東京地方裁判所判決 平成15年8月28日

症状固定時23歳の女性が左不全麻痺、左知覚麻痺、知能低下、嗅覚低下等(併合1級)の後遺障害を負った事案において、近親者、職業付添人の付添費用として合計1億3200万円余を認めた。

       主   文

 一 被告らは、連帯して、原告甲野春子に対し一億九二四八万三七一二円、原告甲野太郎に対し四四〇万円、原告甲野花子に対し四四〇万円及びこれらに対する平成九年八月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 二 原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
 三 訴訟費用は、原告甲野春子と被告らとの間においては、これを二分し、その一を同原告の、その余を被告らの負担とし、原告甲野太郎及び同甲野花子と被告らとの間においては、これを五分し、その一を同原告らの、その余を被告らの負担とする。
 四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

       事実及び理由

第一 請求
 被告らは、連帯して、原告甲野春子に対し四億〇八二四万二六一六円、原告甲野太郎に対し五五〇万円、原告甲野花子に対し五五〇万円及びこれらに対する平成九年八月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、後記の交通事故(以下「本件事故」という。)について、原告らが被告らに対し、民法七〇九条及び民法七一五条一項に基づき損害賠償を請求している事案である(なお、原告甲野春子の請求は、将来の治療費、交通費、通院費、入院雑費、装具費等について請求権を留保した一部請求である。)。本件の主要な争点は、原告らの損害額、特に原告甲野春子の将来の介護費の額である。
 一 前提となる事実等
 (1) 当事者
 ア 原告甲野春子(昭和五〇年《月日略》生。以下「原告春子」という。)は、原告甲野太郎(昭和一四年《月日略》生。以下「原告太郎」という。)及び原告甲野花子(昭和一六年《月日略》生。以下「原告花子」といい、原告太郎及び同花子両名を併せて「原告両親」という。)の唯一の子である。
 イ 本件事故当時、被告乙山松夫(以下「被告乙山」という。)は被告丁原運輸有限会社(以下「被告丁原運輸」という。)の、被告丙川竹夫(以下「被告丙川」という。)は被告戊田タクシー株式会社(以下「被告戊田タクシー」という。)の、それぞれ従業員として、車両運転業務に従事していた。
 (2) 本件事故の発生
 ア 日時 平成九年八月一二日午前一時三三分ころ
 イ 場所 東京都豊島区《番地略》(以下「本件事故現場」という。)
 ウ 加害車甲 事業用普通貨物自動車(《登録番号略》)(以下「乙山車」という。)
   同運転者 被告乙山
 エ 加害車乙 事業用普通乗用自動車(《登録番号略》)(以下「丙川車」という。)
   同運転者 被告丙川
 オ 被害者  原告春子
 (3) 本件事故の態様
 原告春子が、丙川車(タクシー)の乗客として乗車中、丙川車と乙山車(トラック)が本件事故現場において衝突し、その際、乙山車の後部荷台が原告春子の頭部及び顔面に衝突した。
 (4) 責任原因
 被告乙山及び同丙川は、過失によって本件事故を発生させたので、民法七〇九条に基づき、また、被告丁原運輸は同乙山の使用者として、同戊田タクシーは同丙川の使用者として、それぞれ、民法七一五条一項に基づき、原告らに対して損害賠償責任を負う。
 (5) 本件事故による原告春子の受傷及び治療経過
 原告春子は、本件事故により、開放性脳損傷、脳挫傷、右眼球破裂、外傷性てんかんの各傷害を負い、次のとおり入通院治療を受けた(入院日数通算五〇一日)。
 ア 日本大学医学部附属板橋病院(以下「日大板橋病院」という。)
 平成九年八月一二日から同年一二月一六日までの一二七日間入院
 イ 医療法人社団永生会永生病院(以下「永生病院」という。)
 平成九年一二月一六日から平成一〇年八月一八日までの二四六日間入院
 ウ 関東労災病院
 平成一〇年八月一八日から同年一二月二五日までの一三〇日間入院
 エ 日大板橋病院
 平成一一年一月一八日から現在に至るまで通院
 (6) 原告春子の後遺障害
 原告春子は、平成一一年二月一二日に症状固定し、日大板橋病院において、右大脳半球の広範な脳萎縮及び脳室拡大、左前頭葉の脳挫傷、動眼神経麻痺に起因する右眼瞼下垂、右眼失明(右眼球摘出)及び眼瞼陥没、脳挫傷(前頭葉下面)に起因する臭覚低下、左不全麻痺、左知覚鈍麻、精神年齢(MA)八歳二か月(生活年齢〔CA〕二三歳)、知能指数三五との後遺障害の診断を受けた。
 そして、自動車保険料率算定会(現・損害保険料率算出機構)により、自賠法施行令二条別表(平成一三年政令第四一九号による改正前のもの)の後遺障害別等級表(以下、単に「後遺障害等級」という。)一級三号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの)、八級一号(一眼が失明し、又は一眼の視力が〇・〇二以下になったもの)に該当するとして、併合一級の認定を受けた。
 (7) 損害の填補 七九四一万二三八七円
 ア 自賠責保険から
           六〇〇〇万〇〇〇〇円
 イ 被告戊田タクシーから
           一九四一万二三八七円
  (ア) 治療費   二三四万九〇二六円
  (イ) 装具費    一五万二二八五円
  (ウ) 通院交通費  一二万三九二〇円
  (エ) 休業損害・逸失利益の一部
           一六七八万七一五六円
 二 争点(原告らの損害額)
 (原告らの主張)
 (1) 治療費    二三七万〇〇二六円
 (2) 通院交通費及び自動車購入費等
            六三一万一一四一円
 ア 通院交通費    三〇五万八一四一円
 原告春子は、本件事故により、平成一四年二月末日までの通院交通費として三〇五万八一四一円の支出を余儀なくされた。
 イ 自動車購入費等
            三二五万三〇〇〇円
 原告春子の通院のために、原告太郎が自動車運転免許を取得し、自動車を購入することが必要となり、免許取得費用として三〇万五〇〇〇円、自動車の購入費用として二九四万八〇〇〇円の支出を余儀なくされた。
 原告春子の後遺障害の程度からすれば、原告春子が公共交通機関を利用して通院することは不可能であるところ、タクシーを利用するよりも自家用車を購入した方が将来の通院交通費を節減することができることは明らかであるから、前記費用も本件事故と相当因果関係のある原告春子の損害というべきである。
 (3) 装具費     一五万二二八五円
 (4) 入院雑費等  二〇六万九三六二円
 被告らは、入院雑費の算出根拠が明らかではなく、一日当たり一三〇〇円を上回ることはないと主張するが、原告花子のメモ(甲一〇)は、本件事故により発生した損害を忠実に記帳していったものであり、また原告らの主張する額は、純粋な入院雑費に限られるものではないから、これらの損害額は本件事故と相当因果関係を有するものである。
 (5) 休業損害   六三五万六六〇六円
 ア 給与分の休業損害
            四八四万三八五〇円
 本件事故が発生するまで、原告春子は甲田エンタープライズ株式会社(以下「甲田エンタープライズ」という。)に勤務していたところ、本件事故発生直前の三か月間に原告春子が得ていた収入は七九万二六二〇円であり、これを一日当たりの単価にすると八八〇七円となる。これに本件事故日から症状固定日までの日数五五〇日を乗ずると、次のとおり、四八四万三八五〇円となる。
 79万2620円÷90日=8807円(円未満四捨五入)
 8807円×550日=484万3850円
 イ 賞与分の休業損害
            一五一万二七五六円
 甲田エンタープライズの賞与支給基準によれば、基本給(一六万四四三〇円)の三・二か月分(年末)、同二・八か月分(夏期)の賞与が得られることになっていた。そうすると、本件事故日から症状固定日までの間、年末賞与二回分、夏期賞与一回分が得べかりし賞与額となるから、その合計額は、次のとおり、一五一万二七五六円となる。
 16万4430円×(3.2×2+2.8×1)=151万2756円
 (6) 過去の介護費 六五九万九七〇〇円
 ア 入院期間中の介護費
            五八八万六七五〇円
 原告両親は、原告春子の入院期間中、一日も欠かさずに病院に赴き、病院と自宅との往復時間も含めると、原告春子の介護のために一日当たり平均一〇時間以上を要した。その費用は、日本臨床看護家政婦協会の資料に基づき、通勤手当及び二時間の時間外手当を含めて計算すると一日当たり一万一七五〇円を下らないから、これに入院日数の五〇一日を乗ずると、次のとおり、合計額は五八八万六七五〇円となる。
 1万1750円×501日=588万6750円
 なお、原告両親が入院期間中も原告春子の介護を行ったのは、次のような事情があったためである。
  (ア) 原告春子は食物を咀嚼したり嚥下したりする力がなく、点滴や経管食によって栄養を摂取していた。しかし、そのままではリハビリテーションも退院もできないため、自力で咀嚼・嚥下する練習を行う必要があった。しかし、病院においては看護婦が食べさせてくれるわけではなく、原告春子の食べる意欲を喚起するため、原告春子の好む食物を原告春子の好む味付けで用意する必要があり、原告花子は、医師の指示により、ほぼ毎日のように食事を作って病院に持参し、原告太郎と共に原告春子に付きっきりで食事を取らせていた。その時間は一食当たり早くても三〇分、通常は一時間ないし二時間程度、遅いときには三時間を超えることもあった。
  (イ) 服薬についても、看護婦は病院の処方した薬を服用までさせてくれるわけではない。原告春子は、自ら進んで薬を服用することはなく、服用した素振りをして薬を隠したり捨てたりすることもしばしばあった。しかし、原告春子の服用する薬の中でも、例えば、脳の薬は、一日でも服用を欠かすと痙攣を起こし危険な状態になるため、必ず服用させる必要があった(実際、原告春子が服用しなかったために痙攣を起こしたこともあった。)。そこで、原告両親が付きっきりで服薬のための介護を行ったものである。その時間は、一回の服薬に何十分も掛かった。
  (ウ) オムツの交換や衣類等の洗濯も原告両親が行っていた。これは、原告春子に重い下痢の症状が続いたり、胃への管から経管食が漏れ出したりすることによって衣類が汚れることが多かったためである。
  (エ) リハビリテーションについても、例えば関東労災病院では病室からリハビリテーションの場所までの送迎は原告両親が行わざるを得なかった。また、リハビリテーションの仕方の指導はあったものの、実際にリハビリテーションを反復するには原告両親の介護が必要不可欠であった。
 以上のように、原告両親が二人がかりで付きっきりで介護に当たっていたこと、介護に要した時間は一日当たり約一三時間にも及んでいたこと等の事情に照らせば、原告らが主張する金額はむしろ低きに失するといってもよいほどである。
 被告らは、原告春子の入院期間中に近親者による介護の必要性はなかったと主張するが、前記の事情に照らせば、被告らの主張は失当である。
 イ 通院期間中の介護費
             七一万二九五〇円
 原告両親は、退院後も原告春子の介護を行った。その費用は、日本臨床看護家政婦協会の資料に基づき、住み込みを前提として四時間の時間外手当を含めて計算すると一日当たり一万四五五〇円を下らないから、退院後、原告春子の症状固定日である平成一一年二月一二日までの日数四九日を乗ずると、次のとおり、合計額は七一万二九五〇円となる。
 1万4550円×49日=71万2950円
 (7) 将来の介護費
         三億〇八〇四万二四九六円
 原告春子には後遺障害等級一級の後遺障害が残存し、食事・入浴・排便等の日常生活を介護無しに営むことは全く不可能である。従来は、原告両親が原告春子の介護を行ってきたが、原告両親は既に高齢であり、原告太郎は、切断事故による右手指の欠損という障害を抱えている上に、平成一二年ころには脳梗塞で倒れ約一か月間入院し、原告花子も、骨粗鬆症を患い通院・服薬が欠かせない状況であることからすれば、原告両親が今後も原告春子の介護に当たることは不可能である。したがって、将来の介護費については、職業付添人による介護を前提とすべきである。
 原告春子は、平成一二年七月一〇日から同年八月九日までの一か月間、株式会社コムスン(以下「コムスン」という。)に居宅介護を委託し、同社に対し介護費として一三五万二四七三円を支払った。将来の介護費の算定に当たっては、この額が基準とされるべきである。
 そうすると、将来の介護費は、前記月額に原告春子(症状固定時二三歳)の平均余命である八四歳までの六一年間のライプニッツ係数を乗じた額となり、その額は、次のとおり、三億〇八〇四万二四九六円である。
 135万2473円×12か月×18.9802(61年のライプニッツ係数)=3億0804万2496円(円未満四捨五入)
 なお、被告らは、原告春子は各種手当を受給可能であると主張するが、原告春子が受給可能であり、かつ、実際に受給しているのは心身障害者福祉手当(月額一万五五〇〇円)のみである。これは、被告らが主張する特別障害者手当と重度心身障害者手当は、いずれも重度の知的障害と身体障害が併存する重複障害者を対象とするところ、ここにいう知的障害とは、ほぼ一八歳までの発達期に起きた障害を指すとされ、原告春子の障害はこれには含まれないからである。したがって、被告らの前記主張は失当である。
 (8) 逸失利益  七四二〇万三三八七円
 原告春子は、一般職ではなく総合職の正社員として甲田エンタープライズに採用されており、原告春子も甲田エンタープライズも、原告春子が仕事を継続することを当然の前提としていた。したがって、逸失利益の算定に当たっては、本件事故前の年収である四二〇万一一三五円を基礎収入とすべきである。原告春子は、本件事故に遭わなければ、二三歳から六七歳までの四四年間就労することができたのであるから、原告春子の逸失利益は、次のとおり、七四二〇万三三八七円となる。
 8807円×365日=321万4555円(給与分)
 16万4430円×(3.2+2.8)=98万6580円(賞与分)
 321万4555円+98万6580円=420万1135円
 420万1135円×17.6627(44年のライプニッツ係数)=7420万3387円(円未満四捨五入)
 (9) 原告春子の慰謝料
           四四八〇万〇〇〇〇円
 ア 入通院慰謝料   四八〇万〇〇〇〇円
 原告春子は、本件事故により、症状固定日までの日数によっても、入院日数五〇一日、通院実日数四九日の入通院を余儀なくされた。また、原告春子が負った傷害の程度は、一命を取り留めたことが奇跡的といえるほど重篤なものであり、生死が危ぶまれる状態が長く続いたことも慰謝料算定の要素として重視すべきである。これに、開放性脳損傷に関する手術(計三回)、眼球摘出手術、胃瘻造設手術、人工頭骨による整形手術といった大きな手術がそれぞれ実施されたことを併せ考慮すれば、慰謝料は四八〇万円を下らない。
 イ 後遺障害慰謝料
           四〇〇〇万〇〇〇〇円
 原告春子の負った後遺障害の程度や、本件事故当時の原告春子の年齢等にかんがみると、後遺障害慰謝料は四〇〇〇万円が相当である。
 (10) 原告春子についての小計
         四億五〇九〇万五〇〇三円
 (11) 原告春子についての損害填補後の残額
         三億七一四九万二六一六円
 (12) 原告両親固有の慰謝料
           各五〇〇万〇〇〇〇円
 本件事故については、原告春子の慰謝料とは別に、原告両親が被った精神的苦痛に対する固有の慰謝料が認められるべきである。その額は各五〇〇万円を下るものではない。
 (13) 弁護士費用
 ア 原告春子について
           三六七五万〇〇〇〇円
 イ 原告両親について
            各五〇万〇〇〇〇円
 (14) 合計
 ア 原告春子について
         四億〇八二四万二六一六円
 イ 原告両親について
           各五五〇万〇〇〇〇円
 (被告らの認否・反論)
 (1) 治療費は、認める。
 (2) 通院交通費は、不知。
 (3) 装具費は、認める。
 (4) 入院雑費等は、一日当たり一三〇〇円が相当である。
 (5) 休業損害は、給与分については、社会保険料、所得税を控除した後の金額を基礎として算定すべきである。賞与分については不知。
 (6) 過去の介護費については、原告両親が入院期間中の全ての期間原告春子に付き添っていたことは不知。また、入院期間中の介護費については、次のとおり、近親者介護の必要性・相当性は認められない。
 ア 日大板橋病院について
 同病院は完全介護体制の整った病院である。また、同病院の診断書には付添介護を要した旨及びその期間についての記載が見られない。
 イ 永生病院及び関東労災病院について
 各病院への入院目的は、リハビリテーションである。また、前記アと同様に、各病院の診断書には付添介護を要した旨及びその期間についての記載が見られない。
 なお、仮に、過去の介護費の必要性・相当性が認められるとしても、近親者の入院介護費は一日当たり六〇〇〇円が、同通院付添費は一日当たり三〇〇〇円が相当である。
 (7) 将来の介護費について
 ア 将来の介護費については、原告春子の症状固定時において原告花子は五七歳であり、原告花子が就労可能期間の終期である六七歳に至るまでは同原告による介護が可能であるから、介護費は近親者による付添費として日額四五〇〇円が相当である。
 すなわち、原告らが提出する意見書によれば、平成一四年九月二一日現在の原告春子の自立度の評価は、(ア) 清拭と階段移動のみ全介助を要し、(イ) 整容、更衣、トイレ動作、浴槽・シャワーでの移乗、屋外の車椅子移動、記憶が重度介助、(ウ) 排尿・排便管理、ベッド・椅子等の移乗、コミュニケーションの表出、問題解決が中等度介助、(エ) トイレ移乗、室内歩行、コミュニケーションの理解、社会的交流が最小介助とされている。(オ) なお、食事は監視・準備で足りるとされている。前記評価はいずれも平成一〇年に入院先である関東労災病院において行われたものより低下しており、仮にこのとおりであるとすれば、原告両親の過剰な介護が原告春子の自発性・自立性の育成を妨げ、低下させる一因となっている可能性がある。
 原告両親は、現在、朝の起床、着替え、トイレ、食事、送迎、入浴、就寝について原告春子の介護を行っているが、前記意見書によっても、実際に手助けの介護が必要なのは、更衣、トイレ内動作、入浴、屋外における車椅子移動についてである。そうすると、原告春子に対しては、基本的には家族が声掛けをし、実際に手助けが必要なものについてのみ随時介護をすれば足りるというべきである。
 なお、原告太郎は右手指の欠損等の障害があるにしても、原告花子には格別介護が不可能と思われる事情は見当たらない。
 イ 仮に、すぐに職業付添人の介護が必要であるとしても、原告花子は六七歳に至るまで一定程度の介護が可能であるから、職業付添人の常時介護が必要であるとはいえない。そして、その後は職業付添人による介護が必要であるとしても、原告らの主張する月額一三五万二四七三円を要するとは到底考えられない。このことは、この額が、従来の裁判例において後遺障害等級一級の者についての介護費として認められてきた額の倍以上であることからも明らかである。近時の裁判例においても、例えば、名古屋地裁平成一四年八月一九日判決・自動車保険ジャーナル一四七一号九頁は、介護の内容としては原告ら主張のものよりも困難なものであることを認定しつつ、日額一万三〇〇〇円の介護費を相当としている。本件においても、日額一万二〇〇〇円ないし一万三〇〇〇円程度が相当であるというべきである。
 原告らは、平成一二年に介護保険制度が導入された後、介護費の額が大幅に上がったと主張するが、介護保険制度は、いまだ暗中模索の制度であって、平成一七年には見直しないし検討が予定されている。現在においても様々な問題点が指摘されており、現在の状態が続く可能性は極めて低い。現在は、介護についての人的・物的体制が貧弱な状況にあり、需要と供給に不均衡が生じているが、今後介護サービスを担う人材・企業は増加することが予想される。そうすると、近い将来原告らの主張するような高額ではなく、安価で良質な介護サービスを提供する業者が参入することは、間違いないであろう。そうであれば、適正価格に落ち着いたとはいい難い介護サービス業界の現状を前提として、五九年間という長い将来にわたる介護費を判断することは不適当であるというべきである。
 また、介護サービス業界の実態は、介護保険制度の導入から間がないためやや混乱しているように見受けられ、必ずしも定かではないが、現段階では、介護保険の適用による介護と同保険の適用対象外の介護とに大きく二分され、同保険の適用対象外の介護については、ケアワーカーの紹介事業として、介護保険制度の導入以前とほぼ同様の料金体系によるケアワーカーの派遣が行われているものと考えられる。その場合には、一日八時間の介護で月額約三〇万円、一日一二時間の介護で月額四五万円ないし五〇万円程度とされている。ケアワーカーの派遣による介護費が原告ら主張の金額と大きな隔たりがあることにかんがみれば、公平の観点からも、ケアワーカーの派遣による介護費を前提として考えるべきである。
 加えて、現段階においても、公的制度やボランティアなどの安価な介護サービスが提供されており、これらを利用することは十分に可能である。
 ウ そもそも、原告春子は公的扶助による介護が受けられるはずであり、六五歳に達すれば介護保険制度を利用でき、要介護度に応じてサービス利用額の支給を受けることができる。将来分の介護費については、これらを控除して算定すべきである。
 なお、原告春子の障害の程度からすれば、心身障害者福祉手当、特別障害者手当、重度心身障害者手当を重複して受給でき、一月当たり一〇万二三六〇円が得られるはずであるから、この額も控除されるべきである。
 仮に、これらの控除が相当でないとしても、公的な面からの各種支援の存在は、将来の介護費を算定する際の一事情として斟酌されるべきである。
 (8) 逸失利益については、原告春子は、平成八年四月から甲田エンタープライズの経営する甲田パーラー三号店というパチンコ店に店員として勤務していたが、将来にわたり店員として稼働するとは考えられないから、高卒女子労働者の平均賃金を基礎収入として算定されるべきである。
 (9) 入通院慰謝料の額は争う。後遣障害慰謝料の額は、原告春子が後遺障害等級一級の認定を受けていることを考慮すれば、二六〇〇万円程度が相当である。
 (10) 原告両親固有の慰謝料は争う。
 (11) 弁護士費用は争う。本件における争点の中心は介護費の額であり、争点の難易性、事件処理に要する時間等を考慮すると、弁護士費用は認容額の数%にとどまるものというべきである。
第三 争点に対する判断
 一 原告春子の後遺障害の程度及び介護の必要性について
 各損害額を検討する前提問題として、原告春子の後遺障害の程度及び介護の必要性について検討する。
 (1) 各病院における診断状況等
  ア 平成 九年一一月一八日ころ
  イ 平成 九年一二月一六日ころ
  ウ 平成一〇年 四月一七日ころ
  エ 平成一〇年 八月一八日ころ
  オ 平成一〇年一〇月 七日ころ
  カ 平成一〇年一二月一七日ころ
  キ 平成一一年 一月 八日ころ
  ク 平成一一年 五月二六日ころ
  ケ 平成一一年 六月二四日ころ
  コ 平成一三年 四月 五日ころ
 (2) コムスンによる介護時の状況
 (3) 現在の状況
 (4) (1)ないし(3)の評価
 (5) 被告らの主張について
 (6) 原告らの主張について
 (7) まとめ
 (1) 各病院における診断状況等
 《証拠略》によれば、原告春子が入通院した各病院における同原告の症状、診断、看護状況等は、概ね次のとおりであることが認められる(主な証拠は括弧内に掲記する。)。〈編注・本誌では証拠の表示は一部を除き省略ないし割愛します〉
 ア 平成九年一一月一八日ころ(日大板橋病院に入院中、リハビリテーションを開始した時期)
  (ア) 左上肢の自発動作はほとんど見られず、麻痺の程度としては、非麻痺側を一〇とすると、二ないし三の重度の感覚鈍麻と評価される。
  (イ) コミュニケーションは可能だが、時々作話がある。
  (ウ) 左半側空間無視は、机上のテストでは認められないものの、顔は右向きであることが多く、書字等について右側寄りで書くことがある。
  (エ) M-MSEの結果は、三〇点中一六点であり、日付の見当識障害があることに加え、計算、語想起等は困難である。
  (オ) コース立方体組み合わせテストの得点は二三点(知能指数六〇、精神年齢九歳八か月程度)であり、知的低下が見られる。
  (カ) ADL(日常生活動作)は、食事のみ右手を使用することによって可能であるが、ほかは全て介助を要する。
  (キ) 一つ一つの動作や返答に少し時間が掛かる状態であり、声掛けを止めると閉眼してしまう。
 イ 平成九年一二月一六日ころ(日大板橋病院から永生病院に転院した時期)
  (ア) 左上肢の自発動作はわずかに出現してきているが、自ら積極的に動かす様子はない。日付の見当識障害や作話等は、なお残存している。
  (イ) コミュニケーションについてもADLについても、変化はない。
  (ウ) 訓練期間も短く、ほとんど変化は見られなかったものの、坐位バランスにおいて、麻痺側への体重負荷が可能となり、麻痺側への関心が出てきている状態である。
 ウ 平成一〇年四月一七日ころ(永生病院入院中の時期)
 車椅子を自力で駆動することができるレベルで、更衣・移乗は軽介助を必要とする。食事は自立している。永生病院入院時当初は経口食と経管食を併用していたが、経口的に摂取することができる食事量が増え、胃瘻からの経管流動食投与は中止することができる余地が出てきている。
 エ 平成一〇年八月一八日ころ(永生病院から関東労災病院に転院した時期)
  (ア) 平成一〇年八月一八日付け理学療法報告書(乙一九、一二三・一二四頁)
 麻痺側上下肢の随意性が向上し、歩行時(四点杖使用、介助にて)にも麻痺側下肢の振り出しが見られるようになった。その他身体機能面については、大きな変化は見られない。精神面についてはやや安定したが、現在でも時々リハビリテーション拒否が見られ、今後も状態を受容することができずに精神的に不安定なときがあると思われる。
 原告両親は、現時点における在宅介護には不安感があり、もう少しリハビリテーションを続けて身体機能面の向上、心理・精神面の安定を図りたいとして、関東労災病院への転院を希望した。
  (イ) 平成一〇年八月一八日付け診療情報提供書(乙二〇、五六頁)
 経口摂取量が増えたため、平成一〇年六月二〇日、胃瘻チューブを抜去した。食事量は、少ないときで通常の二分の一、普段は三分の二ないし全量を摂取している。
  (ウ) 関東労災病院の看護サマリー(乙二〇、一七一・一七二頁)
  a 入院中の経過
 意識レベルが改善したことに加え、自己の身体状況、周囲の環境の把握ができている。しかし、それらを受容することができずにいる状態で、こちらからの働き掛けに対し、否定的な態度が強い。また、リハビリテーションについては徐々に積極的に行うようになり、現在は、ADLはほぼ自立しているが、安全面で問題があり、自立レベルには至っていない。
  b 看護上の問題点
  (a) 障害を受容することができず、言動や行動に投げやりなところがあるので、入院中に、障害を受容することができるよう精神的援助を行う。
  (b) 日常の生活習慣を行わないなど自発性に欠けるので、日常の生活習慣が円滑に行えるよう援助する。
  (c) 排泄については、介護者は原告春子が声を掛けやすいよう配慮する。トイレ誘導するまで我慢することがある。また、排泄後、手洗いを行うか確認する。
  (d) 移行時、安全確認を行わなかったり、無理な体勢から行おうとするなど転倒の危険性が高いので、転倒しないよう見守る。
  c ADLその他について
  (a) 食事については、常食を箸を使用して摂取する。多くの人がいる中で摂取すると、摂取量が増加することがある。
  (b) 排泄については、車椅子用のトイレを使用し、ズボン・トレーニングパンツの上げ下げを含み、ほぼ自立レベルにある。夜間はオムツを使用する。
  (c) 睡眠は良好である。
  (d) 清潔については、平成一〇年七月二日から独歩浴を開始した。浴室の移動はシャワーチェアを使用する。浴槽内は麻痺側の軽介助のみを必要とする。
  (e) 移動については、車椅子を駆動することは可能であるが、右側にぶつかることがある。歩行は、リハビリテーション室でOT(作業療法士)の監視の下に、四点杖にて五mないし六mの移動が可能である。
  (f) 更衣については、上衣は、着脱とも座位で可能であるが、促しを要する。下衣は、ズボンを通すことが座位で可能であるが、促しを要する。
  (g) コミュニケーションについては、「死んでもよい」、「人間じゃない」などの発語がある。心理面において同年代のいる所がよいと思われる。
  (エ) 関東労災病院の看護日誌(乙二〇、一二八頁)
 同病院入院までのADLは、次のとおりである。
  a 歯磨き・洗面は、自力で可能である。食事は、箸・スプーンを使用することによって可能である。
  b 着脱は、上半身及び靴は自力で、下半身は半介助で可能である。なお、靴下については介助を要する。
  c 歩行は車椅子で可能である。排尿は自立している(昼はトイレ、夜はオムツ使用)。排便はトイレにて行うことが可能である。髪をとかすことは自力で可能であるが、爪を切ることには介助を要する。体位交換は自立している。
  (オ) 平成一〇年八月一九日付け身体障害者診断書・意見書(乙二〇、四七ないし四九頁)
  a 総合所見
 左上肢は、肩周囲のわずかな筋収縮のみであり、機能として肩肘手機能全廃である。左下肢は、股周囲の共同運動をわずかに認めるのみであり、機能として全廃である。
  b 神経学的所見
 感覚障害 左半身全体について感覚鈍麻
 運動障害 左半身全体について痙性麻痺
 起因部位 脳
 排尿・排便機能障害 無し
 形態異常 無し
  c ADL
  (a) 自立している動作
 椅子に腰掛ける、洋式便器に座る、コップで水を飲む
  (b) 半介助を要する動作
 寝返り、足を投げ出して座る、排泄の後始末をする、シャツ・ズボンの着脱、ブラシで歯を磨く、公共の乗り物を利用する
  (c) 全介助を要する又は不能な動作
 顔を洗いタオルで拭く、タオルを絞る、背中を洗う、二階まで階段を上って下りる
  (d) 補助具を要する動作
 手すり・壁・杖を使用して立つ、車椅子を使用して家の中・屋外を移動する、スプーンを使用して食事をする
  (カ) 永生病院リハビリテーションセンター作成の平成一〇年八月一七日付けリハビリテーション報告書(乙二〇、一〇一頁)
  a 開始時の状況
 麻痺・感覚共に重度に障害されているが、基本動作・ADLでの介助量は軽度である。自発性の低下、消極的な言動といった精神面での影響が強く、身体機能よりも精神面の問題が重大であった。
  b 経過
 自発性の向上、精神面のフォローを第一に考えOT(作業療法)を開始した。一連の作業、活動を通しての成功体験をと考えて対応した。まず、本人が興味を示したactivityや調理を取り入れながら、徐々にトランスファー、ADL(特にトイレ動作)での介助量軽減、安全性の向上へと目標を変更しながら、リハビリテーションを行った。基本動作、ADLにおいて自力で可能な動作の獲得、介助量の軽減は見られてきたが、周囲からの声掛け、何らかの介助は必要な状態である。同時期には、精神面の改善に加え、自己の身体状況、周囲の環境を把握することができるようになっていた。しかし、それらの状況を受容することができず、リハビリテーションの必要性を理解していても、拒否が強く、身体機能、ADLに対してのアプローチができない時期もあった。現在では、身体機能、ADL、精神面での改善が見られているが、やはり障害の受容という点で本人の葛藤があり、リハビリテーションには来るが拒否的であったりという状況である。
  c リハビリテーション実施前後のADL等の変化
  (a) 上肢、手指については、著変はなかった。
  (b) ベッド上動作は要介助、トランスファーは軽介助であったものが、いずれも自立レベルとなった。車椅子のブレーキの確認、フットレストの確認などの安全確認も可能となった。
  (c) 食事は、当初から箸の使用によって自己摂取していたが、それだけでは摂取量が不足していたために経管栄養(胃瘻)も併用していたものが、食事量の増大により胃瘻部を閉鎖し、常食で自力摂取が可能となった。
  (d) 更衣は、促しがあれば上衣については自力で可能であったものが、上衣・下衣とも端坐位での着脱が可能となった。ただし、時間が掛かる、声掛けを要するなどの問題があり、自力で行うことはほとんどない。リハビリテーション用の靴の脱ぎ履きも、自立レベルに至った。
  (e) 排泄は、オムツを使用していたものが、身障者用トイレにより自力で行うことが可能となった。トランスファー、下衣の上げ下げ、後始末は全て可能だが、下衣の上げ下げのための準備(ズボンの裾を両膝までまくる)、トイレットペーパーを切るといった動作に時間が掛かり、一〇分ないし二〇分を要する。
  (f) 入浴は、当初の機械浴が一般浴となった。洗体は声掛けによって可能であるが、時間の都合により介助を行った。また、シャワーチェアを使用し洗い場を移動することができるようになり、手すりの利用により浴槽内への出入りは軽介助を要するレベルとなった。
  (g) 移動は、実施前から車椅子によって可能であったが、車椅子の駆動についても自立に至った。端坐位で車椅子の操作(ベッドの端に寄せる、移乗するときに自分の方に近づけるなど)も可能となった。車椅子駆動以外の移動手段としては、四点杖を使用し、右下肢のみでの移動が軽介助によって可能である(一〇m程度)。また、現在は麻痺側下肢の振り出しが見られてきているため(体幹、骨盤での代償運動あり、麻痺側の膝折れあり)、歩行訓練も加えている。
  (h) 高次脳機能障害については、実施前後において著変はなく、失見当識、記憶力低下が見られる。その他の高次脳機能障害は生活動作の中で見られていない。IQ八〇程度(日本版レーヴン色彩マトリックス検査にて)。
  (i) 精神機能は、当初は、自発性に乏しく、内向的で消極的な発言が多かったものが、自発性に関しては改善が見られており、自己欲求を満たすための動作に関しては自ら行動を起こす。現状が見えてくるにつれ、障害とその状況に対して否認する言動が多い反面、良くなりたい、でも体が思うように動かないといったような訴えもあり、本人の葛藤が窺える。
 オ 平成一〇年一〇月七日ころ(関東労災病院入院中の時期)
  (ア) 平成一〇年一〇月七日付け看護報告書(乙二〇、一三〇頁)
  a ADL
  (a) 移動動作(基本動作)については、平坦・スロープのいずれについても自立、移乗についても自立している。
  (b) 食事動作は箸にて自立している。
  (c) 排尿は、トイレで自立、排便は、時々間に合わず失禁するが自立している。
  (d) 更衣動作、洗面(整容)動作は、いずれも自立している。入浴動作は、家人の介助が必要である。
  b コミュニケーション等
 会話は問題ないが、時間の指示を守れない。排泄時に必ず看護婦の介助を要請する。自分流の時間帯生活をしている。
  c 看護上の問題点
 拒薬傾向があること、マイペースで依存心が強いこと、自発的に訓練に行かないこと、一つの行動を実行するまで時間が掛かり、病棟の流れについて行けないこと、が挙げられる。
  (イ) 関東労災病院診療録の平成一〇年一〇月七日欄の記載(乙二〇、六三・六四頁)
  a 言語は、日常会話について問題がない。依頼心・依存心が強い。時間が守れない。精神面では中等度ないし軽度の障害があり、常に声掛けや強制的な介助が必要である。感情と思考の連絡が悪い。
  b 運動能力はほぼ自立であり、SHB(シューホンブレイス)及び四脚杖で歩行するのに監視が必要である。高次脳機能は余り問題がない。
  (ウ) 一九九八年(平成一〇年)一〇月六日付け報告書(乙二〇、九四頁)
  a WAIS-R(成人知能検査)の結果は、言語性IQ六二、動作性IQ約四五であった。
  b Raven色彩マトリックステストの結果は、三六点中三一点で境界と診断される。
  c Benton視覚記銘検査の結果は、正確数四、誤謬数九で、中等度ないし軽度の障害と診断される。
  d 知的機能は、項目によりばらつきはあるが、全体としては中等度ないし軽度の障害である。知的レベルとしては、まだ若いこともあり、保護・監督のもとで単純作業に就労することも可能なレベルである。しかし、時々精神活動が停止する程の極端な自発性の低下、耐久性低下、注意散漫、感情の平板化と不連続、退行した依存的態度など、性格変化が顕著なため、常に声掛けや介助(しばしば強制的な)が必要な状態である。
  e 死んでもいい、何やってもだめだ、等の厭世的言動が頻繁にあるが、感情を伴わず実感に乏しく、また、これは誰ですかと自分のことを尋ねたり自分の年齢が分からないなど、自己そのものの認知も障害されているように見受けられる。
  f 声のトーンが高いときは、概ね言葉や態度が上すべりしてしまい、指示が入りにくく、生産的な関係を結びにくいようである。なるべく低い声の状態をとらえて指導・訓練することが効果的と思われる。おだて等で乗せようとすると、かえって声が高くなり上すべりするようである。
  g 家族関係にも葛藤を抱えているようであるが、現在のところは患者の家庭復帰上の大きな問題とはなっていないと思われる。
  (エ) 平成一〇年一〇月六日付け理学療法報告書(乙二〇、九八頁)
  a 下肢 Br.Stage Ⅲ‐4 Grade 6
  b 筋緊張については、左上腕二頭筋が軽度の亢進、他は低下
  c ROM-Tについては、左足関節の背屈が軽度の制限
  d Sensoryについては、左上下肢の触覚が軽度の鈍麻
  e ベッド上起居動作は自立
  f 立ち上がりは、椅子坐位からは自立、床からは要介助
  g 立位バランスは、activeが良好、passiveが不良、杖使用の場合、外力加えても保持可
  h 歩行はSHBないし四点杖で可能だが、要監視(一〇mを歩行するのに五五秒掛かる。)
  i 階段昇降は、上るときは近接監視、下りるときは軽介助(SHBないし四本杖使用)
  j PT(理学療法士)の目標は、屋内外における監視歩行獲得
  (オ) 平成一〇年一〇月七日付け作業療法報告書(乙二〇、一〇三頁)
  a 身体運動機能面
  (a) 片麻痺機能テスト
 上肢 Br.Stage Ⅱ-1 Grade 1
         (初回時と変化無し)
 手指 Br.Stage Ⅰ Grade 1
       (初回時Grade 0)
 握力 右一九・六kg、左測定不可
  (b) ROM-T
 肩関節屈曲、外転、外旋に中等度の可動域制限が見られる。ただし、初回時に比べると、屈曲の一二〇度が一四〇度に、外旋の一〇度が二五度に改善している。
  (c) 反射
 深部反射は、左上肢正常からやや亢進
 病的反射は、左上肢陽性
  (d) 筋緊張
 左周囲筋低下、左肘関節屈筋群及び左手指屈筋群亢進
  (e) 感覚
  ① 表在
 触覚は左上腕、前腕、手掌手背が鈍麻しているが、手指は正常。痛覚は正常(初回時と大きく異なる結果である。痺れ感との混同も考えられ、信頼性は低い。)、温冷覚は手部に軽度鈍麻、他は正常。
  ② 深部
 位置覚正常、運動覚は肩関節で正常、肘関節以下末梢で低下。
  ③ 指先認知
  全指(四本)とも不可。
  ④ 異常感覚
 肘から手指にかけて静止時痺れあり。
  (f) 坐位バランス
 坐位姿勢は前屈位だが、体幹支持能力十分。健側上下肢使用時も、患側体幹、下肢で支持可能。
  b 精神機能面
  (a) HDS-R
 八月二七日実施のものでは一八点(軽ないし中程度痴呆の疑い)であったものが、九月三〇日実施のものでは二二点(非痴呆~軽度)であった。年齢の誤認、見当識(日・曜日)及び記銘力低下がある。
  (b) コース立方体組み合わせテスト
 八月二八日実施のものでは四九点・IQ七六であったものが、九月三〇日実施のものでは六四点・IQ八三(評価:劣っている)であった。課題提示後の取り掛かりが性急である。課題レベルが上がることによりクリアが不可となる傾向がある。周囲の物音に気を取られ集中持続が困難である状態が、初回時では顕著であったが、二回目には改善した。
  (c) 高次脳機能
 問題点としては、注意の低下(かなひろい、数字抹消)、地誌的認知の低下(地図上の都市名)、自動詞的運動の一部(手指でキツネを作る)が挙げられるが、そのほかに特に問題はなかった。
  (d) コミュニケーション
 理解の面は良好である。指示内容の把握はほとんど可能であるが、複雑な質問は不可であるか時間が必要である。
 表出の面では、他の患者との好意的な交流や訓練に抵抗するときは、受傷後出現している甲高い声を出すが、慣れた相手に対する場面や機嫌が損なわれたときは、元来の声である低めのトーンの声を出す。なお、意図的か短期記憶の障害によるものかは不明であるが、しばしば質問に対し事実と異なる返答をすることがある(例えば、訓練開始時間、未実施セルフケア)。
  c 心理面
 重度左片麻痺に対する悲観やセルフケア未自立への反省をしばしば口にしており、病識はあると思われるが、訓練意欲は不十分である。器質的な問題により発動性は大きく低下、何事にも促しが必要で時間も掛かる。これには過介助である家族との関係や、受傷後一年間老人病院で特殊な生活環境にあった経過より、依存度が高まっていることも影響していると考えられる。訓練及び作業課題に対しては、取り組みに対する落ち着き方がプログラムによってばらつきがあり、自信のなさ、自己評価の低さが目立つ。一方、過干渉を嫌がる傾向も一部に見られる。
  d FIM(機能自立度評価法)
 一二六点中九一点(後記カ(ウ)a参照)。監視及び介助を要する動作としては、清拭、更衣(上・下)、排尿排便コントロール、浴槽、歩行、階段、コミュニケーション、社会的認知がある。
 机上動作については、書字には問題がない。片手動作のパワー・巧緻性がある。
 ADLは、調理については、行程ごとの指導で作業が可能であり、洗濯については、雑巾のすすぎ及び蛇口絞りが可能であり、掃除については、トイレ後に毎回、ベッドサイドについては毎朝、簡単に実施している。几帳面、清潔好きである。
  e 社会面
 問題点としては、重度左片麻痺・右眼球障害、精神機能低下、器質的変化(発動性低下、注意力低下、記憶想起低下、脱抑制)、坐位姿勢不良、ADL・APDL能力低下、作業効率低下、障害認識の歪みによる意欲低下、情緒不安定、依存心の増大、コミュニケーションの不自然さ、復職困難、社会的交流減少の可能性が挙げられる。
 カ 平成一〇年一二月一七日ころ(関東労災病院退院直前の時期)
  (ア) 平成一〇年一二月一七日付け病院施設間理学療法連絡票(乙一九、一二七・一二八頁)
  a 状況
  (a) T字杖とSHBによって屋内歩行は自立レベルにある。階段昇降は杖使用によって監視レベルである。しかしながら、車椅子への依存が強いために、車椅子に乗車していることが多く、歩行を拒否することが多々ある。
  (b) 身体運動機能・能力はかなり改善したが、心理・精神面の障害のため、易興奮、不安、自発性欠如、気分変化の変動が著明である。
  (c) 度々リハビリテーションを拒否することがあるが、拒否しながらも、一つの動作・運動を始めると集中して実行することが可能である。
  (d) 男性への嫌悪感が強く、近づくだけで怒りが出現することがある。
  (e) 女性に接する方が精神的に安定しているが、指示・指導されることを嫌がり、時間・期間経過と共に嫌悪感が増強するようである。
  b 問題点
 心理・精神面の障害が著しく、日常生活は、監視ないし声掛けによる介助が必要な状態である。精神的に安定してくれば、ADL能力は自立レベルにあると思われるので、さらに社会参加が期待される。
  (イ) 平成一〇年一二月二一日付け作業療法リハビリテーション施設間連絡票(乙一九、一二九・一三〇頁)
  a 最終評価
  (a) 身体機能面
 左上肢・手指機能の改善が見られず、右上肢による片手動作が主体となっている。患側の手の自己管理は声掛けが必要である。
  (b) ADL
 セルフケアについては、入浴時の清拭以外は自立レベルであるが、全ての動作に時間を要する。
 排泄コントロールについては、夜間の尿失禁、日中の便失禁が稀にあるが、ほぼ自立している。
 移乗については、ベッド・便座に関しては自立しているが、浴槽は監視レベルである。
 移動については、室内はSHB及び四点杖使用によって自立レベルであるが、T字杖使用の場合には監視レベルである。屋外及び階段については、SHB及び四点杖使用によって監視レベルであるが、長時間の移動は車椅子が必要である。
 コミュニケーションについては、理解、表出面共に監視レベルである。
 社会的交流については、老人、女性に対しては好意的に接するが、特に若い男性に対しては攻撃的な態度が観察される。問題解決能力は監視が必要である。記憶も曖昧である。
  (c) 高次脳機能
 長谷川式スケールにおいて三〇点中二二点(非痴呆ないし軽度痴呆)であり、記憶障害、行動の障害、注意力低下が見られる。コース立方体組み合わせテストにおいては、IQ八三である。簡単な作業活動に対する指示の理解、集中力は向上している。
  b 問題点
 環境調整により在宅生活は可能となったものの、在宅後の機能維持、精神活動の改善、社会参加の機会を得る等、年齢的に若いケースのため、今後さらに、医療、保健、福祉サービスを必要とする。受傷後一年四か月を経過し、在宅に至ったケースであるが、本人及び両親に対しフォローアップが継続的に必要と思われる。
  (ウ) FIM(乙一九、一三一頁)
  a 入院時及び退院時の得点は、次のとおりであった。
            入院時 退院時
 セルフケア
  食事(箸使用)    七   七
  整容         七   七
  清拭         三   四
  更衣(上半身)    五   七
  更衣(下半身)    五   七
  トイレ動作      六   七
 排泄コントロール
  排尿コントロール   四   五
  排便コントロール   五   五
 移乗
  ベッド、椅子、車椅子 六   六
  トイレ        六   六
  浴槽         三   五
 移動
  歩行         五   五
  階段         五   五
 コミュニケーション
  理解         五   五
  表出         五   五
 社会的認知
  社会的交流      五   六
  問題解決       五   五
  記憶         四   四
 合計(一二六点満点) 九一 一〇一
  b なお、FIMの得点の意味は、次のとおりである。
 介助者無し
  七:完全自立(時間、安全性含めて)
  六:修正自立(補助具使用)
 介助者あり(部分介護)
  五:監視
  四:最小介助(患者自身で七五%以上)
  三:中等度介助(五〇%以上)
 介助者あり(完全介護)
  二:最大介助(二五%以上)
  一:全介助(二五%未満)
  (エ) 看護要約(乙二〇、四一頁。関東労災病院の退院日である平成一〇年一二月二五日ころに作成されたものと考えられる。)
  a 入院時から退院までの経過
 入院時より、洗面、トイレ、食事、更衣は自立しているが、非常に時間が掛かり、病棟の流れに付いて行けない。
 常に声掛けをするも、気分にむらがあり指示が入りにくい。マイペースで依存心が強い。死んでもいい、何をやってもだめだ、と厭世的言動が見られるも、実感が乏しい。OT訓練も、課題に関して時間を要する。PTは歩行訓練を行った。
 平成一〇年九月四日より、長下肢装具着用、四点杖歩行、家人と共にOKとなる。
 同月二五日に一年ぶりの初外泊、その後何回か外泊をした。
  b 今後の問題
 拒薬傾向あり(抗痙攣剤内服中)、再発作の危険
 介護上のキーパーソンの負担(母が父より大きい)
  c 退院して心配なこと
 発作(痙攣)
 規則正しい生活ができるかどうか
  d ADL
 食事 箸にて自立
 排尿・排便・着脱・体位変換 自立
 洗面 時間が掛かるが自立
 移動 車椅子(w/c)、四点杖使用によって自立
 清潔 第一浴、両親が介助
 睡眠 良好
 キ 平成一一年一月八日ころ(関東労災病院退院後の時期)
  (ア) 外来診療録(乙一九、九五・九六頁)
 意識は清明であり、コミュニケーションについても応答がある。小声で聞き取りづらいことがあり、独り言も多い。
 精神症状については、「はるちゃん」と呼び掛けると、「私は人間じゃないから、ちゃんはつけないで」などと発言する。また、日付の感覚はない。食事をしても、すぐに「食べてない」と言うこともある。記憶・記銘力が低下している。
 食事については、右上肢を使用して可能である。
 排泄は、洋式トイレにおいて要介助である。頻回にトイレへ行く。本人が心配がり、リハビリパンツを着用している。
 基本動作として、寝返り、起き上がり、坐位保持、立ち上りはそれぞれ可能である。歩行は、四点杖及びSHB使用によって可能である。屋内において自立レベルであり、一〇mを五七秒七二(三七歩)にて歩くことができる。
  (イ) 作業療法評価、方針(平成一一年一月一二日から記入開始。乙一九、四三頁)
 認知機能については、コミュニケーションは可、意識は清明
 M-MSEは、三〇点中一九点(見当識障害、短期記憶障害)
 年齢の認識不可(年寄りと思っている。)
 精神障害あり(自分は犬、父親は物。ただし、母親の存在は認めている。)
 男性は嫌い
 感情失禁あり
 ADLは、軽介助ないし自立レベルである。B.I.(後記(ウ)のBarthel Indexを指すと考えられる。)は、一〇〇点中八七点である。
 更衣(下衣のみ)、入浴動作に介助を要するが、他の動作はほぼ自立している。
  (ウ) Barthel Index(乙一九、六五頁)
  a 摂食
 一〇点・自立(reach内に食物を置けば摂食することができる。自助具を使ってもよい。適当な時間内に食べ終わる。)
  b 更衣(上衣)
 五点・自立(自立〔ブラジャーを含まない〕、ひもを結ぶ。)
  c 更衣(下衣)
 二点・要介助(上衣と同様〔半分以上適当な時間内で可。ひもを結ぶことができない〕。例・ズボンは履けるが靴下は不可。)
  d 更衣(義肢装具)
 〇点・自立(自立又は適応無し。)
  e 整容
 五点・自立(洗面、歯磨き、くし、化粧等。髪を編む〔style hairを除く〕。)
  f 入浴(アプローチ)
 〇点・要介助(シャワーを使用する場所までの移動、浴槽への出入りができない。)
  g 入浴(洗体)
 〇点・要介助
  h 尿失禁
 一〇点・自立(失禁無し。SCIでは自己導尿することができる。尿集器の着脱、管理ができる。)
  i 便失禁
 一〇点・自立(失禁無し。座薬、浣腸の使用可。)
  j 移乗
 一五点・自立(安全に車椅子でベッドにアプローチし、移乗する。必要なら車椅子の位置を変え、ベッドから車椅子に移乗。)
  k トイレ(移乗)
 六点・自立(安全にトイレにトランスファーできる。手すり、その他安定したものを使用してよい。)
  l トイレ(後始末)
 四点・自立(衣服の上げ下げ、服を汚さない。ペーパー使用、bed panを使用してもその管理ができれば可。)
  m 歩行
 一五点・自立(五〇m歩行可。義肢、装具、松葉杖、杖、歩行器〔車無し〕の使用可。rolling worker使用不可。)
  n 階段昇降
 五点・要介助(要監視又は少しの介助が必要。)
 なお、以上の括弧内の記載は、得点を付けるための評価の基準を示すものであって、必ずしも原告春子の現実の状態を示しているとは限らないものと考えられる。
 ク 平成一一年五月二六日ころ(日大板橋病院通院開始約三か月後の時期。平成一一年五月二六日付け診療情報提供書〔乙二一、一三頁〕)
 痴呆に関する日常生活自立度については、四(日常生活に支障を来すような症状、行動や意思疎通の無さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする。)と評価される。
 移動、排泄、食事、着替え・整容については一部介助が、入浴については全面介助が必要である。
 ケ 平成一一年六月二四日ころ(日大板橋病院通院開始約五か月後の時期。平成一一年六月二四日付け国民年金・厚生年金保険診断書〔乙二一、一五・一六頁〕)
 日常動作の障害程度については、右でつまむ、右で握る、右でさじで食事をすることが、一人でもうまくできる。座ること、歩くことは、一人でできるがうまくできない、その他は一人では全くできない。立ち上がるのは可能で指示は必要、階段昇降は可能であるが手すりが必要である。
 日常生活には、ほぼ常時介助が必要な状態である。
 コ 平成一三年四月五日ころ(日大板橋病院通院開始約二年三か月後の時期。診療録の平成一三年四月五日欄の記載〔乙一九、一一五頁〕)
 SHB及び四本杖を装着して、原告両親を伴い来室した。
 コミュニケーションについては、簡単な質問に対しては答えることができる。繰り返し同じことを言う。
 寝返り・起き上がり・立ち上がりについては、時間は掛かるが一人で可能である。
 歩行については、SHB及び四本杖使用によって可能であるが、監視を要する。
 (2) コムスンによる介護時(平成一二年七月一〇日から同年八月九日まで)の状況
 《証拠略》によれば、コムスンによる介護状況、当時の原告春子の状況等について、以下の事実が認められる。
 ア コムスンの担当者のうち、一日当たり二人ないし三人が、概ね午前・午後・夜間をそれぞれ担当する(二人の場合には、一人が午前、一人が午後・夜間を担当する。)という形で原告春子の介護を行った。介護の内容としては、起床、衣服着脱、排泄、洗面、歯磨き、食事、服薬、水分補給、外出、入浴、就寝の介助を行った。なお、コムスンの担当者によるこれらの介助の内容は、原告両親によって行われたものとほぼ同様であった。
 イ 食事時間は、ばらつきはあるものの一時間前後を要し、三分の二からほぼ全量を摂取していたが、半量摂取にとどまることもあった。コムスン作成の日誌の平成一二年七月一八日の欄には、「TVに背を向けていたこともあり、いつもの倍の量を二〇分程で食べてしまいました。食事はキッチンで取った方がよいのでは、とお母様と話しております。」、同月二七日及び同月二八日の各欄には、原告春子が食事を通常よりも早く食べ終わった旨の、同年八月四日の欄には、「春子さんに言わせると『ヘルパーさんが来るようになって朝食を速く食べるようになった』」との各記載がある。一方、同年七月二一日の欄には、「テーブルにつくも、なかなか召し上がろうとなさらず再三声かけする。」、同年八月八日の欄には、「食が進まず、モーニングケア終了までにたっぷり時間がかかってしまいました。」、同月九日の欄には、「口までははこぶがいつもより飲み込まずだいぶ時間がたっても口の中にありました。」との各記載がある。
 ウ 服薬については、同年八月一日の欄に、「薬を口に入れるのに二〇分ほどかかりました。(中略)歯磨きをしている時、口の中から薬が一粒でてきました。飲みこみをもう少しきちんと確認するべきでした。」、同月二日の欄に、「二錠を一度に飲むのはいやなご様子。一錠のみにしました。」との各記載がある。
 エ 歯磨き、洗面等については、同年七月二一日の欄に、「歯磨き、洗面の誘導を試みるも、ご本人なかなかのっていただけません。」との記載がある。
 オ 排泄については、同年七月一三日に何度か声掛けするも尿意無し、同月一六日に昨晩尿失禁があった、同月二〇日に便失禁が三日続いた、同年八月一日には便意なくリハビリパンツ内に排便あり、同月四日に三日分の排便あり、同月七日に膀胱炎の診断を受けたとの各記載がある。
 カ 入浴については、特に問題が起こった旨の記載はない。
 キ 起床については、同年七月二二日の欄に、「今日は起き上がるまでにずいぶん時間がかかりました。」との記載がある。
 ク 精神面については、同年七月二一日の欄に、「そろそろヘルパーと過ごす疲れが出てきたのでしょうか?がんばって~をしましょうという声かけはしばらく使用しない方が良いかもしれません。日記についてもあまり強制しないようにしましょう。」、同年八月八日の欄に、「『あー、これ私がつくったものじゃない......』と、今朝早くご自分でチャーハンを作ったと思っていたようです。」との各記載がある。
 (3) 現在の状況
 前記(1)及び(2)において認定した事実、《証拠略》を総合すると、原告春子の現在の状況については、以下のとおりであると認められる。
 ア 食事について
 原告春子は、身体能力的には、右手を使い、箸ないしスプーンを用いて食物を口に運び、噛み、嚥下することがほぼ可能であり、一回の食事に要する時間は、通常は一時間前後と考えられる。もっとも、原告春子の精神状態、食べる物の好き嫌い、食事に付き添う相手によっては、三〇分も掛からない場合もある一方で、二時間ないし三時間程度掛かることも少なくない。これは、もともと体の各動作に時間が掛かることに加え、食事の初めのころは嚥下までの作業がほぼ滞りなく運ぶのに、原告春子の集中力・注意力が長くは続かないことから、途中からテレビ等の食事以外のことに気を取られ、脳から嚥下の指示が喉に伝わらないことによって、いつまでも嚥下せずに噛み続けることが原因ではないかと推測される(また、空腹であっても食欲が生じることが少ないようである。)。その他の原因として、退行現象の一つの表れともいえるが、介助者に対する甘えがあり、食事の介助を待っているという面も見受けられる。これらの原因が複合する結果、各回の食事において必ずしも十分な量の食事ができているとはいい難い。一方、コロッケ・餃子等の好物(なお、原告春子の好物は、時期によって変化する。)に関しては、自己欲求を満たすためには自ら行動を起こすようになったこと(前記(1)エ(カ)c(i))、コロッケ等はその分量が少なく、集中力が途切れないうちに食べることができることなどの理由から、嚥下に至るまで比較的短時間で終了する。
 なお、この点、関東労災病院におけるFIMにおいては、食事について完全自立との記載があるが(前記(1)カ(ウ)a)、同病院における診療記録に食事に時間が掛かった旨の記載が散見されることからすると(同病院における看護経過記録の平成一〇年九月二八日、同年一〇月一二日、同月一三日の欄〔乙二〇、一四七・一五〇頁〕参照)、前記FIMの記載には疑問がある。
 イ 服薬について
 薬を嚥下すること自体は、可能である。また、早いときには三分ないし四分程度で服用が可能であるが(関東労災病院における看護日誌の平成一〇年九月二九日の欄〔乙二〇、一四七頁〕参照)、服薬を拒否する傾向にあり、服薬を指示しても、服用すべき薬を隠して服用したことにしてしまうこともあり、監視による服薬の確認が不可欠である(関東労災病院における看護日誌の平成一〇年八月二五日の欄〔乙二〇、一二七頁〕には、床頭台に服用すべき薬を隠した旨、同病院における看護経過記録の同年九月一一日一三時三〇分の欄〔乙二〇、一四二頁〕には、朝の薬を内服していないため内服させた旨の記載がある。また、コムスンの日誌にも同様の記載があることは、前記(2)ウのとおりである。)。この点に関し、原告春子には服薬を怠ると脳痙攣が生じる危険があるが(前記(1)カ(エ)b・c)、その危険性について原告春子に対する説明を尽くしても、原告春子は、高次脳機能障害のために順序立てて思考することができないことから、その重要性を理解することができず、服薬の動機付けとならないものと考えられる。
 ウ 上半身の更衣について
 左手が麻痺によって使えないために、ひもを結ぶこと、ブラジャーのホックを留めること等には介助が必要な場合があるが(原告花子の陳述書〔甲三三〕、関東労災病院における看護経過記録の平成一〇年一〇月一六日の欄〔乙二〇、一五〇頁〕参照)、その他の動作は、概ね自力で行うことが可能であると考えられる(原告花子の日記〔甲一六〕の四月一八日の欄にも、パジャマを一人で着させ、できないところを手伝った旨の記載がある。)。もっとも、自発的に着替えようとする意思に乏しいため、起床後も着替えを行おうとしないので、着替えを促すことが必要である。また、食事同様、動作に時間が掛かるために、途中で集中力が途切れた場合、いつまでも着用が完了しないということが考えられる。したがって、原告春子の更衣が完了するまで、更衣を監視し、さらに必要に応じて、更衣を促し又は注意喚起をする必要がある。
 エ 下半身の更衣について
 上半身の更衣とほぼ同様であるが、右足のみで体重を支える必要があるために、着替えの途中で体のバランスを崩して転倒するおそれがある(なお、平成一〇年一〇月六日付け理学療法報告書には、立位バランスが良好である旨の記載があるが〔前記(1)オ(エ)g〕、下半身の更衣に際しては片足を上げる等の動作が必要となるため、この記載は前記認定を左右するものではない。)。したがって、椅子等に座った状態のまま更衣が可能であるものについては、監視等で足り、介助までは不要であるが、椅子から腰を上げて立たなければならないような更衣について、介助が必要となると考えられる。なお、装具の装着も、時間を要するものの、自力で可能である。
 オ 入浴について
 左半身が麻痺しているため(なお、左半身の麻痺については、前記(1)オ(オ)aのようにリハビリテーションによって多少の改善は見られるものの、同麻痺が脳の損傷に由来していると考えられることからすれば〔前記(1)エ(オ)b〕、今後、左半身全体の麻痺が改善するとは考え難い。)、右手・右足のみで全体重を支えながら浴槽に入ることは困難であり、また、風呂場の床は滑りやすいので、介助がなければ、立った状態では右手は常に手すり等につかまっている状態となる。また、椅子に座っても、右手のみで全身を洗うことは困難である。したがって、入浴については、多くの部分で介助を必要とする(なお、この点は、被告らの提出する意見書も概ね認めるところである。)。
 カ 排尿・排便処理について
 時間を掛ければ自力で行うことも可能であるが、排泄欲求を脳に伝達することにやや困難が見られる上、衣類を脱ぐ、トイレットペーパーを切って準備する等の動作にも時間を要する(前記(1)エ(カ)c(e))。そのために、排泄の欲求が生じてから動作を開始すると、排泄を我慢することができないこともあって、その準備が完了する前に排泄してしまうことが少なからず見受けられる。また、排泄の欲求が脳にまで伝わらず、そのまま排泄してしまうこともある(なお、原告太郎の陳述書には、平成一四年一〇月一日から同年一二月一七日までの七八日間のうち一九日、便を漏らしてしまった〔一日に二回のときもあった〕旨の記載がある。)。したがって、原告春子の排尿・排便の時間を的確に把握し、定期的に排尿・排便を促す必要がある。
 キ 移動について
 左半身は麻痺しているものの、代償行為により左足を振り出すことが可能であるため、左足に装具を装着し四本杖を使用することによって、自力で平坦な場所を歩行することは可能である。また、立位バランスも安定している。
 ただし、歩行に極めて時間を要すること(一〇mを歩行するのに一分弱程度を要する〔前記(1)キ(ア)〕。)、右眼が失明していることに加え、高次脳機能障害の患者の特徴である半側空間無視が多少ながら存在すると考えられ(前記(1)ア(ウ)、甲三四)、これらは左半身が麻痺している原告春子が自力で歩行するに際して大きな制約となっているものと推察される。また、高次脳機能障害に由来する身体に対する認識の低下によって、自己の左半身麻痺についての認識を欠いて行動する場合もあり、転倒の危険が大きいと考えられることからすれば、原告春子が転倒した場合に備えて監視を怠ることはできない。
 また、原告春子が椅子に座っている場合であっても、注意力の欠如により自己の気をひくものに注意を奪われること、また、自己の左半身麻痺についての認識を欠くこと等を原因として、杖のない状態で立ち上がり転倒する可能性があることからすれば(原告花子の日記の平成一一年五月九日の欄に、原告春子がそのような行動をとった旨の記載がある。)、歩行している場合にはもちろん、座っている場合についても、予測が困難な突然の行動に備えて、原告春子の行動を監視することが必要であると考えられる。
 なお、屋内での移動については、手すり等の原告春子の体を支えるものがあれば、転倒及びそれによる受傷の危険は比較的少ないものといえるが、外出した場合には、歩行に時間を要し、転倒の危険性が高くなるだけでなく、転倒時の傷害の結果も相当程度大きくなる上、離れて監視をしているときはとっさの転倒に適切に対処できないと考えられる。したがって、外出の場合には、付き添って歩く等の軽度の介助を要するものと評価すべきである。
 ク 階段の移動について
 四本杖の使用によっても、体重移動等に困難が見られ、自力では転倒の危険が大きく、また、転倒した場合の傷害の危険性も高い。したがって、手すり等のある階段であれば自力でも移動が可能であるが(前記(1)ケ)、手すり等がない場合には介助が必要と判断される。
 ケ 精神面について
 簡単な受け答えは可能であるが、自発性を欠き、記憶力・記銘力に障害があり、集中力・注意力の低下、甘え・依存心の強さが見られる。また、日付・時間の認識に欠けるところがある。加えて、自己の状態を受容することができずに精神的に不安定になることがある。
 なお、原告春子のADL上最も問題であるとされているのは自発性の欠如であるが、これが改善する可能性については、脳の一部が失われてしまっており、失われた部分の機能の回復は不可能であること、各病院において自発性の欠如について問題点ないし改善目標として取り上げられているにもかかわらず、結局のところ目立った改善が見られなかったことから、今後の生活において多少の改善はあり得るとしても、根本的な改善を期待することは難しいものと考えられる。
 (4) (1)ないし(3)の評価
 原告春子の現在の症状は前記(3)のとおりであり、これを要するに、まず、外出・入浴等の一部の行動については、介助が必要であることが明らかである。他方、食事、更衣、排泄等の生活に必要な動作については、左半身の麻痺に加え自発性の欠如が見られることから、個々の動作に相当程度の時間を要し、介護者からの適切な促し(場合によっては、原告春子の行動が余りにも時間を要する場合の一部介助)が必要であり、かつ、それで足りるものと判断される。もっとも、原告春子は、左半身麻痺等の自己の状況に関する認識の欠如、集中力、注意力、論理的な思考能力の欠如のために、介護者にとって予測が困難な突然の行動によって自らを危険にさらす可能性が大きく、しかも、原告春子自身、その危険の存在を予測できないことはおろか、それが危険であること自体を認識することができない。したがって、原告春子が自らの行動によって受傷に至る危険を防止するために監視が必要であるところ、このような危険が生じる可能性は、原告春子の起床から就寝までの大半の時間にあると考えられる。
 ところで、介護の態様には、大きく分けて、介護者にとって余り体力を要しない監視・促しのようなものと、介護者にとって体力を要する介助のようなものの二種類がある。そして、原告春子の場合には、生活のほとんどの場面において介助までは要しないが、常時の監視ないし促しは必要であるから、介護の態様の問題を別とすれば、随時介護では足りないというべきであり、常時介護が必要であると認められる。
 この点、監視ないし促しについては、前記のように、原告春子は予測できない自らの行動によって受傷に至る危険性があるから、原告春子の症状・行動態様の特性等をよく理解した者が、適切な態様によって監視・促しを行う必要がある。そして、原告両親は原告春子を最もよく知っていることから、後に検討するように、原告両親の年齢、健康状態を考慮しても、介助が必要と認められる外出・入浴等の一部の行動を除いて、原告花子が就労可能期間の終期とされる六七歳となるまでは、原則として原告両親又は原告花子による近親者介護で足りるものと判断される。しかし、原告花子が六七歳となった後は、職業付添人による介護が必要であると認めるのが相当である。
 (5) 被告らの主張について
 これに対して、被告らは、原告春子の介護について、常時介護は不要であり、随時介護で足りる旨主張し、慶應義塾大学月ヶ瀬リハビリテーションセンター所長木村彰男教授作成にかかる意見書(以下「木村意見書」という。)を提出する。しかし、以下のとおり、被告らの前記主張は理由がない。
 ア 木村意見書の内容は、概ね以下のとおりである。
  (ア) 結論
 原告春子には、「お世話」という意味での介護の必要性はほとんどなく、「手助け」という意味での軽度の介助及び安全面などからの監視が必要という程度であるので、随時介護で十分であり、介助者としても両親などによる介護で十分である。
  (イ) 理由
  a 原告春子には、後遺障害として左片麻痺と知的精神面(高次脳機能障害)の問題が残っているが、そのうち左片麻痺については重度の障害とは考えられない。関東労災病院作成の平成一〇年一〇月七日付け作業療法報告書(前記(1)オ(オ))によれば、原告春子のADLがFIMにより詳細にチェックされているところ、食事・整容などのセルフケアについては完全に自立、更衣も監視程度で可能、移乗・トイレ動作もほぼ自立に近く、歩行は階段を含め監視があれば問題がないとされている。高次脳機能障害については種々の検査で問題があることが指摘され、IQも八三と低下しているものの、前記FIMにおけるコミュニケーション及び社会的認知の項目の評価は比較的良好で、軽度の介助ないし監視程度で十分に対応することができるとされている。この評価は、受傷後一年以上経過した段階での評価であり、片麻痺の状態が悪化することはまず考えられず、むしろ改善が期待される。高次脳機能障害については、病院内における評価であるところ、退院後は、社会との接触などによるストレスのために悪化することはあり得るが、知能検査の成績については変化がないか良くなるのが通常である。そうすると、現段階では、関東労災病院における前記FIM受検時よりも状況は改善されていると考えられる。
  b 一方、後遺障害診断書の記載ではIQが三五とされており、平成一一年六月二四日付け身体障害者診断書のADL評価では種々の動作ができないとの記載がある。しかし、これらの記載は脳外科の主治医によりなされたものであるところ、通常、脳外科医はADLや知能面について余り適切な評価をすることができないので、原告春子の主治医がADLや知能面についても正確に把握していたかは疑問である。実際、日大板橋病院リハビリテーション科の医師により作成された平成一二年四月一〇日付け診療情報提供書によれば、IQ八六、何らかの障害を有するもののADLはほぼ自立で独力での外出も可能とされており、食事や移動は監視を必要とするものの自立、入浴には全面的な介助を必要とするものの、排泄は一部介助で可能とされている。このことからすると、前記後遺障害診断書、身体障害者診断書の記載は正確ではない。
  c また、日大板橋病院リハビリテーション科の診療録によれば、平成一三年三月九日の時点において、主治医(町田正文医師)から、トイレへ一人で行くよう、さらにその二か月後には、入浴も自立するよう指示が出されていることからすると、原告春子のADLの状態はより改善していったものと考えられる。したがって、原告春子のADLはかなり自立可能な状態であると考えてよいと思われる。
  d ビデオテープにおいては、原告太郎が原告春子に常に付き添っていろいろと介助しているが、これは必要以上の過剰な介助である。リハビリテーション医学・医療の観点からは、できるADLは自分で行うべきであり、更衣や食事など既に自立しているADLについても原告太郎の介助によってかえってできなくなる可能性があり、原告両親の介護はマイナスに作用している。原告両親の介護は、精神的にも原告春子の自立への意欲をそぐものである。
  e むしろ問題は片麻痺よりも高次脳機能障害の方であり、コミュニケーション能力には比較的問題はないものの、自発性や判断力などにはかなり問題があり、甲一七にも記載があるように、外出などは一人ではさせられない状況と思われる。監視のみならず安全面からも、誰かが付き添う必要がある。
 イ しかしながら、① 日大板橋病院脳神経外科の主治医である前島貞裕医師は、精神科の医師に対して知能テストを依頼しており、前記ア(イ)bの木村意見書の批判はそもそも前提を誤っていること、② 日大板橋病院の町田医師が出したという指示(前記ア(イ)c)についても、町田医師作成の診療録にはその旨の記載はないことからすれば、リハビリテーションを進める上で容易になるという判断からリハビリテーションの目標として掲げたもの、あるいは、原告春子に甘える傾向が見られたためにやや厳しめの態度を示したものなど、木村意見書の理解のほかにも理解の方法があり、町田医師が出したという指示が、実現可能なリハビリテーションの目標を示したとは必ずしもいえないこと、仮に木村意見書のように理解したとしても、前記(3)オからすれば、入浴における完全な自立を前提としていたとはまず考えられないこと、③ 木村意見書は、右眼失明の障害による影響について何ら意見を述べていないこと、④ 原告春子に高次脳機能障害に起因する行動の障害が存在することは前記のとおりであるところ、木村意見書も、高次脳機能障害に起因する問題点の存在については認めているにもかかわらず、その問題点をいわば棚上げにした状態でADLの状態を論じており、議論の前提に疑問が残ること(木村意見書は、退院後の知能検査の成績は入院中のものより変化がないか良くなるのが通常であるとするが、入院中か否かで知能検査の結果が異なる理由が判然としないし、脳の内部に損傷がないというのであればともかく、前頭葉の一部が失われた状態においてまで知能検査の成績が改善し続けるとは、にわかに考え難い。)、⑤ 食事・服薬等の日常の生活動作を完了するのに長い時間を要することは前記のとおりであるところ、これらを全て自立と評価することはできないこと、からすれば、随時介護で足りるとする木村意見書の結論は直ちに採用し難く、前記認定を覆すには足りないというべきである。
 ウ ほかに、被告らの主張を裏付けるに足りる的確な証拠はない。
 (6) 原告らの主張について
 一方、原告らは、原告春子の介護の程度は常に職業付添人の介助を要する程度に重いものであり、原告両親には原告春子の介護は不可能であると主張するので、以下検討する。
 ア 日大板橋病院脳神経外科外来医長前島医師の意見書(以下「前島意見書」という)について
  (ア) 前島意見書の内容は、要旨、以下のとおりである。
  a 結論
 原告春子に日常生活を安全かつ最低限有意義に送らせるためには、生活動作の場面によって多少異なるが、監視や随時介護では不十分であり、職業付添人による常時介護が必要である。
  b 理由
  (a) 原告春子の負った外傷に基づく神経学的欠落症状としては、高次脳機能障害、左側片麻痺、左側知覚障害、視野障害(左側同名半盲)、右視力脱失がある。このうち、高次脳機能障害については、認知・情動・実行の三機能系全てに及ぶ機能障害を負っている。
  (b) まず、認知機能障害については次のとおりである。
 認知機能には、受容機能(情報の選択・獲得・分類・監視など)、記憶と学習(情報の貯蔵と検索)、思考(計算、推論と判断、抽象化と具体化、計画、問題解決など)、表出機能(情報の伝達と行動化)が属する。これら全ての機能において、原告春子には様々な程度で障害が残存している。
 この認知機能の効率に関与する因子として、意識レベル、注意活動、活動速度がある。意識レベルには二つの意味があり、一つは覚醒状態及びその程度を表すもので、この点については原告春子に問題を認めていない。もう一つは、自己又は周囲の状況に対する正確な認知を意味するものであるが、この点については原告春子に軽度の障害が認められる。
 また、脳損傷に際して障害を受けやすい注意活動には、概ね、focused attention(集中ともいわれる)、suste(ママ)ined attention(警戒に相当する)、devided attention(同時に二つ以上の課題に対応する能力)、alternating attention(対象や課題の取り替えを可能にする能力)の四種類が存在する。この四種類の注意活動について原告春子においては高度に障害されている。
 活動速度は、心的活動が遂行される速さや運動反応の速さを意味しており、これも原告春子においては高度に障害されている。
 原告春子の障害の主たる要素の一つである発動性の低下は、以上の認知機能障害及びこの効率に関与する因子である注意活動・活動速度の障害に起因している。これらの障害を実際に説明するのに最も適切なものを、甲一七や甲三三の記載から読み取ることができる。すなわち、食事を取るようにと注意を喚起しても食事に集中することができず、一人にしておくと食事の摂取に数時間を費やしてしまうということや、患者自身が自己の行動の危険性を認識することができず、転倒して外傷を受けたり入浴中に溺水しかけたりすることなどから、計り知ることができる。
 もちろん、片麻痺や知覚障害により、入浴中に溺水する事例は、老人の脳梗塞患者等ではよく経験されるが、原告春子の場合、単に左側片麻痺や知覚障害のみによるものではなく、高次脳機能障害の中でも認知機能障害が深く関与しており、監視や随時介護のみでは解決できない問題である。なぜなら、原告春子はこのような状態を危険であると認識できないからである。認知機能に障害を持つ患者に対して、単なる監視や随時介護のみで対処しようとすれば、通常の日常生活の中で生命に危険が及ぶような状態が常時起こり得ることになる。したがって、患者の状態を的確に把握した職業付添人による常時介護が必要である。
  (c) 情動機能障害については、情動の鈍麻、抑制欠如、不安の現象とそれに伴う多幸症、社会的感受性の減少などの症状が見られる。脳損傷患者においては、情動の不安定性(比較的迅速で、やや誇張された情動の起伏)を呈することが多いとされ、急速で不安定な気分変動、過剰な情動反応(情動発現の閾値の低下)、病的な笑いと泣き(笑いや泣きと無関係な些細な刺激により誘発され、楽しさ、悲しさ、感動などの情動を全く伴わず、自己及び周囲の状況に対して不適切に出現する。)がその内容として挙げられる。原告春子の場合、脳神経外科の外来受診当初は、主として、情動の不安定性(急速で不安定な気分変動、過剰な情動反応、病的な笑いと泣き)が前面に現れていた。現在では、情動の鈍麻、不安の減少とこれに伴う多幸症、社会的感受性の減少などが認められている。これらの情動機能障害は、特にこの症状を理解していない第三者から見れば「何も困っていない。」又は「現在の状態に満足している。」、「何ら不安がなく、幸せである。」と誤って理解される危険がある。たとえ職業付添人であっても、このような誤った理解を持つ付添人であれば、原告春子は何ら精神的な癒しを受けられないばかりか、日常生活すら満足に過ごせないことになる。よって、原告春子の介護に関しては監視や随時介護のみでは到底対処することは不可能であり、これらの症状を正確に理解し得る適切な職業付添人が必要と考えられる。
  (d) 実行機能障害に関しては、原告春子に、感情、意志及び欲動の面で粗大な障害が認められる。実行機能障害として出現しやすい症状としては、情動の不安定ないし平板化、顕著な刺激性亢進、興奮性及び衝動性、周囲に対する気配りの喪失、心的活動の硬直化と変換困難、自己統制の障害、個人的な身繕いや清潔さの欠如などが挙げられる。これらの実行機能障害は、多かれ少なかれ、行動の全領域に出現し、行動の全ての側面に重大な影響を及ぼすことになる。原告春子の場合、具体的には、やはり甲一七、三三から読み取ることができる。原告春子個人は、身繕い、整髪などの整容が困難であり、介護が必要であるという部分、風呂においても、原告春子個人では洗顔・洗髪などができず、介護が必要であるという部分である。もちろん、これらの障害には左側片麻痺や知覚障害が大きく関与していることは間違いないが、原告春子が麻痺のためにやろうとしてもできないのと、疾患自体による実行機能障害のために整容などに関心がなく行おうとしないのとでは、大きな隔たりがある。この状態を監視のみで放置すれば、重篤な感染症等を引き起こすきっかけとなることは明らかである。事実、以前に難治性の尿路感染症を合併した既往がある(甲三三)。よって、原告春子の介護に関しては監視や随時介護のみでは不十分であり、これらの症状を正確に理解し得る適切な職業付添人が必要と考えられる。
  (e) 平成一四年九月五日に実施されたWAIS-Rの結果及び所見は概ね以下のとおりであるところ、前記(a)ないし(d)の意見は、このWAIS-Rによる評価と何ら矛盾する結果ではなく、むしろそれを肯定するものである。
  Ⅰ 検査態度としては、検査には積極的に取り組んでいるものの、一つ一つの動作・作業には時間が掛かっている。検査者が動いたり音を立てたりすると、それが気になって音のする方を見たりする。一つ一つの作業が終わるごとに、「これは当たっていますか」などと心配そうに聞いたり、「できなくてすいません」と言ったりする。
  Ⅱ 検査結果としては、全検査IQ五九、言語性IQ六八、動作性IQ五五であり、言語性IQと動作性IQに有意な差が見られた。
  Ⅲ 下位検査において、言語性では「数唱」・「類似」が他の検査に比べ良好であり、「数唱」が比較的良好であることからすると、短期記憶や注意・集中は比較的可能であることが示唆される。しかし「数唱」同様に注意・集中を必要とする「算数」では低い評価であり、少し複雑な作業が加わると、注意・集中する能力が劣ってしまうようである。「類似」からすると物事の本質を見抜くことは可能であるが、「単語」のように物の説明となると言葉がうまく出てこないようであり、言葉による説明は困難と考えられる。「理解」の結果によれば、常識的な価値判断は困難なようである。
  Ⅳ 一方、動作性では「絵画配列」が他の検査に比べ良好であった。これに対して「組み合わせ」ができないことからすると、物事の状況を把握することは可能であるようだが、全体を通して理論を組み立てたり物事を順序立てて考えたり、全体を推測することは困難であることが窺われる。
  Ⅴ 以上を総合すると、ゆっくりと時間を掛けながら原告春子のペースで行えばできることがあるかもしれないが、注意力にむらがあるので、注意力を持続することができるよう環境を整える必要があると考えられる。また、自分が置かれている場面を理解することは可能であるが、それを言葉で説明して周囲に援助を求めたりすることは困難であると考えられる。日常生活において、日常生活を一つの流れとしてとらえ、これからやることに対する見通しを立てて行動することが困難であると考えられるため、周囲の人による手助けが必要である。
  (イ) 前島意見書については、次のとおり、常時、職業付添人を必要とするという部分は採用の限りではなく、前記認定を覆すには至らないものというべきである。
  a 原告春子に転倒・溺水の危険性があることは前島意見書の指摘するとおりであるが、これは、外出・入浴等の場面において職業付添人の介助を要するとすれば足りるものであって、日常生活全般において職業付添人を必要とする理由とはならない。
  b 介護を行う者が原告春子の症状の特性をよく理解していなければならないことは前島意見書の指摘するとおりであるが、少なくとも原告春子の事情を最もよく知る原告両親(原告花子)が六七歳となるまでの期間については、職業付添人でなければならない理由とはならない。
  c 前記認定の原告春子の症状からすれば、必ずしも、職業付添人が常時介助を行うことが原告春子にとって有益な結果をもたらすとはいえず、むしろ介助者に対する甘えを助長する(ひいては自発性の可能な限りの回復を阻害する)のではないかという懸念がある。前島意見書は、その点について合理的な説明をしていない。
  d 前島意見書は、原告春子には実行機能障害があり、そのために整容などに関心がないとするようであるが(前記(ア)b(d))、仮に原告春子が整容などに関心がないとすると、関東労災病院においてベッドの周りやトイレを清掃し、清潔好きと評価されていたこと(前記(1)オ(オ)d)と整合的ではないように思われる。
  e WAIS-Rによる評価にしても、結局のところ監視の必要性をいうにすぎない。
 イ 茨城県立医療大学保健医療学部作業療法学科澤俊二助教授の意見書(以下「澤意見書」という)について
  (ア) 澤意見書は、関東労災病院退院時に行われたFIMの得点について、その得点が不当に高すぎるとして、実際は常時介護を要する状況にあったとする。その理由の要旨は、以下のとおりである。
  a FIMについて
  (a) FIMは、昭和六二年、米国医学的リハビリテーションのための統一データシステムであるUDSの中核的な評価法として始められ、現在では一五か国以上の国で使用されている国際的な標準評価法である。日本では平成三年から使用が開始されている。
 FIMは、介護量の測定を目的として、全部で一八個の評価項目を介護の度合いに応じて七段階でそれぞれ評価する。
  (b) FIMには、以下のような三つの特徴がある。
 第一に、FIMは「できるADL」ではなく「しているADL」についての測定法である。介護量の測定のために、一日の生活を通して最も介護量が多いものを評価する。このため、正確な採点を行うためには、観察者から多くの情報を得ることが必要不可欠である。
 第二に、認知項目が入っている。これは、退院後の社会生活において認知項目の評価が重要であることが自覚されたことによる。認知項目を含んだ評価法で確立されたものは、FIMが初めてのものである。
 第三に、従来の評価法の尺度に「監視・準備」を導入したことである。これは、介助者が直接被介助者の体に手を触れて介助ないし介護をするのではないが、行動が可能になるように準備したり、監視することにより行動を遂行することができるように配慮をするというものである。
  b 関東労災病院の実施したFIMについて
 原告春子のFIMの得点は、実際には、関東労災病院の実施したFIMの記載点よりもかなり低い点となる。これは、以下の理由によるものと考えられる。
 病院のリハビリテーションの現場は常に忙しく、病棟では、原告春子のように常時指示ないし促しが必要な前頭葉症状を持つ患者は手間が掛かり、原告両親による介護は人手不足の現場では助かったはずである。ところで、原告両親が看護師から介護を指示された食事・入浴・トイレ動作に関しては、関東労災病院としてもFIMの評価を行う際に、原告両親から十分な聴き取りを行うべきであったが、OT(作業療法士)は、原告両親から十分な聴き取りを行わないまま評価を行っている。聴き取りを行った部分についても、実際に見て確認することを怠ったために、過剰介護と評価している。また、OTと看護師との間の情報交換も不十分であったことが、随所に窺われる。
  c 現状におけるFIMについて
 平成一四年九月二一日に原告らの自宅を訪問し、直接原告春子に面接し、日常生活を観察し、原告両親より聴取した結果からは、現状におけるFIMは平成一〇年の関東労災病院退院当時と大きく変わった点は認められなかった。
 原告春子は、前頭葉障害と高次脳機能障害による自発性の低下と不注意、そして予測困難な行動のために、介護者の監視と促しが常に必要であり、また、転倒の危険があるために、常に誰かが付添看護をする必要がある。
  d 自発性評価表(S‐Score)について
 ADLを通して自発的行動の変化を評価し、対応法を示す評価表として平成五年に開発された評価表である。原告春子の自発的評価表による評価結果によれば、一点(一緒に行う必要がある)を中心として、二点(誘導・助言が必要)、impossible(不能)が認められ、自発性の低下に伴うADLの障害が顕著であった。
  e 原告春子が必要とする介護の量と程度について
 原告春子は、重度の左片麻痺、前頭葉障害及び高次脳機能障害によって、基本的な生活能力においても大きな障害を受けている。原告両親の二四時間の介護によって、原告春子は最低限の生活を維持している状況にあるといえる。
 将来にわたる原告両親による介護は、病気を持ち高齢の原告両親にとっては極めて困難であり、職業付添人による常時の濃厚な介護(助言、指導、促し、介助、屋外での活動の際の移動介護など)が必要である。
  (イ) しかしながら、次のとおり、澤意見書によっても、原告両親による原告春子の介護が極めて困難であり、職業付添人による常時介護が必要であるということはできない。
  a 澤意見書は、原告両親からの聴き取りも一つの有力な要素としてFIMの程度を判断しているところ、仮に原告両親が客観的に必要とされる以上に過剰な介護を行っていたとしても、「しているADL」の観点からは、原告春子はADLにおいて自立度が低く評価されてしまうという問題があるが、その点について合理的な説明がなされていない。
 例えば、食事の評価について、関東労災病院退院時のFIMを、「注意がそれるとスプーン等を落とすため、両親が持たせた。」という理由に基づき四点(なお、得点の内容については、前記(1)カ(ウ)参照)と評価しているところ、診療録等にスプーンを落とした旨の記載がないことからすると、これは原告両親からの聴き取り結果を根拠とするものと考えられるが、原告両親としては原告春子の注意をそらさないようにして食事を取らせる工夫をすべきであったといえ、このような観点に立てば、澤意見書の評価基準によっても五点と評価することができるはずである。また、移乗(ベッド・椅子・車椅子)についても、退院時を三点と評価しているが、「何度も促さないとできないことが多く」という理由付けからは五点とも評価することができるところである。
 これを要するに、介護者が、被介護者の自発的な行動を待つことなく被介護者の介護をするのをそのまま評価してしまえば、過剰介護があればあるほどFIMが下がってしまうのではないかという疑問があるところ、澤意見書では、原告両親の介護の態様(特にその介護が過剰であるか否か)についての検討が欠けており、この点について合理的な説明がなされていない。
  b そもそも、実際に介護に当たった者の意見を踏まえるべきであるという澤意見書の立場を前提とすると、関東労災病院等において原告春子の診察・看護等に当たってきた医師・看護師・作業療法士等の意見もFIMの評価に反映されるべきである(なお、澤意見書では、作業療法士は原告両親の意見を十分に聞くことなくFIMの評価をしており、作業療法士と看護師との間の情報交換も不十分であったとするが、そのような判断をした具体的な理由が記載されていない上、看護記録等にもそのことを裏付ける記載はない。)。そして、その判断材料となるものは、原告春子が入通院していた病院の診療録等のほかにはないが、診療録等の記載から窺われる原告春子に必要とされる介護の程度は前記(3)のとおりである。仮に、澤意見書のいうとおり、病院におけるFIMの評価が現場の忙しさによって正当に評価されていない部分があるとしても、原告春子の診察・看護等を担当した全ての医師・看護師・作業療法士等について同じことがいえるかどうかについては疑問がある。また、コムスンが原告らの以前の自宅において行った介護の記録や、原告花子がつけていた日記については、それらに基づくFIMの評価が可能であるはずである。そうすると、澤意見書は、これらの診療録・介護記録等の記載についての検討と評価が欠けており、原告春子の客観的な状態を検討する上で検討材料に偏りがあるのではないかとの疑いが払拭できない。
  c 一方、S‐Scoreについても、これ自体は、自発性を高めるためのリハビリテーションの方向性を示す基準としては有用なものと考えられるが、その目的は、患者がどの要介護レベルにあるかを把握し、その一段階上の訓練を行うための基準と考えるべきであって、将来にわたる介護の困難性を示す客観的基準といえるのかについては疑問が残る。
  d 澤意見書の指摘は、結局のところ、原告春子の自発性の広範な欠如という点に尽きるものと考えられるが、その内容は前記認定のとおりであって、それ以上に、常時の介助を要するという積極的理由は澤意見書からも窺われない。そうであれば、澤意見書によっても、原則として原告両親が介護することを前提とすると原告らにとって酷な結果になる、との結論を導くことはできない。
  e なお、原告両親による介護の可能性については、後記ウで述べるように、外出・入浴等介助を要するものを除いては、介護が困難ということはできない。
 ウ 介護に伴う原告両親の負担について
 《証拠略》によれば、原告太郎は、平成一二年ころに脳梗塞によって倒れ、日大板橋病院に通院していること、右手指の欠損があり、手術によってかろうじて物をつかむ程度の動作は可能であるが、細かい作業は不可能であること、一方、原告花子は、日大板橋病院に平成一一年ないし一二年ころから通院し、骨粗鬆症及び左変形性膝関節症との診断を受けていること、したがって、中腰による介護(例えば、原告春子を立ち上がらせる、歯を磨かせる、トイレの後始末をする等)が困難であることが認められる。そうすると、原告太郎については、前記認定の障害に加え、その年齢を併せ考えると、原告春子について体力を要する介助を行うことは困難であると判断せざるを得ない。また、原告花子についても、原告太郎ほどではないものの、腰に負担の掛かる介助を行うことは困難であると考えられる。
 しかしながら、前記のとおり、原告春子の介護の大半は監視で足りるものと考えられ、監視については、少なくとも自宅におけるそれはさほど体力を要するとは考え難い。一方において、確かに、外出・入浴等、原告春子の体を支える必要性が生じるようなものについては、原告両親のみによる介護は不可能であるが、それらの介護について職業付添人の援助を得ることを前提とすれば、それ以外の監視の部分については原告両親であってもなお可能である。したがって、外出・入浴等、介助を要するものについては、職業付添人の助けを借りることを前提とすべきであるが、その他の介護については、原告花子が就労可能期間の終期とされる六七歳となるまで、原告両親(原告太郎が六七歳となるまで)又は原告花子による介護で足りるというべきである。
 そして、原告花子が六七歳となった後は、原告春子に対する監視ないし促しについても、原告春子の状況をよく知った上で適切に行われなければならないことは前島意見書の指摘するとおりであるから、原告春子の介護は職業付添人が行うことを前提とすべきである。
 (7) まとめ
 以上に検討したところからすれば、原告春子に対しては常時介護が必要であるが、その介護の内容については、外出・入浴等、介助を要するものを除いては、原告花子が六七歳となるまでは、原告両親(原告太郎が六七歳となるまで)又は原告花子による介護で足りるものと認めるのが相当である。
 二 原告春子の損害について
 (1) 治療費    二三七万〇〇二六円
 当事者間に争いがない。
 (2) 通院費及び自動車購入費等
            四四五万四五九一円
 ア 通院交通費    一四四万五七一一円
 原告春子の現在の状況については前記一(3)のとおりであり、通院に際して、原告春子が公共交通機関を利用するのは著しく困難であるから、タクシーを利用する必要性があったと認められる。したがって、日大板橋病院への通院を開始した平成一一年一月一八日から、原告太郎が自家用車を使用して原告春子の送迎を行うことが可能となった平成一二年九月ころまでの約一年と七か月半の間のタクシー代並びにその後のガソリン代及び高速料金が、本件事故と相当因果関係を有する損害であると認められる。そして、《証拠略》によれば、平成一四年二月二八日までに支出した交通費の合計(タクシー代及び平成一四年三・四月分の駐車場代金も含む。)は一四四万五七一一円であるから、その全額を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
 イ 近親者付添交通費等
             五〇万八八八〇円
 《証拠略》によれば、本件事故後、原告春子の入院期間中、原告両親は、いずれか一人又は二人で、原告春子が退院するまでの間、毎日、同原告の入院している病院に行っていたこと、そのための交通費等として、平成一〇年一二月までに、合計一四八万二五四〇円を支出したことが認められる(なお、前記交通費の中には、原告春子が病院間を移動した費用も含まれているが、便宜上、本項において計上することとする。)。
 この点に関し、被告らは、原告春子の入院していた日大板橋病院は完全介護体制の整った病院であり、近親者介護の必要性はなかった旨主張する。確かに、後記(6)アのとおり、原告春子が日大板橋病院及び永生病院に入院していた期間については近親者介護の必要があったとまではいえないが、原告両親が原告春子の容態を案じ、同原告を見舞いに訪れることは、両親としては当然のことであり、心情としてもよく理解することができる。ただし、一方において、常に原告両親の両名が見舞いをすることを前提とすることは、原告春子の入院の中にはリハビリテーション目的のものも含まれていることからすると、損害の控えめな算定という観点からも相当ではないので、関東労災病院入院中の期間(一三〇日)については原告両親のうちいずれか一人による付添介護の必要性が認められること(後記(6)ア)、原告春子の負傷内容・入院期間等を総合考慮し、全ての入院期間につき一人分に当たる交通費を本件事故と相当因果関係を有する損害として認めるのが相当である。
 一方、原告らは、原告春子の入院期間中における原告両親の交通費の一部につきタクシー代を請求するが、原告らの住居は、当時においてもJR埼京線の浮間舟渡駅の駅前であること、原告両親については前記一(5)ウのような障害等があるものの、公共交通機関による移動ができないという事情は見当たらないこと(現に、永生病院、関東労災病院への通院については、概ね公共交通機関を利用している。)、証拠上、原告春子に対する看護が早朝深夜に及んで公共交通機関を利用できないという事情も認められないことからすれば、原告両親のみによるタクシーの利用について必要性・相当性を認めることはできない。したがって、原告両親のみの交通費については、原則として、公共交通機関を利用した場合に要する交通費に限り、本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。
 以上からすると、近親者の付添等のための交通費は、次のとおり、合計五〇万八八八〇円となる。
  (ア) 本件事故当日の交通費については、タクシー代四一六〇円を認める。
  (イ) 日大板橋病院(一二五日分。初日及び最終日は(ア)、(ウ)において別途考慮されているから含まない。(エ)、(カ)もこれに準ずる。)については、浮間舟渡駅・池袋駅間のJR運賃(片道)は一人当たり一六〇円、池袋駅・日大板橋病院間のバス料金(片道)は一人当たり一〇〇円であるから、往復分・一二五日分・一人分として、損害額は、次のとおり六万五〇〇〇円となる。
 (160+100)×2×125×1=6万5000円
  (ウ) 日大板橋病院から永生病院までの移動費用については、タクシー代五三四〇円を認める。
  (エ) 永生病院(二四四日分)については、浮間舟渡駅・めじろ台駅間のJR及び私鉄運賃(片道)は一人当たり五六〇円であるから、前記(イ)と同様にして計算すると、損害額は、次のとおり二七万三二八〇円となる。
 560×2×244×1=27万3280円
  (オ) 永生病院から関東労災病院までの移動費用については、移送代金三万三一〇〇円を認める。
  (カ) 関東労災病院(一二八日分)については、浮間舟渡駅・元住吉駅間のJR及び私鉄運賃(片道)は一人当たり五〇〇円であるから、前記(イ)、(エ)と同様にして計算すると、損害額は一二万八〇〇〇円となる。
 500×2×128×1=12万8000円
  (キ) (ア)ないし(カ)の合計
             五〇万八八八〇円
 ウ 自動車購入費等
            二五〇万〇〇〇〇円
 原告春子は、前記一(5)ウのとおり、外出につき介助を要する状態であり、通院等遠方への外出のために公共交通機関を利用することは困難で、少なくともタクシー又は自家用車の利用が必要である。
 そして、《証拠略》によれば、原告太郎は、原告春子の送迎のために平成一二年八月ころに普通自動車免許を取得して、自動車を購入し、これらの免許取得費用、自動車購入費用として、合計三二五万三〇〇〇円を支出したことが認められる。
 原告春子の後遺障害の内容、自動車が家族の利便にも資すること、原告太郎の免許取得時の年齢(六一歳)等の事情を総合考慮し、これらの費用のうち、本件事故と相当因果関係を有する損害として被告らに負担させるべき金額としては二五〇万円が相当と認める。
 (3) 装具費     一五万二二八五円
 当事者間に争いがない。
 (4) 入院雑費等  一三一万九八二三円
 《証拠略》によれば、原告両親は、① 原告春子の入院中、頻繁に各病院に通い、原告春子の食事・排泄等の介護を行い、諸雑費を支出したこと、② 原告春子の診療や介護に当たった医師・看護師、原告春子の見舞いに訪れた甲田エンタープライズの従業員や原告らの親戚らに対し、贈答品や礼金を謝礼として渡していたこと、③ 各病院において提供される食事では原告春子にとって不十分であると判断して、別に食事を取らせたりしたこともあること、④ そして、これらに支出した金員は、平成一四年二月分までで合計二一九万九七〇六円となることが認められる。
 なお、被告らは、入院雑費の算出根拠が明らかではなく、入院期間中の入院雑費は一日当たり一三〇〇円を上回ることはないと主張するが、もとより本件事故によって支出を余儀なくされた諸費用については、常に定額が損害とされるわけではなく、具体的立証が許されないものではない上、甲一〇は、その記載内容から、本件事故により発生した損害を原告花子が逐次記帳していったものであることが窺われ、また、甲一〇には支出した金額について「領収証渡し済み」との記載があり、領収証を被告らの付保する保険会社に対して送付していることが窺われることからすると、支出の記載内容については信用性が認められる。
 しかしながら、前記各支出の必要性及び相当性については、証拠上、必ずしも明確ではなく、かえって疑問があるものも存する(例えば、甲一〇には、平成一〇年一〇月三一日の欄に、原告春子に初めて寿司を食べさせた旨の記載があるが、原告春子に寿司を食べさせることは、両親としての心情としては理解することができるとしても、損害額算定の上で相当な支出であると認めることはできない。そのほかにも、見舞いに来た親戚に対する食事代等も記載されているが、同様に損害としての相当性は認め難い。)。そこで、原告らが請求する額には原告春子が退院した後の費用も含まれていること、入院雑費として一日当たり一五〇〇円として計算しても七五万一五〇〇円となり、これは原告らの請求額の四割程度に当たることなどを総合考慮し、前記支出額の六割に当たる一三一万九八二三円(円未満切捨て。以下同じ)について、本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。
 (5) 休業損害   六三五万六五四四円
 《証拠略》によれば、原告春子は本件事故当時甲田エンタープライズに勤務していたこと、本件事故前三か月間に原告春子が得ていた収入は七九万二六二〇円であったこと、甲田エンタープライズの賞与支給基準によれば、原告春子の所属していたパーラー部門については、基本給(一六万四四三〇円)の三・二か月分(年末)、同二・八か月分(夏期)の賞与を得られたことが認められる。
 そうすると、次のとおり、本件事故日から症状固定日までの五五〇日間の合計額六三五万六五四四円を、本件事故と相当因果関係のある休業損害と認めるのが相当である。
 79万2620円÷90日×550日=484万3788円(給与分)
 16万4430円×(3.2か月×2回+2.8か月×1回)=151万2756円(賞与分)
 484万3788円+151万2756円=635万6544円
 (6) 過去の介護費(症状固定前の介護費)
            一二三万七〇〇〇円
 ア 入院期間中の介護費
             八四万五〇〇〇円
 被告らは、日大板橋病院が完全介護体制の整った病院であること、永生病院及び関東労災病院への入院目的はリハビリテーションのためであること、各病院の診断書には付添介護を要した旨及びその期間についての記載が見られないことを理由として、入院期間中の介護費の必要性を争う。
 そこで検討するに、日大板橋病院については、同病院が完全介護体制の整った病院であること、原告春子は、同病院入院中は食事の経口摂取量が少なかったために、胃瘻からの経管食を併用していたが、永生病院に転院後の平成一〇年四月ころには経口摂取量が増え、同年六月二〇日には胃瘻からの経管食を中止し、同年八月ころには普段の食事量が三分の二ないし全量の摂取となったこと(前記一(1)ウ・エ(イ))、日大板橋病院入院期間の診療記録を検討しても、原告春子の食事については特に問題点が挙げられていない上に、医師から原告両親に対して介護の指示があった旨の記載も見当たらないことを総合すると、証拠上、原告両親が日大板橋病院に行って介護を行う必要があったとまでは認められない。また、永生病院についても、同様に、原告両親が介護を行う必要があったとまでは認められない(なお、見舞いについて基本的に相当性が認められることは、前記のとおりである。)。
 一方、関東労災病院については、原告春子が食事をするのに時間が掛かることがあったことは看護記録にも記載があり(前記一(3)ア)、このことは、原告花子が関東労災病院に行くと、朝食の食べ残しがあったり、午後二時ないし三時ころにまだ昼食を取っていたこともあったという原告花子の供述内容とも整合する。また、原告春子が薬の服用を忘れたり、意図的に隠すことがあったことは、前記一(3)イのとおりである。そうすると、少なくとも、関東労災病院においては、原告両親のいずれか一人が、原告春子の食事及び服薬についての介護を行う必要があったというべきである。
 したがって、関東労災病院の入院期間中の介護費については、原告両親のうち一名について付添介護の必要性が認められる。金額としては、一日当たり六五〇〇円を相当と認める。
 この点について、原告らは、前記費用は、日本臨床看護家政婦協会の資料に基づき、通勤手当及び二時間の時間外手当を含めて計算すると、一日当たり一万一七五〇円を下らないと主張する。確かに、原告両親の行った介護は原告春子の食事ごとに行われる食事及び服薬の介護が主であって、自宅と病院をその都度往復するには時間が掛かるから、原告両親のうち一人が病院に一日中付き添うことには合理性が認められる。しかしながら、その介護の内容は、原告らの主張によっても、最も手間の掛かるもので、原告春子が食事を自発的に摂取することができるように原告花子が原告春子の好む料理を作る程度のことであり、精神的負担はともかくとしても、肉体的負担として、通常の近親者介護よりも介護に手間を要するとは考え難い。これに、関東労災病院への入院がリハビリテーション目的であったこと、同病院の看護師も看護に当たっていたことを併せ考えれば、原告らの主張には理由がないといわざるを得ない。
 以上からすると、入院期間中の介護費については、次のとおり、八四万五〇〇〇円を相当と認める。
 6500円×130日=84万5000円
 イ 通院期間中の介護費
             三九万二〇〇〇円
 退院後も原告春子に介護が必要であることは前記一(4)から明らかであるところ、原告春子に対する近親者による介護費としては、後記の将来の介護費(症状固定後の介護費)との均衡及び退院後から症状固定までの期間が四九日間と比較的短期間であることを考慮し、一日当たり八〇〇〇円とするのが相当である。
 したがって、退院後症状固定までの四九日間の介護費については、次のとおり、三九万二〇〇〇円を相当と認める。
 8000円×49日=39万2000円
 (7) 将来の介護費(症状固定後の介護費)
         一億三二〇〇万三一六八円
 ア 職業付添人による介護費の額
  (ア) 《証拠略》によれば、本件訴訟における介護費の相当性をめぐる立証経過について、次の事実が認められる。
  a 原告らは、コムスンに一か月間の介護を委託し、コムスンは、平成一二年七月一〇日から同年八月九日までの間、原告春子の介護を行った。原告らは、この間の介護費として、コムスンに対し一三五万二四七三円(一日当たり四万三六二八円)を支払った。
  b 原告らは、有限会社ひまわりサービス(以下「ひまわりサービス」という。)に対し、平成一三年一〇月一日から同月三一日までの期間における前記aの介護と同内容の介護について、その費用の見積もりを依頼したところ、ひまわりサービスは、一か月当たり一八五万四七三四円(一日当たり約五万九八三〇円)と見積もった。ひまわりサービス代表取締役後藤美榮は、その陳述書において、① コムスン及びひまわりサービスの介護料金は、板橋区役所の介護報酬基準に則った正規の報酬額であること、② 介護保険制度によって介護保険の適用対象者の介護費が大幅に値上がりしたために、介護保険適用外の者についても、それに合わせる形で介護費が大幅に値上がりしたこと(なお、介護保険の適用対象者の場合、介護費の一割が自己負担となる。)、③ コムスンについても、この間、介護料金を値上げしたため、平成一二年当時の介護費では介護を承諾しないであろうこと、をそれぞれ述べている。
  c 被告らは、本件訴訟において原告らの主張する将来の介護費の単価が不当に高すぎ、介護保険制度の施行後においても、従前の金額体系によって介護を行う業者は存在すると主張し、紹介所のパンフレット(平成一二年版のもの。丙三)を提出した。そこで、当裁判所から被告らに対し、丙三の中から被告らの主張を裏付ける介護業者の選定を要請した。被告らは、株式会社富士介護サービス(以下「富士介護サービス」という。)及び有限会社畑紹介所(以下「畑紹介所」という。)を選定した。
  d 原告太郎は、富士介護サービスを訪問し、ひまわりサービス作成の介護日誌予定表及び見積書を示して介護を依頼したところ、富士介護サービスは、① 当時の原告らの自宅においては、居室から戸外に出るためには急な階段を下りる必要があったところ、原告春子が階段を下りる際には原告両親のいずれかの協力が必要であり、原告両親のいずれかの協力がない場合には、万一原告春子に事故があったときに責任が取れないこと、② 午前九時から午後一〇時までの介護となるため通勤による介護は難しく、住み込みによる介護を提案したところ、介護者が居住する場所がないとして原告らが住み込みによる介護を断ったこと、を理由に原告太郎の介護の申出を断った。
  e 原告らは、被告らの選定した介護業者である畑紹介所に、平成一四年二月一五日から同月二一日までの一週間、原告春子の介護を依頼した。同期間の介護費は、合計二九万八〇四五円を要した。また、この介護に基づき、畑紹介所に同年三月一日から同月三一日までの介護費について見積もりを依頼したところ、畑紹介所は、同期間の介護費を一二二万五九八〇円(一日当たり約三万九五四七円)と見積もった。なお、この費用にはヘルパーの往復以外で発生した交通費は含まれない。また、畑紹介所による介護の間、原告春子が風呂場で足をひねる等の事故が発生した。
  f なお、被告乙山及び同丁原運輸が提出した報告書(乙一六)には、株式会社仁済、有限会社ライフケアーイタバシが、現在でも介護保険制度適用以前の料金体系によって介護を引き受けているかのように読める記載がある。しかし、実際に原告春子の実情を説明して見積もりを取ったわけではないこと、有限会社ライフケアーイタバシは、丙三にも名前の挙げられている介護業者であるところ、同様に丙三に挙げられた畑紹介所が出した見積もりの結果が一か月で一二二万五九八〇円であることに照らすと、乙一六に記載された介護業者が現在においても乙一六記載のとおりの価格で原告春子の常時介護を引き受けるとは考え難く、前記記載は採用の限りではない。
  (イ) 前記(ア)の事実経過からすれば、原告春子に対する職業付添人による介護費は、一日当たり一三時間の介護を要することから、最低でも一日に二人の職業付添人が必要となり、現時点では、一日当たり四万円を下回ることはないものと考えられる。
 ところで、これまでの裁判例においては、職業付添人による介護費としては、一日当たり一万円ないし一万二〇〇〇円を認めるものが比較的多かったといえるが、前記の事実経過や、介護保険制度の施行後、介護保険の対象とならない者についての介護費も値上がりしている状態が現在も続いていることからすると、原告春子の介護費が、前記のような裁判例で認められた程度の額で足りるということは到底できない(ちなみに、比較的高額の介護費が認められた裁判例としては、一日当たり二万円を認めた大阪地裁平成五年二月二二日判決・交民集二六巻一号二一一頁、同額を認めた大阪地裁岸和田支部平成一四年七月三〇日判決・判例時報一八〇七号一〇八頁、一日当たり一万八三〇〇円を認めた東京地裁八王子支部平成一二年一一月二八日判決・自動車保険ジャーナル一三八八号等がある。)。
  (ウ) 他方、平成一二年四月の介護保険制度の施行後、なお介護費についての状況は安定しているとはいい難く、介護保険制度自体が検討・見直しを予定されている。また、今後、介護方式が多様化されることは容易に予想されるところ、多様化された介護方式の中では、原告春子のように、肉体的な負担は比較的少ないが常時の監視を主とする介護サービスについては、肉体的な負担の大きい介護よりも介護費としては安価な介護方式が提供されるであろうことは、合理的に予測される。そうであれば、将来の制度の見直し等による介護費の変化を正確に予測することは極めて困難ではあるものの、原告春子が死亡するに至るまで現在の介護費の価格水準がそのまま維持される蓋然性は低いというべきであり、損害の控えめな算定という観点からすれば、原告らの主張する金額を前提として原告春子の死亡までの将来の介護費を算定することは、被告らに極めて酷な結果をもたらし、妥当ではないといわざるを得ない。
 前記のとおり、原告らが介護費について一日当たり四万円を下回らないとの立証を行い、被告らがこれに対して有効な反証をなし得ていないことは明らかであるけれども、原告らが立証に成功したのは、あくまでも現時点の介護費の額である。そして、原告らが、一時金による損害賠償を求めるのであれば、六二年(後記のとおり、原告春子の症状固定時における平均余命は約六二年である。)もの長きにわたって現在の介護費の価格水準が維持されるか否かという蓋然性に基づいて判断せざるを得ないところ、前記のとおり、その蓋然性は低いものと考えられる(なお、本件においては、当事者が一時金賠償の方法による判決を求めたために定期金賠償の方法を採らなかったが、長期間にわたる将来の介護費のように、将来の事情の変更が予想されるためにその算定が極めて困難である損害の賠償については、変更判決の制度〔民訴法一一七条〕のある定期金賠償を求める方が、現時点における判断をそのまま損害額の算定に反映することができるために、本来発生する損害額により近い認定が可能であることを付言する。)。
  (エ) 以上の事情を総合考慮すると、職業付添人のみによる場合の原告春子の将来の介護費は、前記の四万円の六割に相当する一日当たり二万四〇〇〇円を基礎として算定するのが相当である。
  (オ) なお、被告らは、原告春子が平成五二年に六五歳となった以降は介護保険制度の適用があるから、同年以降は自己負担額以上の介護費を認めるべきではなく、また、介護費の算定に当たっては公的介助の存在を斟酌すべきであると主張するが、平成五二年以降に現行の介護保険制度がそのまま維持される保障はないことからすれば(平成一七年に介護保険制度の見直しないし再検討が予定されていることは、被告らが自ら主張するところである。)、給付が確実に受けられるとは到底いい難く、損害額から控除することはもとより、介護費算定の一事情として斟酌することも相当ではないから、被告らの主張は理由がない。
 また、その他各種の生活扶助に関する主張についても、被告らの主張する特別障害者手当と重度心身障害者手当は、いずれも重複障害者(重度の知的障害と身体障害が併存する者)を対象とするところ、ここにいう知的障害とは、ほぼ一八歳までの発達期に起きた障害を指すとされており、原告春子の障害はこれには含まれないために原告春子は受給を受けられないことが認められる。そして、被告らの主張する他の生活扶助の内容等は必ずしも判然としない上、福祉目的の給付(現在、原告春子が受給している心身障害者福祉手当を含む。)については、これを原告春子の損害から控除することは相当ではないから、結局、被告らの主張は理由がない。
 イ 近親者介護期間分
 前記一のとおり、原告春子に必要な介護の内容からすれば、原告花子の稼働可能期間中は、概ね近親者による介護で足りるものと判断される。
 もっとも、原告花子が六七歳となるまでの期間においても、外出・入浴等については、原告花子(原告両親)のみによる介護は不可能であることは前記のとおりであることからすれば、ある程度は職業付添人による介護が必要であると認められる。そして、以上に加え、原告春子の起床から就寝までの時間が午前八時から午後九時までの一三時間程度であること、原告春子に必要な介護の内容を総合勘案すると、原告花子が六七歳となるまでの期間については、一日当たり二時間、職業付添人が介助を行うものとして介護費を算定するのが相当であると認められる。
 そして、近親者による介護費は一日当たり八〇〇〇円が、職業付添人による介護費は、前記アのとおり一日当たり二万四〇〇〇円がそれぞれ相当であるから、症状固定時から原告花子が六七歳となるまでの期間(平成一一年二月一二日から平成二〇年一一月三日までの約一〇年間)における介護費は、次の計算式①のとおり、一日当たり一万一六九二円となる(前記のとおり、一日当たり一三時間の介護を行うことを前提とする。)。したがって、前記期間における介護費の合計額は、次の計算式②のとおり、三二九五万二九七二円となる。
 ① 8000円+(2万4000円÷13時間)×2時間=8000円+3692円=1万1692円
 ② 1万1692円×365日×7.7217(10年のライプニッツ係数)=3295万2972円
 ウ 職業付添人のみによる介護の期間分
 前記のとおり、職業付添人の介護費は、一日当たり二万四〇〇〇円として算定するのが相当であるところ、原告春子の症状固定時における平均余命は約六二年であるから(原告春子は症状固定時である平成一一年二月一二日当時二三歳であり、平成一一年簡易生命表によれば、二三歳女性の平均余命は六一・五五年である。)、これから前記イの一〇年間を除いた五二年間について、職業付添人による常時介護を必要とするものとして介護費を計算すると、次のとおり、九九〇五万〇一九六円となる。
 2万4000円×365日×(19.0288-7.7217〔62年のライプニッツ係数-10年のライプニッツ係数〕)=876万0000円×11.3071=9905万0196円
 エ 合計
 3295万2972円+9905万0196円
 =1億3200万3168円
 (8) 逸失利益  七四二〇万二六六二円
 《証拠略》によれば、原告春子は、平成八年三月二七日、総合職の正社員として甲田エンタープライズに雇用されたこと、同社に原告春子と同時期に雇用された女子社員は、現在、指導監督職・経営職として同社の重要な職務を遂行していること、女子社員であっても総合職については定年まで仕事を継続することが前提とされていたことが認められる。そうすると、逸失利益の算定に当たっては、次の計算式①のとおり、事故前の年収四二〇万一〇九四円を基礎とするのが相当である。
 そして、原告春子は、本件事故に遭わなければ、二三歳から六七歳までの四四年間就労することができたのであるから、原告春子の逸失利益は、次の計算式②のとおり、七四二〇万二六六二円となる。
 ① 79万2620円÷90日×365日=321万4514円(給与分)
  16万4430円×(3.2+2.8)=98万6580円(賞与分)
  321万4514円+98万6580円=420万1094円
 ② 420万1094円×17.6627(44年のライプニッツ係数)=7420万2662円
 (9) 原告春子の慰謝料
           三六八〇万〇〇〇〇円
 ア 入通院慰謝料   四八〇万〇〇〇〇円
 原告春子は、本件事故によって、脳の一部をえぐり取られ、入院中に大きな手術だけでも六回も受け、文字どおり生死の境をさまよったことのほか、原告春子の入通院期間、原告春子のその他に負った傷害の程度等を総合考慮し、入通院慰謝料の額は、原告ら主張どおり、四八〇万円を相当と認める。
 イ 後遺障害慰謝料
           三二〇〇万〇〇〇〇円
 原告春子は、本件事故当時、二一歳の独身女性であり、何ら落ち度がないにもかかわらず、若くして高次脳機能障害、左片麻痺、右眼喪失等の極めて重大な後遺障害を負い、生涯にわたり常時介護を要するに至ったこと、頭蓋骨が陥没し外貌についても著しい醜状が残ったこと、現在でもなお服薬を怠れば脳痙攣を起こして死亡する危険性を有していること等を総合考慮し、後遺障害慰謝料は三二〇〇万円を相当と認める。
 (10) 小計 二億五八八九万六〇九九円
 (11) 損害填補後の残額
         一億七九四八万三七一二円
 損害の填補額が前記前提となる事実等(7)の合計七九四一万二三八七円であることは、当事者間に争いがない。
 なお、《証拠略》によれば、原告春子は、平成一二年八月三一日までの間に、通勤災害に関する療養給付(診療費・薬剤費)として合計三一三一万四九〇〇円の支払を受けていることが認められるが、原告らの請求する治療費二三四万九〇二六円は前記療養給付の額を予め控除した額であるから、前記療養給付の額は本件請求にかかる損害の填補に当たらない。したがって、損害の填補後の残額は、次の計算式のとおり、一億七九四八万三七一二円となる。
 2億5889万6099円-7941万2387円
 =1億7948万3712円
 (12) 弁護士費用
           一三〇〇万〇〇〇〇円
 本件の事案の内容、審理の経過、認容額等にかんがみると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、原告春子につき一三〇〇万円と認める。
 (13) 合計 一億九二四八万三七一二円
 三 原告両親の損害について
 (1) 原告両親固有の慰謝料
           各四〇〇万〇〇〇〇円
 原告両親の唯一の子である原告春子は、前記のように、本件事故によって、生死の境をさまよったばかりでなく、若くして、高次脳機能障害、左片麻痺、右眼喪失、著しい外貌醜状等の重大な障害を負った上、現在でもなお死亡する危険性を有しており、原告春子の受傷による原告両親の精神的苦痛は察するに余りある。また、原告両親は、自ら営んでいたクリーニングの取次店を実質的に廃業して、原告春子の介護に当たっており、今後とも、本件事故がなければ享受できたであろう自分自身の生活上の歓びを犠牲にして、原告春子の介護につき老齢に至るまで中心的役割を担わざるを得ない。そして、原告両親は、原告春子が指示に従わなかったり、従ってもなかなかそれを実行に移せないのを見て、原告春子を叱咤し、時には叩くなどの行為に及び、その後で自らを責めるようなことを繰り返し、その度に本件事故のことを思い出さざるを得ないという状況にあるが、このことからも推察されるように、介護による原告両親の精神的負担も極めて重い。
 以上を総合すれば、原告両親は、原告春子の死亡にも比肩すべき精神的苦痛を被ったものというべきであり、原告両親の固有の慰謝料として各四〇〇万円を認めるのが相当である。
 (2) 弁護士費用  各四〇万〇〇〇〇円
 本件の事案の内容、審理の経過、認容額等にかんがみると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、原告両親につき各四〇万円と認めるのが相当である。
第四 結論
 以上の次第であり、原告らの本訴各請求は、被告らに対し、連帯して、原告春子が一億九二四八万三七一二円、原告両親が各四四〇万円及びこれらに対する本件不法行為の後の日である平成九年八月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるので、これらの限度で認容し、その余は失当として棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河邉義典 裁判官 松本利幸 石田憲一)

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