大阪高等裁判所判決 平成19年4月26日

       主   文

 一 控訴人一江の控訴に基づき原判決主文一、二項の同控訴人関係部分を次のとおり変更する。
    被控訴人らは、控訴人一江に対し、各自一億〇〇九五万一三四四円及び内九八三〇万三六六二円に対する平成一一年四月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 二 控訴人一江の当審拡張請求を含むその余の請求をいずれも棄却する。
 三 その余の控訴人らの控訴をいずれも棄却する。
 四 訴訟費用は、当審訴えの変更申立書貼用印紙の費用を控訴人一江の負担とし、一、二審を通じて、控訴人一江に生じた費用のその余の費用と被控訴人らに生じた費用の各四分の一とをいずれも二分し、その一を控訴人一江の負担とし、その余を被控訴人らの負担とし、その余の控訴人らに生じた当審費用全部と被控訴人らに生じた当審費用の各四分の三とを同控訴人らの負担とする。
 五 この判決は主文一項に限り仮に執行することができる。

       事実及び理由

第一 控訴の趣旨等
 一 原判決を次のとおり変更する。
 二 被控訴人らは、控訴人一江に対し、各自二億〇〇九九万九九八七円及び内一億九八二七万四九七二円に対する平成一一年四月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 三 被控訴人らは、控訴人二江に対し、各自一〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年四月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 四 被控訴人らは、控訴人太郎に対し、各自一〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年四月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 五 被控訴人らは、控訴人花子に対し、各自一〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年四月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 六 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
 七 仮執行宣言
第二 事案の概要
 一 本件は、当時小学校六年生・女子の控訴人一江が横断歩道を歩行して道路を横断していた際、被控訴人竹夫が所有して被控訴人松子が運転する普通乗用自動車にはねられて、控訴人一江が傷害を受けて損害を被ったことを理由に、控訴人らが自動車損害賠償保障法三条ないし不法行為に基づき損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原審は、控訴人一江の請求を六七七四万二一四七円及び内六五一七万三四三四円に対する平成一一年四月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で認容し、その余の請求並びに控訴人二江、控訴人太郎及び控訴人花子の請求をいずれも棄却したため、これを不服とする控訴人らが本件控訴を提起し、さらに、控訴人一江が当審で請求を拡張した(成年後見費用と弁護士費用増加分合計七五五万三七〇〇円)。
 二 前提事実(本件事故の発生等)、主たる争点及び当事者の主張は、原判決「事実及び理由」第二・二、三に記載のとおりであるからこれを引用する。
 三 当審における補充主張
      〈編注・本誌では証拠の表示は一部を除き省略ないし割愛します〉
 〔控訴人ら〕
 (1) 控訴人一江の請求
 ア 症状固定までの治療費(原判決第三・一(1))
 症状固定(平成一三年八月一五日)までの二万二二六〇円の治療費支出(甲二、三)は、眼科受診が後遺症として残存した核上性眼球運動障害(甲九)の診断以前の異常な状態に伴うものであること、耳鼻科受診が本件事故後の異常な大量出血によるものであること、インフルエンザ予防接種が脳損傷による体力衰退から回復途上中に医師の指示により受けたものであること、カウンセリング費用が甲南大学教授の指示により受けたものであることから、本件事故と相当因果関係がある。
 イ 症状固定前後のビデオテープ費用(原判決第三・一(2)(11))
 ビデオテープ費用(症状固定まで一万九八九九円、症状固定後一万一二六四円〔甲二、三〕)は、控訴人一江の体の反応等につきビデオ撮影により観察することを医師に指示されたことによるものであり、治療に必要かつ相当であった。
 ウ 症状固定前後のリハビリ費用・交通費(原判決第三・一(3)(12))
 リハビリ費用(ドラムスクール)及び交通費(症状固定までリハビリ費用二一万八二二七円・交通費二七万四七二〇円、症状固定後三一万七二六〇円・交通費二八万二一六〇円〔甲二、三〕)は、医師の指示によるものであり(甲一四、二六・三枚目)、治療に必要かつ相当であった。
 エ 入院雑費(原判決第三・一(5))
 本件事故直後の控訴人一江の症状は意識不明状態が一か月を超えるなど極めて重く、当時一一歳であったから、通常の概算基準以上の入院雑費が必要であり、一日当たり一六〇〇円が認められるべきである。
 オ 通院付添費(原判決第三・一(6))
 控訴人一江は退院後も高次脳機能障害という重篤な症状にあり、外傷性てんかんのおそれもあり、当時一一歳であったから、一日あたり四〇〇〇円が認められるべきである。
 カ 症状固定前の通院交通費(原判決第三・一(7))
 児童相談所において医師の診察を受けるなど(甲一五、二六)、退院後のリハビリには児童相談所が主導的役割を果たしたから、児童相談所への通院交通費を含め請求にかかる全額が認められるべきである。
 キ 症状固定前後の介護費(原判決第三・一(8)(15))
 控訴人一江の介護は、高次脳機能障害による日常生活の困難に対応して常に家族が見守っていかなければならないものであり、頭部外傷後遺症による身体的機能障害(右上下肢失調症)もあり介護の負担は大きく、控訴人花子が介護のためそれまで得ていた月一五万円のパート収入が得られなくなったことからしても、症状固定前後を通じて一日当たり六〇〇〇円が認められるべきである。
 ク 傷害慰謝料(原判決第三・一(9))
 控訴人一江の傷害が重大なものであって、多くの診療科目に通院を余儀なくされたことからしても、請求にかかる三〇〇万円全額が認められるべきである。
 ケ カウンセリング費用(原判決第三・一(13))
 健康保険が適用される医療費と異なりカウンセリング費用(一回当たり約二万円)は高額であるし、心理カウンセリング援助は高次脳機能障害を有する幅広い層に必要性が認められるから、治療費とは別に認められるべきである。
 コ 学習費・書籍購入費(原判決第三・一(14))
 今日の高校進学率は約九七%であるし、控訴人一江の後遺症からすれば中学卒業後就職することはできず、高校進学して中学在学時と同様に家庭教師をつけざるを得なかったから、高校進学後の学習費等も含めて請求にかかる全額が認められるべきである。
 サ 携帯電話代、介護のための書籍購入費、セミナー参加・交通費(原判決第三・一(16))
 介護の労力を時間的費用的に見積もった介護費に含まれるものではなく、控訴人一江の介護のための実費損害として別に認められるべきである。
 シ 後遺症逸失利益(原判決第三・一(17))
 女子が男子と同様の条件で就職し勤務し続けることのできる環境整備がなされるなどの昨今の状況に照らせば、結婚・出産したら仕事を辞める女性が大多数であることを前提とした平均賃金の男女差を現在未就労の女子の逸失利益算定の基準とするのは相当でないから、全労働者平均賃金(平成一一年賃金センサス・四九六万七一〇〇円)を用いるべきである。
 また、控訴人一江が、家族等の助力により高校・大学に通学できていることや単純作業を行い得ることを過大に評価すべきではなく、実際に就労状態を維持して収入を得ることができるかを問題にすべきであって、高次脳機能障害により記憶、注意能力、集中力等に著しい障害を負い、病識がなく人格的統制を取りづらい控訴人一江が、就労して単純作業によってでも収入を得る可能性は皆無であり、これは医師の所見にも裏付けられる。控訴人一江の高次脳機能障害は自動車損害賠償保障法施行令別表第二の等級三級(以下単に級で呼称する)に該当し、その労働能力喪失率は一〇〇%である。
 仮に、控訴人一江の高次脳機能障害を五級と評価しても、七級に該当する醜状障害があり併合三級に相当するから、高次脳機能障害を有し能力により外貌のハンディキャップを克服できる状態にないことも考慮すれば、控訴人一江の労働能力喪失率はいずれにしても一〇〇%と評価されなければならない。
 したがって、後遺症逸失利益は、七〇七一万〇一四五円(四九六万七一〇〇円×一×一四・二三五七、一円未満切捨て)となる。
 ス 後遺症慰謝料(原判決第三・一(18))
 控訴人一江の高次脳機能障害は少なくとも三級に該当し、七級該当の醜状障害との併合一級相当を基準としなければならず、さらに控訴人一江は能力の減退により毎日つらい思いをし、楽しい思い出もすぐに忘れてしまうなど生きる幸せの大部分をなくしたなどの事情があるから、三〇〇〇万円の後遺症慰謝料が認められるべきである。
 セ 切手代等(原判決第三・一(20))
 控訴人一江は未だ社会に十分認知されていない重篤な高次脳機能障害に苦しみ、損害賠償を求めていく過程において医師等各方面の専門家と通信しなければならないことは明らかであり、請求にかかる全額が認められるべきである。
 ソ その他支出(原判決第三・一(21))
 弁護士費用に含められるべきではなく、請求にかかる全額が認められるべきである。
 タ 心理士費用等(原判決第三・三(2))
 控訴人一江の高次脳機能障害の症状の特殊性から、本件訴訟の追行にあたり社会生活困難度評価報告書(甲八)が必要であり、その作成にあたり心理士は重要な役割を果たしたから、弁護士費用とは別に心理士費用が認められるべきである。
 (2) 控訴人一江の当審拡張請求
 ア 控訴人一江は、本件事故の後遺症として高次脳機能障害を有し、独力では金銭管理等ができない状態であり、成人すればすぐ成年後見手続を申し立てる必要がある。
 金銭管理のため成年後見人には弁護士が選任される必要があり、最低毎月三万円の後見人報酬が支弁されるから、控訴人一江の二〇歳から平均余命六三年(ライプニッツ係数一九・〇七五)に渡る成年後見費用は六八六万七〇〇〇円(三万×一二か月×一九・〇七五)となる。
 イ 前項損害額に対応する弁護士費用の増加分はその一割の六八万六七〇〇円である。
 ウ 拡張請求額合計
          七五五万三七〇〇円
 (3) 控訴人二江、控訴人太郎及び控訴人花子の請求(原判決第三・四)
 控訴人二江は、わずか七歳の時に目の前で姉である控訴人一江が車にはねられ頭部から大量に出血して一見死亡したような状況を目の当たりにして、長く精神的に不安定な状態が続き、精神症状の診察も受けているから、控訴人二江自身が受けた被害があり、慰謝料が認められるべきである。
 控訴人太郎・花子は、控訴人一江が負った高次脳機能障害により人間らしい将来が大きく損なわれたことにより、死亡に比肩しうる程度の苦痛を被ったものであり、介護の中で大きなストレスを抱え精神科を受診するなどの状態でもあるから、控訴人太郎・花子の精神的苦痛は独立に評価されなければならず、慰謝料が認められるべきである。
 〔被控訴人ら〕
 (1) 控訴人一江の請求
 否認又は争う。
 ア 症状固定前の治療費
 核上性眼球運動障害は本件事故の五年後に判明したものであり、本件事故直後の眼科受診があるとしても本件事故と相当因果関係があることが立証されていない。耳鼻科の受診、インフルエンザ予防接種、甲南大学のカウンセリング費用も同様である。
 イ 症状固定前後のビデオテープ費用
 控訴人一江の行動をビデオ撮影することを医師が指示したか明らかでないし、撮影の具体的な頻度、撮影方法の指示の有無、それが治療、リハビリにフィードバックされたかも明らかでないから、必要性・相当性が立証されていない。
 ウ 症状固定前後のリハビリ費用・交通費
 ドラムスクールに関する費用につき、その頻度、医師の指示は具体的でなく、それがリハビリにフィードバックされたかも明らかでないから、必要性・相当性が立証されていない。
 エ 症状固定前の通院交通費
 退院後のリハビリに児童相談所がいかなる役割を果たしたか、主治医からの指示があったのかが立証されていない。
 オ 症状固定前後の介護費
 介護費は、症状固定までの自宅付添費として実質的には通院付添費に類するものであって、付添者の収入を補填するものではない。
 カ カウンセリング費用
 症状固定後の治療費は否定され、その支出が相当であることが客観的に立証された場合にのみ認められるところ、かかる相当性が立証されていない。
 キ 心理士費用
 社会生活困難度評価報告書(甲八)の作成経緯が明らかでないなど、その作成が本件訴訟の追行に必要不可欠とまではいえない。
 (2) 控訴人一江の当審拡張請求
 控訴人一江が成年後見手続開始を申し立てる必要性・相当性は何ら立証されておらず、仮に申し立てられたとしても、後見、補佐、補助のいかなる類型に該当して手続開始決定が得られるか明らかでない。成年後見人には、本人の親族が選任されるケースが多く、弁護士の後見人選任を要する特段の事情も窺われない。
 (3) 控訴人二江、控訴人太郎及び控訴人花子の請求
 争う。控訴人二江は精神状態につき診察を受けたとするが、いかなる精神的後遺症が残存するかにつき診断書等の客観的資料は提出されていない。
第三 当裁判所の判断
 一 控訴人一江の損害
 (1) 症状固定前の治療費     〇円
 前記前提事実(原判決第二・二(2))のとおり、控訴人一江は本件事故によって脳挫傷等の傷害を受け、平成一三年八月一五日の高次脳機能障害の後遺障害の症状固定までその治療を受けたところ、項目別出費一覧表(甲三)には、控訴人一江が本件事故後障害の症状固定までの間に、治療費の内保険会社から填補を受けていない分として、二万二二六〇円の治療費を支出した旨の記載があるが、同表の元となった出費明細ノート(甲二)には、具体的な診療科目、診療内容及び本件事故との相当因果関係を認めるに足りる的確な記載はなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。なお、控訴人一江は、本件事故後約五年経過後の平成一六年七月二九日に核上性(眼球運動中枢性)眼球運動障害の後遺症があることが判明したとしてその旨診断されているが(甲九)、判明していない障害につき治療されたか疑問であり、上記証拠の記載に照らしても二万二二六〇円の治療費に含まれるものかどうか明らかでない。
 (2) 症状固定前後のビデオテープ費用
                   〇円
 甲二、三に、控訴人一江は症状固定(平成一三年八月一五日)までにビデオテープ等費用として一八万六四六三円を支出した旨の記載があり、控訴人一江は体の反応等につきビデオ撮影により観察することを医師に指示されたと主張し、これに沿うかの如き甲二六(児童福祉司作成書面・三枚目)の記載がある。
 しかし、同号証は医師の作成にかかるものでない上、ビデオテープ等費用の詳細は必ずしも明らかでないし、高次脳機能障害の医学的リハビリテーションプログラムの中に患者本人の病識を高めるために作業療法士が検査状況をビデオ撮影してこれを再生して本人にフィードバックする手法があることが窺われるが(甲二二・資料八・一丁裏等)、本件において医師から具体的にどのような指示があったのか、撮影されたビデオが治療等においてどのように使用されたかなどは何ら明らかでなく、上記のビデオテープ費用が控訴人一江の治療に必要かつ相当なものであることを認めるに足りる的確な証拠はないといわざるを得ない。
 (3) 症状固定前後のリハビリ費用及び交通費         一三万〇二七五円
 控訴人一江は、リハビリ費用(ドラムスクール)及び交通費(症状固定までリハビリ費用二一万八二二七円・交通費二七万四七二〇円、症状固定後三一万七二六〇円・交通費二八万二一六〇円〔甲二、三〕)が医師の指示によるものであり(甲一四、二六・三枚目)、治療に必要かつ相当であったと主張する。
 まず、控訴人一江が、症状固定前の修学旅行の付添費用及び平成一二年三月までの通学バス料金の合計九万四三九九円を要したことは当事者間に争いがないが、修学旅行の付添費用は後記介護費の賠償で考慮されるべきものであり、通学バス料金は被害の有無にかかわらず必要となる支出と考えられ、いずれにしろ、リハビリ費用の範疇に含まれる性質のものでないから、リハビリ費用の賠償としては認められない。
 次に、《証拠略》によれば、控訴人一江は、従前、ドラムを趣味としていたものではなかったところ、平成一五年一月一一日、音楽療法の一月分の月謝八〇〇〇円、二人分の交通費三〇〇〇円を支払い、同月二五日、二人分の交通費三〇〇〇円を支払い、同年二月八日、音楽療法の二月分の月謝八〇〇〇円、二人分の交通費三〇〇〇円を支払い、同月二二日、二人分の交通費三〇〇〇円を支払い、同年三月一五日、音楽療法の三月分の月謝八〇〇〇円、二人分の交通費三〇〇〇円を支払い、同月二九日、二人分の交通費三〇〇〇円を支払い、同年四月一二日、音楽療法の四月分の月謝一万円、二人分の交通費三〇〇〇円を支払い、同月二六日、二人分の交通費三〇〇〇円を支払い、同年七月、脳機能改善のため音楽療法が有効であり、その一環としてドラムスクールに通う必要があるとの医師の診断を受け、同月一四日、入会金四〇〇〇円、同月分の月謝八〇〇〇円、スティック代一一〇〇円、テキスト代一五〇〇円、二人分の交通費六〇〇円を支払い、同月二八日交通費六〇〇円を支払い、同年八月四日、交通費六〇〇円を支払い、同月一一日、同月分の月謝八四〇〇円を支払い、同月二五日、交通費六〇〇円を支払い、同年九月一〇日、同月分の月謝八四〇〇円を支払い、同月一一日、交通費六〇〇円を支払い、同月二二日、交通費六〇〇円を支払い、同月二九日、交通費六〇〇円を支払い、同年一〇月四日、ドラムセット部品六八二五円を支払い、同月六日、交通費六〇〇円を支払い、同月一〇日、同月分の月謝八四〇〇円を支払い、同月二七日、交通費六〇〇円を支払い、同年一一月一〇日、同月分の月謝八九二五円、交通費六〇〇円を支払い、同月一七日、交通費六〇〇円を支払い、同年一二月一日、交通費六〇〇円を支払い、同月一〇日、同月分の月謝八九二五円を支払い、同月一五日、交通費六〇〇円を支払ったことが認められるが、上記認定を超えてリハビリ費用(ドラムスクール)及び交通費の支出があったことを認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。
 そうすると、症状固定前後のリハビリ費用及び交通費として一三万〇二七五円の損害が認められる。
 (4) 入院付添費   四三万四〇〇〇円
 原判決第三・一(4)記載のとおりであるからこれを引用する。
 (5) 入院雑費     九万三〇〇〇円
 前記前提事実(原判決第二・二(2))のとおり、控訴人一江は本件事故によって脳挫傷等の傷害を受け、平成一一年四月一六日から同年六月一六日までの六二日間入院したところ、その負傷内容、当時の年齢(一一歳)等に照らして、同控訴人は入院期間中一日当たり一五〇〇円、合計九万三〇〇〇円の入院雑費を要したと認めるのが相当である。
 (6) 通院付添費   一七万四〇〇〇円
 前記前提事実(原判決第二・二(2))のとおり、控訴人一江は本件事故によって脳挫傷等の傷害を受け、症状固定(平成一三年八月一五日)まで五八日病院に通院したところ、その負傷内容、当時の年齢(一一~一三歳)、《証拠略》から窺われる通院時の控訴人一江の言動等に照らして、通院付添が必要であったと認められ、その費用は一日当たり三〇〇〇円、合計一七万四〇〇〇円と認めるのが相当である。
 (7) 症状固定前の通院交通費
             一〇万七三六〇円
 控訴人一江が症状固定(平成一三年八月一五日)までに一〇万七三六〇円の通院交通費を要したことは当事者間に争いがない。
 甲二、三には、控訴人一江が症状固定(平成一三年八月一五日)までの間に、治療費の内保険会社から填補を受けていない分として、一八万三七八九円の通院交通費を支出したとの記載があるが、上記争いのない額を超える部分については、前記(1)と同様の理由により、本件事故との相当因果関係を認めるに足りない。
 (8) 症状固定前の自宅介護費
            二三七万六〇〇〇円
 前記前提事実(原判決第二・二(2))のとおり、控訴人一江は、本件事故によって脳挫傷等の傷害を受けて高次脳機能障害の後遺症を残したものであり、《証拠略》から窺われる控訴人一江の言動等に照らして、退院(平成一一年六月一六日)から症状固定(平成一三年八月一五日)までの七九二日間(自宅からの外出を伴う通院日五八日も含む。)につき自宅介護が必要であったと認められ、その費用は一日当たり三〇〇〇円、合計二三七万六〇〇〇円と認めるのが相当である。
 (9) 傷害慰謝料      三〇〇万円
 控訴人一江の負傷内容、入院期間等を総合すれば、同控訴人が本件事故によって受けた傷害による精神的苦痛に対する慰謝料は三〇〇万円と認めるのが相当である。
 (10) 症状固定後の治療費及び通院交通費
             一五五万二二九六円
 ア 前記前提事実(原判決第二・二(2))のとおり、控訴人一江は、本件事故により、脳挫傷等の傷害を負い、平成一三年八月一五日、高次脳機能障害の後遺症を残して症状固定したところ、《証拠略》によれば、その症状として、記憶機能障害、言語機能障害、空間認知機能障害、注意機能障害、管理機能障害、核上性(眼球運動中枢性)眼球運動障害、易疲労性、易怒性、衝動性、脱抑制、固執性、無計画性及び社会性の低下とともにこれらに対する病識の低下などが認められ、日常生活及び社会生活に支障を来しており、その治療及びリハビリテーションにおいて、臨床心理士、言語聴覚療法士及び作業療法士などの専門職の介入が必要であると認められる。
 上記事実によれば、控訴人一江は、症状固定後も相当額の治療費及び通院交通費を要すると認めるのが相当である。
 イ 証拠(甲二、三)及び弁論の全趣旨によれば、その詳細は必ずしも明らかでないものの、控訴人一江の請求にかかる合計一年あたり八万円の治療費及び通院交通費を超える同費目の支出がなされていることが認められるから、一年あたり八万円をもって症状固定後の治療費及び通院交通費と認めるのが相当である。
 ウ 《証拠略》によれば、控訴人一江は平成一三年八月一五日当時一三歳であったところ、平成一三年簡易生命表によれば、一三歳の女子の平均余命は七二・三一年であるから、中間利息控除係数は、七二年のライプニッツ係数一九・四〇三七となり、合計額は一五五万二二九六円(八万円×一九・四〇三七)となる。
 なお、被控訴人らは、控訴人一江の症状が将来快方に向かう可能性があると主張するが、反対趣旨の証拠(甲二二)に照らせば、かかる主張は前記ア、イの認定を左右しない。
 (11) カウンセリング費用
              五八万二一一一円
 ア 控訴人一江は一回あたり約二万円を要するカウンセリングを毎週受ける必要があると主張するところ、前記(10)アの認定事実及び《証拠略》によれば、控訴人一江の治療に臨床心理士等の専門職の介入が必要であり、関連してカウンセリングも必要であると認められる。
 イ しかるに、控訴人一江が現在受けているカウンセリングの内容、費用、頻度は必ずしも明らかでなく、医学的見地からの必要かつ相当なカウンセリングの内容、頻度も必ずしも明らかでないが、弁論の全趣旨によれば、少なくとも二か月に一回程度のカウンセリングの必要を認めるのが相当である。
 そして、《証拠略》によれば、一回あたりのカウンセリング費用は少なくとも五〇〇〇円と認めるのが相当である(年額三万円)。
 ウ 前記(10)ウのとおり、中間利息控除係数は、七二年のライプニッツ係数一九・四〇三七であり、合計額は五八万二一一一円(三万円×一九・四〇三七)となる。
 (12) 学習費、書籍購入費
            二七二万七九八〇円
 《証拠略》によれば、控訴人一江は、退院後の平成一一年六月一七日から小学校の通学を再開したが、傷害・入院及び後遺症のため、学校の勉強に充分についていくことができなくなったため、同年七月から平成一五年一二月末までの間、家庭教師による指導を受けて謝礼二六二万三七三六円を支払い、また、特別に使用しなければならなくなった教材等書籍の購入代金一〇万四二四四円を支払ったことが認められ、その合計二七二万七九八〇円を本件事故による損害と認めるのが相当であるが、その余の支出があったことを認めるに足りる証拠はないから、その余の主張は認められない。
 (13) 症状固定後の自宅介護費
            二一二四万七〇五一円
 ア 前記(10)アのとおり、控訴人一江は、本件事故により、脳挫傷等の傷害を負い、平成一三年八月一五日、高次脳機能障害の後遺症を残して症状固定し、その症状として、記憶機能障害、言語機能障害、空間認知機能障害、注意機能障害、管理機能障害、核上性(眼球運動中枢性)眼球運動障害、易疲労性、易怒性、衝動性、脱抑制、固執性、無計画性及び社会性の低下とともにこれらに対する病識の低下などが認められ、日常生活及び社会生活に支障を来しているところ、《証拠略》によれば、控訴人一江は私立高校・大学に単独で通学して単独で授業を受けるなどしており、常時の看視や声掛けが必要であるとまではいえないが、周囲からの看視及び援助が適時必要な状況にはあると認められるから、症状固定後も近親者による自宅介護が必要と認められる。
 イ 前項の症状等に照らせば、その費用は症状固定前と同様に一日当たり三〇〇〇円が相当であり、一年当たり一〇九万五〇〇〇円となる。
 ウ 前記(10)ウのとおり、中間利息控除係数は、七二年のライプニッツ係数一九・四〇三七であり、合計額は二一二四万七〇五一円(一〇九万五〇〇〇円×一九・四〇三七、一円未満切捨て)となる。
 (14) 携帯電話代、介護関係の書籍購入費、セミナー参加費・交通費    〇円
 控訴人一江は、本件事故によって受けた高次脳機能障害のため必要となった携帯電話代、介護のための書籍購入費、セミナー参加費・交通費を本件事故による損害であると主張するが、学生が携帯電話を持つことは常態であるといえその費用につき本件事故との相当因果関係を直ちに認めるのは困難であるし、各費用はいずれも前記(8)、(15)の症状固定前後の介護費に含まれるべきものであるから、これと独立に損害として認めるのは困難である。
 (15) 後遺症逸失利益
            六二一九万〇〇七九円
ア 前記前提事実(原判決第二・二(2))、前記(10)ア及び前記(15)ア並びに《証拠略》によれば、控訴人一江は、本件事故により脳挫傷等の傷害を負い、平成一二年七月二七日顔面及び右上腕の醜状瘢痕を残して症状固定し、また、平成一三年八月一五日高次脳機能障害の後遺症を残して症状固定し、その症状として記憶機能障害、言語機能障害、空間認知機能障害、注意機能障害、管理機能障害、核上性(眼球運動中枢性)眼球運動障害、易疲労性、易怒性、衝動性、脱抑制、固執性、無計画性及び社会性の低下とともにこれらに対する病識の低下などが認められ、日常生活及び社会生活に支障を来しており、醜状瘢痕につき七級一二号、高次脳機能障害につき五級二号に該当すると認められる。
 控訴人一江は、一般就労が不可能であるとして併合一級に該当すると主張するが、控訴人一江の普通高校での成績は科目によっては平均よりも上位であり(甲二二・資料一〇)、現在は京都の私立大学に就学し、単独で神戸の自宅から公共交通機関を用いて通学していること等に照らせば、控訴人一江に就労能力がない若しくは就労が困難との医師の意見書(甲一六、二二、三三)があり、就学・通学に当たり相当の困難があると窺われることを考慮してもなお、その労働能力を完全に喪失したとまでは認め難く、単純繰り返し作業などに関しては、一般人に比較して作業能力が制限されており就労の維持には職場の理解と援助を欠かすことができないものの、就労も不可能ではないというべきであり、上記主張は採用できない。
 そして、五級に該当する高次脳機能障害を残していることに加えて、七級に該当する醜条瘢痕を残していることが実際の就労に影響しうることが認められることにも照らすと、控訴人一江が喪失した労働能力は九〇パーセントと認めるのが相当である。
 イ 基礎収入は、症状固定当時に控訴人一江が義務教育課程に就学していたことやその性別等に加えて、同控訴人が五級二号に該当する高次脳機能障害を後遺症として残しながらも、学校での勉学・部活動に励み、高校・大学に進学し、現在も懸命に大学での就学に努力していることから窺われる同控訴人の本来有していた能力、意欲、家族の支援からすれば、本件事故に遭わなければ大学を卒業して就職し得たであろうことが容易に推認されること等に照らせば、控訴人一江の主張にかかる全労働者平均賃金を基準とするのが相当であって、直近の平成一六年賃金センサス第一巻第一表・産業計・企業規模計・学歴計の全労働者・全年齢の平均賃金の年収四八五万四〇〇〇円を基準とするのが相当であるというべきである。
 ウ 控訴人一江は、症状固定時一三歳であったから、中間利息控除係数は、一三歳から六七歳までの五四年のライプニッツ係数一八・五六五一から一三歳から一八歳までの五年のライプニッツ係数四・三二九四を控除した一四・二三五七が相当であり、逸失利益額は六二一九万〇〇七九円(四八五万四〇〇〇円×〇・九〇×一四・二三五七、一円未満切捨て)となる。
 (16) 後遺症慰謝料    一九九〇万円
 前記前提事実(原判決第二・二(2))のとおり、控訴人一江は本件事故により七級一二号に該当する醜状瘢痕及び五級二号に該当する高次脳機能障害の後遺症を残して症状固定したものであり、その内容及び程度等を総合すれば、控訴人一江が本件事故によって負った上記の後遺症による精神的苦痛に対する慰謝料は、上記各等級を併合した三級に相当する一九九〇万円と認めるべきである。
 (17) 診断書取得料   九万〇〇一〇円
 原判決第三・一(19)記載のとおりであるからこれを引用する。
 (18) 切手代等          〇円
 甲二、三に、控訴人一江が切手代等五万五四三二円を支出したとの記載があるが、かかる費用が本件事故に関する損害賠償のために必要かつ相当な通信に要したものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。
 (19) その他の支出        〇円
 甲二、三に、控訴人一江がその他の費用として一二九万六五一三円を支出したとの記載があるが、かかる支出が本件事故による同控訴人の傷害の治療等に要したものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。なお、仮に上記の費用が医師の意見書、弁護士への相談料等に支出されたものを含むとしても、これらは弁護士費用等訴訟関連費用に含めて考慮されるべきものである。
 (20) 損益相殺等後の損害額
 ア 損害の残金 八九二〇万三六六二円
 前記(1)ないし(19)で認定したとおり、本件事故によって控訴人一江に一億一四六〇万四一六二円の損害が生じたところ、前記前提事実(原判決第二・二(6))のとおり、控訴人一江は、二五四〇万〇五〇〇円の支払いを受けている。したがって、損害残金は八九二〇万三六六二円となる。
 イ 確定遅延損害金
          二六四万七六八二円
 控訴人一江は、平成一二年一一月七日、自動車損害賠償責任保険金一〇五一万円を受領したから(弁論の全趣旨)、本件事故日である平成一一年四月一六日から平成一二年一一月七日までの同額に対する年五分の割合による遅延損害金八二万二〇八三円(一円未満切捨て)が発生した。
 また、控訴人一江は、平成一四年五月三一日、自動車損害賠償責任保険金一一六八万円を受領したから(弁論の全趣旨)、本件事故日である平成一一年四月一六日から平成一四年五月三一日までの同額に対する年五分の割合による遅延損害金一八二万五五九九円(一円未満切捨て)が発生した。
 したがって、自動車損害賠償責任保険金の支払に関する確定遅延損害金は合計二六四万七六八二円である。
 (21) 控訴人一江の弁護士費用等
                 九〇〇万円
 本件訴訟に至るまでの経緯、本件事案の内容等を考慮すると、本件事故と相当因果関係の認められる弁護士費用として、九〇〇万円を認めるのが相当である。
 (22) 心理士費用       一〇万円
 控訴人一江は、後遺症の症状についての意見書作成のために心理士に依頼した費用九二万四〇〇〇円を損害として主張するところ、《証拠略》によればかかる費用を支払ったことが認められるが、その支出が必ずしも本件訴訟の提起及び遂行に必要不可欠のものであったとまではいえないことも考慮すると、一〇万円の限度で損害として認めるのが相当である。
 (23) 成年後見費用・弁護士費用増加分(当審拡張請求)         〇円
 控訴人一江は、高次脳機能障害により独力で金銭管理等ができない状態であり、成年後直ちに成年後見手続開始申立てをして弁護士を後見人に選任する必要があり、これに対応して弁護士費用の増加分があると主張する。
 しかし、前記(17)のとおりの控訴人一江の症状等からすれば、成年後の同控訴人の高次脳機能障害にかかる症状が後見開始要件を満たすものと直ちには認められず、後見手続が開始されたとしても、その症状、家族関係からすれば、第三者的な法律専門家を後見人として選任するほどの必要性があるとも直ちには認められず、特段の報酬付与を予定せずにその親族が選任される可能性が高いことが窺われるから、上記主張を認めるに足りない。
 (24) したがって、控訴人一江の損害額は九八三〇万三六六二円及び確定遅延損害金二六四万七六八二円となる(合計一億〇〇九五万一三四四円)。
 二 控訴人二江の損害
 控訴人二江は、年少時に目の前で姉が車にはねられ頭部から大量に出血して死亡したような状況を目の当たりにし、その後長く精神的に不安定な状態が続いたなどとして、控訴人二江自身が受けた被害があり慰謝料が認められるべきと主張し、同控訴人が本件事故の目撃により多大な精神的苦痛を被ったことは十分に窺われるものの、《証拠略》によっても、同控訴人がこれにより精神症等に罹患したことなどを認めるに足りず、控訴人一江の後遺症の程度、高校・大学に進学するなどの生活状況等に照らせば、かかる控訴人二江の精神的苦痛が控訴人一江が死亡したときに比肩することができる程度のものであるとまでは認め難いから、控訴人二江固有の慰謝料請求は認められない。
 三 控訴人太郎・花子の損害
 控訴人太郎・花子は、控訴人一江の後遺症が高次脳機能障害という人間らしい活動の根幹に関わるものであり、介護の中で大きなストレスを抱えるなどの状態であるから、慰謝料が認められるべきと主張し、控訴人太郎・花子が控訴人一江が本件事故によって傷害及び後遺症を負ったことにより多大な精神的苦痛を被ったことは十分に窺われるものの、控訴人一江の後遺症の程度、高校・大学に進学するなどの生活状況等に照らせば、かかる精神的苦痛が同控訴人が死亡したときに比肩することができる程度のものであるとまでは認め難いから、控訴人太郎・花子固有の慰謝料請求は認められない。
 四 以上によれば、控訴人一江の請求は、被控訴人らに対し、各自九八三〇万三六六二円及び確定遅延損害金二六四万七六八二円(合計一億〇〇九五万一三四四円)、並びに上記の九八三〇万三六六二円に対する平成一一年四月一六日(本件事故日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がなく、控訴人二江、控訴人太郎及び控訴人花子の請求はいずれも理由がない。
 五 その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、以上の認定、判断を覆すほどのものはない。
 よって、本件控訴に基づき原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 若林 諒 裁判官 小野洋一 菊地浩明)

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