東京地方裁判所判決 平成16年12月21日

       主   文

 1 被告Aは,原告Bに対し金2億8869万3547円及び内金2億8498万4531円に対する平成10年4月29日から,内金370万9016円に対する平成12年10月19日から各支払済みまで年5分の割合による金員,原告Cに対し金220万円,原告Dに対し金110万円,原告Eに対し金110万円及び各金員に対する平成10年4月29日から各支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。
 2 被告F株式会社は,原告らの被告Aに対する判決が確定したときは,原告Bに対し金2億8869万3547円及び内金2億8498万4531円に対する平成10年4月29日から,内金370万9016円に対する平成12年10月19日から各支払済みまで年5分の割合による金員,原告Cに対し金220万円,原告Dに対し金110万円,原告Eに対し金110万円及び各金員に対する平成10年4月29日から各支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。
 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 4 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告らの,その余を被告らの各負担とする。
 5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 請求
 1 被告A(以下「被告A」という。)は,原告B(以下「原告B」という。)に対し,4億2930万2984円とこれに対する平成10年4月29日から支払済みまで年5分の割合による金員及び平成15年5月から本判決確定の日まで毎月末日限り1か月8万2000円,並びに,原告C(以下「原告C」という。)に対し1320万円,原告D(以下「原告D」という。)に対し680万円,原告E(以下「原告E」という。)に対し550万円及びこれらの各金員に対する平成10年4月29日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告F株式会社(以下「被告保険会社」という。)は,原告らの被告Aに対する判決が確定したときは,原告Bに対し,4億2930万2984円とこれに対する平成10年4月29日から支払済みまで年5分の割合による金員及び平成15年5月から本判決確定の日まで毎月末日限り1か月8万2000円,並びに,原告Cに対し1320万円,原告Dに対し680万円,原告Eに対し550万円及びこれらの各金員に対する平成10年4月29日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 前提事実
   以下の事実は,明らかに争いがないか,各項末尾に掲記の証拠により認めることができる。
 1 交通事故の発生
   原告Bは,以下の交通事故(以下「本件事故」という。)により負傷した。
 (1)日 時  平成10年4月29日午後1時ころ
 (2)場 所  神奈川県海老名市〈省略〉先国道246号線上
 (3)加害車両 普通貨物自動車(春日部**あ****,以下「被告車」という。)
    運転者  被告A
    保有者  訴外有限会社G(以下「G」という。)
 (4)被害車両 普通乗用自動車(相模**さ****,以下「原告車」という。)
    運転者  原告B
 (5)事故態様 国道246号線を○○方面から××方面へ走行してきて赤信号に気付かず交差点に進入した被告車が,交差する市道を△△方面から◇◇方面に走行してきて交差点に進入した原告車と側面衝突した。
 2 責任原因
 (1)被告A
    被告Aは,被告車を運転し,国道246号線を進行中,対面信号が赤であったにもかかわらず,漫然とこれを見過ごし交差点に進入した過失により,本件事故を発生させたものであるから,民法709条に基づき,損害賠償責任を負う。
 (2)被告保険会社
   ア Gは,平成10年4月27日,被告保険会社との間で,被告車を被保険車とし,保険期間を平成10年4月28日から平成11年4月28日午後4時までの1年間,対人賠償無制限とする自動車総合保険(以下「本件保険」という。)契約を締結した。
   イ Gは,被告車を自己のために運行の用に供していた者であるから,自動車損害賠償保障法3条に基づき,本件事故により原告らに生じた損害を賠償すべき責任を負う。
   ウ 損害賠償請求者である原告らは,被告Aに対する判決が確定したときは,保険会社に対して直接請求権に基づき,損害額の支払を請求することができる。
 3 傷害の内容及び治療経過
 (1)傷病名
    脳挫傷,外傷性くも膜下出血,脳室内出血,外傷性血気胸
 (2)治療経過
   ア 入院
   (ア)H病院に平成10年4月29日から同年7月23日まで入院
   (イ)I病院に平成10年7月23日から平成11年5月27日まで入院
   (ウ)J病院に①平成11年5月27日から同年10月16日まで,②平成12年1月21日から同年2月5日まで各入院
   イ 通院
     J病院に①平成11年10月17日から平成12年1月20日まで,②平成12年2月6日から同年5月15日まで各通院
   ウ 症状固定日  平成12年5月15日
 (3)後遺障害の程度及び等級
   ア 程度 脳外傷,外傷性てんかん
        運動機能障害(四肢・体幹筋力低下,失調を認める。手指は巧緻性が著しく障害されている。歩行は不能,起立位保持も困難,バランス障害あり)
        外傷性てんかん(脳波上スパイク波あり,てんかん発作あり,常に監視を要する。今後も内服継続を要する。)
        高次脳機能障害(意欲低下,脱抑制,易怒性,全般的知的機能低下,失語症,注意・集中力低下,記銘力低下)等
   イ 等級 自賠法施行令所定の後遺障害等級1級3号(重度の神経系統の機能又は精神の障害のために生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について常に他人の介護を要するもの)
   (甲8,9,弁論の全趣旨)
第3 争点及び当事者の主張
 1 原告Bの損害
  【原告らの主張】
 (1)治療関係費                 646万3146円
 (2)付添介護費              2億0235万3301円
   ア 症状固定までの付添費  1195万2000円
     1日あたり8000円×2人×747日=1195万2000円
   イ 将来の介護費    1億9040万1301円
   (ア)症状固定後原告Cが67歳に達するまでの7年間
     a 近親者介護分 1日8000円×365日×5.7863=1689万5996円
     b 職業介護分  3時間2万円×365日×5.7863=4223万9990円
   (イ)それ以降38年間(原告Bの平均余命45年-上記7年)
      職業介護費1日3万円×365日×(17.7740-5.7863)=1億3126万5315円
 (3)入院雑費                   82万8000円
    1日あたり1500円×552日=82万8000円
 (4)交通費                    21万5017円
   ア 本人交通費    5万7273円
   イ 介護者交通費  14万5794円
   ウ 自宅帰宅費用   1万1950円
 (5)介護者宿泊費                466万8486円
   ア 症状固定前  175万7486円
     本件事故後,原告Bの家族が原告Bの看護・介護にあたるには,住所地である千葉県船橋市からJ病院へ通うのはいかにも遠く不便であったため,やむなく同病院の近所に宿泊する場所を確保するために借りたものである。この費用についても,当然本件事故に基づく損害として被告らには賠償責任がある。
   イ 症状固定後  291万1000円
     アと同趣旨の必要な費用であり,借家の家賃として1か月8万2000円,平成12年5月16日から訴訟を提起した平成15年4月30日まで(35か月15日)の合計である。
     8万2000円×35.5月=291万1000円
   ウ 借家の家賃
     平成15年5月以降,借家の家賃として毎月末日限り8万2000円を要している。
 (6)医師・看護師への謝礼            128万0325円
   ア I病院の医師に渡した謝金  35万円
   イ H病院の医師等に渡した謝金 80万円
   ウ その他           13万0325円
 (7)将来の通院交通費              426万5256円
    症状固定後も通院は続けており,通院のためには少なくとも月額2万円年間24万円の経費が見込まれる。この金額を基準に平均余命45年につき計算した金額である。
 (8)将来の雑費(紙おむつ代)          533万1570円
    大人用の紙おむつ購入費として,少なくとも年間30万円の損害の発生が見込まれる。この金額を基準に平均余命45年につき計算した金額である。
 (9)装具・器具等購入費             136万6024円
   ア 車椅子購入費       70万8669円
     車椅子1台の単価を17万2957円として4年毎に買い換える必要があるとして計算した金額である。
   イ 介護用ベッド購入費    50万0624円
     介護用ベッドの単価を36万7028円として10年毎に買い換える必要があるとして計算した金額である。
   ウ リハビリ用シューズ購入費 15万6731円
     1足2940円で年間3足必要として8820円,平均余命45年につき計算した金額である。
 (10)住宅改造費               1839万3900円
    原告Bは,脳外傷・外傷性てんかんの重大な後遺障害(1級3号)を負っており,その結果,食事,トイレなどの基本的日常行為すら1人では満足に行うことができず,車椅子の生活を余儀なくされ,常時,介助者の介護を必要とせざるを得なくなってしまった。このため,車椅子での移動を容易にするために,床部分を補強し,玄関,台所,トイレ等を全面的に改造する必要が生じたものである。
 (11)障害者用車両購入費            569万0147円
    原告Bをリハビリのために病院に連れて行かなければならないが,その便宜のためには,障害者用車両が不可欠である。この車両1台購入には316万7000円が必要であり,8年毎に新車に買い換えなければならないとして,平均余命45年につき計算した金額である。
 (12)後見申立費用                10万1000円
    本件事故により,原告Bにつき成年後見制度の利用を余儀なくされたことに基づく損害である。
 (13)休業損害                 469万1963円
    原告Bの症状が固定した平成12年度までは毎年5パーセント上昇したことを前提にすると,原告Bの平成9年度の年収は639万7107円であるから,平成10年度の収入は671万6962円,平成11年度の収入は705万2810円,平成12年度の収入は740万5450円と推定される。
    結局,原告Bが症状固定した平成12年5月15日までの休業損害として被った損害は,次の計算式のとおり469万1963円となる。
    平成10年度 671万6962円-559万5212円=112万1750円
    平成11年度 705万2810円-461万2589円=244万0221円
    平成12年度 740万5450円×136/366-436万4440円×136/366=112万9992円
    以上合計469万1963円
 (14)後遺障害逸失利益          1億3149万3844円
   ア 原告Bの定年までの逸失利益 1億2011万6854円
     平成9年度の年収は639万7107円であり,前記のとおり,症状固定した平成12年度の年収は少なくとも740万5450円であると推定される。その後の上昇ペースは原告Bの定年時まで少なくとも年間平均1.5パーセントの上昇は十分見込める。すると,原告Bの60歳定年時までの逸失利益は,合計1億2393万9201円となる。
     しかし,原告Bは,症状固定した平成12年5月15日以降,給与として382万2347円の支給を受けていたのでこれを控除すると,1億2011万6854円となる。
   イ 原告Bの定年後の逸失利益    1137万6990円
     賃金センサス平成12年第1巻第1表産業計・企業規模計・男性労働者・大卒の60歳から64歳までの年収額699万0900円を基礎とし,就労可能年数を67歳までの7年間として,33年のライプニッツ係数から26年の係数を減じたものを用いて中間利息を控除すると,次の計算式のとおり逸失利益は1137万6990円となる。
     699万0900円×(16.0025-14.3751)=1137万6990円
 (15)得べかりし退職金             667万円
    本件事故当時,原告Bは32歳であり,28年後の定年退職時には,K銀行から少なくとも退職金3200万円の支給を受けられた。28年のライプニッツ係数を用いて原価を算出すると,816万円である。
    他方,今すぐ退職すると149万円の支給は受けられるので,原告Bの得べかりし退職金は,次の計算式のとおり667万円である。
    3200万円×0.2550-149万円=667万円
 (16)慰謝料                 3400万円
   ア 入通院慰謝料     400万円
   イ 後遺障害慰謝料   3000万円
 (17)確定遅延損害金              370万9016円
    原告Bが自賠責保険により,平成12年10月18日に受けた3000万円の填補部分について,本件事故日から支払日までに発生した2年173日分の確定遅延損害金。なお,平成12年は閏年なので366日で計算した。
 (18)小計                4億3152万0995円
 (19)損害の填補額             ▲4221万8011円
 (20)弁護士費用               4000万円
 (21)合計                4億2930万2984円
  【被告らの主張】
 (1)症状固定前の近親者の付添については,現在,多くの病院が完全看護体制をとっており,かつ,本件においても要付添ではないことから,付添関連費用は事故との相当因果関係を欠くというべきである。すなわち,原告ら主張の,症状固定までの介護費,介護者交通費,介護者宿泊費,借家代は,本件事故と相当因果関係を欠くものであり,認められない。
 (2)医師・看護師への謝礼も128万円余と,社会通念上相当な額とは到底言えず,全額を本件事故と相当因果関係あるものと認めることはできない。
 (3)住宅改造については,キッチン,換気乾燥機,外壁工事など,本件後遺障害にとっていかなる必要性が認められるのか甚だ疑問が残る工事が多々含まれている。また,改造によって他の家族の利便性も向上するのであるから,原告ら請求の改造費用は過大に過ぎ,全額について本件事故と相当因果関係を認めることはできない。
 (4)原告らは,原告Bが定年までK銀行に勤め,しかも毎年着実に基礎年収が上昇するものとして,休業損害及び逸失利益を算定する。
    しかし,同人が就職したL銀行がM銀行と合併した際には大幅な人員削減がなされたことは公知の事実であり,現在も銀行業界が厳しい経営環境にあり,さらなる人員削減と給与削減がなされていることも公知の事実である(現に,同僚の年収は平成15年に下がっている。)。また,銀行同士の合従連衡が続き,同じ就業環境が続く蓋然性も低い上,もとより定年まで全うすることなく関連会社に出向するケースが多い業種でもある。
    したがって,原告らの主張が前提を欠くことは明らかであり,とすれば事故前年の年収を基礎として算定するのが最も合理的である。
 (5)退職金については,書証上これを認めることはできない。また,現在の経済情勢や雇用情勢及び勤務先の業種(銀行)にかんがみても,原告Bが定年まで同銀行に勤務し続けて,しかも,そのような極めて遠い将来に原告ら主張のような金額を退職金として受領できる高度の蓋然性は,到底認められないというべきである。
 (6)後遺障害慰謝料については,本件後遺障害は1級3号であるから2800万円が相当因果関係のある慰謝料である。
 2 原告Cらの損害
  【原告らの主張】
 (1)原告Cは,原告Bの母であり,昭和37年12月20日,訴外N(以下「訴外N」という。)と婚姻の届出をした。原告D及び原告Eは,いずれも原告Bの妹である。
    本件事故により原告Bは回復の見込みのない後遺障害を負うことになり,訴外Nをはじめとして原告C,原告D及び原告Eら家族全員は,原告Bの介助に忙殺されることとなった。この結果,原告C及び原告Dは勤務先をやめざるを得なかった。このような中で,訴外Nが本件事故の処理のために心身共に疲弊し,平成11年12月3日に急性心筋梗塞のため突然倒れ,そのまま死亡した。このため,原告Cは絶望の淵に立たされた。
    原告Bの介護は過酷を極めている。病院における介護ですら,看護師2人がかりで原告Bの移動をしている状況であり,まして身長145cm,体重40kgの原告Cが1人で,身長173cm,体重74kg原告Bを介護するのは全く無理で,最低でも原告Dか原告Eのいずれかの手助けが必要な状況である。
    しかるに,被告Aは,本件事故に関する業務上過失致傷事件の刑事裁判の中でも不誠実な態度をとり続け,原告らに対する謝罪の態度を示さず,また一度も見舞・手紙・電話等による謝罪をしないで今日に至っている。
    以上の事情を考慮すると,原告Cら(原告Bを除く。)の被った精神的苦痛に対する固有の慰謝料等(訴外Nの慰謝料請求権を相続した分を含む。)の損害は,以下のとおりである。
 (2)原告Cの損害         計1320万円
   ア 固有の慰謝料  1200万円
   イ 弁護士費用    120万円
 (3)原告Dの損害          計680万円
   ア 固有の慰謝料   620万円
   イ 弁護士費用     60万円
 (4)原告Eの損害          計550万円
   ア 固有の慰謝料   500万円
   イ 弁護士費用     50万円
  【被告らの主張】
   近親者慰謝料も過大である。
 3 定期金賠償
  【被告らの主張】
   将来の介護費用,通院交通費,雑費,装具・器具等購入費,車両購入費,逸失利益など,将来の時間的経過により請求権が具体化する費目については,定期金賠償方式が採られるべきである。なぜなら,後遺障害1級の場合の余命の予想は極めて問題がある上,統計の前提となる母集団の構成(健常者と重度障害者を含む非健常者との割合)を考えれば,その統計の結果である平均余命表を,現に重度障害が発現しているケースに適用することには合理性が認められず,したがって,平均余命までの生存の予想を認定することはできないものと考えられる。とすれば,定期金賠償が認められる限度でしか証明がなされていないと考えるのが合理的であるから,定期金賠償方式が採られるのが相当なのである。介護費用については多数の判例が定期金賠償方式を認めていること,現在の低金利下における中間利息控除の問題を回避できる点で,被害者側にも相当のメリットが認められること,本件において実際の支払は損害保険会社が行うものであり履行確保の点で問題はないこと等からすれば,上記費目について定期金賠償が採られることに何ら問題はない。
  【原告らの主張】
   定期金賠償方式を相当とする主張に対しては,これを否認する。
第4 争点に対する判断
 1 争点1(原告Bの損害)について
 (1)治療関係費         646万3146円
    当事者間に争いがない。
 (2)付添介護費      1億1734万2204円
   ア 症状固定までの付添費   448万8000円
     原告Bは,前記認定のとおり,本件事故により脳挫傷,外傷性くも膜下出血,脳室内出血,外傷性血気胸等の重傷を負い,また,運動機能障害,外傷性てんかん,高次脳機能障害等の重度の後遺障害を負うに至ったものであるところ,前記治療経過及び傷害の程度に照らして,症状固定時までの近親者付添費として,1日当たり6000円が相当と認める。
     なお,被告らは,完全看護体制であるので付添介護の必要がないと主張するが,証拠(甲8,41,61,原告C)によれば,原告Bは入院期間中生死の境をさまようような重篤な状態であり,3回の手術を経ていること,また,家族がそばにいて,食事の世話やリハビリ訓練等に付き添い,必死に回復に務めていたこと,I病院については家族の介助が必要であるとの証明書が出されていること等の事情が認められるので,近親者付添費を否定するのは相当ではない。もっとも,原告ら主張の2人分までの必要性については認めるに足りる証拠がない。したがって,本件事故日から症状固定日までの合計748日間の付添介護費は,次のとおり448万8000円となる。
     6000円×748日=448万8000円
   イ 将来の介護費    1億1285万4204円
   (ア)症状固定後原告Cが67歳に達するまでの7年間
      原告Bは,前記認定のとおり,運動機能障害(四肢・体幹筋力低下,失調を認める。手指は巧緻性が著しく障害されている。歩行は不能,起立位保持も困難,バランス障害あり),外傷性てんかん(脳波上スパイク波あり,てんかん発作あり,常に監視を要する。今後も内服継続を要する。),高次脳機能障害(意欲低下,脱抑制,易怒性,全般的知的機能低下,失語症,注意・集中力低下,記銘力低下)等の状態であり,また,証拠(甲42,原告C)によれば,原告Bは,食事,トイレ,移動,入浴等の世話をはじめとして,常時介護が必要な状態であり,原告Bの母である原告Cのみならず,原告D及び原告Eや,一部は職業介護人に頼らざるを得ないことが認められる。そこで,ケアサービスの料金表(甲50~53)等も参考にして考えると,近親者介護及び一部職業介護を含めた介護費は,1日当たり1万2000円が相当と認める。
      1万2000円×365日×5.7863(7年のライプニッツ係数)=2534万3994円
   (イ)それ以降38年間(原告Bの平均余命45年-上記7年)
      原告Bの症状に照らして,原告Cの介護が期待できないと考えられる場合の職業介護費としては,上記ケアサービスの料金表等も参考にして,1日当たり2万円が相当と認める。
      2万円×365日×{17.7740(45年のライプニッツ係数)-5.7863}=8751万0210円
   (ウ)小計 1億1285万4204円
 (3)入院雑費           71万7600円
    弁論の全趣旨により,1日当たり1300円が相当と認める。
    1300円×552日=71万7600円
 (4)交通費            21万5017円
    証拠(甲14~16(各枝番を含む。以下同じ))により,以下のとおり認める。
   ア 本人交通費    5万7273円
   イ 介護者交通費  14万5794円
   ウ 自宅帰宅費用   1万1950円
 (5)介護者宿泊費        630万8486円
    証拠(甲17~29,47,48,原告C)によれば,本件事故後,原告Bの家族が原告Bの看護・介護にあたるには,住所地である千葉県船橋市からJ病院へ通うのはいかにも遠く不便であったため,やむなく同病院の近所に宿泊する場所を確保するために借りたものであること,したがって,これに関して支出を余儀なくされた費用を本件事故と相当因果関係ある損害と認めることができる(これに反する被告らの主張は採用できない。)。上記証拠によれば,その額は以下のとおりであると認められる。
   ア 症状固定前  175万7486円
     ホテルの宿泊費や借家契約に基づく家賃等として要したものである。
   イ 症状固定後  291万1000円
     借家の家賃として要した費用は,1か月当たり8万2000円,平成12年5月16日から平成15年4月30日まで(35か月15日)の合計は291万1000円となる。
     8万2000円×35.5月=291万1000円
   ウ 平成15年5月以降の借家の家賃        164万円
     平成15年5月以降も原告Bのリハビリテーションのため,借家せざるを得ず,その家賃として毎月末日限り8万2000円を要している。したがって,平成15年5月から本判決言渡しの月である平成16年12月までの20か月分の家賃相当額を損害と認める。
     8万2000円×20月=164万円
     なお,後記のとおり,住宅改造費を本件事故と相当因果関係ある損害と認めるので,家賃相当額の損害は上記の限度にとどめるものである(なお,家賃と住宅改造費が重複損害となるものではない。)。
 (6)医師・看護師への謝礼     73万0325円
   ア 前記のとおり,原告Bは,傷害が脳挫傷等と重傷であり,また,3回手術をしていることが認められるので,原告主張の医師等に渡した謝金合計115万円のうち,60万円を本件事故と相当因果関係ある損害と認める。
   イ 証拠(甲30)により,医師・看護師等への贈答品代として要した13万0325円を損害と認める。
 (7)将来の通院交通費      426万5760円
    証拠(甲14~16,42,43,原告C)によれば,原告Bは,症状固定後も,平日は毎日J病院に通院を続けており,通院のための交通費として少なくとも月額2万円年間24万円の経費が見込まれることが認められる。この金額を基準に平均余命45年(ライプニッツ係数17.7740)につき計算すると,次のとおり426万5760円となる。
    24万円×17.7740=426万5760円
 (8)将来の雑費(紙おむつ代)  426万5760円
    証拠(甲31,42,43,原告C)及び弁論の全趣旨によれば,原告Bは,大人用の紙おむつ購入費として,少なくとも月額2万円年間24万円の費用の発生が見込まれることが認められる。この金額を基準に平均余命45年につき計算すると,次のとおり426万5760円となる。
    24万円×17.7740=426万5760円
 (9)装具・器具等購入費     136万6066円
    証拠(甲32,33,42,原告C)及び弁論の全趣旨により,以下のとおり認める。
   ア 車椅子購入費       70万8674円
     車椅子1台の単価を原告ら主張の17万2957円とし,4年毎に買い換える必要があるとして,4年毎のライプニッツ係数により計算した金額である。
     17万2957円×{0.8227+0.6768+0.5568+0.4581+0.3768+0.3100+0.2550+0.2098+0.1726+0.1420+0.1168(計4.0974)}=70万8674円
   イ 介護用ベッド購入費    50万0626円
     介護用ベッドの単価を原告ら主張の36万7028円とし,10年毎に買い換える必要があるとして,10年毎のライプニッツ係数により計算した金額である。
     36万7028円×{0.6139+0.3768+0.2313+0.1420(計1.3640)}=50万0626円
   ウ リハビリ用シューズ購入費 15万6766円
     1足2940円で年間3足必要として8820円とし,平均余命45年のライプニッツ係数により計算した金額である。
     8820円×17.7740=15万6766円
 (10)住宅改造費       1103万6340円
     証拠(甲34,39,41~43,原告C)によれば,原告Bは,脳外傷・外傷性てんかんの重大な後遺障害(1級3号)を負っており,その結果,食事,トイレ,入浴などの基本的日常行為すら1人では満足に行うことができず,車椅子の生活を余儀なくされ,常時,介助者の介護を必要とせざるを得なくなってしまったこと,このため,車椅子で移動を容易にするために,床部分を補強し,玄関,台所,トイレ等を全面的に改造する必要が生じたものと認められる。
     もっとも,原告ら提出の工事見積書を検討しても,これほど大がかりな住宅改造がすべて必要であるかという点については疑問があるし,原告Bのためのみならず,家族の利便性の向上部分もあるものと考えられるので,そのうちの6割相当を損害と認める。
     1839万3900円×0.6=1103万6340円
 (11)障害者用車両購入費    569万0148円
     証拠(甲33,42,43,原告C)及び弁論の全趣旨によれば,原告Bをリハビリのため,平日は毎日J病院に連れて行かなければならないが,その便宜のためには,障害者用車両が不可欠であること,この車両1台購入には316万7000円が必要であること,8年毎に新車に買い換えなければならないことが認められ,平均余命45年につき,8年毎のライプニッツ係数によりその原価を計算すると,次のとおり569万0148円となる。
     316万7000円×{0.6768+0.4581+0.3100+0.2098+0.1420(計1.7967)}=569万0148円
 (12)後見申立費用        10万1000円
    証拠(甲58~60)によれば,本件事故により,後遺障害1級3号となった原告Bにつき成年後見制度の利用を余儀なくされたこと,その費用として10万1000円を要したことが認められる。
 (13)休業損害         469万1963円
    証拠(甲11,37,38,54~57)によれば,原告Bは,本件事故当時32歳で,銀行に勤務しており,前年である平成9年度には,639万7107円の収入を得ていたこと,原告Bと同期入社社員の給与収入の平成10年から同13年までの推移に照らして,平成10年度から症状固定日である平成12年5月当時までについては,原告ら主張のとおり,毎年5パーセントの上昇を前提とした推定年収により休業損害を算定することに不合理はないといえる。
    そうすると,原告Bの休業損害は,以下のとおり合計469万1963円となる。
    平成10年度 671万6962円-559万5212円=112万1750円
    平成11年度 705万2810円-461万2589円=244万0221円
    平成12年度 740万5450円×136/366-436万4440円×136/366=112万9992円
 (14)後遺障害逸失利益   億1400万8727円
   ア 原告Bの定年までの逸失利益 1億0263万1737円
     上記のとおり,平成12年度の推定年収は740万5450円であり,これを基礎収入として,労働能力喪失率は後遺障害等級1級で100パーセント,症状固定した平成12年度(症状固定時34歳)以降,原告Bが定年となる60歳までの26年間の逸失利益を算定すると,以下のとおり,1億0645万4084円となる。
     740万5450円×14.3751=1億0645万4084円
     もっとも,原告Bは,症状固定した平成12年5月15日以降給与として382万2347円の支給を受けていた(原告らが自認している。)ので,これを控除すると,1億0263万1737円となる。
     なお,原告らは,平成12年度以降も年間平均1.5パーセントの上昇が十分見込めると主張するが,原告Bと同期入社社員の給与収入が平成15年度は同14年度と比べて減少していることや(甲45,46),昨今の銀行を取り巻く厳しい経済情勢等に照らして,原告ら主張の事実を認めるに足りる的確な証拠はないと言わざるを得ない。
   イ 原告Bの定年後の逸失利益  1137万6990円
     原告ら主張の賃金センサス平成12年第1巻第1表産業計・企業規模計・男性労働者・大卒の60歳から64歳までの年収額699万0900円を基礎とし,就労可能年数を67歳までの7年間として,33年のライプニッツ係数から26年の係数を減じたものを用いて中間利息を控除すると,次の計算式のとおり逸失利益は1137万6990円となる。
     699万0900円×(16.0025-14.3751)=1137万6990円
 (15)得べかりし退職金            0円
    原告らは,原告Bが28年後の定年退職時には少なくとも退職金3200万円の支給を受けられた旨主張し,甲35(聞き取りメモ)等の証拠を提出するが,上記の経済情勢に照らして,原告Bが銀行に定年まで勤務し続け,かつ,遠い将来の時期に原告ら主張のような退職金が得られる蓋然性については,これを認めるには疑問があり,少なくとも本件事故と相当因果関係ある損害としては,これを認めるに足りる的確な証拠はないと言わざるを得ない。
 (16)慰謝料             3200万円
   ア 入通院慰謝料       400万円
     前記認定の原告Bの傷害の内容及び治療経過に照らして,400万円が相当と認める。
   イ 後遺障害慰謝料     2800万円
     前記認定の原告Bの後遺障害の内容・程度に照らして,2800万円が相当と認める。
 (17)確定遅延損害金      370万9016円
    原告Bが自賠責保険から平成12年10月18日に受けた3000万円の填補部分について,本件事故日から支払日までに発生した2年173日分の確定遅延損害金を計算すると,370万9016円となる。なお,平成12年は閏年なので366日で計算した。
    3000万円×0.05×(2+173/366)=370万9016円
 (18)小計        3億1291万1558円
    (1)ないし(17)の合計額である。
 (19)損害の填補後の残額 2億7069万3547円
    損害の填補額4221万8011円については,当事者間に争いがないので,これを(18)の額から控除(原告らの主張に従い,まず確定遅延損害金370万9016円に充当し,次に元本に充当)すると,残元本は2億7069万3547円となる。
 (20)弁護士費用           1800万円
    本件事案の性質,内容,審理の経過,損害の認容額等を考慮すると,本件事故と相当因果関係ある弁護士費用として,1800万円が相当と認める。
 (21)合計        2億8869万3547円
    上記(19)に(20)を合計すると,2億8869万3547円となる。
    なお,(17)の確定遅延損害金に相当する元本分(370万9016円)を除外した金額は2億8498万4531円となる。
 2 争点2(原告Cらの損害)について
   原告Cは原告Bの母であり,原告D及び原告Eは原告Bの妹であるところ,本件事故により原告Bは回復の見込みのない後遺障害を負うことになり,原告Cらは多大の精神的苦痛を受けたこと,また,原告Bの介護は,肉体的にも精神的にも過酷であること,訴外Nが本件事故後死亡したこと等を考慮して,原告Cらの損害を以下のとおりと認める。
 (1)原告Cの損害           220万円
   ア 固有の慰謝料   200万円
   イ 弁護士費用     20万円
 (2)原告Dの損害           110万円
   ア 固有の慰謝料   100万円
   イ 弁護士費用     10万円
 (3)原告Eの損害           110万円
   ア 固有の慰謝料   100万円
   イ 弁護士費用     10万円
 3 争点3(定期金賠償)について
   被告らは,後遺障害1級の場合の余命の予想は極めて問題がある上,統計の前提となる母集団の構成(健常者と重度障害者を含む非健常者との割合)を考えれば,その統計の結果である平均余命表を,現に重度障害が発現しているケースに適用することには合理性が認められず,したがって,平均余命までの生存の予想を認定することはできないものと考えられる。とすれば,定期金賠償が認められる限度でしか証明がなされていないと考えるのが合理的であるから,定期金賠償方式が採られるのが相当である旨主張する。
   しかし,後遺障害1級の場合について,一般的にそのようにいえるかについても疑問があるし,少なくとも,原告Bについて,平均余命まで生きる蓋然性が少ないといえる具体的根拠も証拠も示されていない。
   さらに,原告らは,定期金賠償方式を望んでおらず,一時金での支払を望んでいることを考慮すると,被告らの主張は採用し難い。
 4 結論
 (1)被告Aに対する請求
    原告らの請求は,原告Bが前記2億8869万3547円及びうち2億8498万4531円に対する不法行為日である平成10年4月29日から,うち370万9016円に対する自賠責保険金支払日の翌日である平成12年10月19日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,原告Cが前記220万円,原告Dが前記110万円,原告Eが前記110万円及び各金員に対する上記平成10年4月29日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるが,その余は理由がないので棄却する。
 (2)被告保険会社に対する請求
    被告Aに対する請求は現在の請求として認容すべきであるが,被告保険会社に対する請求は,原告らの被告Aに対する判決が確定したときに,上記各金員の限度で請求を認容すべきである。
 (3)よって,主文のとおり判決する。
    東京地方裁判所民事第27部
        裁判官  芝 田 俊 文

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