東京地方裁判所判決 平成22年12月15日

       主   文

 1 被告Y1及び被告Y2は,原告に対し,連帯して,28,516,202円及びこれに対する平成20年1月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告Y1及び被告Y2に対する原告のその余の請求,被告Y3に対する原告の請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用は,これを10分し,その8を被告Y1及び被告Y2の,その余を原告の負担とする。
 4 この判決は第1項に限り,仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 請求
  被告らは,原告に対し,連帯して,35,051,432円及びこれに対する平成20年1月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 本件は,単車を運転中,転倒し,反対車線に路上横臥した単車運転者が2台の四輪車に轢過され死亡するに至った交通事故(本件事故)につき,単車運転者の相続人(母)である原告が,轢過した四輪車の運転手及び同車の保有者である被告らに対し,共同不法行為に基づく損害賠償請求ないし自動車損害賠償保障法3条に基づく損害賠償請求として,損害金及び不法行為日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたという事案である。
 2 前提事実(争いのない事実及び掲記証拠により認められる事実)
  (1) 本件事故の発生
   ア 日時 平成20年1月6日午前4時20分ころ
   イ 場所 東京都目黒区柿の木坂1丁目5番
     東京都道環状七号線(以下「環七通り」),柿の木坂陸橋上。最高速度時速40km,追い越しのためのはみ出し通行禁止の規制がなされている。
     現場付近の環七通りは,南北に走る幅員約13m,片側2車線の道路であり,上り車線(3m×2。南(大森方面)から北(代田方面)へ向かう車線)と下り車線(3m×2。北(代田方面)から南(大森方面)へ向かう車線)とは,外側線で囲まれた幅約0.9mの中央分離帯で隔てられている。
     同分離帯には,高さ6cm,幅59cmのマウントアップが設置されている。マウントアップ上には中央線が引かれ,同中央線上に直径7.5cm,高さ80cmのポストコーンが道路方向に沿って約3mの等間隔に設置されている。
     上り車線,下り車線の路端側には幅員0.3mの外側線がある。
     現場付近は,南(大森方面)から北(代田方面)へ勾配(3%~5%,上り車線は下り,下り車線は上り)となっている。
     上り車線,下り車線のいずれも前方の見通しは,視界を妨げるものはなく,夜間は街路灯があり明るく,約50m先の障害物が視認できる。
   ウ 関係車両
    (ア) 車種   自家用普通自動二輪車(ホンダ エイプ100cc)
        車両番号 大田区ま○○○○○
        運転者  A(昭和55年○月○○日生,当時27歳。以下「A」という。)
    (イ) 車種   自家用普通乗用自動車(トヨタ チェイサー)
        車両番号 群馬○○ろ○○○○
        運転者  被告Y2(昭和61年○月○○日生,当時21歳)
        所有者  被告Y1
    (ウ) 車種   自家用普通乗用自動車(トヨタ ハイラックスサーフ)
        車両番号 群馬○○も○○○○
        運転者  被告Y3(昭和48年○○月○○日生,当時34歳)
    【以上,イの道路状況等,ウの関係車両の車種,運転者の年齢等は甲1,乙5ないし乙7,丙2による。その余は争いがない】
   エ 事故態様
     本件事故現場,環七通り下り車線上に転倒横臥していたAを,被告Y2運転のチェイサーが,その後,被告Y3運転のハイラックスサーフが轢過した。
   【争いがない】
  (2) Aの受傷・死亡
    Aは,頭蓋顔面骨折,骨盤骨折他多発骨折,重症頭部外傷を負い,昭和大学病院に心肺停止状態で搬入され,午前5時30分(本件事故発生から1時間10分後),死亡が確認された。ほぼ即死状態であり,死亡推定時刻は,事故発生時の午前4時20分とされた。
   【甲2の1,2,4,甲16の1】
  (3) 相続
    Aは,Bと原告との間の長男である。Bは,平成6年3月死亡し,Aには,配偶者も子もいない。
   【甲16の1,2】
  (4) 原告は,被告Y2が運転していたチェイサー及び被告Y3が運転していたハイラックスサーフに付保されていた自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の保険会社である,あいおい損害保険株式会社に対し,自動車損害賠償保障法16条1項に基づき,被害者請求を行い,平成22年1月15日,各21,748,566円(合計43,497,132円)の支払を受けた。
   【争いがない】
 3 争点
  (1) 被告らの責任の存否(共同不法行為の成否,過失の有無)
  (原告の主張)
    Aは,前提事実(1)アの日時ころ,自動二輪車を運転し,環七通り上り線,柿の木坂陸橋を走行していたところ,氏名不詳者が運転する不詳車両に接触・衝突され,バイクもろとも転倒,中央分離帯から下り車線にはみ出す状態で投げ出されたところ,下り車線を時速60kmで走行してきた被告Y2運転のチェイサーに轢過され,その後,被告Y3運転のハイラックスサーフに轢過された。
    Aの死亡原因は,頭部の外傷であり,被告Y2運転のチェイサー,被告Y3運転のハイラックスサーフとも,その右前輪,右後輪でAを轢過しているが,いずれの車両がAの頭部を轢過して致命傷を与えたかは明らかではない。
    Aの死亡は,被告Y2及び被告Y3両者の加害行為によるものであるが,いずれの加害行為がAの死亡原因であるかは明らかではないから,民法719条1項後段により,被告Y2及び被告Y3の共同不法行為となる。
    本件事故現場には,前方の視界を妨げるものはなく,街路灯で明るいため,約50m先の障害物が視認できた。轢過地点は中央分離帯に極めて近く轢過地点の僅か30cm左側を通過すれば,Aを轢過することはなかった。被告Y2及び被告Y3がAを轢過することを回避できたことは明らかであり,同人らに過失がある。
  (被告Y2・同Y1の反論)
    被告Y2運転のチェイサーが轢過したのはAの脚部である。Aは,被告Y2運転のチェイサーが脚部を轢過する以前に高度の頭蓋骨骨折を伴う外傷性くも膜下出血を負っており,同受傷によりほぼ即死の状態であった。被告Y2運転のチェイサーがAを轢過したこととAの死亡との間には因果関係がなく,共同不法行為は成立しない。
    本件事故現場に人が倒れているのが分かるのは手前10mの地点であるが,制限速度内である時速約40kmの制動距離は約17.3mであるから,被告Y2が仮に時速40kmで走行していたとしても,倒れているAを人であると認識し,急制動により轢過を回避できた可能性はなかった。被告Y2には,Aの轢過につき結果回避可能性がなく,過失はない。
  (被告Y3の反論)
    Aの頭部を轢過し致命傷を与えたのは,被告Y2運転のチェイサーである。被告Y2運転のチェイサーが,頭部を走行車線側,脚部を中央分離帯側にして転倒していたAの頭部を轢過した。被告Y3運転のハイラックスサーフは,引き摺られる等して,頭部が中央線側,脚部が走行車線側となったAの脚部を轢過してしまったにすぎない。Aは,被告Y2運転のチェイサーの轢過によりほぼ即死状態であり,被告Y3運転のハイラックスサーフによる脚部の轢過とAの死亡との間に因果関係はない。共同不法行為は成立しない。
    なお,被告Y3は,前車に続き,時速約50km程度で環七通りを走行していたところ,前車が突然左に大きく転把した後,路上に横臥しているAを発見,直ちに急ブレーキの措置を取った。当時,左車線には併走車両があったため,左転把は不可能であり,自車とAとの衝突を避けることは不可能であった。被告Y3には何らの過失もない。
  (2) Aが被った損害の多寡
  (原告の主張)
   ア 医療関係費                    67,194円
   イ 遺体搬送費用                  251,948円
   ウ 葬儀関係費用                1,935,030円
   エ 荷物引取費用                  287,390円
   オ 交通費                     257,800円
     遺体との対面,引取り,A住居の整理,警察での事情聴取等のため,自宅のある松山市と東京との往復を余儀なくされた。6往復分の航空運賃。
   カ 刑事記録謄写費用                157,000円
   キ 逸失利益                 47,592,202円
     5,547,200円(平成19年賃金センサス第1巻第1表の産業計,企業規模計,学歴計,男性労働者の全年齢平均賃金)×(1-0.5[生活費控除率])×17.1590(就労可能年数40年のライプニッツ係数)
   ク 慰謝料                  25,000,000円
   ケ 合計額                  75,548,564円
  (被告らの認否)
    いずれも争う。
  (3) 過失相殺
  (被告Y2,同Y1の主張)
    Aは,自動二輪車運転中,バランスを崩して転倒し,下り車線上に横臥していた。夜間であることや,交通量の多い片側2車線の幹線道路であることからすると,Aにつき,少なくとも6割の過失相殺を認めるべきである。
  (原告の反論)
    Aは,本件事故当時,仕事の打合せに向かっていたものであり,酒気も帯びておらず,運転に支障のある状態ではなかった。右側を下にして倒れたのは,左側から自動車に接触され,押されたためである。原告には過失はない。
第3 争点に対する判断
 1 争点(1)(被告らの責任の存否[共同不法行為の成否,過失の有無])について
  (1) 掲記証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
   ア 目撃者は,環七通り上り車線の左車線を走行していたところ,49.2m先,右車線の中央分離帯寄りで,自動二輪車を運転していたAがバランスを崩し転倒し,自動二輪車は右車線中央分離帯寄りに倒れ,Aが,中央分離帯を越え,下り車線側へ倒れたのを目撃した。
     別の目撃者は,環七通り下り車線の左車線を走行していたところ,中央分離帯付近に何か物を見,上り車線の右車線前方を大型トラックが走行していた,54.6m走行して後方で「ドン」という音を聞き,振り返ったところ,何か物を見たところにAが倒れているのを目撃した。
    【乙2,乙4】
   イ 本件事故現場付近の中央分離帯のマウントアップ上や同ポストコーンには,左右に傾いたタイヤ痕や擦過痕が点々と南(大森)から北(代田)方向へ23.1mにわたって残された後,5.1mにわたりガウジ痕(えぐり痕)や人体様の擦過痕が残され,最後には,A運転の二輪転倒停止位置まで上り車線の右車線中央分離帯寄りに約7mのガウジ痕を伴う断続的な線状の路面擦過痕が残されている。自動二輪車は,右側を下に前輪を中央分離帯に乗せるようにし,上部を南(大森)側にして,ほぼ直角に転倒していた。
     本件事故後,Aは,上記二輪転倒停止位置(前輪の中心部。以下同じ)から約1.1m南(大森)側の中央分離帯,マウントアップ上に頭部を乗せ,脚部を下り車線へ出す状態で倒れていた。頭部付近(0.5m北(代田)側)には血液が貯留していた。
     下り車線の右車線上,Aが倒れていた位置から4.1m北(代田)側,中央分離帯から1.2mの位置から南(大森)方向へ長さ1.35m,幅最広部で25cm全体的に払拭状の人体様擦過痕が残された後,引き続いて中央分離帯から1.15mの位置に南(大森)方向へ長さ0.6m,幅20cmの僅かに右に傾いた形の,白色及び黒色塗膜様のものの付着を伴った人体様擦過痕が残されており,同付着物はAの装着していたヘルメットの素材と類似し,同ヘルメットの擦過部と幅が一致する。
     下り車線の右車線上,Aが倒れていた位置から6.7m北(代田)側,中央分離帯から0.3mの位置から長さ38cm,幅最広部で15cmの血液タイヤ痕が残されている。異なるタイヤ痕が2種類重なり,全体的に左へ傾いている。延長部は,Aが倒れていた位置から2.2m北(代田)側,中央分離帯から0.7mの位置から南(大森)方向へ長さ0.3m,幅最広部で30cmの弱い払拭状の人体様の擦過痕に繋がっている。
    【乙8,丙1】
   ウ AのGパンの後面,左下腿相当部にはタイヤトレッド模様の痕跡が残されている。
     Aのヘルメットは大きく変形し,右側面には擦過痕や大きなひび割れが,左側面には円形状の押し潰されたような割れが残されており,シールドは脱落し,シールド右側面には擦過痕が,シールド左側面には黒色皮膜様のものが付着している。
    【乙3】
   エ 被告Y2運転のチェイサーの損傷,痕跡は,フロントバンパー右コーナー部から右側面にかけてのものであり,フロントバンパー右コーナー部の車両前端から後方へ10cm,地上高25cmのところを中心として前後21cm,上下3cmの範囲に白色皮模様のものの擦過状の付着があり,同付着部は前方から後方への方向性を示している,右前輪,サイドウォール外側面のエアバルブから前回転方向へ弧長で約72cm,トレッドからアクスル方向へ4cmのところを中心として21cm×6cmの範囲に対角方向への方向性を示す擦過があり,同部に白色繊維片様のものの付着がある,トレッド内側端寄りのエアバルブから弧長で約18cmのところを中心として5cm×6cm大の滑平状の擦過がある,右前輪タイヤハウスの後端下端部の車両前端から後方へ113cm,地上高22cmのところに黒色毛髪様のものが付着している,右後輪,サイドウォール外側面のエアバルブから後回転方向へ弧長で約60cm,トレッドからアクスル方向へ5cmのところを中心として14cm×6cmの範囲に主として対角方向への方向性を示す擦過がある。
    【乙5】
   オ 被告Y3運転のハイラックスサーフの損傷,痕跡は,右前輪,右ステップ,右後輪のものであり,右前輪サイドウォール外側面のエアバルブから後回転方向へ弧長で約35cm,トレッドからアクスル方向へ5cmのところを中心として10cm×5cmの範囲に払拭があり,一部は生地織目模様を呈している,右前輪のショルダー部内側面のエアバルブから前回転方向へ弧長で約96cmのところを中心として7cm×10cmの範囲に擦過があり,一部は生地織目模様を呈している,ロアアーム下面の車両前端から後方へ67cmのところを始端として後方へ12cm,左右12cmの範囲に前方から後方への方向性を示す払拭がある,ステアリングナックル後面の車両前端から後方へ82cm,右端から左方へ20cm,地上高22cmのところに,前後2cm,左右9cm大の払拭があり,一部は生地織目模様を呈している,右前輪タイヤハウス全面にわたり飛沫状の乾血の付着がある,右前輪タイヤハウスの乾血の付着部に連続して,下面の前端から後端に至る範囲及びステップステー前面に乾血の飛沫状の付着がある,右後輪のサイドウォール外側面のエアバルブから前回転方向へ弧長で約77cmのところを始端として,前回転方向へ弧長で約16cm,幅5cmの範囲に擦過がある,右後輪タイヤハウス全面にわたり飛沫状の乾血の付着がある。
    【丙2】
   カ Aには,①左側頭部の表皮剥脱,左耳介の皮膚変色,腫脹,②左側頭部・右眉毛外側の表皮剥脱を伴う皮膚変色,③左右上眼瞼内側の紫青色皮膚変色,④左眼窩を中心とする表皮剥脱,一部,頭蓋骨に達する挫創,左鼻背部から左頬部・側頭部にかけた皮膚変色,表皮剥脱,⑤右頬部の表皮剥脱,⑥鼻部の軽度の表皮剥脱,上・下口唇の軽度の粘膜出血,⑦右下腹部の軽度の擦過性表皮剥脱,⑧左右腹部の軽度の皮下出血,⑨背面上部の皮膚変色,皮下軟部組織・筋肉内出血,⑩左前腕の擦過性表皮剥脱,左尺骨骨頭部骨折及び皮下軟部組織内出血,⑪左手背・手掌の軽度の皮下出血,右肘頭の表皮剥脱,⑫左膝蓋の皮膚変色,表皮剥脱,デコルマンを伴う皮下軟部組織内出血,⑬左足背の皮膚変色,表皮剥脱,踵部の挫裂創,左距骨の亀裂骨折,⑭右膝蓋の擦過性表皮剥脱,デコルマンを伴う皮下軟部組織内出血,⑮右下腿部中央の軽微な痂皮,右足背の皮膚変色,表皮剥脱,⑯右内果の皮膚変色,表皮剥脱,⑰前頭部,左右側頭部~後頭部の皮下軟部組織内出血,前方付着部に挫滅を伴う左右側頭筋出血,⑱左頬弓から左側頭骨の陥没骨折及び後頭骨に至るやや弧を描く骨折,⑲左側頭骨骨折及び後頭部への骨折,⑳前・中頭蓋窩の高度の骨折,(21)左右大脳半球の高度のくも膜下出血・脳挫傷・脳梁断裂,(22)第一胸椎前面椎間板の亀裂骨折,(23)硬膜下腔の血性液,(24)左胸鎖乳突筋,肩甲舌骨筋・鎖骨上部の中程度の筋肉内出血,(25)脾臓の軽度の挫裂,の創傷が認められる。
     死因は,高度の頭蓋骨骨折を伴う外傷性くも膜下出血である。
     上記①~③,⑰~⑳,(24)の創傷は,左顔面を上にした状態で重量の重い,幅を有する鈍体により左側頭部を中心に極めて強い外力が急激に加えられ,いわば押し潰された状態であり,頚部も同時に伸展もしくは打撲・圧迫されていたことが考えられるから,Aは,転倒等により路上に横になった状態で車両等により左側頭部を中心として轢過されたことが強く考えられ,それによって重篤な左右大脳半球の高度のくも膜下出血・脳挫傷・脳梁断裂を生じ,死亡に至ったものと考えられる。
     外力は,前頭・側頭から後方へ向かっており,頭部の創傷群は一度の轢過等によって生じたものとして矛盾はなく,転倒等によって生じたと考えられる明らかな重篤な創傷は認められない。
     頭蓋骨骨折を伴う頭部外傷により相当量の出血を生じていた可能性がある。
     上記(25)の創傷は,周囲にごく軽度の血性液を認めるのみであるため受傷後,回転等の腹部のねじれによって生じた可能性が,また,上記⑩,⑫,⑭の創傷は,隣接する橈骨や膝蓋骨・下肢骨には骨折がなかったことから轢過時にAが回転する等の体位の変換等により平らな路面,車体等の鈍体に圧迫・打撲し生じた可能性が,上記⑦の創傷は,皮下軟部組織・腹腔内に創傷はなかったことから,転倒時もしくは轢過時に体位が変化し,着衣等により腹部が軽度圧迫され擦れたことにより生じた可能性がある。
     上記⑬の創傷は,腫脹を伴わず,周囲組織への出血も軽度であり,頭部・顔面の創傷と比較し,極めて生活反応に乏しいため,致命的な頭部外傷後,比較的幅のあるタイヤ等の鈍体により左足背部を横断して轢過されたことにより平坦な路上等と鈍体との間で圧迫・打撲され生じたと考えやすい。
    【乙8】
   キ 目撃者は,環七通り下り車線の右車線を,被告Y2運転のチェイサーの14.8m後方を追従して走行していたところ,58.2m先上り車線左車線に停止車両を認めた後,31.4m進行したところで,チェイサーが左に急ハンドルを切るのを認め,さらに4.9m進行したところで,チェイサーが人の足を轢くのを目撃した。目撃者は,危険を感じ,ハンドルを左に切った。
    【乙1】
   ク 被告Y2を立会人として,平成20年7月19日午前3時05分から55分まで前方の視認状況,被害者の発見可能状況等を特定するため,実況見分が行われ,本件事故現場付近の,環七通り・下り車線の右車線を,大森方面へ進行したところ,①衝突地点から50mの地点では,対向車がある場合は対向車の前照灯に幻惑されて模擬被害者は見えず,他にも何の物体も見えなかった,対向車がない場合は,模擬被害者かは分からないが,黒い落下物のような物が路上に盛り上がっている状態が分かる,左車線を他の車両が走行している場合は,模擬被害者かは分からないが,黒い落下物のような物が路上に盛り上がっている状態が分かる,②衝突地点から35mの地点では,対向車がある場合は対向車の前照灯に幻惑されて模擬被害者は見えず,他にも何も見えなかった,対向車がない場合は,模擬被害者かは分からないが,落下物のような物が路上に盛り上がっている状態がはっきりと分かる,左車線を他の車両が走行している場合は,模擬被害者かは分からないが,落下物のような物が路上に盛り上がっている状態が分かるが,人かは分からない,③衝突地点から25mの地点では,対向車がある場合は対向車の前照灯のライトに幻惑されて模擬被害者は見えず,他にも他の物体も見えなかった,対向車がない場合は頭と胴体と足とにわかれた人の形が何となく見える,左車線を他の車両が走行している場合は頭と胴体と足とにわかれた人の形がはっきり分かる,実際に人を寝かせた場合では,対向車がある場合は頭の形はよく分からないが膝が立った状態の人の足の形は分かる,対向車がない場合は人かは分からないが何か落下物のような物が路上に盛り上がっている状態がはっきりと分かる,左車線を他の車両が走行している場合は人かは分からないが,何か落下物のような物が路上に盛り上がっている状態がよりはっきりと分かる,④衝突地点から10mの地点では,すべての場合ではっきりと人が倒れている状態が分かるという状況であった。
    【乙9,乙10】
  (2) 上記(1)ア,イによれば,Aは,自動二輪車を運転し,環七通り上り車線の右車線を走行していたところ,バランスを崩し,中央分離帯のマウントアップ上ポストコーンにぶつかった後,二輪車もろとも転倒,自身は下り車線に投げ出されたことが認められる。
    そして,長さ1.35m,最広部25cmの人体様擦過痕と同擦過痕に引き続くAが装着していたヘルメットによるものと認められる擦過痕の位置から,Aは,二輪転倒停止位置から3.0m北(代田)側,頭部を中央分離帯から1.2mの下り車線右車線上(同車線の幅員が3.0mであるから中央付近となる)に,脚部を中央分離帯側に向けて倒れていたものと認められる。
    被告Y2は,チェイサーを運転し,環七通り下り車線の右車線を60kmで走行していたところ(走行速度は争いがない),上記(1)イ~エ,カ,キによれば,その右前輪で,Aの頭部から頚部を引き摺りながら押し潰すようにして轢過し,同轢過によりAに対し,重篤な左右大脳半球の高度のくも膜下出血・脳挫傷・脳梁断裂を生じさせ,致命傷を負わせるに至った。
    上記(1)イないしエ,カ,キによれば,被告Y2は,さらに,チェイサーの右後輪でAの左下腿部を轢過し,その轢過に至る過程で,Aをさらに引き摺り,回転させたため,Aは,頭部を中央分離帯マウントアップ上,二輪転倒停止位置から0.5m南(大森)側(血液が貯留していた場所)まで移動させ,脚部を下り車線の右車線に斜めに出す形となった。
    轢過されたAの頭部からは多量の血液が流出し,マウントアップ上に血溜まりを作るとともに,下り車線上に流れ出た。
    被告Y3は,ハイラックスサーフを運転し,環七通り下り車線の右車線を被告Y2が運転するチェイサーの2台後方を走行していたところ,上記(1)イ~エ,カ,キによれば,その右前輪及び右後輪で,Aの左足部を轢過した。その際,0.5mほど南(大森)側へAを引き摺った。
    以上によれば,Aの死亡は,被告Y2運転のチェイサーの轢過によるものであり,被告Y3運転のハイラックスサーフの轢過との間には因果関係はなく,被告Y2運転のチェイサーによる轢過行為と被告Y3運転のハイラックスサーフによる轢過行為との間に共同不法行為は成立しない。被告Y3は,その余の点を論ずるまでもなく,責任を負わない。
    丙1及び弁論の全趣旨によれば,被告Y2は,39.8m先に物体があるのを認識し,20.7m手前で倒れている人であると分かり,ブレーキを踏み,5.9m手前でハンドルを左に切った旨指示説明を行っていること,急制動をかけた場合の停止距離は時速60kmが約32.7m,時速40kmが17.3mであることが認められるところ,39.8m先に物体があるのを認識したのであるから,前方を注視し,適切な回避措置を採り得るよう減速を講じれば,急制動や車線変更によって轢過を避け得た,少なくとも,時速40kmで走行していれば,制動距離は約17.3mであるから急制動で轢過を避け得たと認められるから,被告Y2には過失がある。
    被告Y1は,被告Y2が運転するチェイサーの運行供用者であるから自動車損害賠償法3条により責任を負う。
 2 争点(2)(Aが被った損害の多寡)について
  (1) 医療関係費                   67,194円
    前提事実(2)のとおり,Aは,本件事故後,昭和大学病院に搬送され,死亡が確認されており,甲4の1~3によれば,同費用として,67,194円を要したことが認められる。
  (2) 遺体搬送費用                 251,948円
    甲3,甲5の1~4によれば,原告は,Aの遺体を松山市の自宅まで空路で搬送し,同費用として251,948円を要したことが認められる。
  (3) 葬儀関係費用               1,500,000円
    甲6の1~7によれば,Aの葬儀関係費用として,1,935,030円を要したことが認められるが,葬儀や法要は,故人を供養する者がその費用を負担して執り行うものであり,その費用は,自ら負担してこそ故人に対する哀悼の意をあらわすことになることに鑑みると,これらの費用を加害者に負担させることは,懲罰的色彩を持つものであると解され,慰謝料等の他の損害項目の存在に照らせば,相当額の賠償をもって足りると解される。その額としては1,500,000円が相当である。
  (4) 荷物引取費用                 287,390円
    甲3,甲7の1,2によれば,1人暮らしをしていたAのアパートから同人の荷物を引き揚げる費用として,287,390円を要したことが認められ,同額は本件事故と相当因果関係がある。
  (5) 交通費                    157,600円
    甲3,甲8の1~3,甲9の1~3,甲10の1~5,甲11の1,2,甲12の1~3,甲13の1,2によれば,原告は,本件事故の知らせを受けて,上京し,Aの遺体と対面し,遺体を引き取り,自宅への搬送の手続を行ったり,警察の事情聴取や捜査の進展状況を聞くため,自宅のある松山市と東京とを往復したことが認められるところ,当初の駆け付け費用や住居整理のための交通費は,本件事故と相当因果関係が認められる。同費用として157,600円を認める。
  (6) 刑事記録謄写費用               157,000円
    甲14によれば,刑事記録謄写費用として157,000円を要したことが認められ,損害賠償請求費用として,本件事故と相当因果関係が認められる。
  (7) 逸失利益                47,592,202円
    甲3によれば,Aは,本件事故当時,映像製作会社に勤務していたことが認められ,同人の年齢等に鑑みれば,本件事故に遭わなければ,67歳までの40年間にわたり,男性労働者の平均賃金(5,547,200円)を稼得することができたと認められる。
    したがって,Aの逸失利益は,47,592,202円となる。
    5,547,200円×(1-0.5)×17.159=47,592,202円
  (8) 慰謝料                 22,000,000円
    本件事故の態様等,諸般の事情に鑑み,相当額を認める。
  (9) 合計                  72,013,334円
 3 争点(3)(過失相殺)について
   上記2(2)のとおり,Aは,自動二輪車を運転し,環七通り上り車線の右車線を走行していたところ,バランスを崩し,中央分離帯のマウントアップ上ポストコーンにぶつかった後,二輪車もろとも転倒,二輪転倒位置から3.0m北(代田)側,頭部を中央分離帯から1.2mの下り車線の右車線上,脚部を中央分離帯側に向けて倒れていた。
   路上に横臥していたのは,道路上に入り込んだ歩行者ではなく,道路上を走行していた車両運転者であるから,路上に横臥するに至った原因,経緯等を斟酌すべきことになる。
   Aがバランスを崩した原因は明らかではない。原告は,氏名不詳者が運転する不詳車両に接触,衝突された旨主張しており,確かに,乙7によれば,自動二輪車には,①前輪左側面の左サイドウォールのエアバルブのほぼ対角方向の位置に4cm×5cm大の白色粉末様のものの付着を伴う擦過,②左フロントフォークの,左アウターチューブ下端を始端として,上方へ33cm,最広部で3cmの範囲に後方への方向性を示す,黒色すす様のものの付着や,③フロントフェンダ左側面の,前軸から後方へ1cm,地上高64cmのところを始端として,後方へ10cm,幅最広部で2cmの前方から後方への方向性を示す擦過等,左側に接触を窺わせるような損傷や痕跡が窺えないわけではないが,上記のとおり,転倒するまでの間,左右にブレながら中央分離帯のマウントアップ上ポストコーンにぶつかるなどしていることからすると,それらが不詳車両との接触を示すものとは直ちには認め難いし,Aが運転する自動二輪車がバランスを崩して転倒するのを目撃した目撃者も不審車両を目撃してはいない(1(1)ア)。
   他方,転倒が何らかの過誤によるものか否かも明らかとはいえず,路上への転倒を車両の停止と同様に考えれば,停止自体が禁止される高速道路とは異なり,それ自体を過失と捉えることも困難である。
   本件事故は,夜間に発生したものではあるが,前提事実のとおり,現場は,前方の見通しは,視界を妨げるものはなく,夜間は街路灯が明るく,約50m先の障害物が視認できる状況であり,被告Y2が制限速度を20km超過して走行していたことも合わせ考慮すれば,本件において,過失相殺を行うのは相当とはいえない。
 4 以上によれば,賠償されるべき損害額は,72,013,334円となるところ,前提事実のとおり,43,497,132円の支払を受けているから,残額は28,516,202円となる。
   よって,主文のとおり判決する。
    東京地方裁判所民事第27部
           裁判官  鈴木正弘

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