名古屋高等裁判所判決平成18年6月8日判決

○名古屋高等裁判所判決平成18年6月8日判決
症状固定時が17歳の男性高校生が遷延性意識障害等(1級1号)の後遺障害を負った場合において,傷害分350万円の慰謝料の他に本人分3000万円,父母各400万円,後遺障害分の慰謝料を認めた。

       主   文

 1 原判決を次のとおり変更する。
  (1) 被控訴人は,控訴人に対し,1億7148万5299円及び内金1億6906万3382円に対する平成14年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (2) 控訴人のその余の請求を棄却する。
 2 訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを3分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
 3 この判決は,第1項(1)に限り仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
  (1) 原判決主文1項を次のとおり変更する。
    被控訴人は,控訴人に対し,2億6081万6974円及び内金2億5839万5057円に対する平成14年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (2) 原判決主文3項を取り消す。
  (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
  (4) 仮執行宣言
 2 被控訴人
  (1) 本件控訴を棄却する。
  (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 1 本件は,自転車(控訴人自転車)を運転して,岐阜市六条片田1丁目4番5号先の車道幅員8.8mの市道(本件市道)を横断しようとした控訴人が,被控訴人運転の自家用普通乗用自動車(被控訴人車両)に衝突されて脳挫傷等の傷害を負い,いわゆる植物状態となって常時介護を要する状況になった交通事故(本件事故)について,被控訴人に対し,①控訴人が,民法709条及び自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条に基づき,損害賠償金2億5839万5057円(逸失利益9792万2802円,将来付添費1億1121万1414円,慰謝料3600万円等の合計金額2億7775万9827円から,損害の填補金額4236万4770円を控除し,これに弁護士費用2300万円を加算した金額)及び遅延損害金(本件事故日である平成14年8月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合)の支払並びに自賠責保険から填補された4000万円に対する確定遅延損害金242万1917円(本件事故日から支払日である平成15年10月17日まで民法所定の年5分の割合)の支払を求めるとともに,②控訴人の父A及び母B(以下「控訴人の父」,「控訴人の母」,両名を「控訴人の両親」などという。)が,民法711条に基づき,それぞれ損害賠償金440万円(慰謝料400万円と弁護士費用40万円の合計金額)及び遅延損害金(本件事故日から支払済みまで民法所定の年5分の割合)の支払をそれぞれ求めたところ,被控訴人が,本件事故について,民法709条及び自賠法3条並びに民法711条に基づく損害賠償義務があることは争わず,過失相殺の主張をするとともに,控訴人及び控訴人の両親が被った損害の内容及び額を争った事案である。
   原審は,控訴人の請求について,①損害のうち,将来付添費を除くものをほぼ請求のとおり認めたが,上記付添費の大部分について家族のみによる介護が可能であるとして職業人介護の必要性を認めず,②3割の過失相殺をして,総額1億4428万6164円及び内金1億4186万4247円に対する遅延損害金(平成14年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員)の支払の限度で認容し,また,控訴人の両親の各請求を全額認容したため,控訴人が,上記①,②を不服として控訴した。
  (なお,控訴人の両親の関係については,被控訴人の控訴がなく,上記判決部分は確定した。)
 2 争いのない事実等(本件事故の発生,被控訴人の責任,控訴人の傷病の内容及び治療の経過)は,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」1のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決3頁23行目及び25行目の各「原告ら」をいずれも「控訴人」に改め,4頁4行目の「(症状固定日まで)」を「(症状固定日である平成15年4月30日まで)」とそれぞれ改める。)。
 3 争点及びこれに対する当事者の主張
  (1) 本件事故の態様及び過失割合
   ア 控訴人
    (ア) 事故態様について
      控訴人は,自転車に乗って,本件市道の西側路側帯を北方から原判決別紙交通事故現場見取図(以下「本件見取図」という。)記載の点滅信号機により交通整理の行われている三差路交差点(本件交差点)に向けて進行し,本件市道を横断した後,同交差点を南西方向から東方向へ向かう主要地方道31号線(31号線)の横断歩道を渡り,そのまま31号線の東側の歩道上を南西方向(六条福寿町方面)に向かう予定で,上記市道を横断しかけていた。他方,被控訴人は,被控訴人車両を運転して31号線を南西方向から北方に向けて進行し,本件交差点(黄色点滅表示)を通過し,本件市道に進入して進行するにあたり,後続車両に気をとられて前方の確認を怠り,かつ,対面する信号が黄色点滅であったにもかかわらず他の交通に注意せず,時速約40kmのまま漫然と本件交差点を通過して本件市道に進入し,同市道を横断中の控訴人自転車に衝突直前まで気付かず,被控訴人車両を控訴人自転車に衝突させ,控訴人を転倒させた。
    (イ) 被控訴人の過失について
     ① 被控訴人は,自動車を運転するに際し,前方の安全を十分に確認すべき注意義務があるのに,後続車両に気をとられて前方の安全確認を怠り,衝突直前まで控訴人自転車に気づかなかった著しい過失がある。
     ② しかも,被控訴人の対面信号は黄色点滅であったから,被控訴人は,本件市道を横断しようとしている歩行者や自転車の有無,安全に注意を払うべきであり,そのためには減速するなどの注意義務もあるところ,被控訴人は,前記のとおり,時速約40kmのまま漫然と本件交差点を通過して本件市道に進入したものであって,上記注意義務を怠った過失がある。
     ③ そして,本件交差点を通過して北方向にある竜興町交差点方面に出るためには,31号線をそのまま走行するよりも本件市道に進入して走行する方が距離的に短縮となることから,六条福寿町方向から同交差点方面へ行く車両の多くは,本件市道へ進入し,走行する。この場合には,本件交差点の手前から左折の方向指示器を出すべきであるところ,本件見取図のとおりの本件交差点の形状〔南西方向(六条福寿町方面)から本件交差点に進入して更に進行する場合,本件市道方向へは,本件交差点からそのまま直進する形状を取りつつ緩やかに左折するのに対し,そのまま31号線を走行する場合は,見通しは良好であるものの上記交差点付近から右に廻り込む形となっている。〕から,ほとんどの車両が左折の方向指示器を出さないまま走行している。したがって,本件市道へ進入するに当たって,左折の方向指示器を出したとの被控訴人の供述は信用できず,被控訴人には,左折の方向指示器を出さなかった過失がある。
       仮に,被控訴人が左折の方向指示器を出したとしても,被控訴人の供述によれば,その地点(本件見取図の四輪車表示の③)は本件交差点に進入する直前であって,同見取図の(ア)までの距離は25m程度であり,被控訴人車両の速度が時速約40kmであったとすると2秒余りで衝突したことになるから,控訴人にとっては意味がなく,方向指示器を出し遅れた過失がある。
     ④ 被控訴人には上記①ないし③の過失があるところ,控訴人にはほとんど過失がない。仮に,過失相殺がされるとしても(なお,本件交差点内あるいはその直近で,歩行者又は自転車が本件市道を横断することは当然予定されている態様であるから,その意味で,控訴人の基本的過失割合は,交差点以外の場所での横断よりも小さいというべきである。),控訴人の過失割合は5%に満たない。
   イ 被控訴人
    (ア) 事故態様について
       被控訴人は,31号線を南西方向から北方向に向かって時速約40kmで進行し,左折の合図を出して本件市道に左折進入したところ,同市道を北方から南方へ向けて進行してきた控訴人自転車が,被控訴人車両の直前で西方から東方に向けて突然横断してきたため,本件市道の西側外測線の直近(本件見取図の(×)地点)で衝突した。
    (イ) 控訴人の過失について
       控訴人には,本件市道を横断するに際し,通行車両の有無を確認し,安全に横断すべき注意義務があるのに,これを怠り,被控訴人車両の直前で横断を開始した過失がある。そして,被控訴人は,後続車両に気をとられてはいたが,全く前方を見ていなかったわけではなく,被控訴人がルームミラーに視線を移した瞬間に控訴人が横断を開始したものであり,しかも,衝突地点は本件市道の西側外測線の直近であって,控訴人が横断を開始した直後であるから,被控訴人の前方確認が十分であったとしても避けることが困難な事故であった(なお,黄色点滅信号機は本件交差点の通行を規制するものであり,本件市道上の事故についてはその規制は及ばないから,控訴人が主張するような速度減速義務はない。)。
       したがって,本件事故については,被控訴人の前方注視義務違反を考慮しても,控訴人の過失割合が4割を下ることはない。
  (2) 控訴人の損害
   ア 控訴人
    (ア) 将来付添費を除く損害について
       将来付添費を除く損害については,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」2(2)ア(ア)のとおり((ア)eを除く。)であるから,これを引用する。ただし,原判決7頁18行目の「0.375」を「0.7835」に,8頁20行目の「24万円」を「24万円(税込み25万2000円)」に,21行目の「13万4000円」を「13万4000円(税込み14万0700円)」に,9頁1行目の「(240,000+134,000)」を「(252,000+140,700)」にそれぞれ改める。
    (イ) 将来付添費について
       控訴人の後遺障害は,自賠責別表第一第1級1号に該当する重篤なものであり,現在,四肢麻痺,遷延性意識障害で寝たきりの状態にあり,将来にわたり,日常生活のすべての面において他人の常時介護が必要である。そして,控訴人の父は,平日の日中は就労のため介護に当たることはできず,また,控訴人の母は,本件事故による控訴人の介護のため一旦退職したものの,今後就労する意思があり,職業人介護の必要性がある。仮に,控訴人の母が復職しなくても,控訴人の介護には同時に2人の介護人が必要な場面が多く,24時間態勢でもあることから,同人のみで介護することは不可能であり,少なくとも控訴人の父が就労に出る平日の日中は職業人介護の必要性がある。
       そうすると,控訴人(平均余命は61年,そのライプニッツ係数は18.9802)については,控訴人の母が満67歳になるまで(23年間,そのライプニッツ係数は13.4885)は,土曜,日曜及び祝祭日を除いた年間240日の日中9時間(同女の就労時間7時間及び通勤等の時間前後各1時間)につき職業人介護が必要であり,その後(就労可能年数経過後)は,土曜,日曜及び祝祭日の同女の介護が不可能となるため,年間365日間につき職業人介護が必要である。そして,職業人介護を依頼する日の介護料日額は,控えめにみても1日あたり1万8000円であり,近親者介護のみの日の介護料日額は,同様に1日あたり1万円を下らない。
       そうすると,控訴人の症状固定(平成15年4月30日)後の介護料は,以下のとおりとなる。
      (18,000×240+10,000×125)×13.4885+(18,000×365)×(18.9802-13.4885)=111,211,414
       なお,控訴人は,症状固定後も木沢記念病院(中部療護センター)に入院していたが,平成17年4月23日に退院し,その後は自宅で療養しているところ,高額な職業人介護費用を負担するだけの経済的余裕がないため,現在は控訴人の母が主体となり,平日の日中はその実妹(以下「控訴人の叔母」という。)の援助を受け,それ以外の時間帯及び土曜,日曜,祝祭日は控訴人の父と2人で控訴人の介護をしている。しかし,いつまでも控訴人の叔母の援助を受けるわけにはいかず,また,控訴人の母には保育士への復職の意思があるため,本件訴訟により適切な将来付添費の賠償が得られれば,直ちに職業人介護に切り替える予定である。
   イ 被控訴人
    (ア) 将来付添費を除く損害について
       将来付添費を除く損害については,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の2(2)イのとおり(イ(エ)を除く。)であるから,これを引用する。
    (イ) 将来付添費について
       控訴人は,平成15年4月30日の症状固定後も中部療護センターに入院していたが,同病院は総合病院であり完全看護ないし基準看護で,院内看護が基本であって,その看護体制は充実しており,付添看護の必要性はない。
       また,控訴人の母は老人介護の専門家で,約20年の経験を有するし,控訴人の父や兄も同居して岐阜市内に勤務している上,近隣に居住する控訴人の叔母の協力を得ることもできるから,退院後は家族のみによる介護が可能であり,その費用は日額6000円が相当である。
       なお,控訴人は,将来付添費について控訴人の母の就労を前提として主張しているが,同女は現在就労しておらず,将来的にも就労するかどうか不確定であるから,その就労を前提として将来付添費を算定するのは損害の公平な分担の観点からも認め難い。
第3 当裁判所の判断
 1 争点(1)(本件事故の態様及び過失割合)について
  (1) 本件事故の態様
    前記争いのない事実等(原判決)に,証拠(甲3の1ないし3,22の1,2,23,乙1)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
   ア 本件事故現場は,本件見取図のとおり,南西(六条福寿町方面)から東方(加納西山町方面)へと走る車道幅員9.2mの主要地方道31号線(31号線,制限速度時速40km)の,黄色点滅信号機により交通整理の行われている変形三差路交差点から,北方(竜興町交差点方面)へ分岐した車道幅員8.8mの市道上で,本件交差点から北に数mの地点(本件見取図の(×),なお,控訴人自転車と被控訴人車両が衝突した地点が(×)であり,そのときの控訴人の位置が本件見取図の(イ)である。)である。
   イ 控訴人は,控訴人自転車を運転して,本件市道の西側路側帯を北方から本件交差点に向けて進行し,本件交差点内の31号線上の横断歩道を渡るため,本件見取図の(ア)付近から本件市道の東側に斜め横断しようとして控訴人自転車のハンドルを左に切り,約0.8m進んだ同(イ)地点(なお,甲3の1の本文中には,(ア)と(イ)の距離は2.9mと記載されているが,本件市道の幅員に照らして,上記記載は誤記と認められる。)で被控訴人車両に衝突された。
   ウ 被控訴人は,被控訴人車両を運転して,時速約40kmの速度で31号線を北方に進行していたが,本件見取図の四輪車表示の①付近で後続の無謀運転車両が追従してくるのではないかと気をとられはじめ,同所から約157.2m進行した同四輪車表示の②付近で上記後続車両の動静等を確認するためルームミラーに目を移して確認するなどした。そして,被控訴人は,同所から約10.3m進んだ同四輪車表示の③付近で左折の方向指示器を出し,時速約40kmのまま本件交差点を左折して本件市道に進入し,上記四輪車表示の③から約22.0m進んだ同四輪車表示の④付近で,本件市道を横断し始めた控訴人を同(ア)の位置に発見し,危険を感じて急ブレーキをかけるとともにハンドルを右に切ったが間に合わず,上記四輪車表示の④から約1.9m進んだ同四輪車表示の⑤地点で被控訴人車両の左前部を控訴人自転車の前部右側面に衝突させた。
   エ 本件市道は,本件見取図の「□□」の南東角付近で緩やかにカーブしており,見通しは良好ではないが,控訴人側からは,少なくとも同(ア)付近では31号線を北に向かってくる車両を見通すことができる〔甲22の1(報告書)の写真報告書②の写真〕。また,被控訴人側からは,少なくとも本件交差点に進入した直後から,上記(ア)地点を見通すことができる。
  (2) 控訴人と被控訴人の過失割合
    上記(1)で認定した本件事故の態様に基づいて,控訴人と被控訴人の過失割合を以下検討する。
   ア 前認定のとおり,本件市道は,本件見取図の「□□」の南東角付近で緩やかにカーブしており,見通しが良好でなかった上,本件交差点における被控訴人の対面信号機は黄色点滅であったから,同交差点に進入して,これを通過し,本件市道に進入しようとする被控訴人には,進路前方の車両等の交通の安全を確認することはもとより,本件市道を横断しようとする歩行者や自転車等の交通にも注意して車両を運転すべき注意義務があったところ,被控訴人は,後続車両の動静に気をとられて進路前方の安全確認を怠り,かつ,控訴人自転車の交通に適切に対処し得る速度まで減速せずに本件市道に進入し,本件市道を横断しようとした控訴人自転車に衝突直前まで気づかず本件事故を発生させた過失がある。
     なお,被控訴人は,黄色点滅信号機は本件交差点の通行を規制するものであり,本件市道上の事故についてはその規制は及ばないから,被控訴人には速度減速義務はない旨主張する。しかしながら,上記黄色点滅信号機は,本来,31号線を北進して本件交差点に進入しようとする車両に対し,これに対面して,本件市道を南進して,本件交差点に進入する車両などへの注意を促し,本件交差点付近における交通の安全を図ろうとするものである。そうすると,被控訴人には,黄色点滅信号機のある本件交差点付近では特に前方注意義務が要求され,これを怠った場合にはより重い過失が認められるというべきである。そして,前認定のとおり,本件事故現場は本件交差点から北に数mの地点であるから,被控訴人は,車両運転者として,歩行者又は自転車が同地点を横断することがあり得ることを当然に予想すべきであり,被控訴人には,黄色点滅信号機に従って本件交差点付近の交通に注意し,控訴人自転車に対して適切な対応をとり得る速度に減速するなどの注意義務があったというべきである。
     したがって,被控訴人の上記主張は採用できない。
   イ 控訴人は,左折の方向指示器を出したとの被控訴人の供述は信用できず,被控訴人には左折の方向指示器を出さなかった過失がある旨主張する。しかしながら,仮に,前認定の本件交差点の形状等から,ほとんどの車両が左折の方向指示器を出さないとしても,これをもって当然に本件事故時に被控訴人が同じく左折の方向指示器を出さなかったとはいえず,被控訴人の上記供述が虚偽であると断定することはできない。その他被控訴人の上記供述を覆すに足りる証拠はない。
     したがって,控訴人の上記主張は採用できない。
     また,控訴人は,被控訴人が左折の方向指示器を出したとしても,衝突する2秒前にすぎないから,控訴人にとっては意味がなく,方向指示器を出し遅れた過失がある旨主張する。しかしながら,本件見取図の(ア)から(イ)までの距離は約0.8mにすぎず,仮に控訴人自転車の速度を時速10kmとすると移動時間は0.29秒にすぎないから,控訴人が本件市道の横断を開始した上記(ア)地点においては,左折の方向指示器を出して本件交差点を左折してくる被控訴人車両を確認することは十分に可能であった。
     したがって,被控訴人に左折の方向指示器を出し遅れた過失があったとはいえず,控訴人の上記主張も採用できない。
   ウ 他方,前認定の本件交差点の形状,控訴人の進行方向からの31号線の見通し状況等に照らすと,控訴人にも,本件市道を横断するに際し,31号線を北進し,本件交差点を通過して,本件市道に進入する車両の有無及びその動静を確認して安全に横断すべき注意義務があるのに,被控訴人車両の存在に気づかず,漫然と本件交差点付近の本件市道を横断した過失があるというべきである。
   エ 上記ア,ウで認定した控訴人と被控訴人の過失を総合考慮すると,本件事故における過失割合は,控訴人が25%,被控訴人が75%と認めるのが相当である。
 2 争点(2)(控訴人の損害)について
  (1)ア 将来付添費を除く控訴人の損害については,治療費226万4770円は争いがなく,入院雑費は40万8000円,症状固定前の付添看護料は176万8000円,逸失利益は9792万2802円,車椅子費用は109万6064円,車両改造費は378万2500円,介護リフト費用は125万5615円,介護ベッド費用は116万1528円,将来雑費は797万1684円,住宅改造費は1218万9450円,慰謝料は3350万円(合計1億6332万0413円)が相当であると判断する(なお,原判決認容額との違いは,介護ベッド費用のみである。)。その理由は,次項に付加訂正するほかは,原判決「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」2(1)ア,イ,ウ,エ,カ,キ,ク,ケ,コ,サ,シのとおりであるから,これを引用する。
   イ 原判決15頁20行目から22行目までを削除し,16頁20行目の「24万円」を「24万円(税込み25万2000円)」に,同行の「13万4000円」を「13万4000円(税込み14万0700円)」に,25行目の「110万6217円」を「116万1528円」に,26行目から17頁2行目までを「(252,000+140,700)×(1+0.6768+0.4581+0.3100+0.2098+0.1420+0.0961+0.0650)=1,161,528」にそれぞれ改める。
   ウ 原判決17頁18行目から20行目までを次のとおり改める。
    「なお,被控訴人は,①控訴人は寝たきりであるから,常時看視の必要性はない,②控訴人主張の浴槽及びストレッチャーは最も高価なランクのものであり,被控訴人が提出した調査報告書(乙4)のプランでも必要十分である,③控訴人が主張する浴室関係の工事をしなくても,防水処置により水漏れの危険性はほぼ回避可能であるなどとして,住宅改造費は320万円が相当であると主張する。しかしながら,前認定(原判決)のとおり,控訴人は,四肢麻痺,遷延性意識障害により寝たきり状態にあるもので,温度調節や気管の管理(特に,痰の吸引は重要であり,控訴人は呼吸状態が不良で,緊急時に吸引ができないと,時として命に関わる事態になりかねない。)等のため,あるいは不測の事態に備えるためにできる限り常時看視態勢にあることが望ましいこと,控訴人宅はマンションの一室であり,水漏れは他の住民に多大の損害をもたらすおそれがあることが認められ,(甲16,原審原告A,弁論の全趣旨),以上を考慮すると,控訴人の介護のためには,控訴人が主張する浴槽及びストレッチャー(甲26の1ないし3)が必要かつ相当と認められる上,控訴人主張の浴室の改造工事が必要であると認められるから,被控訴人の上記主張はいずれも採用できない。」
  (2) 将来付添費(介護料)について
   ア 前記争いのない事実(原判決),証拠(甲4,5,6の1,2,甲7,16,17,31の1ないし4,甲36,原審一審原告A)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
    (ア) 控訴人は,本件事故による後遺障害のため,現在,四肢麻痺,遷延性意識障害により寝たきり状態にあり,時に開眼することもあるが,人や物を認識できず,四肢,体幹の自動運動もほとんど認められない。そして,食事摂取不能で経管栄養を行っており,尿便失禁状態にある。
    (イ) そのため,控訴人については,将来にわたり,日常生活のすべての面において他人の常時介護(具体的には,①排泄処理のため,夜間を含めて,1日少なくとも7回ないし8回のおむつ交換,②自動運動ができないため,夜間を含めて,2時間おきの体位交換,③体温調節ができないため,定期検温,④1日3回の食事の世話,⑤感染予防のため等の,1日3回の口腔ケア,⑥痰や唾液等の吸引,⑦入浴,⑧車椅子での散歩,⑨嚥下訓練,⑩関節訓練,⑪座位保持訓練等,⑫声掛け等)が必要であり,個々の具体的な介護は,控訴人のその時々の体調や状況に合わせて行われている。そして,上記具体的な介護のうち,入浴や車椅子の乗り降り,体位交換等は1人で行うことが難しいものもあり,排泄の処理も状況により1人では困難な場合もある。
    (ウ) 控訴人は,平成17年4月23日に中部療護センターを退院し,現在は自宅介護の状況にあるが,控訴人の両親は,高額な職業人介護費用を負担するだけの経済的余裕がないため,現在のところ控訴人の母が主体となり,平日の日中は控訴人の叔母の援助を受け,それ以外の時間帯及び土曜,日曜,祝祭日は控訴人の両親が2人で控訴人の介護をしている。しかし,いつまでも控訴人の叔母の援助を受けることはできず(控訴人の叔母は,控訴人の在宅介護の補助のために,それまで10年以上勤務した会社を退職して,上記のとおり,控訴人の母を助けているが,同女は高校生と中学生の2人の子を持つ主婦でもあり,暫定的なものである。),控訴人の両親は,適切な将来付添費の賠償が得られれば,直ちに職業人介護に切り替える予定である。
    (エ) 控訴人の母は,岐阜市の職員として保育所に勤務し,定年まで勤め上げた母(控訴人の祖母)の姿を見て育ったことから,自分も同じような道を歩みたいと考えるようになり,短大に進学して保育士の資格を取得し,卒業後すぐに保育園等への勤務をめざして岐阜市の職員となった。しかし,実際には,採用形態の関係から老人福祉施設に配属され,同所に約20年勤務したが,保育士の仕事をあきらめきれず,平成11年8月,正規の市職員の地位を捨て,同市の臨時保育士募集に応募して同年9月に採用され,同市立△△保育所の職員となった。そして,平成12年4月には,岐阜市の嘱託保育士としての採用試験を受け,同市立◇◇保育所の職員として勤務し,本件事故前は同市立××保育所に保育士として勤務していたが,本件事故により控訴人の介護が必要になったため,同保育所を一旦退職し,現在に至っている。しかし,控訴人の母にとって保育士の仕事は上記のとおり長年の夢であり,本件事故で控訴人が負傷しなければそのまま勤務を続けるつもりであったため,控訴人の介護の一部を職業介護人に任せられれば,復職したいとの強い希望を有しており,控訴人の父もその願いを叶えてやりたいと思っている。なお,保育所は午前8時出勤の午後5時帰宅であるため,その間(9時間)職業人介護が必要となる。
   イ(ア) 上記認定事実によれば,控訴人は,症状固定(平成15年4月30日)後も平成17年4月23日まで中部療護センターに入院していたところ,同病院での治療や介護状況並びに控訴人の母の付添介護状況は,症状固定前のそれと特段の変更がないことが推認される(弁論の全趣旨)。そうすると,控訴人が症状固定後,上記療護センター退院までの期間は,症状固定前の付添看護料に準じて,1日当たり6500円と認めるのが相当であり,その間の付添看護料は470万6000円(724日×6500円)となる(なお,上記期間の付添看護料は症状固定前の付添看護料に準じ,現実の損害として算定するものであるから,中間利息も同様に控除しないものとする。)。
    (イ) 次に,上記認定事実によれば,控訴人の母は,短大卒業以来,岐阜市の職員として約20年間勤務し,その後も,保育士として勤務を継続してきたところ,本件事故による控訴人の介護のために退職したものであること(なお,控訴人の母は復職の希望を有している。),控訴人の叔母の協力は暫定的なものであること,控訴人の父や兄も勤務していることなどの事情を考慮すると,本来,当然に(将来を含めて)家族のみの介護が可能であるとはいえないというべきである。したがって,控訴人が中部療護センターを退院した後は,控訴人の母が満67歳になるまでは,土曜,日曜及び祝祭日を除いた年間240日の日中9時間につき職業人介護が必要であり,その後(就労可能年数経過後)は,土曜,日曜及び祝祭日の同女の介護が不可能となるため,年間365日間につき職業人介護が必要であると認めるのが相当である。
      そして,職業人介護を依頼する日の介護料は,①職業介護人の費用が,消毒を要する介護に当たるため2割増しとなり,1日9時間で交通費を含めて1万3883円となること(甲8),②また,職業介護人を依頼した日についても,上記時間帯以外は近親者が介護せざるを得ないことを考慮すると,合計で1日当たり1万8000円と認めるのが相当である。
      また,近親者のみで介護することが可能な日の介護料は,上記ア(イ)で認定した介護の質,量及び拘束時間等を考慮すると,1日当たり1万円と認めるのが相当である。
      なお,被控訴人は,控訴人の母は,老人介護の専門家であることなどから退院後は家族のみの介護が可能であると主張するが,控訴人の母の従前からの勤務事情を考慮しないものであり,前記認定の事情からすると,同女の退職を前提に控訴人の介護を判断するのは相当でない。また,控訴人の父及び叔母等の事情は前記認定のとおりであり,近親者のみでの介護が当然に可能とはいえない。さらに,控訴人の母の復職への意欲は前記認定のとおりであり,その継続した長期間にわたる就労状況等からみて,それがあながち不当で不確定なものとはいえず,その就労を前提とすることが損害の公平な分担の観点から不当ともいえない。
      そうすると,控訴人の前記療護センター退院後の将来付添費は,以下のとおり1億0054万4456円となる〔控訴人の平均余命は61年,そのライプニッツ係数は18.9802,控訴人の母の満67歳まで24年間(甲2)のライプニッツ係数は13.7986,症状固定後から中部療護センター退院時までの約2年間のライプニッツ係数は1.8594〕。
     (1万8000円×240日+1万円×125日)×(13.7986-1.8594)+(1万8000円×365日)×(18.9802-13.7986)
  (3) 過失相殺について
    上記(1)ア,(2)イ(ア),(イ)の合計は2億6857万0869円となるところ,過失相殺として前記認定の25%を減じると,2億0142万8152円となる。
  (4) 損害の填補について
    証拠(甲15,乙2)に弁論の全趣旨を総合すると,控訴人は,平成15年10月17日に自賠責保険から被害者請求により4000万円,任意保険から236万4770円の合計4236万4770円の支払を受けたことが認められる。
    そこで,上記(3)の損害額からこれを控除すると,1億5906万3382円となる。
  (5) 弁護士費用について
    弁護士費用は,一審及び二審を通じ1000万円をもって相当と認める。
  (6) 確定遅延損害金
    前記認定のとおり,控訴人は,平成15年10月17日に自賠責保険から4000万円の支払を受けているところ,これに対する本件事故日から平成15年10月17日までの年5分の割合による確定遅延損害金は242万1917円であることが明らかである。
  (7) まとめ
    上記によれば,被控訴人は,控訴人に対し,民法709条及び自賠法3条に基づき,1億7148万5299円及び内金1億6906万3382円に対する本件事故日である平成14年8月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務があるというべきである。
第4 結論
   以上のとおり,控訴人の本件請求は上記の限度で理由があり,これと結論を異にする原判決は不当であるので,これを変更し,主文のとおり判決する。なお,仮執行宣言については,原判決主文1項を変更したため,本判決において改めて付すこととする。
    名古屋高等裁判所民事第1部
        裁判長裁判官  田中由子
           裁判官  林 道春
           裁判官  山崎秀尚

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