東京地方裁判所判決 平成18年3月29日

症状固定時32歳の主婦が高次脳機能障害(5級2号)、複視(14級相当)・右眼視野欠損(13級2号)等の眼の障害(併合13級相当)、そしゃく障害(10級2号)、骨盤骨変形(12級5号)、外貌醜状(7級12号)、左下肢の瘢痕(14級5号,併合3級)の後遺障害を負った場合において、2200万円の後遺障害慰謝料を認めた。
       主   文

 1 被告らは,原告に対し,連帯して9150万4089円及び内金8446万7124円に対する平成11年5月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用はこれを5分し,その2を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。
 4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 請求
   被告らは,原告に対し,連帯して1億5640万8258円及び内金1億4937万1293円に対する平成11年5月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 争いのない事実等
 (1)交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
   ア 日  時 平成11年5月3日午前11時40分ころ
   イ 場  所 東京都千代田区〈省略〉先路上(以下「本件現場」という。)
   ウ 第1車両 大型自動二輪車(車両番号 〈省略〉,以下「A車」という。)
      運転者 被告A(以下「被告A」という。)
   エ 第2車両 普通乗用自動車(車両番号 〈省略〉,以下「B車」という。)
      運転者 被告B(以下「被告B」という。)
      保有者 被告D株式会社(以下「被告会社」という。)
   オ 態  様 被告Aは原告をA車に同乗させ,A車を運転して,赤信号を看過して本件現場の交差点(以下「本件交差点」という。)に進入し,交差道路から本件交差点に進入したB車と衝突した。
 (2)原告の傷害
    原告は,本件事故により,頭部外傷後遺症,高次脳機能障害,眼筋機能障害,視野狭窄,顔面骨骨折,意識障害,右尺骨骨折,左脛骨骨折,うつ病,左眼外転神経麻痺,中耳炎,感音難聴等の傷害を負った(甲2ないし6,19,25,26)。
 (3)被告Aの過失及び責任
    被告Aは,車両を運転するにあたり信号に従って走行すべき注意義務があるのにこれを怠り本件交差点に進入した過失があるから,民法709条の責任を負う。
 2 争点
 (1)被告Bの過失及び被告B及び被告会社の責任
   (原告の主張)
    一般に車両等は,交差点に入ろうとし,交差点内を通行するときは,交差道路を走行する車両の有無及び動向を注視し,できる限り安全な速度と方法で走行しなければならない(道路交通法(以下「道交法」という。)36条4項)。したがって,被告Bには,本件交差点に進入するにあたり,交差道路である晴海通りを走行する車両に特に注意し,できるだけ安全な速度と方法で進行すべき注意義務が認められる。
    本件交差点における被告Bの見通しは,前方は200メートルくらい,左右は30ないし40メートル見通せるくらい良好であったにもかかわらず,左右の交差道路から進入する車両等を特に注意して確認しないまま本件交差点に進入したのであるから,被告Bには交差点進入に際しての安全確認義務に違反した過失がある。特に,本件では,被告Bの信号が青に変わった直後に進入する場合であり,交差点内に信号残りの車両が存在する可能性が高いのであるから,なおさら交差道路を通行する車両の存在を予測して,左右の道路状況を注視しつつ,安全な速度で交差点に進入しなければならない。さらに,本件交差点のような幹線道路と幹線道路が交差する大型交差点においては,車両の速度が速く,また,車線の数も多いから,信号残りの車両も通常の交差点に比して多いものである。単に信号の表示のみに目をとらわれるのではなく,交差点内部及びその付近の道路状況にも十分注意しながら交差点に進入を開始すべきであるにもかかわらず,被告Bは,前方信号が青信号に変わったことを良しとして,ことさら左右の道路状況を注視しないまま交差点に進入を開始した。同被告は,ぶつかるまでA車に気が付かなかったもので,左右の道路状況に対する不注視は明らかである。
    また,B車は,A車が17.6メートル移動する間に9.0メートル移動しており,A車の半分以上の速度を出していたことが明らかである。さらに,被告Bは,衝突後急制動を講じたが,衝突地点から20.3メートルも離れた地点に停止しており,B車は時速40キロメートル以上の速度が出ていたと容易に推測される。道交法36条4項の「安全な速度と方法」で交差点に進入を開始したとはいえない。
    自賠責保険においても,本件交差点の見通しからして,交差道路から進入する車両の存在を見落としたとして,被告Bに安全運転欠如の過失が認められている。
    よって,被告Bにも過失があることは明らかであり,被告Aと被告Bとは,共同して原告に損害を加えたといえるから,民法709条,719条前段により,連帯して原告の損害を賠償する責任を負う。
    被告Bは,被告会社の使用者であり,被告会社の業務を執行するにあたり,本件事故を発生させた。また,被告会社は,B車の所有者であり,自己のためにB車を運行の用に供するものである。よって,民法715条,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条本文に基づく損害賠償責任を負う。
   (被告B及び被告会社の主張)
    被告Aは,原告を後部座席に乗せ,晴海通りを桜田門方面から本件交差点を直進しようと走行してきたが,A車進行の片側車線のうち左側2車線は左折車線となっていた。被告Aは,本件交差点直前までこれに気付かず,左折車線を進行してきたが,本件交差点でこれに気付き,左折の車列から逃げるために強引に本件交差点を直進すべく,同交差点内に飛び出した。そのとき対面信号は既に赤色を表示していたが,被告Aはこれを無視し,B車を発見して,スロットを開き加速している。
    他方,被告Bは,日比谷通りを新橋方面に向かって進行しようとしており,本件交差点手前で対面信号が赤色で先頭に停止し,信号待ちをしていたが,対面信号が青色に変わったので発進した。反対車線の対面信号はまだ赤色を表示していた。被告Bが発進して24メートルくらい進行したときに,晴海通りの桜田門側からゼブラゾーンを横切ってB車直前に飛び出してくるA車を発見したが,回避の余地もなく,A車がB車左側角に衝突した。
    本件事故は,被告Bが信号が青に変わってから発進した直後の事故であり,被告Bが速度規制に違反していないことは明らかである。出来る限り安全な速度であり,道路交通法70条の安全運転の義務にも反していない。
    主要幹線道路でしかも幅員のある交通量の多い交差点を,信号を無視して自車前方に飛び出してくる車両の存在は全く予想できない。B車の発進時には,反対車線の対面信号はまだ赤色であり,本件事故当時,交差道路を通行する車両や反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点または直近で道路を横断する歩行者もなかった。本件事故は,不注意にも走行車線を間違えて進行し,本件交差点手前でそのことに気付いてあわてて赤信号を無視して本件交差点に進入した被告Aの一方的過失によるもので,被告Aが,無謀にも本件交差点に進入し加速までして強引に横断を敢行したために発生したものである。
    したがって,被告Bには民法709条の過失はない。
    本件事故は,被告Aの一方的過失によって惹起されたものであるから,被告会社にも自賠法3条の責任はない。
 (2)過失相殺及び被害者側の過失(仮定抗弁)
   (被告B及び被告会社の主張)
    仮に,被告Bに過失があって,責任が認められるとしても,その割合は5%程度が相当であり,10%を超えることはない。
    原告と被告Aは,夫婦であったもので,本件事故当時同居していて,身分上,生活関係上一体をなす関係であった。よって,被告Aの過失を被害者側の過失として評価することが相当である。
    過失相殺は,本件事故当時の事実関係をもとに判断されるべきであり,事故後の事情をも考慮されるとすれば,恣意的な理由付けが可能となって,正義に反する。「既に破綻にひんしている」とは事故当時を基準としての意味である。
    さらに,原告は,A車に同乗して,銀座へ映画を見に行く途中に本件事故に至ったもので,原告は共同運行供用者でもある。
    A車には任意自動車保険が付保されておらず,支払能力が担保されていないので,現実的には被告会社が支払を強制されることになり,被告Aに対する求償を実効あるものとして実現することは困難である。よって,わずかな過失しかない被告B,被告会社が結果的に100%の責任を強要されることになり,極めて不公平であり正義に反する。
    民法722条2項の立法趣旨と最高裁判所の判断(最高裁昭和51年3月25日第一小法廷判決・民集30巻2号160頁)の趣旨は,単に加害者である夫を共同被告とするかどうか,という訴訟技術を超えたものであり,求償関係の一挙解決と紛争の一回的処理の合理性という理由は派生的効用にすぎず,その根本は,不法行為の理念から導き出されたものである。
  (原告の主張)
    原告は,被告Aと共同原告として訴訟を提起しているわけではないので最高裁判例の射程は及ばない。原告と被告Aとは,平成17年3月31日に離婚が成立しており,現在は,身分上,生活関係上,一体をなすとみられるような関係ではなく,求償関係をも一挙に解決し,紛争を一回で処理することができる合理性は存在しない。
    夫婦関係の破綻の判断時点が,事故時である必要は全くなく,求償の循環を防止するとの趣旨に照らせば,その判断時期はむしろ現在の時点(事実審の口頭弁論終結時)であるべきである。
    また,原告は,A車に乗車していただけにすぎず,被告Aの運転に直接ないし間接的に関与したと認めるに足りる事情はない。
    原告自身には何ら過失はないから,過失相殺されるべき事情は存在せず,過失相殺しないことが不公平であるとは到底いえない。
    よって,被告Aの過失を被害者側の過失として斟酌することは許されない。
    被告B及び被告会社が主張する賠償リスクは,共同不法行為による各加害者の被害者に対する損害賠償責任が不真正連帯債務の関係に立つ以上,当然である。
 (3)損害及びその額
   (原告の主張)
   ア 治療費          114万4230円
   (ア)治療状況
      原告は,以下のとおり入通院した。
     a △△病院
       入院 平成11年5月3日から同年7月30日
       通院 平成11年7月31日から平成13年4月13日
     b ▲▲病院(以下「▲▲病院」という。)
       通院 平成11年10月26日から現在まで
     c ◇◇病院(以下「◇◇病院」という。)形成外科
       通院 平成12年12月5日から平成13年11月19日まで
     d ◆病院(以下「◆病院」という。)
       通院 平成16年1月26日から平成16年1月30日まで
   (イ)症状固定日
      原告の平衡機能障害は,当初▲▲病院脳神経外科医師による症状固定日である平成13年7月19日と比較して明らかに症状が悪化しており,◆病院医師の診断によれば,平成16年1月30日とすべきである。
     原告は,△△病院による治療を受け,上記の金額を要した。
   イ 入院雑費          13万3500円
     日額1500円が相当であり,入院期間は89日であるので,上記金額となる。
   ウ 付添看護料(症状固定前) 1373万8500円
     原告は,前記のとおり重篤な傷害を負い,そのために事故発生日から付添看護を要し,症状固定日までの1734日間原告の母F(以下「F」という。)らが毎日付き添った。原告は,顔面骨に多発骨折があったこと等からして生死が危ぶまれる状態にあったものであり,入院期間中の付添看護料は日額6500円を下ることはない。また,原告は退院直後からほとんど体が動かない状態であったため,入浴,移動等に近親者の介護を要した。重篤な平衡機能障害のために一定時間起床を継続することも困難で,高次脳機能障害のため認知障害,性格変化,抑うつ症状等もあり,通院期間中の付添看護料は,日額8000円を下ることはない。
    (計算式)
     6500円×89日+8,000円×1645日
     =1373万8500円
   エ 休業損害        1876万5205円
     原告は,本件事故前は主婦であり,症状固定時35歳であったので,平成15年賃金センサス女子学歴計年齢別(35~39歳)の平均賃金を基礎収入として事故日から症状固定日までの1734日の休業損害は上記金額となる。
    (計算式)
     395万円×1734日÷365日=1876万5205円
   オ 逸失利益        6242万0270円
   (ア)基礎収入
      前記エのとおり,原告は,症状固定時に35歳であり,事故前は専業主婦で,一家の家事全般を1人で担当していた。被告Aとの婚姻前は公務員として長期間勤務していたのであり,その傍ら専門学校に通学するなど,就労意欲,就労能力に欠けるところはない。
      したがって,基礎収入は,平成15年賃金センサス女子学歴計年齢別(35~39歳)の平均賃金395万円とするのが相当である。
   (イ)労働能力喪失率,喪失期間
      原告は,自賠責保険において,併合第3級と認定されている。
     a 精神・神経系統の機能障害  第5級2号
     b(a)眼筋機能障害による複視 第14級
      (b)右眼視野欠損      第13級2号
      (c)(a)と(b)を併合して 13級
     c そしゃく障害        第10級2号
     d 骨盤骨変形         第12級5号
     e 外貌醜状          第7級12号
     f 左下肢瘢痕         第14級5号
      しかし,原告の精神・神経系統の機能障害で第5級2号との認定は低きに失する。原告は,重篤な平衡機能障害のほか,高次脳機能傷害による多彩な認知障害,性格変化の障害が生じており,抑うつ症状もみられる。原告の平衡機能障害は重篤で,家事や就労等に耐えられる状態では到底ない。加えて,原告の高次脳機能障害による認知障害や性格変化も,原告の社会復帰を阻害している。原告は,現在に至るまで,職場復帰はおろか,簡単な家事の手伝いすらも満足にすることができない状態に陥っている。かかる原告の精神・神経系統の機能障害は,少なくとも後遺障害等級3級3号に該当するというべきであり,原告の後遺障害は併合1級に該当する。労働能力喪失率は100パーセントである。また,原告は症状固定時35歳であったから,本件事故がなければ67歳までの32年間就労が可能であった。
   (計算式)
     395万円×100%×15.8026=6242万0270円
   カ 将来付添費(介護料)  5354万9588円
     原告の後遺障害(特に脳外傷後の平衡機能障害及び高次脳機能障害)は重篤であり,日常生活のほとんどの場面において,看視,声掛け,適宜の介入等の介護(付添)が必要となる。ことに原告は,現在被告Aと離婚し,実家に暮らしているが,原告の両親は高齢であり,姉弟もそれぞれ自分の職業,生活を持っており,今後は原告に対して職業付添人を選任する必要が生じる。
     平衡機能障害のため歩行が安定せず,頻繁に横になるため,外出する際には送迎や付添等の援助が必要である。高次脳機能障害のために,医師と十分コミュニケーションをとることができず,指示の内容も忘れてしまうため,通院には近親者の付添が必要である。自宅でも動作が緩慢で,臥床がちのため,ほとんど家事をすることができず,やらせても注意散漫で,きちんとこなすことができないため,家人が援助してやらざるをえない。原告は事故後怒りっぽくなったり,些細な原因により怒鳴ったり殴りかかったりすることもあるので,このような突発的行動に対するケアも必要である。
     原告には将来にわたって付添介護が必要であるところ,かかる原告の障害の重篤性及び職業介護を必要とする事情にかんがみれば,付添費(介護料)の日額は,控えめに見積もっても日額8000円とされるべきであり,35歳の平均余命は51年(ライプニッツ係数18.3389)であるから,症状固定後の付添費(介護料)は,上記金額になる。
   (計算式)
     8000円×365日×18.3389=5354万9588円
   キ 慰謝料
   (ア)傷害慰謝料           250万円
      原告の治療期間が長期に及んでいること,原告の傷害の内容が極めて重篤であったことにかんがみれば,傷害慰謝料としては前記金額が相当である。
   (イ)後遺障害慰謝料        2800万円
      原告は後遺障害等級併合1級に相当するので,上記金額が妥当である。
   ク 損害のてん補及び確定遅延損害金
     原告は,損害のてん補として,平成14年6月28日に2219万円,同年7月9日に2219万円(合計4438万円)の自賠責保険金の支払いを受けた。
     てん補後の残額は1億3587万1293円である。
   ケ 弁護士費用           1350万円
   コ 合計
   (ア)損害賠償金    1億4937万1293円
   (イ)確定遅延損害金     703万6965円
      事故発生の日から各自賠責保険金の支払日までの,同保険金額に対する遅延損害金を請求する。
     (計算式)
      2219万円×0.05×1152日÷365日
      =350万1764円
      2219万円×0.05×1163日÷365日
      =353万5201円
   サ 後遺障害に伴う損害も,不法行為の日に生じた傷害等の結果生じた損害であるから,損害それ自体は不法行為の日に発生しているというべきである。
  (被告Aの認否・主張)
   ア 治療費について
     認める。
   イ 入院雑費について
     1日1300円として89日分(11万5700円)が相当である。
   ウ 付添費(症状固定前)について
     医師の指示がなく,付添看護の必要性がない。
   エ 休業損害について
     原告は被告Aと二人暮らしであり,家事労働の就労実態に照らし平均賃金の80%相当額が適正である。本件事故日から当初の症状固定日までを算定期間とするのが適正である。
   (計算式)
     395万円×80%÷365日×809日=700万3945円
   オ 逸失利益について
     精神・神経系統の機能障害が第3級3号に該当し,その結果併合1級に相当するとの点は否認する。
     原告は主婦であり,その労働能力を低下させるのは,精神・神経系統の機能障害第5級2号と眼の障害13級のみであり,これらを併合し4級(労働能力喪失率92%)相当とするべきである。
   カ 将来の付添費(介護料)について
     介護の必要性を認めることはできない。
   キ 慰謝料について
     傷害慰謝料は175万円,後遺障害慰謝料は1800万円が適正額である。
   (被告B及び被告会社の認否・主張)
   ア 症状固定日について
     原告は,平成13年7月19日の症状と比べ悪化したとして,平成16年1月30日が症状固定日であると主張するが,同日を症状固定日と診断をした医師は,原告を同年1月26日と同月30日に診断した結果である。症状固定後といえども,日々症状に変化はあるのであることは,本件後遺障害の内容から当然に考えられるところであるから,症状固定日が平成16年1月30日であるとする原告の主張は否定されるべきで,平成13年7月19日とするのが正当である。
   イ 治療費,入院雑費,付添費(症状固定前),休業損害について
     被告Aの認否・主張アないしエと同旨
   ウ 通院付添費について
     病院に一人で通うことができるようになっているのであるから必要ない。
   エ 逸失利益について
     原告は労働能力再生産のための出損を伴わない生活であることから,平成13年女子高卒・全年齢の年収323万0300円の80%を基礎収入とし,労働能力喪失率は,最も重篤な後遺障害5級と3級の中間値である89%とし,32歳から67歳までの35年間中間利息を控除した3765万9997円が相当である。
   オ 将来付添費(介護料)について
     原告は,食事,入浴は自立しており,ほとんど床に伏している生活であるとされるが,通院も可能な状態であるとすれば,自宅内での行動については日常常に介護が必要とは判断されない。家族がいる限り家族の介添えで足りると判断される。介護料としては1日3000円程度が相当である。
   カ 慰謝料について
     傷害慰謝料は200万円が相当である。後遺障害慰謝料は1695万円(最も重篤な障害等級5級と併合3級の慰謝料の加重平均)が相当である。
   キ 遅延損害金について
     後遺障害が特定しなければ,後遺障害に伴う損害の支払はできない。よって,最も早くて,後遺障害に対する損害賠償は,後遺障害が特定したときが支払期日になるというべきであり,それ以前は履行遅滞とはならない。
第3 争点についての判断
 1 争点(1)(被告Bの過失及び被告B及び被告会社の責任)について
 (1)証拠(甲1,12,15,乙1,2,被告B本人)によれば,以下の事実が認められる。
   ア 本件現場は,二重橋交差点(神田)方面から愛宕神社(新橋)方面に向かって南北に走る道路(以下「内堀通り」という。)と桜田門方面から銀座方面に向かって東西に走る道路(以下「晴海通り」という。)とが交差する,信号機により交通整理された交差点である。晴海通りは車道幅員32・2メートル,片側5車線で道路中央に中央分離帯が設けられており,車道両側には幅員5.6メートルの歩道がある。内堀通りは,本件交差点から二重橋交差点方面は車道幅員30.6メートル,片側5車線で,中央線は2本線で間にチャッターバーが設けられており,車道両側に歩道がある。また,内堀通りの本件交差点から新橋方面は,車道幅員21メートル,片側2車線で,道路中央に中央分離帯が設けられており,道路両側には歩道(霞ヶ関(西)側幅員3.2メートル,日比谷公園(東)側幅員4.8メートル)がある。いずれの道路も,車線境界線は黄色で標示され,路面はアスファルト舗装され,平坦で乾燥していた。法定速度は,晴海通りが時速60キロメートル,内堀通りが新橋方面は時速50キロメートル,神田方面は時速60キロメートルであった。
   イ 本件交差点は,桜田門方面を除く3方面に横断歩道と自転車横断帯が設けられており,晴海通りには1本,内堀通りの新橋方面には,二輪車用と四輪車用の2本の停止線が明瞭に標示されていた。集中制御式信号機が設置され,本件事故直後は正常に作動しており,神田方面から新橋方面に向かう内堀通りの車両用信号は,赤及び直進左折青矢印22秒,青38秒,黄3秒,赤58秒のサイクル,桜田門方面から銀座方面に向かう晴海通りの車両用信号は赤及び左折青矢印63秒,黄2秒,赤及び直進青矢印8秒,青42秒,黄及び左折青矢印3秒,赤及び左折青矢印3秒のサイクルとなっていた。晴海通りの西側(桜田門方面)には左折専用車線が2車線設けられているが,本件交差点の北西角には左折車線と直進車線を画するために,ゼブラゾーンが設置されている。
     本件交差点の左右の見通しはよく,内堀通りの二重橋交差点(神田)方面から本件交差点に進入する場合,停止線からは,右方の視界を遮るものはなく,30メートルから40メートル先まで視認が可能であった。停止線を越えれば,さらに先も見通すことができる。
   ウ 本件事故後,衝突地点である別紙現場見取図の〈×〉地点(以下丸で囲まれた文字,数字等は同図面の地点を示す。)から銀座方面に8.5メートル離れた自転車横断帯上から東側に向かって中央分離帯まで擦過痕が印象されている。中央分離帯の植栽は傾き,根が露出し,葉が散乱していた。
     B車は,前部バンパー及びボンネット並び左前部フェンダーに凹損があり,フロントグリル,左前照灯が破損し,ナンバープレートが欠落した。A車は,前部カイル,左右バックミラー,左ステップが破損し,ギヤーペダルが曲損した。
   エ 被告Bは,内堀通りを二重橋交差点方面から愛宕神社方面に向かって,左側第2車線を進行していたが,本件交差点手前で対面信号が赤色を表示しているのを認め,信号待ちのため停止線で停止し,その後,対面信号が青色に変わったため,発進した。
     他方,被告Aは,原告を後部座席に乗せ,晴海通りを桜田門方面から銀座方面に向かって走行していたが,左側第3車線に車線を変更したところ,同車線は直進専用であり,停止線で停止していた車両があったため,これを追い越して進行した。被告Aは,車線を変更してから80.8メートル進んだ,停止線を越えたあたりで対面信号が赤信号であることに気が付き,さらに,そこから12.4メートル進んだ地点でB車に気が付いたが,停止できず,そこからA車が17.6メートル進行し,B車が発進してから24メートル進行した地点〈×〉地点で,B車前部とA車の左側が衝突し,被告Aは反対車線上〈イ〉の地点に,原告は〈ウ〉の地点に,A車は〈エ〉の地点に転倒した。
 (2)被告Aは,対面信号の赤色表示を看過して進行し,青信号に従って発進してきたB車と衝突したものであり,本件事故は,主に被告Aの過失により発生したものであるというべきである。
 (3)他方,一般に信号に従って交差点内に進入する車両も,前方(交差点内ないしそれに接近する場所)に対する注意は払うべきであり,その注意を怠った場合には過失が認められる。
    被告Bは,発進直前で本能的に右方を見たというものの,ぶつかるまでA車に気が付いておらず,ぶつかった瞬間ドラム缶があたったと思った,衝突の際にはブレーキはかけていないと述べている(被告B本人)。前記(1)のとおり,本件交差点は,左右の見通しがよく,右側は30メートルないし40メートル先まで視認が可能であった。しかし,被告Bは,右側の晴海通りに左折しようとして停止していた車両があったことは記憶しているが,直進車線には車両はなかったような気がする,確実に見たかどうかわからないと述べている(被告B本人)。B車の対面信号が青色を表示していたのであれば,晴海通りの桜田門方面から本件交差点に左折進入する車両の対面信号も青色矢印であり,左折車が停止しているとは考えられず,直進車線に停止していた車両についての記憶があいまいであることからすれば,右方に対する確認が十分であったとはいい難い。
    特に,本件交差点のように,道路幅員が広く,停止線から交差点中央までの距離が長い大型の交差点においては,信号の変わり目において,対面信号が赤色に変わっても強引に交差点内に進入したり,まだ交差点内を走行している車両が存在することも予測されるのであるから,事故を回避するべく特に注意を払うべき義務があるところ,被告Bはかかる義務を怠らなかったとはいえない。
    B車の速度については,B車が衝突後20.3メートル走行して停止しており,被告会社の事故担当であるG(以下「G」という。)が作成した自動車保険料率算定会(以下「自算会」という。)**調査事務所に対する回答において,被告Bが衝突後制動をかけ,制動痕の長さは1メートルであったとされているが,客観的に制動痕の存在,長さを裏付ける証拠はなく,かかる事実のみではB車の速度を確定することはできない。
    なお,Gは,被告Bの報告に基づいて作成したと考えられる前記自算会に対する回答で,本件事故に対する意見として「相手オートバイの速度及び当方の発進直後の事故であった」と回答し,同**調査事務所の事故状況調査書では「交差点進入に際して,左右の確認が不充分(左・右とも30~40m先まで見わたせる)」とされており,その結果,自算会においては,被告Bにも安全運転欠如の過失があったとして,B車とA車の共同不法行為が成立すると判断された(甲15)。
 (4)以上の本件道路の状況,本件事故の態様などを考慮すれば,本件事故については,わずかながら,被告Bにも過失が認められ,本件事故は,被告Aと被告Bの共同不法行為(民法719条前段)によるものと認められる。よって,被告Aと被告Bとは,連帯して原告の損害を賠償する責任を負う。
    被告Bは被告会社の被用者で,本件事故は,被告会社の業務執行中の事故である上,被告会社はB車の所有者であり,自己のためにB車を運行の用に供するものであるから,被告会社は,民法715条1項及び自賠法3条本文に基づく損害賠償責任を負う。
 2 争点(2)(過失相殺及び被害者側の過失(仮定抗弁))について
   被告B及び被告会社は,被告Aの過失を被害者側の過失として評価するべきであると主張する。
   被害者と身分上,生活関係上,一体をなすとみられるような関係がある者の過失は,被害者側の過失として損害賠償の額を定めるについて斟酌される(最高裁昭和51年3月25日第一小法廷判決・民集30巻2号160頁)。
   本件において,原告は,本件事故当時,被告Aと婚姻関係にあったが,現在は離婚に至っており,被告Aを共同被告として本件訴訟を提起していることが認められる(甲27,32,証人F,弁論の全趣旨)。このような事情の下では,原告と被告Aに身分上,生活関係上,一体をなすとみられるような関係があるものとはいえず,被告Aの過失を原告の過失として斟酌することが公平であるとはいえないし,被告Aの過失を斟酌して原告の損害を算定することが,求償関係をも一挙に解決し,紛争を一回で処理することができるといえる場合にあたらない。したがって,被告Aの過失を被害者側の過失として斟酌するべきではない。
   さらに,原告が,被告Aと共に映画を見に行くためにA車に同乗していたとしても,そのことのみで運行供用者であることが肯定されるわけではなく,原告についてA車に対する運行支配・運行利益の存在を認めるに足りる事情は窺えず,被告Aの運転に指示を与えていたなど同被告の運転に直接ないし間接的に関与したと認めるに足りる証拠も認められないから,A車の共同運行供用者であるとはいえない。
   被告Bにわずかな過失しかなくても全額の賠償負担を負うことは,共同不法行為による各加害者の損害賠償責任が不真正連帯債務の関係に立つ以上,やむを得ないものである。
   したがって,被告Aの過失を斟酌して原告の損害を減額することはできないというべきである。
 3 争点(3)(損害及びその額)について
 (1)治療費           114万4230円
   ア 治療経過
     原告は本件事故により受傷し,△△病院に搬送され,同病院に,平成11年5月3日から同年7月30日まで入院した。
     初診時の意識障害は,Japan Coma Scale(JCS)でI-3,Glasgow Coma Scale(GCS)でE4 V2 M4の10点であった。右<左の瞳孔不同,髄液を含む鼻出血がみられ,頭部CTでは外傷性くも膜下出血が認められ,頭蓋底,鼻骨,上下顎骨,左下腿骨,右肘頭の骨折,気胸も認められた。脳損傷に対しては保存的治療が行われ,平成11年5月6日の頭部CTで脳挫傷が認められた。原告の意識障害は高度ではなかったが1か月持続し,顔面骨,左脛骨骨折の観血的整復内固定術,右尺骨骨折のギプス固定などの骨折に対する治療やリハビリを受け,退院に至った。
     原告は,その後も▲▲病院に通院し,頭部外傷後遺症,高次脳機能障害については平成13年7月19日に症状固定の診断を受けた。
     他に◇◇病院形成外科に平成12年12月5日から平成13年11月19日まで通院し,その後◆病院に平成16年1月26日から平成16年1月30日まで通院している。
   イ 症状固定日
     原告は,高次脳機能障害につき,▲▲病院医師J(以下「J医師」という。)が当初症状固定と診断した平成13年7月19日の後,平衡機能障害が明らかに悪化しているので,◆病院医師K(以下「K医師」という。)作成の後遺障害診断書(甲18)において症状固定日とされている平成16年1月30日に症状が固定したと主張する。しかしながら,K医師は,平成16年1月26日と同月30日の2回本人を診察しているだけであり,それ以前の本人を診察しているわけではない。平成14年3月19日作成のFの日常生活報告書(甲8)においても,ふらつきがあったと記載されており,検査は行われていないものの,原告の症状はあったと考えられる。むしろ,原告と生活を共にし,後記のとおり原告の介護を担っているFからみて,原告の症状に通院治療により改善した症状もあるが,あまり変化はなかったとされており(証人F),同後遺障害診断書において症状固定日とされる平成13年7月19日の時点よりも症状が増悪したと認めるに足りる証拠はない。よって,J医師の診断書どおり,症状固定日は前記平成13年7月19日とみるのが相当である。
   ウ 原告は,△△病院による治療を受け,上記の金額を要したことについては当事者間に争いがない(被告Aが治療費として支払済み)。
 (2)入院雑費           13万3500円
    原告は,前記のとおり,△△病院に89日間入院したことが認められ,入院雑費は,1日あたり1500円が相当であるから,上記金額となる。
   (計算式)
    1500円×89日=13万3500円
 (3)付添看護料(症状固定前)  417万8500円
    原告の治療状況は,前記(1)アのとおりであり,原告の入院中,医師による付添の指示があったことを認めるに足りる証拠はないが,前記のとおり,原告の傷害は,脳挫傷,顔面骨の多発骨折等という重篤なもので,事故直後は意識障害を伴い,生死が危ぶまれる状態にあった。そのため原告の母であるFら家族が事故発生日から当初は1日24時間待機しているように言われ,その後も毎日付き添ったことが認められる(証人F)。意識障害や多部位の骨折,1か月にも及ぶギプス固定(甲25の1)といった原告の症状からすれば,入院期間中の付添を要したものと認められ,看護料は日額6500円と認めるのが相当である。
    原告は退院後は,被告Aの実家に居住していたが,その後原告の実家に居住するようになったところ,退院直後は,左足の骨折が完治していなかったため歩行が困難な状態であり,入浴,移動,通院等に介護を要したことが認められるが,その後,骨折は治癒し,症状固定に至ったことにかんがみると,退院後通院期間中の自宅における付添看護料としては,日額5000円が相当である。
    (計算式)
    (6500円×89日)+(5000円×720日)
    =417万8500円
 (4)休業損害          765万3949円
    原告は,本件事故当時,被告Aの妻であり主婦であったもので,一家の家事全般を1人で担当していたことが認められ,本件事故の年である平成11年の賃金センサス学歴計・全年齢の女性労働者の平均賃金345万3500円を基礎収入とするのが相当である。
    本件事故から症状固定日までの809日間,休業の必要性が認められる。
    (計算式)
     345万3500円÷365日=9461円
     9461円×809日=765万3949円
 (5)逸失利益         5767万6129円
   ア 基礎収入
     原告は,症状固定時に32歳であったところ,前記のとおり事故前は専業主婦であり,基礎収入は,症状固定時である平成13年の賃金センサス学歴計・全年齢の女性労働者の平均賃金である352万2400円とするのが相当である。
   イ 後遺障害の程度
     証拠(甲2ないし22の1,25,証人F)によれば以下の事実が認められる。
   (ア)症状の推移,検査結果等
     a 意識障害
       原告のJCS及びGCSの結果は前記(1)アのとおりである。初診時には刺激なしで開眼していたが,6時間以内から24時間以内までは刺激すると開眼,1週間以内では刺激なしで開眼の状態であり,その後は意識清明であった。平成11年5月30日ころまでは外傷後健忘が続いていた(甲7)。
     b 画像所見
       頭部単純X-P,頭部CT,顔面CT,頭部MRIによれば,原告には事故後外傷性クモ膜下出血,脳挫傷,気脳症が生じ,その後の経過で硬膜下水腫も発生したことが認められる。上顎骨,下顎骨,鼻骨,頬骨などに骨折が認められた。くも膜下出血,多発性の挫傷(右前頭葉,右側頭葉,左中脳の外側)が認められた。
     c 神経心理学的検査等
       原告に対しては,各種の知能検査,記憶検査等神経心理学的検査が実施された。
       平成13年5月から6月にかけて実施されたウエクスラー成人知能検査法改訂版(WAIS-R)の結果は,IQ123(H13.5.2実施)WAIS-R:VIQ84 PIQ73→TIQ73であった。
       原告の三宅式記銘力検査(H13.7.13実施)の結果は,有関係対語=5-9-10/10語,無関係対語=0-1-2であった。
       ベントン視覚記銘力検査(H13.7.13実施)の結果は,6/10正答,周辺図形の省略,形の誤謬がみられていた。
   (イ)担当医師の所見及び後遺障害診断書等
      平成14年3月29日の▲▲病院J医師の脳外傷による精神症状等についての具体的な所見(甲9)によれば,原告は,「社会適応性の障害により,友達付合いが困難」「人混みの中へ出かけることを嫌う」の項目が「高度」とされており,「新しいことの学習障害」「飽きっぽい」「感情の起伏や変動がはげしく,気分が変わりやすい」「集中力が低下していて気が散りやすい」「話がまわりくどく,話の内容がかわりやすい」「計画的な行動を遂行する能力の障害」「複数の作業を並行処理する能力の障害」「睡眠障害,寝付きが悪い,すぐに目が覚める」の項目が「中等度」であるとされているほか,「性的な異常行動・性的羞恥心の欠如」「暴言・暴力行為」「行動を自発的に抑制する能力の障害」「服装,おしゃれに無関心あるいは不適切な選択」の項目は「なし」そのほかは「軽度」とされている。
      平成14年12月2日の▲▲病院L医師の国民年金,厚生年金保険,船員保険用の診断書(甲30)によれば,日常生活能力の判定において,適切な食事摂取,身辺の清潔保持は「できない」,金銭管理と身辺の安全保持及び危機対応が「自発的にはできないが援助があればできる」,通院と服薬,他人との意志伝達及び対人関係が「概ねできるが援助が必要」とされており,日常生活は身のまわりのことがやっとできる程度であり労働は不可能とされている。
      原告は,平成13年7月19日,▲▲病院J医師により症状固定の診断がなされ,後遺障害診断書(甲2)には,傷病名「頭部外傷後遺症,高次脳機能障害」,自覚症状「簡単な暗唱,記憶想起ができない 簡単な算数の暗算ができない 一晩中頭がボーっとして集中して仕事をこなせない」,他覚症状および検査結果,精神・神経の障害「EEG:右中心~頭頂葉記録にて局所的にθ-γwave等の徐波化あり,pwotic stimutationにて一部棘波の混入があり,局所的脳皮質機能障害を示す所見である。CT:年齢に比し両前頭葉がやや萎縮傾向を示す。言語療法士による言語評価 kohs立方体組み合わせ:IQ123(H13 5/2)WAIS-R:VIQ84 PIQ73→TIQ73詳細なコピー(別紙)参照(検査に集中できず中断もあり,IQ算出の信頼性やや劣る)実力IQはもっと悪いと判断される。」とされている。
      原告は,平成13年4月4日,▲▲病院N医師により症状固定の診断がなされ,後遺障害診断書(甲3)には,傷病名「眼筋機能障害,右視野狭窄」,自覚症状「左)眼球運動悪く,複視があり,そのため気分も悪くなる。10分以上の座位での検査が続けられない」,他覚症状および検査結果,精神・神経の障害「視力 右=0.04(1.2) 左=0.04(1.2) 右眼はマリオット盲点の拡大があり,耳側に暗点あり,左目上転が悪く周辺部で複視みられる。前眼部,中間透光体,眼底に異常はみられない。周辺部での複視のため,軽度頭痛,眼精疲労を認める。」とされている。
      原告は,△△病院O医師により,後遺障害診断書(歯科用甲4)には,傷病名「□ 完全脱臼,両側下顎骨骨折,上顎骨骨折 頬骨骨折 □,歯冠破折」事故前に喪失または歯冠部の大部分(歯冠部体積の4分の3以上)を欠損していた歯は4歯,本件事故により喪失または歯冠部の大部分(歯冠部体積の4分の3以上)を欠損した歯は8歯,本件事故による歯の治療の必要上,抜歯または歯冠部の大部分(歯冠部体積の4分の3以上)を切除し,歯科補綴をした歯は4歯,「両側下顎骨,上顎骨,頬骨の骨折により,十分な開口が出来ず,顎関節痛や開口障害があり,又,骨折により三叉神経第2枝に麻痺があるため咀嚼も十分に行えていない。」とされている。
      原告は,平成13年11月19日,◇◇病院P医師により症状固定の診断がなされ,後遺障害診断書(甲5)には,傷病名「陳旧性顔骨多発骨折(Le FaceⅢ)」,自覚症状「顔面変形,両下肢醜状瘢痕」,醜状障害(採皮痕を含む)「1 外ぼう ロ 顔面部,ハ 頸部,3 下肢,4 その他(○で囲まれている。)顔面中央部の陥凹,変形,顔面,両下肢,腰部,胸部の醜状瘢痕」とされている。
      原告は,平成13年4月13日,△△病院Q医師により,症状固定の診断がなされ,後遺障害診断書(甲6)には,傷病名「#1左脛骨骨折 #2右尺骨骨折,#3顔面骨骨折,#4左血気胸,#5頭蓋骨骨折,意識障害 #6左腓骨神経麻痺,#7耳管開放症」,自覚症状「特になし」,他覚症状および検査結果,精神・神経の障害「両膝にハンコン,頚部,顔面に手術創あり,上記#3による口腔機能の障害(そしゃく咬合障害)及び構音障害,残存する可動時痛,左大腿の残存する疼痛」とされている。
      さらに,その後,平成16年1月30日に◆病院K医師により症状固定の診断がなされ,後遺障害診断書(甲18)には,傷病名「頭部外傷後遺症」,自覚症状「右視野狭窄,複視,記憶低下,集中力低下,うつ状態,ふらつき,疲労感が強いなど」,他覚症状および検査結果,精神・神経の障害「意識:清明,脳神経:視野欠損(右眼上1/4盲)複視(左外転で),運動系:左上肢Barre徴候陽性,左上肢深部腱反射,軽度亢進か 握力:右20kg,左12kg,感覚障害なし,平衡機能:上肢 指鼻試験-左稚拙,下肢踵膝試験-左右差なし Romberg試験:陰性(短時間)片足立ち:両側不安定 足踏み試験-不安定(閉眼),眼振なし(神経内科でのRomberg試験では後方に転倒しやすい傾向あり),重心動揺検査(1月30日)迷路性あるいは後索障害の可能性あり」と記載されている。K医師は,その意見書(甲22の1)において,本件事故後の診療録,画像,診断書等及び自らの診断結果により,原告は平衡機能障害,高次脳機能障害及び抑うつ状態が認められ,現在の日常生活能力の程度は,身のまわりのことも多くの援助が必要な状態であり,また労働能力としては,労働が不可能な状態であるとし,精神神経系統の後遺障害の程度は,3級3号「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの」に相当すると結論付けている。
   (ウ)自賠責保険における後遺障害の認定
      自賠責保険において,原告は,高次脳機能障害(記銘力低下,注意力低下,知能低下)により,精神系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができない(5級2号)とされ,眼筋機能障害による複視(14級相当),右眼視野欠損(13級2号)同それらを併合して13級相当,そしゃく障害(10級2号),左腸骨からの採骨による骨盤骨変形(12級5号),外貌の著しい醜状(7級12号),左下肢の瘢痕(14級5号)により,後遺障害等級併合3級の認定を受けた(甲11)。
   (エ)原告の生活状況等
      原告本人は,病歴・就労状況等申立書(甲29)に,平成12年11月3日の時点では「身の回りのこともできず,常に他人の介助が必要で一日中寝ていた」「テレビや本を見るのも疲れる。入浴,トイレに行くだけでもひどく疲れて,頭も働かないので,寝たきりで生きているのがやっとでした。病院へも車での送り迎えとつきそいが必要」とし,平成14年12月10日の時点では「1週間に1度病院に一人で通えるようになったが,それが限界で,その後日は疲れて寝込んでいないといけない。家にいて座っているだけでも疲れるので,ずっと横になっている。横になっても眠れないので夜は睡眠薬が必要。10分座っているだけで健康だったときの40°Cくらいある時のようにだるくなって疲れてしまうので,何もできない」などと記載している。
      平成14年3月19日付F作成の日常生活状況報告表によれば,数分前の出来事や聞いたことを忘れることもある,知り合いの人の名前を忘れやすい,話が多少まわりくどい,同じミスや間違いをくり返すこともある,興奮したり,いらいらすることもある,気分が沈みがち,一度気になるとこだわる,家事を手伝うことができない,外出には付添が必要なときもあり,歩くとふらつくなどのほか,ほとんど寝たきりである,病院に行くときのみ外出,待ち時間もソファーで横になる,短い時間しか起きていられないなどの症状がある(甲8)。
      現在においても,歩いているとふらつく,長い時間立っていることができない状態があるほか,記憶力が低下し注意力が散漫になった,行動が緩慢で何をするにも時間がかかる,コミュニケーションを取るのが難しいなどの状態がみられ,普段は外出せず,ほとんど横になっている。通院の際には,途中で横にならなければならず,帰宅後は疲れて寝てしまう(甲27)。さらに,原告は,意見の違いがあるときには,いらだって,Fに対して暴力を振るうことがある。忘れっぽくなっているため,これまでにも,やかんを火にかけたままにして忘れたことがある。平衡機能障害のため立ち仕事ができず,家事はほとんどできない状態である上,物が二重に見えたり,見える範囲が狭いので,家の中でも危ないと思うことがある状態である(証人F)。
      他方,食事,トイレ,更衣,洗面は自立しており,お金を持たせてもすぐには使わない,他人との話は通じる,などの面においては支障は見られない(甲8)。原告は,病院へは,Fが付きそうこともあるが,1人で行くこともあり,美容院にも1人で行くことができる。現在は,松葉杖や車椅子は使用していない(証人F)。
      また,そしゃく状況報告書(甲10)によれば,原告には,いか,たくあん,こんにゃく,ピーナッツなど食べられない物があり,全部軟らかくして,小さくきざみ,よく煮ないと食べられない,前歯が使えないからかみ切れない,奥歯のみで食事をしているという状態である。
   (オ)前記の原告の受傷後の状態,治療経過,画像所見等によれば,原告の本件事故による傷害は重いものであったことが窺え,治療時の神経心理学的検査の結果,医師の所見,日常生活状況報告書によれば,抑うつ気分,意欲低下,集中力の低下,社会適応の低下は顕著であったといえる。
      さらに,原告には,眼筋機能障害による複視(14級相当),右眼視野欠損(13級2号)といった眼の障害(併合13級相当)のほか,そしゃく障害(10級2号),左腸骨からの採骨による骨盤骨変形(12級5号),外貌の著しい醜状(7級12号,左下肢の瘢痕(14級5号)といった後遺障害が認められる。
      原告の後遺障害は前記のとおりであり,高次脳機能障害による記憶障害,注意力低下,意欲低下,社会的適応能力低下,性格変化が著しく,平衡機能障害のために長時間歩行が困難であり,さらに,抑うつ状態もあり,自宅にこもり臥床がちであることにもかんがみれば,家事や就労が可能であるとはいえない状態である。また,原告には,眼の障害による就労への支障もあり,原告の労働能力喪失率は100パーセントであるというべきである。
   (カ)原告は症状固定時32歳であったから,本件事故がなければ67歳までの35年間,就労が可能であったものであり,後遺障害逸失利益は上記の金額となる。
     (計算式)
      352万2400円×100%×16.3741
      =5767万6129円
 (6)将来付添費(介護料)   2710万5046円
    原告は,原告の後遺障害(特に脳外傷後の平衡機能障害及び高次脳機能障害)は重篤であり,日常生活のほとんどの場面において,看視,声掛け,適宜の介入等の介護(付添)が必要となると主張している。
    確かに,前記の原告の後遺障害からすれば,注意力が散漫になったり,記憶が低下したため,時に看視や声掛けを要するほか,抑うつ状態や意欲低下,平衡機能障害により原告が自ら行うことができない家事を代わって行うことや,歩行が安定せず,頻繁に横になるため,外出する際に送迎や付添等の援助が必要となることは認められる。
    しかしながら,他方,原告の日常生活動作は自立しており,食事,更衣,風呂,洗面などは独力で行うことが可能である。原告は,1人で通院することも美容院へ行くことも可能であり,医師とのコミュニケーションにやや支障があったとしても,基本的には,家族とも他人とも話しは通じる。また,買い物もどうにかできる状態であり,金銭管理のトラブルも窺えない(甲8)。
    してみると,原告は,ある程度の介護は必要であるものの,日常生活全般にわたり,常時介護を要する状態であるとは認められない。したがって,原告の両親が高齢で,かつ,父親が病気療養中であって,いずれは,原告の介護のために職業付添人を利用する必要が生じることを考慮しても,その利用は部分的なものと考えられ,原告の後遺障害にかんがみてその介護内容や頻度に見合う,本件事故と相当因果関係のある将来の付添費(介護料)は,平均すれば,1日あたり4000円とするのが相当である。
    そして,介護が必要な期間は,症状固定時の平均余命である54年(ライプニッツ係数18.5651)とみるべきであり,将来の介護料は,上記金額になる。
   (計算式)
    4000円×365日×18.5651=2710万5046円
 (7)慰謝料
   ア 傷害慰謝料            250万円
     原告の入院期間は89日,症状固定時までの通院期間は720日間であるところ,原告の傷害の内容,程度,治療状況を考慮すれば,傷害慰謝料としては上記金額が相当である。
   イ 後遺障害慰謝料         2200万円
     前記認定にかかる原告の重い高次脳機能障害の内容,程度のほか,眼の障害や日常生活に影響が大きいそしゃく障害,さらに症状固定時32歳の女性である原告が外貌に著しい醜状を残したことによる精神的苦痛を考慮すれば,後遺障害慰謝料としては上記金額が相当である。
 (8)小計         1億2239万1354円
 (9)損害のてん補           4438万円
    原告は,損害のてん補として,平成14年6月28日に2219万円,同年7月9日に2219万円(合計4438万円)の自賠責保険金の支払いを受けた。
    前記(1)の治療費は被告Aが支払済みであることについて,当事者間に争いがない。
    てん補後の残額は7686万7124円である。
 (10)弁護士費用            760万円
    本件事案の難易度,審理の経過及び認容額などにかんがみれば,本件事故と因果関係のある弁護士費用は上記金額とするのが相当である。
 (11)合計          8446万7124円
 (12)確定遅延損害金      703万6965円
    原告は,平成14年6月28日及び同年7月9日に,自賠責保険金として各2219万円を受領したところ,同金額は本件事故による損害の一部てん補にあたり,同金額に対する本件事故発生日である平成11年5月3日からから前記各支払日までの民法所定の年5分の割合による遅延損害金は,上記金額である。
   (計算式)
    2219万円×0.05×(3年+57日÷365日)
    =350万1764円
    2219万円×0.05×(3年+68日÷365日)
    =353万5201円
    なお,本件事故にかかる損害についての遅延損害金は,後遺障害についての損害も含め本件事故の日から生じるというべきである(最高裁昭和37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁,最高裁昭和58年9月6日第三小法廷判決・民集37巻7号901頁参照)。
第4 結論
   よって,原告の請求は,被告に対し9150万4089円及び内金8446万7124円に対する本件事故の日である平成11年5月3日から支払済みまで民事法定利率である年5分の割合による金員の支払いを求める限度において理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する(仮執行免脱宣言は相当でないのでこれを付さない。)。
    東京地方裁判所民事第27部
        裁判官  高 取 真理子

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