名古屋地方裁判所判決 平成23年2月18日

       主   文

 1 被告は,原告X1に対し,2億6866万9601円及びこれに対する平成19年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告は,原告X1に対し,291万5068円を支払え。
 3 被告は,原告X2に対し,440万円及びこれに対する平成19年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 5 訴訟費用はこれを7分し,その2を原告X1の負担とし,その余を被告の負担とする。
 6 この判決は第1項ないし第3項に限り仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 請求
 1 被告は,原告X1に対し,3億7405万2274円及びこれに対する平成19年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告は,原告X1に対し,291万5068円を支払え。
 3 被告は,原告X2に対し,550万円及びこれに対する平成19年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   本件は,原告らが,被告に対し,被告の起こした交通事故により原告X1が傷害を負ったことにつき,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条の運行供用者責任に基づき,損害賠償を求める事案である。
 1 前提事実(争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
  (1) 交通事故の発生
    次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
   ア 日時 平成19年4月13日午後3時40分ころ
   イ 場所 愛知県豊田市八草町八千草1247番地先路線上(以下「本件事故現場」という。)
   ウ 被告運転,所有の車両(以下「被告車」という。)
     自家用普通乗用自動車(車両番号 名古屋○○○や.○○○)
   エ 原告X1(以下「原告X1」という。)
     被告車ボンネット上に伏臥
   オ 事故態様
     被告は,被告車ボンネット上に原告X1が伏臥している状態で同車を発進させ,進行中に原告X1をボンネット上から転落させて転倒させ,よって同人に後記の傷害を負わせた。
  (2) 原告X1の傷病の内容及び治療の経過
   ア 傷病名
     急性硬膜下血腫,頭部外傷後遷延性意識障害及び四肢体幹運動障害等
   イ 治療状況
    (ア) 愛知医科大学病院
      入院 平成19年4月13日から同年9月20日まで
    (イ) 木沢記念病院 中部療護センター
      入院 平成19年9月20日から
    (ウ) 症状固定日 平成20年4月30日
    (エ) 入院期間(症状固定日まで) 384日
    (オ) 後遺障害の内容・等級
      別表第一第1級1号
      頭部外傷による神経系統又は精神の障害については,脳全体にわたり
      脳挫傷後の脳梗塞が認められる。後遺障害診断書上,自力での食事摂取,排泄,入浴等不能につき終日全介護要状態にあるとあり,これらの障害のため,生命維持に必要な身の回り動作の処理について,常に他人の介護が必要な状況にあると認められることから,「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの」として別表第一第1級1号に該当する。
 2 争点
  (1) 過失相殺
   ア 被告の主張
     本件事故では,原告X1が自発的にボンネットに伏臥した。また,被告車に同乗していた友人が原告X1に「やめときなよ」等と制止したにもかかわらず,原告X1は伏臥をやめようとしなかった。本件事故当時,原告X1は,20歳の大学生であり判断能力に全く問題はなく,ボンネットに伏臥して車両を発進させれば転落する危険があることは極めて容易に予見することができたはずである。にもかかわらず,原告X1は,あえて被告車のボンネットに乗車した結果,本件事故の被害にあったのであり,この点において原告X1には重大な過失があったといわざるを得ない。
     他方,原告X1がボンネットに伏臥した状態で発進すれば,同人が転落する危険があることを認識しながら被告車を発進させた点において被告にも過失が認められる。しかし,被告は,クリープ現象を利用して走行したり,駐車場内の障害物を避ける等,原告X1が転落しないよう細心の注意を払いながら走行した。そのことからすれば,原告X1が転落したのは,被告の運転方法に問題があったからではなく,ボンネットに伏臥していた原告X1の乗り方に問題があったからであると理解するのが相当である。
     よって,本件事故における過失割合は,原告X1を8割,被告を2割と評価するのが相当である。
   イ 原告らの主張
     被告は,原告X1がボンネットに乗ることを黙示に許可したばかりか,原告X1がボンネットに伏臥した危険な状態であることを確実に認識しつつ,エンジンをかけ,車を発進させたものであって,自動車運転者として常軌を逸した行為は極めて重大な過失といわなければならない。
     また,被告は,発進後も一切停止や原告X1に対する注意等もすることなく127.5mの距離を走行し,急ハンドルという極めて危険な行為に及ぶなど,その運転態様自体も極めて重大な過失があったといわなければならない。
     他方,原告にも,いわば悪ふざけとはいえ,被告車のボンネットに伏臥した過失があることは否定できない。しかし,被告がそれを許可している本件では,そのことのみを過大視することはできない。さらに,原告に問われるべき過失は,エンジンもかかっていない駐車車両のボンネットに伏臥した時点で終了しており,その後発進するか否か,発進した後も停止するか否か,どのような運転をするかなどはすべて被告のみの選択に委ねられている状況にあった。
     以上によれば,本件において過失相殺はすべきでない。被告の過失の程度は原告のそれと比すべくもない程に大きい。したがって,このような場合にまで過失相殺しなければ公平を失するとまでは言い難い。仮に,百歩譲って本件において過失相殺がなされるとしても,極めて限定的な割合に留められなければならない。
  (2) 損害
   ア 原告らの主張
    (ア) 原告X1の損害
     a 治療費 142万0659円
     b 入院雑費 57万6000円
       1日1500円の384日分
     c 付添看護料(症状固定前) 307万2000円
       1日8000円の384日分
     d 交通費等 85万5057円
     e 休業損害 199万2576円
       事故前日の4月12日までの102日間のアルバイトの収入が52万9318円であった(甲6)から,日額は5189円である。その384日分の199万2576円が休業損害である。
       原告X1が就職活動を開始したとしても,被告が主張するようにアルバイトを自粛したはずであるとは認められない。就職活動は企業の通常の営業時間内である平日の日中に行われることが多いので,休日や夜にアルバイトをすることの妨げにはならないからである。
     f 逸失利益 1億1455万8209円
      ① 基礎年収 676万7500円(賃金センサス平成18年男子大卒全年齢平均賃金)
      ② 労働能力喪失率 100%
      ③ 労働能力喪失期間 45年(22歳から67歳まで)
      ④ 中間利息控除 ライプニッツ係数16.9277
        症状固定時の21歳から67歳までの46年に対応するライプニッツ係数17.8801から21歳から22歳までの1年に対応するライプニッツ係数0.9524を控除した値
      ⑤ 計算式
        676万7500円×100%×16.9277=1億1455万8209円
       なお,被告の生活費控除の主張は失当である。原告X1は毎日起床して就寝まで室内で生活していく以上,食費や服飾費,光熱費等の基本的な生活費は必要であり,生活費が控除されるべきでないことはいうまでもない。
     g 将来付添費(介護料) 1億5922万7267円
       原告X1は症状固定時21歳で,その平均余命は58.53年であり,58年(ライプニッツ係数は18.8195)にわたり介護が必要である。なお,原告X1が遷延性意識障害の状態にあることのみをもってその余命が平均余命よりも短くなるということはできない。仮に,余命が短くなるという状況があり得るとすれば,それは適切な住環境や介護環境という本来あるべき諸条件を無視している(被告が主張するような低額の介護料などでは,十分な住環境や介護環境を整えることができず,原告X1の余命に影響を与えるかもしれない。)からにすぎないのであり,被告の主張は採用できない。また,在宅介護を受けるのは相当である。病院での介護を受けるべきであるとの被告の主張は採用できない。自宅において十分な環境整備・管理体制がなされていれば,一般的な施設よりも在宅の方が感染症に罹患する危険性は少ないといえる。また,自宅において家族と同居することの精神衛生上のメリット,家族とふれあうことでの意識レベル改善面でのメリット等があることもいうまでもない。そもそも,原告X1は,本件事故当時,家族らと同居していたのであり,本件事故による傷害・後遺障害に対する入院治療の必要性がなくなれば自宅に帰って生活する権利がある。在宅介護では医療面で問題があるとか,在宅介護の準備が全く行われておらずその現実性がないなどの特別の事情がない限りは,自宅に帰って生活することが保障されるべきである。
       原告X1の介護には,胃瘻(胃に瘻孔を増設して直接胃内に栄養物を送り込む方法)の処置や痰の吸引という医行為(医師法17条)が必要であり,近親者はともかく業としてこれを行う者には医療資格(看護師資格)が必要となる。午前8時から午後6時までの10時間にわたって職業介護人(有看護師資格)を依頼するための費用は優に日額3~4万円以上かかるが,控えめに日額2万円で算定する。職業介護人を依頼する日のその余の時間の近親者介護費用は日額5000円を下ることはない。近親者のみで介護をする日の近親者介護費用は日額1万円を下ることはない。
      ① 原告X2(以下「原告X2」という。)が67歳になるまでの21年間(ライプニッツ係数は12.8212)
        原告X2が就業する平日(月曜から金曜,年間240日)の夜間は同人が介護をするが,日中は職業介護人を依頼する必要がある。
        原告X2の休業日(土曜,日曜,祝日,年間125日)のうち60日間は,原告X2が就業と介護以外に休息をとるための時間(レスパイト)のため日中の職業介護人を依頼する必要がある。
        したがって,この21年間については,1年のうち300日間については日中の職業介護と夜間の近親者介護が,残りの65日間については全日の近親者介護が行われるものとして介護料を算定するのが相当である。
        したがって,上記21年間の介護費用は,(日額2万5000円×300日+日額1万円×65日)×12.8212=1億0449万2780円である。
      ② 原告X2の67歳以降の37年間
        原告X2が67歳になれば,肉体的負担の大きい原告X1の介護も不可能となる。したがって,年間365日職業人介護の必要性がある。その際,本来であれば,職業介護人を24時間必要とするが,そうなれば費用が極めて高額になるので,控えめに,夜間に関しては年老いた原告X2らが介護に当たることを前提とし,日額2万5000円(職業介護料2万円と近親者介護料5000円)とする。
        したがって,上記37年間の介護費用は,日額2万5000円×365日×(18.8195-12.8212)=5473万4487円である。
      ③ したがって,介護費用は,上記①,②の合計である1億5922万7267円である。
       なお,将来にわたる介護料を算定するにあたり,公的給付を考慮すべきではない。
     h 住宅改造費用 2182万3572円
       遷延性意識障害にある原告X1の在宅介護に当たり住環境を整える必要性があることは自明である。原告らは,本件事故当時,Eが平成17年に新築した戸建て住宅(名古屋市名東区(以下略)。以下「E邸」という。)に居住していた。E邸では,敷地面積が不足し,原告X1の介護に適した環境を整える改造を行うことは不可能であった。そこで,原告X2,Eは,愛知県日進市(以下略)の土地を購入した上で,原告X1の在宅介護に適した家を新築することとした。
       原告X1の介護住宅新築費用は土地取得費3635万円込みで8475万5710円である(甲7)。他方,介護仕様ではない通常の住宅を建築するのにかかる費用は土地取得費3635万円込みで6293万2138円である(甲8)。
       したがって,本件事故により生じた住宅改造費用損害として,上記介護住宅新築費用と通常住宅新築費用の差額である2182万3572円を請求する。
       被告は,リハビリ室を2階に設置する必要がないとするが,原告X1の基本的な生活の場を1階とするのみでも,車椅子で生活できるだけの居室や浴室,リビング,廊下など多大なスペースが必要になることに加え,原告X1の祖母も70歳と高齢であるため寝室を1階に確保する必要がある。そして,リハビリ室にはプラットホームと呼ばれるリハビリ台(横1.2m,縦2m)の他,各種リハビリ機器も設置されることが予定されており,相当な広さを要するので,やむなく2階に設置することになったのである。寝室も兼ねた24.84平方メートルの部屋(乙9)では上記のような物を設置した上で車椅子で動けるスペースを確保することはできない。また,原告X1の家への出入りを玄関ではなく,同室からの直接の出入りとしている点でも,ノーマライゼーションの観点から,被告の主張するような住宅は相当ではない。したがって,ホームエレベーター等は必要である。
       また,被告は,追加工事の一部を快適設備であり,本件事故と因果関係がないとする。しかし,例えば,床暖房については,原告X1は体温調節ができず,気管切開もしているため,空気をクリーンに保ちつつ部屋を暖める空調設備が必要であるし,また,現在では床暖房は一般的に見られるものであり,特に珍しいとか高価であるといったものではない。また,ウッドデッキについては,原告X1に容易に日光浴をさせ,リフレッシュさせることができる非常に有用なものである。これがなければ,日光浴させるために介護者が携帯吸引器などを用意し,外に連れ出す等の作業が必要になり,非常に労力がかかるのであり,ウッドデッキの必要性は認められるべきである。その他の収納用設備なども,原告X1の介護と直接的な関係は少ないとしても,介護用のスペースを広くとる必要性などから必要となってくるものである。したがって,これらの設備の必要性も本件事故によるものと認めるべきである。
       なお,上記額は,カーポートにつき駐車スペースのみに屋根があるものを前提にしているが,大型の車椅子を押す介護者が同時に傘を持つのは非常に困難であるから,駐車スペースから玄関の間にも屋根の付いたカーポートが必要である。これには178万5000円を要する(甲67)のに,原告請求の住宅改造費用にはこれは含まれていないというように,原告の請求は控えめであることからも,上記請求額は全額認容されるべきである。
     i 車両改造費 286万2212円
       原告X1の在宅介護生活における外出移動には車両の改造(車椅子ごと乗車可能な改造)が必要である。改造車両の費用が516万4144円,通常車両の費用が439万6589円であり(甲9),少なくともその差額の76万7555円は本件事故による損害といえる(なお,平成21年8月26日付け訴えの変更申立書10頁の下から2行目の〔計算式〕に(4,360,700-3,627,460)とあるのは(5,164,144-4,396,589)の誤記であると認める。)。
       初回購入の1台分に加え,将来にわたり耐用年数6年ごとに買い替える必要があり,平均余命の58年後までに買い替える回数は9回となる。
       その合計費用は,76万7555円×(1+0.7462+0.5568+0.4155+0.3100+0.2313+0.1726+0.1288+0.0961+0.0717)=76万7555円×3.729=286万2212円である。
     j 介護ベッド費用 376万0171円
       原告X1の在宅介護生活のためには介護用ベッドが必要であり,関連器具を含めた1台分の費用は合計126万8400円となる(甲11)。症状固定時の1台に加え,症状固定後はその耐用年数の8年ごとに買い替える必要があり,平均余命の58年間に買い替える回数は7回となる。
       その合計費用は376万0171円である。
     k 介護リフト費用 373万7493円
       原告X1の在宅介護生活のためにはベッドリフト,浴室リフトが必要であり,関連器具を含めた各1台の費用は合計126万0750円となる(甲12,13)。症状固定時の各1台に加え,症状固定後はその耐用年数の8年ごとに買い替える必要があり,平均余命の58年間に買い替える回数は7回となる。
       その合計費用は373万7493円である。
     l シャワーキャリー費用 541万6281円
       原告X1の在宅介護生活のためにはバスキャリー(入浴用の車椅子)が必要であり,1台分の費用は47万8800円となる(甲14)。症状固定時の1台に加え,症状固定後はその耐用年数の3年ごとに買い替える必要があり,平均余命の58年間に買い替える回数は19回となる。
       その合計費用は541万6281円である。
     m 車椅子費用 407万4336円
       原告X1の在宅介護生活のためには車椅子が必要であり(室内用と外出用で同時に2台),1台分の費用は周辺器具を含めると46万5990円となる(甲15)。症状固定時の各1台(計2台)に加え,症状固定後はその耐用年数の5年ごとに買い替える必要があり,平均余命の58年間に買い替える回数は11回となる。
       その合計費用は,46万5990円×2×(1+0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112+0.0872+0.0683)=93万1980円×4.3717=407万4336円である。
     n 医療機器費用 436万8757円
       原告X1の在宅介護生活のためには医療器具が必要であり,その合計額は99万9327円である(甲16~19)。必要となる医療器具は本来であればさらに多岐にわたるが,器具を限定して控えめに請求する。症状固定時の各1台に加え,症状固定後はその耐用年数の5年ごとに買い替える必要があり,平均余命の58年間に買い替える回数は11回となる。
       その合計費用は,99万9327円×(1+0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112+0.0872+0.0683)=99万9327円×4.3717=436万8757円である。
     o 将来雑費 2258万3400円
       原告X1の在宅介護生活のためにはオムツ等の諸雑費が当然必要であり,その費用は月額にして23万7975円である(甲20)。本来であればこの全額が将来雑費として認められるべきものであるが,控えめに月額10万円として請求する。平均余命の58年間(ライプニッツ係数18.8195)にわたって月額10万円の将来将来(ママ)雑費が必要なので,その費用は月額10万円×12月×18.8195=2258万3400円である。
     p 慰謝料 3600万円
      ① 傷害慰謝料 400万円
      ② 後遺障害慰謝料 3200万円
     q 損害額合計 3億8632万7990円
     r 損害の填補 4227万5716円
       自賠責保険4000万円,任意保険227万5716円の合計である。
     s 填補後の残額 3億4405万2274円
     t 弁護士費用 3000万円
     u 弁護士費用加算後の総計 3億7405万2274円
     v 確定遅延損害金 291万5068円
       原告X1は,平成20年9月25日,自賠責保険金(後遺障害分)4000万円を受領した。これは本件事故による損害の填補にあたり,上記金員に対する本件事故発生日から上記支払日までの民法所定の年5分の割合による確定遅延損害金についても原告X1は被告に対する請求権を有している。
       本件事故日から上記本件金の支払日までの日数は532日であるから,これに対する確定遅延損害金は4000万円×532/365×5%=291万5068円である。
    (イ) 原告X2の損害 550万円
      近親者慰謝料500万円,弁護士費用50万円の合計550万円
   イ 被告の主張
    (ア) 原告X1の損害
     a 原告らの主張(ア)a治療費142万0659円は認める。
     b 同(ア)b入院雑費57万6000円は争う。1日1300円の384日分49万9200円の限度で認める。
     c 同(ア)c付添看護料(症状固定前)307万2000円は否認する。付添看護の必要性があったとはいえないし,毎日付き添っていたことを裏付ける客観的証拠もない。看護体制の整った病院に入院していることからすれば,付添看護費が認められるとしても1日5500円を認めれば足りる。
     d 同(ア)d交通費等85万5057円は認める。
     e 同(ア)e休業損害199万2576円は争う。本件事故当時原告は大学3年生であったとのことであり,そうであれば,夏から秋にかけて就職活動を開始したはずである。したがって,仮に本件事故がなくても夏から秋以降にかけては就職活動に専念するためにアルバイトを自粛したはずであり,入院全期間にわたる休業損害を認めることはできない。また,本件事故前の原告X1の収入が大きいのは正月休みや春休みを利用してアルバイトをしていたためであると考えられ,これを基礎収入として休業損害を算定するのも相当ではない。
     f 同(ア)f逸失利益1億1455万8209円は争う。原告X1の症状からすれば,将来の生活費として支出が予想されるのは治療費,食費,付添看護費等に限定され,その他の生活費(被服費,教養費,交通費,交際費等)はほとんど支出を必要としないと考えられる。とすれば,逸失利益を算出するにあたっては,5割程度の生活費控除をするのが相当である。
     g 同(ア)g将来付添費(介護料)1億5922万7267円は争う。原告X1の症状からすれば,同人が平均余命まで生存する蓋然性は極めて低いといわざるを得ず,将来にわたる介護費用は同人が40歳に達するまでの期間に限定して認めれば足りる。自動車事故対策センター(現在の自動車事故対策機構)の調査結果によれば,寝たきりの状態の者の推定余命年数は,簡易生命表による推定余命年数と比較して短いとのことである。寝たきりの状態の者が様々な感染症に罹患する危険が高い一方,快復力は低いこと,誤飲による窒息や肺炎の危険といった生命の危険にさらされることが健常者と比較して高いことがその原因である。原告X1は,遷延性意識障害及び四肢体幹運動障害によって寝たきり生活を余儀なくされている。このような現状からすれば,同様の症状を有する患者を母集団とする自動車事故対策センターの統計データから推定余命を導き出すのがより正確である。簡易生命表の母集団の中では,原告X1のような寝たきりの状態の者は少数に過ぎず,多数は健康体の者と考えられるから,これにより原告X1の余命を推定するのは問題がある。
       また,原告X1は,いつ感染症を発症しても不思議ではない状態にあり,同人により安全,より快適に過ごしてもらうためには,在宅介護ではなく,専門の医療設備やスタッフの整った病院での介護を受けさせることが同人の利益に適うというべきである。原告X1が在宅介護を受ける建物は本件事故後に新たに購入された物件であり,原告X1及びその家族にとって住み慣れた家というわけでもない。この点からも原告X1を在宅介護とする必要性を見出すことはできない。
       仮に,平均余命までの付添看護費の必要性を肯定するとしても,控えめに算定するのが相当であり,原告X1の主張する介護日額は高額である。中部療護センターにおいて,原告X2のみならず,叔父,祖母も介護のための訓練を受けていた。祖母の年齢からすると,原告X1の介護は原告X2と叔父が中心になり,祖母が補助することが予定されていると考えられる。原告X1の二人の妹についても,各人の生活に支障を来さない範囲において,介護の補助を行うものと考えられる。また,原告らは,介護関連費用として介護ベッド費用,介護リフト費用,シャワーキャリー費用等の諸費用も請求しているが,これらは,介護者の負担を軽減させるものと理解することができる。さらに,今後,日本は高齢化が進み,寝たきり者の数も増大していくことが予想され,それにより介護ビジネスの成長(職業介護人の増加)も見込まれる。高齢化社会に移行していくことで介護保険制度も充実し,廉価で広範な介護サービスを受けられる可能性も高い。介護技術や介護用品の発達も見込まれ,将来的には介護労働が現在よりもかなり逓減されることが予想される。以上を勘案すると,職業人介護料と近親者介護料を合わせたとしても日額1万5000円で十分である。また,近親者介護料は日額7000円が相当である。さらに,叔父をはじめとする家族の協力が得られることを(ママ)等を考慮すれば,レスパイトのための職業介護を認める必要はない。
       なお,後記(3)の公的扶助等が損益相殺の対象にならない場合,これらの給付があることを将来介護費の算定において考慮すべきである。
     h 同(ア)h住宅改造費用2182万3572円は否認する。原告X1らが本件事故時もEと同居していたことを裏付ける客観的な証拠はないから,本件事故によりEが旧宅を処分して新居を購入する必要性が生じたと認めることはできない。また,元の建物を介護仕様にリフォームできないかが検討された形跡が認められず,新居購入の必要性が認められない。仮に,その必要性が認められるとしても,原告主張の建築費4725万3150円は過大である。1階にリハビリルームを設けることは可能であったはずであり,これを2階に設けることを前提にしたホームエレベーター等の必要性は認められない。また,追加工事として計上されているバルコニーの手すり,物干し,スチール電動シャッター,キッチンの家電収納,カップボード,食洗機,リビング・ダイニングのチェスター,洗面脱衣室の物干,脱衣収納セット,洗濯機設備セット,和室の荒組障子,洋室A・B・C・D・ホールのシェルフ扉・クローゼット用棚,ネットマルチメディアコンセント,インターホン用配管,小屋裏収納,床暖房設備,外構の手すり,ウッドデッキ,カーポート等の設備は,いわゆる快適設備であり,本件事故との因果関係を認めることはできない。介護用住宅の建築費用としては3959万2195円を限度として認めれば足りる。したがって,本件事故にかかる住宅改造費は1416万2617円である。
     i 同(ア)i車両改造費286万2212円は否認する。仮に,車両改造の必要が認められるとしても,原告X1が外出するのは病院への定期的な通院程度であり,その他にリハビリを兼ねた外出をするとしても,自動車の利用頻度はそれほど多くはないと考えられる。したがって,6年毎の買換えを前提とした車両改造費を損害として認めることはできない。
     j 介護ベッド費用
       40歳までの余命を限度に認める。
     k 介護リフト費用 373万7493円
       40歳までの余命を限度に認める。
     l シャワーキャリー費用
       40歳までの余命を限度に認める。
     m 車椅子費用
       40歳までの余命を限度に認める。
     n 医療機器費用
       40歳までの余命を限度に認める。
     o 将来雑費
       将来雑費2258万3400円は否認する。
     p 同(ア)p慰謝料3600万円(①傷害慰謝料400万円,②後遺障害慰謝料3200万円)は争う。
     q 同(ア)q損害額合計3億8632万7990円は争う。
     r 同(ア)r損害の填補4227万5716円(自賠責保険4000万円,任意保険227万5716円)は認める。
     s 同(ア)s填補後の残額3億4405万2274円は争う。
     t 同(ア)t弁護士費用3000万円は否認する。
     u 同(ア)u弁護士費用加算後の総計3億7405万2274円は争う。
     v 同(ア)v確定遅延損害金291万5068円は認める。
    (イ) 同(イ)原告X2の損害550万円(近親者慰謝料500万円,弁護士費用50万円)は否認する。
  (3) 公的扶助等による損益相殺
   ア 被告の主張
     a 既受領分について
       原告X1は,次のとおり,公的扶助を受給している。これらについては,原告X1の損害額から控除されるべきである。
      ① 定期的に受給しているもの
       Ⅰ 国民年金の障害基礎年金 年額99万0100円(月額換算すると8万2508円)
         平成22年6月22日現在の既受領分148万5145円
       Ⅱ 日進市の特別障害者手当 月額2万7530円
         平成22年6月22日現在の既受領分16万5180円
       Ⅲ 日進市障害者扶助料 月額5000円
         平成22年6月22日現在の既受領分5万円
      ② 現在は受給していないもの
       Ⅰ 愛知県在宅重度障害者手当 18万2000円
       Ⅱ 名古屋市名東区の重度障害者給付金 4万円
      ③ 日常生活用具に関する補助等
       Ⅰ 独立行政法人自動車事故対策機構の介護料 34万2200円
       Ⅱ 介護ベッド費用 13万8600円
       Ⅲ 移動用リフト 14万3100円
       Ⅳ 吸引器 5万0760円
       Ⅴ 車椅子 39万2251円
     b 将来受領分について
       原告X1が将来にわたって介護料を支出したり,上記生活用具を購入する場合,少なくとも上記に相当する補助金が支給されることになる。よって,これらについては将来にわたって損害額から控除するのが相当である。
   イ 原告X1の主張
     被告主張の各種給付があったことは認めるが,被告の主張は争う。損益相殺の対象になるのは,既受領分の障害基礎年金のみである。将来分の給付は,その制度の存続や支給基準が確実とはいえないから,控除すべきではない。
第3 当裁判所の判断
 1 争点(1)(過失相殺)について
  (1) 証拠(甲2の1,甲3の6~10・12・13,甲29~31,乙10,証人F,証人G,証人H,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
   ア 被告車は,車長3.61m,車幅1.66m,車高1.50m,乗車定員5名,右ハンドルの普通乗用自動車(トヨタ・ヴィッツ)である。
   イ 本件事故現場である□□大学内の駐車場(以下「本件駐車場」という。)の状況はおおむね別紙交通事故現場見取図(以下「別紙見取図」という。)のとおりである。本件駐車場の東西は約100m,南北は約140mであり,南方に幅6.7mの出入口がある。駐車場はアスファルト舗装された状態ではあるが,速度が出せないようにハンプが付けられて凹凸になっているところがある。
   ウ 被告車は,本件事故当日,本件駐車場の別紙見取図の①の位置に駐車していた。被告車には,運転席に被告,助手席にH(以下「H」という。),後部座席の助手席側にG(以下「G」という。)が乗り,その後,後部座席の運転席側のドアを原告X1が開け,F(以下「F」という。)がそこから乗車しようとしたとき,原告X1は後部座席の中央に小さなごみ箱があるのを見て,「俺,ボンネットだね」と言った。
     Fは原告X1を待っており,原告X1,被告,H,Gは,同日の授業を受け終わった後であり,被告車に被告以外の4名が乗り込んだのは,原告X1とGが別の駐車場に車を駐車していたので,同人らとFをその駐車場に送り,電車で通学しているHを八草駅に送るためであった。
   エ Fは,原告X1の「俺,ボンネットだね」という言葉を軽い冗談程度にとらえ,軽く答える形で「何言ってるの,やめなよ」というようなことを言ったが,原告X1は,ドアを閉め,前の方に行き,ボンネットの上にうつ伏せになり,両手をフロントガラスとボンネットの間に掛けた状態で乗った(その状態は,おおむね甲3の7の写真15,16のような状態であり,原告X1の両手は,フロントガラスとボンネットの境目に置かれるというような状態であり,掴めるような突起物は特段存在しない。上記写真でボンネットに乗っているのは原告のX1よりも身長が10cmくらい高いHであり,原告X1が足をナンバープレートに乗せるような状態にすることはできなかったと推認される。したがって,手も足も,何か安定的に掴んだり乗せたりする対象がなく,原告X1は相当に不安定な状態でボンネット上に乗っていたものということになる。)。
   オ 原告X1がボンネットの上に乗った後,間もなく,被告は,被告車のエンジンを掛けて発進した。発進した直後ころは,原告X1は笑っていた。被告車は時速10kmくらいのゆっくりした速度で走行していた。
   カ 被告車は,別紙見取図の①から②に進行し,そこで右に曲がって③に進み,そこで右に曲がって④に進み,そこで左に曲がって⑤で停止した。④から⑤までの距離は4.0mである。原告X1は,④ではボンネット上((エ)の位置)に乗っていたが,被告がハンドルを左に切ったときに右側(運転席側)に滑っていき,ボンネットから転落したので,被告はブレーキを掛け,4.0m先の⑤で停止した。原告X1は,ボンネットから転落して路面に頭部を打ち,(オ)の位置に仰向けの状態で倒れた。①から②が49.0m,②から③が29.5m,③から④が49.0m,④から⑤が4.0mであり,被告車の発進から原告X1の転倒までの被告車の進行距離が127.5m,被告車の停止までが131.5mである。
   キ 被告が原告X1を止めるような話をしたことはFもGもHも聞いた覚えがない旨供述する。Hは,F以外に原告X1に注意をした者はいない旨供述する。
  (2) 以上の事実によれば,本件事故は,被告が被告車のボンネットにうつ伏せになって乗っているのに,時速10km程度で駐車場内を走行し,別紙見取図の①,②,③,④と順次進行し,④で左に曲がったところ,その際に被告車の右側に力がかかったために原告X1がボンネットから右側(運転席側)にすべり落ち,同見取図(オ)の地点に転倒したという事故であると認められる。
    これに対し,被告は,本人尋問において,原告X1がボンネットから転落したのは,別紙見取図④で左に曲がった時ではなく,ハンドルを左に切ろうとしたとき,すなわち,ハンドルを左に切る前である旨の供述をする(被告本人9頁)。
    しかし,被告は,平成19年7月31日付けの検察官調書(甲3の13)では,「④の地点から出入口に向かうためにハンドルを左に切ったところ,フロントガラスの目の前にいたX1が落ちていくのが分かりました」(同調書5頁)と供述し,平成22年3月25日付けの陳述書(乙10)においても,「南西方向に向かって直進していたところ,進行先にあるバンプを避けるとともに,駐車場出入口に向かうため,ゆっくりとハンドルを左に切りながら南方向に向きを変えました。このときですが,X1君が,「あっ」という顔をして,そのまま滑るような形で落ちていきました」(同陳述書4頁の8項)と,原告X1が転落したのは,被告がハンドルを左に切った後である旨の陳述をしている。これは,左にハンドルを切ったところ原告X1が滑っていったとする証人Fの供述とも符合するし,左に曲がる際は車両の右側に力がはたらき,右側(運転席側)に原告X1が滑っていくというのは物理法則からしても合理的であることからして,被告の上記陳述は信用性が高いというべきである。これに対し,ハンドルを切らず真っすぐに進行している際に原告X1が右に滑っていったとすれば,その原因が何であるかは全く不明としかいいようがないところである。したがって,左にハンドルを切ったところ原告X1が滑っていったとする上記各証拠の信用性は高いというべきであり,これに反する被告の本人尋問における上記供述は採用できない。
    なお,被告の平成19年4月13日に行われた実況見分に基づく同月21日付け実況見分調書(甲3の7)における指示説明では,「X1君を轢かないため左にハンドルを切った地点は④」となっており,平成19年5月3日付けの警察官調書(甲3の12)でも,「図(エ)の地点でボンネットから落ちたので,僕はそのまま走行すると,ボンネットから落ちたX1君を轢いてしまうと思い,ブレーキをかけながら,左にハンドルを切りました」と,上記指示説明と同旨の供述をしている。これらは,ハンドルを左に切る前に原告X1が転落したとする点では,被告の上記検察官調書や陳述書の記載とは異なり,被告の本人尋問における供述と符合するものである。しかし,これでは,上記のとおり,原告X1が転落した理由が不明である。しかも,これらでは,原告X1が転落する前に既にハンドルを左に切ろうとしていたかのような本人尋問における供述とは異なり,原告X1が転落したので,その転落後に,転落した原告X1を被告車で轢いてしまわないためにハンドルを左に切ったかのような説明になっているのであるから,被告本人尋問における供述とも矛盾する部分がある。したがって,これも,上記のとおり信用性が高いと認められる被告の検察官調書や陳述書における説明や証人Fの説明と対比して信用性が低いというべきであり,採用できない。
    また,被告は,被告車の速度について,オートマチック車のブレーキだけを離したクリープ現象を使って時速約7kmで走行した旨供述する(甲3の13の検察官調書5頁。平成19年7月30日付けの電話聴取書〔甲3の15〕も同旨。甲3の12の警察官調書5頁は,ゆっくりした速度で発進した旨の記載はあるが,クリープ現象による走行であるとか,具体的な速度についての数値の記載はない。)。しかし,前記認定のとおり,別紙見取図④でブレーキを掛け,4.0m進行して⑤で停止していることからすれば,クリープ現象による時速7km程度の走行とは考えにくく(時速7kmだと秒速約1.94mであり,クリープ現象ならアクセルはもともと踏んでおらず,ブレーキを踏むまでの反応時間もアクセルを踏んで走行している場合より短いと考えられる(被告は,常にブレーキに足を掛けていたという〔被告本人22頁〕。これを前提にすると,なおさら,空走時間は短くなると考えられる。)上,制動距離も極めて短いので,ブレーキを踏もうとしてから4.0mも進行するとは考えにくいところ,被告において,それほど進行した事情について特段の説明がない。),証人Fが供述するように時速10km程度は出ていたものと認めるのが相当である。
    なお,被告の陳述書(乙10)には,原告X1が転落した後,「私から見て,X1君は,ちょうど運転席の前あたりに落ちたように見えたので,このままではX1君を轢いてしまうと思い,さらにハンドルを左に切るとともにブレーキを踏んだのです」との記載がある。しかし,原告X1は被告車から見てかなり右側に転落している(別紙見取図④の被告車の位置と(オ)の転落した位置)のであり,原告X1が運転席の前あたりに転落したと思った旨の被告の上記陳述は容易に採用できない。また,そもそも時速10km程度で走行しており,ブレーキを掛ければすぐに停止できる状況であったことからすれば,転落した原告X1を轢かないための措置として,ブレーキを掛けること以上に,大きく左にハンドルを切ろうとするとは考えにくいところでもある。思うに,被告は,もともと,実況見分における指示説明や警察官調書で,原告X1が転落した後,同人を轢かないために左にハンドルを切った旨の説明をしていたが,それは,左にハンドルを切った勢いで原告X1を転落させてしまったというのでは,それだけ被告の責任が重くなると考えたためではないかと推測されるところである。しかし,それでは,そもそも,原告X1がなぜ転落したのか不明であるため,検察官調書では,ハンドルを左に切ったところ原告X1が転落したことを認めるに至ったものと推測される。そして,これは,Fの説明や実際の被告車と原告X1の転落位置との関係とも符合するものである。しかし,これでは,原告X1が右側に転落するような勢いで左にハンドルを切ってしまったことになるので,ハンドルの切り方がそれほど急激ではなかったといいたいがために,陳述書では,左にハンドルを切った際に原告X1が転落したことを認めつつ,ある程度大きく左に曲がって停止しているが,そのうち,原告X1の転落前に切ったハンドルはわずかであり,多くは転落後に切ったハンドルであるとしようとしているものであると思われる。しかし,このような説明は以上みてきたように合理的とは考えられず,採用できない。
    さらに,被告は,ボンネットに乗りに行くために歩いている原告X1に対し,「危ないからやだよ」と言ったところ,原告X1が「大丈夫。いいから運転しろ」と言った旨供述する(甲3の13の検察官調書4頁。甲3の12の警察官調書4頁も同旨。被告本人14頁)。しかし,被告車に同乗していたF,H,Gのいずれもが,原告X1と被告とがこのようなやり取りをしたとの記憶がない旨の供述をしていることから,被告の上記供述は採用できない。
  (3) 以上の事実を前提に,本件事故における原告X1の過失の存否及び程度にに(ママ)ついて検討する。
    本件事故は,原告X1が悪ふざけで被告車のボンネットにうつ伏せになって乗ったところ,被告が,原告X1のそのような状態を認識しながら,被告車を発進させ,時速10km程度のゆっくりした速度で駐車場内を発進させたが,すぐに停止することなく,発進から約127.5m進行し,左にハンドルを切ったところで,その際に右向きにかかった力により,手で掴んだり足を乗せるような場所もなく不安定な状態でボンネットに乗っていた原告X1が右側(運転席側)に滑り落ち,路面で頭部を打って重傷を負ったという事故である。
    被告は,被告車のボンネット上には原告X1が伏臥し,運転が困難な状態であり,かつ,同人がボンネット上から転落するおそれがあったことから,その運転を差し控えるべき業務上の注意義務があるにこれを怠り,低速度で走行すれば同人を被告車のボンネット上から転落させることはないと軽信し,普通乗用自動車の運転を開始した過失(甲3の2の公訴事実参照)がある。
    なお,車両の運転者は,当該車両の乗車のために設備された場所以外の場所に乗車させ,車両の運転をしてはならない(道路交通法55条1項)し,運転者の視野を妨げることとなるような乗車をさせ,運転してはならない(同条2項)。それにもかかわらず,被告は,原告X1を,乗車場所ではないボンネット上に乗車させ,それにより視野を妨げられることとなる状態で運転をしたのであるから,被告の本件における運転は,道路交通法55条1項及び2項に違反するものでもある。
    他方,車両に乗車する者は,当該運転者が道路交通法55条1項及び2項に違反することとなるような方法で乗車してはならない(同条3項)。したがって,原告X1が被告車のボンネット上に乗車したのは,同条3項違反の行為であるということになる。
    そこで,本件事故における原告X1の過失の存否ないし程度について検討する。
    被告は,本件事故当時,原告X1は,20歳の大学生であり判断能力に全く問題はなく,ボンネットに伏臥して車両を発進させれば転落する危険があることは極めて容易に予見することができたはずであるにもかかわらず,あえて被告車のボンネットに乗車した結果,本件事故の被害にあったのであり,この点において原告X1には重大な過失があったといわざるを得ないなどとして,原告X1の過失割合を8割と評価するのが相当である旨主張する。
    しかし,本件事故当時,20歳の大学生であり判断能力に全く問題はなく,ボンネットに伏臥して車両を発進させれば転落する危険があることは極めて容易に予見することができたはずであるという原告X1にとっての事情(これらの事情が原告X1に認められること自体は明らかであると認められる。)は,原告X1と同じ大学に通う同級生(大学3年生)であった被告にもすべて同様に当てはまることである。したがって,上記のような事情で原告X1側の過失が大きいと強調すればするほど,全く同様に,被告の過失が大きいと強調しなければならないという関係にあるといえる。したがって,他に原告X1の過失を重く評価すべき事情がなく,上記のような事情だけであるとすれば,被害者である原告X1の過失割合が加害者である被告の過失割合を上回るなどということは考えられないというべきである。
    そこで,更に,両者の過失について検討すると,上記のように予見義務という点では同じような状況にあるのに対し,その義務に従う責任の重さという点では,ボンネット上に原告X1が乗っている状態で運転することにより原告X1の身体,生命に危険を及ぼす可能性のある被告と,自己の身体,生命が危険にさらされる危険性はあるが,被告をはじめとするその他の者の身体,生命を危険にさらすわけではない原告X1とでは,被告の方により重い責任(そのような状態で運転をするという行為を避けるべき責任)があるというべきである。
    しかも,被告は,原告X1がボンネットに乗車している状態の間は運転をしないという極めて容易な不作為により結果を回避できるのであるから,そのような極めて容易な結果回避措置を怠って本件のような重大な結果を引き起こした被告の責任は極めて重いというほかない。
    さらに,原告X1がボンネットに乗車した後の同人の体勢の不安定さなどからすれば,運転が長く続けば続くほど転落の危険性が高まるし,運転が開始された後は,原告X1がボンネットから安全に降りることは難しくなるから,被告としては,すぐに運転をやめ,危険な行為を終わらせるべきであったというべきである。それにもかかわらず,被告は,原告X1をボンネットに乗車させた状態で,127.5mも進行させた挙げ句に同人を転落させているのであるから,このように危険な運転を長く続けた点については,被告の過失割合をより一層重く評価すべき事情になるというべきである。
    なお,前記認定のとおり,原告X1は,被告車が左に曲がった時の力で右側に滑って転落しているが,被告は(前記のとおり,転落してからより強く左に曲がったとは認められないが,それでも)特段急激に左に曲がったとも認められず,本件事故に至るまで時速10kmくらいの走行で,特段危険な運転方法をしたとはいえないから,127.5mもの長きにわたって運転を継続したという点を除き,運転方法自体で過失をより重く評価すべき点があったとまではいえない。
    他方,原告X1がボンネットに乗車した行為は,そのような状態で被告が運転を開始することを容認し,挑発する行為であると認められる(前記のとおり,被告が原告X1に対して運転したくない旨述べたとか,それに対して原告X1がいいから運転しろというようなことを言ったとは認定できないが,そのような発言がなくても,原告X1がボンネットに乗車した行為自体が,その状態のまま被告が運転することを容認し,挑発する行為であると評価できる〔したがって,上記のようなやり取りの有無自体は,過失割合の評価にはそれほど大きく影響するものではないというべきである。〕。)。したがって,原告X1自体,上記のとおり結果の予見可能性が十分にある状況で,道路交通法違反に当たる行為でそのような挑発行為をしたということから,過失相殺をすべき過失があることは否定できないが,以上のとおりの被告の過失の重大性との対比からすれば,過失割合を,原告X12割,被告8割と評価するのが相当である。
 2 争点(2)(損害)について
  (1) 原告X1の損害
   ア 治療費 142万0659円
     治療費が142万0659円であることは当事者間に争いがない。
   イ 入院雑費 49万9200円
     入院雑費については,1日1300円の384日分である49万9200円の限度では被告もこれを認めているところ,症状固定時までの入院期間が384日と長期にわたることから,入院雑費分の損害としては,1日1300円とした同額を認めるのが相当である。
   ウ 付添看護料(症状固定前) 0円
     証拠(甲32,乙2,原告X2本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1が愛知医科大学病院に入院していた平成19年4月13日から同年9月20日までは,原告X1の祖母であるI(以下「I」という。)が毎日病院で付き添い,原告X2及び叔父であるE(以下「E」という。)は仕事が終わってから面会に行っていたこと,木沢記念病院中部療護センター(以下「中部療護センター」という。)に入院していた同年9月20日から平成21年9月30日までは,Iが1日おきに付き添い,原告X2及びEは仕事が終わってから毎日面会に行っていたこと,これらの付添いないし面会は,医師や看護師の指示により行われたものではないこと,中部療護センターの診断書の「入院期間中,付添が必要と思われる期間」の欄はいずれも空欄(末梢を意味すると思われる線が引かれている。)であることが認められる。
     以上によれば,原告X1の入院中は,親族による付添看護の必要性はなかったものと認められるから,入院中の付添看護費用分の損害は認められない。
   エ 交通費等 85万5057円
     交通費等が85万5057円であることは当事者間に争いがない。
   オ 休業損害 199万2576円
     証拠(甲1~3,6〔枝番のあるものは枝番を含む。〕)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,昭和62年○月○日生まれで,本件事故のあった平成19年4月13日には20歳で□□大学の3年生になったばかりの時期であったこと,遅くとも平成18年5月ころからは当時のアルバイト先である株式会社Jが経営するお好み焼き屋でアルバイトをしており(アルバイト先で知り合った女性とそのころ付き合い始めていることから。甲3の10の3頁),平成19年は,本件事故の前日である4月12日までの102日間に,52万9318円のアルバイト代を稼いでいたこと,本件事故は大学の講義が終わった後に発生しており,当日も,その後,原告X1はアルバイトに行く予定であったことが認められる。
     被告は,原告X1が大学3年生であることから,就職活動も始まり,アルバイトも自粛することになるなどとして,入院期間である384日の全日について,直前の102日のアルバイト代を基礎収入とした休業損害は認められない旨主張する。
     しかし,原告X1が,本件事故当時,まだ大学3年生になったばかりの時期であり,すぐに本格的な就職活動のためにアルバイトを自粛しなければならないような状況になるともいえないこと(入院中の症状固定時でもまだ大学4年生になって間もない時期である平成20年4月30日である。),本件事故当日もアルバイトに行く予定であったこと,本件事故当日のように大学の講義が終わってからの時間帯にアルバイトに行くということであれば,学業や就職活動とアルバイトを両立することは十分に可能であると考えられることからすれば,本件事故前日までの102日間の収入を基礎収入として384日分の休業損害を認めるのが相当である。
     したがって,1日当たりの基礎収入は52万9318円÷102日=5189円(小数点以下は原告らの請求に合わせて切り捨てることとする。以下同様)で,その384日分である199万2576円を本件事故による休業損害と認められる。
   カ 逸失利益 1億1455万8209円
     前記認定のとおり,原告X1は,本件事故当時,□□大学の3年生であったから,後遺障害逸失利益の基礎年収は,賃金センサス平成18年男子大卒全年齢平均賃金である676万7500円とするのが相当である。
     また,前記前提事実(2)イ(オ)のとおりの後遺障害の内容,等級からして,後遺障害による労働能力喪失率は100%であると認めるのが相当である。
     また,前記前提事実(2)イ(ウ)のとおり,症状固定時は平成20年4月30日であり,原告X1は,当時21歳であるから,労働能力喪失期間は,22歳から67歳までの45年間であり,対応するライプニッツ係数は,21歳から67歳までの46年に対応する17.8801から21歳から22歳までの1年に対応するライプニッツ係数0.9524を控除した16.9277とするのが相当である(以上については,原告X1の主張のとおりであり,被告も争うことを明らかにしない。)。
     被告は,原告X1の後遺障害逸失利益を算定するにつき,5割程度の生活費控除をすべきである旨主張する。しかし,原告X1は生きているのであり,毎日起床して就寝まで室内で生活していく以上,食費や服飾費,光熱費等の基本的な生活費は必要であると認められるから,生活費控除をすべきであるとの被告の主張は採用できない。
     以上によれば,原告X1の後遺障害による逸失利益は,676万7500円×100%×16.9277=1億1455万8209円である。
   キ 将来付添費(介護料) 1億5903万8917円
    (ア) 将来介護の期間
      後記クの認定のとおり,原告X1は,平成21年10月1日以降,現在の自宅で自宅療養をしている。原告X1は昭和62年○月○日生まれである(甲2の1)から,自宅療養を開始した時点での原告X1の年齢は22歳と8か月弱である。また,昭和36年○○月○日生まれ原告X2(甲2の1)は,この時点で47歳である。
      平成20年簡易生命表の男子の平均余命は22歳が57.82年,23歳が56.85年であるから,22歳8か月弱の男子の平均余命はおおむね57年であると認められる。
      被告は,原告X1の症状から,同原告が平均余命を生きる蓋然性は極めて低く,40歳までの将来介護費を認めれば足りる旨主張する。
      そして,医学博士鳥山英之の意見書(乙7。以下「鳥山意見書」という。)には,原告X1のように遷延性意識障害になると,自力では寝返りが打てないため褥瘡を作りやすく,また痰の喀出や自力での排便・排尿ができないため,肺炎,尿路感染症などの合併症を起こしやすくなる,同原告の場合気管切開されているので痰の吸引は容易であるが,気管切開から感染を起こすこともある,同原告は平成20年3月と9月の2回,抗生物質の点滴治療を要するほどの感染症を併発しているが,この時肺炎を合併した可能性が高いと思われる,臥床状態が長期間続くと次第に内臓機能や自律神経機能が低下し,免疫能も落ちてきて一層感染症に対して弱くなり,身体能力は次第に低下する,このような状況では十分な介護を受けていても健常人のような余命を期待することは難しいと考えられる旨記載されている。また,吉本智信著『寝たきり者の生存余命の推定』(乙8。以下「吉本論文」という。)を引用し,寝たきり者と一般の日本人では統計上有意な死亡率の差が存在することは明らかであり,本件にも当然当てはまると思うとする。吉本論文では,20歳代で寝たきりになった後に2年経過した患者の5年後の生存率は66.5%,10年後の生存率は26.3%,15年後の生存率は21.9%,20年後の生存率は17.4%と報告されているとした上で,このようなデータからも相当の余命短縮が避けられないと考えるとしている。
      しかし,鳥山意見書を前提にしても,同意見書も,個々のケースで余命を具体的数値で示すことは,個体差や介護環境などの違いもあり困難と言わざるを得ないとしているのであり(乙7),原告X1の場合に,平均余命を生きる蓋然性が認められないということはできないし,どの程度短くなる蓋然性が高いかも明らかではない。他方,甲第32号証によれば,原告X1の症状を前提にしても,適切な環境整備と看護体制の下では長期生存が十分に可能であると認められるのであり,原告X1の将来介護の期間を平均余命である57年間よりも短い期間と認めるべき理由はないというべきである。
      したがって,将来介護の期間は57年間(ライプニッツ係数18.7605)と認めるのが相当である。
      なお,仮に,平均余命よりも相当に短い余命となる蓋然性が高いという認定が可能な場合であっても,吉本論文(乙8)によれば,寝たきり者をベストケアした場合,寝たきり者の年間死亡率よりはるかに低い(それでも,一般の年間死亡率よりははるかに高い)ということである(同論文78~79頁)。そうであるとすれば,将来介護の期間は平均余命よりも短い期間にするとしても,その短い期間の間は,ベストケアを受けられるように,その費用分の損害は認めるべきということになると考えられる(ベストケアをしたらそれがないよりもはるかに長生きできる蓋然性が高いことが明らかであるのに,費用が高すぎるからといって,ベストケアを受ける費用分の損害賠償を認めないなどということは,そのベストケアを受けたとしても一般人ほどには長生きできそうにない被害者に対して余りにも酷な話であり,人道上許されないように思われる。)。そして,吉本論文によれば,そのベストケアには年間数千万円単位の費用を要している(数千万円ということは,少なくとも2000万円以上であるということであると考えられる。)というのであるから,症状固定時である21歳時(この場合は,退院して自宅に戻った22歳の時期からではなく,それより前の入院時から,既にベストケアが必要になっているものと考えられる。)から被告が主張する40歳までの19年間(ライプニッツ係数12.0853)を前提にしても,2000万円×12.0853=2億4170万6000円以上を要するということになる。そうであるとすれば,そこまでのベストケアをしなくても原告X1が平均余命まで生きられることを前提にしてなされている,本件における原告X1の将来付添費等将来の生存に要する費用分の損害賠償請求(原告X1の介護に関連する前記争点(2)ア(ア)のg将来付添費からo将来雑費までで,請求額総額でも2億2785万3489円であり,上記の19年間のベストケアの最低限の金額を下回る。)は,結果的にも,平均余命を短く見積もるよりも控えめな請求になっているといえる。
    (イ) 自宅介護の必要性,相当性について
      原告X1には,後記(ウ)で認定するとおりの介護が必要である。
      そして,証拠(甲21,25,26,32,証人E,原告X2本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
      原告X1が在宅で介護を受けるために必要な条件は,①本人ないし家族の希望,②人的支援の確保(家族による介護に加え,訪問ヘルパー,訪問看護師,訪問リハビリといった人的資源の確保),③物的設備確保(バリアフリー構造やリフター設備等の介護用住宅,パルスオキシメーター等の医療機器など)④医療的環境整備(訪問診療等の定期的往診,状態が悪化した場合等の緊急時に対応できる救急病院が近隣に存在すること)といったことがあり,それらを満たす場合には,⑤医学的に在宅介護が不相当でない(患者の身体状況が常時医療的監視と治療を必要とする状態とまではいえない)限り,在宅介護を認めるのが相当である。
      原告X1の場合,①家族が在宅での介護を希望し,実際に在宅で介護をしており,②人的支援に関しては,原告X2及びEが原告X1の中部療護センター入院中から看護師とともに熱心に介護にあたり,同センターでも,家族が原告X1を介護する能力と熱意があり,在宅介護が適当であると考えて在宅介護を想定した準備(介助による食事の方法,排泄のケア,褥瘡予防のための体位交換の方法,ベッドから車椅子への移乗方法,身体の清潔を保つための入浴,清拭のやり方,リハビリ・マッサージの方法などの看護師による指導,ソーシャル・ワーカーによる在宅介護の際の人的・物的資源の導入のサポート)が行われ,訪問ヘルパー,訪問看護師,訪問リハビリ等が導入され,今後さらに人的支援の導入体勢についての改良の検討も行われており,③物的設備に関しては,バリアフリーやリフター,リハビリルーム等を設置した介護用住宅を建築し,パルスオキシメーター,吸引器といった医療機器を設置しており,④医療的環境整備に関しては,中部療護センターから一社クリニックへの依頼により日常的な訪問診療を受けているほか,自宅から車で10分ほどの場所に愛知医科大学病院があり,緊急時に対応できており,必要な条件を満たしている。
      原告X1の場合,常時の医療的監視や治療までは必要なく,緊急時に対応できる病院等の環境整備がなされれば,在宅介護でも十分に対応可能である。
      在宅介護でも,十分な環境整備・管理体制がなされていれば,一般的な療養型医療施設と比べて感染症に罹患するリスクが高いとはいえない。
      以上によれば,原告X1について平成21年10月1日以降在宅介護にしているのは適切な措置であり,今後も在宅介護を認めるのが相当であると認められる。
      したがって,以下,原告X1を在宅介護することを前提に,その介護に要する費用(将来付添費)について検討する。
    (ウ) 原告X2が67歳になるまでの20年間(ライプニッツ係数は12.4622)
      原告X2が就業する平日(月曜から金曜,年間240日)の夜間は同人が介護をするが,日中は職業介護人を依頼する必要がある。
      原告X2の休業日(土曜,日曜,祝日,年間125日)のうち60日間は,原告X2が就業と介護以外に休息をとるための時間(レスパイト)のため日中の職業介護人を依頼する必要がある。
      したがって,この20年間については,1年のうち300日間については日中の職業介護と夜間の近親者介護が,残りの65日間については全日の近親者介護が行われるものとして介護料を算定するのが相当である。
      そして,証拠(甲32,乙7)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は遷延性意識障害で,意思の疎通は困難で,四肢の随意運動もほとんどない状況であり,気管カニューレが留置されて呼吸管理が行われ,胃瘻(胃に瘻孔を増設して直接胃内に栄養物を送り込む方法)から経管栄養が継続されていること,原告X1の介護には,胃瘻管理,気管カニューレの管理,痰の吸引等多くの医療行為(医師法17条)が必要であり,業としてこれを行う者には医療資格(看護師資格)が必要となること,合併症を予防し生命を維持するために頻回の体位交換,吸引措置,排尿・排泄措置などが必要であることが認められる。
      このような介護の内容に加え,証拠(甲27,44~46)及び弁論の全趣旨によれば,介護費用の単価としては,原告が主張するとおり,日中の職業介護の費用を日額2万円,夜間の近親者(主として原告X2)による介護の費用を日額5000円,全日の近親者による介護の費用を日額1万円と認めるのが相当である。
      したがって,上記20年間の介護費用は,(日額2万5000円×300日+日額1万円×65日)×12.4622=1億0156万6930円である。
    (エ) 原告X2の67歳以降の37年間
      原告X2が67歳になれば,肉体的負担の大きい原告X1の介護も不可能となるから,年間365日職業人介護の必要性が認められる。そして,その費用は,上記(ア)のとおりの介護の内容からして,日額2万5000円を認めるのが相当である(原告は,夜間は近親者が介護するものとして,職業介護料2万円と近親者介護料5000円の合計2万5000円としており,控えめな請求であると認められる。)。
      したがって,上記37年間の介護費用は,日額2万5000円×365日×(18.7605-12.4622)=5747万1987円である。
    (オ) なお,後記3で損益相殺の対象にならないと判断する給付の存在を考慮して将来介護費などの損害額そのものを低く認定することは,これらの給付を損益相殺の対象にするのと実質的に同じことであるから,そのようなことも認められない。
    (カ) したがって,介護費用は,上記(ウ),(エ)の合計である1億5903万8917円である。
   ク 住宅改造費用 1895万9680円
    (ア) 証拠(甲7,8,21,25,26,28,43,47,67,68,乙9〔枝番のあるものは枝番を含む。〕,証人F,証人G,証人E,原告X2本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
     a 原告X1は,本件事故当時,祖母(原告X2の母)であるI,叔父(原告X2の弟)であるE,原告X2,妹二人(K,L)との6人で,Eの購入した家(以下「旧E宅」という。)に暮らしていた。
     b 旧E宅は,敷地が約29.8坪で,1階に和室(6畳),LDK,浴室等,2階に洋室3部屋(6畳,7畳,7.5畳),ウォークインクローゼット(約3畳)であり,和室をI,6畳の洋室を原告X1,7畳の洋室を原告X2,K,L,7.5畳の洋室をEが使い,クォークインクローゼットをLの勉強部屋にしていた。
     c Eは,原告X1の退院後の在宅介護のために旧E宅を改造しようと考えたが,土地が狭いために増築できず,2階建てから3階建てへの改造も,基礎強度等の問題でできないことが判明した。そこで,Eらは,家族で相談し,原告X1の在宅介護のために新たに介護用住宅を造ることにした。
     d Eらはに介護型住宅の建築も行っているという住友林業や中部療養センターの担当看護師などと相談し,原告X1の介護住宅の設計を考えたが,原告X1が車椅子で移動することになるため,廊下や玄関,部屋のドア,トイレ等すべてにおいて車椅子が通れるように広くする必要があり,また,玄関までのスロープを作るために駐車場2台分のスペースを取るため,土地が50坪でも狭く,もっと広い土地が必要であることが判明した。
     e そして,Eらは,現住所地の土地(以下「本件土地」という。)を購入し,介護用住宅(以下「本件住宅」という。)を建てた。
     f 2階にリハビリ室を設けた本件住宅の建築費用は,カーポートの通常の屋根(未設置)の設置費用を含めて4725万3150円である(甲7の1~3)。また,介護用でない通常の住宅の建築費用は2542万9578円である(甲8)。
     g 本件住宅から2階のリハビリ室を除き,エレベーターをなくし,2階は原告X1が使用しないことを前提にバルコニーの手すりなどをなくすなどした住宅の建築費は,3959万2195円となる(乙9)。
     h 原告X1は,平成21年10月1日以降,本件住宅において自宅療養を行っている。
    (イ) 以上によれば,原告X1が在宅介護を受けるには,本件事故当時居住していた旧E宅を改造するのでは足りないというべきであり,新規に介護用住宅を建築することは本件事故により必要になったことであると認められる。被告は,改造で足りる旨主張するが,被告側の提出した土屋友明作成の意見書(乙9)でも,約29.8坪の敷地では収まりきらない建物になっており,旧E宅の改造で在宅介護のできる住宅にすることはできないというべきであり,被告の上記主張は採用できない。
      そして,前記認定のとおり,原告X1の在宅介護を認めるのが相当であるから,在宅介護用の住宅を取得するのに必要な費用と,在宅介護用ではない通常の住宅を取得するのに必要な費用の差額は,本件事故により原告X1に生じた損害であるというべきである。
      なお,被告は,原告X1の住民票や健康保険証記載の住所地(名東区(以下略)△△ハイム107)が旧E宅と異なることから,本件事故当時に原告X1がEと同居していたとは認められないとし,そのため,上記の費用を本件事故による損害であると認めることはできないと主張する。しかし,住民票や健康保険証上記載の住所地が実際の住所地と異なることはままあることであり,そのことをもって,原告X1が旧E宅でEらと同居していたとの証拠(甲21,証人F,証人G,証人E,原告X2本人)の信用性,特に,原告X1の家族以外の者であり,同人の大学の友人であった証人F(同証人6頁),証人G(同証人14頁)の原告X1が本件事故前から母や妹らだけではなく,叔父や祖母とも一緒に暮らしていた旨の供述(証人Gは,原告X1の家がマンションではなく一戸建てであった旨供述している。また,Eを原告X1の叔父ではなく父であると思っていた旨供述する。)の信用性が否定されるものではない。また,仮に,原告X1が本件事故当時,旧E宅に居住しておらず,上記の△△ハイム107に居住していたとしても,これも,在宅介護用の住宅ではないことは明らかであり,また,△△ハイムはアパートである(原告X2本人21頁)から,これを改造することもできず,結局,原告X1を在宅介護するために新しい家を作る費用がいることは,原告X1が旧E宅に居住していた場合と何ら変わるところはないというべきである。したがって,被告の上記主張は採用できない(なお,原告X1がEと同居しないことを前提にすると,より一層原告X2の介護の負担が重くなるから,同原告の休息を確保するために職業介護人を利用すべき日数,時間が増大し,将来介護費が増大し,かえって,損害賠償額全体が増大してしまう結果になってしまうと思われる。)。
    (ウ) 被告は,駐車スペースから玄関へのスロープを設置するのではなく,宅地の北側の空きスペースを通路として利用し,玄関を通らずに1階の寝室(後記の24.84平方メートルの寝室)に直接入るようにし,2階にリハビリ室(16.76平方メートル)を作らず,1階の和室やトイレなどの位置を変え,原告X1のリハビリ室を兼ねた24.84平方メートルの寝室を設け,これにより原告X1は2階を使用しないことを前提にホームエレベーター,2階のリハビリ室,トイレアームレスト,手洗いカウンターなどの費用は不要とし,追加工事として計上されているバルコニーの手すり,物干し,スチール電動シャッター,キッチンの家電収納,カップボード,食洗機,リビング・ダイニングのチェスター,洗面脱衣室の物干し,脱衣収納セット,洗濯機設備セット,和室の荒組障子,2階の4つの洋室・ホールのシェルフ扉・クローゼット用棚,まとめてネットマルチメディアコンセント,インターホン用配管,小屋裏収納,床暖房設備,外構の手すり,ウッドデッキ,カーポートなどは快適装備と思われ,原告X1の後遺障害とは関係ないとして,これらを除いて計算して,建築費用を3959万2195万(ママ)円と見積もった書面(乙9)を提出し,建築費用は同額である旨主張する。
      しかし,リハビリ室については,証拠(甲7の1~3,乙9,証人E)によれば,原告X1の基本的な生活の場を1階とするのみでも,車椅子で生活できるだけの居室や浴室,リビング,廊下など多大なスペースが必要になることに加え,原告X1の祖母も70歳と高齢であるため寝室を1階に確保する必要があること,リハビリ室にはプラットホームと呼ばれるリハビリ台(横1.2m,縦2m)の他,各種リハビリ機器も設置されることが予定されており,相当な広さを要すること,寝室も兼ねた24.84平方メートルの部屋(乙9)では上記のような物を設置した上で車椅子で動けるスペースを確保することはできないことが認められる。したがって,2階にリハビリ室を設けることはやむを得ないと認められる。そうすると,2階のリハビリ室が不要であることを前提に被告が不要とする2階トイレのアームレスト(3万5360円),2階トイレのその他の設備(合計10万7290円),2階リハビリ室の各設備(合計33万4980円),エレベーター(207万6250円)の合計255万3880円(①)は,必要な工事費に含まれると認められる。
      また,被告が快適設備であり,本件事故と因果関係がないとする設備については,例えば,床暖房については,原告X1は体温調節ができず,気管切開もしているため,空気をクリーンに保ちつつ部屋を暖める空調設備が必要であるし,また,現在では床暖房は一般的に見られるものであり,特に珍しいとか高価であるといったものではない。したがって,床暖房(63万円から値引き分56万円を控除した7万円〔②〕)は必要な工事費に含まれる。
      また,ウッドデッキについては,原告X1に容易に日光浴をさせ,リフレッシュさせることができる非常に有用なものである。これがなければ,日光浴させるために介護者が携帯吸引器などを用意し,外に連れ出す等の作業が必要になり,非常に労力がかかるのであり,ウッドデッキの必要性は認められるべきである。したがって,これに関連する合計40万7365円も必要な工事費に含まれると認められる。外構工事では,その他に,被告側で不要としているのは,手摺工事(合計18万8150円)のみであるところ,車椅子での自力移動ではなく介助移動のため必要なしとしたという判断理由は合理的であると認められるので,手摺工事費用18万8150円は本件事故による損害には含まれないと認められる。そうすると,ウッドデッキを含む外構工事費については,原告主張の直接工事費が242万3654円であるのに対し,認められるのは223万5504円ということになる。そうすると,諸経費については原告主張の29万円に223万5504/242万3654を乗じた26万7487円を認めるのが相当である。そうすると,外構工事については271万3654円の請求に対し,250万2991円が認められるところ,値引きについても端数調整と値引きの合計40万5654円に250万2991/271万3654を乗じた37万4162円の値引きとして,212万8829円を本件事故による損害に含まれる外構工事費と認める。したがって,被告が乙9に従って認めている外構工事費である174万0646円よりも多く認容される額は38万8183円(③)である。
      カーポート工事については,証拠(甲67,68,証人E)及び弁論の全趣旨によれば,本件住宅の駐車スペースには現在屋根が付いていないが,駐車スペースのみに屋根を付けるのに53万9000円,駐車スペースから玄関に通じる車椅子のためのスロープ部分にも屋根を付けるためには178万5000円の費用を要すること,屋根がなければ降雨の際に原告X1を濡らさないためには車椅子を押す人と傘を差し掛けてやる人の二人が必要となってしまうこと,原告X1の状態からして,雨に濡れるようなことは極力避けるべきであることが認められる。したがって,駐車スペースに屋根を設置することが必要であることはもちろん,そこから玄関までのスロープ部分にも屋根を設置する必要性があると認められる。したがって,駐車スペース部分の屋根の設置費用である53万9000円は明らかに本件事故による損害であると認められるのはもちろん,玄関までの部分の屋根を設置するための総額178万5000円(④)も本件事故による損害であると認められる(原告は,この項目について53万9000円しか請求していないが,実際には178万5000円を要することを考慮して住宅改造費用につき原告の請求額全額を認容すべきである旨主張するが,これは,他の費用につき原告主張よりも低額の認容になった場合には,改造費用の総額が2182万3572円に達するまでの限度で,本項目について178万5000円を限度に53万9000円を超える額の認容をすべきであるという趣旨であると解される。)。
      その他の収納用設備などについては,原告も,原告X1の介護と直接的な関係は少ないとしていること,介護用のスペースを広くとる必要性などから必要となってくるものであるという根拠が不明確であることから,その必要性を認めることはできない。
      そうすると,被告の主張する介護用住宅の建築費である3959万2195万(ママ)円よりも,上記の①ないし④の合計479万7063円高額である4438万9258円を,介護用住宅を建築するのに必要な費用であると認めるのが相当である。
      そして,前記認定のとおり,介護用でない通常の住宅の建築費用が2542万9578円であるから,本件事故によりその差額である1(ママ)1895万9680円の住宅建築費用分の損害が発生したと認められる。
   ケ 車両改造費 286万2212円
     証拠(甲9の1~3,証人E)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1の在宅介護生活における外出移動には車両の改造(車椅子ごと乗車可能な改造)が必要であること,改造車両の費用が516万4144円,通常車両の費用が439万6589円でありその差額は76万7555円であることが認められる。
     初回購入の1台分に加え,将来にわたり耐用年数6年ごとに買い替える必要があり,自宅介護の開始時からの平均余命である57年後までに買い替える回数は9回となる。
     その合計費用は,76万7555円×(1+0.7462+0.5568+0.4155+0.3100+0.2313+0.1726+0.1288+0.0961+0.0717)=76万7555円×3.729=286万2212円である。
     被告は,原告X1が外出する機会は少ないなどとして,6年ごとに買い替える必要性はないと主張する。しかし,証人Eの供述によれば,Eは原告X1をできるだけ毎週外出させようと考え,そのように努めていることが認められるから原告X1の外出の機会が少ないとは認められない。また,仮に,原告X1の外出の機会が少なくなったとしても,上記改造車は,他の家族が日常的に使用する車両と兼用であるから,6年ごとに買い替える必要性が認められる(原告X1のためだけの改造車を購入すれば,1台で516万4144円を要するから,それだけで,家族との兼用を前提にして6年ごとの買替えとした場合の286万2212円を超えてしまう。)。したがって,被告の上記主張は採用できない。
   コ 介護ベッド費用 375万1673円
     証拠(甲11,証人E)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1の在宅介護生活のためには介護用ベッドが必要であること,関連器具を含めた1台分の費用は合計126万8400円となること,在宅介護開始時の1台に加え,その後はその耐用年数の8年ごとに買い替える必要があり,平均余命の57年間に買い替える回数は7回となることが認められる。
     以上によれば,介護ベッド費用分の損害は,126万8400円×(1+0.6768+0.4581+0.3100+0.2098+0.1420+0.0961+0.0650)=126万8400円×2.9578=375万1673円であると認められる。
   サ 介護リフト費用 372万9046円
     証拠(甲12,13,証人E)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1の在宅介護生活のためにはベッドリフト,浴室リフトが必要であること,関連器具を含めた各1台の費用は合計126万0750円となること,在宅介護開始時の各1台に加え,その後はその耐用年数の8年ごとに買い替える必要があり,平均余命の57年間に買い替える回数は7回となることが認められる。
     以上によれば,介護リフト費用分の損害は,126万0750円×(1+0.6768+0.4581+0.3100+0.2098+0.1420+0.0961+0.0650)=126万0750円×2.9578=372万9046円である。
   シ シャワーキャリー費用 329万8070円
     証拠(甲14,証人E)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1の在宅介護生活のためにはバスキャリー(入浴用の車椅子)が必要であること,1台分の費用は47万8800円となること,在宅介護開始時の1台に加え,その後はその耐用年数の3年ごとに買い替える必要があり,平均余命の57年間に買い替える回数は18回となる。
     以上によれば,シャワーキャリー費用分の損害は,47万8800円×(1+0.8638+0.7462+0.6446+0.5568+0.4810+0.4155+0.3589+0.3100+0.2678+0.2313+0.1998+0.1726+0.1491+0.1288+0.1112+0.0961+0.0830+0.0717)=47万8800円×6.8882=329万8070円である。
   ス 車椅子費用 407万4336円
     証拠(甲15,証人E)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1の在宅介護生活のためには室内用と外出用の2台の車椅子が必要であること,1台分の費用は周辺器具を含めると46万5990円となること,在宅介護開始時の各1台(計2台)に加え,その後はその耐用年数の5年ごとに買い替える必要があり,平均余命の57年間に買い替える回数は11回となることが認められる。
     以上によれば,車椅子費用分の損害は,46万5990円×2×(1+0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112+0.0872+0.0683)=93万1980円×4.3717=407万4336円である。
   セ 医療機器費用 436万8757円
     証拠(甲16~19,証に(ママ)E)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1の在宅介護生活のためには医療器具が必要であること,その合計額は少なくとも99万9327円であること,在宅介護開始時の各1台に加え,その後はその耐用年数の5年ごとに買い替える必要があり,平均余命の57年間に買い替える回数は11回となることが認められる。
     以上によれば,医療機器費用分の損害は,99万9327円×(1+0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112+0.0872+0.0683)=99万9327円×4.3717=436万8757円である。
   ソ 将来雑費 2258万3400円
     証拠(甲20,証人E)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1の在宅介護生活のためにはオムツ等の諸雑費が必要であること,その費用は月額にして23万7975円であることが認められる。在宅介護開始時における平均余命は57年であるが,上記の諸雑費の月額からすれば,月額10万円を前提に58年間の額として原告が算定した10万円×12月×18.8195=2258万3400円の将来雑費分の損害を優に認定することができる。
   タ 慰謝料 3130万円
    (ア) 傷害慰謝料 330万円
      原告X1の本件事故による受傷の程度の重篤さ,症状固定時までの入院期間などからすれば,傷害慰謝料として330万円を認めるのが相当である。
    (イ) 後遺障害慰謝料 2800万円
      原告X1の後遺障害の内容からすれば,後遺障害慰謝料として2800万円を認めるのが相当である。
   チ 損害額合計 3億7329万1792円
   ツ 後記3のとおり既受領の障害基礎年金148万5145円は過失相殺前に損益相殺することになるから,これを上記チから控除して,残額は3億7180万6647円である。
   テ 2割の過失相殺をして2億9744万5317円となる。
   ト 損害の填補 4227万5716円
     自賠責保険及び任意保険による損害の填補が4227万5716円(自賠責保険4000万円,任意保険227万5716円)であることは当事者間に争いがない。
   ナ テからトを控除した填補後の残額は2億5516万9601円である。
   ニ 上記の認容額や本件訴訟の経緯等から被告が賠償すべき弁護士費用分の損害は1350万円と認めるのが相当である。
   ヌ 弁護士費用加算後の総計は2億6866万9601円である。
   ニ(ママ) 確定遅延損害金 291万5068円
     原告X1は,平成20年9月25日,自賠責保険金(後遺障害分)4000万円を受領したこと,これは本件事故による損害の填補にあたり,上記金員に対する本件事故発生日から上記支払日までの民法所定の年5分の割合による確定遅延損害金についても原告X1は被告に対する請求権を有していること,本件事故日から上記本件金の支払日までの日数は532日であるから,これに対する確定遅延損害金は4000万円×532/365×5%=291万5068円であることは当事者間に争いがない。
   ヌ(ママ) 原告X2の損害 440万円
     原告X2は原告X1の母であるところ,原告X1の後遺障害の重篤さ,原告X2が今後長きにわたり原告X1の介護をしていかなければならないことなどからすれば,原告X2に近親者慰謝料として500万円を認めるのが相当であり,2割の過失相殺をして400万円を賠償額とする。そして,この認容額や本件訴訟の経緯等からすれば,弁護士費用分の損害として40万円を認めるのが相当である。
 3 争点(3)(公的扶助等の控除)について
   被告主張の公的扶助等については,損益相殺の対象になるのは,既受領分の障害基礎年金148万5145円(この額は当事者間に争いがない。)だけであり,その余の公的扶助及び将来分の障害基礎年金は損益相殺の対象とならないものと解するのが相当である。
   すなわち,独立行政法人自動車事故対策機構の介護料は,交通事故被害者に対する支援という社会福祉的な施策の一環として捉えられるべきものであり,損害の填補としての性質を有しないというべきであり,損害からの控除をすることは認められない。その他の市区町村から支給される各種手当ても,社会福祉事業の一環として給付されるものであって,損害の填補としての性質を有しないから,損害から控除することは認められない。
   また,障害基礎年金については,制度や支給基準の存続が確実とはいえないから,控除の対象になるのは既受領分のみであり,将来分についてはこれを認めることはできない。
   したがって,損益相殺の対象になるのは既受領の障害基礎年金148万5145円のみであり,これは,過失相殺前の損害額から控除するのが相当である。
 4 以上によれば,原告X1の請求は2億7158万4669円(元金2億6866万9601円,確定遅延損害金291万5068円)及びうち2億6866万9601円に対する平成19年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却し,原告X2の請求は440万円及びこれに対する平成19年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度では理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却し,主文のとおり判決する。
    名古屋地方裁判所民事第3部
           裁判官  寺西和史

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