千葉地方裁判所佐倉支部判決 平成18年9月27日

       主   文

 一 被告は、原告甲野一郎に対し、二億九六五八万二八五三円及びうち二億九四四八万二八五三円に対する平成一三年一〇月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 二 被告は、原告甲野太郎に対し、三三〇万円及びこれに対する平成一三年一〇月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 三 被告は、原告甲野花子に対し、三三〇万円及びこれに対する平成一三年一〇月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 四 原告甲野一郎、原告甲野太郎及び原告甲野花子のその余の請求並びに原告甲野竹子の請求を棄却する。
 五 訴訟費用はこれを四分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。
 六 この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

       事実及び理由

第一 請求
 一 被告は、原告甲野一郎に対し、三億九三三二万三九六四円及びこれに対する平成一三年一〇月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 二 被告は、原告甲野一郎に対し、三〇〇〇万円に対する平成一三年一〇月四日から平成一五年二月二六日まで年五分の割合による金員を支払え。
 三 被告は、原告甲野太郎に対し、五五〇万円及びこれに対する平成一三年一〇月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 四 被告は、原告甲野花子に対し、五五〇万円及びこれに対する平成一三年一〇月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 五 被告は、原告甲野竹子に対し、五五〇万円及びこれに対する平成一三年一〇月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、被告の起こした交通事故によって遷延性意識障害等の傷害を負った被害者及びその近親者である原告らが、加害者である被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償を求める事案である。
 一 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)
 (1) 当事者
 ア 原告甲野一郎(以下「原告一郎」という。)は、昭和三九年一月一二日生まれの男性である。
 イ 原告甲野太郎(以下「原告太郎」という。)は、原告一郎の父である。
 ウ 原告甲野花子(以下「原告花子」という。)は、原告一郎の母であり、平成一四年六月一二日に同原告の成年後見人に選任された者である。
 エ 原告甲野竹子(以下「原告竹子」という。)は、原告一郎の子である。(以上につき甲二、甲三)
 (2) 交通事故の発生(以下「本件事故」という。)
 ア 日時 平成一三年一〇月四日午前三時一〇分ころ
 イ 場所 千葉県成田市飯田町一二八番地二三先路上(以下「本件事故現場」という。)
 ウ 加害車両 普通乗用自動車
   運転者 被告
 エ 被害者 原告一郎
 オ 本件事故現場 片側一車線の道路であり、その車道幅員は二・九メートルないし三・四メートル、路側帯部分は〇・七メートルであり、歩車道の区別はない。追越しのためのはみ出し走行禁止規制がなされ、制限速度は時速四〇キロメートルとされている。周囲には飲食店等が並んでいる。
 カ 事故態様 被告は、呼気一リットルあたり〇・三ミリグラム以上のアルコールを体内に保有した状態で、加害車両を運転し、本件事故現場の追越しのためのはみ出し走行禁止規制がされている片側一車線の道路を直進進行している際、自車線前方に路上駐車車両があったことから、これを追い越そうとし、漫然時速四〇キロメートルを超える速度で駐車車両の右側からセンターラインを超えて対向車線に進出し、同所にいた酔客と駐車車両の間を通過した後、自車線に戻ろうと加速走行した際、進路前方の状況を十分に確認しないまま、折から対向車線上で知人の車両を誘導するため佇立していた原告一郎に、加害車両をノーブレーキで衝突させた。
 (3) 原告一郎の受傷及び治療状況等
 ア 傷害
 原告一郎は、本件事故により、脳挫傷・外傷性歯牙脱臼の傷害を負った。
 イ 入院状況
  (ア) 成田赤十字病院
 平成一三年一〇月四日から平成一四年三月八日まで入院
  (イ) 九十九里病院
 平成一四年三月八日から同年七月二九日まで入院
  (ウ) 症状固定までの通算入院期間
 二九九日
 ウ 後遺症
 原告一郎は、平成一四年七月二九日に症状が固定し(当時三八歳)、四肢麻痺・四肢関節拘縮・遷延性意識障害などの後遺障害が残り、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」として後遺障害等級一級三号に該当するとの認定を受けた。
 エ 既払金
  (ア) 自賠責保険からの既払金
 原告一郎には、平成一五年二月二六日に自賠責保険から三〇〇〇万円が支払われた。
  (イ) 被告からの既払金
 原告一郎には、被告から、合計三二四万円が支払われた。
  (ウ) あいおい損害保険株式会社からの既払金
 原告らには、被告が保険契約を締結していたあいおい損害保険株式会社から、合計一二〇万円が支払われた。
 また、同会社は、各医療機関に対して、本件事故の治療費等として、合計一五七〇万六六八六円を支払った。
  (エ) 既払金合計
         五〇一四万六六八六円
 二 争点及び当事者の主張
 (1) 争点
 ア 過失相殺の可否及びその割合
 イ 損害額
 (2) 当事者の主張
 ア 原告らの主張
  (ア) 過失相殺の可否及びその割合について
 本件事故は、車道幅員二・九メートルないし三・四メートルの歩車道の区別のない道路の側端以外の地点を歩行していた原告一郎と被告運転に係る車両との衝突事故であるから、原告一郎の過失は基本的に一割を超えることはなく、しかも、本件事故現場は夜間でも店舗の明かりや街灯により明るかったこと、周囲が住宅・商店街であり、本件事故当時もスナックから出てきた酔客がいたこと、被告には酒気を帯びた上センターラインを越えて制限速度を上回る速度で走行した重過失があることを考慮すれば、原告一郎に相殺されるべき過失は存在しない。
  (イ) 損害額について
  a 原告一郎の損害額
  (a) 治療費  一五九九万四八六六円
  (b) 入院雑費   四四万八五〇〇円
 一日一五〇〇円×入院日数二九九日=四四万八五〇〇円
  (c) 入院付添費 二九九万〇〇〇〇円
 原告一郎の症状は重篤であり、日常生活動作全般の補助、四肢のリハビリの補佐、病態変化時の医師等への連絡などのために、完全看護であっても症状固定までの全日について近親者による付添いを要した。その日額としては一万円が相当である。
 一日一万円×入院日数二九九日=二九九万円
  (d) 症状固定後の治療関係費
          八三一万三六七三円
 原告一郎は、症状固定後、遷延性意識障害の治療に定評のある藤田保健衛生大学病院において脊髄後索刺激装置埋込術を受けたところ、その治療関係に要した費用は、本件事故と相当因果関係のある損害である。なお、医療資格を有する医療機関による治療であるので、その客観的有効性は推定されている。
  (1) 治療費   四七八万〇七一〇円
  (2) 搬送料    七六万五〇〇〇円
  (3) 医療用具代 一五三万〇〇六五円
  (4) 付添アパート代及び引越関係費
           二九万九三九八円
  (5) 付添交通費  九三万八五〇〇円
  (e) 休業損害  四八九万九一七六円
 原告一郎は、本件事故当時、郵便局に勤務を始めてから間がなく、当時の給料は試用期間のために低額ではあったが、シフト勤務や残業等により給料の上昇が見込めたことなどからして、基礎収入として平成一三年賃金センサス男子労働者学歴計年齢別平均賃金を用いるのが相当である。
 五九八万〇六〇〇円÷三六五日×二九九日=四八九万九一七六円
  (f) 傷害慰謝料
          四〇〇万〇〇〇〇円
 原告一郎の治療経過及び症状等に鑑み、傷害慰謝料額を四〇〇万円とするのが相当である。
  (g) 逸失利益 九〇五五万二二六四円
 原告一郎の労働能力喪失率は一〇〇%、喪失期間は二九年間(対応するライプニッツ係数一五・一四一〇)である。
 また、基礎収入については、原告一郎は、本件事故当時、郵便局に勤務を始めてから間がなく、当時の給料は試用期間のために低額ではあったが、その後昇給していくことが予想できること、原告一郎が若年労働者であること、平成五年ないし平成七年の勤務先においては賃金センサス平均賃金に遜色ない収入を得ていたことなどに照らせば、平均賃金程度の収入が得られた蓋然性が高いから、平成一三年賃金センサス男子労働者学歴計年齢別平均賃金を用いるのが相当である。
 五九八万〇六〇〇円×一五・一四一〇×一=九〇五五万二二六四円
  (h) 後遺障害慰謝料
         三五〇〇万〇〇〇〇円
 原告一郎の負った後遺症の重篤さ、本件事故の態様及びその後の被告の対応などを考慮すれば、後遺障害慰謝料額を三五〇〇万円とするのが相当である。
  (i) 将来の付添介護料
       一億八八三三万八二五五円
 原告一郎は、本件事故前は自宅で家族と生活していたのであるから、原状回復の理念からすれば自宅介護により生活することが認められるべきであり、自宅介護によっても十分にケアを受けることが可能であり、生命に危険はないので、自宅介護を前提として損害額を算定するのが相当である。
 また、被告が主張する医療機関での介護が将来も可能であることを認めるに足りる証拠はない。
 さらに、重度の後遺症があっても、十分な介護の下に平均余命まで生存する蓋然性があるから、原告一郎の余命を限定して考えるのは不相当である。
  (1) 原告花子(症状固定時六一歳)が六七歳になるまで
 家族介護によることとし、六年間(対応するライプニッツ係数五・〇七五六)、二四時間介護が必要であるので、その介護料日額は一万円を下らない。
 一万円×三六五日×五・〇七五六=一八五二万五九四〇円
  (2) 原告花子が六七歳になって以降原告一郎の余命期間まで
 職業介護によることとし、余命期間の四一年間(対応するライプニッツ係数一七・二九四三)から上記六年間を控除した期間、二四時間介護が必要であるので、その介護料日額は三万八〇七六円を下らない。なお、原告一郎の妹である甲野一江が介護を行うとしても、同人自身の仕事や結婚などの生活もあるので、同人が原告一郎の介護のみに従事することを前提として損害の算定を行うのは不合理である。
 三万八〇七六円×三六五日×(一七・二九四三-五・〇七五六)=一億六九八一万二三一五円
  (j) 将来雑費 二二一二万一七二七円
 原告一郎のリハビリや介護等に要する雑費は、年額一二七万九一三四円を下らず、これが余命期間の四一年間(対応するライプニッツ係数一七・二九四三)にわたり支出されることになる。
 一二七万九一三四円×一七・二九四三=二二一二万一七二七円
  (k) 家屋改造費用
         二六三六万七〇〇〇円
 原告一郎を介護するためには、同原告の居住する家屋の改造が必要となり、その費用は二六三六万七〇〇〇円を下らない。
  (1) 車両改造費 四二一万二三一三円
 原告一郎の介護・通院のためには、車両の改造が必要であり、一回の改造に要する費用は一七三万一七五二円を下らず、車両の法定耐用年数は六年であるので、余命期間の四一年後まで六年ごとにこれが必要となる。
 一七三万一七五二円×(〇・七四六二+〇・五五六八+〇・四一五五+〇・三一〇〇+〇・二三一三+〇・一七二六)=四二一万二三一三円
  (m) 介護用品代 四五三万二八七六円
  (1) 介護ベッド代 八〇万四三八二円
 原告一郎には介護用のベッド及びその付属品が必要であり、その価格は四四万七〇〇〇円を下らず、その耐用年数は八年程度であるから、余命期間の四一年後まで八年ごとにこれが必要となる。
 四四万七七〇〇円×(〇・六七六八+〇・四五八一+〇・三一〇〇+〇・二〇九八+〇・一四二〇)=八〇万四三八二円
  (2) 車椅子代  一二一万〇九五〇円
 原告一郎を移動させるためには車椅子が必要であり、その価格は三九万円であり、その耐用年数は五年であるから、余命期間の四一年後まで五年ごとにこれが必要となる。
 三九万円×(〇・七八三五+〇・六一三九+〇・四八一〇+〇・三七六八+〇・二九五三+〇・二三一三+〇・一八一二+〇・一四二〇)=一二一万〇九五〇円
  (3) 入浴担架代  九六万三四六八円
 原告一郎の介護のためには入浴担架及びその付属品が必要であり、その価格は一七万八五〇六円であり、その耐用年数は三年であるから、余命期間の四一年後まで三年ごとにこれが必要となる。
 一七万八五〇六円×(〇・八六三八+〇・七四六二+〇・六四四六+〇・五五六八+〇・四八一〇+〇・四一五五+〇・三五八九+〇・三一〇〇+〇・二六七八+〇・二三一三+〇・一九九八+〇・一七二六+〇・一四九一)=九六万三四六八円
  (4) 空気清浄機代 二八万七八九七円
 原告一郎の介護のためには感染防止のために空気清浄機が必要であり、その価格は五万三三四〇円であり、その耐用年数は三年であるから、余命期間の四一年後まで三年ごとにこれが必要となる。
 五万三三四〇円×(〇・八六三八+〇・七四六二+〇・六四四六+〇・五五六八+〇・四八一〇+〇・四一五五+〇・三五八九+〇・三一〇〇+〇・二六七八+〇・二三一三+〇・一九九八+〇・一七二六+〇・一四九一)=二八万七八九七円
  (5) 痰吸引機代 一一二万二一一九円
 原告一郎の介護のためには痰吸引機及びネブライザーが必要であり、その価格は二〇万七九〇〇円であり、その耐用年数は三年であるから、余命期間の四一年後まで三年ごとにこれが必要となる。
 二〇万七九〇〇円×(〇・八六三八+〇・七四六二+〇・六四四六+〇・五五六八+〇・四八一〇+〇・四一五五+〇・三五八九+〇・三一〇〇+〇・二六七八+〇・二三一三+〇・一九九八+〇・一七二六+〇・一四九一)=一一二万二一一九円
  (6) イルリガートル、マイコステンレスガートル、台トレー代 四万一一六〇円
 原告一郎の介護のためには上記の物品が必要であり、その価格は四万一一六〇円であり、耐用年数が不明のため、一台相当額を請求する。
  (7) パルスオキシメーター代
           一〇万二九〇〇円
 原告一郎の介護のためには脈拍を測る装置である上記物品が必要であり、その価格は一〇万二九〇〇円であり、耐用年数が不明のため、一台相当額を請求する。
  (n) 小計 四億〇七七七万〇六五〇円
  (o) 損害のてん補
 原告一郎には、合計五〇一四万六六八六円が支払われているので、これを控除すると、その残額は、三億五七六二万三九六四円となる。
  (p) 弁護士費用
         三五七〇万〇〇〇〇円
  (q) 原告一郎の損害額合計
       三億九三三二万三九六四円
  (r) 既払金三〇〇〇万円に対する遅延損害金
 原告一郎には、平成一五年二月二六日に自賠責保険から三〇〇〇万円が支払われているが、本件事故日から上記支払日までの遅延損害金も、同原告の損害である。
  b 近親者原告らの損害額
  (a) 固有の慰謝料
         各五〇〇万〇〇〇〇円
 原告太郎及び原告花子は、最愛の子である原告一郎に四肢麻痺・四肢関節拘縮・遷延性意識障害という重篤な後遺症が残り、今後原告一郎の介護にも当たらなければならず、同原告の死亡にも比肩すべき精神的苦痛を被った。
 原告竹子は、父である原告一郎に上記のような重篤な後遺症が残り、同原告の死亡にも比肩すべき精神的苦痛を受けた。
 これらの原告らには固有の慰謝料が認められるべきであり、その金額は各自五〇〇万円を下らない。
  (b) 弁護士費用 各五〇万〇〇〇〇円
  (c) 近親者原告らの損害額合計
         各五五〇万〇〇〇〇円
  (ウ) 請求のまとめ
  a 原告一郎は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、三億九三三二万三九六四円及びこれに対する不法行為の日である平成一三年一〇月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに自賠責保険から既払いの三〇〇〇万円に対する不法行為の日である平成一三年一〇月四日から支払日である平成一五年二月二六日まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。
  b 原告太郎、原告花子及び原告竹子は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、それぞれ五五〇万円及びこれに対する不法行為の日である平成一三年一〇月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。
 イ 被告の主張
  (ア) 過失相殺の可否及びその割合について
 原告一郎は、深夜に、人の横断・通行が激しくもなく頻繁に予想される場所ではない本件事故現場で、飲酒の上車道の中央付近に理由なく佇立していた過失があるから、過失相殺されるべきであり、被告が駐車車両を避けるべくセンターラインを越えたことは重過失と評価されるべきではないから、同原告の過失割合は二割を下らない
  (イ) 損害額について
  a 原告一郎の損害額について
  (a) 治療費
 被告が保険契約を締結していたあいおい損害保険株式会社が支払った一五七〇万六六八六円については認め、その余は不知。
  (b) 入院雑費
 認める。
  (c) 入院付添費
 完全看護の病院においては付添看護の必要性はないため、争う。
  (d) 症状固定後の治療関係費
 症状固定後の治療費は、本件事故と相当因果関係がある損害ではない。また、藤田保健衛生大学病院において行われた脊髄への電極埋込手術については、健康保険の適用もなく、医学的に症状改善の効果があると証明されていないものであるから、この観点からも本件事故との相当因果関係がある損害とはいえない。
  (e) 休業損害
 賃金センサスを用いるのは相当でなく、原告一郎の本件事故前の現実収入(時給七九〇円)を基礎として、以下のとおり算出すべきであるので、争う。
 七九〇円×一四時間×二二日×一二月×二九九日÷三六五日=二三九万一八六九円
  (f) 傷害慰謝料
 三〇六万円の範囲で認め、その余の額は争う。
  (g) 逸失利益
 労働能力喪失率及び喪失期間は認めるが、基礎収入については、原告一郎は症状固定時三八歳であって若年労働者ではなく、平成八年から平成一三年九月一六日までの同原告の就労状況に関する主張立証もなく、賃金センサスの平均賃金を得られる蓋然性があったとはいえないから、本件事故前の現実収入を基礎とすべきである。
 仮に賃金センサスを用いるとしても、平成七年当時の原告一郎の年収は平成七年賃金センサス男子労働者学歴計年齢別平均賃金の約六八%であり、平成一三年九月一六日までの就労状況が不明であること及び本件事故直前には時給七九〇円の職に就いていたことからすれば、賃金センサスの六割をもって以下のとおり算出するのが相当である。
 五九八万〇六〇〇円×〇・六×一五・一四一〇×一=五四三三万一三五九円
  (h) 後遺障害慰謝料
 二八〇〇万円が相当であり、その余の額を争う。
  (i) 将来の付添介護料
 争う。
 原告一郎の重篤な病態に照らせば、病院等の施設等で生活したとしても、その余命は症状固定日から約一〇年間と推定するのが相当である。
 また、自宅介護によれば原告一郎に生命の危険がある上、長期入院可能な病院も存在し、原告らも千葉療護センターへの入院を申し込むなどしているのであり、病院等の施設で生活した場合には日額八〇〇〇円ないし一万円の負担で済むのであるから、損害の公平な分担の趣旨からも、病院等の施設での生活を前提として損害を算定すべきである。
 仮に自宅介護によるとしても、原告一郎の介護は同原告の妹である甲野一江が中心となって行うとされているのであるから、同人が六七歳になるまでの期間は家族介護、それ以外を職業介護によるものとして算定されるべきである。
  (j) 将来雑費
 争う。
  (k) 家屋改造費用
 争う。
 自宅介護によることができない以上、その必要性はない。
 仮に改造するとしても、一室集中介護システム方式によるべきであり、その場合の改造費用は一三四六万四〇〇〇円にとどまる。原告ら主張の方式によった場合でも、原告ら主張の費用については、廃棄処分費及び解体工事費の単価等修正・家族の便益を根拠とする減額・新旧交換差益控除が必要であるから、その費用は一六五四万六六〇〇円とみるのが相当である。
  (l) 車両改造費
 争う。自宅介護によることができない以上、その必要性はない。
  (m) 介護用品代
 すべて争う。自宅介護によることができない以上、その必要性はない。
  (n) 小計
 争う。
  (o) 既払金の控除残額
 既払金額は認める。
  (p) 弁護士費用
 必要性を争う。
  (q) 原告一郎の損害額合計
 争う。
  (r) 既払金三〇〇〇万円に対する遅延損害金
 争う。
  b 近親者原告らの損害額
  (a) 固有の慰謝料
 争う。
  (b) 弁護士費用
 必要性を争う。
  (c) 近親者原告らの損害額合計
 争う。
第三 当裁判所の判断
 一 過失相殺の可否及びその割合について
 本件事故現場の状況及び本件事故の態様については、前記第二の一(2)オカの事実のとおりであるところ、夜間に車道上で知人の車両を誘導するために佇立していた点で原告一郎に落ち度がないとはいえないが、本件事故現場は、歩車道の区別のない道路で、周辺に飲食店が並び、実際にも酔客がいるなど、人の横断・通行が予想される場所であり、しかも、被告は、酒気を帯びた状態で加害車両を走行させ、路上駐車車両を避けるためとはいえ、センターラインを越えて対向車線に進出したにもかかわらず、前方注視を怠り、対向車線上にいた原告一郎に加害車両をノーブレーキで衝突させて本件事故を惹起したのであって、著しい過失があったといえるから、これらを総合勘案すれば、原告一郎に相殺されるべき過失はないとするのが相当である。
 二 損害額について
 (1) 原告一郎の損害額
 ア 原告一郎の治療経過及び現在の症状等について
 《証拠略》によれば、前記前提事実に加え、次の各事実が認められる。
  (ア) 平成一三年一〇月四日から平成一四年三月八日までの成田赤十字病院における治療経過
 原告一郎は、本件事故当日の平成一三年一〇月四日、直ちに救急車で成田赤十字病院に搬送されたが、意識レベルは深昏睡状態にあり、脳挫傷・外傷性くも膜下出血等と診断され、生命も危ぶまれる状態であり、集中治療室での治療が開始され、人工呼吸器を装着され、脳圧降下療法が施行された。同月九日には気管切開術が施行され、同月一四日には一般病棟に移り、その後、経管栄養が開始され、痛みに対してわずかに反応を見せるようになり、人工呼吸器も取り外されたが、意識障害・四肢麻痺が継続し、寝たきりで、全介助を要する状態にあり、一時的な発熱等の症状もみられ、平成一四年三月八日、成田赤十字病院からの転院の促しにより、九十九里病院に転院した。
 その間、基本的な介護は同病院の看護師らによって行われたが、原告一郎の家族も毎日同原告に付き添い、医師の指示により、毎日約一二時間にわたり、同原告に声をかけ、リハビリの補助をし、痰吸引や衣服の交換を看護師に求め、人工呼吸器のエラーを看護師に告げるなどの介護の補助を行った。
  (イ) 平成一四年三月八日から平成一五年一月二〇日までの九十九里病院における治療経過
 原告一郎は、転院時、脳挫傷等により植物状態にあると診断され、その後も、全介助・気管切開・経管栄養が続けられ、発熱・けいれん発作・褥創・肺炎などの症状もみられ、平成一五年一月二〇日、脊髄後索刺激装置埋込術の施行を目的として、藤田保健衛生大学病院に転院した。
 その間、基本的な介護は同病院の看護師らによって行われたが、原告一郎の家族もほぼ毎日同原告に付き添い、医師の指示はなかったが、約三、四時間にわたり、同原告に声をかけ、リハビリの補助をし、痰吸引や衣服の交換を看護師に求めるなどの介護の補助を行った。
  (ウ) 平成一五年一月二〇日から同年四月一八日までの藤田保健衛生大学病院における治療
 原告一郎は、転院時、遷延性意識障害と診断され、平成一五年一月二八日、脊髄後索刺激装置埋込術を施行され、四肢過緊張にやや改善がみられ、注視・追視が出現したが、全介助・気管切開・経管栄養の状態は続き、一時的な発熱もみられ、同年四月一八日、術後の状態が安定したため近医でのリハビリ治療を目的として、栗源病院に転院した。
 その間、基本的な介護は同病院の看護師らによって行われたが、原告一郎の家族も、主として父である原告太郎と妹である甲野一江において、同病院の近くにアパートを借り、医師の指示により、原告一郎に声をかけ、リハビリの補助をし、痰吸引を看護師に求め、おむつ交換や入浴などの際に看護師を手伝い、歯磨きをするなどの介護の補助を行った。
  (エ) 平成一五年四月一八日から同年七月一五日までの栗源病院における治療経過
 原告一郎は、転院時、脳挫傷・遷延性意識障害と診断され、全介助・気管切開・経管栄養の状態が続き、時折の発熱や褥創等の出現もみられ、平成一五年七月一五日、同病院から退院を促されたことなどにより、成田病院に転院した。
 その間、基本的な介護は同病院の看護師らによって行われたが、原告一郎の家族も毎日同原告に付き添い、リハビリの補助をするなどの介護の補助を行った。
  (オ) 平成一五年七月一五日以後の成田病院における治療経過
 原告一郎は、転院時、脳挫傷による意識障害と診断され、以後、本件口頭弁論終結時まで、同病院に入院し、治療を受けている。同病院においては、同年八月二二日には胃ろう造設術を施行され、以後胃ろうからの栄養補給を受けるとともに、全介助・気管切開の状態が継続している。時折の発熱もみられるが、肺炎や呼吸器感染症はほとんど発生していない。
 基本的な介護は同病院の看護師らによって行われているが、原告一郎の家族も毎日同原告に付き添い、同原告の歯磨き・洗顔・ひげそり・衣服の交換をし、リハビリの補助をし、痰吸引やおむつ等の交換を看護師に求めるなどの介護の補助を行っている。
 同病院の一般病棟入院時には、病院から転院の促しがあったが、両用病棟に移った後は、そのようなことはない。
  (カ) 原告一郎の介護状況
 胃ろうからの栄養補給の際には、流動食の逆流を防止するために付添いが必要であり、排泄は、おむつを使用しているため、一日数回の交換が必要である。褥創防止のために頻繁な体位交換が必要であり、痰の吸引やネブライザーによる吸入も必要である。気管切開の状態にあるため、カニューレ等の洗浄・消毒・交換も必要である。体温調節ができないため、介護者において暖めたり冷やしたりするなどの調節が必要である。そのほか、入浴・身体の清拭・衣服の交換・歯磨き・洗顔・ひげそり・車椅子への移乗等などの日常生活上の動作すべてに全介助を要し、マッサージ等のリハビリ等により四肢の拘縮を防止することも必要である。
 イ 前記前提事実及び前記認定事実を基に、以下、損害額について検討する。
  (ア) 治療費  一五七〇万六六八六円
 原告一郎が一五七〇万六六八六円の治療費を要したことは当事者間に争いがないところ、原告らがその請求する治療費の根拠として提出するレセプト(甲五ないし一一の各一・二)記載の治療費を合算しても、上記額を超えるとは認められず、他に原告ら主張の治療費額を認めるに足りる証拠はないから、治療費としては、当事者間に争いのない一五七〇万六六八六円をもって相当とすべきである。
  (イ) 入院雑費   四四万八五〇〇円
 当事者間に争いがない。
  (ウ) 入院付添費 一九四万三五〇〇円
 前記認定事実のとおり、原告一郎は、症状固定に至るまでの入院期間中、遷延性意識障害等により全介助を要する状態にあり、いずれの病院においても基本的な介護は各病院の看護師らによって行われたものの、原告一郎の家族もほぼ毎日同原告に付き添い、介護の補助を行ったものであるから、以下の計算式のとおり、症状固定までの二九九日間につき、近親者による付添費として日額六五〇〇円を認めることが相当である。
 六五〇〇円×二九九日=一九四万三五〇〇円
  (エ) 症状固定後の治療関係費
          七〇七万五七七五円
 前記前提事実及び前記認定事実のとおり、原告一郎は、症状固定後に、藤田保健衛生大学病院において、脊髄後索刺激装置埋込術を受けたところ、その評価が医学的に確立したものであるかについては必ずしも判然としないものの、少なくとも同術が同原告の症状改善に有益であるとの医師の判断の下に施行されたことが推認され、かつ、その結果、同原告の症状にやや改善がみられたのであるから、その治療に要した費用は、本件事故と相当因果関係のある損害であるというべきである。
 そして、《証拠略》によれば、同病院における治療費として四七八万〇七一〇円、搬送料として七六万五〇〇〇円、医療用具代として一五三万〇〇六五円の合計七〇七万五七七五円を要したことが認められる。
 なお、原告らは、上記のほか、付添アパート代及び引越関係費並びに付添交通費をも損害であると主張するが、これらは、後に検討する症状固定後の将来付添介護料の問題として評価されるべきであるから、この点に関する原告らの主張は採用し得ない。
 (オ) 休業損害  二三九万一八六八円
 《証拠略》によれば、原告一郎が平成一二年九月一七日から同月三〇日までの予定雇用期間で郵便局(当時)に採用され、同月から勤務をしていたこと、同原告の時給が七九〇円であり、一日実働一四時間、一か月あたり平均二二日稼働していたこと、同年一〇月にも本件事故までの一日間につき勤務をしており、同月から平成一四年三月までの休業損害証明書が郵便局により作成されていることが認められ、本件事故後も継続して就労する蓋然性があったということができるから、同原告の休業損害は、時給七九〇円、一日実働一四時間、一か月当たり二二日間の稼働を前提とする被告が認める以下の計算式により算出するのが相当である。
 七九〇円×一四時間×二二日×一二か月×二九九日÷三六五日=二三九万一八六八円
 原告らは、シフト勤務や残業等により給料の上昇が見込めたことなどとして賃金センサスを用いるべきであると主張するが、原告ら提出に係る郵便局発行の勤務表に基づく給与計算(甲二五の一ないし四)によっても、給与は月額約一五万円程度であって、上記計算式による月額を大幅に下回るから、原告ら主張の点を加味したとしても、症状固定までの二九九日間という短い期間に上記認定額を超えるような給与の上昇があったと認めることはできず、原告らの主張は採用し得ない。
  (カ) 傷害慰謝料 三五〇万〇〇〇〇円
 前記前提事実及び前記認定事実のとおり、原告一郎の症状固定までの入院期間が二九九日であること、当初は生命が危ぶまれる状態にあり、その後も重篤な病状で推移したことなどに照らせば、傷害慰謝料を三五〇万円とするのが相当である。
  (キ) 逸失利益 七二四四万一八一一円
 労働能力喪失率及び喪失期間については当事者間に争いがないので、基礎とすべき収入額について検討する。
 本件事故当時の原告一郎の就労状況及び収入については前示(オ)のとおりであるほか、《証拠略》によれば、同原告が平成五年(同原告二九歳時)には三四九万三五七六円の、平成六年(同原告三〇歳時)には三五三万一四五九円の、平成七年(同原告三一歳時)には三五一万五八三五円の収入をそれぞれ得ていたことが認められる。
 すなわち、原告一郎は、平成五年ないし平成七年の間、各当時の賃金センサス男子労働者学歴計年齢別平均賃金の約七割弱ないし約八割程度の収入を得ていたところ、平成八年から平成一三年九月一六日までの間は、証拠上就労していたことが窺われないが、平成一三年九月一七日からは時給七九〇円の勤務を始め、以後も継続して就労する蓋然性があったのであり、かつ、将来的には昇給等も見込むことができるというべきであるから、賃金センサス男子労働者学歴計年齢別平均賃金の八割程度の収入を得る蓋然性があったというべきである。
 そうすると、基礎収入としては、本件事故当時の時給七九〇円を前提とする現実収入を基礎収入とするのは相当でなく、平成一三年賃金センサス男子労働者学歴計年齢別平均賃金の八割に相当する金額を用いるのが相当であるから、以下の計算式によって算出することとする。
 五九八万〇六〇〇円×〇・八×一五・一四一〇×一=七二四四万一八一一円
  (ク) 後遺障害慰謝料
         三二〇〇万〇〇〇〇円
 前記前提事実及び前記認定事実のとおり、原告一郎が後遺障害等級一級三号に該当する後遺障害を負ったこと、その程度も、遷延性意識障害等により、寝たきりで、全介助・気管切開・胃ろうからの栄養補給を要する状態にあるなど、きわめて重篤なものであり、人生を奪われたに等しいこと、被告は、酒気帯びの状態で、制限速度を超える速度で自動車を走行させ、前方注視を怠った過失により、本件事故を惹起したものであり、その態様が悪質であるといえることなどに照らせば、後遺障害慰謝料としては、三二〇〇万円とするのが相当である。
  (ケ) 将来の付添介護料
       一億三四四一万一三四〇円
  a 自宅介護の可能性について
 ノーマライゼーションの理念からすれば、障害を有する者ないしその家族が病院等の施設を脱して自宅での生活を希望している場合には、可能な限りこれを尊重すべきであるというべきであるところ、前記認定事実のとおり、原告一郎の後遺症はきわめて重篤であり、その介護には相当の労力を要することは明らかであるものの、《証拠略》によれば、原告一郎の家族が同原告を自宅で介護したいという強い希望を有していること、平成一七年二月当時同原告を担当していた甲斐田博医師が気道の管理・栄養の管理・排泄の管理・清潔の保持・感染及び褥創の予防等がなされれば自宅介護が可能であり、かつ、これらは病院の指導により家族が対応可能である旨述べていること、原告一郎の家族が自宅介護を実施すべく自宅を改造し、必要な器具等を揃え、介護に必要な知識や技術について病院から指導を受け、原告花子が六七歳になるまでは同原告が、その後は原告一郎の妹である甲野一江が中心になって介護を行うとともに、看護資格のある職業介護人を依頼し、必要に応じて医療機関との連携を図る方針を示すなどして、甲斐田医師が要求する介護を実現すべく、現在病院で実施されているのと同程度の環境を整えようとしていることが認められるから、自宅介護によることを前提にし得るというべきである。
 これに対し、被告は、自宅介護によれば原告一郎の生命に危険があるから病院等の施設での生活を前提とすべきであると主張し、これに沿う益澤秀明医師の意見書(乙三一)を提出するが、同原告を実際に診察しての意見ではない上、同原告の家族が予定しているような環境を整えた場合にまで自宅介護を不可能とする趣旨のものとは解されないから、自宅介護を否定する材料にはならないというべきである。
  b 病院における長期入院の可能性について
 被告は、長期入院可能な病院が存在するなどとして、病院等の施設での生活を前提として損害を算定すべきである旨主張し、遷延性意識障害の患者を長期間受け入れる特殊疾患療養病棟を有する医療機関の存在を証する《証拠略》を提出する。
 しかしながら、これまで原告一郎の家族が病院における介護の補助を行ってきたことは前記認定事実のとおりであるから、被告が示す長期入院可能な病院のうち、原告一郎の家族の居住地から遠隔地にある病院については、家族が介護の補助を行うことができないため、これらの病院での生活を前提とすることは相当でない。
 また、原告一郎の家族の居住する千葉県内に存在する病院のうち、例えば千葉療養センターなどは、最長五年間しか入院できず、しかも、《証拠略》によれば、原告一郎がこれまで二回入所を申し込んだものの、いずれも順位が最下位に近く、入所できなかったことが認められる上、前記認定事実のとおり、原告一郎がこれまで複数の同県内の病院から一定期間での転院を促されていることからして、病院での入院生活が継続できるという保証はないといわざるを得ないから、病院等の施設での生活を前提として損害を算定することは相当でない。
  c 余命について
 被告は、原告一郎の重篤な病態に照らし、その余命は症状固定日から約一〇年間と推定すべきであると主張し、これに沿う《証拠略》を提出する。
 しかし、乾意見書は、その根拠の一つを、植物状態になると感染症や褥創が起こりやすくなることに置くものであるところ、このような症状は、十分な介護によりその危険性を低減させることが可能であるから、同意見書がそのような十分な介護が実施された場合の余命についてまで及び得るかについては疑問なしとし得ない。
 また、乾意見書も引用してその根拠の一つとしている吉本論文は、自動車事故対策センターの寝たきり者一八九八例を基に生存余命を推定するものであるが、寝たきり状態を脱却した者の脱却以後の生存期間が計算に入っていないものであるため、これを根拠に寝たきり者の生存余命が短いとすることには疑問がある。
 益澤意見書(乙三一)も、吉本論文を前提にして原告一郎の余命を七年程度と推定しつつも、余命は療養場所によって変わる可能性があり、植物状態からの脱却の可能性も残されているとするものであるから、これをもって原告一郎の余命が短いとみることはできない(なお、同論文は、そのような観点から前記の自宅介護を不相当とする結論を導くのであるが、その結論を採用できないことは前記のとおりである。)。
 むしろ、千葉療護センターによる外傷性植物症患者の生命予後(乙三〇)は、脳損傷により植物状態の介護料受給者の平均死亡率が一五・二%であるのに、同センターでの年間死亡率は一・二%であるとして、十分な介護・医療により良好な生命予後を実現しているとしており、適切な環境設定により死亡率を低くすることができることが窺える。
 そして、原告一郎に対しては、感染症や褥創を防止するための措置が採られ、現在の病状は安定しており、自宅介護に移行した後も、これと同程度の環境が整えられるべく計画されていることは前記認定のとおりであり、その生命予後が不良であることを窺わせるような具体的な事情は見出せない。
 以上を総合するに、原告一郎が平均余命まで生存することができないと認めることはできないというべきであるから、同原告の将来の付添介護料を算定するにあたっては、平均余命を用いるのが相当であり、簡易生命表を用いて症状固定時三八歳であった同原告の余命を四一年間とみるのが相当である。
  d 将来の付添介護料の算定について
 以上のとおり、自宅介護を前提に、平均余命を用いて、原告一郎の将来の付添介護料を算定することとし、具体的には、以下の方法によることとする。
  (a) 原告花子(症状固定時六一歳)が六七歳になるまで
 原告一郎が症状固定後本件口頭弁論終結時に至るまで病院に入院し、その基本的な介護は各病院の看護師らによって行われてきたこと、原告一郎の家族がほぼ毎日同原告に付き添い、介護の補助を行ってきたこと、自宅介護に移行した後は、原告花子が六七歳になるまでは同原告が中心になって介護を行う予定であることは前記認定のとおりであり、《証拠略》によれば、原告花子が昭和一六年三月二八日生まれであり、原告一郎の症状固定時六一歳、本件口頭弁論終結時六五歳であることが認められる。
 そうすると、症状固定時から原告花子が六五歳までの四年間については、病院における家族介護料として、その日額を六五〇〇円として、その後の原告花子が六七歳までの二年間については、前記認定の原告一郎の介護の内容に照らし、自宅における家族介護料として、その日額を一万円として、介護費用を算出するのが相当であり、その額は、ライプニッツ係数を用いた以下の計算式のとおり、合計一三九九万六〇五二円となる。
 六五〇〇円×三六五日×三・五四五九+一万円×三六五日×(五・〇七五六-三・五四五九)
 =八四一万二六四七円+五五八万三四〇五円
 =一三九九万六〇五二円
  (b) 原告花子が六七歳になって以降原告一郎の余命期間まで
 原告一郎の家族が同原告を自宅で介護したいという強い希望を有し、原告花子が六七歳になって以降は原告一郎の妹である甲野一江が中心になって介護を行うとともに、看護資格のある職業介護人を依頼する予定であるとの前記認定事実に加え、《証拠略》によれば、甲野一江は、現在三七歳で、原告一郎の介護のために就労を中断しているが、今後は就労し、自らの生活を立てる必要があること、看護婦家政婦紹介所から原告一郎の家族に対し、職業介護人の費用として一日三万八〇七六円を要するとの計算書が提出されていることが認められる。
 この点、甲野一江が就労して収入を得る道を奪われるべき理由はないから、原告花子が六七歳になって以降については、基本的に職業介護人による介護を前提に介護料を算出すべきであり、かつ、原告一郎の症状及び同原告に対する介護の内容に照らせば、職業介護人の費用が一日三万八〇八六円を要するとの看護婦家政婦紹介所の計算書の内容もあながち不合理なものともいえないから、他方で、同人ら原告一郎の家族の自宅介護に対する熱意に照らせば、家族が相当の役割を果たすことが見込まれるから、二四時間三六五日にわたって職業介護人による介護が必要であるとみることは、損害の公平な分担の観点からいって相当でない。そこで、原告花子が六七歳になって以降原告一郎の余命期間までの三五年間(症状固定時からの余命期間四一年間から原告花子が六七歳になるまでの六年間を控除した期間)については、職業介護人及び家族による介護料として、その日額を原告ら請求日額の約七割に相当する二万七〇〇〇円とみて、介護料を算出するのが相当であり、その額は、ライプニッツ係数を用いた以下の計算式のとおり、合計一億二四八七万五一一四円となる。
 二万七〇〇〇円×三六五日×(一七・二九四三-五・〇七五六)=一億二〇四一万五二八八円
  (c) 小計 一億三四四一万一三四〇円
  (コ) 将来雑費 一五五六万四八七〇円
 原告らは、原告一郎の将来雑費として、年額一二七万九一三四円を要すると主張し、おむつ・尿パッド・お尻拭き・清拭・清拭剤・保湿ローション・歯ブラシ・舌ブラシ・口腔ケア用スポンジ・イソジン・リップクリーム・ティッシュ・冷却シート・綿棒・気管切開チューブ・DCSリモコン用電池・ビーズスティック・アイスノン・保冷カバー・パジャマ・肌着・靴下・グローブ・ひじ用パッド・体位変換クッション・エアーマット用シーツ・コットンシーツ・おむつカバー・プラスチックコップ・シューズ・吸水エプロン・タオル・バスタオル・リハビリ用ボール・入浴介助エプロン・デジタル自動血圧計・体温計を要するとする一覧表(甲四八)を提出するが、その中には、健常人の生活費としても必要であるものが相当数含まれているから、本件事故と因果関係のある将来雑費としては、その約七割に相当する年額九〇万円と認めるのが相当であり、平均余命までの四一年間に対応するライプニッツ係数を用いた以下の計算式のとおり、一五五六万四八七〇円となる。
 九〇万円×一七・二九四三=一五五六万四八七〇円
  (サ) 家屋改造費用
         二三七〇万〇〇〇〇円
 原告らは、家屋改造費用として二六三六万七〇〇〇円を要するとの改築工事提案書(甲四五)を提出するところ、その内容は、原告一郎の自宅介護に必要な改造工事として、基本的に相当であると認められる。
 この点、一室集中介護システム方式によるべきとの被告の主張については、居室内に浴室を設けることになり、湿気や水漏れ等により適切な介護環境が保たれなくなるおそれがある以上、被介護者を一室から移動させないという面でノーマライゼーションの理念にもそぐわないとの指摘があり(甲四六)、原告ら主張の方式によるとしても廃棄処分費及び解体工事費の単価等修正・新旧交換差益控除をすべきとの主張についても、その具体的根拠が判然としないから、いずれも採用しない。
 他方、家族の便益を根拠とする減額が必要であるとの被告の主張については、エアコン取付・床暖房工事・システムキッチン・洗濯パン取付等に関しては、原告一郎の介護に有益であるとしても、これらにより家族が便益を受ける面も否定できないから、本件事故と相当因果関係のある家屋改造費用としては、原告ら主張額の約九割に相当する二三七〇万円をもって相当とみるべきである。
  (シ) 車両改造費 四二一万二三一三円
 原告一郎の自宅介護のためには、医療機関との連携が欠かせないことは前記認定の各事実からして明らかであり、そのためには介護用の車両も必要であるといえるところ、《証拠略》によれば、介護用の車両と一般車両との差額が一七三万一七五二円であることが認められ、その耐用年数を六年として計算することが相当であり、本件口頭弁論終結時にはまだ自宅介護に移行しておらず、その後同原告の平均余命までの四一年間にわたって六年ごとにこれを支出することになるから、車両改造費としては、原告らが用いる以下の計算式により、四二一万二三一三円と算出される。
 一七三万一七五二円×(〇・七四六二+〇・五五六八+〇・四一五五+〇・三一〇〇+〇・二三一三+〇・一七二六)=四二一万二三一三円
  (ス) 介護用品代 四五三万二八七六円
  a 介護ベッド代 八〇万四三八二円
 原告一郎の自宅介護のためには、介護用のベッド及びその付属品が必要であることは前記認定の各事実からして明らかであるところ、《証拠略》によれば、介護用のベッド及びその付属品の価格が四四万七七〇〇円であり、ベッド本体の耐用年数が約八年ないし一〇年、付属品の耐用年数が約五年であることが認められるから、原告ら主張のとおり、価格を四四万七七〇〇円、耐用年数を八年として計算することが相当であり、本件口頭弁論終結時にはまだ自宅介護に移行しておらず、その後原告一郎の平均余命までの四一年間にわたって六年ごとにこれを支出することになるから、介護ベッド代としては、原告らが用いる以下の計算式により、八〇万四三八二円と算出される。
 四四万七七〇〇円×(〇・六七六八+〇・四五八一+〇・三一〇〇+〇・二〇九八+〇・一四二〇)=八〇万四三八二円
  b 車椅子代  一二一万〇九五〇円
 原告一郎の自宅介護のためには、医療機関への移動やリハビリ等のために車椅子が必要であることは前記認定の各事実から明らかであり、《証拠略》によれば、その価格が三九万円、その耐用年数が約五年であることが認められ、本件口頭弁論終結時にはまだ自宅介護に移行しておらず、その後原告一郎の平均余命までの四一年間にわたって五年ごとにこれを支出することになるから、車椅子代として、原告らが用いる以下の計算式により、一二一万〇九五〇円と算出される。
 三九万円×(〇・七八三五+〇・六一三九+〇・四八一〇+〇・三七六八+〇・二九五三+〇・二三一三+〇・一八一二+〇・一四二〇)=一二一万〇九五〇円
  c 入浴担架代  九六万三四六七円
 原告一郎の自宅介護のためには、入浴中の同原告の身体を保持するための入浴担架及びその付属品が必要であることは前記認定の各事実から明らかであり、《証拠略》によれば、その価格が一七万八五〇六円、その耐用年数が約三年であることが認められ、本件口頭弁論終結時にはまだ自宅介護に移行しておらず、その後原告一郎の平均余命までの四一年間にわたって三年ごとにこれを支出することになるから、入浴担架代としては、原告らが用いる以下の計算式により、九六万三四六八円と算出される。
 一七万八五〇六円×(〇・八六三八+〇・七四六二+〇・六四四六+〇・五五六八+〇・四八一〇+〇・四一五五+〇・三五八九+〇・三一〇〇+〇・二六七八+〇・二三一三+〇・一九九八+〇・一七二六+〇・一四九一)=九六万三四六八円
  d 空気清浄機代 二八万七八九七円
 原告一郎の自宅介護のためには、感染防止等のために空気清浄機が必要であることは前記認定の各事実から推認し得るところ、《証拠略》によれば、その価格が五万三三四〇円、その耐用年数が約三年であることが認められ、本件口頭弁論終結時にはまだ自宅介護に移行しておらず、その後原告一郎の平均余命までの四一年間にわたって三年ごとにこれを支出することになるから、空気清浄機代としては、原告らが用いる以下の計算式により、二八万七八九七円と算出される。
 五万三三四〇円×(〇・八六三八+〇・七四六二+〇・六四四六+〇・五五六八+〇・四八一〇+〇・四一五五+〇・三五八九+〇・三一〇〇+〇・二六七八+〇・二三一三+〇・一九九八+〇・一七二六+〇・一四九一)=二八万七八九七円
  e 痰吸引機及び吸入器代
          一一二万二一一九円
 原告一郎の自宅介護のためには、痰の吸引やネブライザーによる吸入が必要であることは前記認定の各事実から明らかであるところ、《証拠略》によれば、痰吸引機及び吸入器の費用が二〇万七九〇〇円、その耐用年数が約三年であることが認められ、本件口頭弁論終結時にはまだ自宅介護に移行しておらず、その後原告一郎の平均余命までの四一年間にわたって三年ごとにこれを支出することになるから、痰吸引機及び吸入器代としては、原告らが用いる以下の計算式により、一一二万二一一九円と算出される。
 二〇万七九〇〇円×(〇・八六三八+〇・七四六二+〇・六四四六+〇・五五六八+〇・四八一〇+〇・四一五五+〇・三五八九+〇・三一〇〇+〇・二六七八+〇・二三一三+〇・一九九八+〇・一七二六+〇・一四九一)=一一二万二一一九円
  f イルリガートル、マイコステンレスガートル、台トレー代 四万一一六〇円
 前記各認定事実によれば、原告一郎の自宅介護のためには、胃ろうから流動食を流し込む際に使用するイルリガートルが必要であることは明らかであり、点滴架であるマイコステンレスガートル及びその付属品である台トレーが必要であることも推認し得るところ、《証拠略》によれば、これらの費用が四万一一六〇円であることが認められる。
  g パルスオキシメーター代
           一〇万二九〇〇円
 原告一郎の自宅介護のために、脈拍を図る装置であるパルスオキシメーターが必要であることは前記各認定事実から推認し得るところ、《証拠略》によれば、これらの費用が一〇万二九〇〇円であることが認められる。
  (セ) 小計 三億一七九二万九五三九円
  (ソ) 過失相殺
 前記のとおり、原告一郎に相殺されるべき過失はないから、過失相殺は行わない。
  (タ) 損害のてん補
 原告一郎には、合計五〇一四万六六八六円が支払われているので、これを控除すると、その残額は、二億六七七八万二八五三円となる。
  (チ) 弁護士費用
         二六七〇万〇〇〇〇円
 本件事案の性質及び審理経過等本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係にある原告一郎の弁護士費用は、二六七〇万円と認められる。
  (ツ) 原告一郎の損害額
 上記既払金の控除残額二億六七七八万二八五三円と弁護士費用との合計は、二億九四四八万二八五三円となり、同額が原告一郎の損害領である。
  (テ) 既払金三〇〇〇万円に対する遅延損害金
 前記認定事実のとおり、原告一郎には、平成一五年二月二六日に自賠責保険から三〇〇〇万円が支払われているが、本件事故日から上記支払日までの五一一日分の確定遅延損害金も同原告の損害であるところ、その額は、二一〇万円である。
ウ よって、被告は、原告一郎に対し、二億九六五八万二八五三円及びうち二億九四四八万二八五三円に対する平成一三年一〇月四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負う。
 (2) 近親者原告らの損害額
 ア 固有の慰謝料
 前記前提事実及び前記認定事実のとおり、原告一郎には遷延性意識障害等の後遺障害等級一級三号に該当する後遺症が残ったこと、同原告の父母である原告太郎及び原告花子がこれまで原告一郎の介護をしてきており、今後もこれら家族が自宅においてその介護をしていく予定であること、原告一郎は二四時間・全介護を要し、その労力は計り知れないことなどが認められるから、原告太郎及び原告花子の被った精神的苦痛は原告一郎の死亡にも比肩すべききわめて甚大なものであるというべきであり、これに対する慰謝料としては、原告太郎及び原告花子につき各三〇〇万円とするのが相当である。
 他方、原告竹子については、父である原告一郎が前記のような後遺症を負ったことにより、精神的苦痛を負ったことは否定できないが、原告竹子は本件事故以前から原告一郎と同居しておらず、証拠上本件事故後の見舞いや介護などの点についても特筆すべきものが見出せないから、固有の慰謝料を認めるべきとまではいえない。
 イ 弁護士費用
 原告太郎及び原告花子については、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は、各三〇万円とするのが相当であり、原告竹子については、慰謝料同様に認めるのが相当とはいえない。
 ウ 近親者原告らの損害額合計
 以上より、原告太郎及び原告花子の損害額は、各三三〇万円となる。
エ よって、被告は、原告太郎及び原告花子に対し、それぞれ三三〇万円及びこれに対する平成一三年一〇月四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負う。
 三 以上の次第で、原告一郎の請求は、被告に対し、二億九六五八万二八五三円及びうち二億九四四八万二八五三円に対する平成一三年一〇月四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、原告太郎及び原告花子の請求は、被告に対し、それぞれ三三〇万円及びこれに対する平成一三年一〇月四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、原告らのその余の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
          (裁判官 溝口理佳)

当事務所では、弁護士が毎日のように交通事故問題の相談に向き合っております。交通事故の損害賠償等でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

無料法律相談のご予約は24時間受付

ご予約専用フリーダイヤル:0120-778-123

フリーダイヤルが繋がらない場合は03-3436-5514まで