東京地方裁判所判決 平成17年5月30日

女性会社役員兼ファッションモデルが鼻根部の直径1.5cm大の外傷後色素沈着、毛細血管拡張性の障害を負った場合において、後遺症分200万円の慰謝料を認めた。

       主   文

 1 被告らは,原告に対し,連帯して321万5646円及びこれに対する平成14年12月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求を棄却する。
 3 訴訟費用はこれを6分し,その1を被告らの負担とし,その余を原告の負担とする。
 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 請求
   被告らは,原告に対し,連帯して1685万4755円及びこれに対する平成14年12月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 争いのない事実
 (1)事故の発生
   ア 日  時 平成14年12月7日午前1時5分ころ
   イ 場  所 東京都〈省略〉先路上(以下「本件現場」という。)
   ウ 被告車両 普通乗用自動車(車両番号 〈省略〉,以下「被告車」という。)
     同運転者 被告A(以下「被告A」という。)
     同同乗者 原告
   エ 態  様 被告車が,本件現場の交差点(以下「本件交差点」という。)を直進しようとした際に,右方から進行してきたB(以下「B」という。)運転の普通乗用自動車(以下「B車」という。)と衝突した。
 (2)被告らの責任
    被告Aは,自らの過失により,本件事故を発生させたのであるから,民法709条に基づき,被告C株式会社(以下「被告会社」という。)は,被告Aが被告会社のタクシーを運転中,本件事故を発生させたのであるから,被告Aの使用者として民法715条に基づき,原告に対し,それぞれ損害賠償責任を負う。
 2 争点
 (1)被告Aの過失
   (原告の主張)
    被告Aは,本件交差点の対面信号が,一時停止すべき赤色点滅であったにもかかわらず,これを無視して速度を落とすことなく漫然と交差点に進入した過失により,本件事故を発生させた。
   (被告らの主張)
    被告Aは,本件交差点手前で,時速30ないし40キロメートルに減速させて走行し,順次左右を確認して本件交差点に進入した。
    Bは,B車を時速50キロメートルで走行させ,減速することなく対面信号が黄色点滅を示している本件交差点に進入したものであるから,同人にも相応の過失があり,割合に応じた責任を負担すべきである。
 (2)損害及びその額
   (原告の主張)
   ア 治療費          17万7840円
     原告は,本件事故により,頚椎捻挫,腰部挫傷,右臀部挫傷,上顎骨骨折,両側顎関節打撲,顔面打撲による毛細血管拡張症の傷害を負い,そのための通院治療費として上記金額を要した。
   イ 通院交通費         8万5750円
   ウ 物損(ピアス)       2万5000円
   エ 休業損害        167万7083円
     原告の年収は875万円,休業は2か月と11日である。
    (計算式)
     8,750,000÷12×2.3=1,677,083円
   オ 逸失利益        945万9082円
     原告の本件事故による後遺障害は,むち打ち症による14級,顔面醜状による12級とみるのが相当である。
     原告は,モデルであり,労働能力喪失期間は,最低でも10年間とみるべきである。
    (計算式)
     8,750,000×0.14×7.7217=9,459,082
   カ 慰謝料
   (ア)傷害慰謝料           60万円
   (イ)後遺障害慰謝料        331万円
   キ 弁護士費用           152万円
   ク 合計         1685万4755円
   (被告らの主張)
    いずれも不知ないし争う。
第3 争点についての判断
 1 争点(1)(被告Aの過失)について
   証拠(甲1,46ないし55,58,原告本人)によれば,被告Aは,本件交差点において,自己の進行方向に一時停止規制があるにもかかわらず一時停止せず,十分に右方を確認しないで本件交差点に進入した過失があるものと認められるところ,交差道路を進行してくるBに過失が認められたとしても,本件事故は,被告AとBによる共同不法行為であるものと認められ,被告らには,原告に生じた損害の全てをBと連帯して賠償する責任があるのであるから,本件においては,Bの過失の有無及び被告Aとの過失割合については判断を要しない。
 2 争点(2)(損害及びその額)について
 (1)治療費(文書料含む)    16万9950円
    原告は,D病院(以下「D病院」という。)において側頭部打撲,顔擦過傷,頚椎捻挫,鼻打撲,腰部打撲,鼻骨骨折疑,腰部挫傷,顔面外傷と診断され,平成14年12月7日から同月10日まで,E医療センターにおいて,上顎骨骨折,両側顎関節打撲と診断され,同月12日から平成15年2月18日まで,F病院において,頚椎捻挫,腰部挫傷,右臀部挫傷(坐骨骨折疑い),上顎部打撲挫傷(上顎骨骨折疑い)と診断され,平成14年12月11日,Gクリニックにおいて,顔面打撲兼擦過創,上顎骨骨折,顎関節挫傷,頚椎捻挫,腰椎捻挫,右股関節捻挫,右臀部打撲,右膝捻挫,右足関節捻挫,右肩捻挫と診断され同年12月7日から同月25日まで,H歯科医院において,同月11日,通院治療を受けた。
    上記の治療に要した治療費は,以下のとおりである(文書料含む。)。
   ア D病院          9万8040円
   イ E医療センター      2万6470円
   ウ F病院          4万1450円
   エ Gクリニック         3000円
   オ H歯科医院           990円
    原告の請求する薬代については,その処方元及び投薬内容が明らかでなく,本件事故との因果関係が立証されているとはいえない。また,原告の通院は,平成15年2月18日に一旦中断されており,その後同年6月になってからIクリニックにおいて治療を受けているが,側頭部打撲,顔擦過傷,頚椎捻挫,鼻打撲,腰部打撲はいずれも平成14年12月13日に,鼻骨骨折疑は同月末日に治癒見込みとされていることからすれば,症状固定後の通院であると認められ,その必要性は立証されておらず,本件事故と因果関係がある治療とはいえない。同様に,同年8月以降のGクリニックの通院も本件事故との因果関係は認められない。
    なお,原告は,マッサージ治療を受けているが,医師の指示があったかどうかは不明であり,施術が必要かつ相当であり,有効なものであったと認めるに足りる証拠はなく,本件事故と因果関係ある損害であるとはいえない。
 (2)通院交通費          2万6530円
    証拠(甲35)によれば,原告がタクシーを利用して通院していたことが認められるが,原告は,仕事ができなかったとして主張して休業損害の請求をしているもので,休業期間中の事務所と自宅の往復については,その必要性が立証されているとは認め難い。
    原告が通院に要した交通費については,本件事故と因果関係のある損害であると認められ,その合計は上記金額となる。
 (3)物損
    原告は,ピアス代の請求をするが,原告がつけていたピアスが本件事故によって破損したという事実,同ピアスの時価については立証がなく,損害とは認められない。
 (4)休業損害
    原告は,自らデザインした洋服の販売・デザイン販売の会社を経営し,かつファッション雑誌等に自らがデザインした洋服などを着て撮影されるモデルであった(甲64ないし67,原告本人)ところ,本件事故により平成15年5月18日までの2か月と11日は休業を余儀なくされたとして,休業損害を請求する。
    原告が本件事故により,前記のとおりの傷害を負い,加療2週間~全治4週間と診断され(甲2ないし7),D病院へ2日,E医療センターへ4日,F病院へ1日,H歯科医院へ1日,Gクリニックへ4日通院していたことは認められるが,本件事故からそれほど日をおかずに,ほぼ毎日事務所に出勤するようになっており(甲36,64),本件事故直後である平成14年12月には8日通院しているものの,平成15年1月及び2月はそれぞれ1日通院があるのみで,原告の受傷内容,通院状態などに鑑みると,2か月余の間全く就労ができない状態であったとみることには疑問がある。
    しかし,前記診断書の内容,通院頻度等を考慮すれば,少なくとも1か月程度は休業の必要性はあったものと認められるから,事故直前の約1年間の所得である平成14年の所得875万円(甲42,61,62)を基礎収入とし,1か月分の休業損害を本件事故と因果関係のある損害と認める。
   (計算式)
    8,750,000÷12×1=729,166
 (5)逸失利益
    原告は,むち打ちと顔面醜状による後遺障害が残ったと主張するが,むち打ちによる神経症状の後遺障害については,後遺障害診断書等後遺障害としての医師の所見はなく,事故後マッサージを受けるなどして軽快しており,本人の訴えもはっきりしたものではなく,後遺障害として認めるに足りる証拠はない。
    また,顔面醜状は,鼻根部に直径1.5センチメートル大の外傷後色素沈着,毛細血管拡張症の症状が残ったとされている(甲57)が,写真上,後遺障害認定等級に該当する程度の醜状痕の存在が明らかであるとまではいえず,その部位,大きさや色素付着の程度などを考慮すれば,化粧等で隠すことも可能であると考えられ,また,レーザー治療の適応であるとされているので,同治療により改善の可能性もないとはいえない。したがって,後遺障害等級に該当する後遺障害の存在が明らかであるとはいえず,また,前記原告の事業における経営者としての収益と外貌醜状が影響すると考えられるモデルとしての収益を明確に区別し難いことに鑑みれば,原告の後遺障害逸失利益を算定することは困難であるといわざるを得ない。
    ただし,現在においても,原告の顔面に痣様の痕跡が残っていることは認められるところ,原告の職業は雑誌などのモデルであり,他の職種や日常生活においてはさしたる影響がないといえる程度の顔面の醜状であっても,労働能力に与える影響は決して小さいものではないから,逸失利益が全くないとはいい難く,現に,原告は,本件事故後,モデルとしての仕事を受けられなくなり,現在では,仕事を辞めるに至っていることが認められる。かかる事情は,後記のとおり,慰謝料において斟酌するのが相当である。
 (6)慰謝料              200万円
    原告の受傷内容,部位,治療状況に加え,もとより女性の顔面に醜状痕が残った場合は,自賠責保険の後遺障害等級に該当する程度に至らないとしても日常生活や精神面における影響は無視できないものである上,原告の職業がモデルという容貌が殊更重視される職業であるにもかかわらず,顔面に傷害を負わされ,前記のとおり,モデルの仕事を受けられなくなり,本件事故後,結果的に原告が仕事を廃業するに至っていること,事業の性質上,明確に算定できないものの,本件事故による逸失利益も否定できないこと,神経症状についても,医療機関のほかにマッサージ等の施術を受けてようやく症状が軽快するに至っていることなどを考慮すれば,原告の慰謝料は200万円とするのが相当である。
 (7)弁護士費用             29万円
    本件事案の難易度,審理の経過,認容額等に鑑みれば,本件事故と因果関係のある弁護士費用は29万円が相当である。
 (8)合計           321万5646円
第4 結論
   以上によれば,原告の請求は,321万5646円及びこれに対する平成14年12月7日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払いを求める限度で理由がある。
    東京地方裁判所民事第27部
        裁判官  高 取 真理子

当事務所では、弁護士が毎日のように交通事故問題の相談に向き合っております。交通事故の損害賠償等でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

無料法律相談のご予約は24時間受付

ご予約専用フリーダイヤル:0120-778-123

フリーダイヤルが繋がらない場合は03-3436-5514まで