遺症の症状内容や、これに対する原告X2らの介護の必要性、また、この介護が今後不必要となる見通しもないことからすると、将来の介護料としては、1週間あたり1万円とし、これに原告X1の症状固定時の平均余命53年に対応するライプニッツ係数18.4934を乗じた金額とするのが相当である。
      1万円×52週×18.4934=961万6568円
  (6) 休業損害 424万8190円
    証拠(甲76)及び弁論の全趣旨によれば、原告X1は、大学院の2年次も含めてアルバイトをする余裕があったと認められるし、上記した症状内容の重篤性に照らすと、同期間中の損害を逓減法により計算することが妥当とは考えがたい。したがって、その金額は、事故日から大学院の卒業予定日までの2年分につき争いのない基礎収入日額1403円を乗じて102万4190円とするのが相当である。
    1403円×730日=102万4190円
    また、大学院での1年の卒業の遅れに相当する休業損害322万4000円については、当事者間に争いがない。以上の合計額は、424万8190円となる。
  (7) 逸失利益 9245万9344円
    前記認定にかかる原告X1の学歴、後遺症の内容の重篤さや今後の回復の見込みもないことなどを考慮すると、同原告の基礎収入は、賃金センサス平成18年男性大学・大学院卒平均賃金676万7500円、労働能力喪失率79%、喪失期間41年に対応するライプニッツ係数17.294として計算するのが相当である。この点、被告は、基礎収入につき、原告X1が現実に得ている収入を賃金センサスの金額から控除すべきであると主張するところ、その内容が明確ではないが、証拠(甲35、76、77の1ないし31)及び弁論の全趣旨によれば、原告X1は、平成19年4月1日、株式会社Aに就職し、画面システムのテスト、マニュアル作成等の用務に従事しており、平成20年度の収入として月額約35万円を得たことが認められるけれども、その内訳を見るに、月額8ないし10万円が時間外手当であり、その残業を要するのは同原告の後遺症による作業能率の遅さによるというものであること、また、収入維持のため早出等の人一倍の努力をしていること、さらに、平成21年度はかなり減収を来たし、既に異動や昇進の点で同期入社者と差異が生じており、今後の安定した収入も不安があることからすると、前記の点が、基礎収入ないしは労働能力喪失率を変更する根拠となるとは考えがたい。
    676万7500円×79%×17.294=9245万9344円
  (8) 傷害慰謝料 374万円
    争いがなく、金額的にも相当である。
  (9) 後遺障害慰謝料 1700万円
    原告X1は、その基礎収入が、同人の学歴等からすると(甲81ないし85)、男子大学・大学院卒平均賃金相当額より大きかった可能性があること、同人は、前記認定のとおり、本件事故により、精神障害と身体的障害の双方にわたる非常に重篤な後遺障害を遺し、その日常生活上の負担も大きいこと、症状固定後も整体等の治療の必要を生じていること、本件の後述する事故態様等の諸般の事情を総合すると、上記金額を相当とする。
  (10) モバイルツール代 4万2000円
    原告X1は右手が不自由であるため、筆記の代用として使用している道具代であり(甲19)、その必要性は肯定される。
  (11) 物損(バイク修理代金等) 19万3600円
    経年による損耗を無視できないので甲20、乙1により、19万3600円をもって相当とする。
  (12) 介護器具レンタル代 100万6176円
    争いがない。
  (13) 家屋増改築代 406万5000円
    原告X2らは、前記1(2)のとおりのリフォームを実施したが、原告X1のその当時の後遺症の内容に照らせば、別紙計算書5記載の金額も含め、必要かつ相当な範囲ということができる(乙14ないし16、枝番あるものは含む)。
  (14) 学費 85万0600円
    争いがない。
  (15) 短下肢装具代 12万0510円
    争いがない。
  (16) 文書料 4万8930円
    争いがない。
  (17) 弁護士費用 1198万円
    本訴の内容やその追行の困難性に照らせば、上記金額が相当である。
   (原告X2及び同X3の損害) 各55万円
     原告X2らが本件で受けた精神的苦痛は察するに余りあり、その慰謝料として各50万円、弁護士費用として各5万円が相当である。
 3 過失相殺について
  (1) 証拠(乙3の1・2・8ないし17、4)及び弁論の全趣旨によれば、本件現場は別紙図面のような速度制限のない片側1車線の市道(以下、「本件道路」という。)であって、原告車両の進行していたおゆみ野南6丁目方面から同所中央8丁目方面に向かう道路は、幅員約4メートルで外側に幅員約0・6メートルの路側帯が設けられており、本件発生当時の天候は小雨であったが、被告車両が進行してきた対向車線との間の見通しを特に妨げるものはなかったこと、被告は、本件道路外の駐車場に入るため、本件現場から約5・3メートル余手前の本件道路の中央線付近から約0・7メートル進行方向左側である同図面①地点で、前照灯を下向けに点けた状態で、一旦停止し、対向車3台をやり過ごし、さらに10秒ほど待機していたこと、しかし、被告は、上記のように対向車両をやり過ごし、その後には対向車両はないものと考えていたことや、折から万歩計のボタン電池が切れかかっておりそれが気掛かりであったことから、右前方への安全確認を怠り、時速約10キロメートルで路外駐車場へ向け右折進行したところ、同図面①地点から3・2メートル進行した同図面②地点に至り、前照灯を点けて対向して走行してきた原告車両を発見することもなく、本件道路北東行き車線の中央部分付近である(×)地点で同車両に被告車両右前部バンパーを衝突させ、原告車両を転倒させたこと、がそれぞれ認められる。
  (2)ア 被告は、原告X1においては、本件事故当時、ヘルメットを着用していなかったと主張するところ、証拠(乙3の14・17)によれば、本件事故直後、本件事故現場付近に、上記ヘルメットが落ちていたことは認められるが、同事実によっては、同原告が、同ヘルメットを着用していなかったとか、着用が不適切であったと認めるには足りない。また、被告本人尋問中には、上記主張にそう部分があるが、その内容は甚だ曖昧であり、証拠(乙3の14ないし17)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件事故に対する捜査・公判を通じ、事故直前には10秒位停止していたとか、対向車線に入った際はゆっくり発進したとか、自己に有利な弁解を重ねながら、上記事実については何ら申告せず、一方的に自己の非を認めていたことが認められ、反対趣旨の証拠(甲74、原告X3)に照らしても、上記主張は認めがたい。
   イ 被告は、また、上記右折を行った際には右折の合図をしたと主張し、証拠(乙3の15)中には、本件直前に右折のために①点に停止するにあたり、「右折の合図をして道路中央線に寄って進行し」たとの記載が見られる。しかしながら、上記記載は、①点に停止するに際し、右へ進路変更するにあたり右折の合図をしたというに止まり、その後、被告において、前記したように、①点で停止して、対向車を3台位やり過ごし、さらに10秒経過後に対向車はいないと考えながら、サトームセンに向かい右折を行った際にも右折の合図を継続していたとは必ずしも読み取れない。また、被告本人尋問中には、上記主張にそう部分があるが、その内容は甚だ曖昧であり、証拠(乙3の14ないし17)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件事故に対する捜査・公判を通じ、前記ア記載のような弁解をしながら、合図については上記以外には何らその申告をせず、また、一方的に自己の非を承認していたことが認められるし、被告が上記のような申告姿勢に出ていたことに関する被告の説明も曖昧であることも考えると、右折の合図をした旨の被告の前記主張もまた、認めるに足りない。
   ウ 被告は、また、本件は、原告X1の前方不注視により発生した旨を主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はなく、かえって、前記(1)に認定の本件の発生経過からすると、被告車両が本件道路中央線を越えてから、前記図面②地点に至るまでの時間は、その速度よりすれば1秒強程度と見られることから見ても、原告X1が、被告車両のかかる動静を予見し回避することを要求するのは非常に困難であることが窺われるから、被告のこの主張も採用の限りでない。
  (3) そこで上記認定事実をもとに検討するに、被告において、路外の施設に入るべく対向車線を右折横断するについては、直進する対向車両の有無に厳に注意を払い、これを発見した場合には、進行を停止すべき注意義務を負っているといわなくてはならないところ、被告は、本件当時の見通しには特段の妨げはなく、本件現場手前で約10秒くらいも停止して対向車の有無を確認し、原告車両は前照灯を点けていたのにもかかわらず、前認定のとおり、原告車両と衝突するまで全くこれに気付かなかったというのであるから、その注意義務の懈怠は著しいものといわなくてはならない。この点、被告は、この種事故類型では、被告の通常の前方不注視は織り込んで過失割合が定められていると主張するが、上記のような甚だしい前方不注視までが織り込み済みとは解しがたいから採用することができない(別冊判例タイムズ16号178頁事例【100】における解説③、注解交通損害賠償算定基準下3訂版312頁)。他方、原告X1にも被告車両の動静に対する注視を怠った過失はないとはいえないが、前記(2)ウに述べたところから、同原告の過失を重く見ることはできない。以上の諸点に加え、被告車両が本件事故直前に右折の合図をしたとは認められず、原告車両が原動機付自転車であり被告車両が貨物自動車であったことも勘案すると、本件は、被告の一方的過失により発生したものとするのが相当である。
 4 以上によれば、原告X1は、被告に対し、前記2記載の各損害額合計1億5700万3601円の損害賠償請求権を有していたところ、同原告は、別紙損害填補計算書記載の損害の填補を受けたので、これを填補を受ける都度その当時の遅延損害金及び元本に順次充当した結果は、同計算書のとおり、同番号111の参加人による3000万円の内入弁済により、その残高は、元本金1億2468万5185円のみとなる。なお、上記の算定にあたり、平成20年度は年366日として計算するほか、番号111の入金は、前回入金日の平成21年2月13日から、当該入金日の同年3月23日の前日までの37日分の遅延損害金に充当されるものとし、同日分の元本残額に対する同日分の遅延損害金は、支払済みまでの遅延損害金の初日分として計上した。他方、上記3のとおり、本件では過失相殺をなさないのであるから、その余の点について判断するまでもなく、参加人は、その弁済金の全額について、同原告の損害賠償請求権を代位行使することができる。
 5 以上によれば、原告X1は、被告に対し、不法行為及び自賠法3条により、損害賠償金残金1億2468万5185円及びこれに対する上記弁済の日である平成21年3月23日から支払い済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金、原告X2及び同X3は、被告に対し、自賠法3条に基づき各自55万円及びこれに対する本件事故日である平成16年3月31日から支払い済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金、参加人は、被告に対し、弁済代位に基づき損害賠償請求金3000万円及びこれに対する弁済日の後である平成21年3月24日から支払い済みまで、民法所定年5分の割合による遅延損害金の各支払いを求める権利を有するものということができる。
   したがって、被告に対し上記各金員の支払いを命じることにし、主文のとおり判決する。
    千葉地方裁判所民事第5部
           裁判官  畠山 新

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