札幌地方裁判所判決 平成18年11月10日

70歳の男性被害者が遷延性意識障害等(1級1号)の後遺障害を負った場合において、傷害分400万円の慰謝料、本人分3000万円、妻200万円の後遺障害分の慰謝料を認めた。

       主   文

 1 被告は,原告X1に対し,3754万9415円及びこれに対する平成14年12月8日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告は,原告X2に対し,220万円及びこれに対する平成14年12月8日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 4 訴訟費用は,これを2分し,その1を被告の負担とし,その余を原告らの負担とする。
 5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 請求
 1 被告は,原告X1に対し,8264万4329円及びこれに対する平成14年12月8日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告は,原告X2に対し,330万円及びこれに対する平成14年12月8日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
  本件は,横断歩行者と普通乗用自動車とが衝突し,横断歩行者が傷害を負った事故(以下,「本件事故」という。)に関し,横断歩行者である原告X1(事故当時70歳。以下,「原告X1」という。)が,普通乗用自動車の運転者である被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,8264万4329円及びこれに対する不法行為の日である平成14年12月8日(本件事故の発生日)から完済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,また,原告X1の妻である原告X2(以下,「原告X2」という。)が,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,330万円及びこれに対する平成14年12月8日から完済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。
 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び括弧内に掲示した証拠により容易に認められる事実)
  (1) 当事者(弁論の全趣旨)
    原告X1と原告X2は,夫婦である。原告X1は,平成17年7月6日,札幌家庭裁判所において後見開始の裁判がなされ,同日,原告X2が成年後見人に選任された。
  (2) 本件事故の発生(甲1,甲2,乙5ないし乙9,弁論の全趣旨)
   ア 発生日時 平成14年12月8日午後7時25分ころ
   イ 発生場所 札幌市南区南39条西10丁目1番付近路上(以下,「本件事故現場」という。)
   ウ 加害車両 被告が運転していた普通乗用自動車(札幌○○○ろ○○○○。以下,「本件加害車両」という。)
   エ 事故態様 被告が本件加害車両を運転し,別紙の「交通事故現場見取図」(以下,「別紙図面」という。)の直線道路(以下,「本件道路」という。)を,北から南へ時速約40キロメートルの速度で走行していたところ,本件道路を東から西へ横断しようとした原告X1と衝突した。
  (3) 原告X1の傷害及び入通院状況
   ア 原告X1は,本件事故により,頭蓋骨骨折,脳挫傷,脊髄損傷,右肺挫傷等の傷害を負った。
   イ 原告X1は,本件事故後,平成17年8月19日の症状固定日まで,次の各病院に,延べ986日間入院し,治療を受けた。
    (ア) 北海道大学医学部附属病院(以下,「北大病院」という。)
      平成14年12月8日から平成15年4月4日まで(入院118日間)(甲4,甲10,乙10)
    (イ) 北海道脳神経外科記念病院(以下,「道脳神経外科」という。)
      平成15年4月4日から平成16年3月11日まで(入院343日間)(甲9)
    (ウ) 定山渓病院
      平成16年3月11日から平成17年8月19日まで(入院527日間)(甲11)
  (4) 原告X1の後遺障害
    原告X1は,平成17年8月19日,定山渓病院において症状固定と診断され,意識・嚥下・言語障害,四肢麻痺の後遺症を負い,同年12月22日,自賠責保険後遺障害等級自賠法施行令別表第1第1級第1号の認定を受けた。
  (5) 既払金
    原告X1は,損害の填補として,529万6186円の支払を受けた。
 2 争点
  (1) 過失相殺の割合。(争点①)
  (2) 原告らの損害額。(争点②)
 3 争点に対する当事者の主張
  (1) 争点①(過失相殺の割合)について
  (被告の主張)
   ア 被告は,走行中,左前方への注意を欠いていたものの,右前方センターライン付近を注視しており,前方を全く注視していなかった訳ではない。
     以上のとおり,被告の過失は大きくなく,他方で,原告X1には,次のイのとおり,本件事故の発生に寄与するところが大きく,原告X1の過失割合は40%を下らない。さらに,原告X1が見通しの悪い南方向から車両が来ることを恐れ,横断中に本件事故現場で佇立して南方向を注視していた可能性もあり,そうであれば,その過失割合は50%に及ぶものといえる。
   イ 原告X1には,次のとおり,過失割合を加算すべき事実がある。
    (ア) 本件道路は,幅員が16メートル以上ある札幌市内でも有数の幹線道路であって,本件事故の起きた日曜夜間でも,1分間に双方向併せて少なくとも50台の車両が通過するほどの交通量がある。さらに,本件事故現場北側には直線が続き,南側にはアンダーパスがあり,通行車両がスピードを出しやすい区間であって,かつ,本件事故現場南側100メートル付近から本件道路は大きくカーブしており,見通しもよくない。このように,本件事故現場は,横断するには極めて危険を伴う場所であった。
      原告X1は,本件事故発生当時ケーキを抱えていたことから,本件事故現場を徒歩ないし小走りで横断しようとしていたと考えられる。徒歩ないし小走りでは,横断には少なくとも10秒はかかるところ,本件道路の交通量に照らせば,その間に一台も車両が通過しないことは通常ありえないことから,原告X1は,通行車両との衝突が必至であるような態様で横断したといえる。
    (イ) 本件事故現場の北側約150メートルの位置には,信号機の設置された横断歩道がある。本件道路を横断することの危険性に照らせば,本件道路を横断しようとする者は,同横断歩道を利用すべきである。本件道路を北から南進してきて,本件事故直前に同横断歩道を通過している被告も,本件道路を横断する者は当然この横断歩道を使うものと考え,横断しようとする歩行者はないと信用していたのであり,かかる信用は保護されるべきである。
    (ウ) 本件事故は,0度を下回る寒い冬季の夜間に発生している。仮に当時晴天であったとしても路面が凍結する可能性があり,横断する際の危険は,さらに高かったといえる。
    (エ) 原告X1は,本件事故発生時,黒っぽい服装を着用しており,視認しにくい状態にあった。
  (原告らの主張)
   ア 被告の過失相殺の主張は争う。
     被告は,衝突まで原告X1の存在に気付いておらず,著しい前方不注視をしており,その過失の程度は重大である。
     一般道路における横断歩行者と直進自動車の衝突という形態であれば,基本過失割合は,原告X12割,被告8割であるところ,本件道路が幹線道路であり,原告X1の過失割合に10パーセントの加算したとしても,本件事故現場付近は,商店街であるので,5パーセントの減算をし,原告X1が高齢者であることから,5パーセントの減算をすべきである。さらに,被告が前記のとおり,著しい前方不注視をしていることから,被告に20パーセントの過失割合を加算することになれば,結局,本件事故は,過失相殺をすべき事案とはいえない。
   イ (被告の主張に対する反論)
    (ア) (被告の主張(ア)に対し)本件事故が起きたのは,交通量の少ない日曜の夜間であり,本件事故当時,本件加害車両の前後に走行車両は無く,本件道路の交通量は少なかった。したがって,本件道路が交通量が多いことを前提とした横断の危険性に関する被告主張には根拠がない。
      また,本件道路は,見通しがよく,付近には店舗が多数あり街灯も設置されていた。また,被告も,衝突地点の42.6メートルも手前から原告X1を視認可能であったことを認めている。したがって,本件事故現場が見通しがきかないことを前提とした横断の危険性に関する被告の主張には根拠がない。
    (イ) (被告の主張(イ)に対し)本件事故現場からの直近の横断歩道は,北側に約150メートルも離れており,横断歩道付近における事故を同視することはできない。
    (ウ) (被告の主張(ウ)に対し)本件事故現場の路面が乾いていたことは被告も自認している。
    (エ) (被告の主張(エ)に対し)本件道路は,見通しのよい直線道路である上,街灯が設置され,付近には店舗も多数あり,本件事故当時も,現場付近の視認状況は良好だった。
  (2) 争点(2)(原告らの損害額)について
  (原告らの主張)
   ア 原告X1の損害
    (ア) 症状固定日までの治療費 340万6767円
    (イ) 近親者による症状固定日までの付添看護費 647万2000円
      原告X2は,本件事故から症状固定日まで原告X1の入院期間のうち809日間,原告X1の付添看護を行った。
      原告X1は,本件事故により,前記のとおり重篤な傷害を負い,遷延性意識障害が発生し,原告X1の年齢等も考えれば,近親者による付添看護をすべき必要性があった。原告X2は実際に入院の全期間,付添を行っている。
      付添看護にかかる日額単価は8000円が相当である。
      したがって,上記単価に付添日数を乗じて算定すると,次のとおり,647万2000円である。
     (計算式)
      8000円×809日=647万2000円
    (ウ) 症状固定後の付添看護費 2528万3696円
      原告X1は,上記のとおり重篤な後遺症を負っており,今後も将来にわたり,常時介護が必要な状態にある。
      原告X1は,原告X2と二人で暮らしているところ,原告X2も就労可能年齢である67歳を既に超えていることから,症状が固定した平成17年から,原告X1が男子平均余命である78歳に達する平成22年までの5年間,職業付添人による介護が必要である。
      その場合の付添看護にかかる日額単価は,1万6000円が相当である。
      したがって,症状固定後の職業付添人費用は,次のとおり,算定された2528万3696円である。
     (計算式)
     1万6000円×365日×4.3294(年5パーセントのライプニッツ係数を前提としている。)=2528万3696円
    (エ) 入院雑費 157万9200円
      原告X1の症状固定までの入院日数は987日(なお,前記第2の1前提となる事実(3)イのとおり,延べ986日間入院した事実が認められるが,ここでは,原告ら主張のとおり記載する。)であり,一日あたりの入院雑費を1600円とする。
     (計算式)
     1600円×987日=157万9200円
    (オ) 入院慰謝料 400万円
      原告X1は,本件事故により症状固定までの間少なくとも約33か月間にわたる長期の入院生活を余儀なくされており,その慰謝料としては上記金額が相当である。
    (カ) 後遺障害慰謝料 3000万円
      原告X1は本件事故により自賠責保険後遺障害等級自賠法施行令別表第1第1級第1号の認定を受けて,現在も意識障害が継続しており,今後も完全に回復する見込みはない。その慰謝料としては上記金額が相当である。
    (キ) 症状固定までの交通費等 139万6198円
     a 原告X1の症状固定までの入院において,原告X2による付添看護が必要であった以上,これに要した原告X2の病院までの次の交通費等諸費用も,本件事故と相当因果関係があるものと認められるべきである。 53万4198円
     b 原告X1の傷害の程度,年齢等を考慮すれば,東京に居住する原告らの長男が,原告X1の見舞いに訪れるのも当然であり,長男の病院への交通費も本件事故との相当因果関係が認められる。被告が契約していた保険会社も,かかる交通費につき,相当因果関係を認めて支払った経緯がある。 86万2000円
    (ク) 賠償請求のための文書費用等 23万7485円
      原告X1は,自賠責保険後遺障害等級の認定の申請手続等のため,被告が契約していた保険会社の要請により,原告X1の入院した各病院から,カルテやレントゲンフィルム等の文書を取得した。その際に支出した費用23万7485円は,本件事故と当然に相当因果関係がある。
    (ケ) 症状固定後のおむつ代 19万3264円
      原告X1は意識障害が残存しており,今後も回復する見込みはほとんどないとされており,おむつの着用が必要である。
      現在入院中の病院において,月額平均約3720円をおむつ代として支払っている。
      症状の固定した平成17年から,原告X1が男子平均余命である78歳に達する平成22年までの5年間についておむつ代の支出を要することになる。
      したがって,症状固定後のおむつ代は,次のとおり,算定された19万3264円である。
     (計算式)
     3720円×12か月×4.3294(年5パーセントのライプニッツ係数) ≒19万3264円(小数点以下切捨て。以下同じ。)
    (コ) 福祉車両費 151万円
      原告X1が上記のような重篤な後遺障害を負っていることからすれば,原告X1の外出には福祉車両の存在が必要である。原告X2の現在所有する車両は小型車であり,これを改造して福祉車両とすることは不可能であり,新たに福祉車両を購入する必要がある。福祉車両新車の金額は302万円であるが,原告らも新車購入により独自の利益を得るから,その半額の151万円につき,本件事故との相当因果関係が認められる。
    (サ) 症状固定後の入院費用等 635万1905円
      原告X1は,本件事故により上記のとおり重篤な後遺障害を負って,事故直後から現在まで病院に入院しており,今後も相当長期間にわたり入院が継続すると予想される。
      仮に退院することができたとしても,その症状の重篤さからすれば,入院しているのと同等の金額の医療費がかかると考えられる。
      平成18年3月分から同年5月分までの入院費用の平均月額が12万2263円であったことから,これを基準とし,症状の固定した平成17年から,原告X1が男子平均余命である78歳に達する平成22年までの5年間について将来の入院費用等の支出が必要である。
      なお,原告X1については,入院期間中も別途付添看護が必要なことは先に述べたとおりであり,将来分の付添看護費と将来入院費用は,共に請求することができる。
      よって,症状固定後の入院費用等は,次のとおり算定された635万1905円である。
     (計算式)
     12万2263円×12か月×4.3294(年5パーセントのライプニッツ係数) ≒635万1905円
    (シ) 弁護士費用 751万円
      被告が原告らの損害について任意の賠償に応じないため,原告らは原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起及び追行を委任することを余儀なくされたのであり,弁護士費用は本件事故と相当因果関係のある損害である。原告X1の受けた損害額は,上記(ア)から(サ)までの合計8043万0515円であって,弁護士費用は,同損害額から既払金529万6186円を控除した7513万4329円の約1割に当る751万円が相当である。
      なお,被告は,原告らが自賠責保険の後遺障害保険金の被害者請求手続を行っていないことをもって,高額の弁護士費用等を取得するためのものだとして,自賠責保険から支払を受けることのできる保険金相当額の損害については,弁護士費用と本件事故との相当因果関係を否定すべきと主張する。
      しかし,自賠責保険の被害者請求手続を行うか否かは,被害者にゆだねられており,原告らは,被告に自らの出捐をもって損害の賠償を求めることで,本件事故の重大さを再認識してもらうとの気持ちから,上記被害者請求手続を行わなかったものであり,被告の主張するような弁護士費用取得を目的とするものではなく,被告の主張には理由がない。
   イ 原告X2の損害
    (ア) 原告X2の慰謝料 300万円
      原告X2は,夫である原告X1が重篤な後遺障害を負ったことにより,多大な精神的苦痛を被っており,慰謝料として上記金額が相当である。
    (イ) 弁護士費用 30万円
      原告X2の被った損害額は300万円であり,その弁護士費用は1割に当たる30万円が相当である。
  (被告の主張)
   ア 原告X1の損害についての反論
    (ア) 治療費
      全額認める。
    (イ) 近親者による症状固定日までの付添看護費
      認められない。
      原告X1は,完全看護体制の病院に入院している。原告X1の意識障害のレベルは,JCS-200(日本昏睡尺度によれば,刺激しても覚醒せず,少し手足を動かしたり,顔をしかめるというもの。)であり,原告X1を担当した医師も,家族による付添看護の必要性に否定的である。
      原告X2による付添看護の原告X1の病状改善に与える効果については医学的に明らかでない。
      そうすると,原告X2による付添看護の必要性を前提とする損害については,本件事故との間に相当因果関係があるとはいえない。
    (ウ) 症状固定後の付添看護費
      認められない。
      原告X1は,今後も常時,医療機関における看護・治療体制に置くことが必要であり,生涯にわたり入院生活が継続すると考えられる。
      また,完全看護体制の病院に入院している限りは,別途付添看護する必要はない。
      そうすると,症状固定後についても,原告X2の付添看護の必要性を前提とする損害については,本件事故との間に相当因果関係があるとはいえない。
    (エ) 後遺障害慰謝料
      相当額について争う。
      原告X1は,口頭弁論終結時点において,74歳であり,年間318万9192円の年金を受領していることからすれば,逸失利益が観念できない一方で,安定した経済状態にあることを考慮すべきである。
    (オ) 交通費
      認められない。
      原告X2による原告X1の付添看護の必要性が否定される以上,かかる付添看護のために必要となった原告X2の交通費も,その必要性が否定される。認められるとしても,数回分の往復の交通費程度である。
      長男の交通費については,本件事故との相当因果関係は認められない。
      被告が契約していた保険会社からの支払は,交通費の必要性を認識して支払ったものではなく,費目を確定せずに,損害賠償の一部として支払ったに過ぎない。
    (カ) 福祉車両費
      認められない。
      原告X1は今後も入院生活を続けると考えられ,退院して,自宅療養に移る可能性は低く,車両を用いて外出するとは考えられない。
      また,現在福祉車両は,標準仕様車両と大差ない金額で購入でき,税金等の関係で,標準仕様車よりも安価な福祉車両も多い。
      以上からすれば,原告ら主張の福祉車両名目の損害は,本件事故と相当因果関係があるとはいえない。
    (キ) 弁護士費用
      認められない。
      原告X1は,自賠責保険後遺障害等級自賠法施行令別表第1第1級第1号の認定を受けており,自賠責保険の後遺障害保険金の被害者請求手続を行えば,4000万円程度の金銭を受領できる。
      それにもかかわらず,かかる手続きを採らずに訴訟を提起し,判決を求めているのは,高額の弁護士費用ないし遅延損害金の取得を意図してのことと考えられる。
      したがって,この4000万円にかかる部分についての弁護士費用は,本件事故と相当因果関係のある損害とはいえない。
   イ 原告X2の損害についての反論
     原告X1の慰謝料及び弁護士費用についての反論と同じである。
第3 争点に対する判断
 1 争点①(過失相殺の割合)について
  (1) 前記第2の1の前提となる事実で認定した事実に加え,後記認定に供した証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
   ア 本件事故現場の状況
     本件道路は,別紙図面記載のとおりであり,札幌市をほぼ南北に走り,札幌市の中心街に至る双方向通行,車道の幅員が16メートルから17.9メートルある片側2車線の4車線の国道である。本件道路の車道の両端には,幅員約4.5メートルの歩道がある。
     最高制限速度は時速50キロメートルで,駐車禁止の規制が設けられている。
     本件事故現場の北側約150メートルの位置には,信号機による交通整理の行われている横断歩道(以下,「本件横断歩道」という。)がある。
     本件事故現場北側は,直線道路が続いているが,本件事故現場南側は,現場から約100メートルの位置から西方向にカーブしているため,本件事故現場付近からはそれより南側の様子は見えにくい。
     本件道路の本件事故現場付近の両側に商店がある。本件事故現場の東側路側帯にはバス停があり,いわゆるバスベイとして,車道の幅員が東方向に最大1.9メートル広がり,歩道の幅員が同距離分狭くなっている。本件事故現場付近には街灯が設置されており,夜間でも比較的明るく,本件事故現場の北側42.6メートルの位置(別紙図面記載の②地点)からでも本件事故現場(同③地点)を視認可能であった。
     本件道路の車両交通量は,幹線道路であるため,日曜日の夕方から夜間にかけても多いが,信号の関係で車列がとぎれることもある。
     本件事故は,平成14年12月8日午後7時25分頃に発生し,当時現場の天候は曇りであり,本件道路路面は乾燥していた。(甲1,甲2,乙4,乙12,乙21の1ないし4,乙22,乙26から乙29まで)
   イ 本件事故の発生(甲1,甲2,甲19,乙5から乙9,乙11,乙12,乙14,乙20,乙26)
    (ア) 被告は,本件加害車両を時速40キロメートルの速度で運転し,本件道路センターライン寄り車線(以下,「本件車線」という。)を大通方面から川沿方面に向かい,進行していた。本件加害車両の前後直近には,走行する車両は無かった。
      本件事故現場に至る前に,本件横断歩道を通過した被告は,本件道路を横断する者はこれを横断するであろうとの思いと,以前に本件道路のセンターライン付近に人がいたのを目撃したことがあったことから,センターライン方向に当たる本件加害車両右前方を注視して,運転していた。被告は,平成17年12月8日午後7時25分ころ,本件事故現場(別紙図面記載③地点)に差し掛かったが,突然ドンという音とともにフロントガラスが蜘蛛の巣状に割れ,本件加害車両が何かと衝突したことに気付いた。
      被告は直ちにバックミラーで後方の様子を確認し,倒れている人影を発見したものの,急停止はせずに,現場から約125メートル南に進行して同図面④地点にゆっくりと本件加害車両を停止させた。被告が本件加害車両を降りて,現場方向に向かったところ,衝突地点から20メートルほど南の車道上の同図面(転)地点で,頭から血を出して倒れている原告X1を発見した。
    (イ) 原告X1は,本件事故現場東側路側帯にあるバス停でバスから降車した後,同バス停のある本件道路東側から,自宅のある本件道路西側に向けて,本件道路を横断しようとしたと考えられ,原告X1は,ケーキを抱えていたことから,徒歩ないしせいぜい小走りの程度の速さで横断を開始したものと推測される。
      原告X1は,紺色の上着,紺色のズボンを着用し,黒色の革靴を履いていた。原告X1は,歩道から6.9メートル付近の別紙図面(ア)地点まで本件道路を横断したところ,北側から時速40キロメートルで走行してきた本件加害車両と衝突し,本件加害車両のフロントガラス等に体や頭を強く打ち付け,衝突地点から20メートルほど離れた同図面(転)の地点で,頭を西に,足を東に向けて,転倒した。
  (2) 以上の事実によれば,被告の過失を基礎づける事実として次のとおりの事実を認めることができる。
   ア 本件事故現場は,夜間とはいえ被告の進行方向からは,40メートル以上手前の地点で,本件事故現場を視認可能であった。他方で,原告X1は,徒歩ないし小走りの程度の速さで,横断を開始したことからすれば,被告が本件事故現場を視認可能な地点に差しかかった時点で,既に本件道路に進入しており,被告は,前方左右を注視していれば,本件事故現場を横断中の原告X1を発見することができたといえる。
   イ 被告は,時速約40キロメートルで本件道路を走行していたのだから,原告X1を発見可能な地点で,直ちに原告X1に気付き,ブレーキをかけて本件加害車両を停止させれば,本件事故を回避することは容易であった。
   ウ 被告は,原告X1と衝突するまで,全く原告X1の存在に気付いておらず,衝突時に制動措置やハンドルを切るなどの衝突回避の行動を全く取っていない。
   エ 本件事故現場から北側に約150メートル離れた地点に,本件横断歩道があったとしても,本件事故現場付近には,バス停や店舗があること,さらに,本件事故の発生した時間帯からすると,歩行者が本件道路を横断することも十分予測できた。
    以上の事実によれば,被告が前方の安全を確認して走行すべき注意義務があるにもかかわらず,左前方への注意を怠ったまま本件加害車両を運転した過失によって,本件事故を惹起したというべき(ママ)あり,被告が規制速度以下の速度で走行していたことや本件道路が交通量の多い幹線道路であることを考慮しても,被告の上記過失の程度は著しいというべきである。
    他方で,原告X1についても次のとおり過失を基礎づける事実を認めることができる。
   (ア) 本件道路は,幅員が約16メートルもあり,交通量も比較的多い片側2車線の幹線道路である。また,本件事故現場南側は,現場から約100メートルの地点で西側にカーブしているため,南側から来る走行車両は見えにくい。また,本件事故発生の時間帯は,本件道路の交通量が少ないとはいえなかった。そうすると,本件事故現場付近は,歩行横断する際にしては危険が伴う場所であった。
   (イ) 本件加害車両は,本件車線を時速約40キロメートルで直進していたことを(ママ)からすると,原告X1が本件事故現場を横断する際,本件道路の北側(原告X1にとって右側)を十分注意していれば,本件加害車両の存在に気付いたと考えられる。
   (ウ) 原告X1は,本件道路の西側に自宅があり,本件事故現場を横断する際の危険性については熟知していたと考えられる。
   (エ) 原告X1は,自動車運転者の視認状況が悪くなる夜間に,視認しにくい暗色系の服装を着用して,横断した。
    以上の事実によれば,原告X1が危険性の高い本件事故現場付近を徒歩で横断しようとしていたこと,さらに横断の際に走行車両の有無に十分に注意を払っていたとはいえないことからすると,原告X1にも過失が認められる。
    以上認められた過失の内容・程度及び原告X1が当時70歳で高齢であったことなどを総合考慮すると,原告らの損害につき,20パーセントの過失相殺をするのが相当である。
  (3) これに対し,被告は,原告X1が,本件事故現場南側からの走行車両の存在を気にして同方向を注視して佇立していた可能性を指摘するが,本件事故現場南側の見通しが悪いという事実のみで,本件事故現場において佇立していた事実を前提に過失割合を考慮することはできない。
 2 争点②(原告らの損害)について
  (1) 原告X1の損害について
   ア 症状固定日までの治療費 346万6767円(A)
    原告X1の症状固定日までの治療費が346万6767円であることは当事者間に争いがない。
   イ 近親者による症状固定日までの付添看護費 242万7000円(B)
    (ア) 付添看護の必要性について争いがあるのでまず判断する。前記第2の1前提となる事実に加え,後記認定に供した証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
     a 原告X1は,本件事故直後,北大病院救急部に搬入され,本件事故によって,同科で,頭部外傷による意識障害と右胸腔内・腹腔内出血による出血性ショックを認め,緊急で開胸開腹術が施行されるなどし,その後の平成15年4月4日まで同病院に入院した。入院時の初診では,頭蓋骨骨折,脳挫傷,急性硬膜下血腫,脊髄損傷等の受傷が診断された。
       その後も幾度か脳神経系を中心に手術が行われたが,原告X1の意識障害は遷延し,ほとんど意識が無い状態で,明らかな従命動作は認められず,四肢は動かせない状態であった。
       同病院では,いわゆる完全看護体制が取られている。原告X2は,本件事故直後から毎日,同病院に通い,拭体,洗髪,剃髭等,原告X1の身の回りの世話を行っていた。
       原告X1は,平成15年3月ころから,車椅子による院内散歩が許可され,原告X2が車椅子への乗車から散歩などを行った。(甲4,甲10,甲23,甲25,乙10)
     b 原告X1は,平成15年4月4日,原告X1の容態が安定したため,リハビリ目的で道脳神経外科に転院した。
       同病院では,定期的な検査・対処治療を繰り返しつつ,四肢のリハビリ治療が行われた。この間も意識障害は継続し,会話は不可能の状態が続いた。
       同病院では,完全看護体制が取られている。原告X2は,毎日,同病院に通い,拭体,洗髪,剃髭等の身の回りの世話や,車椅子による院内散歩,話し掛けを行うなどした。(甲5,甲9,甲24,甲25)
     c 原告X1は,平成16年3月11日,定山渓病院に転院した。原告X1は,定期的な検査及び治療並びにリハビリを受けている。この間も意識障害は継続し,会話は不可能の状態が続いた。
       同病院では,完全看護体制が取られている。原告X2は,毎日,同病院に通い,拭体,洗髪,剃髭等の身の回りの世話や,車椅子による院内散歩,新聞の読み聞かせ,話しかけ等を行うほか,療法士がいない日のリハビリを行っている。(甲11,甲20,甲25,乙23)
      以上の認定事実によれば,原告X1は,重度の脳損傷を受け,遷延性意識障害が継続していることが認められ,かつ,一般に重度の脳障害による意識障害においては,脳賦活及び脳機能維持のための環境を整備し,家族による病院の看護の補助あるいは患者に対する声かけなどの刺激を与えることは必要といえることに照らすと,原告X1には本件事故後から少なくとも症状固定日まで付添看護の必要性があったことは明らかである。
    (イ) そして,原告X2の付添の態様,看護内容等を総合考慮して,本件事故日から症状固定日までの986日間のうち,原告X1が請求する809日間については,1日当たり3000円の割合で付添看護費を認めるのが相当である。
      そうすると,近親者による症状固定時までの付添看護費は,次のとおり算出された242万7000円と認める。
     (計算式)
      3000円×809日間=242万7000円
   ウ 症状固定後の付添看護費 316万0462円(C)
     前記イ(ア)で認定した事実及び証拠(甲25)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,定山渓病院に入院し,完全看護を受けており,かつ,今後も同所において引き続き看護を受ける見込みであること,他方で,原告X2は症状固定後も前記施設を訪れ,マッサージ,声かけなどを行っていることが認められる。
     以上からすると,原告X1は,症状の悪化の防止等のために,家族による付添が必要とされ,将来も原告X1の症状が改善する見込みはないことから原告X1の推定余命期間にわたり親族による付添看護を認めるのが相当である。
     しかしながら,原告X1に対する看護の内容及び程度,将来の付添看護は基本的に病院等の専門施設で行われ,原告X2による看護は,補助的なものであること,後記のとおり,将来の治療費について別途損害として認めることを併せて勘案すると,症状固定後の付添看護費の額は,1日当たり2000円とするのが相当である。
     これに対し,原告らは,症状固定後の付添看護費につき,原告X1の看護につき,病院等の専門施設でなく,近親者による看護あるいは職業付添人による看護ですべてまかなうことを前提とした主張をしているが,採用できない。
     以上から,原告X1の症状固定後の付添看護費については,次のとおり算出された316万0462円と認める。
     (計算式)
     2000円×365日×4.3294(症状固定日である平成17年8月19日から原告X1の推定余命である78歳までの5年間の中間利息年5分を前提としたライプニッツ係数)
       =316万0462円
   エ 入院雑費 147万9000円(D)
     入院雑費については,1500円とするのが相当である。
     原告X1の症状固定日までの入院日数は,前記第2の1前提となる事実(3)イで認定した(ママ)おり,延べ986日である。
     そうすると,原告X1の入院雑費については,次のとおり算出された147万9000円と認める。
     (計算式)
     1500円×986日=147万9000円
   オ 入院慰謝料 400万円(E)
     原告X1はのべ986日間の入院生活を送っており,その精神的苦痛を慰謝するため,上記金額が慰謝料として相当である。
   カ 後遺障害慰謝料 3000万円(F)
     原告X1は,自賠責保険後遺障害等級自賠法施行令別表第1第1級第1号の認定を受けている。原告X1の症状からすると,被告主張の事実を考慮しても,その慰謝料としては,上記金額が相当である。
   キ 交通費等
    (ア) 原告らは,原告X1の入院付添看護の必要があることを前提に,原告X1の症状固定時までの原告X2の付添交通費を請求している。しかし,前記のとおり,原告X1について入院付添看護の必要性については,肯定できるものの,入院付添看護費用には,付添のための交通費も含まれると解するので,特段の事情がない限り,原告X2の入院付添看護のための交通費について別途本件事故との相当因果関係がある損害と認めることはできない。
      本件では,全証拠によっても前記特段の事情を認めることができず,原告らの主張には理由がない。
    (イ) また,原告らの長男が,見舞いのために自宅のある東京と病院のある北海道を往復する航空費の請求をしている。
      原告X1の年齢,障害の程度及び原告X2の年齢等に照らし,長男が見舞いや医師との交渉のために,一定回数病院を訪れることもまたやむを得ないものと認められるものの,これらの費用は,入院慰謝料,近親者慰謝料と別に本件事故との相当因果関係がある損害と認めることはできず,原告らの主張には理由がない。
    (ウ) なお,原告らは,被告が契約していた保険会社が長男の交通費名目で金銭を交付したことをもって,被告が長男の交通費を認めたと主張するが,証拠(甲7)によれば,保険会社からのかかる支払いは,入院雑費及び慰謝料の先払い分としてなされたと認めることができ,原告らの主張は採用できない。
   ク 文書費用等 23万7485円(G)
     証拠(甲12の1,2,甲13から15まで,甲22)によれば,原告らは,本件事故による損害等の立証のために,各病院から文書を取得し,少なくとも原告らが請求する23万7485円の支出を余儀なくされたことが認められ,同文書料等は,本件事故との相当因果関係のある損害と認められる。
   ケ 症状固定後のおむつ代
     証拠(甲16の1,2)によれば,原告X1にはおむつ代が月額平均3720円かかっているものの,これは入院費用の中に含まれていることが認められる。
     後記認定のとおり,本件では,症状固定後の入院費用等については,本件事故と相当因果関係のある損害と認めるものであるが,これと別におむつ代を請求することはできない。
   コ 福祉車両代
     前記認定のとおり,原告X1は,今後も生涯にわたり入院生活を送る必要があると認められ,日常的に外出する可能性があり,近い将来福祉車両を必要としてこれを購入する蓋然性は低いといえる。
     したがって,福祉車両費について本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
   サ 症状固定後の入院費等 628万6288円(H)
     前記認定のとおり,原告X1は,今後も生涯にわたり入院生活を送る必要があり,その入院にかかる費用は,証拠(甲16の1,2,甲21の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,月額約12万1000円相当と認められる。
     症状の固定した平成17年から,原告X1が男子平均余命である78歳に達する平成22年までの5年間について,ライプニッツ方式により中間利息を控除するため,5年のライプニッツ係数4.3294を乗じた額を計算すると,症状固定後の入院費用等は,次のとおり算出された628万6288円と認める。
    (計算式)
    12万1000円×12か月×4.3294≒628万6288円
   シ 過失相殺減額
     前記認定のとおり,原告X1に生じた損害である(A)から(H)までの合計額5105万7002円から,2割の過失相殺を認めるのが相当であるから,過失相殺後の原告X1の損害額は,次のとおり算出された4084万5601円となる。
     (計算式)
     5105万7002円-5105万7002円×0.2≒4084万5601円(I)
   ス 既払金控除
      既払金が529万6186円であることは当事者間に争いはない。既払金を次のとおり控除すると,
     (計算式)
      4084万5601円-529万6186円=3554万9415円(J)
   セ 弁護士費用 200万円(K)
     本件事案の内容等一切の事情(特に被告が指摘するように前記第2の1前提となる事実(4)記載のとおり,原告X1は自賠責保険後遺障害等級自賠法施行令別表第1第1級第1号の認定を受けており,自賠責保険の後遺障害保険金の被害者請求手続を行うことにより,相当額の自賠責保険を受領できたことなどかかる事情)を考慮すると,本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は原告X1につき200万円が相当と認める。
   ソ 原告X1の損害の合計額
     3554万9415円(J)+200万円(K)=3754万9415円
  (2) 原告X2の損害について
   ア 近親者慰謝料 200万円
     原告X1が上述のような重篤な後遺障害を負ったことにより,原告X2は,多大な精神的苦痛を負っていること及び看護を続けてきたことなどから,その慰謝料は,上記金額が相当である。なお,近親者慰謝料については,原告X1の過失割合については,考慮しないのを相当と判断した。
   イ 弁護士費用 20万円
     本件事案の内容等一切の事情を考慮すると,本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は原告X1につき20万円が相当と認める。
   ウ 原告X2の損害の合計額
     200万円+20万円= 220万円
第4 結論
   以上により,原告らの被告に対する各請求は,原告X1につき3754万9415円及びこれに対する本件事故日である平成14年12月8日から完済まで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,原告X2につき220万円及びこれに対する本件事故日である平成14年12月8日から完済まで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があることから,これらを認容し,その余は理由がないことからこれを棄却することとし,仮執行免脱宣言は相当でないので付さないこととし,主文のとおり判決する。
    札幌地方裁判所民事第1部
           裁判官  澤井真一

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