東京地方裁判所判決 平成17年3月17日

       主   文

 一 被告らは、原告甲野一郎に対し、連帯して、二億〇五四二万一六八三円及び内二億〇三〇五万八六七〇円に対する平成一二年一一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 二 被告らは、原告甲野太郎に対し、連帯して、二〇九万円及びこれに対する平成一二年一一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 三 被告らは、原告甲野花子に対し、連帯して、二〇九万円及びこれに対する平成一二年一一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 四 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 五 訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告らの、その余を被告らの各負担とする。
 六 この判決は第一項、第二項及び第三項に限り仮に執行することができる。

       事実及び理由

第一 請求
 一 被告らは、原告甲野一郎に対し、連帯して、二億八六八六万五七二七円及びこれに対する平成一二年一一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 二 被告らは、原告甲野一郎に対し、連帯して、三〇〇〇万円に対する平成一二年一一月二一日から平成一四年六月一八日まで年五分の割合による金員を支払え。
 三 被告らは、原告甲野太郎に対し、連帯して、五五〇万円及びこれに対する平成一二年一一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 四 被告らは、原告甲野花子に対し、連帯して、五五〇万円及びこれに対する平成一二年一一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、信号機による交通整理が行われていない交差点において、原告甲野一郎(以下「原告一郎」という。)が運転する足踏式自転車(以下「原告自転車」という。)と、被告乙山松夫(以下「被告乙山」という。)が被告株式会社ジャパレン(以下「被告会社」という。)から借り受けて運転する自家用普通貨物自動車(以下「被告車両」という。)が衝突した後記一(1)の交通事故(以下「本件事故」という。)に関し、被告乙山に対し、民法七〇九条に基づき、被告会社に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、原告一郎が、治療費、将来の介護料、後遺障害逸失利益、弁護士費用等合計二億八六八六万五七二七円及び遅延損害金(同額に対する本件事故日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金及び損害のてん補額の一部である三〇〇〇万円に対する本件事故日から支払日までの同割合による確定遅延損害金)の支払を求め、原告一郎の両親である原告甲野太郎(以下「原告太郎」という。)及び原告甲野花子(以下「原告花子」という。)が、固有の慰謝料及び弁護士費用合計各五五〇万円及び遅延損害金(同額に対する本件事故日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金)の支払をそれぞれ求めた事案である。
 一 前提となる事実(証拠を記載したほかの事実は争いがない。)〈編注・本誌では証拠の表示は一部を除き省略ないし割愛します〉
 (1) 本件事故の発生
 次の交通事故が発生した。
 日時 平成一二年一一月二一日午後七時一八分ころ
 場所 東京都墨田区緑二丁目七番三号先路上
 関係車両 ①原告一郎(昭和四七年九月一日生。本件事故当時二八歳)が運転する足踏式自転車(原告自転車)
  ②被告乙山が運転する自家用普通貨物自動車(《ナンバー略》被告車両)
 事故態様 上記場所の信号機による交通整理が行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)において、原告自転車と被告車両が衝突した。
 (2) 原告一郎の受傷と治療経過等
 ア 原告一郎は、本件事故後、救急車で都立墨東病院(以下「墨東病院」という。)に搬送され、同病院において、頭蓋骨骨折、頭蓋底骨折、脳挫傷、左動眼神経麻痺、肺挫傷及び左第三中手骨骨折と診断された。
 イ 原告一郎の治療経過は、次のとおりである。
  (ア) 墨東病院
 平成一二年一一月二一日から平成一三年一月二九日まで入院(七〇日)
  (イ) 学校法人藤田学園藤田保健衛生大学病院(以下「藤田保健衛生大学病院」という。)
 平成一三年一月二九日から同年五月二六日まで入院(一一八日)
  (ウ) 東京都リハビリテーション病院(以下「リハビリテーション病院」という。)
 平成一三年四月二日通院
 平成一三年五月二八日から同年九月七日まで入院(一〇三日)
 平成一三年九月一〇日から平成一四年一月七日まで通院(実通院日数三四日)
 (3) 自賠責保険手続における後遺障害の認定
 原告一郎は、平成一四年一月七日、リハビリテーション病院の都丸哲也医師(以下「都丸医師」という。)により、症状固定の診断を受け、自動車保険料率算定会(現・損害保険料率算出機構。以下「自算会」という。)により、原告一郎の後遺障害は、次の理由で自動車損害賠償保障法施行令二条別表の後遺障害別等級表(平成一三年政令第四一九号による改正前のもの。以下、単に「後遺障害等級」という。)一級三号及び八級一号、併合一級に該当すると認定された。
 ア 頭部外傷に伴う左片麻痺、歩行障害等の症状については、初診時の画像上、右脳内に外傷性の出血がみられ、左眼球付近(左前頭部)に著明な腫脹が生じている。また、右側頭葉先端部分の出血部位には明らかな脳挫傷痕がみられ、その後の画像では、脳全体に著明な萎縮がみられることから、典型的なびまん性軸索損傷と考えられ、本件事故受傷に起因する高次脳機能障害と捉えられる。その障害の程度については、提出の後遺障害診断書、脳外傷による精神症状等の具体的な所見及び日常生活状況報告書等を総合的に勘案すれば、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」として一級三号適用と判断する。
 なお、嗅覚脱失及び歯肉からの出血・疼痛の症状については、上記等級に含めての評価となる。
 イ 頭部外傷に伴う視力障害については、医証等から、一眼(左眼)が失明したものとして、八級一号適用と判断する。
 ウ 歯牙障害については、医証等から、今回の事故により欠損した歯は義歯一歯(4」)で既存障害歯であることから、非該当と判断する。
 エ 歯牙欠損に伴うそしゃく障害の訴えの症状については、提出されたそしゃく状況報告表から、摂食に制限があって、そしゃくが十分でないものとは捉えられず、非該当と判断する。
 オ 上記を併合し、後遺障害等級併合一級と判断する。
 (4) 当事者等
 ア 原告太郎は原告一郎の父、原告花子は原告一郎の母である。原告一郎は、本件事故当時、原告太郎及び原告花子と同居し、現在も同様である。
 イ 被告会社は、自動車の賃貸等を目的とする株式会社である。
 ウ 被告乙山は、本件事故当時、被告会社から被告車両を借り受けて運転をしていた。
 (5) 責任原因
 ア 被告乙山は、信号機による交通整理が行われていない一時停止規制のなされた本件交差点に被告車両を進入させるに際しては、一時停止規制に従い交差道路の安全を確認して進行すべき注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、一時停止規制に気付きながらこれを無視して本件交差点に進入し、かつ、原告自転車を発見し、ブレーキとアクセルを間違えて踏み込んだ過失により、本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故による損害の賠償責任を負う。
 イ 被告会社は、被告車両の所有者であり、被告車両を被告乙山に運転させて自己の運行の用に供していたから、自賠法三条に基づき、本件事故による損害の賠償責任を負う。
 (6) 損害のてん補
 原告一郎は、次の合計五一二二万六三五〇円の支払を受けた(これが、損害のてん補となることにつき争いがない。)。
 ア 労働者災害補償保険法による給付
          七五〇万〇七九七円
  (ア) 療養補償給付
          五四〇万九一七一円
  (イ) 休業補償給付
          二〇九万一六二六円
 イ 任意保険からの支払
         一三七二万五五五三円
 ウ 自賠責保険からの支払
         三〇〇〇万〇〇〇〇円
 二 争点と当事者の主張
 (1) 争点一(本件事故の態様、過失相殺)について
 (被告らの主張)
 本件事故の発生については、原告一郎にも次のような過失があり、民法七二二条二項により、二〇%の過失相殺をするのが相当である。
 ア 本件事故の現場付近は、住宅や建物が建ち並んで見通しが悪く、特に原告一郎の進行方向左側は建物のため全く見通しがきかないこと、交差道路から本件交差点に進入してくる車両があることは十分に予想されることなどから、原告一郎は本件交差点に進入する前に、交差道路の状況に注意を払うべきであった。仮に、原告一郎が被告車両の接近に気付いていれば、ブレーキやハンドル操作により本件事故を回避することができた。
 イ また、原告自転車はマウンテンバイクと呼ばれるタイプの自転車であり、一般の自転車に装着されているようなダイナモ付き電灯は装着されていない。本件事故直後に行われた実況見分においても、原告自転車に装着されていたと考えられるような懐中電灯等燈火装備は発見されていない。夜間、自転車を運転する場合には、前照燈をつけなければならないのであるから、原告一郎には道路交通法五二条一項の違反がある。
 仮に、原告自転車が前照燈により前方を照らしていれば、原告一郎は本件事故の現場である本件交差点の存在を事前に察知し、減速するなどの措置を講じて本件交差点の交差道路から進入する車両の存在を予測して進行することができ、その結果、本件事故を回避することができたと考えられる。
 ウ さらに、原告一郎は、本件事故当時、道路の右側を走行していたところ、もともと自転車を運転するに際しては道路の左側端に寄って通行しなければならないから、原告一郎には道路交通法一八条一項の違反がある。
 原告らは、原告自転車は路側帯内を通行していた上、衝突地点は横断歩道の直近であり、むしろ横断歩道上の事故と同視し得るのであるから、道路の右側通行は問題にならない旨主張する。しかし、衝突地点からすると、原告自転車は路側帯の白線上の車道側を走行しており、路側帯内の走行とは断定できないし、横断歩道の手前を横切る形で交差点内を走行しているのであるから、横断歩道上の事故と同視することもできない。
 (被告乙山の主張)
 原告らは、被告乙山が、①本件事故前に別の事故を起こし、その逃走中に安全確認を怠り本件事故を惹起したこと、②原告一郎が運転する原告自転車を衝突直前になって発見したこと、③ブレーキとアクセルを踏み間違えたこと、④本件事故後、原告一郎の救護にあたることなく本件事故の現場から逃走していることなどを挙げて、被告乙山に重大な過失があり、よって、原告一郎には過失相殺されるべき過失はない旨主張する。
 しかし、被害者の過失を評価するに際しては、あくまでも被害者の当該不法行為に対する関与の態様や、損害の拡大に対する寄与の程度を問題にし、それと加害行為の態様とを比較考慮すれば足りるから、加害者の動機や不法行為に至る経緯は、被害者の過失を問題にする上では埓外である。
 そして、本件のように、四輪車側に一時停止規制がある場合における四輪車と自転車の衝突事故において、四輪車側の著しい過失とは、時速一五km以上の速度超過、酒気帯び運転、脇見運転等の著しい前方不注視、重大な過失とは、時速三〇km以上の速度超過、酒酔い運転、居眠り運転等であるところ、これらはすべて当該事故に至る直接的な運転態度の悪質性を問題にしているのであって、それ以前の動機やそこに至る経緯を問題にしているわけではない。したがって、本件事故直前、被告乙山が逃走中であったこと自体は重大な過失又は著しい過失として、原告一郎の過失割合の減算要素にはなり得ない。
 また、本件事故は、被告乙山が一時停止義務を履行し、左右を確認して交差点に進入していれば回避できた可能性が高いという点において、結果回避可能性が十分に存した事案といえるが、一時停止義務違反自体は軽過失の域を出るものではない。
 さらに、被告乙山が、ブレーキとアクセルを踏み間違えたこと自体は、よくある運転操作のミスであり、重大な過失又は著しい過失とまで評価できるのか疑問である。
 また、原告らが主張するとおり、本件事故後、被告乙山は本件事故の現場から逃走したところ、それ自体が道路交通法上の救護義務に違反するものであり、道徳的に問題があることは争う余地はないものの、過失相殺において考慮すべき事由にはならない。原告らの主張からすると、事故後の交渉態度の一つ一つを過失相殺の要素として考慮しなくてはならないこととなるが、過失相殺の制度はそのような射程範囲のものではないことは明らかである。
 (原告らの主張)
 ア 本件事故は、次のような被告乙山の一連の反規範的行動によって惹起されたものであり、被告乙山の悪質性が深甚かつ明確であるから、損害の公平な負担という過失相殺制度の趣旨からすると、原告一郎には相殺されるべき過失など問題にならない。
  (ア) 被告乙山は、本件事故当日、被告会社から被告車両を借り受け、新しい就職先に向かうため、片側三車線の通称靖国通りの第二車線を走行中、第三車線から車線変更により進入してきた車両に気をとられ、第一車線の状況を確認しないまま、ハンドルを左に切って車線変更し、第一車線へ進入したところ、第一車線を走行中であった訴外近藤大(以下「訴外近藤」という。)運転の普通乗用自動車と衝突した(以下「先行事故」という。)。
 しかし、被告乙山は被告車両を停止させることなくそのまま一〇分程度走行を続け、赤色信号により交差点で停止したところで、訴外近藤に追い付かれた。訴外近藤が被告車両の助手席側ドアを開けて先行事故についての事実確認をしようとしたところ、被告乙山は、被告車両を発進させ、訴外近藤は開けた助手席側ドアに接触して転倒した。
 被告乙山は、そのままさらに逃走を続け、本件事故の現場である本件交差点に差し掛かった。被告乙山は、前方に見通しの悪い交差点があること、交差点手前には一時停止規制があることに気付いたものの、訴外近藤に追い付かれることをおそれ、また、夜間で交通が閑散としていたことから交差道路から本件交差点に進入する車両はないと考え、一時停止や左右の安全確認をすることなく、加速して時速約四〇kmで本件交差点に進入した。
  (イ) 被告乙山は、本件交差点に進入した後、交差道路の右前方五・九mに、右から左に向けて走行している原告自転車を発見した。被告乙山は、急ブレーキを掛けようとしたが、誤ってアクセルを踏み込み、本件交差点東側に設置された横断歩道手前〇・八mの地点で被告車両の前部を原告自転車の左側に衝突させ、その反動で原告自転車は二〇・一m飛ばされ、原告一郎もフロントガラスに激突した後、二二・七m飛ばされた(本件事故)。
  (ウ) 被告乙山は、本件事故後、原告一郎が重傷を負ったか、又は死亡したかもしれないと思ったものの、原告一郎を救護することなくそのまま本件事故現場から逃走した。さらに、被告乙山は、路外の駐車場から後退中であった普通乗用自動車や、道路端に停車中であった貨物自動車に次々と被告車両を衝突させながら逃走を続けたが、度重なる事故により、被告車両のボンネットから白煙があがったため、近くの駐車場に乗り入れたところで、パトカーが駆け付け、現行犯逮捕された。本件事故後、逮捕されるまでの被告車両の逃走距離は一・二五kmであった。
 イ 被告らが原告一郎の過失として主張するところは、次のとおり、いずれも理由がない。
  (ア) 被告らは、原告一郎の左方安全確認義務違反を主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
 仮に、原告一郎に左方安全確認義務があったとしても、自転車は普通走行で時速約一七kmであることから、制動距離は少なくとも二m程度必要であり、一方、被告乙山によると被告車両は時速約四〇kmで走行していたのであるから、本件交差点に進入する前に原告一郎が安全確認をして被告車両を発見しブレーキを掛けていたとしても、原告自転車と被告車両との衝突は避けられなかった。すなわち、本件事故発生と原告一郎の過失の間に因果関係はないのであるから、原告一郎の安全確認義務違反を過失として考慮することはできない。
  (イ) 次に、被告らは、原告一郎が右側通行していたことをもって過失であると主張する。
 しかし、原告自転車と被告車両の衝突地点、原告自転車が走行してきた道路右側には路側帯が設けられていたことからすると、原告一郎は道路右側に設置された路側帯を走行してきてそのまま本件交差点に進入し、横断歩道脇を走行中に本件事故が発生したものと推測される。道路交通法上、自転車は路側帯内の通行が認められていること、路側帯内の通行には左側通行の規制がないことからすると、原告一郎が道路右側の路側帯内を走行することも適法であり、その延長線上にある横断歩道脇を走行することも適法である。また、自転車が右側通行をしたり、左側通行をしたりすることは日常茶飯事であって、本件交差点のように狭い交差点ではなおさら走行位置が一定でないことも多いのが通常であるから、このことを取り上げて問題視すること自体不適切である。
  (ウ) 原告自転車に前照燈が装備されていたことは、本件事故当時も原告一郎と同居していた原告花子の供述から明らかである。確かに、本件事故後の原告自転車には前照燈がないが、これは本件事故の衝撃により前照燈の装備が吹き飛ばされたためである。実況見分においても前照燈の装備が発見されていないのは、当時、前照燈の有無が問題とされていなかったため、捜索に十分注意が払われなかったためであるから、実況見分において前照燈の装備が発見されていないことをもって、直ちに本件事故当時、原告自転車に前照燈が装備されていなかったことにはならない。
 仮に、原告自転車に前照燈が装備されておらず、または前照燈が本件事故当時点灯されていなかったとしても、被告乙山は逃亡のあせりから正常な運転ができる状態ではなく、本件事故も、ブレーキではなくアクセルを踏み込んだ結果発生したものであるから、前照燈の装備の有無・点灯の有無は問題とならない。
 (2) 争点二(原告一郎の後遺障害・介護の程度)
 (原告らの主張)
 ア 原告一郎の後遺障害の内容は、精神障害として高次脳機能障害、身体障害として左片麻痺、歩行障害及び左眼失明である。
 まず、高次脳機能障害については、墨東病院のカルテによれば、原告一郎は受傷直後から意識障害があり、それが四か月以上継続したこと、神経心理学的検査結果によれば、痴呆と判断される所見があり、時と共に改善が見られるものの、なお、知能低下を示す所見があること、画像上、びまん性軸索損傷及び脳挫傷の所見があり、その後、脳萎縮の存在が認められるようになったこと、家族による日常生活状況の報告によれば、記憶・記銘力障害、集中力障害、遂行機能障害、判断力低下、幼稚化、自発性・活動性の低下といった認知障害及び人格変化が認められること、及びおおむね日常生活遂行における高度の障害が確認されるという都丸医師の所見を総合すると、原告一郎の高次脳機能障害の程度は相当重いといえる。
 また、平成一四年五月一日付け後遺障害診断書及び同年六月一九日付け都丸医師作成の国民年金・厚生年金保険診断書の記載内容、家族による日常生活状況の報告内容からすると、原告一郎の左片麻痺は、左半身(特に上肢)の運動がほとんど不可能なもので、その程度が重篤であり、また、小脳損傷による失調等も重なって歩行を始めとした多数の日常生活動作はほとんど不可能であるか重大な支障がある。
 さらに、原告一郎は、本件事故により左眼の視力を失ったところ、視力障害は日常生活での重大な支障となるものであるし、特に、原告一郎の場合、注意力・判断力が欠如した高次脳機能障害もあることを考慮すると、左眼失明により遠近感を喪失していることによる危険は相当に高まるものである。
 以上の点を総合すると、原告一郎は、高次脳機能障害による精神神経症状及び脳外傷による左片麻痺、歩行障害等の身体障害及び左眼失明により、労働能力を一〇〇%喪失したほか、典型的な高次脳機能障害に対する指示・声掛け等の看視にとどまらず、左片麻痺及び歩行障害に対する身体介護も必要な状況であり、常時介護を要することは明らかである。
 イ 被告らは、原告一郎の精神神経症状は症状固定後に改善されており、後遺障害等級二級である旨主張する。
 確かに、原告一郎は、藤田保健衛生大学病院やリハビリテーション病院における治療等により、昏睡状態から具体的に症状が改善した状況が認められる。しかし、当該改善した状況を前提としても、原告一郎は、記憶・記銘力障害、集中力障害、遂行機能障害、判断能力低下、幼稚化、自発性・活動性の低下といった認知障害及び人格変化があり、身体障害として左半身、特に上肢の運動麻痺、バランス失調があり、歩行等の日常生活動作も不可能な状態であって、実用性がある程度まで回復しているとは到底いえない。このような状況を総合考慮した上で、都丸医師は、原告一郎は常時介護を要する状態であると判断しており、現実に、原告一郎の近親者による介護は昼夜日常生活の全般にわたっている。
 また、原告一郎は、高次脳機能障害専門部会により慎重に審査された結果、後遺障害等級一級三号の認定を受けたものであり、実際、高度の物忘れ症状、学習障害があり、日常生活の簡単な動作ですら自分が何をすればいいのか思い出せず、歯磨きですら介護が必要な状態であるし、左片麻痺及び歩行障害により日常生活全般に支障があることも明らかである。平成一三年一月以降、後遺障害等級認定における実務上の解釈指針となっている「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムについて」によれば、後遺障害等級一級三号は「身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面介護を要するもの」とされ、二級三号は「著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、一人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの」とされている。原告一郎の場合、前記の後遺障害等級一級三号が前提とする身体機能の残存も認められないのであるから、後遺障害等級一級三号の高次脳機能障害が想定する障害よりもさらに重篤といえ、その状態は症状固定後においても継続している。改善したといっても、それは一級三号という幅の中での変化にすぎないのであって、等級自体が繰り下がるようなものではない。
 被告会社は、リハカンファレンスのADL(日常生活動作)評価において、着衣・上衣、促しと言語指示で着脱可能であるとされ、症状が改善していること、WAIS―R(成人知能検査)の言語性IQが高いこと、墨東病院の診断書においては随時介護であるとされていることを指摘する。
 しかし、リハカンファレンスにおけるADL評価は、実際の日常生活におけるADL評価と同一とは限らず、医療機関でのADL評価は必ずしも現実のADLの状態を的確に反映したものではないし、症状の改善は定着的なものではない。WAIS―Rは人格変化については何も語らないので、WAIS-Rの言語性IQが高くても高次脳機能障害が軽いとはいえないばかりか、言語性IQは反復訓練などの要素によりその数値が高くなり得るので、正確に障害の実態を評価するとは限らない。また、墨東病院の診断書は、精神の障害については触れておらず、原告一郎の障害の実態の一部のみを評価したにすぎない。
 ウ 被告会社は、公立学校共済関東病院脳神経外科の吉本智信医師(以下「吉本医師」という。)及び大阪市立大学大学院教授の前田均医師(以下「前田医師」という。)の意見書を基に、原告一郎の後遺障害について、随時介護で足りる状態であると主張する。
 しかし、吉本医師及び前田医師は、いずれも原告一郎を診察し、あるいは原告一郎と面談した事実はなく、書類と原告らが提出したビデオテープのみをよりどころとして意見を述べているにすぎず、その信用性については厳密に検討されなければならない。また、前田医師は法医学を専攻しており、高次脳機能障害やリハビリテーションについて研究をしたことをうかがわせる事実はないから、前田医師はそもそも意見を述べる基本的適性を有しているとはいえない。また、吉本医師は、脳神経外科医であり、一応高次脳機能障害についての知見を有しているものの、脳外傷による高次脳機能障害及びリハビリテーションについて考察した論文は最近二〇年間で一件もないことからすると、やはり、意見を述べる十分な適性があるとはいえない。
 他方、都丸医師は、リハビリテーションの専門医であり、過去二〇年間に脳外傷による障害評価、リハビリテーションについての論文を多数発表していることからすると、意見を述べる適性がある。
 (被告会社の主張)
 ア カルテに記載されたADL評価表・FIM(日常生活自立度)、WAIS―Rの結果、墨東病院の清田和也医師作成の診断書(乙二〇・四七頁)、藤田保健衛生大学病院における介護度についての判断あるいはビデオ(甲三〇)からすると、原告一郎は、食事、排泄について、多少の補助は必要であるとしても自分で行うことが可能であり、伝い歩きや一本杖による歩行も可能で、高度の片麻痺、用廃に準ずる四肢麻痺、構音障害の合併はなく、日常において全く自用を弁ずることができない状況ではない。知能検査等においても、高度の痴呆が認められるものでもなく、情意の荒廃のような精神症状もない。活動は自宅内に限られているが、寝たきりではなく、パソコンも自分で操作することができる。このような状況からすると、原告一郎は常時介護を要するものではなく、随時介護の状態であり、後遺障害等級二級三号に該当するものである。
 イ 都丸医師作成の自賠責保険後遺障害診断書では「重度の片麻痺、高次脳機能障害のため日常生活動作において常に介助を必要とする」と記載され、それが、自算会の原告一郎の高次脳機能障害につき後遺障害等級一級三号適用と判断した有力な資料となっている。しかし、都丸医師の診断書や意見は、かなり患者サイドに立ったものであることは否めない事実である。
 原告らは、吉本医師及び前田医師の意見が原告一郎を診察した上でのものではないことを批判するが、都丸医師も、日常生活状態については家族の報告に依拠して判断するほかないのであって、自ら日常生活を内側から見ているわけではない。
 ウ 原告らは、リハカンファレンスにおけるADL評価は実際の日常生活におけるADL評価と同一とは限らず、医療機関でのADL評価は必ずしも現実のADLの状態を的確に反映したものではないと主張するが、根拠がない。むしろ、賠償問題を前にして家族が本人のために記入するADLについては、自ずから主観的で合目的的にならざるを得ないのであり、医療機関での評価こそ客観的といえる。また、原告らは、WAIS―Rは人格変化については何も語らないのでWAIS―Rの言語性IQが高くても高次脳機能障害が軽いとはいえないばかりか、言語性IQが反復訓練などの要素によりその数値は高くなり得るので、正確に障害の実態を評価するとは限らないと主張する。しかし、WAIS―Rを測定するには一定時間が必要であり、その間、験者の指示を聞き、一定時間持続する努力も必要であるため、強い情動障害や行動障害のある人は、検査が施行できず、WAIS―Rを施行できること自体が最重度の高次脳機能障害でないことを意味しているのであるから、結果が高得点であることは十分に意味のあることである。しかも、IQの試験は、毎日のように練習といえるほど試験を行った場合は、一定の範囲内で点数が上昇するだろうが、適宜行う場合には、点数に大きい影響を与えないように工夫されている。さらに、墨東病院の診断書は、精神の障害については触れておらず、原告一郎の障害の実態の一部のみを評価したにすぎないと主張するが、ビデオテープ等からすると、診断書の方が客観的で実態に即したものであることが分かる。
 (3) 争点三(原告らの損害)
 (原告らの主張)
 ア 原告一郎の損害
 本件事故により、原告一郎は、次のとおり合計二億八六八六万五七二七円の損害を被った。
  (ア) 治療費  一二七四万四六九一円
 墨東病院     五四〇万九一七一円
 藤田保健衛生大学病院
          七三三万五五二〇円
  (イ) 文書料       八二五〇円
  (ウ) 治療用装具代
          一一二万八八九八円
 脊髄刺激装置    七六万八〇七五円
 下肢装具三点    三六万〇八二三円
  (エ) 移送費    三六万七四四〇円
 原告一郎が藤田保健衛生大学病院に転院した際、交通費及び付添看護費用として合計三六万七四四〇円を要した。
  (オ) 入院雑費   四三万六五〇〇円
 入院雑費は、日額一五〇〇円、入院日数二九一日分の四三万六五〇〇円が相当である。
  (カ) 付添費   三三〇万四〇〇〇円
 原告一郎の症状は重篤であり、症状固定に至るまでの全期間(四一三日)について、近親者による付添いを要したところ、日額八〇〇〇円とすると付添費は三三〇万四〇〇〇円(八〇〇〇円×四一三日)となる。
  (キ) 付添滞在費  五〇万二二九〇円
 原告一郎は、遷延性意識障害の治療に定評のある名古屋の藤田保健衛生大学病院に入院して治療を受けた。その際、現地のホテルやウィークリーマンションを借り、家族が交代で付添看病に当たったのであり、その費用として五〇万二二九〇円を要した。
  (ク) 付添交通費  二〇万〇〇〇〇円
 原告一郎が、藤田保健衛生大学病院に入院中、家族が交代で付添看病に当たった際に要した交通費のうち、東京と名古屋の八往復のみ請求する。
  (ケ) 介護ベッド関係費
           九一万三〇二六円
 原告一郎には、介護用ベッドが必要であり、その単価は三四万円である。また、ベッドに敷くプレグラーマットレス(単価三万八〇〇〇円)、ベッドサイドレール(単価九〇〇〇円)が必要である。介護ベッド本体の耐用年数は八年、プレグラーマットレス及びベッドサイドレールの耐用年数は各三年であるところ、原告一郎の症状固定時から平均余命までは四九年であるが、四八年分を計算すると合計九一万三〇二六円となる。
  (コ) 車椅子関係費
          三〇一万三一九八円
 原告一郎には、室内用車椅子(単価二〇万四二〇〇円)、外出用電動車椅子(単位四二万円)、室内リハビリ用六輪車(単価一五万二〇〇〇円)、車椅子用テーブル(単価九〇〇〇円)、車椅子用クッション二個(単価一万四八〇〇円×二)が必要である。車椅子及びリハビリ用六輪車が耐用年数五年程度、車椅子テーブルは三年程度、クッションは二年程度であるところ、四八年分を計算すると合計三〇一万三一九八円となる。
  (サ) 家屋改造費
         一六七五万六六四六円
 原告一郎の介護のため、既に被告らの負担で家屋の一部改造がなされており(トイレ、浴室、居室、玄関改修、追加工事、昇降リフト)、その合計は四四二万五二八四円であるが、この改造は臨時の最小限の改造にすぎない。さらに、ホームエレベーターの設置、バリアフリー化等根本的な家屋改造が必要であり、そのためにはさらに一三〇二万円の費用を要する。既に設置されている昇降リフトは、移乗の際に転倒等の危険性が高いので、これに替えてホームエレベーターの設置が必要である。もっとも、昇降リフトが介護のために一定の役割を有していたことは否定しないし、また、現在においても一定の価値が残存していることから、昇降リフトの現価(六八万八六三八円)を考慮して、家屋改造費として、既に改造済部分の費用四四二万五二八四円、未改造部分の費用一三〇二万円の合計から昇降リフトの現価(六八万八六三八円)を控除した一六七五万六六四六円を請求する。
  (シ) 車両改造費 二三〇万九九二一円
 原告一郎を介護、通院させるために使用する車両については、介護用に改造を行う必要がある。一回の改造に要する費用は八六万九二七四円を下らず、車両の法定耐用年数は六年であるから、四八年分を計算すると二三〇万九九二一円となる。
  (ス) 入浴介護用品関係費
           三二万〇五〇一円
 原告は、入浴のためにシャワーチェア(単価四万九八〇〇円)、浴槽内用の吸着滑り止めマット(単価二五〇〇円)、洗い場用の滑り止めマット(単価三六〇〇円)が必要であり、それぞれ耐用年数は三年程度であるから、四八年分を計算すると三二万〇五〇一円となる。
  (セ) 将来の治療費
         一三〇八万一四六四円
 原告一郎は、現状を維持するために症状固定後も余命期間中、電気療法やリハビリ等を中心とした治療を継続することが必要であるから、その治療費は、本件事故と相当因果関係がある損害である。治療費は少なくとも月額六万円(年額七二万円)を下ることはないので、原告一郎の平均余命を四九年として計算すると合計一三〇八万一四六四円となる。
  (ソ) 将来の介護料
       一億〇三二二万八三三二円
 原告一郎の後遺障害は重篤であり、常時介護が必要である。症状固定時において、原告太郎及び原告花子(以下、総称して「原告父母」という。)はいずれも五五歳であるところ、原告父母が六七歳になるまでの一二年とその後原告一郎の平均余命までに分けると、介護料は次のとおりとなる。
  a 原告父母が六七歳になるまで
 原告父母が六七歳になるまでは、原告父母による介護が可能であるものの、一方で、会社を営んでいることから仕事をしている間は原告父母による介護はできない。よって、平日(年二四〇日)は職業付添人により八時間介護(日額一万四三八五円)、その余は原告父母による介護(日額二〇〇〇円)として、日額一万六三八五円、休日(年一二五日)は原告父母による介護として、日額一万円とし、一二年間分の介護料を算定すると、次のとおり、四四八二万四七四七円となる。
 (一万六三八五円×二四〇日+一万円×一二五日)×八・八六三二(一二年ライプニッツ係数)=四五九三万二六四七円
  b 原告父母が六七歳以降
 原告父母が六七歳以降は介護はできないので、全日、職業付添人による介護となり、その場合の日額は一万六八六九円を下らない。よって、原告父母六七歳から原告一郎の平均余命まで四九年の介護料は、次のとおり五七二九万五六八五円となる。
 一万六八六九円×三六五日×(一八・一六八七-八・八六三二)(四九年ライプニッツ係数-一二年ライプニッツ係数)=五七二九万五六八五円
  c まとめ
 以上のとおりであるから、将来の介護料はaとbの合計一億〇三二二万八三三二円である。
  (タ) 休業損害  五〇五万〇一二六円
 本件事故当時、原告一郎は就労しており、本件事故日までの平成一二年度の収入実績は三九六万一八四三円であった。これを年収に換算すると四四六万三一八七円であり、原告一郎は、本件事故により四一三日間休業を余儀なくされたのであるから、次のとおり、休業損害は五〇五万〇一二六円となる。
 四四六万三一八七円÷三六五日×四一三日≒五〇五万一二六円
  (チ) 後遺障害逸失利益
       一億一三二二万六七九四円
 原告一郎は、本件事故により後遺障害等級併合一級に該当するとの認定を受けており、労働能力喪失率は一〇〇%である。
 また、原告一郎は、症状固定時二九歳の若年であったこと、丙川大学大学院(理系)を修了していること、本件事故当時、年収四四六万三一八七円程度が見込まれ、将来にわたって少なくとも平成一二年賃金センサス男性労働者・大卒・全年齢の平均賃金六七一万二六〇〇円の収入を得られたであろうことは確実であるから、後遺障害逸失利益を算出するにあたっては同額を基礎収入とすべきである。
 また、原告一郎は、症状固定時二九歳から六七歳に至るまで三八年間労働が可能であった。
 よって、後遺障害逸失利益は、次のとおり一億一三二二万六七九四円となる。
 六七一万二六〇〇円×一〇〇%×一六・八六七八(三八年ライプニッツ係数)≒一億一三二二万六七九四円
  (ツ) 傷害慰謝料 三五〇万〇〇〇〇円
 原告一郎の受傷内容、治療経過等に鑑みると、傷害慰謝料は三五〇万円が相当である。
  (テ) 後遺障害慰謝料
         三二〇〇万〇〇〇〇円
 原告一郎の後遺障害の内容・程度・本件事故の態様に鑑みると、後遺障害慰謝料は三二〇〇万円が相当である。
 原告一郎は大学院卒の将来有望なエリートであったが、自らは何の落ち度もない本件事故により社会から庇護を受ける立場となった。また、原告太郎は、原告一郎を自身の経営する会社の跡継ぎにすることを考えていたし、原告花子は、原告一郎の将来に大きな希望をもっていたにもかかわらず、これらが本件事故により一瞬に奪われた上、両名が衰えるまで毎日介護に明け暮れなければならず、その精神的苦痛は相当大きなものがある。さらに、被告乙山はこれまで一度も原告らに謝罪していない。被告乙山は、本件事故により刑事裁判において実刑になったにもかかわらず、本件訴訟では、本件事故は勤務先に急いでいたため起こした事故であると虚偽の主張をし、全く反省の色がない。被告会社についても、担当者が原告らに謝罪したことはない上、被告会社も被害者だと主張し、過失相殺の主張までしている。
 以上のような諸事情を斟酌すれば、後遺障害慰謝料三二〇〇万円は決して高額なものではない。
  (ト) 中間利息控除の基準時
 被告らは、事故日を基準とする中間利息控除を主張するが、次のとおり症状固定日を基準とすべきである。
 そもそも被害者の損害は、潜在的には事故によってすべて発生しているのであり、症状固定は単にその損害の発生が顕在化する時期にすぎない。そうすると、事故日から一律に中間利息を算定し、症状固定日までの分を控除するというのは極めて技巧的にすぎるというべきである。
 また、これを厳密に考えるとすれば、事故日以降に支出したあらゆる積極損害(治療費も含めて)、あるいは休業損害がすべて中間利息控除の対象になってしまうことになる。このような算定は極めて煩雑であり、非現実的なものであって妥当性を欠く。さらに例えば、事故の翌年に支出した治療費について中間利息があるとして、その分を差し引いた実費補てんがなされないとすれば、それは一般人の法感情に反した結論となる。そのため現在ではかような煩雑で法感情に反した扱いを避けるため、積極損害や休業損害等、症状固定日までに支出されたものに関しては、支出日までの中間利息の控除を行わないのが一般的といえる。
 さらに、現在のように長期間の低金利状況下においても、五%という極めて高金利の利息控除が是認されており、それ自体で損害の算定が十分控え目になされているのであるから、これに加えてさらに被害者に不利となる中間利息控除の方法を、現在の多数の実務慣行に反してまであえて行わなければならない理由はない。
  (ナ) 弁護士費用
         二六〇〇万〇〇〇〇円
  (ニ) まとめ
 以上の(ア)ないし(テ)の小計は三億一二〇九万二〇七七円であるところ、これから損害のてん補額五一二二万六三五〇円(前記前提となる事実(4))を控除した残額二億六〇八六万五七二七円に(ナ)の弁護士費用を加算すると二億八六八五万五七二七円となる。
 よって、原告一郎は、二億八六八五万五七二七円及びこれに対する本件事故日である平成一二年一一月二一日から支払済みまで民法所定の五分の割合による遅延損害金並びに自賠責保険金三〇〇〇万円に対する前記本件事故日から保険金支払日である平成一四年六月一八日までの同割合による遅延損害金の支払を、被告乙山に対しては民法七〇九条に基づき、被告会社に対しては自賠法三条に基づき求める。
 イ 原告太郎及び原告花子の損害
  (ア) 固有の慰謝料
         各五〇〇万〇〇〇〇円
 原告太郎及び原告花子は、原告一郎の父母であるところ、原告一郎が長期間にわたって治療を続け最終的には後遺障害等級併合一級に該当する後遺障害を負ったという死亡にも比肩しうべき苦痛を受けた。なおかつ、原告太郎及び原告花子は、今後一生涯、自らの自由な時間を犠牲にして全力で原告一郎の介護に当たらねばならず、その精神的苦痛は相当なものである。
 よって、原告太郎及び原告花子には、それぞれに固有の慰謝料が認められるべきであり、その額は少なくとも各五〇〇万円は下らない。
  (イ) 弁護士費用 各五〇万〇〇〇〇円
  (ウ) まとめ
 よって、原告太郎及び原告花子は、(ア)と(イ)の合計各五五〇万円及びこれに対する本件事故日である平成一二年一一月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告乙山に対して民法七〇九条に基づき、被告会社に対して自賠法三条に基づきそれぞれ求める。
 (被告会社の認否・主張)
 ア 原告一郎の損害
  (ア) 治療費一二七四万四六九一円、文書料八二五〇円、治療用装具代一一二万八八九八円、移送費三六万七四四〇円及び入院雑費四三万六五〇〇円は認める。
  (イ) 付添費は、墨東病院及び藤田保健衛生大学病院に入院期間中の付添費は本件事故による損害として認めるが、リハビリテーション病院に入院中の付添費は否認する。リハビリテーション病院での付添いは、子を思う親の心情としては理解できるが、あくまで親子の情による見舞い的な付添いと評価されるべきもので、付添費として本件事故による損害とは認められない。
  (ウ) 付添滞在費五〇万二二九〇円及び付添交通費二〇万円の合計七〇万二二九〇円は否認する。
 藤田保健衛生大学病院において治療を受けたこと及び同病院に入院中の付添いの必要性・有用性を否定するものではないが、原告らは東京に在住しているところ、愛知県豊明市にある同病院が遷延性意識障害の治療に定評があるということを超えて、同病院でなければ受けられない治療を受けたなどの特殊な事情がない以上、付添滞在費や付添交通費は本件事故と相当因果関係がない。
  (エ) 介護ベッド関係費九一万三〇二六円は否認する。
 原告一郎は、現在、介護ベッドを使用していないのであるから、必要性が認められない。仮に、介護ベッドを使用することで介護の負担が軽減されるというのであれば、介護ベッドの導入は介護料の軽減に反映させるべきである。
  (オ) 車椅子関係費のうち、電動車椅子は、四肢は不自由であるが自分で操作して外出が可能な身体障害者向け用品であるところ、原告一郎が電動車椅子を操作することができるか疑問であるし、現に購入していないのであれば、必要性が乏しいといわざるを得ない。
 なお、仮に外出用と室内用の二台の車椅子が必要であるとしても、原告一郎の場合は常時車椅子を使用しているわけではないし、二台を併用する場合には一台ごとの使用頻度は減ることから、耐用年数は延びるものと考えられる。
  (カ) 家屋改造費一六七五万六六四六円は否認する。
 原告ら宅には、本件訴訟前に、改修・設置工事が行われ、被告会社が付していた任意保険から、トイレ、浴室、居室、玄関改修工事費として一五八万八一二〇円、追加工事費として三八万三八一二円、昇降リフト費として二四五万三三五二円の合計四四二万五二八四円が支払われている。この改修・設置工事は、その当時の原告ら宅における親族介護の実態を前提として、原告らの求めに応じて、自宅での介護のために必要な改造として行ったものであり、臨時、最小限のものではない。そして、この改修・設置工事後、約三年間、新たな改造をすることもなく、親族介護がなされてきたことからすると、家屋改造は十分であったものといわざるを得ない。原告らが主張する改造は、本件訴訟前の改造と同じ目的を有するもので、実質的には、家屋改造費の請求は重複請求である。
 仮に、あらたに改造する必要性があり、原告らの要望を前提としたとしても、家屋改造費として算出されるのは一〇一七万一二一八円である。
  (キ) 車両改造費二三〇万九九二一円は否認する。
 原告一郎のために、現在、改造車両が使用されているわけではなく、車両を改造する必要性があるのか明らかでない。
  (ク) 入浴介護用品関係費三二万〇五〇一円は否認する。
 日常生活でも必要なものであり、生活費の一部として支弁されるべきものである。また、耐用年数を三年とするのは短すぎる。
  (ケ) 将来の治療費一三〇八万一四六四円は否認する。
 原告一郎が請求する将来の治療費は、むしろ症状固定後のリハビリ費用に相当するものであるところ、マッサージや心理士によるものは治療行為とはいえず、医師の指示もないのであるから、必要性・相当性がない。
  (コ) 将来の介護料一億〇三二二万八三三二円は否認する。
 原告一郎の後遺障害の程度、介護の状況からすれば、原告一郎に必要な介護は、常時介護ではなく随時介護である。
 原告一郎に職業介護人は必要ではないし、現に職業介護人の介護を受けておらず、自宅で仕事をしているため、家族全員で介護にあたっている。家族の誰かが家にいれば特に問題はないし、また、必ず誰かが常時看視している必要もない。家族によるリハビリの効果を否定するものではないが、リハビリそのものは介護の問題ではない。原告一郎の場合、褥瘡防止のため夜間二時間ごとに起きて体位交換をさせる必要はないし、痰の吸引、経管栄養による誤嚥防止やチューブの管理の必要もない。凶暴性もなく、買い物の間の留守番も可能である。このような状況からすると、近親者による常時介護の場合の二分の一程度の随時介護で足り、介護料は日額三〇〇〇円ないし四〇〇〇円程度が相当である。
  (サ) 休業損害及び後遺障害逸失利益は不知。
  (シ) 傷害慰謝料は三二五万円が相当である。
  (ス) 後遺障害慰謝料は二八〇〇万円が相当である。原告らは、慰謝料の大幅な増額を求めるが、本件では、加害者に代わり被害者の損害のてん補の実質を担う損害保険会社の対応が真摯なものであったこと、加害者個人の悪質性及び事故態様全体の悪質性は刑事裁判において十分に審理、かつ評価され、被告乙山は、この種事案において判決当時として最も重い部類といえる懲役二年の実刑となり、その刑に服したもので、現行法内で受けるべき社会的かつ法的な制裁が適切になされたといえること、その上さらに、慰謝料額を増額させなければならない事案かについては十分な吟味が必要であること、制裁的な面での慰謝料増額は、結果においては、例えば同じように子を失った親を差別することになることなどを考慮すると、大幅な慰謝料の増額は相当ではない。
  (セ) 中間利息控除の基準時について
 損害賠償請求権は事故時に一個のものとして発生しているとされ、事故時からの遅延損害金が認められていることとの均衡からみても、症状固定時における現価ではなく、事故時における現価を算出すべきことはむしろ理論として当然である。
 確かに、全損害費目について中間利息を控除するのは法感情に反し、技攻的にすぎるという批判もあるとしても、逸失利益、将来の介護料等金額が大きな費目について厳密に算定することが妨げられるものではない。
 原告一郎は、本件事故時二八歳、症状固定時二九歳であったことから、少なくとも逸失利益、将来介護料の算定においては、本件事故時の現価に引き直すべきであり、本件事故時の二八歳から就労可能年齢六七歳まで三九年のライプニッツ係数一七・〇一七〇から本件事故時の二八歳から症状固定時の二九歳まで一年のライプニッツ係数〇・九五二三(又はホフマン係数〇・九五二三)を控除した係数一六・〇六四七を用いるべきである。
  (ソ) 弁護士費用は否認ないし争う。
 イ 原告太郎及び原告花子の損害
 原告太郎及び原告花子の固有の慰謝料と原告一郎本人の慰謝料とを併せて二八〇〇万円とするのが相当であり、別途評価するのは相当ではない。
 (被告乙山の認否・主張)
 ア 原告一郎の損害について
  (ア) 原告一郎の損害のうち、介護ベッド代は、原告一郎の後遺障害等級が二級であることから必要性がない。また、原告一郎は、未だ介護ベッドを使用していないし、現在の居住環境において介護ベッドを設置するスペースを確保することはできないのであるから、現実に使用できない介護ベッドを請求することは過大請求である。
  (イ) 車椅子代は、現在の原告らの住居において、車椅子で移動できるようなスペースはなく、室内用車椅子を購入しても使用は不可能であるから、必要性がない。
  (ウ) 車両改造費は、原告一郎が自動車に乗車する際に、車椅子のまま乗車する必要はないから、必要性がない。
  (エ) 家屋改造費は、既に支払済みの家屋改造費を超えて、さらなる改造の必要性があるとはいえない。
 イ 中間利息控除の基準時について
 一個の事故から発生する損害がすべて不法行為時に発生し、かつ、その時点から遅延損害金を付すという擬制を前提とする限り、不法行為成立時から具体的な経済的支出又は損失が発生する時点までの利息相当分を控除しないと、被害者が本来ならば直ちに手に入れなければならないはずの金銭を受領して利殖を行い、本来得られなかったはずの利息を得られることになって、不公平な結果、すなわち事故時から症状固定時までの利息が二重取りとなるという致命的な欠陥がある。これを回避するためには、当事者間の公平を図るため、事故時から症状固定時までの中間利息を控除すべきである。
 事故時から症状固定時までの中間利息を控除すべきであるのは、後遺障害逸失利益のほか、将来介護料、将来治療費、介護ベッド代、入浴介護用品関係費及び車両改造費である。
 (4) 争点四(供託の効力)
 (被告らの主張)
 ア 被告会社は、平成一六年二月二六日、本件事故により原告一郎に対して負う損害賠償金として一億五〇〇〇万円(遅延損害金を含む)が適正額であると判断し、原告一郎に対し弁済の提供を行ったところ、原告一郎が受領を拒絶した。このため、被告会社は、平成一六年三月一一日、東京法務局に、自賠責保険金三〇〇〇万円に対する本件事故日から支払日までの確定遅延損害金二三六万四〇〇〇円、損家賠償金の元金一億二六八九万七七七五円及びこれに対する本件事故日から平成一六年三月一一日までの年五分の割合による遅延損害金二〇七三万八二二五円の合計一億五〇〇〇万円を供託した。
 イ 被告会社は、一億五〇〇〇万円を債務全額として供託したものであるが、本件審理の結果、仮に供託額が債務の一部であることになったとしても、次のとおり、少なくとも一部弁済として効力を有すると解すべきである。
  (ア) 債務額が不明確な場合に債務者が相当な額を全額として供託するのであれば、債務の本旨に従った弁済としてその部分については効力を認めても、債権者保護に欠けることにはならない。一方的な金銭支払債務である損害賠償において、そのような弁済の効力を認めても、債権者に不利益が生じるとは考えられない。
  (イ) 債務者が債務全額として供託した金額でも、債権者がこれを一部弁済として受領することは認められている。
  (ウ) 債権の種類や債務額に対する供託額の割合など各種の事情を個別的に判断して、その供託が債務の本旨に従った弁済と認め難いとき、つまり、当該供託を認めては債権者(被害者)の立場が害される場合にだけ、一部供託を無効とすれば十分にあり、原則として無効とする必要はない。
 被告会社が供託した一億五〇〇〇万円は相当な額であり、また、裁判手続を通じて弁済の提供の意思表示をしており、特に債権者の立場を害する事情も存しない。
  (エ) 弁済の提供のほか、特に供託制度を設ける実益は、不法行為に基づく損害賠償債務においては担保消滅や反対給付の請求がないので、他の場合に比して小さいものの、債務者が履行の準備を継続しなければならない点は無視できない。そして、本件では、被告会社に年度予算の問題があり、平成一六年三月中に相当と思われる債務弁済の必要性があった。
  (オ) 訴訟が長期化することにより被害者救済が遅れることがあるといわれる中で、原告一郎にとって一億五〇〇〇万円の賠償を受けることは利益でこそあれ、拒絶しなければならない理由はない。
 (原告らの主張)
 ア 弁済供託の要件としての債権者の受領拒絶は、債務者が弁済の提供をなしたにもかかわらず、債権者がこれに応じない場合をいう。弁済の提供は、債務の本旨に従ったものでなければならないところ、一部弁済の提供は債権者の承諾がない限り、原則として債務の本旨に従った弁済とはならない。したがって、債権者の受領拒絶を原因とする供託により債務消滅の効果が認められるのは、債務者が債務の本旨に従った弁済の提供をしたにもかかわらず、債権者がこれに応じない場合と解すべきである。可分な金銭債権の給付を目的とする債務にあっても、債務全額を提供しなければ債務の本旨に従った弁済の提供には当たらないから、債務者が債権の一部について弁済の提供をした上で、債権者の承諾を得ることなく供託をしたとしても、供託の要件を満たすものではない。よって、供託による債務消滅の効果は、当該提供額の限度においてすら発生しない。
 本件の場合、原告一郎の訴求債権は二億八六八六万五七二七円及びこれに対する平成一二年一一月二一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金並びに自賠責保険から支払われた三〇〇〇万円に対する平成一二年一一月二一日から平成一四年六月一八日まで年五分の割合による遅延損害金であるところ、被告会社が供託した一億五〇〇〇万円はその半分程度にすぎないから、原告一郎の訴求債権額と差が僅少であるとはいえないし、また、そもそも原告一郎は供託することを承諾していない。したがって、被告会社がした弁済の提供は債務の本旨に従ったものとはいえず、債務の本旨に従った弁済の提供でない以上、本件供託は無効であるから、原告一郎の訴求債権に何ら消長を来すものではない。
 イ 確かに、一部弁済の提供及び供託が有効となる場合を認めた最高裁判例がある(最二判平成六年七月一八日民集四八巻五号一一六五頁)。しかし、同判例は、「加害者が第一審判決によって支払を命じられた損害賠償金の全額を提供し、供託してもなお、右供託に係る部分について債務を免れることができないと解するのは、加害者に対し難きを強いることとなる。」と判示しているのに対し、本件は、未だ一審判決がなされていない段階で、かつ、被告会社が相当と考える額を供託したものであり、同判例と事案を異にする。このような一部弁済の提供を認めるメリットは、被告会社にとって、遅延損害金の発生を阻止することができる点にあるが、このような供託を認めると、被害者は結局、分割弁済を強要されるのと同じであり、一部弁済の合理的期待を奪われることとなり公平でない。そもそも不法行為に基づく損害賠償債務を発生させたのは被告乙山の重大な過失によるのであるから、遅延損害金の負担が重いとしてもそれはやむを得ない。
第三 当裁判所の判断
 一 争点一(本件事故の態様、過失相殺)について
 (1) 認定事実
 前記前提となる事実、《証拠略》によれば、次の事実を認めることができる。
 ア 被告乙山は、平成一二年一一月二一日午後一時ころ、被告会社の池袋支店で利用時間を二四時間として被告車両を借り受け、一旦、当時居住していた府中市内の寮に被告車両を運転して戻り、同日午後五時ころ、被告車両を運転して、千葉県西船橋市内にある新しい職場へ向かって出発した。
 被告乙山は、同日午後七時五分ころ、被告車両を運転して、東京都中央区東日本橋二丁目二六番六号付近の通称靖国通りを市ヶ谷方面から清澄方面に向かって走行していた。被告車両は片側三車線のうち第二車線を走行していたが、被告乙山は、第三車線を走行していた車両が第二車線側へ寄ってきたことに気を取られて左の第一車線へ寄り、第一車線を走行していた車両に被告車両を接触させる先行事故を起こした。
 被告乙山は、先行事故を起こしたことに気付いたものの、被告車両を停止させず、そのまま走行を続けて先行事故の現場から走り去った。
 イ 被告乙山は、先行事故の現場から一〇ないし二〇分間、被告車両を走行させた後、交差点において信号待ちのため被告車両を停止させたところ、訴外近藤に助手席側の窓を叩かれ、「おまえ、ぶつかったろ」と言われた。被告乙山は、訴外近藤が先行事故の際に被告車両が接触した車両の運転者であることが分かったが、被告乙山があいまいな返事をしている間に対面信号機の表示が青色に変わったことから、被告乙山は、被告車両を発進させて逃走を始めた。
 被告乙山は、先行事故の責任追及を免れるため、走行していた道路を右折して路地のような道路に入り、走行を続けているうちに、通称清澄通り(以下「清澄通り」という。)方面と通称三ツ目通り(以下「三ツ目通り」という。)方面を結ぶ道路(以下「東西道路」という。)に入り、西(清澄通り方面)から東(三ツ目通り方面)に向かって走行中に、本件交差点に差し掛かった。
 ウ 本件事故の現場付近の状況は別紙現場見取図(以下「別紙図」という。)のとおりである。本件交差点は、東西道路と通称新大橋通り(以下「新大橋通り」という。)方面と通称京葉道路(以下「京葉道路」という。)方面とを結ぶ道路(以下「南北道路」という。)が交差する信号機による交通整理が行われていない交差点である。
 東西道路は、幅員約五・八mであり、本件交差点西側では北側に幅約一・六mの、本件交差点東側では北側に幅約一・四mの路側帯が、本件交差点の東側及び西側には横断歩道がそれぞれ設けられ、また、本件交差点東側の路側帯と車道の境にはガードレールが設置されている。東西道路は、清澄通り方面(西)から三ツ目通り方面(東)に向かってのみ走行できる一方通行、一時停止、駐車禁止の交通規制がされている。
 南北道路は、幅員約一一・〇mであり、西側には幅約一・七mの、東側には幅約一・五mの路側帯が、本件交差点の南側及び北側にはそれぞれ横断歩道が設けられ、また、本件交差点北側の道路東側の路側帯と車道との境にはガードレールが設置されている。南北道路は、新大橋通り(南)から京葉道路(北)に向かってのみ走行できる一方通行の交通規制がされ、本件交差点南側の横断歩道から約三・一mの地点に停止線の表示がされている。
 東西道路、南北道路とも、前方の見通しは良いが、交差道路の見通しは左右とも悪い。東西道路及び南北道路とも道路は舗装され、平坦で、本件事故当時、乾燥していた。
 エ 被告乙山は、東西道路を清澄通り方面から三ツ目通り方面に向けて、被告車両を時速約四〇kmで走行させ、本件交差点に差し掛かり、別紙図①地点(以下、地点の符号はいずれも別紙図のそれを指す。)で、一時停止の標識があることに気付き、一旦、アクセルを緩めて減速した。しかし、被告乙山は、本件交差点にさらに近付いても、同交差点に進入してくる車両がなかったことから、一時停止の標識に従って本件交差点の手前で停止しなくとも事故など起こさないだろうと考え、②地点でアクセルを踏み、加速して、時速約四〇kmで本件交差点に進入した。
 ところが、被告乙山は、被告車両が③地点に至った時、右前方約五・九mの(ア)地点に南北道路を新大橋通り方面から京葉道路方面に向かって走行する原告自転車を発見し、衝突の危険を感じ、ブレーキを掛けようとしたが、誤ってアクセルを踏み込んだため、(×)地点で原告自転車の左横に被告車両の前部が衝突した。
 オ 一方、原告一郎は、本件事故当時、原告自転車を運転して南北道路を新大橋通り方面から京葉道路方面に向かって道路右側を走行中、本件交差点に差し掛かった。原告自転車が本件交差点に進入したところ、(×)地点で東西道路を左方から進行してきた被告車両が原告自転車の左横に衝突し、原告自転車は(×)地点から約二〇・一m三ツ目通り方面寄りの(エ)地点に、また、原告一郎は(×)地点から約二二・七m三ツ目通り方面寄りの(ウ)地点に転倒した。
 カ 被告乙山は、本件事故後、衝突時の衝撃の程度から原告自転車を運転していた原告一郎が重傷を負ったか死亡したかもしれないと思ったものの、補償の問題や処罰をおそれて被告車両を停止させることなく、そのまま本件事故現場を離れた。
 (2) 検討
 ア 前記前提となる事実(5)ア及び前記(1)の認定事実によれば、被告乙山は、信号機による交通整理が行われておらず、かつ、自車の走行道路に一時停止規制がされている交差点に被告車両を進入させるに当たっては、一時停止規制に従い、交差点手前の停止線で一時停止し、交差道路の安全を確認して進行すべき注意義務があるにもかかわらず、一時停止規制があることを知りながらこれを無視し、かつ、本件交差点に近付いても、同交差点に進入してくる車両がなかったことから、一時停止の標識に従って本件交差点の手前で停止しなくとも事故など起こさないだろうと安易に考え、交差道路の安全を確認しないまま本件交差点に進入し、至近距離で原告自転車を発見し、衝突の危険を感じた際、ブレーキを掛けるべきところ、誤ってアクセルを踏み込んだ過失があり、その過失が重大であることは明らかである。
 一方、本件交差点は、信号機による交通整理が行われておらず、原告自転車が走行していた南北道路から見ても、左右の見通しが悪い上、夜間であることからすると、原告一郎は、本件交差点に進入するにあたり、十分に減速した上、左右の安全を十分に確認すべきであったというべきであり、そうしていれば、本件交差点に向かって走行してくる被告車両を発見し、停止するなどして、本件事故を回避できな蓋然性が高いところ、原告一郎は本件交差点に進入して被告車両と衝突したことからすれば、原告一郎は前記のような安全確認を怠り、本件交差点に進入したものと推認される。
 したがって、本件事故については、原告一郎にも過失があるといわざるを得ないが、前記の被告乙山の過失の重大性に照らすと、本件事故の過失割合は、被告乙山九五:原告一郎五と認めるのが相当である。
 イ 原告らは、原告一郎に左方安全確認義務違反があったとしても、自転車は普通走行で時速約一七kmであることから、制動距離は少なくとも二m程度必要であり、一方、被告乙山によると被告車両は時速約四〇kmで走行していたのであるから、本件交差点に進入する前に原告一郎が安全確認をして被告車両を発見してブレーキを掛けていたとしても、原告自転車と被告車両との衝突は避けられなかった、すなわち、本件事故発生と原告一郎の過失の間に因果関係がないのであるから、原告一郎の安全確認義務違反を過失として考慮することはできないと主張する。しかし、前記のとおり、原告一郎が、本件交差点に進入するにあたり、十分に減速した上、左右の安全を十分に確認していれば、被告車両を発見して、停止するなどして本件事故を回避できた蓋然性が高いと認められるから、原告らの前記主張は採用することができない。
 ウ 原告らは、被告乙山が、①本件事故の直前に別の事故を起こし、その逃走中に本件事故を惹起したものであること、②原告自転車を衝突直前になって発見したこと、③ブレーキとアクセルを踏み間違えたこと、④本件事故後、原告一郎を救護することなく現場から逃走したことを挙げて、過失相殺されるべき過失が原告一郎にはない旨主張する。しかし、②及び③については、前記アの原告一郎の過失割合を判断するに当たり既に考慮したところである。また、①が②及び③に影響したことは否定できないことを考慮しても、本件事故につき過失相殺を否定すべき事情とまではいえず、また、④については、本件事故後の事情であり、原告乙山の逃走により、原告一郎の治療が遅れ、それが原告一郎の症状に影響したことを認めるに足りる証拠はないから、やはり過失相殺を否定すべき事情とはいえない。むしろ、これらの事情は、慰謝料を算定するに当たり考慮すべき事情というべきである。
 エ 被告らは、原告自転車が道路の右側を走行していたことをもって、道路交通法違反であり、原告一郎に過失があると主張し、原告らは、原告一郎は、道路右側に設置された路側帯内を走行してきて本件交差点に進入したところ、自転車は路側帯内を走行することも適法であり、その延長線上にある横断歩道上を走行することも適法であると主張する。
 原告自転車と被告車両の衝突地点(別紙図(×)地点)からすれば、原告自転車が路側帯内を走行していたのか否かは判然としないものの、原告自転車は、被告車両の右方から道路右側を通行して本件交差点に進入したものであり、右方から道路左側を通行して本件交差点に進入した場合よりも被告車両から見て視認時間が長くなることからすれば、本件において原告自転車が右側通行していたために被告乙山が原告自転車を発見するのが遅れたものとはいえない。そうすると、この点をもって、原告一郎に不利に考慮するのは相当ではない。
 オ また、被告らは、原告自転車に前照燈が装備されていなかったことをもって、原告一郎の過失を主張する。確かに、本件事故後の原告自転車には前照燈がなく、本件事故現場付近で前照燈に類する燈火装備は発見されていない。また、原告自転車のハンドル付近には、事故の衝撃により後付ライトが脱落したことをうかがわせるような痕跡はない。原告花子は原告自転車のハンドル付近に後付の前照燈が装備されていた旨供述するが、このような事情からすれば、原告自転車に前照燈が装備されていなかった可能性が高い。
 もっとも、本件交差点は被告車両から見ても原告自転車が出てきた右方道路の見通しは悪く、自転車が右方道路から本件交差点に進入する場合には、自転車が本件交差点にほぼ進入を開始する時点で初めて発見が可能であると考えられるところ、自転車の前照燈は、四輪車や単車の前照燈に比較し、格段に照度が低く、照らす範囲も広くはないことや、被告乙山は、本件交差点の手前で一時停止することなく、交差道路の安全を確認しないまま②地点で加速して本件交差点に進入し、原告自転車が本件交差点に進入した直後に至近距離で原告自転車を発見したものであることも考慮すると、本件事故当時、原告自転車に前照燈がついていなかったことを前提に、仮にそれがついていた場合を想定してみたとしても、被告乙山が原告自転車をより早期に発見し、本件事故が回避できたものと認定することはできない。そうすると、仮に、原告自転車に前照燈がついていなかったとしても、そのことをもって、前記認定の過失割合をさらに原告一郎に不利に修正するのは相当ではない。
 カ 他に上記認定判断を左右するに足りる証拠はない。
 二 争点二(原告一郎の後遺障害、介護の程度)について
 (1) 原告一郎の後遺障害診断書等の内容、日常生活及び介護の状況等
 前記前提となる事実、《証拠略》によれば、原告一郎の後遺障害診断書等の内容、日常生活及び介護の状況等について、次の事実を認めることができる。
 ア 後遺障害診断書等の内容
  (ア) 平成一四年一月七日付け(診断日も同日)都丸医師作成の自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書
  a 傷病名 脳挫傷、遷延性意識障害
  b 自覚症状 片方麻痺、歩行障害
  c 精神・神経の障害、他覚症状及び検査結果
 頭部CTにて、びまん性脳萎縮を認める。重度の左片麻痺、高次脳機能障害のため、日常生活動作において常に介助を必要とする。
  (イ) 平成一四年一月七日付け都丸医師作成の明治生命保険相互会社宛診断書
  a 障害の部位 片方麻痺、高次脳機能障害、嗅覚障害(脱失)、左視神経萎縮(失明)。
  b 障害状態等
 日常生活動作はほぼ全介助である。食物の摂取は、自分では困難。排便・排尿は、おしめ・特別の器具を使用しており、自力では不能。衣服着脱・起居・歩行・入浴は、全くのねたきり状態。精神状態(知能を含む)は、障害が高度で常に監視介助または個室隔離が必要。平成一四年一月七日ころ症状固定(改善の見込みなし)。
  (ウ) 平成一四年三月一七日付け都丸医師作成の「脳外傷による精神症状等についての具体的な所見」(症状固定時の精神障害、性格障害の内容・程度)
  a 障害が高度
 「物忘れ症状」、「新しいことの学習障害」、「感情の起伏や変動がはげしく、気分が変わりやすい」、「集中力が低下して気が散りやすい」、「計画的な行動を遂行する能力の障害」、「行動が緩慢、手の動きが不器用」、「複数の作業を並行処理する能力の障害」、「自発性や発動性の低下があり、指示や声かけが必要」、「服装、おしゃれに無関心あるいは不適切な選択」、「社会適応性の障害により、友達付合いが困難」
  b 障害が中等度
 「粘着性、しつこい、こだわり」、「発想が幼児的で、自己中心的」、「話がまわりくどく、話の内容が変わりやすい」
  c 障害が軽度
 「短気、易刺激的、易怒性」、「飽きっぽい」、「性的な異常行動、性的羞恥心の欠如」、「行動を自発的に抑制する能力の障害」、「睡眠障害、寝付きが悪い、すぐに目が覚める」、「人混みの中へ出かけることを嫌う」
  d 障害なし
 「感情が爆発的で、ちょっとしたことで切れやすい」、「多弁、おしゃべり」、「暴言・暴力行為」、「妄想・幻覚」
  e その他の脳外傷による神経症状等、身体所見、歩行状況等
 全般的精神機能の低下が著明である。
 起立性保持困難、歩行は不能、その他ADLも全介助。片麻痺は完全麻痺、小脳失調によりバランス不良、左眼失明である。
  (エ) 平成一四年五月一日付けリハビリテーション病院作成の全国労働者共済生活協同組合連合会宛後遺障害診断書
  a 左片麻痺、高次脳機能障害とも重度で、日常生活動作には最大の介助を必要とする。
  b 日常生活上の所見
 「歩く(屋内・屋外)」、「座る(正座、脚なげ等問わず)」、「立ち上がる」、「物を持つ(鉛筆・箸・スプーン等)」、「字を書く(文章は問わず)」、「簡単な買物」、「刃物・火等の危険(認識)」、「戸外での危険(交通事故等から身を守る)」及び「家族との対話」のいずれの項目についても一人で出来ない。
  c 日常生活上の介護の要否
 食物の摂取は、食器・食物を選定すれば自力で可能。排便・排尿は、特別の器具により自力で排せつできるが、あとしまつは自力で不能。衣服着脱・起居歩行・入浴は、寝返り・ベッド上の小移動のみ自力で可能。精神状態は、障害が中程度で大部屋での監視介助が必要。
  d 労働能力の喪失の程度
 労働能力が全くなく生命維持に必要な身の回りの処理について他人の介護を常時要し、精神の障害のため他人の監視又は介護を常時要する。
  e その他
 左片麻痺、高次脳機能障害が重度のため、日常生活動作も常時介助が必要である。
  (オ) 平成一四年六月一九日付け都丸医師作成の国民年金・厚生年金保険診断書(肢体の障害用)における同年五月二一日現在の障害の状態等
  a 麻痺、握力、運動筋力
 痙直性・脳性の知覚麻痺(鈍麻)及び運動麻痺がある。握力は約一〇kg、左〇kg。左肩関節、左肘関節、左手関節、左股関節、左膝関節及び左足関節は、いずれも関節運動筋力が消失している。
  b 日常生活動作の障害の程度
 「つまむ(新聞紙を引きぬけない程度)」、「握る(丸めた週刊誌が引きぬけない程度)」は、右手で一人でうまくできるが、左手は一人では全くできない。
 「さじで食事をする」、「顔に手のひらをつける」、「用便の処置をする(ズボンの前のところに手をやる)」、「用便の処置をする(尻のところに手をやる)」は、右手は一人でできるがやや不自由であるのに対し、左手は一人では全くできない。
 「上衣の着脱(かぶりシャツを着て脱ぐ)」、「上衣の着脱(ワイシャツを着てボタンをとめる)」、「ズボンの着脱(どのような姿勢でもよい)」、「靴下をはく(どのような姿勢でもよい)」は、両手で一人では全くできない。
 「片足で立つ」は、左右とも一人では全くできない。
 「座る(正座・横すわり・あぐら・脚なげだし)(このような姿勢を持続する)」、「深くおじぎ(最敬礼)をする」、「歩く(屋内・屋外)」、「立ち上がる(支持のない状態で)」、「階段を登る(手すりのない状態で)」、「階段を降りる(手すりのない状態で)」は、一人では全くできない。
 閉眼での起立・立位保持の状態は不可能であるし、開眼での直線の一〇m歩行の状態は、転倒あるいは著しくよろめいて、歩行を中断せざるを得ない。杖及び下肢補装具を常時(起床より就寝まで)使用している。介助歩行レベルで、全般的精神機能低下、労働能力なし、日常生活活動能力は全介助レベルである。
  (カ) 墨東病院発行の全国労働者共済生活協同組合連合会宛後遺障害診断書(乙二〇・四七頁。なお、同診断書の作成時期は明確ではないが、《証拠略》によれば、原告一郎は、リハビリテーション病院を退院後、平成一三年九月から平成一四年一二月まで通院日数は少ないものの主に投薬目的で墨東病院に通院していたことが認められること、原告一郎作成の同年五月五日付けの診断書請求を母に依頼することの同意書が存在することからすれば、同年五月ころ作成されたものと考えられる。)
  a 神経系統の機能又は精神の障害
 精神機能低下、当院では検査施行していない。左半身の麻痺を認める。
  b 日常生活上の所見
 「歩く(屋内・屋外)」及び「立ち上がる」の項目については、下肢装具、四点杖により一人で出来る。
 「物を持つ(鉛筆・箸・スプーン等)」、「字を書く(文章は問わず)」、「簡単な買物」及び「家族との会話」の項目については、一人で出来る。
 「座る(正座、脚なげ等問わず)」、「刃物・火等の危険(認識)」及び「戸外での危険(交通事故等から身を守る)」の項目については、一人で出来ない。
  c 日常生活上の介護の要否
 食物の摂取は、箸を使用して可能。排便・排尿は、おしめ、特別の器具を使用しており、自力では不能。衣服着脱・起居歩行・入浴は、ベッドの上の起居・周辺歩行のみかろうじて可能。精神状態は、障害が中程度で大部屋での監視介助が必要である。
  d 労働能力喪失の程度
 労働能力が全くなく生命維持に必要な身の回りの処理について他人の介護を随時要する。
 イ 各種検査結果等
  (ア) IQ
 平成一三年六月一日(リハビリテーション病院入院中) 五六・二
  (イ) HDS―R(長谷川式簡易知能スケール)
 (HDS-Rは、二〇点以下が痴呆とされる。
  a 平成一三年六月一日(リハビリテーション病院入院中)      一〇点
  b 平成一三年八月二九日(同)
                一八点
  (ウ) WAIS―R
 WAIS-Rでは、九〇点から一一〇点までが正常とされる
  a 平成一三年六月七/一四日(リハビリテーション病院入院中)
 言語性評価点         六七点
 動作性評価点          -
 検査評価点          五一点
  b 平成一四年五月二七日(症状固定後)
 言語性評価点        一〇三点
 動作性評価性         六四点
 検査評価点          八六点
  (エ) ADL評価表(FIM)(リハビリテーション病院に入院中)
  a 平成一三年五月二九日
 一点(全介助) 更衣上、更衣下、浴槽移乗、移動(車椅子)、階段移動
 二点(七五%介助) 清拭、トイレ動作、排尿、コミュニケーションのうち表出、問題解決、記憶
 三点(五〇%介助) コミニュケーションのうち理解、社会的交流、
 四点(二五%介助) (車)椅子移乗、トイレ移乗
 五点(監視) 食事
 六点(修正自立) 整容
 七点(自立) 排便
  b 平成一三年六月一七日
 一点(全介助) 更衣下、浴槽移乗、階段移動
 二点(七五%介助) 清拭、更衣上、トイレ動作、コミュニケーションのうち表出、問題解決、記憶
 三点(五〇%介助) 移動(車椅子)、コミュニケーションのうち理解、社会的交流
 四点(二五%介助) 整容、排尿、(車)椅子移乗、トイレ移乗、
 五点(監視) 食事
 七点(自立) 排便
  c 平成一三年七月二〇日
 一点(全介助) 更衣下、浴槽移乗、階段移動
 二点(七五%介助) 清拭、更衣上、トイレ動作、問題解決
 三点(五〇%介助) トイレ移乗、社会的交流、記憶
 四点(二五%介助)整容、排尿、(車)椅子移乗、コミュニケーションの理解・表出
 五点(監視) 食事、移動(車椅子)
 七点(自立) 排便
  d 平成一三年八月二五日
 一点(全介助) 更衣下、浴槽移乗、階段移動
 二点(七五%介助) 清拭、トイレ動作
 三点(五〇%介助) 更衣上、トイレ移乗、社会的交流、問題解決、記憶
 四点(二五%介助) 整容、排尿、(車)椅子移乗
 五点(監視) 食事、コミュニケーションの理解・表出
 七点(自立) 排便
 ウ 日常生活の状況等
  (ア) 藤田保健衛生病院退院(平成一三年五月二六日)時の日常生活動作
 入院時、経管栄養、ほぼ寝たきり状態であったが、現在、食事は経口より常食摂取。日中はほとんど車イスにて過ごしている。排泄のうち、尿は、一日五ないし八回尿意あり、介助で尿器採尿又はトイレで排尿。便は、一日三回便意あり、介助にてトイレで排便。
 ADL介助の必要があり、食事は、セッティング、配膳、下膳介助、車イスにて食事する。排泄は、排便・尿、誘導にて尿・便意訴えあり、日中は車イスにてトイレへ、夜間は尿器採尿する。清潔については、週三回シャワー浴、介助にて施行。衣生活は、介助にて更衣。移動は、立位保持できるもフラつきあり、介助にて車イスへ移動。
 リハビリテーション継続の必要あり。構語障害あり、言語訓練及び訪室時発語促す。ADL介助及びADL拡大できるよう徐々にupしていく。
  (イ) リハビリテーション病院退院(平成一三年九月七日)時の日常生活動作
 食事は、介助であり、エプロンやストロー等のセッティング介助、食事摂取動作ははしを使用し、自立しているも時々手が止まり声掛けが必要。
 清潔は、一部介助と全介助の中間で、シャワーキャリー使用、洗体動作は促しにより頭部、胸腹部は可能、浴槽移乗時二人介助。
 更衣は、一部介助と全介助の中間で、上衣につき患側頭部を通せば着脱できる、下衣につきベッド上で臀部を上げるのみの協力あり。
 排泄は、介助で、尿につき、日中、尿意と誘導にて五ないし八回自尿がトイレにてみられ、夜間はほとんど排尿なし、明け方は尿器対応。排便につき、二ないし三日に一回のパターンで自然排便みられ、下剤、坐薬使用せず。
 トランスファーは、一部介助で、ベッドから起き上がりは自立、車椅子、トイレは腰持ち軽介助にて可。
 歩行動作は、車椅子で、病棟内での車椅子駆動は自立、理学療法にて四点杖、下肢装具使用し、体幹支持にて歩行訓練中。
 コミュニケーションは、軽度の構音障害あるも、日常会話程度であれば返答でき、聞き取れる。やや自発性に欠けるため、自分からの表出に乏しい。
  (ウ) 平成一四年三月八日付け原告花子作成の日常生活状況報告書
 今日は何月何日かわからない、簡単な買物で釣銭の計算はできない、他人と話が通じない、電話を使って話をできない、本人の言葉は聞き取りにくい、人の話を聞いてすぐに理解できない、前もって計画した行動ができない、同じミスや間違いをくり返す、新しいことを覚えて身につけることはできない、同時に複数のことを平行してできない、気分が沈みがち、家事を手伝うことはできない、衣服は自分で着ることができない、トイレに行けない、なにをやるにも指示が必要、外出には付添いがいつも必要、支えなしに立っていることはできない、左手は全く動かない。
 数分前の出来事や聞いたことを忘れることもある、昨日の出来事を多少覚えている、事故以前のことを多少覚えている、家族と話がどうにか通じる、飽きっぽくてひとつのことが続かないことがある、親しい友達が減った、間に合わずに小便をもらすこともある、洗顔・歯磨きを指示があればできる、左足はうまく動かない。
 知り合いの人の名前を忘れない、同居の家族の顔を名前はわかる、一桁のたし算はできる、話がまわりくどいことはない、お金をもたせるとすぐに使ってしまうことはない、すぐに泣いたり怒ったり笑ったりしない、わずかなことに興奮することはない、いらいらしやすいことはない、興奮すると乱暴することはない、場所をわきまえず怒って大声を出すことはない、すべて自分中心でないと気に入らないことはない、わけもなくはしゃぐことはない、夜起きて昼間寝ていることはない、家に閉じこもることはない、一度気になることがあるとこだわってしまうことはない、大きな音などをうるさがることはない、家族や周囲の人とトラブルはほとんどない、食事は自分で食べることができる、小便をもらすことはない、大便をもらすことはない、めまいやふらつきはない、歩くとふらつくことはない、右手は動く、右足は動く。
 片マヒあり、車椅子生活。言語障害有、意思伝達困難。
  (エ) 原告花子作成の陳述書等
  a 原告一郎の症状及び自宅での介護の状況
  a) 左半身が上手く使えないため、更衣の着脱の介護が必要である。
  b) 伝い歩きができるようになったことから、トイレまで自力で移動することができるが、排泄後、上手く後処理ができないので、手伝う必要がある。
  c) 洗顔、歯磨き、髭そりについては、指示を受けても二つ以上の動作をすることができない。何をするか忘れてしまう。きちんと動作することができない。家族がいちいち動作を指示し、上手くできないところを家族がやり直す必要がある。
  d) 食事やその際に服用する薬の用意はできないし、放っておくと薬を飲むことを忘れるので、指示が必要である。食事も箸をもって行うが左手で食器を持つことができない。左片麻痺のため、口の左側に食べ物がくるとこぼしてしまう。また、半側空間無視があるため、右で食べるように声掛けをする。時々むせてしまう。食事の際には、適宜水を飲ませたり、食べる姿勢を正させるなどしている。
  e) 退院後しばらくはリハビリテーション病院で作業療法及び理学療法を行っていたが、現在では家庭内で、筋肉の拘縮を予防するため、原告花子を中心として家族がリハビリやマッサージをしているほか、マッサージ師のマッサージを受けたり、また、臨床心理士に週一回自宅に来てもらい、認知リハビリテーションを受けている。
  f) 現在も定期的に通院して治療を受けているが、その際家族が付き添っている。
  g) 浴室内への移動は自分で出来ない。浴槽にも一人で入れないし、身体を自分で洗うこともできないので、家族が付き添って手伝っている。
  h) 睡眠時は、左半身麻痺のため寝返りが上手くできず布団がはだけてしまうので、家族が布団をかけ直したりする。また、夜尿にそなえて尿瓶を用意している。
  i) 外出の際には、自動車を使用し、家族が付き添いしている。
  j) 日時がわからないので、家族が教える。
  k) その他、新しいことを覚えられない。他人とのコミュニケーションの困難、金銭感覚の喪失、食事のことを思い出して異常に興奮する。
  l) 日中、リハビリテーションを行っている時間や食事の時間以外は、車椅子に乗って自室ですごしている。自室では、パソコンでトランプゲームをするほか、漫画本を眺めている。一人で外出することはできない。
  m) 当初は寝たきりであったが、現在では、つかまるところがあれば、つかまって立ち上がることもできるし、また、伝い歩きもできる。
  n) 目が見えないためか、ファンヒーターを誤って蹴飛ばしたことがあり、火元に近づかないように看視し、また、刃物を近づけないようにしている。
  b 原告一郎の日常生活のスケジュール
 原告一郎の日常生活のスケジュールは、通院、認知リハビリ、マッサージ等がある日を除き、おおむね、次のとおりである。
 午前七時起床。コップ一杯の水を飲み、排尿を促す。寝床でリハビリ。原告太郎がマッサージ、着替えを行い、装具をつける。
午前八時ころ 洗顔、髭剃りなどを行う。
午前八時一〇分ころ 朝食をとる。
午前八時三〇分ころ 歯磨きをし、入れ歯を入れる。前歯、左側にいつも食べ物が詰まっているので、もう一度磨かせるか、磨くのを手伝う。トイレを済ませるように指示する。
午前九時ころ リハビリを始める。
午前一一時三〇分ころ トイレを促す。その後再びリハビリを行う。
午後〇時ころ 昼食。
午後一時ころ 歯磨き。その後昼寝をしたり、自室で過ごす。
午後三時ころ おやつ、お茶をとらせて会話。
午後六時ころ 仕事が終わった弟の介助でリハビリ。
午後七時ころ 夕食。
午後九時ころ 歯磨き後、トイレを済ませるように指示する。原告太郎と入浴。
午後一〇時ころ 原告花子又は弟と布団の上でリハビリ。
午後一一時就寝。隣に原告花子が寝る。掛け布団をはいでしまい、寒くても自分で布団を引っ張ることができないので、隣に寝ている原告花子が起きて布団を掛ける。夜中に尿意を訴えることもあり、尿器でとる。
 (2) 原告一郎の後遺障害等級及び介護の程度
 ア 前記(1)の評価・検討
  (ア) 原告一郎は、前記前提となる事実(3)のとおり、自算会により、高次脳機能障害につき後遺障害等級一級三号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの)、一眼(左目)の失明につき同八級一号(一眼が失明したもの)にそれぞれ該当するとして、併合一級の認定を受けている。
 そして、前記(1)の事実を総合すると、原告一郎の現在の症状、日常生活の状況等は、次のとおりであると認められる。すなわち、原告一郎は、通院等を除きほとんど自宅内で過ごしており、高次脳機能障害による認知障害や左眼失明と左片麻痺があるため、外出には付添いを必要とする。入浴に際しては、浴槽に一人で入ることができず、また、転倒の危険があること、身体を十分に洗うことができないことから、原告太郎が一緒に入り全介助している。食事は、用意されれば、箸を使い、自ら口に食べ物を運び、そしゃく、嚥下することができるが、左片麻痺のため、口の左側に食べ物がくるとこぼしてしまい、また、半側空間無視のため、左側にあるものを食べ残すので声掛けが必要である。更衣は、上下とも介助を要する。排泄は、日中は自らトイレに向かうことができるが、後始末ができないため、介助を要する。洗顔、歯磨き、髭剃りについては、指示をすればこれらの動作を行うが、二つ以上の動作をすることができず、上手くできないところは家族がやり直す必要がある。つかまるところがあれば、つかまって立ち上がることができ、また、伝い歩きもできるが、車椅子への移乗には介助を要する。左眼失明等のため、ファンヒーターを誤って蹴飛ばすなどのこともあり、火元に近づかないよう、また、刃物を近づけないなど注意する必要がある。
  (イ) 原告一郎は、前記認定のとおり((1)イ)、ADL評価表(FIM)及びWAIS―Rの結果が一定程度向上していることが認められる。
 しかし、平成一三年八月二五日時点におけるADL評価表(FIM)においては(前記(1)イ(エ))、排便は、自立と評価されているが、前記のとおり、現実には後始末ができないことから介助を要しているし、また、食事については、監視で足りると評価されているが、現実には、左片麻痺のため、口の左側に食べ物がくるとこぼしてしまい、また、半側空間無視のため、左側にあるものを食べ残すので声掛けが必要である。このように、原告一郎は、自立・監視と評価されている日常生活動作についてすら、現実には一人で完結してできるものはなく、動作を行うこと自体について周囲からの声掛けや指示を必要としている(前記(1)ウ(ウ))。
 また、原告一郎は、「刃物・火等の危険(認識)」、「戸外での危険(交通事故等から身を守る)」について一人で出来ないし(前記(1)ア(エ)、(カ))、日常生活においても、排泄の指示、歯磨きの指示など、動作毎に指示・声掛けを要する。また、原告一郎は、前記のとおり、現在では、つかまって立ち上がることができ、伝い歩きができるようになったものの((1)ウ(エ))、危険に対する認識が欠如していることから、かえって転倒等の危険があり、身体介護のほか、見守りを要するようになっている。
 そうすると、原告一郎は、身体的介助を要しない間についても、常時、監視ないし指示・声掛け(促し)が必要であるといわざるを得ない。
  (ウ) また、都丸医師の平成一五年一〇月三〇日付け回答書(甲五九)、同年一二月四日付け回答書その二(甲六一)、平成一六年三月二三日付け調査嘱託に対する回答(甲六二)、同年一〇月七日付け回答書(甲六六)及び同月二七日付け意見書(甲六七の一)における所見は、おおむね次のとおり、原告一郎は、常時介護を要する状態であるとしている。
  a 原告一郎の後遺障害の内容は、高次脳機能障害が重度に残存し、自立した生活は困難である。身体障害として左片麻痺、バランスの低下のため立ち上がり動作、立位保持、実用性のある歩行は不可能であり、また、左眼は失明している。原告花子が説明する原告一郎の症状と自宅での介護ないし看視の状況は、原告一郎に重度の高次脳機能障害、重度の左片麻痺及びバランスの低下があることからすれば、医学的に予測されることであり、全く矛盾はないと考える。
  b 現在の状態は(特に注意・記銘力など自立した生活に最も重要と考えられる機能が)健常者の下限を大きく下回っており、身体機能の左片麻痺、バランスの低下もあるため常時介護が必要な状態である。原告一郎の場合、平成一三年八月二五日現在のFIMにおける得点は、食事五点、整容四点、清拭二点、更衣・上半身三点、更衣・下半身一点、トイレ動作二点、排尿管理四点、排便管理七点で、総得点は六二点であり、一項目当たりの平均得点は三・四四点であるから、少なくとも中等度の介護は必要ということになる。FIM項目の中で最も易しいと考えられている食事ですら五点であり、自立していないことを考えると、日常生活動作の遂行能力がかなり温存されているとはいえないと考える。食事項目が五点であるということは、家族(介護者)による促しが食事場面において必要であることを意味している。また、原告一郎には認知障害があるため、常に見守り(監視)が必要と考えられ、見守りも自立ではなく要介護状態なので常時介護が必要な状態と思われる。
  c 原告一郎のWAIS―Rの検査結果によると、言語性、動作性とも改善しているが、動作性IQの低下は依然として著明である。特に学習能力を反映すると思われる符号の項目での低下が著しい。言語性IQは健常範囲にあるが、主に過去の教育レベル・知識を反映していると思われる。WAIS―Rを繰り返し行うということは学習効果として二回目、三回目と点数がアップしてしまう可能性があり、特に原告一郎の場合、家族が出来なかった問題を繰り返し教え込むことを行ったため点数がアップした可能性は否定できない。WAIS―Rは大脳の後の機能を反映すると考えられ、脳外傷の患者では前頭葉障害が強く出ることが多く、WAIS―Rでは遂行機能などの前頭葉機能を評価することは困難である。
 以上の都丸医師の所見は、前記(1)の認定事実や、高次脳機能障害に関する医学的文献に照らしても、合理的であると考えられる。
  (エ) 以上を総合すると、原告一郎は、症状固定の診断後も、一定限度で、症状の改善はみられ、外出、入浴、階段移動、車いすへの移乗、更衣については全介助を要し、他方、食事、洗顔、歯磨き、髭剃り等やその余の時間については、常時の監視、指示・声掛け(促し)で足りると認められるが、介護の態様(介助あるいは監視等)を別とすれば、随時介護では足りず、常時介護を要するものと認められる。そうすると、原告一郎の後遺障害は、やはり常時介護を要するものとして、後遺障害等級一級三号に該当するものと認めるのが相当である。
 なお、原告らは、原告一郎は、多数の日常生活動作はほとんど不可能であるか重大な支障があり、現実に、原告一郎の近親者による介護は昼夜日常生活の全般にわたっていると主張し、また、都丸医師は、高次脳機能障害のある患者は、安全・危険の判断ができないため常に看視が必要であり、介護時間は寝たきり患者よりは長くなり、その分介護の負担は大きいと考えられ、原告一郎もこれに該当するとしている。
 なるほど、高次脳機能障害の者に対する監視等も、その症状によっては、寝たきりの患者等と同程度あるいはそれ以上の負担になる場合も考えられるが、原告一郎の場合は、外出、入浴、階段移動、車いすへの移乗、更衣については全介助を要するものの、食事、洗顔、歯磨き、髭剃り等や、その余の時間については、常時の監視ないし指示・声掛け(促し)で足りると認められるところ、原告一郎は、原告ら両親の指示に従順に従って各種行動を取ることができることから、監視ないし指示・声掛けは比較的軽度のもので足りると考えられる。前記のように、原告一郎は常時介護を要すると認められるものの、このような事情は介護料等の算定において考慮するのが相当である。
 イ 被告らの主張について
 被告らは、前記のとおり、原告一郎の介護は随時介護で足り、その後遺障害等級は二級三号に該当すると主張し、被告会社は、前田医師の平成一六年四月八日付け意見書(乙二八)及び吉本医師の平成一六年五月二三日付け意見書(乙三〇)を提出する。
  (ア) 前田医師は、意見書(乙二八)において、原告一郎は、屋内における移動に関する自立度はかなり高く、また、多動性や突発的行動等を生じるような人格の変容又はてんかん発作等は発生しておらず、一定の理解能力と判断能力があるようなので、屋内での日常生活上の危険度が特段に高いとは思われないなどとして、後遺障害等級一級相当にまで達しているとはいいにくいが、一方で、後遺障害等級二級相当の程度をやや超えているようにも思われるとし、一級該当という後遺障害等級は、回復不能なかなり重度の中枢神経系(脳)の障害という被害事実を重視した社会的にも容認され得る妥当な範囲内の判定結果であろうと思われるとしながら、他方で、本件における介護又は看視の必要性の評価に関しては、日常生活において必ずしも「常時看視」が必要とはいえないとし、部分介助のうちの中等度介助が必要なレベル(自立度六〇ないし七〇%程度、すなわち、要介護度三〇ないし四〇%)とみるのが望ましいとし、特に介護あるいは看視の必要な時間帯については、朝の起床時から整容、清拭、トイレや朝食等の間(二時間程度)、昼食時(一時間程度)及び夕食から入浴、清拭、トイレ等の就寝までの間(三時間程度)とみるのが妥当と思われ、それらを合計すると六時間程度、すなわち、一日のうちの起床から就寝までの間(一六時間)の中でおおむね四〇%程度の介護を要するものと思われる、としている。
 しかし、前田医師の意見は、朝の起床時から整容、清拭、トイレや朝食等の間、昼食時及び夕食から入浴、清拭、トイレ等の就寝までの間以外は介護を要しないとするものであるところ、原告一郎は、それらにつき介助等を要するほか、それ以外の時間についても常時の監視ないし指示・声掛け(促し)を要すると認められることは前記のとおりである。したがって、一定の時間のみの介護の必要性を前提とし、起床から就寝まで一六時間の中でおおむね四〇%(六時間)の介護を要するとする前田医師の意見は採用することができない。
  (イ) また、吉本医師は、意見書(乙三〇)において、原告一郎の日常生活を撮影したビデオで見る限り、原告一郎は、二時間留守番ができない人とは思えず、本来は、随時介護で足りる状態であるが、その人に対する家族の愛情から常時介護をしているというのが実際と思われる、原告一郎は二時間以上留守番ができるのではないかと思われるし、また、仮にデイケアを受けた場合、大部屋で一定時間看護人なしで放置して大丈夫な状態と思われるとしている。
 しかし、吉本医師の意見は、あくまでビデオを見た限度で、二時間以上留守番ができるのではないかと思われるなどと推測しているにすぎず、原告一郎の主治医である都丸医師の診断や原告花子の日常生活に関する陳述書に基づく前記の認定判断を左右するに足りるものとはいえない。
 また、吉本医師は、都丸医師の診断書と前記(1)ア(カ)の墨東病院発行の全国労働者共済生活協同組合連合会宛後遺障害診断書(乙二〇・四七頁)の内容が大きく異なるとして、都丸医師の診断書に疑問を呈しているところ、確かに、墨東病院発行の後遺障害診断書(乙二〇・四七頁)には、「精神状態は、障害が中程度で大部屋での監視介助が必要である」、「生命維持に必要な身の回りの処理について他人の介護を随時要する」と随時介護で足りるような記載がある。しかし、同診断書には精神障害について「精神の障害のため他人の監視又は介護(イ常時 ロ維持)を要する」という欄があるが、そこには記載がされておらず、また、「精神機能低下、当院では検査施行していない。左半身の麻痺を認める」との記載もあり、これらを総合すると、同診断書には左半身の麻痺を中心とする記載がなされ、精神障害については検査等を基に記載されたものではないと考えられる。そうすると、同診断書の記載に重きを置くことはできない。
 その他、吉本医師の意見を考慮しても、前記の認定判断は左右されない。
 三 争点三(原告らの損害)について
 (1) 原告一郎の損害
 ア 治療費、文書料、治療用装具代、移送費等及び入院雑費
       合計一四六八万五七七九円
 治療費一二七四万四六九一円(墨東病院分五四〇万九一七一円、藤田保健衛生大学病院分七三三万五五二〇円)、文書料八二五〇円、治療用装具代一一二万八八九八円(脊髄刺激装置代七六万八〇七五円、下肢装具三点分三六万〇八二三円の合計)、移送費等三六万七四四〇円及び入院雑費四三万六五〇〇円の合計一四六八万五七七九円については、原告一郎と被告会社の間においては争いがなく、また、原告一郎と被告乙山の間においては《証拠略》により認められる。
 イ 付添費    二九四万二五〇〇円
 原告一郎は、本件事故後から症状固定日までの全期間(四一三日)について、近親者による付添いを要したとして、日額八〇〇〇円の四一三日分である三三〇万四〇〇〇円を主張する。
 まず、墨東病院及び藤田保健衛生大学病院の入院期間中における付添いの必要性については、被告会社はこれを認め、また、《証拠略》によっても、原告一郎の受傷内容及び原告両親らの付添いの状況から、その必要性は認められる。
 次に、被告会社は、リハビリテーション病院に入院期間中の付添いは、あくまでも親子の情による見舞い的な付添いの限度で評価されるべきであると主張する。しかし、原告一郎が、リハビリテーション病院に入院中、外泊により自宅に戻っている日以外は原告花子が毎日病院を訪れ、ほぼ午前九時から午後七時まで原告一郎に付き添っていたことが認められる。そして、前記二(1)イ(エ)のリハビリテーション病院におけるADLの評価、同ウ(ア)の原告一郎が藤田保健衛生大学病院を平成一三年五月二六日に退院した時の日常生活動作、同ウ(イ)のリハビリテーション病院を平成一三年九月七日に退院した時の日常生活動作に加え、前記二(2)認定の原告一郎の後遺障害等級及び介護の程度を総合すると、原告一郎は、リハビリテーション病院に入院中も、原告花子等近親者の付添看護を要したものと認めるのが相当である。確かに、原告花子の付添いについて、看護記録には「過保護ぎみである」、「入院時に本人に自立を促すよう、又、母自身の疲労・介護疲れの軽減を目的として面会を控えていく様話す」、「母が少し距離をおくことで本人の自立upにつながるのではないか」、「母親の過保護の問題が大きい」「母親が必要以上に手を出してしまうこと、又本人も母親へ依存的であること」等の記載はあるが、一方で、「主に入浴やトイレ・トランスについて介ゴ指導行っていく。」、「母親の誘導にて失禁なく経過する」との記載もあり、原告花子の付添いの必要性を否定するような記載はない。また、原告一郎と原告花子二名で歩行訓練をしたり、言語訓練を行うなどしていることも認められる。これらの事情からすると、原告花子の付添いは、被告会社が主張するような見舞い的な付添いの程度を超えており、近親者による付添看護が必要であったものと認めるのが相当である。
 また、原告一郎は、リハビリテーション病院に平成一三年五月二八日から同年九月七日までの入院期間中、合計一三回一五〇日間)の外泊をし、自宅へ戻っているところ、前記の入院中の付添看護の必要性や前記二(2)の原告一郎の後遺障害の内容・程度及び介護の状況等からすれば、自宅に戻っていた間についても、付添看護を要したものと認められる。これは、リハビリテーション退院後、症状固定日である平成一四年一月七日までも同様である。
 以上によれば、本件事故日である平成一二年一一月二一日から症状固定日である平成一四年一月七日までの四一三日間のうち、墨東病院及び藤田保健衛生大学病院への入院日数並びにリハビリテーション病院の入院中、自宅に戻っていなかった日数の合計二四一日は、近親者による入院付添いを要したものとして日額六五〇〇円、リハビリテーション病院に入院期間中のうち外泊により自宅に戻っていた五〇日とリハビリテーション病院退院後症状固定までの一二二日の合計一七二日は、自宅での近親者による介護として日額八〇〇〇円の限度で、次のとおり、合計二九四万二五〇〇円を付添費として本件事故と相当因果関係のある障害と認めるのが相当である。
 六五〇〇円×二四一日+八〇〇〇円×一七二日=二九四万二五〇〇円
 ウ 付添滞在費及び付添交通費  〇円
 原告一郎は、藤田保健衛生大学病院に入院中、家族が交代で付添いにあたった際の滞在費(ホテルやウィークリーマンションの賃借料)、東京から藤田保健衛生大学病院までの交通費の一部の合計七〇万二二九〇円を損害として主張する。しかし、藤田保健衛生大学病院が遷延性意識障害の治療について定評があることはうかがうことができるものの、原告両親とともに東京に在住する原告一郎が、愛知県豊明市に存在する同病院でなければ受けられなかったような治療を受けたとか、その他同病院で治療を受けなければならなかったような特段の事情を認めるに足りる証拠はないから、前記の付添滞在費及び付添交通費は、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
 エ 介護ベッド関係費      〇円
 原告一郎は、介護ベッド関係費として九一万三〇二六円を主張し、都丸医師は、調査嘱託に対する回答(甲六二)において、介護ベッドの利用は、転落防止と介護者の身体的な負担軽減になるとしている。しかし、原告一郎は、現在、介護ベッドを利用していないところ、前記二認定の原告一郎の後遺障害の内容・程度及び介護の状況等からして、原告一郎が、現時点において、介護ベッドを利用しなければならない必要性が明らかになっているとはいい難い。そうすると、介護ベッド関係費は、本件事故との相当因果関係がある損害と認めることはできない。
 オ 車椅子関係費 一六七万三三〇五円
 原告一郎は、室内用車椅子、外出用電動車椅子、室内リハビリ用六輪車、車椅子用テーブル及び車椅子用クッション二個が必要であり、外出用電動車椅子については、段差がある場合に介護者が持ち上げる必要があることなどから必要であると主張し、原告花子の陳述書にもこれに沿う記載がある。しかし、原告一郎の後遺障害の内容・程度からすれば、原告一郎自身が電動車椅子を操作することは困難である上、ノンステップバスに乗車するような場合には普通の車椅子を使用する予定であることなどからすると、電動車椅子の必要性が高いものとはいえない。そうすると、電動車椅子に係る費用を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるには足りない。
 もっとも、電動のものではないとしても、車椅子は室内用と室外用が必要と考えられること、他方で、両方を使用すれば耐用年数はやや長くなると考えられることなども考慮し、室内・室外用車椅子(二台)につき各単価二〇万四二〇〇円、耐用年数七年、車椅子用テーブルにつき単価九〇〇〇円、耐用年数三年、車椅子用クッションにつき単位一万四八〇〇円、耐用年数二年として、損害額を算定するのが相当である。そして、原告一郎は症状固定時二九歳であるところ、平成一四年簡易生命表によれば男性二九歳の平均余命は五〇・一八年であるから、室内・室外用車椅子は初回購入から七年ごとに初回分を含めて合計八回、車椅子テーブルは初回購入から三年ごとに初回分を含めて合計一七回、車椅子クッション二個は初回購入から二年ごとに初回分を含めて合計二五回の購入を要するものとして、車椅子関係費は次の(ア)ないし(ウ)の合計一六七万三三〇五円を認めるのが相当である。なお、室内リハビリ用六輪車については、その必要性が明らかではないから、損害として認めることはできない。
  (ア) 室内・室外用車椅子各一台
          一三一万九五四〇円
 四〇万八四〇〇円(二台)×(一+〇・七一〇六+〇・五〇五〇+〇・三五八九+〇・二五五〇+〇・一八一二+〇・一二八八+〇・〇九一五)≒一三一万九五四〇円
  (イ) 車椅子用テーブル
            六万〇六〇一円
 九〇〇〇円×(一+〇・八六三八+〇・七四六二+〇・六四四六+〇・五五六八+〇・四八一〇+〇・四一五五+〇・三五八九+〇・三一〇〇+〇・二六七八+〇・二三一三+〇・一九九八+〇・一七二六+〇・一四九一+〇・一二八八+〇・一一二+〇・〇九六一)≒六万〇六〇一円
  (ウ) 車椅子用クッション
           二九万三一六四円
 一万四八〇〇円×二個×(一+〇・九〇七〇+〇・八二二七+〇・七四六二+〇・六七六八+〇・六一三九+〇・五五六八+〇・五〇五〇+〇・四五八一+〇・四一五五+〇・三七六八+〇・三四一八+〇・三一〇〇+〇・二八一二+〇・二五五〇+〇・二三一三+〇・二〇九八+〇・一九〇三+〇・一七二六+〇・一五六六+〇・一四二〇+〇・一二八八+〇・一一六八+〇・一〇五九+〇・〇九六一+〇・〇八七二≒二九万三一六四円
 カ 家屋改造費 一三四四万〇四〇二円
  (ア) 原告一郎の自宅については、本件訴訟前に、トイレ、浴室、居室、玄関等について、手すりの設置、車椅子のまま通ることができるように洗面台を小さいものに変更、車椅子のまま入ることができるようにするためのトイレの拡充、居宅となっている二階へ上がるための昇降リフトの設置等が行われ、その費用として合計四四二万五二八四円を要したことが認められる。原告一郎は、前記の改修等に加えて、ホームエレベーターの設置、廊下等の床面のバリアフリー化、浴室内の段差解消のための改造費等をさらに主張する。
  (イ) まず、原告一郎が主張する改造費等のうち、ホームエレベーター設置のための見積費用は、工事関係費二七七万二六四〇円及びエレベーター設備費二六八万円の合計五四五万二六四〇円(消費税込みで五七二万五二七二円)である。
 確かに、原告一郎の自宅は三階建てで、一階が工場部分、二・三階が居宅部分であり、二階に玄関が設けられていることから、通院その他で外出する際には、階段を利用することになるところ、原告一郎は左片麻痺のために階段を利用しての昇降は不可能である。しかし、このために既に階段に沿って昇降リフトが設置されていること、リハビリテーション病院退院後の約三年間、この昇降リフトを利用して介護をしてきたという実績があること、原告一郎は、昇降リフトでは移乗時に転倒の危険があり、実際にも転倒した旨主張するが、転倒したのは過去に一回で、昇降リフトに慣れない時期であったと考えられること、その後、原告一郎が昇降リフトを使用することに支障が生じたという事情は認められないことなどからすれば、現在の昇降リフトの利用に代えて、ホームエレベーターを設置する必要性が高いものとはいえない。
 もっとも、原告一郎が今後も昇降リフトを利用するとしても、その保守点検費用及び耐用年数が到来したことによる買換費用については、本件事故と相当因果関係がある損害として認めるのが相当である。そして、現在使用している昇降リフト設置の際の費用は二四五万三三五二円であったこと、その費用の約七〇%を占める昇降リフト本体及びレールについては耐用年数が一〇年であること、耐用年数到来により新たに設置する際にはほぼ同額を要すると推測されること、定期点検費用として毎年二万円を要することなどを総合すると、昇降リフトを一〇年ごとに五回買い換え、定期点検は症状固定時から平均余命まで五〇回行うことを前提に、次の合計三九一万五一一八円の限度で、昇降リフトの買換費用等として損害と認めるのが相当である。
 二四五万三三五二円×(〇・六一三九+〇・三七六八+〇・二三一三+〇・一四二〇+〇・〇八三〇)≒三五五万円
 二万円×一八・二五五九(五〇年のライプニッツ係数)≒三六万五一一八円
  (ウ) 次に、現在の自宅内の状況では、段差やドア等があるため、車椅子での移動を円滑に行うことができないこと、車椅子のままでの洗面台の使用が困難であること、浴室内の段差が大きいことが認められる。前記二(2)の原告一郎の後遺障害の内容・程度及び介護の状況を総合すると、このような不都合を解消するため、部屋を拡充し、浴室や洗面所等を改修する必要性が認められる。そして、そのための費用は、甲五一の見積費用一三〇二万円(消費税込み)のうち、ホームエレベーター設置のための費用五七二万五二七二円)消費税込み。前記(ア))を除いた七二九万四七二八円であるところ、浴室、洗面所、廊下等のバリアフリー化や居室の拡充はいずれも原告一郎だけでなく、同居する家族の生活の利便性を向上させるものでもあることも考慮すると、その約七〇%に当たる五一〇万円をもって本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
  (エ) よって、家屋改造費として、既に改造されている部分の改造費四四二万五二八四円と前記(イ)及び(ウ)の合計一三四四万〇四〇二円を認めるのが相当である。
 キ 車両改造費         〇円
 原告一郎は、車両改造費として三〇一万三一九八円を主張する。しかし、原告一郎は、改造車両を使用していないところ、前記二認定の原告一郎の後遺障害の内容・程度及び介護の状況等に照らせば、車両改造が必ずしも必要であるとまでは認められないから、車両改造費は本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
 ク 入浴介護用品関係費
           三二万〇五〇一円
 原告一郎の後遺障害の内容・程度からすると、風呂場内で腰掛けるためのシャワーチェア、浴槽内用吸着滑り止めマット及び洗い場用滑り止めマットは、いずれも必要なものであると認められる。そして、《証拠略》によれば、シャワーチェアは単価四万九八〇〇円で耐用年数三年、浴槽内用吸着滑り止めマットは単価二五〇〇円で耐用年数三年、洗い場用滑り上めマットは単価三六〇〇円で耐用年数三年であると認められ、三年ごとに買い換えることを前提に原告一郎が主張する四八年間分(症状固定時二九歳の平均余命は約五〇年)の症状固定時の現価計算をすると、入浴介護用品関係費は次のとおり合計三二万〇五〇一円となる。なお、被告会社は、耐用年数三年は短いと主張するが、前記認定に反して、耐用年数が三年を超えると認めるに足りる証拠はない。
  (ア) 四万九八〇〇円×五・七三三五≒二八万五五二八円
  (イ) 二五〇〇円×五・七三三五≒一万四三三三円
  (ウ) 三六〇〇円×五・七三三五≒二万〇六四〇円
 現価ライプニッツ係数五・七三三五=〇・八六三八+〇・七四六二+〇・六四四六+〇・五五六八+〇・四八一〇+〇・四一五五+〇・三五八九+〇・三一〇〇+〇・二六七八+〇・二三一三+〇・一九九八+〇・一七二六+〇・一四九一+〇・一二八八+〇・一一一二+〇・〇九六一
 ケ 将来の治療費        〇円
 原告一郎は、症状固定後も電気療法やリハビリテーションなどを中心とした治療を継続することが必要であり、その治療費は少なくとも月額六万円を下ることはないとして、将来治療費一三〇八万一四六四円を主張する。
 確かに、原告一郎は、症状固定後もリハビリテーション病院に通院していたこと、現在でも自宅にマッサージ師に来てもらい、マッサージを受け、あるいは、臨床心理士に週に一回来てもらい、認知リハビリテーションを受けていることが認められる(前記二(1)ウ(エ))。また、都丸医師も回答書(甲五九)において、マッサージは、拘縮の予防・改善のために有効であり、認知リハビリテーションは、高次脳機能障害に有効と考える旨述べている。しかし、原告一郎は、原告花子のほか家族の協力で毎日、リハビリに励んでいるところ、それに加えて、マッサージ師によるマッサージを将来にわたって必要なものとして、その施術費等を本件事故と因果関係のある損害として認めるまでの事情があるとはいえない。また、認知リハビリテーションについても、原告一郎の症状の維持に必要な治療費であると認定するには足りない。もっとも、このような事情は、後遺障害慰謝料の算定において、考慮するのが相当である。
 コ 将来の介護料
         六七〇二万〇五七〇円
  (ア) 前記二(2)認定のとおり、原告一郎は、外出、入浴、更衣等については介助を要し、その他の日常生活動作についても常時、監視ないし指示・声掛け(促し)を要するといえる。
  (イ) 原告一郎は、症状固定時に原告父母(原告太郎及び原告花子)はともに五五歳であり、その後原告父母が六七歳に達するまでの一二年間について、平日の日中は職業付添人による介護として日額一万四三八五円、その余は原告父母による介護として日額二〇〇〇円の合計日額一万六三八五円、休日は原告父母による終日介護として日額一万円を主張する。
 しかし、これまでは原告花子が介護の中心となっており、(一日二時間程度を一定期間依頼したことがあることを除けば)現に職業付添人は依頼していないところ、原告花子が平日介護を離れて仕事に専念しなければならない事情もうかがわれず、今後も近い将来に職業付添人を依頼する蓋然性があるともいえないこと、原告一郎の後遺障害の内容・程度によれば、現時点において原告一郎の介護のために有資格者である職業付添人が必要であるという事情は認められないことなどを総合すると、症状固定時から原告父母が六七歳に達するまでの一二年間については、近親者による介護として日額八〇〇〇円の介護料を認めるのが相当である。なお、原告一郎は、原告父母による終日介護を前提としても、日額を一万円と主張しているが、原告一郎に対する介護は、前記のとおり常時介護であるとは認められるものの、監視ないし指示・声掛け(促し)で足りる部分も相当あり、前記額を超える近親者介護料が相当であるとは認められない。そうすると、この間の介護料は、次のとおり二五八八万〇五四四円となる。
 八〇〇〇円×三六五日×八・八六三二≒二五八八万〇五四四円
  (ウ) 次に、原告父母が六七歳に達した以降、原告一郎の平均余命までについては、原告父母による介護は体力的に困難であることが推測されるので、職業付添人による介護として、介護料を認めるのが相当である。
 そこで職業付添人による介護料についてみるに、原告一郎は、一日一二時間の介護を前提とし、一日料金が一万六〇〇〇円であるのでその最低額とした上で、事務手数料月額二〇〇〇円、消費税を加算して日額一万六八六九円(一六〇〇円+(二〇〇〇円×一二)÷三六五日×一・〇五)を主張するところ、確かに、現在、職業付添人に依頼すればその程度の費用を要するものと考えられる。しかし、今後予測される介護方式の多様化等からすれば、現時点の職業付添人による介護料の額が原告父母が六七歳に達するまで同様であるとは限らないこと、前記のとおり、原告一郎の介護は、常時介護とは認められるものの、監視ないし指示・声掛け(促し)で足りる部分も相当あり、常時介護の中では比較的負担が軽いと考えられることなどを考慮すると、損害の控え目な認定として、日額一万二〇〇〇円の限度で介護料を認めるのが相当である。
 そうすると、原告両親が六七歳に達した後、原告一郎の平均余命までの介護料は、次のとおり四一一四万〇〇二六円となる。
 一万二〇〇〇円×三六五日×(一八・二五五九(五〇年のライプニッツ係数)-八・八六三二(一二年のライプニッツ係数))≒四一一四万〇〇二六円
  (エ) よって、将来の介護料は、(イ)と(ウ)の合計六七〇二万〇五七〇円となる。
 サ 休業損害   四七七万七六六二円
 原告一郎は、本件事故日の翌日である平成一二年一一月二二日から症状固定日である平成一四年一月七日までの四一二日間、全く就業することができなかったところ、原告一郎の本件事故前年である平成一一年の給与年収は四二三万二六三八円であるから、休業損害は、次のとおり四七七万七六六二円を認めるのが相当である。
 四二三万二六三八円÷三六五日×四一二日≒四七七万七六六二円
 シ 後遺障害逸失利益
       一億一三七六万八二五〇円
 前記のとおり、原告一郎の後遺障害は併合一級に該当することからすれば、原告一郎は、その労働能力を一〇〇%喪失したものと認められる。
 また、原告一郎は、平成七年三月丙川大学工学部を卒業し、平成九年三月二五日同大学大学院工学研究科博士前期課程(修士課程)情報工学専攻を修了し、会社員として勤務し、本件事故前年である平成一一年の年収は四二三万二六三八円であったこと(前記サ)、これは平成一一年賃金センサス男性労働者産業計・企業規模計・大卒・二五ないし二九歳の平均賃金四四四万四五〇〇円とほぼ同額であること、原告一郎は本件事故時二八歳、症状固定時二九歳と若年であることなどを総合すると、原告一郎は、症状固定時二九歳から就労可能年齢終期である六七歳まで平均して、平成一四年(症状固定の年)賃金センサス男性労働者産業計・企業規模計・大卒・全年齢の平均賃金六七四万四七〇〇円の収入を得られた蓋然性を認めることができる。よって、同額をもって、原告一郎の後遺障害逸失利益の算定の基礎収入とする。
 そうすると、原告一郎の後遺障害逸失利益は、次のとおり一億一三七六万八二五〇円となる。
 六七四万四七〇〇円×一〇〇%×一六・八六七八(症状固定時二九歳から六七歳まで三八年のライプニッツ係数)=一億一三七六万八二五〇円
 ス 傷害慰謝料  三二五万〇〇〇〇円
 原告一郎の傷害の内容、症状固定日まで入通院期間等を総合すると、原告一郎の傷害慰謝料は三二五万円と認めるのが相当である。
 セ 後遺障害慰謝料
         三〇〇〇万〇〇〇〇円
 原告一郎の後遺障害の内容・程度に加え、現在もマッサージ師や臨床心理士に自宅に来てもらい、あるいは、家族の介助を受けて、リハビリを行っていること、本件事故態様のほか、被告乙山は原告一郎を救護することなく逃走していることなどの事情を考慮すると、原告一郎の後遺障害慰謝料は三〇〇〇万円を認めるのが相当である。
 ソ 過失相殺及び損害のてん補後の損害残額
 前記アないしセの合計額は二億五一八七万八九六九円であるところ、これから、前記一のとおりの原告一郎の過失割合五%を減ずると二億三九二八万五〇二〇円となる。これから損害のてん補額(前記前提となる事実(6))五一二二万六三五〇円を控除すると、損害残額は一億八八〇五万八六七〇円となる。
 タ 弁護士費用
 本件事案の内容、審理の経過等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は一五〇〇万円と認めるのが相当である。
 チ まとめ
 以上により、原告一郎の損害額は、二億〇三〇五万八六七〇円となる。
 また、原告一郎が支払を受けた自賠責保険金三〇〇〇万円に対する本件事故日である平成一二年一一月二一日から保険金支払日である平成一四年六月一八日までの民法所定の年五分の割合による確定遅延損害金は、次のとおり合計二三六万三〇一三円となる。
  (ア) 平成一二年一一月二一日から平成一三年一一月二〇日までの一年
 三〇〇〇万円×五%×一年=一五〇万円
  (イ) 平成一三年一一月二一日から平成一四年六月一八日まで
 三〇〇〇万円円×五%÷三六五日×二一〇日≒八六万三〇一三円
 ツ 中間利息控除の基準時について
 被告らは、事故時からの遅延損害金が認められることとの均衡等から、後遺障害逸失利益等の中間利息控除の基準を事故時とし、事故時の現価によるべきであると主張する(被告会社は、少なくとも後遺障害逸失利益、将来の介護料の算定においては、事故時の現価に引き直すべきであると主張し、被告乙山は、後遺障害逸失利益、将来の介護料のほか、前記認定の損害の中では入浴介護用品関係費につき、事故時を基準に中間利息を控除すべきであると主張する。)。
 なるほど、不法行為による損害は不法行為時に発生すると解され、交通事故による損害賠償債務についても、附帯請求として事故時からの遅延損害金が原則として認められるところである。
 しかし、症状固定時から将来にわたって損害が具体化する後遺障害逸失利益、将来の介護料等の損害は、裁判所において諸般の事情を考慮して合理的な相当額を定めれば足りると解されるところ、その損害額の算定において中間利息をどのように控除するかという問題と損害賠償額全体についての遅延損害金の問題とは必ずしも厳密な論理的関連性があるとはいえないから、実務上、後遺障害逸失利益や将来の介護料の算定に当たって、最初にその損害が具体化するといえる症状固定時の現価をもって損害額と認定することが、不合理であるとはいえない。
 また、休業損害と後遺障害逸失利益、あるいは、付添費と将来の介護料は、症状固定時という時期を挟んで分かれているものの、それぞれ性質上、同質性・連続性を有するものと解されるところ、従来、休業損害及び付添費については、損害が具体化する時期が相当長期間にわたる場合であっても、厳密に中間利息を控除して事故時の現価を算出することはしておらず、単純に積算した額をもって事故時に発生する損害と認定してきているところである。そうすると、後遺障害逸失利益叉は将来の介護料についてのみ、厳密な論理を適用し、事故時から症状固定時までの中間利息を控除することは均衡を失することになる。このような事情を考慮すると、後遺障害逸失利益や将来の介護料を算定する場面において事故日から症状固定時までの中間利息を控除することが相当であるとはいえない。
 なお、損害賠償額の算定において被害者が不当に利得することがないように留意する必要はあるものの、遅延損害金が単利式で計算して付加されるのに対し、後遺障害逸失利益や将来の介護料については長期間にわたって複利式で中間利息が控除されることになるから、本件において事故時から症状固定時まで(本件では約一年)の中間利息を控除しないとしても、直ちに被害者が不当に利得するものとはいえない。
 以上によれば、被告らの前記主張は採用することができない。
 (2) 原告太郎及び原告花子の損害
 ア 原告一郎は、本件事故により終生介護を要する重篤な後遺障害を負ったところ、その両親である原告太郎及び原告花子の精神的苦痛は大きいこと、現に原告太郎及び原告花子は、本件事故による原告一郎の受傷等の影響でうつ病又はうつ状態との診断を受け、投薬治療を受けたこと、本件事故の態様及び被告乙山が本件事故後、原告一郎を救護することなく逃走したことなどを総合すると、原告太郎及び原告花子の固有の慰謝料として各二〇〇万円を認めるのが相当である。
 そして、これから、原告一郎の過失割合五%を控除すると、慰謝料額は各一九〇万円となる。
 イ 弁護士費用は各一九万円を認めるのが相当である。
 ウ よって、原告太郎及び原告花子の損害額は、各二〇九万円となる。
 四 争点四(供託の効力)について
 (1) 被告会社は、平成一六年二月二六日、原告一郎に対し、本件損害賠償金として一億五〇〇〇万円(遅延損害金を含む。)の弁済の提供をし、原告一郎がこれを拒絶したとして、同年三月一一日、東京法務局に一億五〇〇〇万円を供託したところ、被告らは、仮にその供託額が債務の一部であったとしても、一部弁済として効力を有するものと解すべきであると主張する。
 (2) そこで検討するに、有効な弁済の提供といえるためには、債務の本旨に従った提供であることを要するところ(民法四九三条)、債務の本旨に従った提供は、原則として債務の全額、すなわち、元本のほか、履行遅滞にあるときは遅延損害金を併せて提供することを要すると解される。
 これを本件についてみると、被告会社が提供したのは、自賠責保険金三〇〇〇万円に対する確定遅延損害金として二三六万四〇〇〇円、損害金元本一億二六八九万七七七五円及びこれに対する本件事故日である平成一二年一一月二一日から平成一五年二月二六日までの遅延損害金として二〇七三万八二二五円の合計一億五〇〇〇万円である。ところが、原告一郎の損害残額は前記のとおり二億〇三〇五万八六七〇円、これに対する本件事故日から前記の弁済の提供日まで(三年と九八日)の年五分の割合による遅延損害金は合計三三一八万四七九三円であり、また、自賠責保険金三〇〇〇万円に対する確定遅延損害金は二三六万三〇一三円(前記三(1)チ)であることから、損害元本及び遅延損害金の合計額は二億三八六〇万六四七六円となる。したがって、被告会社が提供した一億五〇〇〇万円は、債務の一部であり、遅延損害金を含めた債務総額の約六二・九%にすぎない。そうすると、被告会社による一億五〇〇〇万円の提供は債務の本旨に従った提供と認めることはできないといわざるを得ず、したがって、被告会社から債務の本旨に従った提供がない以上、原告一郎の受領拒絶を理由とした供託はこれを有効と解することはできない。
 (3) 被告らは、債務者が債務全額として供託した金額でも、債権者がこれを一部弁済として受領することは認められており、債務額が不明確な場合に債務者が相当な額を全額として供託するのであれは、債務の本旨に従った弁済としてその部分については効力を認めても、債権者保護に欠けることにはならない、債権の種類や債務額に対する供託額の割合など各種の事情を個別的に判断して、その供託が債務の本旨に従った弁済と認め難いとき、つまり、当該供託を認めては債権者(被害者)の立場が害される場合にだけ、一部供託を無効とすれば十分であり、原則として無効とする必要はない、一億五〇〇〇万円というのは相当な額であり、被告会社は、年度予算の問題があって、平成一六年三月中に相当と思われる債務弁済の必要があったなどとして、被告会社の弁済の提供及び供託は有効であると主張する。
 しかし、被告らの前記主張は、一部弁済を原則として有効とすべきであるというものにほかならないところ、前記(2)のとおり、このような解釈は採用することができない。このような弁済の提供及ひ供託を認めるとすれば、被害者は結局、分割弁済を強要されるのと同じであり、一括弁済の合理的期待を奪われることとなり、当事者間の公平にかなうものとはいえないというべきである。
 (4) なお、弁済の提供の金額の不足が極めて僅少であって、提供及ひ供託を無効とすることがかえって信義則に反する場合には、有効な提供及び供託になると解すべきであるが、前記の事情に照らせば、本件でそのような事情があるとはいえない。また、最二判平成六年七月一八日民集四八巻五号一一六五頁は、交通事故による損害賠償債務について一部の弁済の提供及び供託を有効と認めているが、これは、交通事故によって被った損害の賠償を求める訴訟の控訴審係属中に、加害者が被害者に対し、第一審判決によって支払を命じられた損害賠償の全額を任意に弁済のために提供した事案に係るものであって、本件とは事案を異にするというべきである。
 (5) よって、被告らの前記主張は採用することができない。
 第四 結論
 以上の次第で、原告一郎の請求は、被告らに対し、二億〇五四二万一六八三円(自賠責保険金三〇〇〇万円に対する確定遅延損害金である二三六万三〇一三円を含む。)及び内二億〇三〇五万八六七〇円に対する本件事故日である平成一二年一一月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告太郎及び原告花子の請求は、被告らに対し、各二〇九万円及びこれに対する本件事故日である平成一二年一一月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があるからこれを認容し、その余の原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとする。
 よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松本利幸 裁判官 瀬戸啓子 蛭川明彦)

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