横浜地方裁判所判決 平成22年3月31日

症状固定時23歳の女性アルバイトが高次脳機能障害(7級4号)、醜状痕(12級15号、併合6級)の後遺障害を負った場合において、母に100万円の後遺障害慰謝料を認めた。

       主   文

 1 被告は,原告X1に対し,4046万6838円及びこれに対する平成20年1月21日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告は,原告X2に対し,71万円及びこれに対する平成16年12月19日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 4 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。
 5 この判決は,第1項及び第2項に限り仮に執行することができる。

       事実及び理由

1 請求
  主文第1項につき8322万9213円,同第2項につき,220万円であることを除いて,主文同旨
2 事案の概要
  本件は,被告の運転する普通自動二輪車と歩行者である原告X1が衝突した交通事故について,原告らは,丁字路交差点の,直線道路に対して交差する道路を,戸塚区方面から大和方面に向かって右折進行しようとした被告の運転する普通自動二輪車と,直線道路に設置された横断歩道を横断中であった歩行者である原告X1が衝突した交通事故が発生したとして,被告に対し,不法行為及び自倍法3条に基づき,原告X1は,発生した損害の賠償及び交通事故の日から支払い済みまでの間の遅延損害金の支払を,原告X1の母親である原告X2は,上記交通事故により,原告X1が死亡にも比肩する傷害を受けたとして,親族に固有の慰謝料の支払及びこれに対する交通事故の日から支払い済みまでの間の遅延損害金の支払を,それぞれ求めた事案である。被告は,これに対し,上記交通事故の態様を否定し,直進走行中の被告運転の普通自動二輪車と,被告が進行していた道路を,徒歩で横断しようとした原告X1の衝突事故であると主張した。そのほか,被告は,原告X1の後遺障害について,原告X1の既往症(いわゆるもやもや病)によるもので,本件事故と相当因果関係を欠くと主張したほか,原告らの損害の内容について,争った。
3 当事者間に争いのない事実及び証拠により認められる事実
 (1) 交通事故(以下「本件事故」という。)
   日時  平成16年12月19日 午前11時10分ころ
   場所  神奈川県藤沢市立石一丁目2番1号
   加害者 被告
       本件事故時,普通自動二輪車(以下「被告車両」という。)を運転中
   被害者 原告X1(以下「原告X1」という。)
       本件事故時,歩行中
 (2) 被告は,被告車両の保有者であり,本件事故時,被告車両を運転して運行の用に供していた。
 (3) 原告X1は,本件事故により,右急性硬膜下血腫,右けい腓骨開放骨折,骨盤骨折,顔面挫創,全身打撲の傷害を負った。
 (4) 原告X1は,本件事故後,平成16年12月19日から平成17年2月21日まで藤沢市民病院に入院し,平成18年2月2日から同月11日まで同病院に再入院し,平成17年2月22日から平成18年9月27日まで通院した。
 (5) 原告X1には,本件事故により,左前額部から左眉毛に3.5センチメートルにわたる醜状痕(後遺障害等級12級15号)及び右下腿に術創による14センチメートルにわたる醜状痕(後遺障害等級14級5号)が残存した。原告X1には,高次脳機能障害(後遺障害等級7級4号)が残存した(症状固定日平成18年8月11日)。また,原告X1には,左下肢に軽度の運動麻痺による歩行障害も残った。
   原告X1は,上記の後遺障害により,併合6級の判断を受けた。上記のほか,原告X1は,両目の左上4分の1に半盲が生じ,視野狭窄の後遺障害が残存し,これは,後遺障害等級9級3号に該当する。
 (6) 原告X1は,被告の保険会社から256万7429円,自賠責保険から1072万円(平成20年1月21日受領)の支払をそれぞれ受けた。
 (7) 原告X1は,労災保険から,障害年金給付として合計282万9385円,休業給付金として199万8867円(うち特別支給金49万9693円)の支給を受けた。
 (8) 原告X1の治療費は,労災保険からの療養給付によりまかなわれ,その支給額は,571万6142円となる(調査嘱託の結果,乙17)。
4 争点
 (1) 事故態様及び過失相殺
  Ⅰ 原告らの主張
    本件事故のあった丁字路交差点(以下「本件交差点」という。)に設置された横断歩道上を,大和方面から藤沢駅方面に向かって直進進行していたところ,折から,戸塚区方面から大和方面に向かって右折進行中の被告車両に衝突された。
    被告の主張する事故態様は,原告X1の行動予定と整合しないものである。原告X1は,本件事故時,別紙1交通事故現場見取図記載の②の地点で横断歩道を渡ろうとしたことまで記憶が戻っているが,原告X1は,アルバイトに行くため小田急線善行駅に向かう途中であったから,そのまま横断歩道を渡るはずであり,(ア)地点まで戻る理由がない。さらに,原告X1の姉と原告X2(以下「原告X2」という。)は,被告が進行してきた道路の中央線のうち,戸塚区方面から道路の延長線上に原告X1の血痕を発見しているが,被告の主張する事故状況では,かかる地点に原告X1の血痕が付着する理由が明らかでない。
    仮に,被告が主張するような事故態様であった場合,被告は,衝突箇所から58.1メートル手前の別紙2交通事故現場見取図①地点で原告X1が路側帯に佇立しているのに気付いていたというのであるから,原告X1が横断してくる可能性も十分に予見できたはずであり,少なくとも,原告X1を発見した位置が交差点付近であることも併せ考えれば,被告は,少なくとも原告X1を発見した時点で,減速して走行するなどの措置を講じるべきであった。にもかかわらず,被告は,漫然と時速50キロメートルという制限速度上限の速度で進行した結果,本件事故を惹起したものである。このように被告には,歩行者が路側帯にいることを発見しながら,減速することなく,脇見運転をしたまま進行した過失があり,これは,著しい過失として,被告の過失を10パーセント加重する要素である。
  Ⅱ 被告の主張
    原告X1と被告車両の衝突場所は,横断歩道上ではなく,大和方面から藤沢方面に向かう国道467号線の車道上の中央線付近である。
    本件事故のあった場所は,国道467号線という幹線道路で,被告は,この道路を大和方面から藤沢方面に向けて直進進行していたところ,63メートル前方の歩道上に藤沢方面を向いている原告X1を見つけたが,原告X1が被告進行方向を見ていないことから,横断の意思はないものと判断して,そのまま進行した。ところが,原告X1は,突然,小走りで,歩道から右斜め(被告進行方向)に車道内を進行してきた。被告は,原告X1を前方約16.7メートルに発見し,直ちに急制動の措置を取るとともに道路中央部に転把して衝突を回避しようとしたが及ばず,倒れながら進行して原告X1と衝突したものである。歩行者は,車道を横断するにあたって,左右の安全を確認するべき注意義務,車両の直前を横断してはならない注意義務,及び斜めに横断してはならない注意義務がある。しかるに,原告X1は,左右の安全を確認しないまま,被告車両のわずか17ないし20メートル手前で横断を開始し,かつ斜めに横断したのであるから,本件事故の発生原因は,原告X1の過失にも起因しているというべきである。
 (2) 本件事故と後遺障害(高次脳機能障害)の因果関係の有無,素因減額の可否
  Ⅰ 原告らの主張
    原告X1は,本件事故により,脳損傷を受け,右急性脳腫脹(脳浮腫)が生じたところ,意識レベルが低下したため,この治療として右開頭血腫除去+内外減圧術を行い,その際,右側頭葉の切除を行ったため,高次脳機能障害の後遺障害が残存した。
    原告X1は,もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症,以下「もやもや病」という。)の治療のため,平成6年7月28日に両側EDAS+B urr hole surgery手術(以下「脳動脈のバイパス手術」という。)を受け,その症状は軽快し,平成16年6月の時点において,運動障害は一切認められず,もやもや病による麻痺は生じていない。横浜西労働基準監督署による原告X1の後遺障害等級認定は6級20号で,既存障害による加重障害の認定はされていない。
    仮に,脳梗塞が原因で右急性脳腫脹が生じたとして,そもそも原告X1の頭頂部に脳梗塞が生じた原因について医学的に判断されておらず,もやもや病が原因で脳梗塞を生じたかどうかは明らかではない。頭部外傷による急性硬膜下血腫による脳の圧迫が起きたため,当時,原告X1の脳内の血流が不良となっていたことは当事者間に争いがなく,脳内の血流の不良により血管痙攣等が生じ,局所性脳虚血による脳梗塞が生じることも可能性として否定できず,もやもや病のみが脳梗塞の原因であると断じることはできない。
    また,原告X1は,脳動脈のバイパス手術の結果によって血管が増え,血流が増えた状況は認められず,そもそも「類もやもや病」であり,もやもや病といえるものではなく,原告X1の体質として,脳血流が少ないという状態にすぎないと認められる。このような体質は,疾患ということはできす,素因減額の対象とはならない。
  Ⅱ 被告の主張
    原告X1は,既往症である「もやもや病」の治療として脳動脈のバイパス手術を受けていたため,本件事故によりその手術部位が損傷して,脳梗塞となり,その結果,高次脳機能障害となったものである。原告X1の高次脳機能傷害は,カルテ等の記載によっても,脳損傷は存在しないから,外傷性のものではない。そこで,原因と考えられるのは,脳の梗塞と手術による脳の一部の切除である。本件事故による右硬膜下血腫のみであれば,外科的処置で血腫を除去し,あるいは血腫が吸収されれば本件のような障害が生じなかった可能性が十分にある。本件では,バイパスの損傷により血流が阻害され,この結果,脳梗塞から脳萎縮を生じ,高次脳機能障害が残存したもので,上記既往症の影響があるというべきである。したがって,原告X1に現存する症状は事故による傷害と既往症という素因とが競合したものとして,因果関係の認定に当たっては,これを考慮するべきであるし,素因減額が行われるべきである。
    原告らは,脳の浮腫の原因が事故による脳挫傷の影響によるものと主張するが,脳の浮腫を生じるような重大な脳挫傷がある場合には,受傷時の画像に現れるはずであり,外傷直後から1週間以内に腫れてくる。ところが,原告X1は,受傷時には意識を失っているものの,その後は食事をする等意識も回復しており,腫れもない。ところが,受傷後10日経過して急に脳の局所に高度の腫脹が生じたものであり,当該腫脹は事故による脳挫傷が脳浮腫の原因ではない。原告X1の残存する症状は,脳梗塞の影響によるものであり,あるいは脳圧を下げるために脳の一部を切除したことも影響しているかもしれない。しかし,脳梗塞は,本件事故を直接の原因とするものではないことは意見書(乙2)記載のとおりであり,また,脳圧の亢進により脳の一部を切除したことも,本件事故に直接起因するものではないから,原告X1の残存する症状は,事故を直接の原因とするものではなく,原告X1が従来有していたもやもや病に起因するものである。
 (3) 後遺障害の程度
  Ⅰ 原告の主張
    原告X1の高次脳機能障害は,自賠責保険の損害保険料率算定機構も労働基準監督署のいずれにおいても7級と見られていることが明らかである。原告X1は,高次脳機能障害が残存したことにより,障害者向けに用意された市民プールの受付という軽易な労務に従事しており,通常人と同じ業務に従事することができていない。
    また,原告X1の後遺障害の程度が高次脳機能障害に基づく7級4号から併合6級に繰り上がっているのは,顔面の醜状痕が12級15号に該当するからであり,下肢の醜状痕の存在のためではない。なお,原告X1は,本件事故当時21歳の女性であり,顔面に醜状があればその業務内容ひいては就職先が制限されることは明らかである。さらに,原告X1は,「両眼に半盲症を残す」ことを内容とする視野狭窄(9級3号)も残存しており,原告X1の後遺障害が併合6級に該当することは明らかである。
    したがって,原告X1の労働能力喪失率は,併合6級であるから,67パーセントとなる。原告X1は,本件事故前,正社員となるための就職活動をしながら,アルバイトをしていたが,本件事故後は,能力的にも体力的にも,市民プールの受付の業務を,週に3から4日,一日3時間から4時間稼働するのが精一杯の状態である。よって,一般人が週40時間稼働するのと比較すれば,週平均12時間労働とすれば,約30パーセント程度しか労働時間に耐えられず,その業務内容も極めて単純なもので,時給も従前に比して安価になったものであるから,現実の収入の減少という意味では67パーセントの労働能力喪失すら控え目な主張である。
  Ⅱ 被告の主張
    原告らは,脳の障害に関して後遺障害等級7級を主張するが,後遺障害7級は「神経系統の機能または精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの」であるところ,これは,平均人と比較してその労働能力が2分の1程度に制限されていることをいう。
    原告X1の症状に関しては,平成19年のA医師の診断書で「精神障害を認め,日常生活または社会生活に一定の制限を受ける」とされており,5段階評価の上から2番目の評価であって,それほど障害はひどくない。したがって,その程度は9級相当と判断することが相当である。さらに,原告の後遺障害は,上記のほか,下肢の醜状痕を理由として,14級に認定されている。しかし,これは下肢であり,労働能力に影響を与えるものではない。したがって,逸失利益の算定には考慮するべきではない。
 (4) 損害
  Ⅰ 原告らの主張
   ① 治療費
     藤沢市民病院による室料差額42万円,文書料5万6700円及び総合リハビリテーションセンターの文書料6000円。
     これ以外の治療費は,労災保険からの給付でまかなわれている。
   ② 通院交通費
     原告X1の通院交通費は,22万0170円,原告X1の両親の付添交通費は,金4万8630円である。
   ③ 付添看護費用及び原告X2の休業補償
     入院当初,原告X1は高度の意識障害に陥った。そのため,原告X2は,原告X1の入院期間中,毎日,原告X1に付き添った。かかる入院期間中の付添介護費用は,日額8000円を下らない。よって,その付添介護費用は,60万円である(8000円×75日=60万円)。
     原告X2は,財団法人Cにて勤務していたが,原告X1の付添介護のため,欠勤を余儀なくされた。かかる原告X2の休業補償は,金37万7030円である。なお,上記,37万7030円は,被告が加入する任意保険会社であるD保険株式会社(以下「被告の保険会社」という。)が支払い済みである。
   ④ 通院期間中の付添看護費及び原告X2の休業補償
     原告X1は,高次脳機能障害のため一人で通院できず,原告X2が通院に付き添った。この通院期間に対応する付添介護費用は,日額3300円を下らない。よって,その付添介護費用は,19万8000円である(3300円×60日=19万8000円)。
     原告X2は,通院付添をした60日も欠勤を余儀なくされた。その休業補償は61万4005円である。なお,この金額は,被告の保険会社が支払い済みである。
   ⑤ 将来の看護費用
     原告X1は,高次脳機能障害により,現在,25歳であるにもかかわらず,通常の成人であれば行える日常生活が送れない状況である。具体的には,①今日が何月何日か分からない,②簡単な買い物のつり銭の計算がようやくできる程度である,③人の話がスムーズに理解できない,④新しいことを覚えたり,同時に複数のことを平行してできない,⑤感情の起伏が激しい,⑥自分の食事の支度ができない,⑦左足が上手く動かない等である。そのため,原告X2は,朝晩の原告X1の食事の支度はもちろん,毎日,同人のために昼のお弁当を作っている状況である。さらに,原告X1は,過去に行ったことのない場所に一人で行くことができないため,初めて行く場所には常に原告X2が付き添って行かなくてはならない。かように,原告X1は,小学生程度の知能しか有さない状況となっており,原告X2は,将来にわたり,かかる原告X1の身の回りの世話をしなくてはならない状況である。
     上記とおり,原告X2は,将来にわたって,原告X1に対し,監視的看護を行わなくてはならず,その介護費用は日額3000円とするのが相当である。また,その期間は,症状固定時から原告X1の平均余命までの63年間であって,これに対応するライプニッツ係数は19.0751である。
    3000円×365日×19.0751=2088万7235円
  ⑥ 入院雑費
    1500円×75日=11万2500円
  ⑦ 装具代
    頭部保護帽子の代金として,3万7852円。
  ⑧ 原告X1の休業損害
    原告X1は,本件事故前,レンタルビデオ店Eでアルバイトとして稼働しており,日額2243円を得ていた。原告X1は,本件事故時から症状固定日である平成18年8月11日まで,600日間の休業を余儀なくされた。したがって,その休業損害は,2243円×600日=134万5800円となる。
  ⑨ 後遺障害逸失利益
    原告X1は,具体的には,①自分の意思を伝えられない,②時間の割り振りができない,③混乱パニックを起こすこともあるとされ,日常生活上の記憶力,判断力,社会生活能力の低下が認められる状態となった。
    原告X1の基礎収入としては,家事従事者(専業主婦)を前提とする。専業主婦については,67歳で就労が終了することはなく,平均余命までの期間,主婦として稼働することが予想されるから,その労働能力喪失期間は平均余命までとする。
    基礎収入は,平成17年度賃金センサス,女性労働者学歴計343万4400円となり,労働能力喪失率67パーセント(併合6級),労働能力喪失期間63年(症状固定時23歳から平均余命85.49歳まで)に対応するライプニッツ係数19.0751であるから,逸失利益は343万4400円×0.67×19.0751=4389万2720円となる。
  ⑩ 入通院慰謝料
    原告の入通院期間(入院4か月,通院1年7か月)に対する慰謝料は,250万円とするのが相当である。
  ⑪ 後遺障害慰謝料
    原告X1の後遺障害慰謝料は,併合6級であるから,1180万円が相当である。もっとも,原告X1には,高次脳機能障害が残存し,今後その知的能力が回復する見込みもなく,小学4年生程度の知力で,生涯にわたって生活することを余儀なくされたものであり,慰謝料の増額事由に該当する。よって,原告X1の後遺障害慰謝料は,基準を1.5倍した1770万円とするのが相当である。
  ⑫ 弁護士費用 750万円
  ⑬ 原告X2の損害
   ア 固有の慰謝料 200万円
     原告X2は,最愛の娘が23歳の若さで高次脳機能障害となる被害を受け,原告X1は,日常の家事等一切を行えず,今後,原告X1が結婚することも難しく,原告X1の将来は断たれたのも同然である。そのため,原告X2は,原告X1の生涯にわたって,同人を扶養及び看護していく必要がある。これは,「我が子に人並みな幸せを。」と願う原告X2にとって,死亡にも比肩しうる精神的苦痛であって,これを金銭に換算した場合,その慰謝料額は,200万円を下らない。
   イ その弁護士費用は,20万円が相当である。
  Ⅱ 被告の主張
   ① 治療費の額,入通院期間中の治療費が労災保険から給付されたことは認めるが,個室使用の相当性につき争う。
   ② 認める。
   ③ 付添看護相当期間及び一日当たりの金額の相当性につき争う。原告X2の休業補償は,付添看護費用の請求と重複しているので,相当性につき争う。
   ④ 通院付添の必要性は不知。金額の相当性につき争う。休業損害は,通院付添費用と重複しているので,相当性を争う。
   ⑤ 原告X1の現在の症状,現在及び将来の看護の必要性,必要な介護の程度につき不知。介護の金額の相当性につき争う。
   ⑥ 入院雑費は,認める。
   ⑦ 装具代は,認める。
   ⑧ 休業損害においての基礎収入の日額は認めるが,休業相当期間につき不知。
   ⑨ 原告X1の基礎収入を主婦としての稼働を前提とする主張は争う。
     既婚者でない以上,女子であっても労働者として学歴に従った賃金センサスを採用するべきである。また,稼働期間も平均的な稼働期間を採用する必要がある。
     労働能力喪失率も争う。原告X1は,併合6級の認定を受けているが,労働能力に影響がある精神神経系統の障害としては7級であり,他は外貌及び下肢の醜状痕であって,労働能力に影響がないから,労働能力喪失割合としては56パーセントとすることが妥当である。
  ⑩ 入通院慰謝料
    金額の相当性につき争う。なお,入院期間は約2か月半である。
  ⑪ 後遺障害慰謝料
    金額の相当性につき争う。
  ⑫ 弁護士費用
    弁護士に委任したことは認め,金額の相当性につき争う。
  ⑬ 原告X2の損害
    争う。
5 裁判所の判断
 (1) 事故態様及び過失相殺
   本件事故の状況について,被告は,原告X1の服装について,真っ白いジャンパーというか上着を着ていたと述べ,明らかに原告X1の本件事故当時の着衣と異なることを述べたほか,最初に原告X1を発見した位置を植え込みより内側の歩道上と述べ,被告車両と原告X1が衝突した後,原告X1がその場でぱたんと倒れたとも述べ,被告の立会を得て作成された実況見分調書とも異なることを述べており,被告の記憶は,信用できないということができる。しかしながら,原告X1が善行駅に行くために歩いており,別紙1交通事故現場見取図の②の地点で青信号を見たというところまで記憶が戻ったとしても,その後から本件事故までの行動,時間的間隔が不明であり,原告X1が,青信号を確認した後,そのまま横断歩道を渡ったかは不明と言わざるを得ない。また,本件事故直後に,転倒した被告車両と原告X1を見た目撃者は,別紙3交通事故現場見取図の①に被告車両が転倒し,原告X1が(ア)に転倒しているところを見たと述べているが,このそれぞれの転倒位置は,原告らの主張する事故態様では説明が付かない。また,実況見分に立ち会った加害者が自己に有利に事故態様を述べるとしても,被告車両の擦過痕を偽ることはできないことであり,被告車両の擦過痕が別紙2交通事故現場見取図④から⑤の辺りにかけてあることは,原告らの主張する事故態様と合致しないと言わざるを得ない。なお,原告X2は,擦過痕がなかったと指摘するが,実況見分調書の交通事故現場見取図に不自然な点が見られず,目撃者Fの述べる内容と合致することから(甲2,乙1の1),上記原告X2の指摘を認めることはできない。
   以上を総合すると,被告本人尋問の内容は信用性がないとしても,目撃者Fの目撃内容,本件事故直後に作成された実況見分調書,被告の供述調書(甲2,乙1の1ないし1の3)から,本件事故は,国道467号線を大和方面から藤沢方面に向け,直進進行していた被告車両と,国道467号線を横断しようとした原告X1の衝突事故と認めざるを得ない。
   そして,本件事故は,原告X1が右方から進行してくる車両の有無を確認すれば,事故を回避できた可能性を否定できないから,原告X1にも過失を認めることができる。その過失割合は,横断歩道のない場所で,幹線道路を横断しようとした歩行者と自動二輪車の衝突事故として,歩行者20対自動二輪車80という過失割合が基本と認められる(判例タイムズ16号)。そして,原告らは,被告が前方58.1メートル手前の別紙2交通事故現場見取図①地点で原告X1が路側帯に佇立していることを認めたのであるから,時速50キロメートルで漫然と進行し,歩行者から目を離したことは,著しい過失にあたるとするが,本件事故のあった道路が国道で,幹線道路であり,歩行者は横断を開始しておらず,車両が減速すべき状況とまではいえないこと,歩行者の動静に注意すべきであるのは,車両の運転者としては当然の義務であるから,基本としての過失割合に評価されているものである。したがって,原告らの主張するような著しい過失を認めることはできない。したがって,本件においては,原告X120対被告80の過失割合が相当と認められる。
 (2) 本件事故と高次脳機能障害の因果関係の有無
   原告X1は,平成6年,もやもや病と診断され,同年7月28日,脳動脈のバイパス手術を受け,四肢のしびれ及び脱力発作等が軽快した(乙5)。その後の経過としては,原告X1には,左上肢には軽度の筋力低下あり,平成10年6月5日ころの診療録には左手で物を持った時よく落とす(乙5,101頁)との記載が見られるが,その後,このような記載はなくなり,「generally good」という記載が見られる(乙5,103頁)ほか,平成13年8月15日のMRI検査の結果,ラクナが3か所と記載があるほか(乙6の1,35頁),平成14年8月5日の診療録によると,右頭頂白質にラクナ梗塞が見られたという記載があるが,その他の症状の記載はなく(乙6の1,37頁),時々,頭痛を訴えるのみで,大きな神経症状なく経過していた(乙5,6の1)。
   本件事故による原告X1の症状は,入院時,意識清明であったが,12月30日脳浮腫の悪化に伴い意識レベルが低下し(略),全身麻酔下に手術を行った(乙6の1,111頁)。そして,本件事故直後に原告X1の手術を行ったG医師は,労働基準監督署に対する回答書では,「H16年12月19日の交通事故にて頭部・顔面を強打しCT上急性硬膜下血腫を認めた。手術を行い血腫を除去したが,もともとのもやもや病にも影響を及ぼし,脳梗塞を併発し症状を残した。」と(乙6の1,108頁),労災用の診断書には「もやもや病が既往にあり,今回の事故で悪化し,脳梗塞に至った」という意見(乙6の1,113頁)を記載していることがそれぞれ認められる。その他にも同趣旨の記載が存在する(乙6の1,88頁)。
   上記のような本件事故直後の経過,主治医の意見からすると,原告X1の高次脳機能障害が本件事故と因果関係を欠くと意見をのべているものではない。また,被告側から提出された医学的意見書(乙2)のIの意見によっても,本件事故と脳梗塞,高次脳機能障害に至る経過について,因果関係をおよそ否定する趣旨は述べられていない。そして,原告らの説明によっても,被告の説明によっても,原告X1は,本件事故により,急性硬膜下血腫を生じ,その後,脳腫脹が発生し,意識レベルが低下し,右開頭血腫除去+内外減圧術を受け,その際,右側頭葉の切除を行ったため,高次脳機能障害の後遺障害が残存したという経過について,予想できない経過を辿っているとの指摘もないことから,本件事故と高次脳機能障害について相当因果関係を認めることはできる。
   原告らは,原告X1は,平成21年7月7日施行のMRAによると,右内頚動脈分岐部の部分狭窄とモヤモヤ血管を認めるものの,血管閉塞は認められず,発症当時と同じ脳血管所見であったこと(甲24)から,本件事故後のもやもや病による脳梗塞の発症を否定し,脳外傷による脳腫脹の発生から,脳梗塞が生じ,手術による脳の一部の切除により高次脳機能障害が残存したと主張する。しかし,原告X1の脳挫傷は,本件事故直後に認められておらず,脳外傷により脳腫脹が生じたと認めるに足りる証拠はない(乙2,6の1,I)。むしろ,急性硬膜下血腫の影響が原告X1の脳血流の少なさから,脳梗塞へと発展した経過を認めることができる(乙2,15,I)。このような原告X1のもやもや病は,本件事故の後遺障害拡大に影響を与えたもので,単なる体質以上の意味を持つということができるので,その発生した結果に対して,素因減額を行うことが相当と認められる。しかし,原告X1は,通常の生活を送っていたもので,本件事故がなければ,高次脳機能障害のような症状となることはなかったのであるから,その素因減額の割合は,2割が相当と認められる。
 (3) 損害
  ① 治療費
    本件事故と相当因果関係の認められる範囲は,通常の治療の形態であり,そのため個室使用による差額は,通常の入院治療とはいえないので,相当因果関係を欠くことになる。したがって,治療費として認められるのは,文書料5万6700円及び総合リハビリテーションセンターの文書料6000円と認められる。ただし,これ以外の治療費は,労災保険からの給付でまかなわれている。
  ② 通院交通費
    原告X1の障害の内容からすると,原告X1は,一人で通院することは難しく,母親の付添が必要と認めることができるので,その原告X1の通院交通費22万0170円は,原告の両親の付添交通費は,金4万8630円と認めることができる(甲7)。
  ③ 付添看護費用及び原告X2の休業補償
    原告X2は,原告X1の入院期間中,毎日,原告X1に付き添ったことが認められ,入院当初,原告X1は,その行動が不穏であったこと,高度の意識障害に陥ったことが認められ,原告X1の症状がベッドから転倒した等,家族の付添が必要な状況であったことも認められるので(乙6の1,7),親として付添看護を行うのは当然に認められ,その付添看護費用は,日額6500円が相当と認められ,48万7500円(6500円×75日=48万7500円)と認めることができる。しかしながら,原告X2の休業補償は,原告X1の付添介護費用において,すでに損害として算定されており,この他に,欠勤したことによる休業補償を得ることは,二重に原告X1の入院中の行動を評価するもので,損害として認めることはできない。
  ④ 通院期間中の付添看護費及び原告X2の休業補償
    原告X1は,高次脳機能障害のため一人で通院できず,原告X2が通院に付き添ったことが認められる(原告X2)。この通院期間に対応する付添介護費用は,日額3300円と認められることから,その付添介護費用は,19万8000円(3300円×60日=19万8000円)と認めることができる。
    しかし,原告X2は,通院付添をした60日も欠勤を余儀なくされたとするが,この休業補償は,既に付添介護費用として損害の評価がされたいるから,二重評価になり,これを別途,本件事故による損害と認めることはできない。
  ⑤ 将来の介護費用
    先に認められたように,原告X1について高次脳機能障害が認められるところ,原告X1は,①今日が何月何日か分からない,②簡単な買い物のつり銭の計算がようやくできる程度である(一桁の計算程度),③人の話がスムーズに理解できない,④新しいことを覚えたり,同時に複数のことを平行してできない,⑤感情の起伏が激しい,⑥自分の食事の支度ができないといった症状が認められる(甲8の2,乙6の1)。そして,原告X2は,朝晩の原告X1の食事の支度はもちろん,毎日,同人のために昼のお弁当を作っているとのことであるが,排泄等は自力で行うことができ,原告X1が日中,一人で自宅で生活することは可能と認められる。なお,原告X1は,過去に行ったことのない場所に一人で行くことができないため,初めて行く場所には常に原告X2が付き添って行かなくてはならない。かように,原告X1は,小学生(11歳)程度の知能しか有さない状況となっていることが認められる(甲4,乙6の1)。
    上記のような原告X1の状況を前提にすると,原告X2は,将来にわたって,原告X1に対し,食事の心配,新たな事態への対応の補助等の監視的看護を行わなくてはならないと認められる。しかし,原告X1は,一人でプールの受付事務を行うことが可能であることを考慮すると,そのその介護の程度は,付きっきりの監視ではなく,援助が必要な際,日常生活の決まった場面における援助で足りるということができ,その介護費用は日額2000円とするのが相当である。また,その期間は,症状固定時から原告X1の平均余命までの63年間(これに対応するライプニッツ係数は19.0751)と認められるので,その介護費用は,2000円×365日×19.0751=1392万4823円と認められる。
  ⑥ 入院雑費は,11万2500円(1500円×75日)は,当事者間に争いがない。
  ⑦ 装具代として,頭部保護帽子の代金3万7852円は,本件事故の損害として当事者間に争いがない。
  ⑧ 原告X1の休業損害
    原告X1は,本件事故前,レンタルビデオ店Eでアルバイトとして稼働しており,日額2243円を得ていたことは認められる(甲7)。原告X1は,本件事故時から症状固定日である平成18年8月11日まで,600日間の休業を余儀なくされた。したがって,その休業損害は,2243円×600日=134万5800円と認められる。
  ⑨ 後遺障害逸失利益
    具体的には,①自分の意思を伝えられない,②時間の割り振りができない,③混乱パニックを起こすこともあるとされ,日常生活上の記憶力,判断力,社会生活能力の低下が認められる状態であり,既に認められたように,日常生活の全部を独力で行うことはできない状態となった(甲8の2,乙6の1)。
    原告X1の基礎収入について,原告X1が本件事故時,婚姻をしていたものではないので,専業主婦としての平均収入を認めることはできない。しかし,原告X1は,本件事故前,事務職の正社員に就労するため,アルバイトをしながら就職先を探している段階であったこと,原告X1に就労の意欲はあるものの,なかなか就職先が見つからずにいた状態であったことも認められ(原告X2),このような事情を踏まえると,原告X1の収入は,女性労働者学歴計よりも,女性労働者高卒の年収である296万1500円と認められる。原告X1の労働能力喪失率は67パーセント(併合6級)であり,その労働能力喪失期間63年(症状固定時23歳から平均余命85.49歳まで)に対応するライプニッツ係数19.0751であるから,逸失利益は296万1500円×0.67×19.0751=3784万8908円と認められる。
  ⑩ 入通院慰謝料
    原告の入通院期間(入院75日,通院1年7か月)に対する慰謝料は,247万円とするのが相当である。
  ⑪ 後遺障害慰謝料
    原告X1の後遺障害慰謝料は,併合6級であるから,1180万円が相当である。原告らは,原告X1に高次脳機能障害が残存し,その生涯が一変したことをもって,慰謝料の増額事由に該当すると主張するが,これ自体は,高次脳機能障害の後遺障害の内容として含まれるもので,慰謝料の増額事由にはあたらない。ただ,被告がその本人尋問において,本件事故の対応を確認しようとする質問に対して反抗し,謝罪の有無を確認しようとした原告ら代理人にも攻撃的であったことからすると,被害者にとっては,被害者の生活は一変したにもかかわらす(ママ),加害者が何らかわらない生活を送っていることを明らかにし,被告の反省していない態度を見せられた結果となることからすると,原告X1の精神的苦痛が増し,慰謝料の増額事由に該当すると認められる。このような事情を考慮し,その慰謝料は,1210万円が相当と認められる。
  ⑬ 原告X2の損害
    事故の被害者の親族の固有の慰謝料は,被害者の傷害の内容,後遺障害の程度等から,死亡にも比肩しうる場合に認められるものである。本件では,娘である原告X1に高次脳機能傷害の後遺障害が残存し,原告X1の能力が11歳程度で,軽易な労務しか服することができなくなったことや日常の家事等一切を行えず,今後,原告X1が結婚することも難しいといった状態が認められる(原告X2)。原告X2が娘に希望し,描いていた将来は断たれたのも同然ということができる。原告X2が原告X1を将来にわたって,扶養していく必要が生じたとも認めることができ,「我が子に人並みな幸せを。」と願う原告X2の失望は大きいものと認めることができる。したがって,原告X2に,死亡にも比肩しうる精神的苦痛を認めることができ,その謝料額は,100万円が相当である。
 (4) 以上を総合すると,原告X1の損害は,合計6885万6883円と認められる。このほかに,労災によって支払われた治療費570万4142円と診断書費用1万2000円について被告は求償されている(乙17)ことが認められる。原告X1と被告の間で,素因減額及び過失相殺を行うため,まず,原告X1に発生した総損害額を計算すると,7457万3025円と認められる。ここに,素因減額を行うと,5965万8420円(7457万3025円×0.8)となり,さらに,過失相殺を行うと,4772万6736円が被告に責任のある損害額と認めることができる。そして,既払金として,被告の保険会社から合計256万7429円の支払を受けていることからこれを差し引き,4515万9307円となり,そのほか,労災から休業損害について199万8867円,逸失利益について障害年金の給付282万9385円を受けていることから,これを休業損害,逸失利益から差し引くと,損害額は4033万1055円となる。この損害賠償請求権を行使するための弁護士費用としては,400万円が相当と認められる。
   上記の他,原告X1は,自賠責保険から平成20年1月21日に1072万円の支払を受けている(甲10)から,これを確定遅延損害金に充当すると,損害賠償請求権の残債務は4046万6838円(確定遅延損害金685万5783円)と認められる。
   したがって,原告X1の損害賠償請求権は,4046万6838円と認められ,この範囲で原告X1の請求に理由を認めることができる。さらに,原告X2については,100万円の慰謝料請求権が存在するが,過失相殺,素因減額を行った結果,64万円がその内容となり,その弁護士費用としては,7万円が相当であるから,71万円の範囲で理由を認めることができる。
  よって,主文のとおり判決する。
    横浜地方裁判所第6民事部
           裁判官 惣脇美奈子

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