仙台地方裁判所判決 平成9年8月28日

26歳の男性が脳損傷の重傷を負い症状固定後も重度の痴呆の後遺障害を負った事案において、職業付添人費用(入院期間1334日間、総額1287万円余)と近親者付添費用(日額3000円)合計400万円余の近親者付添費用を認めた。

       主   文

 一 被告Y1は、原告X1に対し、金一五三四万八一〇七円及びこれに対する平成二年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 二 被告Y2は、原告X1に対し、金一五一二万四一〇七円及びこれに対する平成二年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 三 被告らは、各自、原告X2、同X3に対し、各金二二万円及びこれらに対する平成二年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 四 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 五 訴訟費用は、これを五分し、その四を原告らの負担とし、その一を被告らの負担とする。
 六 この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

       事   実

第一 当事者の求めた裁判
 一 請求の趣旨
  1 被告Y1は、原告X1に対し、金一億八〇三二万四九六六円及びこれに対する平成二年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
  2 被告Y2は、原告X1に対し、金一億七九二〇万四九六六円及びこれに対する平成二年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
  3 被告らは、連帯して、原告X2、同X3に対し、各金四二四万円及びこれらに対する平成二年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
  4 訴訟費用は被告らの負担とする。
  5 仮執行宣言
 二 請求の趣旨に対する答弁
  1 原告らの請求をいずれも棄却する。
  2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
 一 請求原因
  1 本件事故の発生
   (一) 日時
     平成二年八月二一日午後八時三五分ころ
   (二) 場所
     宮城県名取市植松字入生六八番地先国道四号線バイパス路上
   (三) 加害車
     普通乗用自動車(宮城○○な○○○○)
   (四) 被害車
     普通乗用自動車(宮城○○や○○○○)
   (五) 事故の態様
     原告X1(以下「原告X1」という。)運転の被害車(以下「原告車」という。)が国道四号線バイパス(以下「本件バイパス」という。)を岩沼市方面から仙台市方面へ直進中、本件事故発生場所の交差点(以下「本件交差点」という。)において、狭路から広路である本件バイパスへ右折しようと進入してきた被告Y1(以下「被告Y1」という。)運転の加害車(以下「被告車」という。)と出会い頭に衝突し、原告車が本件バイパス脇の信号機柱に衝突した。
   (六) 本件傷害
     原告X1は、右衝突により、頭部外傷、中心性脳損傷の傷害(以下「本件傷害」という。)を負った。
  2 責任原因
   (一) 被告Y2の運行供用者責任
     被告Y2(以下「被告Y2」という。)は、本件事故当時被告車を所有し、これを自己のため運行の用に供していた。
   (二) 被告Y1の不法行為責任
     被告Y1は、本件事故当時被告車を運転していたが、本件交差点において狭路から広路である本件バイパスに右折進入する際、本件バイパスの直進車の進行状況を確認し、徐行して進入し、かつ、右交差点の中心の直近の内側を右折すべき注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、本件事故を発生させた。
  3 損害
   (一) 治療費 二二七万一七八一円
     原告X1は、本件傷害のため、平成二年八月二一日から同年九月一六日まで二七日間、南東北病院に、同月一七日から平成六年四月一五日まで一三〇七日間、仙台市立病院に各入院したが、その際の治療費合計額
   (二) 入院雑費 一七三万四二〇〇円
     右入院期間一三三四日につき、一日当たり一三〇〇円として計算
   (三) 付添看護費 五六八一万六二〇〇円
     次の(1)から(4)までを合計したもの
    (1) 職業付添人 一二八七万五〇七八円
      前記平成二年八月二一日から平成六年四月一四日までの分
    (2) 近親者付添人 四〇〇万二〇〇〇円
      前記入院期間一三三四日分につき、一日当たり三〇〇〇円として計算
    (3) 近親者付添交通費 八四万八九〇〇円
      前記仙台市立病院入院中の一三〇六日間につき、片道のバス料金四七〇円、地下鉄料金一八〇円、二日に一度往復するものとして計算
     (六五〇円×二×一三〇六日÷二=八四万八九〇〇円)
    (4) 将来の介護料 三九〇九万〇二二二円
      原告X1は、後記後遺症により、日常生活は常に介護を要する状態であり、これに要する費用として、一日当たり五〇〇〇円とし、本件事故時から平均余命までの五一年間のホフマン係数から、本件事故時から退院時までの四年間のホフマン係数を差し引いた係数により、年五分の割合による中間利息を控除して算定したもの
   (四) 家屋改造費 二六万五〇〇〇円
     原告X1が車椅子の生活をすることができるよう自宅の出入口の外構工事に要した費用
   (五) 補助具費用 六七万四六七五円
     原告X1が、後記後遺症を被ったため、電動ベッド、シャワートイレ等の生活補助具の購入を余儀なくされたところ、これに要した費用
   (六) 休業損害 八一一万五七四〇円
     原告X1は、平成元年一一月から株式会社A(以下「A」という。)に勤務していたところ、本件事故前三か月の平均給与支払額は一九万八四九九円であり、その後平成六年三月三日の症状固定時まで四三か月間を要したが、その間に支払われるべき給与の合計額八五三万五四五七円から、平成二年八月から平成三年五月までの間、同社より支給された四一万九七一七円を差し引いた金額
   (七) 逸失利益 九二六七万八一七二円
     原告X1は、本件事故により痴呆(知能指数一六、精神発達は二歳一〇か月程度)、四肢麻痺、高度脳萎縮の後遺症(以下「本件後遺症」という。)を残し、労働能力全部を失ったが、右当時二六歳の会社員であったから、その逸失利益は、平成五年賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、男子労働者大学卒二五歳から二九歳までの平均年収額四四九万三四〇〇円を基礎とし、症状固定時の三〇歳から六七歳までは稼動が可能であったから、これにより算出した金額から、ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除したもの
   (八) 原告X1に対する慰謝料 二五九五万円
     本件傷害及び後遺症によって被った原告X1の精神的苦痛に対する慰謝料は、三九五万円及び二二〇〇万円の合計二五九五万円が相当である。
   (九) 近親者慰謝料 七七八万円
     原告X2(以下「原告X2」という。)、同X3(以下「原告X3」という。)は、長男原告X1の本件傷害及び後遺症により、死亡に比肩するような精神的苦痛を受けたので、これを慰謝するには、一人当たり三八九万円とするのが相当である。
   (一〇) 物損 一一二万円
     原告X1所有の原告車の損壊に基づくもの
   (一一) 弁護士費用 一〇〇〇万円
     原告ら代理人に対し、原告X1は、九三〇万円、原告X2及び同X3は、それぞれ三五万円を支払う旨約した。
  4 損害の填補 一八六〇万〇八〇二円
    原告X1は、これまで被告Y2から右金員の支払を受けた。
  5 よって、原告X1は、被告Y1に対し、民法七〇九条に基づく損害賠償請求として、一億八〇三二万四九六六円を、被告Y2に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づく損害賠償請求として、右請求額から物損についての損害を除外した一億七九二〇万四九六六円を支払うことを求め、原告X2及び同X3は、被告Y1に対し、民法七〇九条に基づく損害賠償請求として、被告Y2に対し、自賠法三条に基づく損害賠償請求として、各自、四二四万円を支払うことを求め、併せて、右各金員に対する本件事故発生日の翌日である平成二年八月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。
 二 請求原因に対する認否
  1 請求原因1(本件事故の発生)の事実中、(三)(加害車)及び(五)(事故の態様)については争い、その余は認める。
  2(一) 同2(責任原因)の(一)(被告Y2の運行供用者責任)の事実中、被告Y2が被告車を所有していたことは認め、その余は否認する。
   (二) 同(二)(被告Y1の不法行為責任)については争う。
  3 同3(損害)の事実中、(一)(治療費)は認め、その余は否認する。
  4 同4(損害の填補)は認める。
 三 抗弁(免責もしくは過失相殺)
   車両を運転する者は、信号機により交通整理が行なわれている交差点を通過するときには、その信号に従わなければならず、また、標識等により指定され又は政令で定める法定制限速度を超える速度で進行してはならない義務があるところ、原告X1は、本件事故当時、同人の前方の信号は赤色を表示していたのであるから、それに従い、原告車を停止線手前に停止させなければならない注意義務があるのにこれを怠り、漫然と信号を無視し、あるいは本件事故現場における法定制限速度を超える時速一〇〇キロメートル以上の速度で走行した過失により、同交差点内に進入し、折から同交差点を南から北へ向けて走行してきた被告車と衝突するに至ったものである。
   したがって、本件事故は原告X1の一方的な過失によるものであって、被告らには責任がなく、そうでないとしても、相当の過失相殺がなされるべきである。
 四 抗弁に対する認否
   抗弁事実は否認する。
   本件事故当時、原告X1に対面する信号は青であった。
   また、そうでないとしても、本件交差点は、車両対車両の関係では交通整理の行なわれていない交差点であり、原告X1側道路が被告Y1側道路よりも明らかに広いのであるから、原告X1に優先通行権があった。
   しかるに、被告Y1は、本件交差点に進入するに際し、一時停止や徐行もしていないし、かつ、右折する際に課せられる、いわゆる右内小回りの義務も尽くしていない。
第三 証拠
   本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

       理   由

 一 本件事故の発生及びその状況について
  1 請求原因1の(一)(日時)、(二)(場所)及び(四)(被害車)並びに同2(責任原因)の(一)(被告Y2の運行供用者責任)の事実中、被告Y2が被告車を所有していたことについてはいずれも当事者間に争いがない。
  2 右争いのない事実に、甲第二ないし第四号証、第一九ないし第二一号証、第二四号証、検甲第一号証、乙第一号証、被告Y1本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。
   (一) 本件事故現場の状況について
    (1) 本件バイパスは、歩車道が区分された車道幅員一四・六メートル、両側四車線の幹線道路であり、その制限速度は時速六〇キロメートルである。一方、被告Y1は、本件交差点東側の幅員約四メートル、未舗装の農道(以下「本件農道」という。)から右交差点に進入したものであるところ、右農道の出口から、本件事故における衝突地点までは、約二〇・八メートルの距離があった。
    (2) 本件交差点には、押しボタン式の信号機(以下「本件歩行者用信号機」という。)があり、これは本件バイパスを横断する歩行者専用に設置された信号機であった。
      また、本件バイパスは、常時交通量が多く、信号による規制によらずにタイミングを見計らい、本件農道から本件バイパスに進入することは困難な場合が多いため、本件農道から本件バイパスに進入しようとする運転者の中には、わざわざ下車して本件歩行者用信号機を作動させ、本件バイパス側の車両を停止させた上で、本件交差点に進入する者も多い状況にある。
   (二) 本件事故の発生状況について
    (1) 被告Y1は、被告Y2が運行の用に供していた被告車を同人から借り受けていたが、それを被告Y2に返却すべく、本件事故当日の午後八時三五分頃、当初は本件バイパスを岩沼市方面に進行していたが、それとは反対方向の仙台市方面に進路を変更するにあたり、交通量の多さから、本件バイパス上でUターンするのは困難と判断し、本件交差点から左折して本件農道に入り、そこでUターンした上、本件交差点に向かった
    (2) 被告Y1は、実況見分調書(乙第一号証)添付の交通事故現場見取図①地点(本件農道上の後記本件衝突地点から約四二・二メートル、本件農道出口から約二一・四メートル東の地点)で、本件歩行者用信号機が青であることを確認し、そこから約二一・四メートル進行した②地点で、被告車進行方向の右側の本件バイパスの内側車線に(A)(以下「(A)車」という。)ないし(D)の各車両が停止していることを確認し、さらにそこから約五・九メートル進行した③地点(後記本件衝突地点から約一四・九メートル手前の本件バイパスの車道にさしかかるあたりの地点)で、本件バイパス上を岩沼市方面から仙台市方面に向かい、内側車線を走行していた原告車を(ア)地点に確認した。
      しかし、その時の原告車と被告車との距離が約八二・七メートルであったことから、その後は原告車に対して注意を払うことなく、時速約三〇キロメートルで、当時本件バイパスの本件農道側車線において停止線を大幅に越え、横断歩道上に停止していた右(A)車を避けようと大回りをした上、原告車が走行していた車線と同一の車線に進入しようと、右③地点から約一一・二メートルの④地点に向かって進行した。
      ところが、原告車が、対面する本件バイパス側信号機が赤であるにもかかわらず、それに従って停止せず、なおかつかなりのスピードで、前記(ア)地点から約七二・一メートルの(イ)地点にまで来ていることに気付いたため、被告Y1は、減速しながらハンドルを右に切ったが及ばず、前記④地点から約三・七メートル進行した(×)地点(以下「本件衝突地点」という。)で、原告車の右側面後端と被告車の左前部が接触し、被告車は、右衝突地点から約六・一メートル進行した⑥地点で停止した。
    (3) 他方、原告車も、本件衝突地点の約一六・二メートル手前の(イ)地点で被告車を認め、左にハンドルを切ったが及ばず、右衝突に至り、さらに信号機柱に右側面を衝突させて大破し、(イ)地点付近から右衝突地点までの約一六・二メートルにわたり、原告車走行箇所に沿ってタイヤ痕が残された。
      そして、本件事故現場の路面が乾燥したアスファルトであったことからすれば、右のようなタイヤ痕が残されるためには、原告車において、少なくとも時速約五四キロメートル以上の速度で進行してきたことが認められるところ(新日本法規出版株式会社発行、平成八年一一月版交通事故損害賠償必携一五八頁及び一六〇頁)、本件においては、原告車は単に右タイヤ痕を残したのみならず、さらに進行して信号機柱に激突、大破していること及び被告Y1本人の供述内容からして、本件事故当時、原告車は右速度及び法定制限速度を大幅に上回る、時速一〇〇キロメートルを超える速度で走行していたものということができる。
  3 以上認定した事実に反し、原告らは、本件事故当時、原告X1に対面する信号は青であったと主張する。
    しかしながら、検甲第一号証によれば、本件バイパスは、本件事故発生と同一の時間帯においては、上下線とも車両の往来が激しく、信号機による交通整理なくしては、本件農道から本件バイパスへ進入するのは困難であること、それ故、本件農道から本件バイパスへ進入しようとする運転者の多くが、本件交差点手前でことさらに下車して本件歩行者用信号機を作動させ、本件バイパス通行の車両を同信号機により停止させた上で、本件バイパスに進入していることが認められる。
    そうすると、本件の場合においても、被告Y1において、本件歩行者用信号機が赤色表示の時に本件バイパスに進入することは、極めて危険かつ困難であることが認められ、同人が本件バイパスに進入できたということは、本件歩行者用信号機が青色表示であったことを推認させるものであり、他に、前示の認定を左右するに足りる証拠はない。
    また、原告らは、本件交差点は、車両対車両の関係では交通整理の行なわれていない交差点であり、原告X1側道路が被告Y1側道路よりも明らかに広いのであるから、原告X1に優先通行権があったとも主張する。
    確かに、本件歩行者用信号機はあくまで本件バイパスを横断する歩行者専用に設置されたものであって、直接、本件農道から本件バイパスに進入する車両を規制するものではなく、それ故、本件交差点は、車両同士の関係では交通整理の行なわれていない交差点に該当すると一応はいうことができる。
    しかしながら他方、本件バイパスを走行する車両にとって、その前方の信号機が赤色表示であれば、歩行者等の有無にかかわらず、その表示に従い停止しなければならないこともまた当然である。
    したがって、本件バイパスを走行する車両において、その前方の信号機が赤色を表示した場合には、車両対車両の関係においても、本件交差点は交通整理の行なわれている交差点となり、その際には、本件バイパス走行車両に優先通行権はないものと解するのが相当であり、本件はそのような場合に当たる。
    よって、原告らの右主張は失当である。
 二 被告らの責任
  1 被告車には、道路交通法三四条二項、三六条四項により、右折するときはあらかじめその前からできる限り道路の中央に寄り、かつ、交差点の中心の直近の内側を徐行しなければならない義務と、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等に特に注意し、できる限り安全な速度と方法で走行しなければならない義務が課せられていたものである。
    ところが、先に認定した本件事故の発生状況によれば、被告車は、停止線をはみ出して停止していた(A)車を避けるためとはいえ、大回りをして時速約三〇キロメートルで走行するという、右義務に違反した方法で本件交差点に進入してきたばかりか、被告Y1は、既に、本件衝突地点から約一四・九メートル手前の地点で、その左方約八二・七メートルの地点を、原告車が本件交差点に向かって進行してくることを認識していたのであるから、被告Y1において、右道路交通法上の義務に従った走行をなし、かつ、原告車の動向を注視して十分な注意を払い、適宜な速度で進行してくれば、原告車との衝突を避けるべく本件衝突地点手前で停止することも可能であり、また、原告車においても、本件衝突地点の約一六・二メートル手前の地点で左にハンドルを切っていたのであるから、被告Y1が、本件交差点の中心の直近の内側を走行し、内側車線に進入したのであれば、本件事故において原告車と被告車は単に接触したに過ぎないことをも考え合わせると、本件事故は回避された可能性が認められる。
    このような事情を考慮すれば、本件事故の発生につき、被告Y1に過失が認められることは明らかである。
  2 一方、被告Y2は、本件事故当時、被告車両を所有し、これを自己のため運行の用に供した事実が認められることから、同被告には、原告らに対し、自賠法三条に基く賠償責任が存在するものというべきである。
 三 損害について
  1 請求原因3(損害)の(一)(治療費)について、二二七万一七八一円を要したことは、当事者間に争いがない。
  2 甲第一、第四号証、第一一ないし第一六号証、原告X2本人尋問の結果によれば、原告X1は、本件事故当時二六歳であったが、本件事故により中心性脳損傷の傷害を被って意識不明の重体に陥り、本件事故時から平成六年四月一五日までの四三か月間入院し、その後意識は回復したものの、平成六年三月三日には症状固定となり、その後は日常生活動作の一切に介護を必要とする状況にあり、知能検査の結果によれば、精神発達程度が二歳一〇か月レベル、知能指数が一六と重度の痴呆に陥っており、周囲との意思疎通はほとんど不可能であり、労働能力を完全に喪失し、治癒の可能性はないことが認められる。
  3 以上の点を踏まえて原告らの損害を検討すると、以下のとおりとなる。
   (一) 請求原因3の(二)(入院雑費)については、前述の原告X1の本件傷害の程度、入院期間に鑑み、原告ら主張の一七三万四二〇〇円が相当である。
   (二)(1) 同(三)の(1)(職業付添人に対する費用)については、甲第六号証により一二八七万五〇七八円を要したことが認められる。
    (2) 同(2)(近親者付添費用)については、右のとおり職業付添人の存在が認められるものの、前記2において認定したように、本件事故後の原告X1の本件傷害の程度が、いわゆる植物状態であって重篤であったと認められること、右植物状態を改善するためには、職業付添人のみならず近親者による付添の必要性もあったと解されること、原告ら主張の近親者付添費用は一日当たり三〇〇〇円と、職業付添人の存在をも配慮して一般的な近親者付添費用よりも低額になっていることが推認されることから、原告ら主張のとおり四〇〇万二〇〇〇円が相当である。
    (3) 同(3)(近親者付添交通費)については、弁論の全趣旨により、原告ら主張のとおり八四万八九〇〇円を要したものと認められる。
    (4) 同(4)(将来の介護料)については、甲第一五号証及び原告X2本人尋問の結果によれば、現在、原告X1は、仙台市の福祉施設××において、公的扶助による介護を受けていることが認められる一方、週に三日程度は原告X2らが右施設に赴き介護を行ない、お盆や年末年始などには原告X1を自宅に連れ帰って介護していること、右公的扶助が同人の生涯にわたって存続するとの保障は必ずしもない上、職業介護人に原告X1の介護を全て委ねるのみでは同人の健康状態を良好に保つには足らないため、原告X2らの介護が全く不要というわけではないことが認められる。
      よって、原告X1の将来の介護料としては、右事情を考慮すると、一年を五二週として各週二日間の合計一〇四日間(原告X2本人は、週三日は施設に赴いている旨供述するが、その場合でも、施設による介護が全くなされていないわけではないから、その実質的介護に要する日数としては、週二日として計算するのが相当である。)、年末年始及びお盆については合計一〇日間、一年間で合計一一四日間の期間において、原告X2らによる介護がなされるものとし、その場合の一日当たりの介護費用は一日当たり五〇〇〇円が相当であり、中間利息控除額の算定にあたっては、原告ら主張の方法によるのが相当であるから、これに従い、原告X1に対する将来の介護料を算出すると、一二二〇万九〇〇一円となり、右額を本件における将来の介護料として認めるのが相当である。(五〇〇〇円×一一四日間×(二四・九八三六-三・五六四三)=一二二〇万九〇〇一円)
   (三) 同(四)(家屋改造費)については、甲第七及び第八号証により、二六万五〇〇〇円を要したことが認められる。
   (四) 同(五)(補助具費用)については、甲第九号証の一ないし七により、合計六七万四六七五円を要したことが認められる。
   (五) 同(六)(休業損害)については、甲第一〇号証によれば、原告ら主張のとおり、原告X1が、平成元年一一月からAに勤務していたこと、事故前三か月の一か月あたりの平均給与支払額は一九万八四九九円であり、本件事故時からその後の平成六年三月三日の症状固定時まで四三か月間を要したことから、その間に支払われるべき給与の合計額である、右平均給与支払額である四三か月分の八五三万五四五七円から、平成二年八月から平成三年五月までの間、同社より支給された四一万九七一七円を差し引いた金額である八一一万五七四〇円をもって相当とする。
   (六) 同(七)(逸失利益)については、甲第一〇号証及び原告X2本人尋問の結果によれば、原告X1は、当初新聞記者を志望していたため、本件事故当時勤務していたAへの就職が、同人が大学を卒業した年の一一月と、他の大学卒業者に比べ遅れたこと、同社への就職後一年未満はいわゆる見習い的な期間であって、間もなく新しい職務に就くことが予定されて、その後の昇給の見込みも十分あったことが推認され、本件事故当時の同人の収入額によって将来の逸失利益を算出したのでは、同人が本件事故に遭わなかったならば得られたであろう収入額と著しく乖離する蓋然性が大きい。
     よって、以上の点を総合するならば、逸失利益算定の基礎となる収入額については、原告ら主張のとおり、平成五年賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、男子労働者大学卒二五歳から二九歳までの平均年収額四四九万三四〇〇円、症状固定時(三〇歳)から稼動可能年齢である六七歳までの稼動年数三七年間を基礎とし、中間利息の控除にあたっても、原告ら主張の方法によるのが相当であり、そうすると右金額は原告ら主張のとおり九二六七万八一七二円と認めるのが相当である。
    (四四九万三四〇〇円×二〇・六二五四=九二六七万八一七二円)
   (七) 同(八)(原告X1に対する慰謝料)のうち、本件傷害の慰謝料については、前記2において認定したとおり、本件事故時から症状固定時まで、四三か月間入院したところ、これに対する慰謝料の額としては、原告ら主張のとおり三九五万円とするのが相当であり、また、本件後遺症の慰謝料についても、右に認定した原告X1の状況に加え、甲第一四号証によれば、原告X1は、身体障害者等級表による級別一級と認定されたことが認められることから、右慰謝料の額についても、原告ら主張のとおり二二〇〇万円とするのが相当であり、慰謝料の合計額としては二五九五万円が相当である。
   (八) 同(九)(近親者慰謝料)については、前記2において認定した原告X1の状況及び原告X2本人尋問の結果によれば、原告X2らは、原告X1の将来を嘱望していたにもかかわらず、本件事故によりその希望が閉ざされてしまった上、原告X1と、その両親である原告X2らとの意思の疎通がほとんど不可能な状態になっていること、さらに、今後も原告X1に対する介護を通じて、原告X2らには物心両面にわたる相当の労苦が課せられることが認められ、これらの事実を考慮するならば、原告X2及び同X3に対し、慰謝料としてそれぞれ一〇〇万円の額を認めるのが相当である。
   (九) 同(一〇)(物損)については、甲第一七号証により、原告X1において一一二万円の損害を被ったことが認められる。
  4 以上によれば、原告X1の損害額は、人的損害一億六一六二万四五四七円、物的損害一一二万円の合計一億六二七四万四五四七円、原告X2及び同X3の損害額は各一〇〇万円となる。
 四 過失相殺について
   前記一の2の(二)の(2)及び(3)並びに二の1で認定したように、原告X1には、対面信号が赤色表示であったにもかかわらず、それに従って停止せず、法定制限速度を大幅に上回る速度で進行した過失が、他方、被告Y1においても、交差点を右折する際の注意義務及び原告車の動向を注視すべき義務を怠った過失が、それぞれ認められる。
   そこで右両者の過失割合を検討すると、原告X1を八、被告Y1を二とするのが相当であり、また、原告X2に対する本人尋問の結果によれば、原告X1と原告X2らとの間には家計の同一性が認められることから、原告X2らの慰謝料についても、いわゆる被害者側の過失として、過失相殺の対象とするのが相当である。
   そうすると、原告X1の損害額は、人的損害三二三二万四九〇九円、物的損害二二万四〇〇〇円の合計三二五四万八九〇九円、原告X2及び同X3の損害額は、各二〇万円となる。
 五 損益相殺について
   原告X1が、被告Y2から一八六〇万〇八〇二円の支払を受けたことは、原告X1の自認するところであるから、これを、右に認定した同原告の人的損害額から差し引くと、その残額は一三七二万四一〇七円となり、これと物的損害額を合計すると、損害額は一三九四万八一〇七円となる。
 六 弁護士費用について
   これについては、原告X1について一四〇万円、原告X2及び同X3について各二万円とするのが相当である。
 七 結論
   以上によれば、原告らの本訴請求は、原告X1において、被告Y1に対し、一五三四万八一〇七円、被告Y2に対し、一五一二万四一〇七円、原告X2及び同X3において、被告ら各自に対し、各二二万円、並びにこれらの金員に対する本件事故発生日の翌日である平成二年八月二二日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条及び九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
    仙台地方裁判所第三民事部
        裁判長裁判官  梅津和宏
           裁判官  大野勝則
           裁判官  常盤紀之

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