名古屋地方裁判所判決 平成19年12月7日

症状固定時56歳の男性会社員が高次脳機能障害(5級2号)の後遺障害を負った場合において、傷害分288万円の慰謝料、後遣障害分の慰謝料1500万円を認めた。

       主   文

 1 被告Y1は,原告に対し,3756万3169円及びこれに対する平成15年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告の被告Y1に対するその余の請求及び被告Y2株式会社に対する請求を棄却する。
 3 訴訟費用は,原告と被告Y1との間においては,原告に生じた費用の5分の2を被告Y1の負担とし,その余は各自の負担とし,原告と被告Y2株式会社との間においては,全部原告の負担とする。
 4 この判決は,1,3項に限り,仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 請求
 1 被告Y1(以下「被告Y1」という。)は,原告に対し,8146万8760円及びこれに対する平成15年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし1426万円及びこれに対する平成16年12月16日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被告Y2株式会社(以下「被告会社」という。)と連帯して)を支払え。
 2 被告会社は,原告に対し,被告Y1と連帯して1426万円及びこれに対する平成16年12月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 本件は,被告Y1の運転する大型貨物自動車(以下「被告車両」という。)が道路上に駐車していた自動車に衝突し,その自動車が原告に衝突する交通事故が生じ,これにより原告が受傷して後遺障害を残したとして,被告Y1に対して,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条に基づく損害の賠償及び民法所定の割合による遅延損害金の支払いを求めるとともに,被告車両につき自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)を締結する保険者であった被告会社に対して,自賠法16条1項に基づく損害賠償額及び上記同様の遅延損害金の支払いを求めた事案である。
 2 前提事実(争いのない事実及び容易に認定できる事実)
  (1) 事故の発生
    以下の内容の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
   ア 発生日時 平成15年9月26日午前9時20分ころ
   イ 発生場所(以下「本件事故現場」という。)
      愛知県春日井市坂下町7丁目196番地の1先路線上(国道19号線)
   ウ 被告車両
      車種   大型貨物自動車
      車両番号 尾張小牧○○む○○○○
      運転者  被告Y1
      保有者  被告Y1(弁論の全趣旨)
   エ 事故態様
     被告Y1は,本件事故現場の道路を春日井市坂下町4丁目信号交差点方面(南方向)から同市明知町方面(北方向)に向けて直進進行しようとした際,進行方向左前方の安全確認不十分のまま漫然と時速約40キロメートルの速度で進行した過失により,折から故障車両の修理等のため進路前方道路の左側端に設けられた路側帯に右側部分を車道にはみ出させて駐車していたA(以下「A」という。)が運転する普通乗用自動車(以下「A車両」という。)に気付かないまま,同車の右後部に被告車両の左前部を衝突させて,A車両を前方に押し出し,その前方に故障のため停車していたB(以下「B」という。)が運転する普通貨物自動車(以下「B車両」という。)の後部に衝突させ,その衝撃でB車両の付近にいた原告,A,BにA車両を衝突させるなどし,よって,原告,A,Bに傷害を負わせた(甲21)。
  (2) 被告Y1の責任
    被告Y1は,被告車両の運行供用者として,自賠法3条に基づき,本件事故により原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う(甲21,弁論の全趣旨)。
  (3) 被告会社の損害賠償額支払義務
    被告会社は被告車両につき自賠責保険の契約を締結する保険者であり,本件事故により原告の被った損害につき,自賠法16条1項に基づく損害賠償額の支払義務を負う。
  (4) 被告Y1による損害のてん補
    被告Y1は,原告に対し,本件事故による損害の一部として40万円を賠償した。
  (5) 被告会社による損害賠償額の支払い
    被告会社は,平成16年12月15日,原告から自賠法16条1項に基づく請求を受け(弁論の全趣旨),その後,原告に対し,本件事故により原告に生じた後遺障害についての損害賠償額として,1574万円の支払いをした。
 3 争点
  (1) 過失相殺
  (被告Y1の主張)
    原告らは,国道19号線の車道において停車し,車両の修理・点検をするに際し,左路肩に寄せることなく停車し,かつ後方から来る車に対し危険を知らせるべく停止表示器材を置くなどの措置を取らなかった。そのため,被告Y1(ママ)おいて,停車中の車両等の発見が遅れ,本件事故の発生につながったものである。したがって,本件事故発生について,原告も少なくとも3割の過失があったというべきである。
  (原告の主張)
    争う。
  (2) 原告の損害
  (原告の主張)
  ア 受傷内容
    本件事故により,原告は,脳挫傷,外傷性クモ膜下出血,頭蓋骨骨折等の傷害を負った。
    原告は,脳外傷による脳器質精神症候群の状態にあり,精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある等として,平成16年7月12日,津家庭裁判所において後見開始の審判を受けた。
   イ 後遺障害の程度
     原告の後遺障害は,「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの」であり,自賠法施行令2条別表(以下単に「別表」という。)第1の2級1号に該当するものである。
   ウ 損害額
    (ア) 治療費 81万7143円
      原告は,本件事故により,東海記念病院,晴和病院,尾鷲総合病院,わたなべ歯科医院に入通院せざるを得なかったが,それらに支出した治療費等は,合計81万7143円である。
    (イ) 入院雑費 14万5600円
      原告は,本件事故により,平成15年9月26日から同年12月25日まで計91日間の入院治療を余儀なくされた。上記入院の雑費として,少なくとも1日1600円を要したものであって,その合計額は14万5600円を下らない。
    (ウ) 入院付添看護費 54万6000円
      原告の受傷の程度は極めて重大であり,上記91日間の入院中において付添看護が必要であったところ,そのために要した費用は少なくとも1日6000円であって,その合計額は54万6000円を下らない。
    (エ) 通院付添看護費 18万1530円
      原告の母は高齢であり体も病弱であって,病院への送迎等ができないため,原告の通院等のために職業付添人である「非営利活動法人あいあい」の送迎等サービスを利用せざるを得なかった。このサービス利用のために症状固定日までに要した費用は,少なくとも合計18万1530円である。
    (オ) 将来の付添看護費 2954万0910円
      原告は,本件事故により極めて重大な後遺障害が残存し,後見開始の審判を受けたものであって,終生にわたって,付添看護ないし介護が必要である。そこで,将来の付添看護費は少なくとも1日6000円であり,症状固定日(平成16年11月18日)当時56歳であったから,平均余命に至るまでの23年間について,ライプニッツ係数(13.489)に基づいて計算すると,合計額は2954万0910円である(6000×365×13.489)。
    (カ) 入通院慰謝料 288万円
      原告は上記のように91日間の入院治療を余儀なくされるとともに,その後も平成16年11月18日に症状が固定するまで約11か月間の通院治療を余儀なくされた。よって,原告の入通院慰謝料としては288万円を下らない。
    (キ) 後遺症による逸失利益 3919万1707円
      本件事故の後遺症による原告の逸失利益を計算するに,症状固定日当時56歳であったところ,賃金センサスに基づく年収は559万7400円であり(平成16年産業計,企業規模計,全労働者),最低12年間は就労可能であったから,ライプニッツ係数は8.863であり,労働能力喪失割合は少なくとも79/100であるから,原告の逸失利益は少なくとも3919万1707円となる。
    (ク) 後見開始申立費用等 6万8710円
      原告については,本件事故により後見開始の申立てを行わざるを得なくなったが,そのための費用として少なくとも5万3150円を支出した。また,原告は,自賠責保険請求の必要書類の取寄せ費用として,少なくとも1万5560円を支出した。
    (ケ) 後遺症による慰謝料 1500万円
      本件事故により,原告は極めて重大な後遺症を一生背負わざるを得なくなり,精神上の障害により事理弁識能力を欠く常況にあるとして後見開始の審判を受けるなど,まさに人生そのものを台無しにされたといわざるを得ない。原告の慰謝料としては1500万円を下らない。
    (コ) 弁護士費用 883万7160円
   エ 被告会社による未払額 1426万円
     原告の後遺障害についての自賠責保険の保険金額は3000万円であるところ,そのうち,1574万円が支払われたものの,1426万円が未払いである。
  (被告Y1の主張)
    不知ないし争う。
  (被告会社の主張)
   ア 受傷内容について
     前段は,原告主張の傷病名の診断を受けたことは認める。後段は認める。
   イ 後遺障害の程度について
     原告の後遺障害のうちの脳外傷による高次脳機能障害については,別表第2の5級2号に該当するものであり,これを超える等級評価をすることはできない。原告の後遺障害のうちの複視については,14級相当と認定されているから,結局,原告の後遺障害等級は併合5級である。
   ウ 損害額について
    (ア) 治療費,入院雑費,入院付添看護費,通院付添看護費は不知。
    (イ) 将来の付添看護費については,原告が後見開始の審判を受けたこと,症状固定日が平成16年11月18日であったことは認めるが,その余は不知。
    (ウ) 入通院慰謝料は争う。
    (エ) 後遺症による逸失利益,後見開始申立費用等は不知。
    (オ) 後遺症による慰謝料は争う。
    (カ) 弁護士費用は不知。
   エ 被告会社による未払額について
     被告会社は,5級の保険金額の限度額である1574(ママ)円を支払済みであり,未払いはない。
第3 当裁判所の判断
 1 争点(1)(過失相殺)について
  (1) 本件事故態様について
    前提事実に加え,証拠(甲20の1ないし8,10ないし41,甲21)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
    本件事故現場の道路は,本件事故現場付近において,見通しの良い直線道路となっており,中央分離帯で区分され,明知町方面(北方向)に向かう車線は2車線となっている。上記車線の幅員はそれぞれ約3.6メートルであり,上記車道の外側(西側)には幅員約1.6メートルの路側帯が設けられ,その外側には幅員約0.4メートルの蓋のない側溝があり,さらにその外側はコンクリート壁となっている。
    本件事故当時,勤務先の同僚であった原告とBは,仕事に向かうため,原告らの勤務先の車両であるB車両(トヨタカローラバン)に乗車して走行していたところ,B車両の調子が急に悪くなり加速しなくなったことから,BはB車両を本件事故現場道路の左側(西側)の路側帯に入れて停車させた。その際,Bは,B車両のハザードランプを付け,ボンネットを開けた状態で停車させたが,B車両の右側部分は路側帯から若干車道内に入っていた。
    それから,原告が,その直前にB車両に給油をしたガソリンスタンドに電話をかけたところ,その店長であるAがB車両の状況を調べるため来ることになり,AはA車両(トヨタエスティマ)を運転して本件事故現場に訪れ,B車両のすぐ後方の路側帯の中にA車両を入れて停車させた。その際,Aは,A車両のハザードランプを付けた状態で停車させたが,A車両の右側部分は路側帯から若干車道内に入っていた。
    その後,原告,B,Aは,上記車両の外において,B車両のボンネット内を見るなどして,B車両の不調の原因を探ろうと試みていた。
    そのとき,被告Y1は,被告車両(ニッサンディーゼル)を運転して,時速約40キロメートルの速度で本件事故現場付近に至ったが,左前方に対する注視をしなかったことから,本件事故現場にA車両,B車両が停車していることについても,原告,B,Aらが存在することについても,全く気付かないまま進行し,被告車両左前部をA車両の右後部に衝突させ,A車両を前方に押し出してB車両の後部に衝突させ,これらの車両が原告,B,Aらに衝突し,その衝撃により同人らは傷害を負った。
    なお,被告Y1は,本件事故発生当日,本件事故の前に,本件事故とは別の追突事故を1回,駐車車両に対する当て逃げ事故を1回,引き起こしていたものである。
  (2) 上記事実によれば,被告Y1は,日中,見通しの良い直線道路を進行していたにもかかわらず,ハザードランプを点灯していたA車両,B車両や,原告ら歩行者の存在にも全く気付かずに進行したというのであり,被告車両が大型で最大積載量10トンのダンプカーであったこと(甲20の33),被害者は交通弱者である歩行者であったことを考慮するならば,被告Y1の過失の程度は極めて重大であると言わざるを得ない。その一方,原告の乗車していたB車両は,急な故障により,本件事故現場に停車せざるを得なかったものである。そうすると,本件事故当時,A車両,B車両の右側部分が若干車道内に入っていたこと,上記両車両につき停止表示器材が置かれていなかったことなどを考慮しても,原告の損害につき,被告Y1との関係で過失相殺をすべきものとは解することができない。
    したがって,被告Y1による過失相殺の主張は採用できない。
 2 争点(2)(原告の損害)について
  (1) 受傷内容,治療経過等について
    証拠(甲4ないし7,11の1ないし甲14の75,甲20の24ないし29,甲28,31ないし33,丙1),弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
   ア 原告は,本件事故により受傷し,救急車にて搬送され,東海記念病院に入院し,脳挫傷,外傷性クモ膜下出血,頭蓋骨骨折,右肩・右肘・右膝挫創,頚椎捻挫,骨盤打撲,上部消化管出血,右眼球打撲,両眼底異常等の診断を受けた。
     原告は,同病院に平成15年9月26日(本件事故発生日)から同年10月30日まで入院し,当初にみられた意識障害は次第に改善していったが,不穏,徘徊の症状が出現し,他患者の引き出しを開けたりするなどの異常行動もあったことから,同日,晴和病院(精神科)に転院することとなった。
     原告は,同病院に,同日から同年12月1日まで入院したところ,上記精神症状は次第に改善し,同日,再び東海記念病院に転院し,以後,リハビリ等の治療を受け,同月25日,同病院を退院した。
     上記入院期間合計は91日となる。
   イ その後,原告は,平成16年1月9日から同年11月18日までの間,尾鷲総合病院の外科,整形外科,神経内科,脳神経外科に通院して診療を受けた(実通院日数53日。甲11の1,甲14の6ないし35,甲14の37ないし62)。
     また,原告は,同年6月9日,第一病院に通院して診察を受けた(甲14の36)。
   ウ 平成16年7月12日,津家庭裁判所において,原告は,脳外傷による脳器質精神症候群の状態にあり,自己の財産を管理,処分することができず,今後病状が回復する可能性はないことから,精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるとして,後見開始の審判を受け,原告の弟であるCが成年後見人に選任された(甲7)。
   エ 尾鷲総合病院脳神経外科の医師は,平成16年11月18日,原告の症状が同日に固定したとする後遺障害診断書を作成した(甲11の1)。上記後遺障害診断書には以下の記載がある。
    (ア) 傷病名 頭部外傷後遺症(外傷性くも膜下出血,脳挫傷)
    (イ) 自覚症状
      頭重感,歩行障害,構音障害,書字困難,傾眠がち,箸も持ちにくい,複視も訴える。
    (ウ) 他覚症状及び検査結果等
      握力,右12キログラム,左14キログラム。右上下肢深部腱反射軽度亢進。軽度右上下肢麻痺。軽度右顔面神経麻痺。失調症(右>左)。書字困難。失調性歩行。構音障害(軽度)。
  (2) 後遺障害の程度について
   ア 本件事故による原告の後遺障害については,後遺障害診断書(甲11の1)等を資料として,自賠責保険の手続において,自賠責保険(共済)審査会高次脳機能障害専門部会の審議に基づいて,次のとおり認定された(甲12)。
    (ア) 頭部外傷後の症状については,診療医からの「日常生活動作検査表」において,屋内歩行は可能とされ,神経心理学的テストの長谷川式簡易知能評価スケールでの異常は認められないが,後遺障害診断書上,自覚症状欄に「頭重感,歩行障害,構音障害,書字困難,傾眠がち」等とされ,診療医からの「脳外傷による精神症状等についての具体的な所見」上,「物忘れ,新しい事を覚える気がしない。集中して物事を取り組めない。傾眠がちで昼間でも眠ってしまう。」と記載されており,また,家族からの「日常生活状況報告書」においても「入浴,食事は忘れてしまう。頭が痛いからと言って1日中寝ていることがある。すぐ怒る」等とあることから,物忘れや自発性の低下の症状が窺える。
      これらの所見や報告内容を,ふらつき等の症状を含めて総合的に評価することとし,その症状としては,独力では一般平均人の1/4程度の労働能力しか残されていないものと捉えられることから,「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以上の労務に服することができないもの」として,別表第2の5級2号適用と判断する。
    (イ) 頭部外傷に伴う複視については,後遺障害診断書やヘスチャート等から,正面視以外の左右上下視で複視を生じるものと認められることから,別表第2備考6により,別表第2の14級相当と判断する。
    (ウ) 上記を併合して,別表第2の併合5級となる。
   イ これに対し,原告は,原告には脳外傷による高次脳機能障害が認められ,これにより,社会復帰が極めて困難な状態が継続しており,原告の後遺障害の程度は「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの」として別表第1の2級1号に該当するものである旨主張する。
     確かに,上記(1)掲記の証拠に加え,甲29の1,2,弁論の全趣旨に鑑みると,原告においては,本件事故によって脳の傷害が生じ,これによる意識障害が生じたものであり,また,意識回復後には,脳の上記傷害に起因する顕著な認知障害と人格変化が生じたことが認められるから,原告に残遺した後遺障害は,高次脳機能障害であると認められる。
     しかしながら,第1に,原告においては,意識回復後に,不穏,徘徊ほかの異常行動が見られていたものの,晴和病院に転院した後にはこれらの症状は改善して,理解力の向上が見られ,精神症状が安定し,東海記念病院に再入院している(甲32の15丁)。
     第2に,東海記念病院の医師が作成した診療情報提供書によれば,東海記念病院を平成15年12月25日に退院する際,原告においては,風呂,トイレも含めADL(日常生活動作)がすべて自立している旨が記載されている(甲32の19丁)。
     第3に,原告に対して平成16年6月9日に実施された長谷川式簡易知能評価スケールにおいては,満点が30点で,20点以下が「痴呆の疑い」,21点以上が「非痴呆」とされるところ,28点を得点している(丙1の32丁)。
     第4に,尾鷲総合病院の診療録によれば,平成19年1月ころの記載として,原告の母の入院中,原告が単独で食事をしている旨の記載がある(丙1の40丁)。
     以上の事実を,上記(1)掲記の各証拠,甲29の1,2と総合して考慮すると,原告の高次脳機能障害の程度は,原告主張のように別表第1の2級1号に該当するものとまでは認められず,さらに,労働能力を完全に喪失する程度に至ったものとは認めるに足りないのであり,甲12の認定のとおり,別表第2の5級2号に該当する程度のものと認めるのが相当である。
     したがって,原告の上記主張は採用できない。
  (3) 損害額について
   ア 治療費 80万2093円
     上記受傷内容,治療経過等に加え,甲13の1ないし甲14の75,弁論の全趣旨によれば,原告は,本件事故による受傷のため,以下の治療費の支出を要したことが認められる(国民健康保険により支払われた治療費を除く。)。なお,原告は,わたなべ歯科医院で治療を受けたとして甲14の76ないし81を提出するが,本件事故による受傷とわたなべ歯科医院における治療との間の因果関係を認めるに足りる証拠はない。
    (ア) 東海記念病院分 53万4233円
     (甲13の1,2,甲14の1,2,4,5)
    (イ) 晴和病院分 18万8200円
     (甲13の3,4,甲14の3)
    (ウ) 尾鷲総合病院分 3万5630円
     (甲14の6ないし35,甲14の36ないし62)
    (エ) 第一病院分 890円
     (甲14の36)
    (オ) 薬局分 4万3140円
     (甲14の63ないし75)
   イ 入院雑費 13万6500円
     本件事故により原告は91日間入院したところ,入院雑費は1日当たり1500円が相当であるから,合計13万6500円となる。
   ウ 入院付添看護費 0円
     本件事故による原告の入院期間中,病院の職員以外の者による付添看護がなされたこと,上記入院期間中,病院の職員以外の者による付添看護が必要であったことについて,いずれもこれを認めるに足りる証拠はない。
   エ 通院付添看護費 18万1530円
     甲15の1ないし18,丙1,弁論の全趣旨によれば,原告は,本件事故による受傷のため,尾鷲総合病院に通院する際,ヘルパーの付添を受け,そのための費用として18万1530円の支出を要したことが認められる。
   オ 将来の付添看護(介護)費 984万6970円
     原告の後遺障害の程度に鑑み,原告については,外出の際などに他者による随時の付添,看視,声かけ等が必要であると認められ,その介護費用としては日額2000円をもって相当と認める。
     そこで,原告は症状固定日において56歳であったことに鑑み(甲11の1),原告の主張に従い,23年間について,ライプニッツ方式によって中間利息を控除し(ライプニッツ係数は13.489),将来の介護料を算定すると,次の計算式により,984万6970円となる。
    計算式 2000円×365日×13.489
   カ 入通院慰謝料 288万円
     本件事故態様,受傷内容,治療経過等に鑑み,入通院慰謝料としては,原告の主張に従い,288万円をもって相当と認める。
   キ 後遺障害による逸失利益 2136万7366円
     甲20の32によれば,本件事故当時,原告は会社に勤務して就労していたことが認められるところ,上記後遺障害の程度に鑑み,原告はその労働能力の79%を喪失したものと認められるから,原告には後遺障害による逸失利益が発生したことが認められる。
     上記逸失利益算定上の基礎収入額につき,本件事故以前における原告の実際の収入額に関する証拠が提出されていないのであるが,本件証拠上,本件事故当時において,原告に扶養すべき家族がいたことは窺われないこと,原告の就労意欲に問題があったことは窺われないこと等を総合して考慮し,平成16年賃金センサス第1巻第1表の男性労働者の産業計,企業規模計,学歴計の全年齢平均賃金額である542万7000円(顕著事実)の60%にあたる325万6200円をもって基礎収入額とするのが相当である。
     また,上記逸失利益算定上の労働能力喪失期間としては,症状が固定した56歳から67歳までの11年間とするのが相当であり,同期間につきライプニッツ方式により中間利息を控除して算定するのが相当である(ライプニッツ係数は8.3064)。
     そうすると,上記逸失利益は,次の計算式により,2136万7366円となる。
    計算式 325万6200円×0.79×8.3064
   ク 後見開始申立費用等 6万8710円
     甲16の1ないし甲17の3,弁論の全趣旨によれば,原告は,後見開始の申立費用及び自賠責保険金の請求のための費用として,合計6万8710円の支出を要したことが認められ,本件事故とかかる支出との間には相当因果関係が認められる。
   ケ 後遺障害による慰謝料 1500万円
     前記後遺障害の内容,程度に加え,原告はかかる後遺障害によって,精神的,肉体的に極めて甚大な苦痛を被ったものと認められることに鑑み,後遺障害による慰謝料としては,原告主張の1500万円をもって相当と認める。
   コ 上記損害額の合計は,5028万3169円となる。これから,被告Y1によっててん補された40万円(前提事実(4)),被告会社によっててん補された1574万円(前提事実(5))をそれぞれ控除すると,残額は,3414万3169円となる。
   サ 弁護士費用 342万円
     本件審理経過,認容額等に鑑み,被告Y1に負担させるべき原告の弁護士費用は,342万円とするのが相当である。これを上記残額に加算すると,3756万3169円となる。
  (4) 被告会社に対する請求について
    後遺障害が別表第2の5級に該当する場合,自賠責保険の保険金額は,1574万円であるところ,被告会社は,原告に対し,後遺障害についての損害賠償額として既に1574万円全額を支払っている(前提事実(5))。したがって,本件事故による後遺障害に関する被告会社の原告に対する損害賠償額支払義務は,上記支払いによって消滅している。
 3 結論
   以上によれば,原告の被告Y1に対する本訴請求は,3756万3169円及びこれに対する本件事故発生日の翌日である平成15年9月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり,その余の請求は理由がない。
   また,原告の被告会社に対する本訴請求は理由がない。
   よって,主文のとおり判決する。
     名古屋地方裁判所民事第3部
             裁判官 尾崎 康

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