神戸地方裁判所判決 平成10年6月4日

66歳の女性が死亡した事案において、死亡慰謝料として2400万円が認められました。

       主   文

 一 被告は、原告らそれぞれに対し、各金一九七九万九八六三円及びうち各金一八二九万九八六三円に対する平成八年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二〇分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

       事実及び理由

 第一 請求
被告は、原告らそれぞれに対し、各金二一四〇万〇〇一四円及びうち各金一九九〇万〇〇一四円に対する平成八年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により死亡した訴外亡木野敏子(以下「敏子」又は「亡敏子」という。)の相続人である原告らが、被告に対し、自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害賠償を求める事案である。
 なお、付帯請求は、弁護士費用を除く内金に対する本件事故の発生した日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。
二 争いのない事実
1交通事故の発生
(一)発生日時
 平成八年一〇月一日午後一時一五分ころ
(ニ)発生場所
 兵庫県明石市魚住町清水二四〇〇番地の一〇先 信号機による交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)
(三)争いのない範囲の事故態様
 被告は、普通貨物自動車(姫路四一い一九一六。以下「被告車両」という。)を運転し、本件交差点を南から東に右折しようとしていた。
 他方、敏子は、自転車で、本件交差点の東側にある横断歩道付近を、北から南に横断しようとしていた。
 そして、右横断歩道付近で、被告車両の前面と原告とが衝突した。
(四)敏子の死亡
 敏子は、平成八年一〇月一日午後八時三分ころ、本件事故に起因する両肺挫滅、両肺血胸等により死亡した。
2相続
 原告木野義明は亡敏子の夫であり、原告木野雅文は亡敏子の子である。
 そして、敏子の死亡により、原告らが、各二分の一の割合でこれを相続した。
3責任原因
 被告は、被告車両の運行供用者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、本件事故により亡敏子及び原告らに生じた損害を賠償する責任がある。
三 争点
 本件の主要な争点は次のとおりである。
1本件事故の態様及び過失相殺の要否、程度
2亡敏子及び原告らに生じた損害額
四 争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張
1被告
 本件交差点を構成する東西道路には、東行きの一方通行の規制がある。
 亡敏子は、右規制に反し、右東西道路の北側を東から西へ直進した上、本件交差点の東側にある横断歩道付近で左折して、北から南に横断しようとしていた。
 他方、被告は、右東西道路に東行きの一方通行の規制があることを知っていたため、被告車両を運転し、低速で、西側に注意を払いながら、本件交差点を右折しようとしていた。
 したがって、亡敏子には、右一方通行の規制に反して走行した点、横断歩道を自転車に乗ったまま走行した点、前方の安全を十分に確認しなかった点に過失があり、本件事故に対する亡敏子の過失は、少なくとも四〇パーセントはあるというべきである。
2原告
 亡敏子は、自転車に乗って、右東西道路の北側にある歩道を東から西へ直進した上、本件交差点の東側にある横断歩道を北から南に直進しようとしていた。この時、亡敏子が、自転車に乗っていたのか、自転車から降りてこれを押していたのかは不明であるが、いずれにしても被告車両の衝突地点は右横断歩道上であり、亡敏子には、過失相殺の対象となるべき過失は存在しない。
 なお、被告は、右側の安全をまったく確認しないままに被告車両を運転して本件交差点を右折し、被告車両は、亡敏子との衝突後、亡敏子をその車体の下に引きずって約一五・五メートル進行した後、ようやく停止した。
五 口頭弁論の終結の日
 本件の口頭弁論の終結の日は平成一〇年四月九日である。
第三 争点に対する判断
一 争点1(本件事故の態様等)
1《証拠略》によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実のほかに、次の事実を認めることができる。
(一)本件交差点は、ほぼ東西に走る道路とほぼ南北に走る道路とからなる十字路であり、右東西道路の南側には、これと平行して、盛土による高架上をほぼ東西に加古川バイパスが走っている。
 そして、右東西道路は、東行きの一方通行の規制があり、車道部分の幅員が約三・三メートルで、その北側には幅約○・八メートルの、その南側には幅約一・一メートルの路側帯がある。また、その北側には、幅約二・〇メートルの歩道がこれと別に設けられている。
 右南北道路は、本件交差点の南側が、片側各一車線、両側合計二車線の道路で、幅員は合計約五・一メートルで、その東西には幅各○・四メートルの路側帯がある。本件交差点の北側は、幅員約四・〇メートルの道路である。
 本件交差点の南側には、一時停止の道路標識がある。また、本件交差点の南東隅及び南西隅は、加古川バイパスの法面を支えるコンクリート側壁により、東西方向、南北方向のそれぞれと約四五度に交わる形で隅切りがされている。したがって、被告車両の進行してきた本件交差点の南側から本件交差点に進入するには、加古川バイパスの下のトンネルをくぐり、その出口付近にある一時停止の道路標識で停止し、さらに約七・五メートル前進してようやく東西道路の南端に至るという位置関係にある。また、本件交差点の南側からは、右コンタリー卜側壁により、左右の見通しは悪い。
 さらに、本件交差点には、東側にのみ横断歩道が設けられている。
(ニ)被告は、被告車両を運転し、本件交差点の南側の一時停止の道路標識で停止した。
 その後、東に右折するため本件交差点に進入したが、右東西道路に、東行きの一方通行の規制があることを知っていたため、左側(西側)にのみ注意を払い、自車の進路前方にあたる東側にはまったく注意を払わず、漫然と、時速約二〇キロメートルで進行を続けた。
 そして、自車前方に視線を戻した時、約三・七メートルの地点に、亡敏子が乗った自転車を認めたが、狼狽の余り自車に急制動の措置をとることができず、右自転車に自車前部右側を衝突させ、亡敏子と自転車を自車の車体下部に巻き込んだ上、そのままこれを引きずって約一五・五メートル東に進行し、ようやく自車を停止させた。
(三)他方、亡敏子は、右東西道路の北側の歩道を東から西に進行し、本件交差点の東側の横断歩道を北から南に横断しようとして、本件事故に遭遇した。
2右認定事実によると、被告は、本件交差点を右折進行するに際し、左側(西側)にのみ注意を払い、自車前方にはほとんど注意を払わないまま、漫然と、右折進行を続けていたのであるから、その過失は誠に重大である。とりわけ、本件交差点の東側には横断歩道が設けられていたのであるから、その近辺の安全を確認しないままに自車を走行させた被告の行為は、きわめて危険なものであるといわざるをえない。
 また、車両等が交差点を右折する際には、徐行すべき義務があるところ(道路交通法三四条二項)、ここでいう徐行とは、車両等が直ちに停止することができるような速度で進行することをいい(同法二条一項二〇号)、時速約二〇キロメートルという速度での進行が、右徐行義務に違反していることも明らかである。
 さらに、自車の前方約三・七メートルの地点に、亡敏子が乗った自転車を認めた際、被告が直ちに自車に急制動の措置を講じていれば、右自転車との衝突は避けられなかったとしても、亡敏子の死亡という最悪の結果は免れた蓋然性が高いと考えられるところ、被告は、狼狽の余り自車に急制動の措置をとることができず、右自転車に自車前部右側を衝突させ、亡敏子と自転車を自車の車体下部に巻き込んで、そのままこれを引きずって約一五・五メートル東進行し、ようやく自車を停止させたというのであるから、この点における被告の過失も看過することができない。
 他方、被告は、亡敏子の過失を主張するが、右認定事実によると、亡敏子が一方通行の規制に違反したということはできず、歩道及び横断歩道の通行が、自転車の走行方法として不適切なものであったとすることもできない。なお、自転車による歩道及び横断歩道の通行は、一定の場合を除き、道路交通法が容認するものではないが、本件全証拠によっても、右各通行が、本件事故の発生する原因となったり、亡敏子の損害拡大の要因となったと認めることはできないから、これらをもって、亡敏子の過失相殺の対象となる過失とすることもできない。
 そして、わずかに、被告車両を認めるべきでありながら認めることなく横断を始めた点、あるいは、接近しつつある被告車両を認めながら横断を続けた点にのみ、亡敏子の一片の落ち度を考えることが可能であるというべきである。
3ところで、亡敏子の右落ち度は、右に認定した被告の過失の重大性と対比すると、きわめて些細なものにすぎない。
 また、被告が亡敏子の自転車を認めた際、自車に適切な制動措置を講じていれば、本件事故は軽微なものにとどまり、亡敏子の損害も少額にとどまったであろうと考えられるところ、亡敏子の死亡という重大な結果に至り、損害の著しい拡大を発生させた原因は、もっぱら、被告が、狼狽の余り、自車に適切な制動措置を講じることができなかったことに求められるべきである。
 そして、損害の公平な分担という過失相殺の法理の立法趣旨に照らすと、右に判示認定した事実関係及び検討の下では、亡敏子には過失相殺の対象とすべき過失は存在しないとするのが相当である。
 被告は、亡敏子には、本件事故について四〇パーセントの過失がある旨主張するが、当裁判所の採用するところではない。
二 争点2(亡敏子らに生じた損害額)
 争点2に関し、原告らは、別表の請求欄記載のとおり主張する。
 これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、亡敏子及び原告らの損害として認める。
1損害
(一)葬儀料
《証拠略》によると、亡敏子は、本件事故当時、満六六歳であったこと、夫である原告木野義明と二人暮らしであったこと、本件事故当時、ホテルのフロント係の仕事をしていたことが認められる。
 そして、これらによると、本件事故と相当因果関係のある葬儀料を、金一二〇万円とするのが相当である。
(ニ)逸失利益
 右認定の亡敏子の年齢、職業、生活状況に照らすと、亡敏子の死亡による逸失利益を算定するにあたっては、賃金センサス平成七年度第一巻第一表の産業計、企業規模計、女子労働者、学歴計、六五歳~、に記載された金額(これが年間金二八八万三七〇〇円であることは当裁判所に顕著である。)を基礎とし、生活費控除を四〇パーセントとした上で、本件事故により、亡敏子は、八年間の得べかりし収入を得ることができなくなったものとするのが相当である。また、本件事故時の現価を求めるため、中間利息を新ホフマン方式により控除するのが相当である(八年の新ホフマン係数は六・五八八六)。
 よって、逸失利益は、次の計算式により、金一一三九万九七二七円となる(円未満切捨て。以下同様。)。
 計算式 2,883,700×(1-0.4)×6.5886=11,339,727
(三)慰謝料
前記認定の本件事故の態様、被告の過失の内谷、亡敏子に生じた死亡の結果、亡敏子の年齢、職業、生活状況、その他本件に現れた一切の自情を考慮すると、本件自故により生じた亡敏子及び原告らの精神的損害を慰藉するには、金二四〇〇万円をもってするのが相当である。
なお、《証拠略》によると、本件事故後、被告の加入する訴外東京海上火災保険株式会社の担当者は、本件事故に対する亡敏子の過失の割合が三〇パーセントである旨を同原告に告げたことが認められる。
 そして、過失相殺に関する前記判示に照らすと、右過失割合の提示は、相当な権利主張の範囲を著しく逸脱したものといわざるをえない。また、本件事故に対する亡敏子の過失の割合が四〇パーセントである旨の本訴訟における被告の主張も、逸脱の程度はさらに大きく、同様の評価免れない。
《証拠略》によると、原告らは、亡敏子の過失割合についての右提示に納得することができなかったことが認められるので、このことも慰謝料算定の一事由として考慮した。
(四)小計
(一)ないし(三)の合計は金三六五九万九七二七円である。
2弁護士費用
 原告らが本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告が負担すべき弁護士費用を金三〇〇万円とするのが相当である。
3相続
 争いのない事実記載のとおり、敏子の死亡により、原告らが、各二分の一の割合でこれを相続した。
 したがって、原告らの請求しうる金額は、1及び2の合計金三九五九万九七二七円の二分の一にあたる各金一九七九万九八六三円である。
第四 結論
 よって、原告らの請求は、主文第一項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し(付帯請求は原告らの主張による。)、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 永吉孝夫)

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