福岡高等裁判所判決 平成17年8月9日

       主   文

 1 本件控訴及び当審における請求の拡張に基づき,原判決を次のとおり変更する。
 (1)被控訴人乙山は,控訴人に対し,8075万4294円及びうち7528万9133円に対する平成8年10月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 (2)本判決のうち控訴人と被控訴人乙山の間の部分が確定したときは,被控訴人会社は,控訴人に対し,8075万4294円及びうち7528万9133円に対する平成8年10月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 (3)控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを2分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人らの連帯負担とする。
 3 この判決は,1項(1)に限り,仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
 (1)原判決を次のとおり変更する(附帯請求についてはいずれも当審における拡張後の請求)。
 ア 被控訴人乙山は,控訴人に対し,1億5275万6368円及びうち1億4729万1207円に対する平成8年10月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 イ 本判決のうち控訴人と被控訴人乙山の間の部分が確定したときは,被控訴人会社は,控訴人に対し,1億5275万6368円及びうち1億4729万1207円に対する平成8年10月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 (2)訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
 (3)仮執行宣言
 2 被控訴人ら
 (1)本件控訴をいずれも棄却する。
 (2)控訴費用は,控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 1 本件は,平成8年10月15日に発生した交通事故で負傷した控訴人が,加害車両の運転者である被控訴人乙山に対しては,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条又は民法709条に基づき,その損害賠償金及び遅延損害金の支払いを求め,被控訴人会社に対しては,自家用自動車総合保険契約に基づき,上記損害賠償金及び遅延損害金と同額の保険金の支払いを求めた事案である。
 その概要は,当審における補充主張等を次のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1項及び2項に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決8頁4行目の「なお,」から7行目の「請求する。」まで及び9頁17行目冒頭から10頁6行目末尾までをいずれも削除する。なお,略称についても原判決の表示に従う。)。
 なお,控訴人は,原審において,被控訴人乙山に対し,自賠法3条又は民法709条に基づく損害賠償金の一部について,その遅延損害金の起算日を症状固定日以降に設定し,損害賠償金1億5275万6368円並びにうち2676万5863円に対する事故日である平成8年10月15日から,うち1202万6601円に対する症状固定日である平成14年3月18日から,うち373万4096円に対する控訴人の35歳の誕生日である平成14年7月4日から,うち401万0924円に対する控訴人の36歳の誕生日である平成15年7月4日から及びうち1億0075万3723円に対する控訴人の37歳の誕生日である平成16年7月4日から,各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,被控訴人会社に対し,被控訴人会社と被控訴人乙山との自家用自動車総合保険契約及び同保険の他車運転危険担保特約条項に基づき,本判決のうち控訴人と被控訴人乙山の間の部分が確定したときにおける損害賠償金及び遅延損害金と同額の保険金の支払を求めたが,当審においては,その各遅延損害金の起算日をいずれも事故日である平成8年10月15日として,その請求を拡張した。
 2 控訴人の当審における補充主張等
 (1)付添看護料について
 控訴人は,福岡徳州会病院における入院の際には約2か月間,その後の各入院の際にも各手術後少なくとも2週間から3週間程度,ベッド上に寝たままトイレにも行けない状態を強いられ,その都度家族の付き添いが必要であり,家族が実際に付き添った日数のうち150日間の付添看護料を損害として認めるべきであるから,この点に関する原判決の認定は誤っている。
 (2)義足費用について
 失われたものを少しでも原状に近い形で回復する措置に要した費用を損害と認めるべきである。控訴人が本件事故によって失ったものは,身体の一部としての足自体であって,その運動能力だけではないから,失った足に代わるものとしては,少しでも自分の足と感じることができ,できるだけ失われた身体の一部を補うことができる義足である必要がある。したがって,事故前に存した状態に遠く及ばないものの,自分の足と実感できる程度の外観を伴った義足の購入費用が損害と認められるべきである。原判決がいう「心の問題」は義足の機能の問題であって,慰謝料で勘案されれば足りるものではない。
 (3)休業損害及び逸失利益について
 控訴人の労働能力喪失率については,控訴人の障害が「1下肢をひざ関節以上で失ったもの」(後遺障害等級4級5号)以上の障害を残している内容を伴っており,切断した左下腿部の断端部の皮膚のぜい弱さや骨髄炎発症の危険性を考慮した上,現実に就職の機会を得ることさえ容易でない中で,なし得る労働の内容のみならず労働時間や労働日数に深刻な影響を及ぼしていることを踏まえれば,後遺障害等級4級相当である92パーセントが認められるべきである。
 また,控訴人が退職した翌日である平成13年7月23日から症状固定の日の前日である平成14年3月17日までの休業損害ないし後遺障害による逸失利益をまったく認めない原判決は誤っている。
 (4)中間利息の控除について
 損害の発生が事故の発生と同時に生じるという前提をとる場合,事故時から口頭弁論終結時までの中間利息を複利計算で控除した上で,そこに単利の遅延損害金を付すとすれば,加害者の不履行によって運用の可能性を奪われたにもかかわらず,それが可能であったことを前提にすることになって矛盾である。少なくとも,事故時から口頭弁論終結日までの損害に関する中間利息の控除は,単利での計算が採用されるべきである。また,我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものである。そうすると,通常の運用として採用されるべき定期預金利率と賃金変動率から得られる実質運用利回りが,過去50年間のどの時点を始期にしても年1.5パーセントを超えず,どのような経済情勢,金利状況及び貨幣価値の推移があってもほぼ安定していることは歴史的な事実であるから,控え目にみて年2パーセントを超えない利率での中間利息控除がされるべきである。
 さらに,将来の義足費用については,通常の逸失利益と異なり,義足が毎日かつ常時使用し,また,その修理や取り替えの際には必ず出費を伴うものであり,かつ,その価額は上昇するものであるから,むしろ中間利息の控除そのものを行わない必要がある。
 (5)自賠責保険からの支払いを除く既払額について
 後記3(5)のうち,本判決添付の別紙「日新火災からの控訴人への内払い額」に記載のとおり,控訴人が立て替えた治療費及び雑費等並びに控訴人の休業損害に充てられた分は,本件請求における損害額の主張からこれを除外している。本件損害額から控除されるべき既払い分として被控訴人らが主張するもののうち,平成8年11月13日から平成9年5月21日までの合計22万0818円が既払いとして損害額元本から控除されることは認めるが,その余(合計11万2716円)については争う。これらは,いずれも本来治療費に含まれるものであるところ,本件では,既に支払われているという理由で損害額から除外している。
 3 被控訴人らの当審における補充主張等
 (1)付添看護料について
 控訴人の各入院期間中,主治医によって付添看護が必要と判断された期間はない。
 (2)義足費用について
 心の問題を解決するための費用は,加害者側の負担でなされるべき損害の範囲に含まれない。そうでなければ,後遺障害慰謝料については,相当程度減額されてしかるべきである。
 (3)休業損害及び逸失利益について
 そもそも症状固定時前に,逸失利益は発生しない。控訴人は,自己の判断において退職を選択したものと評価され,休業による減収は自らの判断で招来した事態であるから,これを損害として加害者に負担させるべきではないし,また,退職後は無職であるから,休業損害が発生したともいえない。
 (4)中間利息の控除について
 民法404条,419条などの規定を前提とするとき,中間利息控除割合の問題は,立法上の手当の問題に収斂されるものであり,これを各裁判所の自由な裁量に委ねる事実認定の問題と捉えることは,各裁判所による民法改正を許容することにほかならない。
 (5)自賠責保険からの支払いを除く既払額について(新たな主張)
 被控訴人会社は,控訴人に対し,本判決添付の別紙「日新火災からの控訴人への内払い額」の「日新火災から振り込んだ額」欄記載のとおり金員を支払った。このうち,「控訴人に発生した損害」欄記載の金員は控訴人の治療費,休業損害,雑費等に充てられたので,この分は,本件請求における損害額の主張から除外されている。したがって,その差額である「控訴人の請求額に充当未了の既払い額」欄記載の合計33万3534円は,控訴人請求の本件損害額から控除されるべきである。
第3 当裁判所の判断
 1 過失相殺について
 原判決「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の1項(12頁17行目冒頭から13頁25行目末尾まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
 2 控訴人の損害について
 (1)傷害分について 合計700万5863円
 ア 治療費          1万2449円
 平成13年6月11日から平成14年7月4日までの治療費として,当事者間に争いがない。
 イ 入院雑費        67万3500円
 控訴人の入院期間449日につき,1日当たり1500円が相当である。
 ウ 付添看護料       32万5000円
 原判決説示の争いのない事実等に加え,証拠(甲31,原審控訴人本人)によれば,控訴人は,本件事故による傷害の治療のために9回にわたる手術を受け,福岡徳州会病院における入院の際には約2か月間,その後の各入院の際にも各手術後相当程度,ベッド上に寝たままトイレにも行けない状態を強いられ,その都度,必要に応じて家族が付き添っていたことが認められる。その上,原判決説示の控訴人の傷害の部位及び程度,入院時の手術及び措置の内容等の事情に照らすと,主治医の判断ないし指示等がなくとも,社会通念上,相当期間の近親者の付添いの必要性が認められるというべきであり,その期間としては50日間(1日あたり6500円)と認めるのが相当であるから,付添看護料は32万5000円となる。
 エ 義足等145万3060円
 証拠(甲7,24の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,本件事故による左下腿部切断の障害のため,義足等(某社製)を要し,代金145万3060円(代金7490イギリスポンドを購入時のレートで日本円に換算した額が上記額になることは,当事者間に争いがない。)でこれを購入,装着したことが認められるから,上記額が義足等の費用として損害になるものと認める。
 この点,被控訴人は,上記義足等の費用のうち,美観目的の費用71万6248円については,心の問題を解決するための費用であり,加害者側の負担でなされるべき損害の範囲に含まれない旨主張する。しかし,不法行為における賠償の対象となる財産的損害とは,不法行為前の状態と不法行為後の現実の状態との差を財産的に評価したものと解されるところ,控訴人は,現実には本件事故によりその左下腿部を切断したものであるから,本件事故前の状態,すなわち,本件事故がなければ有したであろう状態と比較して,控訴人の精神的苦痛の点を捨象しても上記義足等の代金相当額を下回らない差が存することは明らかといわなければならない。加えて,上記義足等の代金相当額をもって本件事故がなければ有したであろう状態との差額と評価することを妨げるべき事情(過剰な装備等)を認めるに足りる証拠はない。そして,障害を有する者にとって義足等がその外観を含めて実際上果たす機能を前提にすると,美観目的の費用といえども,これを単に心の問題を解決するための費用として慰謝料の対象とするというよりも,直接的に,上記差を回復するための必要最小限の費用として財産的損害に含まれるというべきである。ましてや,この費用が,加害者側の負担でなされるべき損害の範囲に含まれないとする根拠は何らないといわなければならない。上記被控訴人の主張は,採用できない。
 オ 休業損害         4万1854円
 平成12年9月1日から平成13年7月6日までの減収分として,当事者間に争いがない。
 入通院慰謝料           450万円
 上記のように,控訴人の入院期間は449日にも及び,また通院期間についても実日数で191日(この範囲では争いがない。)という長期間にわたっており,入退院を繰り返し,単に左下腿部切断にとどまらずその後も度重なる手術を受け,皮膚の合併症にも悩まされ続けてきたことに照らすと,その精神的苦痛は筆舌に尽くしがたいものがあるというべきである。したがって,これを慰謝するには450万円が相当である。
 (2)後遺障害分について
           合計8059万4088円
 ア 将来の義足費用   1919万9200円
 証拠(甲26ないし28,31,38,原審控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,義足の交換頻度に関連して,以下の事実が認められる。すなわち,控訴人は,左下腿部切断後頻繁に皮膚の合併症を引き起こしており,これは,医師によっては体験したことがないような難治性の症例である。また,控訴人の左下腿断端(切断部分)の末端部は,その皮膚が薄く,ぜい弱であることが原因で,義足との接合部分に微差が生じただけでも傷ができてしまうため,断端を収納するソケットやライナーを適合させるべく,圧力の分散や体重支持面の適合等にかなりの配慮を要する状態である。さらに,一定期間義足を使用した場合には,ライナーがわずかに薄くなることや断端の周径変化のため,ライナーのサイズが合わなくなる事態が生ずるが,控訴人の場合には,このような変化でも断端部の皮膚に影響を及ぼすので,そのため通常の場合よりも義足の交換や修理を多く行う必要がある。このような事情をも考慮すると,控訴人については少なくとも3年に1度の頻度で義足の交換を要し,そのための費用の支出が必要となるものと認めるのが相当である。そして,控訴人は,症状固定時である平成14年3月18日当時満34歳であって,平成12年簡易生命表によると,控訴人の同時点における余命年数は約51年であるから,控訴人は,今後,平成17年を初回として,少なくとも16回にわたり,義足を交換する必要があることになる。他方,上記第3の2(1)エに認定のとおり,控訴人は現在装着の義足に代金145万3060円の支出を余儀なくされ,また,証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば,平成15年当時の見積もりでも,国内業者によるKBM式の義足への交換に119万9950円を要すること,控訴人は,近く某社へ義足の交換のために渡英する予定であるが,その渡航費や滞在費を含めて300万円近い費用を要する見込みであることが認められる。
 ところで,義足については,従来一般的であったものと控訴人が現在装着しているものとを比較して論ずるまでもなく,今後の技術の発達や障害に対する一般の意識の変化等に伴い,被害者の身体機能をより良く補うことのできるものが,生活場面に応じたタイプ別に,数多く開発される可能性が高いということができる。そして,技術の発達による製作コストの減少の可能性を考慮に入れても,その購入ないし交換費用は,今後,増大する蓋然性が相当高度であり,かつ,上記認定の控訴人の事情からみて,控訴人の義足交換の頻度が上記認定の頻度を上回る可能性も相当程度見込まれるというべきである。また,義足交換費用は,現時点においても確実に出費が見込まれる費用であり,将来交換の都度具体的に発生するものとはいえ,いわゆる積極損害の範疇にあると考えられる点で,類型的に現在価格への換算が必要と考えられる将来の逸失利益とは性質を異にする面をも有している。
 そこで,これらの事情に照らすと,本件においては,現在から将来の支出時点までの間の中間利息を控除することなく,上記119万9950円の16回分である1919万9200円をもって控訴人の将来の義足費用相当損害額と認めるのが相当である。
 イ 逸失利益      4139万4888円
(ア)控訴人の基礎収入
 証拠(甲8の1ないし5,乙14,原審控訴人本人)によれば,控訴人は,短大卒業の昭和63年に就職以来A株式会社に勤務し,本件事故当時,税引前の月収は21万円強であり,平成7年の年収は実額308万2642円であることが認められる。したがって,逸失利益の算定の基礎となるべき控訴人の収入については,事故時の現実の収入であると認められる年収308万2642円をもってそれとすべきである。
 なお,控訴人は,控訴人の逸失利益を平成12年賃金センサス短大卒女子労働者の34歳以降の年齢別平均賃金をもとに算定すべきである旨主張し,被控訴人らにおいても,これを平成12年賃金センサス短大卒女子労働者の全年齢平均賃金をもとに算定すべきであると主張するが,上記の現実の収入額を超えて,上記年齢別平均賃金ないし全年齢平均賃金を控訴人の基礎収入とすべき特段の事情は何ら見当たらない。
(イ)控訴人の労働能力喪失
 証拠(甲5,35,38,原審控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人の後遺障害の程度は,左下腿部切断が後遺障害等級5級5号相当,左大腿部及び右大腿部の各採皮瘢痕並びに顔面口唇下部創痕がいずれも後遺障害等級12級相当であり,併合4級との認定を受けたこと,そのうち,左下腿部切断以外の障害は,控訴人の労働能力に格別影響を及ぼさないものであること,控訴人は,A株式会社に勤務中は1週間のうち6日勤務していたのが,現在の勤務先になってからは,皮膚の合併症が再発するなどして2日程度の勤務しかできておらず,平成16年の年収も,事故前の平成7年の年収の3分の1以下である100万7400円しか得ていないことが認められる。そうすると,控訴人の左下腿部切断による労働能力の低下は,実質的にみても,おおよそ後遺障害等級5級に相当するものというべきである。
 以上の事情によれば,控訴人は,本来,少なくとも前記症状固定時である34歳の年から67歳に達する年までの33年間稼働することが可能であり,その間の控訴人の本件後遺障害による労働能力喪失率は,少なくとも70パーセントを下らないものと認めるのが相当である。
(ウ)中間利息の控除
 まず,中間利息控除における利率について,控訴人は,前記第2の2(4)のとおり,年2パーセントを超えない利率での中間利息控除がされるべきである旨主張する。しかし,民法404条が法定利率として年5パーセントと定めている趣旨や法的安定及び統一的処理が必要である場合の現行法上の他の規定の趣旨を前提にすると,損害賠償額の算定に当たり被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するについても,法的安定及び統一的処理が必要とされるのであるから,そのために控除すべき中間利息の利率については,民法が予定するところであるこの民事法定利率によるのが相当である(最高裁判所平成17年6月14日第三小法廷判決・平成16年(受)第1888号参照)。
 次に,この中間利息控除の方式について,周知のように,単利方式であるホフマン方式と複利方式であるライプニッツ方式が存在するが,このいずれの方式も,不合理とはいえないとして是認されてきているところである。そこで,本件において,そのいずれを採用すべきかが問題となる。ところで,利息に関して,民法は,その404条で法定利率を定める一方,これに続いて同法405条で利息の元本への組み入れ,すなわち法定重利(複利)について特別の要件を定めているが,この内容からすると,その要件を具備した場合に初めて法定重利(複利)を認める反面,そうでない場合には,利息については単利計算を原則とする旨を定めていると解するのが相当である。そうすると,それ自体が利息に関する問題である中間利息の控除においても,民法がその404条に定める年5パーセントの法定利率を採用する以上,その法定利率による控除方式としては,特段の事情がない限り,民法405条が定める原則である単利に相当する方式,すなわちホフマン方式を採用するのが,民法の定めるところにより合致しているものと解される。特に,本件においては,上記のとおり,その計算の基礎となる控訴人の収入について,謙抑的にその事故前の実収入を基礎としているのであるから,ホフマン方式によるのが相当といわなければならない(なお,期間33年に相応する新ホフマン係数は,19.1834である。)。
 さらに,上記逸失利益の現在価額算定の基準時について,被控訴人らは,事故時からすべての損害について遅延損害金が付加されることからすると,逸失利益の計算においても,事故時を基準として,事故時から逸失利益発生期間の終期までの係数から,事故時から症状固定時までの係数を引いた数値を中間利息の控除係数として採用すべきである旨主張する。思うに,事案によっては,被控訴人らが主張するような時点による係数で逸失利益を算定することが相当である場合もあるかもしれないという限りでは,被控訴人らの主張が常に採用できないわけではない。しかし,不法行為の債務者に対する遅延損害金の起算時と被害者の逸失利益の現在価額を算定するに際しての中間利息控除の基準時を同一に解さなければならない必然性は全くない。すなわち,不法行為による損害賠償の実務において,治療費等の積極損害については,具体的な金銭的評価として現実化した時点の額をもって直ちに損害額として認め,これに対する不法行為時からの遅延損害金の起算が許容されてきていることは異論がないであろう。これと同様に,逸失利益についても,これが具体的な金銭的評価として現実化した症状固定時の現在価額をもって損害額と認定することも十分可能である。また,本件においては,事故時から症状固定時までの期間が5年5か月余と長いが,症状固定の時期自体,平成14年3月18日の1点に特定することが必然というものでもない上,原判決説示のとおりの控訴人の治療経過等からみて,本件事故による控訴人の後遺障害の部位と程度から治療に時間を要したものというべきであるから,控訴人にその責任があるものとは到底いえない。このような事情からすると,本件においては,むしろ症状固定時を基準にその現在価額を計算するのが当事者間の公平に適うものというべきである。
 なお,控訴人が前記第2の2(3)で指摘するところの,控訴人が退職した翌日である平成13年7月23日から症状固定日の前日である平成14年3月17日までの損害については,証拠(原審控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,平成13年7月22日に勤務先を退職しているところ,その原因は,左下腿部切断という障害による肉体的,精神的負担と義足製作のための準備の必要性等にあると認められる。したがって,前記期間の労働能力の低下分は逸失利益ないしこれと同等の労働能力喪失率に応じた損害として,その発生を認めることができることは,控訴人主張のとおりである。しかし,そもそも逸失利益については,上記のとおり,厳密に日ないし月単位ではなく,通常は年単位でこれを全体的に捉えることも許されており,かつ,本件においては,現在価額算定の基準時を本件事故時としないで控訴人に有利な方式を採用して計算することは,既に説示したとおりである。したがって,これとは別途,上記期間の日毎の計算に基づく数額を逸失利益として加算しなくても,既にその点を含めて控訴人の損害として評価済みであるということも特段不都合はないというべきである。
(エ)まとめ
 以上を前提に計算すると,控訴人の逸失利益の現在価額は,その計算上の数値である4139万4888円(1円未満切り捨て)をもってこれを認めるのが相当である。
 3,082,642×19.1834×0.7≒41,394,888
 なお,被控訴人は,原審において,5157万1638円を超える範囲の逸失利益について争っていたが,当裁判所は,これが算定は法的評価の問題というべきであるから,この被控訴人の主張に拘束されることなく独自に算定できるものと解する。
 ウ 後遺症慰謝料        2000万円
 原判決説示のとおり,本件の事故態様は,被控訴人乙山が職務質問を逃れたいという全く身勝手な理由で,あえて前照灯を消して赤信号無視をした結果,青信号に従って横断歩道を横断していた控訴人に気付かず衝突し,更にその後も逃走したというものであって,極めて悪質であるといわなければならない。他方,控訴人は,事故当時29歳の未婚女性であって,原判決及び上記説示のとおり,左下腿部切断(後遺障害等級5級5号),左大腿醜状痕(同12級相当),右大腿醜状痕(同12級相当)及び顔面口唇下部創痕(同12級14号)等の後遺障害を残し,後遺障害等級併合4級の認定を受けている。加えて,証拠(甲26,27,31,原審控訴人本人)によれば,現在もなお皮膚の合併症への不安が残っている状態であることに加え,切断部の皮膚が非常にぜい弱であるため,長距離の歩行が困難であるなど日常生活上の不便があること,健常者と同様の生活を送るには,さまざまな生活場面に即した義足が必要であるのにこれも十分でないことなど,控訴人は,左下腿部切断以外の醜状痕ないし創痕の点を含めて,本件事故による後遺障害により,多大の精神的苦痛を被っていることが認められる。これらの事情を総合考慮すると,後遺症慰謝料としては,2000万円が相当である。
 (3)既払額      1911万0818円
 ア 控訴人が,平成14年7月29日,自賠責保険から本件事故の損害賠償として1889万円の支払いを受け,これが損害金元本から控除されるべきことは,当事者間に争いがない。
 イ 本件損害額から控除されるべき既払い分として被控訴人らが前記第2の3(5)において主張するもののうち,平成8年11月13日から平成9年5月21日までの合計22万0818円が既払いとして損害金元本から控除されるべきことは,当事者間に争いがない。
 ウ 本件損害額から控除されるべき既払い分として被控訴人らが前記第2の3(5)において主張するもののうち,平成10年1月12日から平成13年8月2日までの合計11万2716円については,証拠(乙12の1の1ないし20,2の1ないし7,3の1ないし3,4の1ないし3,5の1ないし5,6の1ないし4,7の1ないし10)及び弁論の全趣旨によれば,いずれも,本件事故による損害の一部(治療費等)として負担したことが認められ,これらは,その性質上,入院雑費(日用品雑貨費,栄養補給費,通信費,文化費,家族通院交通費等の治療費ないし装具費に含まれない諸雑費)とは別途請求できるものであり,かつ,その支払いに充てられたものとみるのが相当であるから,これを本件請求にかかる損害額から控除するのは相当でないというべきである。
 (4)自賠責保険からの支払額に対する遅延損害金 546万5161円
 上記(3)アの支払い額1889万円については,これを損害額元本から控除するが,これに対する事故日である平成8年10月15日から支払日である平成14年7月29日まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金546万5161円が既に発生したことについては,当事者間に争いがない。
 (5)弁護士費用         680万円
 上記(1)ないし(3)の計算による合計額に本件訴訟の経緯等を考慮すれば,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては680万円が相当である。
 (6)以上(1)ないし(5)の合計 8075万4294円
 3 結論
 以上のとおり,控訴人の本訴請求は,被控訴人乙山に対しては,上記8075万4294円及びうち自賠責保険からの支払額に対する遅延損害金を除く合計7528万9133円に対する事故日である平成8年10月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを,被控訴人会社に対しては,本判決のうち控訴人と被控訴人乙山の間の部分が確定したときに上記金員と同額の金員の支払いをそれぞれ求める限度で理由があるからこれを認容し,その余はいずれも理由がないからこれを棄却すべきである。
 したがって,上記各請求のうち主たる請求部分についてはいずれも本件控訴に基づき,附帯請求部分についてはいずれも本件控訴及び当審における請求の拡張に基づき,原判決を本判決主文1項のとおり変更することとして,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官・中山弘幸,裁判官・岩木 宰,裁判官・伊丹 恭)

 別紙 日新火災から控訴人への内払い額〈省略〉

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