東京地方裁判所判決 平成20年4月8日

       主   文

  1 被告らは,原告に対し,連帯して2226万3960円及びうち2174万0782円に対する平成16年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
  3 訴訟費用は,これを4分し,その1を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。
  4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 請求
   被告らは,原告に対し,連帯して2852万6497円及びうち2800万3319円に対する平成16年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
   本件は,原告が,自転車を運転していた際に,被告Y1(以下「被告会社」という。)が所有しその被用者である被告Y2(以下「被告Y2」という。)が運転する自動車が衝突して受傷した交通事故(以下「本件事故」という。)によって2800万3319円(後記2(2)アからカまで及びケの合計額から693万5900円を控除した額)の損害及びてん補済みの金額のうち616万円に対する本件事故の発生した平成16年4月16日から上記の支払がされた平成18年12月27日までの民法所定の年5分の割合による確定遅延損害金52万3178円(後記2(2)コ参照)が生じたとして,被告会社に対しては,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条本文(ただし,いわゆる物損(後記2(2)カ参照)についてを除く。)又は民法715条に基づき,被告Y2に対しては,同法709条に基づき,連帯して,上記の合計2852万6497円及びうち確定遅延損害金以外の2800万3319円に対する不法行為の日である本件事故の発生した平成16年4月16日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 1 前提事実(証拠を掲記したもの以外の事実は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨によって容易に認めることができる。)
  (1) 当事者
   ア 原告は,昭和25年○月○○日生まれの女性である(甲1)。
   イ 被告会社は,被告Y2の使用者であり,自己のために後記(2)の車両を運行の用に供していた者である。
  (2) 本件事故の発生
    原告は,次のとおりの本件事故により受傷した。
   ア 日時 平成16年4月16日午前8時ころ
   イ 場所 東京都世田谷区奥沢5丁目28番先路上
   ウ 第1車両 自転車(以下「原告自転車」という。)
     運転者 原告
   エ 第2車両 事業用普通貨物自動車(以下「被告会社車両」という。)
     運転者 被告Y2
   オ 被告Y2が運転していた被告会社車両が,前記場所付近の道路を北西(自由が丘駅方向)から南東(等々力通り方向)に進行していたところ,信号機により交通整理の行われている上記イの場所の交差点(以下「本件交差点」という。)において交差する道路を南西(公園通り方向)から北東(自由通り方向)に進行していた原告自転車と衝突し,原告は,本件交差点内において転倒した。
  (3) 原告の受傷内容
    原告の受傷の内容は,左足関節部不安定症,左足趾挫創,右足関節捻挫,左足趾多発骨折,左拇趾短縮及び断端痛,左第1,2,3趾痛及び可動制限並びに左足関節痛及びぐらつきであり,これらの症状は,平成18年3月16日に固定した。
  (4) 治療状況
   ア 入院
    (ア) 独立行政法人国立病院機構東京医療センター(以下「東京医療センター」という。) 平成16年4月16日から同年6月11日まで(入院日数57日)
    (イ) 東京医療センター 平成17年11月2日から同月8日まで(入院日数7日)
   イ 通院
    (ア) 東京医療センター 平成16年7月2日から平成17年11月1日まで(通院期間488日,通院実日数21日)
    (イ) 自由が丘整骨院 平成16年10月1日から平成17年1月21日まで(通院期間113日,通院実日数44日)
    (ウ) 阿部整骨院 平成17年1月22日から同年6月4日まで(通院期間134日,通院実日数27日)
    (エ) 東京医療センター 平成17年11月9日から平成18年3月16日まで(通院期間128日,通院実日数6日)
  (5) 原告の後遺障害の内容及び程度
    原告については,左足関節のぐらつき,左第1趾の機能障害,左足指多発骨折後の左第2,3趾痛等の後遺障害が存し,自動車損害賠償責任保険の手続において,自動車損害賠償保障法施行令別表第2併合第9級に該当するとの認定を受けた。
 2 争点
  (1) 事故の態様及び過失相殺
   (原告の主張)
    被告Y2は,信号機により交通整理が行われている本件交差点において直進しようとするに当たっては,その進行していた上記1(2)イの場所付近の道路が住宅街の中にあるいわゆる裏通りに当たり,かつ,本件交差点に設置されていた対面する信号機が赤色の灯火の信号(以下,信号機の表示する信号の種類については,その灯火する色に応じて「青信号」のようにいう。)を表示していたのであるから,横断する歩行者及び車両の存在を予見して前方左右を注視し,進路前方の道路状況を確認するとともに,交差点及び信号機の有無とその表示する信号の種類に留意し,これに従って進行する注意義務があるにもかかわらず,これを怠った。
    また,原告は,本件交差点の手前約16メートル辺りの地点で,本件交差点に設置された対面する信号機が青信号を表示していることを確認し,その後も,同様に確認しつつ本件交差点において直進しようとしていたのであるから,本件事故について,原告に過失相殺すべき落ち度はない。
   (被告らの主張)
    本件事故について,被告会社が自賠法3条本文(ただし,いわゆる物損を除く。)又は民法715条に基づき,被告Y2が同法709条に基づき,それぞれ損害賠償責任を負うことは認めるが,被告Y2は,対面する信号機が青信号を表示していることを確認して,本件交差点において直進しようとしたところ,交差道路を右方から直進してきた原告自転車に衝突したものであるから,本件事故の発生については,原告に8割の過失相殺をすべき落ち度がある。
    以下の事情を総合すれば,被告Y2が本件交差点に進入する際の対面する信号機の表示が青信号であったと考えるのが相当である。
   ア 本件事故当時の状況
     本件事故当時,被告Y2には,信号を無視してまで急ぐ理由はなく,また,職業運転手で第二種免許(道路交通法86条1項参照)を受けていて信号無視をするリスクを十分承知しており,赤信号を無視して本件交差点に進入する動機は認められない一方,原告は,糖尿病患者であり,インシュリンを常用していたところ,本件事故当時,原告はインシュリンの投与を受けておらず,視力や意識に障害が発生し,これにより,信号機の表示を見落としたり,十分に確認できなかったことが推測される。
   イ 本件事故後の双方の行動について
     被告Y2は,本件事故直後から,一貫して,本件交差点に進入する際の対面する信号機の表示が青信号であったと主張しており,その主張に矛盾はない。
     他方,原告は,本件事故現場で被告Y2が本件交差点に進入する際に対面する信号機が青信号を表示していたと主張していることを知りながら,被告Y2に対して抗議や反論をしたことはなく,治療費の支払についても,健康保険の使用に直ちに同意しており,治療費以外の損害についても,本件訴訟提起まで一切被告らに請求していなかった。
     以上のような原告の本件事故後の態度・行動は,信号無視の車両により重傷を負わされ,かつ,加害者側が交差点に進入する際に対面する信号機が青信号を表示していたと主張している場合の被害者としては,通常考え難いものである。
  (2) 損害及びその額
   (原告の主張)
   ア 治療関係費 合計97万2273円
    (ア) 治療費 82万7253円
    (イ) 入院雑費 9万6000円
    (ウ) 交通費 2万0460円
    (エ) 文書代 2万8560円
   イ 休業損害 670万6952円
     原告の就業状況は,次のウに述べるとおりであり,原告の休業損害の金額は,以下の計算により,上記のとおりとなる。
     350万2200円(平成16年賃金センサスによる企業規模計・学歴計・年齢計の女性労働者の年収)÷365×699日(休業日数(平成16年4月16日から症状固定日である平成18年3月16日まで))≒670万6952円
   ウ 逸失利益 1386万6750円
     原告は,家事に従事する一方で,年齢制限のない一生できる職を身につけたいと考え,約20年間にわたり,日本料理の師匠の下で江戸近茶流の日本料理(懐石料理)を学び,自宅の一部を改造して料理教室用の部屋を造り,そこで生徒を呼んで平成9年ころから料理教室を開き,軌道に乗りそうだと思った矢先に,本件事故により受傷したものであるが,本件事故による後遺障害(上記1(5)参照)により,装具を装着せず自力のみでは満足に歩行することができず,長時間立っていることもできなくなっている上,江戸近茶流の懐石料理に必要不可欠な着物を着用した場合の履物の使用に支障が生じたり,日本料理の作法で最も重要な正座が,正座用の足枕を使用しないとできなくなったものであるから,労働能力を40パーセント喪失したものと評価することができるため,以下の計算によれば,1386万6750円の逸失利益が生じたものといえる。
     350万2200円(平成16年賃金センサスによる企業規模計・学歴計・年齢計の女性労働者の年収)×0.4(原告の労働能力喪失率)×9.8986(53歳から67歳までの14年間の年5分の割合による中間利息の控除に関するライプニッツ係数)≒1386万6750円
   エ 慰謝料 合計1058万9666円
    (ア) 入通院慰謝料 308万9666円
     a 平成16年4月16日から同年6月11日までの入院慰謝料 96万2000円
     b 平成16年7月2日から平成17年11月1日までの通院慰謝料 205万9333円
     c 平成17年11月2日から同月8日までの入院慰謝料 6万3000円
     d 平成17年11月9日から平成18年3月16日までの通院慰謝料 5333円
    (イ) 後遺障害慰謝料 750万円
      原告は,本件事故による後遺障害のため,傷害の症状が固定した後もなお通院する必要があり,それに要する交通費や精神的苦痛のほか,保険会社の対応が不十分なために弁護士に依頼して本件訴訟を提起せざるを得なくなったことや,被告Y2が本件訴訟において事実と異なる供述をしたことによる精神的苦痛も考慮されるべきである。
   オ 装具代 合計 19万3578円
    (ア) 杖代 2万円
    (イ) 足関節装具代 17万3578円
      原告は,既に足関節装具代を支出しており,また,本件訴訟提起時以降,2年ごとに,32年間にわたって足関節装具を買い換える必要があるため,以下の計算によれば,17万3578円の足関節装具代相当の損害を受けた。
      3万4865円(既に支出した足関節装具代の合計)+1万7561円(今後の買換えに要する足関節装具代)×7.89897755(本件訴訟提起時以降2年ごとに32年間にわたって支出される各足関節装具代についての年5分の割合による中間利息の控除に関するライプニッツ係数の合計)
   カ 物損(大破した原告自転車に相当する金額) 2万円
   キ 上記アからカまでの合計 3234万9219円
   ク 損害のてん補 736万円
     原告は,本件事故による損害に関して,三井住友海上火災保険株式会社から合計736万円の支払を受け,上記キのうち,736万円の損害がてん補された。
   ケ 弁護士費用相当損害 259万円
     原告は,本件事故により,被告らに対し,本件訴訟を提起せざるを得なくなり,259万円相当の損害を受けた。
   コ 確定遅延損害金
     上記クのうち616万円は,自動車損害賠償責任保険の手続において平成18年12月27日に受領したものであるが,損害賠償債務の元本のうち616万円については,同日までに,以下の計算によれば,52万3178円の遅延損害金が生じていた。
     616万円×0.05(民法所定の利率)×620日(本件事故の発生した日である平成16年4月16日から平成18年12月27日までの日数)÷365≒52万3178円
  (被告らの主張)
   ア 治療関係費のうち,治療費については認め,その余は争う。
   イ 休業損害については争う。
   ウ 逸失利益については,原告が労働能力を40パーセント喪失したとの点を争い,その余は不知。
   エ 慰謝料については,原告が本件事故により受けた傷害の症状が固定した後も通院を要するとの事実は不知,その余はいずれも争う。
   オ 装具代のうち,杖代については不知,足につける装具代については争う。
   カ 物損については不知。
   キ 損害のてん補については認める。
   ク 弁護士費用相当損害については争う。
   ケ 確定遅延損害金については,平成18年12月27日に自動車損害賠償責任保険の手続において616万円の支払がされた事実は認めるが,その余は争う。
第3 当裁判所の判断
 1 争点(1)(事故の態様及び過失相殺)について
  (1) 上記前提事実(第2の1参照)に加えて,証拠(甲1,2の1ないし3,22,24,26,乙1,3,原告,被告Y2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
   ア 本件交差点は,おおむね北西から南東に向かって自由が丘駅から等々力通りに通じる車道の幅員が約3.2メートルの道路(以下「本件道路」という。)と,おおむね南西から北東に向かって公園通りから自由通りに通じる車道の幅員が約3.5メートルの道路とが交わる十字路交差点であり,信号機により交通整理が行われている。
   イ 本件交差点付近の道路の路面は,アスファルト舗装がされ,平坦であり,本件事故当時乾燥していた。
   ウ 本件交差点付近は,自転車や学生等の歩行者の通行が多い場所であり,被告Y2は,そのことを認識していた。
   エ 被告会社車両は,普通貨物自動車であり,長さ4.97メートル,幅1.86メートル,高さ2.03メートル,最大積載量2000キログラムのいわゆる2トントラックである。
   オ 被告会社車両は,本件道路を自由が丘駅方面から等々力通り方面に向かって,時速約25キロメートルで進行していた。
   カ 原告自転車は,公園通り方面から自由通り方面に向かう道路を進行していた。
   キ 被告会社車両は,本件交差点内において原告自転車と衝突し,原告は,転倒した。
  (2)ア 以上のとおり,本件事故の態様は,直進する原告自転車と直進する被告会社車両とがいわゆる出会い頭に衝突したものである。
     ところで,本件において,被告Y2は民法709条に基づき,その使用者である被告会社は同法715条に基づき,それぞれ本件事故についての損害賠償責任を負うことを争っていない。その上で,一般に,車両の運転者は,交通整理が行われているか否かを問わず,交差点に入ろうとし,及び交差点内を通行するときは,当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等に特に注意し,できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない注意義務を負うところ(道路交通法36条4項参照),既に述べたとおり,本件交差点付近は自転車や歩行者の通行が多く,かつ,被告Y2もそのことを認識していたものであって,原告自転車が本件交差点に入るに当たって,原告において対面する信号機の表示する信号をあえて無視したとの事情までを認めるに足りる証拠はない。そして,他に,被告らが本件事故につき損害賠償責任を負うこと自体について,その自認するところと異なって判断するのを相当とする証拠ないし事情は見当たらない。
   イ 以上を前提に,過失相殺に関する被告らの主張について検討する。
     被告らは,被告Y2は,対面する信号機が青信号を表示していたことを確認して,本件交差点に進入したところ,交差道路を右方から直進してきた原告自転車に衝突したものであるから,本件事故の発生については原告に8割の過失相殺をすべき落ち度があると主張し,それに沿う証拠(甲2の1,乙1,3,被告Y2)も存在する。
     しかし,証拠(甲2の2)によれば,本件交差点において被告会社車両の対面していた信号機と原告自転車の対面していた信号機が同時に青信号を表示することはないことが認められ,本件事故の態様にかんがみれば,原告及び被告Y2が本件交差点に進入したのはおおむね同時であったと考えられるところ,原告は,本件交差点に進入するに際してその対面する信号機は青信号を表示していたとして,被告らの主張を争い,それに沿う証拠(甲2の3,22,24,原告)も存在する。
     この点,上記の被告Y2の本件事故当時の状況に関する供述等については,特に不自然ないしは不合理であったり,客観的な状況と明らかに矛盾するような内容が含まれているものではなく,それ自体直ちに信用性に乏しいものとはいえない。
     しかし,上記の原告の供述等の内容についても,特に不自然ないしは不合理であったり,客観的な状況と明らかに矛盾するような内容が含まれているとはいえない。
     また,被告Y2の陳述書(乙1)及び供述中には,被告Y2が本件事故の発生した当日に原告の入院先を訪問した際に原告は本件事故当時の対面する信号機の表示の内容につきよく覚えていない旨述べたとする部分があり,また,被告会社の従業員であるA等の陳述書(乙2)には,平成16年4月23日に同人らが被告Y2と共に入院中の原告を訪問した際に原告が本件事故当時の対面する信号機の表示の内容につき「よく分からない」と答えた旨の記載があるが,原告は,その陳述書(甲22)及び供述中で,上記のように述べたことを否定しており,後者のやり取りがされたとされる際の状況に関しては,被告Y2の述べるところには記憶の不明確な点も見られることも考慮すると,上記の証拠をもって,原告の供述等の信用性が直ちに左右されるとはいい難く,これらによって被告らの主張するところを認めることができるともいい難い。
     原告が本件事故当時糖尿病にり患していたこと(甲22,乙4,原告)についても,それによって原告の視野に異常が存した等の事情までを認めるに足りる証拠はなく,やはり上に述べたところを覆すに足りるものではない。
     さらに,被告らは,原告は,治療費の支払について健康保険の使用に直ちに同意しており,治療費以外の損害についても,本件訴訟提起まで被告らに請求していなかった点をもって,信号無視の車両により重傷を負わされ,かつ,加害者側が交差点に進入する際に対面する信号機が青信号を表示していたと主張している場合の被害者としては通常考え難いものであると主張し,治療費の取扱い及び賠償金の内払に関する上記のような事実関係は,原告もその供述中で認めるところであるものの,その供述中の他の部分及びその陳述書(甲22)の記載に照らし,原告が被告らの主張を明示的に認めていたとか,黙示的にせよ被告らの主張するところを前提として行動していたとまでは認め難く,他にこの点に関する被告らの主張を認めるに足りる証拠はない。
     そうすると,結局,過失相殺に関する被告らの主張は採用し難いというほかはない。
   ウ 以上に検討したところによれば,被告会社については被告Y2の使用者として民法715条に基づいて,被告Y2については同法709条に基づいて,原告に対し,連帯して,本件事故と相当因果関係を有する損害の全部について賠償する責任があるというべきである。
 2 争点(2)(損害及びその額)について
  (1) 治療関係費について
   ア 治療費として82万7253円が支出されたことは,当事者間に争いがない。
   イ 原告が本件事故によって合計64日にわたり入院することを余儀なくされたことは,当事者間に争いがなく(上記前提事実(第2の1(4))参照),1日当たりの入院雑費としては1500円が相当であるというべきであるから,入院雑費の合計金額としては,9万6000円であると認める。
   ウ 証拠(甲16,17)によれば,原告が,交通費として2万0460円を,文書代として2万8560円を支出したことが認められる。
   エ 本項のまとめ
     以上によれば,原告は,治療関係費として,上記アからウまでの合計額である97万2273円の損害を被ったと認めることができる。
  (2) 休業損害について
   ア 証拠(甲18,19,22,原告)によれば,本件事故当時,原告は,4人家族の家事全般を行っており,かつ,本件事故当時ころ,日本料理(懐石料理)についての料理教室を開いていたと認められるところ,後者による収入の金額は,本件証拠上客観的に明らかではなく,原告の供述によっても,上記の教室は,生活のためというよりは,趣味を生かしてやるといった性格のものであり,月謝の内容も,材料費等の実費のほか若干の謝礼程度であったことからすれば,原告の休業損害を算定する基礎収入としては,平成16年賃金センサスによる企業規模計・学歴計・年齢計の女性労働者の平均年収(350万2200円)を用いるのが相当である。
   イ 原告の傷害及び後遺障害の内容等(上記第2の1(3)及び(5)参照)並びに入通院の状況(同(4)参照)にかんがみれば,原告は,本件事故後,これにより受けた傷害の症状が固定するまでの全期間を通じて,7割の割合で,家事労働等に従事することができなくなったとみるのが相当である。
   ウ 以上に検討したところによれば,原告が休業を余儀なくされたことにより生じた損害は,以下の計算により,469万4867円であると認めることができる。
     350万2200円(平成16年賃金センサスによる企業規模計・年齢計・学歴計の女性労働者の平均年収)÷365×699日×0.7≒469万4867円(小数点以下切捨て)
  (3) 逸失利益について
    既に述べた原告の後遺障害の内容及び程度並びに原告の従事していた労務の内容からすれば,本件事故による後遺障害によって,症状固定時に55歳で,平成18年の簡易生命表によればその余命が32.48年程度であると見込まれる原告は,就労可能と考えられる原告主張に係る14年間を通じて,35パーセントの労働能力を喪失したとみるのが相当である。
    この点,原告は,本件事故による後遺障害により,習得した江戸近茶流の懐石料理に必要不可欠な着物を着用した場合の履物の使用に支障が生ずるなどしたとして,労働能力を40パーセント喪失したものと評価することができると主張するが,原告が開いていた料理教室に関する上記認定判断によれば,原告の上記に関する主張は採用し難いといわざるを得ない。
    そうすると,以下の計算により,後遺障害による原告の逸失利益としては1213万3406円と認めることができる。
    350万2200円(平成16年賃金センサスによる企業規模計・学歴計・年齢計の女性労働者の平均年収)×0.35(労働能力喪失率)×9.8986(14年間に対応する年5分の割合による中間利息控除に関するライプニッツ係数)≒1213万3406円(小数点以下切捨て)
  (4) 慰謝料について
   ア 入通院慰謝料については,既に述べた原告の入院期間,通院期間,実通院日数に照らせば,220万円をもって相当と認める。
   イ 後遺障害慰謝料については,原告の後遺障害の内容及び程度,原告は日本料理(懐石料理)の料理教室を開いていたものであるのに,本件事故による後遺障害により,懐石料理に必要と認められる着物を着用した場合の履物の使用や正座に支障が生じていること(甲22,原告)などに照らせば,690万円をもって相当と認める。
  (5) 装具代について
   ア 既に述べた原告の後遺障害の内容等に加え,証拠(甲22,原告)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件事故後,歩行に際し,次に述べる足関節装具を装着するほか,杖の使用を要する状況になり,その購入に要した損害は2万円であったと認められる。
   イ 証拠(甲20,21の1・2,22,原告)によれば,原告が,症状固定後も,歩行に際しては,これを補助するための足関節装具を必要とすること,原告は足関節装具代として,平成16年11月2日に1万7304円を,平成18年12月5日に1万7561円を支出していること,足関節装具の耐用年数は2年程度であり,原告は直近に足関節装具を購入した年の2年後である平成20年以降その余命の全期間にわたって1万7561円の足関節装具を2年ごとに買い換える必要があることが認められる。
     そして,本件事故により受けた傷害の症状が固定した当時に55歳であった原告について,その余命が32.48年程度であると見込まれることは上記のとおりであることからすれば,原告は,平成20年以降,2年ごとに16回にわたって,足関節装具を購入する必要があるといえるから,以下の計算によれば,この点に関する原告の損害の金額は,17万0236円であると認められる。
     1万7304円(平成16年に購入された足関節装具代)+1万7561円(平成18年に購入された足関節装具代)+1万7561円(今後購入すべき足関節装具代)×(0.90702948+0.82270247+0.74621540+0.67683936+0.61391325+0.55683742+0.50506795+0.45811152+0.41552065+0.37688948+0.34184987+0.31006791+0.28124073+0.25509364+0.23137745+0.20986617(2年後から32年後まで2年ごとに16回足関節装具を買い換える際の各買換え時期に対応する年5分の割合による中間利息の控除に関するライプニッツ係数の合計))=3万4865円+1万7561円×7.70862275≒17万0236円(小数点以下切捨て)
  (6) 物損について
    物損については,証拠(甲2,22,原告)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故当時の原告自転車の価格は1万円程度であるところ,原告自転車は,本件事故により破損(後輪曲損)しており,かつ,その破損の程度からすれば,原告自転車を修理するには少なくとも上記自転車の価格以上の費用が生じるいわゆる経済的全損に至っていると認められるから,その損害としては1万円をもって相当と認める。
  (7) 損害のてん補について
    本件事故による損害に関して736万円の支払がされたことは,当事者間に争いがないところ,原告の主張を踏まえて,上記(1)から(6)までの金額の合計から736万円を控除した後の原告の被った損害額は,1974万0782円である。
  (8) 弁護士費用について
    本件の事案の内容及び難易度等にかんがみれば,弁護士費用相当損害としては,200万円をもって相当と認める。
  (9) 確定遅延損害金について
    上記検討したところによれば,本件事故によって少なくとも616万円の損害が生じていたことが認められるから,以下の計算によれば,本件事故日から自動車損害賠償保険の手続において616万円が支払われたことに争いのない平成18年12月27日までの間に,少なくとも原告の主張に係る52万3178円の遅延損害金が生じていたといえる。
    616万円×0.05(民法所定の利率)×620日(本件事故の発生した日である平成16年4月16日から平成18年12月27日までの日数のうち原告の主張に係る日数)÷365≒52万3178円
 3 結論
   以上によれば,原告の本件請求は,被告会社に対しては民法715条に基づき,被告Y2に対しては同法709条に基づき,連帯して上記2(7)から(9)までに記載した金額の合計2226万3960円及びうち上記2(7)及び(8)記載の金額の合計2174万0782円に対する不法行為の日である本件事故の発生した平成16年4月16日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の部分は理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
       東京地方裁判所民事第27部
                裁判官   八木一洋

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