札幌地方裁判所判決 平成21年10月20日

症状固定時21歳の男性従業員が高次脳機能障害、てんかん、腓骨神経麻痺、視野欠損(併合4級)の後遺障害を負った場合において、傷害分300万円の慰謝料、後遺障害分1840万円の慰謝料を認めた。
       主   文

 1 被告らは,連帯して,原告に対し,9852万2326円及びこれに対する平成19年12月19日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求を棄却する。
 3 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。
 4 この判決は,主文1項に限り,仮に執行することができる。

       事   実

第1 当事者の求めた裁判
 1 請求の趣旨
  (1) 被告らは,連帯して,原告に対し,1億4837万7874円及びうち1億4786万3343円に対する平成19年12月19日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
  (2) 訴訟費用は,被告らの負担とする。
  (3) 仮執行宣言。
 2 請求の趣旨に対する答弁
  (1) 原告の請求を棄却する。
  (2) 訴訟費用は,原告の負担とする。
第2 当事者の主張
 【請求原因】
 1 交通事故の発生
   原告は,平成17年5月5日午後7時58分ころ,北海道千歳市支寒内番外地において,被告Y1(以下「被告Y1」という。)運転の普通乗用自動車(札幌○○○ら○○○○。以下「被告車」という。)の後部座席に同乗し眠っていたところ,被告車が反対車線外側のガードレール等に衝突したうえ,路外に逸脱したため,頭部打撲,脳挫傷,頭蓋骨骨折,外傷性硬膜下血腫,左腓骨骨折(開放骨折)の傷害を受けた(以下「本件事故」という。)。
 2 治療経過及び症状固定時期
   原告は,平成17年5月5日以降,別表1のとおり入院及び通院をしたが,前記傷害は,平成19年7月18日,後記の後遺障害を残存させてその症状が固定した。
 3 原告の後遺障害
  (1) 左上下肢の片麻痺
    原告には,手足の運動機能に支障が残っており,巧緻運動や素早い動作ができない。
  (2) 脳外傷後遺症(高次脳機能障害及びてんかん)
    原告には,高次脳機能障害が残っており,自発性の低下,知能低下,遂行機能低下,記憶力低下,人格変化などが認められる。また,てんかん発作が発生する具体的な危険がある。
  (3) 腓骨神経麻痺
    原告は,左腓骨神経麻痺のため,左足の背屈が不能となっている。
  (4) 視野欠損
    原告は,後頭部の脳挫傷のため,視野の欠損が生じている。
  (5) 上記(1)ないし(3)は,自動車損害賠償保障法施行令別表第二の後遺障害等級表(以下「等級表」という。)5級2号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの)に該当し,上記(4)は,等級表9級3号(両眼に半盲症,視野狭窄又は視野変状を残すもの)に該当するので,原告の後遺障害は,全体として,等級表4級に相当するものである。
 4 被告らの責任原因
   被告Y1は,本件事故発生場所の緩やかに右に湾曲した国道276号線を進行する際に,時速70キロメートルの速度で進行し,飛び出してきた小動物に驚いてハンドル操作を誤り,本件事故を起こしたから,民法709条により,原告に生じた後記損害を賠償すべき責任を負う。
   被告Y2は,被告車の保有者であるから,自動車損害賠償保障法3条により,原告に生じた後記損害を賠償すべき責任を負う。
 5 原告の損害
  (1) 本件事故によって原告に生じた損害は,別表2のとおりである。
  (2) 自宅改造費等について
    原告は,車椅子や自宅改装の費用として合計59万1153円を要したほか,後遺障害のため,独力で生活していくことが困難になったたため,障害者が生活しやすい自宅に住むことが必要となった。原告の両親が原告のため障害者仕様住宅の建築資金750万円を投じたところ(ただし,請負業者が倒産),そのうち,次の合計213万6905円が本件事故と相当因果関係に立つ損害となる。
    ロードヒーティング 136万9665円
    屋外階段のスチール手摺 9万4500円
    融雪民地石・角桝 3万2500円
    タイル貼工事 19万5300円
    玄関の椅子と手摺 10万4000円
    浴室関係 11万2000円
    トイレの手摺 2万3420円
    住宅内の階段の手摺 8万0000円
    バルコニーの芝貼り 7万1100円
    風除室のポーチ灯,階段の足元灯 4万8820円
    オフピカスイッチ 5600円
  (3) 付添看護費について
    原告は,入院当初,生命の危険があり集中治療室に収容され,その後も,脳挫傷の影響で,医師や看護師に対して,自らの要求を伝えることに支障があったため,入院期間129日間のすべてにわたって,原告の母が付き添って看護にあたり,原告の父も時間のあるかぎり病院に来ていた。
    このような事情に照らせば,北星病院及び千歳市民病院入院中の55日間については日額8000円で計算した44万円と時計台記念病院入院中の74日間については日額6500円で計算した48万1000円の合計した92万1000円が近親者の付添看護費として相当である。
    また,原告は,独力で通院することができないので,父母に付き添ってもらい通院していたし,実通院日以外にも,家族が協力して機能回復訓練などを実施しており,食事の支度や家事全般,保険の請求手続などもすべて父母が行っていた。
    このような事情に照らせば,通院期間中は,症状固定日までの676日間全日について日額5000円で計算した338万円が近親者の付添看護費として相当である。
  (4) 将来費用(治療費・通院費・付添費)について
    原告は,症状固定日以降も千歳市民病院に2か月に1回通院して抗てんかん薬の処方を受け,時計台記念病院に月に2回通院し,身体の麻痺が悪化しないよう治療を受けており,その治療費として年間7万円程度が必要である。そして,千歳市民病院に通院するためには,タクシー利用の場合に往復で1500円程度,自家用車利用の場合に往復で50円程度の通院費を要するし,時計台記念病院に通院するためには,タクシーとJRを利用する場合に往復で6220円程度,自家用車使用の場合に往復で1080円程度の通院費を要する。
    また,原告は,後遺障害のため,今後の人生において,外出時に常に誰かの付添いが必要となるし,炊事その他の日常家事や金銭の管理などを自ら適切に行うことが困難な状態にある。
    このような事情に照らせば,原告は,症状固定日(原告21歳)以後も58年(平成17年簡易生命表による平均余命58.08年)にわたり,少なくとも日額3000円(年額109万5000円)の費用の支出を余儀なくされるものというべきであり,ライプニッツ係数を用いて年5分の中間利息を控除すれば,それら将来費用の症状固定時の額は2060万7352円となる。
  (5) 後遺障害による逸失利益について
    原告は,本件事故に遭わなければ,症状固定時から67歳までの46年間にわたり,平成17年賃金センサス第1巻第1表学歴計・企業規模計の男子労働者全年齢平均賃金(年額552万3000円)を得ることができたとみられるのに,後遺障害により,その労働能力を92パーセント失い,これに相当する収入を失った。
    ライプニッツ係数を用いて年5分の中間利息を控除すれば,その逸失利益の症状固定時の額は9085万1648円となる。
 6 一部弁済
  (1) 原告は,平成19年12月18日,自賠責保険金1889万円の支払を受けたほか,被告車の自動車保険の保険者であるA保険株式会社から合計992万8229円の任意保険金の支払を受けた。
  (2) 自賠責保険金は,事故当日から平成19年12月18日までの民法所定の年5分の割合による遅延損害金に充当される(それ以外は損害賠償債権の元本に充当される。)。
 7 まとめ
   よって,原告は,民法709条に基づき被告Y1に対し,自動車損害賠償保障法3条に基づき被告Y2に対し,連帯して,前記5の損害のうち任意保険金を控除した残額1億4786万3343円並びにこれに対する平成19年12月18日までの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の未払額51万4531円及び同月19日から完済まで同様の遅延損害金の支払を求める。
 【請求原因に対する認否】
 1 請求原因1の事実は認める。
 2 同2の事実は認める。
 3 同3については,原告の手足に一定の運動機能障害があること及び原告の視野の欠損が生じていることは認めるが,巧緻運動や素早い動作ができないことは否認し,左足の背屈が不能であることは知らない。
 4 同4の事実は認め,被告らに責任があることは認める。
 5(1) 同5のうち治療費,通院交通費,診断書料,車椅子・自宅設備改良費の額及びこれが損害であることは認めるが,その余の原告の主張は争う。原告の治療期間は長いが,その全期間にわたり全く就労できなかったわけではないから,休業損害の主張は過大である。
  (2) 原告は,日常の身の回り動作はほぼ自分一人で行うことができるし,家の中での活動に特段の制限はなく,その後遺障害の程度は,自宅改造費を必要とするほどのものではない。
  (3) 原告には,症状固定後これまでに外傷性てんかんの発症はなく,これからも発症する可能性は低いことから,原告が脳神経外科に通院を継続する必要はない。また,原告の症状は,日常生活における動作・活動それ自体が機能回復訓練になるという程度まで回復しているから,症状固定後も機能回復訓練を目的として通院する必要はない。したがって,原告主張の将来費用は,本件事故と相当因果関係に立つ損害ではない。
  (4) 逸失利益の計算の基礎となる原告の収入は,現実の収入であった年額約180万円とすべきである。また,原告は,身の回りの動作を自分一人で行うことができるし,医師も,原告について,適切な就業環境が得られれば相当な業務をすることができると判断しているから,原告が,症状固定後46年間もの期間にわたり92パーセントも労働能力を喪失したとの前提で逸失利益の計算をすることは適切ではない。
 6 同6(1)の事実は認めるが,同(2)の主張は争う。
 【抗弁(過失相殺)】
 1 原告は,本件事故当日,被告Y1が運転する車に乗って,支笏湖畔での花見(バーベーキュー)に参加した。そこでは飲酒が予定されていたし,そこから帰宅するには自動車に同乗するしかない状況であった。
 2 被告Y1は,花見での飲食の際,かなりの飲酒をしており,原告もその姿を見ながら,被告Y1の飲酒を制止することなく,自らも飲酒の上,被告車に乗り込み,後部座席で寝ていた際,本件事故に遭った。
 3 このような事情に照らせば,民法722条に基づき,原告の落ち度を考慮して損害が減額されるべきである。
 【抗弁に対する認否】
 1 抗弁1及び2の事実は認めるが,同3の主張は争う。
 2 原告は,被告Y1に飲酒を勧めたことはない。また,原告が被告Y1が飲酒している様子を見たのは,本件事故の5,6時間も前であって,その間,原告は,被告車で寝ていたのだから,被告Y1の飲酒量を認識しておらず,被告Y1が酒に酔った状態で運転を開始したことも認識していないのである。
   本件事故は,速度超過と小動物が飛び出してきたためにハンドル操作を誤ったことが複合した事故であり,飲酒の影響が事故原因となったかどうかも不明である。
   原告は,飲酒運転による事故発生の危険を承知して乗車していたとか,飲酒運転を助長促進したとはいえないことから,過失相殺すべきではない。

       理   由

第1 治療,後遺障害及び就労の状況について
   請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがなく,本件においては,被告らの責任原因(請求原因4)にも争いがないので,本件事故によって原告に生じた損害について検討するため,原告の治療,後遺障害及び就労の状況について検討するに,甲第14号証,第15号証の1,2,第16ないし第19号証,第23号証,第35ないし第43号証,第44号証の1ないし7,第47,第48,第58ないし第61号証,第62号証の1ないし4,第64号証,証人Bの証言及び原告本人尋問の結果によれば,以下の事実が認められる。
 1 原告は,本件事故当日,北星病院に救急搬送されたが,原告の左前頭葉・側頭葉には急性硬膜下血腫があったほか,脳幹周囲にも出血があり,同病院では対応できないほど脳の損傷の程度が重篤であったため,平成17年5月6日未明に北星病院から千歳市民病院に転送された。千歳市民病院では,脳圧が亢進して生命の危険があったことから,頭蓋骨を外す外減圧手術を行った。
 2 原告は,5月18日ころには,声かけに対してうなずくなど簡単な刺激に反応するようになり,5月23日ころには,看護師や家族の声かけに対して身振りでで(ママ)応えるようになり,尿意を身振り手振りで伝えることもできるようになった。
   原告は,5月26日には,ゼリーの摂取を試みたところ,声かけに応じて開口し,ゼリーを摂取し,ごちそうさまの合図をし,5月29日には,医師や母親と筆談をしたり,車椅子に乗れるまでに回復した。
   原告は,6月1日には頭蓋形成手術を受け,頭は痛くないかとの問いかけに対し「ちょっとね」と小声で返答し,父親に対して言葉で尿意を訴えた。
   原告は,6月5日ころから,食べ物を自力で摂取できるようになり,6月中旬ころには,車椅子を自分でこげるようになったし,看護師とサッカーに関する会話をするようになり,6月28日,機能回復訓練を受けるため,千歳市民病院から時計台記念病院に転院した。
   原告は,平成17年8月10日には,杖とサポーターを使用しながらではあるが,一人で歩けるようになり,9月10日,時計台記念病院を退院した。
 3 原告の母親は,原告入院中のほぼ毎日,原告に付き添っており,原告の父親も,仕事が休みの日には病院に行って原告に付き添っていた。
 4 原告は,平成17年9月10日に時計台記念病院を退院した後も,脳の経過観察と左腓骨神経麻痺(左足関節の症状)の治療のため千歳市民病院に通院するほか,機能回復訓練のため時計台記念病院に通院し,札幌鉄道病院眼科でも治療を受け,平成19年7月18日,症状が固定した旨の診断を受けた。原告は,昭和60年○○月○○日生まれで,当時21歳であった。
   症状固定時において,原告の脳には,脳ヘルニアによる右中脳及び左側頭葉・後頭葉の脳梗塞があり,左後頭葉を中心に脳全体に中程度の脳萎縮が認められた。
   症状固定時における原告の言語性IQは91,動作性IQは63,総合IQは76であったが(甲15の2),この成績は,知能障害と正常域の境界領域とされるものであった(甲43)。
   症状固定時における原告の視覚探索課題の遂行能力は,正常人であれば66秒で完了する課題に171秒要し,正常人であれば83秒で完了する課題に190秒要するという程度まで低下していた(甲15の2)。
 5 後遺障害の状況
  (1) 原告には,症状固定時において,脳の損傷に由来する①左上下肢の運動機能障害,②記憶力,注意力,理解力,判断力,自発性の低下及び軽度の人格変化(高次脳機能障害),③右目の視野欠損(半盲)が残存したほか,左腓骨開放骨折後の腓骨神経麻痺に由来する左足関節の背屈障害が残存した(甲14,19)。
  (2) 左上肢については,装具を使用しなければならないほどではないが,手指の巧緻性は低下し,重い物を持つことはできないし,左手が自由に動かないため,しばしば右手で左手を引っ張って動かす必要がある。
  (3) 左下肢については,足首が背屈マイナス15度までしか動かない(足先を持ち上げ,足と脚を90度の角度に保つことができない)ため,足先が常に下向きに垂れ下がった状態になっている。左下肢の運動障害もあるため,原告は,主に右足を頼ってゆっくりとしか歩行することができないし,手すりを使うことなしに階段を一人で昇降することに恐怖感がある。また,長時間立ったままの状態でいることは困難である。
  (4) 原告の左上下肢には,しばしばけいれんが起きることがあり,起床後はしばらく両手両足が震えた状態に見舞われる。動作も素早くはできないため,起床してから身支度を整えて外出するまで2時間程度を要する。また,原告は,起床時以外にも,緊張したときにも震えが出ることが多く,そのため,包丁を使う際に左手が震えると危険であり,料理をすることが困難である。
    また,緊張が持続する状態での作業(長時間パソコン使用等)もできない。
  (5) 原告は,正常視野の右半分を欠いているため,正面を向いて歩行すると右側の人や物にぶつかるし,正面を向いて人と会話することも困難である。
  (6) 上記のような左上下肢と右目の障害があるが,家の中であれば,原告は,一人で更衣,排尿,排便,入浴,歩行をすることができ,これら起居動作に介添えが必要な状況にはない。また,原告は,近くのコンビニエンスストアで簡単な買い物をすること,バスに乗って近くの場所まで赴くといった程度のことはできる。
    しかし,原告は,脳損傷の影響で高次脳機能低下し,記憶力,注意力,理解力,判断力,自発性がかなり減退している。すなわち,原告は,少し前に言われたことを忘れてしまい,頼まれた買物を忘れたり,薬を飲み忘れることが多いし,普通の速度で発語された他人の発言内容をすぐには理解することができず,何を話しかけられているのか分からないことが多い。活字の文章でも,サッカー雑誌などの記事などは理解できるものの,少し複雑な内容の書物を理解することは困難であり,比較的簡単な書類の読解も長時間続けることはできない。
    また,原告は,事故前には大きな声も出たし普通に話もできたが,現在は小さな声しかでないし,発音もしばしば聴き取りにくく,家族や親しい友人以外の人と意思疎通を図ることが容易ではない。
    このような精神面での能力低下の影響で,原告は,例えば,一人で通院するといった場合,公共交通機関を利用する際に料金をきちんと支払えるのか,病院で会計する場合も治療費をきちんと支払えるのか,困ったことが起きた時に周囲の人の助力を得て解決できるのかといった面で常に不安を感じている。
  (7) 損害保険料率算定機構は,原告の後遺障害について,医学的証拠を検討した上で,原告が請求原因3(5)において主張するとおり,後遺障害全部を併合して等級表4級に相当する程度のものと判断した。
 6 原告の就労能力
  (1) 原告は,高校卒業後,株式会社Cに勤務し,本件事故当時,非正規雇用の従業員として販売・配送業務に従事しており,上司からは正社員になることを勧められていたが,兄も同じ会社に勤務していたので,正社員として働く決断まではしていなかった。
    本件事故直前3か月に原告に支給された給与の額は,次のとおりであった(甲23)。
     平成17年2月分 10万2261円
     平成17年3月分 13万2998円
     平成17年4月分 12万4498円(3か月平均11万9919円)
  (2) 原告は,平成17年7月31日に同社を退社し,症状固定後,千歳市の公共職業安定所に何度も通い,身体障害者を雇用してくれそうな複数の事業所に連絡をとり,履歴書を提出した(1社とは面接もした)が,結局,いずれの会社も原告を採用することがなかった。
    原告は,仕事が見つからなかったため,平成21年1月から,障害者自立支援法に基づいて運営されている就労継続支援事業所に週4日程度通所し,1日5時間程度,プリンターのインク詰めやペットボトルのリサイクル作業など単純作業に従事している。これに伴って原告に支給された工賃の額は,次のとおりであった(甲62の1ないし4。いずれも利用者負担金1500円を控除した後の額である。)。
     平成21年1月分 2万4440円
     平成21年2月分 2万5440円
     平成21年3月分 1万3520円
     平成21年4月分 1万9065円(4か月平均2万0616円)
 7 症状固定後の通院状況
  (1) 原告は,症状固定日後も,千歳市民病院の脳神経外科に2か月に1回通院し,脳の障害の経過観察を受けるとともに,抗てんかん薬の処方を受けており,また,時計台記念病院には月に2回通院し,左上肢の機能回復訓練を続けている(なお,左足関節の障害については,機能回復の見込みがないとされたので,千歳市民病院の整形外科への通院はしていない。)。
  (2) 原告は,上記通院のほとんどの場合,父に自動車で送迎してもらい,父が送迎できないときは,母に付き添ってもらい,公共交通機関を利用して通院していた。
  (3) 症状固定後の平成19年8月24日から平成21年5月26日までの間の通院治療費及び薬代の合計は14万0395円であった。
第2 原告の損害について
   本件においては,被告らの責任原因(請求原因4)に争いがないので,本件事故によって原告に生じた損害について検討する。
 1 治療費 546万7022円
   原告が上記支出を余儀なくされたことは当事者間に争いがない。
 2 入院中の付添看護費 83万8500円
   原告の受傷の内容及び程度に照らせば,原告は,129日の入院期間中,近親者の付添を要する状況にあったというべきであり,その間,1日当たり6500円の付添費の負担を強いられたものと認めるのが相当である。
 3 通院期間中の付添看護・介護費 219万7000円
   原告の症状や治療部位に照らせば,原告は,時計台記念病院を退院の翌日から症状固定の前日までの676日にわたり,通院を含めた日常生活の全般にわたり,近親者の看護や介護を要する状況にあったというべきであり,その間,1日当たり3250円の負担を強いられたものと認めるのが相当である。
 4 入院雑費 19万3500円
   原告は,入院期間中,1日当たり1500円の雑費を支出したものと推認するのが相当である。
 5 通院交通費 51万1400円
   原告が上記支出を余儀なくされたことは当事者間に争いがない。
 6 診断書料 2万6000円
   原告が上記支出を余儀なくされたことは当事者間に争いがない。
 7 車椅子・自宅設備改良費の額 59万1153円
   原告が上記支出を余儀なくされたことは当事者間に争いがない。
 8 休業損害 322万円
   前記認定事実に照らせば,原告は,本件事故当時,1日平均4000円程度の収入を得ていたが,本件事故当日から症状固定時までの805日間にわたり,その収入を失ったことが認められる。すなわち,原告の休業損害は322万円と認めるのが相当である。
 9 逸失利益 9085万1648円
  (1) 前記認定事実に照らせば,原告は,本件事故に由来する後遺障害により,その労働能力を92パーセント喪失したものと認められる。被告らは,原告が就労を制限されていないと主張し,労働能力喪失割合を争うが,前記認定の後遺障害の内容及び程度に照らせば,原告は,通常の事業所に障害者として雇用されることさえ極めて困難であって,障害者向けの支援施設に通所して僅かな収入しか得られない蓋然性が高いとみられるのであって,被告らの主張は採用できない。
  (2) また,前記事実に照らせば,原告は,将来,正社員として会社勤めをするなどして,通常の社会人として就労する意思も能力もあったと考えられるから,原告は,本件事故に遭わなければ,症状固定時(当時原告は21歳)から46年間にわたり,毎年,統計上の平均賃金552万3000円(平成17年度賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計の男子労働者全年齢平均)を得ることができたのに,本件事故に由来する後遺障害によりその92パーセントを失ったものと推認するのが相当である。
    そこで,ライプニッツ係数を利用して中間利息を控除し,上記逸失利益の症状固定時における金額を計算すれば,9085万1648円となる。
 10 将来費用(近親者の介添えの負担)
   原告の主たる後遺障害が,脳の損傷に由来する精神・神経症状であることからすれば,原告は,症状固定日後も一生にわたり,定期的に医療機関に通院し,それら症状の経過観察や抗てんかん薬の処方を受ける必要があるというべきである。
   また,原告は,家の中でこそ一人で起居動作が可能であるが,通院その他の理由で外出するとなると一人での行動が制約されており,近親者の協力なしに金銭の管理や規則正しい日常生活を送ることも困難な状況にあるということができる。
   したがって,原告は,本件事故に由来する後遺障害により,症状固定後も平均余命の58年(平成17年簡易生命表)にわたり,日常的に,近親者の看視(見守り)や教示(声かけ)を必要とする状況に置かれ,近親者にその負担をかけることを余儀なくされたというべきである。その負担を金銭に見積もることは容易ではないが,後遺障害の内容や程度に照らせば,その負担を年額36万5000円(1日当たり1000円)と認めるのが相当であり,ライプニッツ係数を利用して中間利息を控除し,上記逸失利益の症状固定時における金額を計算すれば,686万9117円となる。
 11 慰藉料
   原告が本件事故による受傷及び後遺障害により多大の肉体的,精神的苦痛を受けたことは明らかであり,その苦痛を慰藉するための慰藉料の額としては,受傷に関する分を300万円,後遺障害に関する分を1840万円と定めるのが相当である(なお,原告の後遺障害は,必ずしも等級表で評価し尽くされているとはいい難い高次脳機能障害を伴うものであることを考慮し,等級表4級に該当する後遺障害に対し通常認められる金額よりも多額の慰藉料を定めたものである。)。
 12 弁護士費用
   本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用の額は1000万円と認めるのが相当である。
 13 障害者向けの自宅改造費
  (1) 甲第32,第33号証及び証人Bの証言によれば,①原告の父Bは,原告の身体障害を心配して,自宅を障害者が住みやすい住宅に建て直すことにし,平成20年2月,株式会社Dとの間で建築請負契約を締結し,同社に750万円を支払ったこと,②原告ら家族は,賃貸住宅を借りて転居したが,自宅を解体している途中で同社が倒産したため,自宅新築の目途は立っていないこと,③ところが,たまたま自宅の隣家が売りで出たため,Bはこれを買い求め,現在,原告ら家族は,もとの自宅の隣家を自宅として生活していることが認められる。
  (2) 原告は,上記認定の新築予定の住宅のうち,原告のために特に費用を投じる必要がある部分の工事費用の賠償を被告らに求めるものであるが,それら費用は,前記後遺障害による不可避の経済的負担とまで把握することは困難であるから,これを損害として認定することはできない。
第3 過失相殺について
 1 請求原因1の事実並びに抗弁1及び2の事実は当事者間に争いがなく,その争いのない事実に,甲第5号証,第9ないし13号証及び原告本人尋問の結果によれば,次の事実が認められる。
  (1) 原告と被告Y1は,中学校のサッカー仲間であり,本件事故当日(平成17年5月5日),千歳市内の支笏湖畔のモラップキャンプ場でサッカー仲間などが集まって花見(バーベーキュー)をすることになっていたことから,原告は,被告Y1の運転する車に同乗して同キャンプ場に向かった。原告は,帰宅するときも,被告車に乗って帰るつもりであった。
  (2) 原告と被告Y1は,午後1時30分ころ,同キャンプ場に到着した。原告は,同キャンプ場に着いてからすぐにビールを飲み始めた。
    被告Y1は,帰宅するときにも運転をすることから,当初は飲酒をとどまってジュースを飲んでいたが,仲間が飲酒しているのを見て我慢ができなくなり,午後2時ころからビールを飲み始め,結局,午後6時30分までの間に,350ミリ缶のビールを6缶程度飲んだ上,午後7時30分ころ,被告車を運転して帰宅のため同キャンプ場を出発した。
    原告は,被告Y1がビールを飲んでいるところを見たが,飲酒を咎めることもなかった。
  (3) 原告は,普段飲み慣れていないビールを飲んだことから気分が悪くなり,被告車の後部座席で横になっているうち寝入ってしまい,ぐっすり眠っていたため,花見が終わって被告車が帰宅の途についたことにも気付かなかった。
  (4) 被告Y1は,同キャンプ場から約11キロメートル離れた本件事故の現場付近を時速毎時約70キロメートルで進行していたところ,道路わきの草むらから小動物が飛び出して来たのを発見し,小動物との接触を避けようとしたが,ハンドル操作を誤り,被告車を対向車線のさらに向こう側の防護柵及び看板に激突させた。
    被告Y1に大した怪我はなかったが,原告は,シートベルトをせずに後部座席で寝入っていたため,衝突の衝撃で頭部を強打し,左腓骨を骨折した。
  (5) 本件事故の約20分間後にされた呼気検査の結果,被告Y1の呼気からは,1リットル中0.4ミリグラムものアルコールが検出された。
 2 以上の事実が認められ,被告Y1のアルコール保有量及び事故態様に照らせば,本件事故は飲酒の影響で発生した可能性が高いといわざるをえない。
   本件事故が単独での路外逸脱事故となったことは不幸中の幸いというべきであり,もし対向車があれば見ず知らずの他人をも惨事に巻き込んでいたことは間違いがない。飲酒運転は多くの人に危害を加える危険行為として社会全体がこれを抑止すべきなのであって,被告Y1に飲酒運転をさせないよう然るべき行動をとることは,花見参加者全員に強く期待されていたというべきである。
   なかでも,原告は,帰りも被告Y1運転の自動車に同乗するつもりで飲酒の誘惑が大きい場所に行ったのであるから,被告車の帰路の運行についても無責任でよいわけがないのである。原告には,被告Y1が飲酒を始めたのを見た際,飲酒を止めるよう強く咎める道義的責任があったといわなければならない。
   にもかかわらず,原告は,被告Y1の飲酒を制止しなかった不作為により,飲酒運転を誘発したと評価せざるをえない。しかも,自らも飲酒して衝撃に無防備な状態で車内で寝込んでいたのである。
 3 このように,原告には損害の発生及び拡大につき落ち度があるといわざるをえない。原告の重篤な後遺障害には同情の念を禁じ得ないが,飲酒運転に対し厳しい目を向けなければならない裁判所としては,やはり,原告の落ち度を見過ごすわけにはいかない。そこで,民法722条に基づき,前記認定の損害の2割を減額するのが相当である。
第4 既払額の充当について
 1 請求原因6(1)の事実は当事者間に争いがない。
 2 前記第2の1ないし12の損害の2割を減じた上,任意保険金を控除し,自賠責保険金については,その支払日までの遅延損害金に充当した上で,その残額を損害に充当すれば,賠償未了の損害は,別表3及び4のとおり,9852万2326円となる。
第5 結論
   よって,本件請求は,9852万2326円及び自賠責保険金支払日の翌日から完済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余を失当として棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条を,仮執行宣言につき同法259条を適用して,主文のとおり判決する。
    札幌地方裁判所民事第3部
           裁判官  橋詰 均

当事務所では、弁護士が毎日のように交通事故問題の相談に向き合っております。交通事故の損害賠償等でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

無料法律相談のご予約は24時間受付

ご予約専用フリーダイヤル:0120-778-123

フリーダイヤルが繋がらない場合は03-3436-5514まで