仙台地方裁判所判決 平成20年3月26日

症状固定時55歳の男性会社員が高次脳機能障害(7級4号)、左鎖骨の変形障害(12級5号)、左耳難聴(12級相当、併合6級)の後遺障害を負った場合において、傷害分150万円の慰謝料、本人分1300万円、妻100万円の後遺障害分の慰謝料を認めた。

       主   文

 1 被告は,原告X1に対し,2111万9183円及びこれに対する平成15年1月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
 2 被告は,原告X2に対し,110万円及びこれに対する平成15年1月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
 3 原告らのそのほかの請求をいずれも棄却する。
 4 訴訟費用は,その10分の7を原告ら,10分の3を被告の負担とする。
 5 この判決は,第1項,第2項に限り,仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 請求
 1 被告は,原告X1に対し,7481万6595円及びこれに対する平成15年1月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
 2 被告は,原告X2に対し,330万円及びこれに対する平成15年1月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 本件は,交通事故の被害者である原告X1とその妻である原告X2が,その加害者である被告に対し,自動車損害賠償保障法3条に基づいて,その被った損害の賠償を求めた事案である。
 2 前提事実(認定に用いた証拠〔枝番を含む。〕などは末尾に掲げる。)
  (1) 本件事故の発生(甲1,2,乙4)
    原告X1(昭和22年○○月○○日生まれの男性)は,以下のとおりの交通事故(以下「本件事故」という。)に遭った。
    日時 平成15年1月18日午後1時50分ころ
    場所 仙台市若林区蒲町20番62号の先にある交差点(以下「本件交差点」という。)
    被害車両 原告X1が運転する自転車
    加害車両 被告が保有,運転する普通乗用自動車(宮城○○と○○○○)
    事故態様 本件交差点で,県道荒井荒町線を遠見塚3丁目方面から荒井方面に向かって直進していた被害車両の左側面と,蒲町方面から国道4号仙台バイパス蒲町交差点に向かって右折進入していた加害車両の前部左側が衝突し,この衝撃で転倒した原告X1が傷害を負った(詳しい事故態様に争いがある。)。
  (2) 責任原因
    被告は,自己のために加害車両を運行の用に供して,本件事故を起こし,原告X1の身体を害したから,自動車損害賠償保障法3条に基づいて,この事故によって原告X1が被った損害を賠償する責任がある。
  (3) 治療経過
   ア 国立仙台病院脳神経外科(甲3)
     傷病名 左側頭骨骨折,左硬膜外血腫,右硬膜下血腫,右側頭葉部脳挫傷,左鎖骨骨折
     入院 平成15年1月18日から同年2月4日までの18日間
     通院 同年2月12日から同年9月4日までに8回
   イ 国立仙台病院整形外科(甲4)
     傷病名 左鎖骨骨折
     入院 平成15年1月18日から同年2月4日までの18日間
     通院 同年2月5日から同年9月2日までに10回
   ウ 国立仙台病院耳鼻科(甲74)
     傷病名 左側頭骨骨折,左伝音性難聴,左外耳炎
     通院 平成15年2月20日から同年7月16日までに5回
   エ 国立仙台病院歯科(甲75)
     傷病名 顎関節症
     通院 平成15年3月18日及び同年4月11日の2回
   エ(ママ) 国立仙台病院皮膚科(甲73)
     傷病名 膿痂疹様湿疹(左手),慢性湿疹(右手),乾皮症(両下腿)
     通院 平成15年4月21日及び同年7月31日の2回
   オ 国立仙台病院泌尿器科(甲5)
     傷病名 前立腺肥大
     通院 平成15年7月31日から同年9月2日までに3回
   カ 国立仙台病院眼科(甲72)
     傷病名 両近視性乱視
     通院 平成15年8月12日及び同年9月2日の2回
   キ 東北厚生年金病院神経内科(甲6,22)
     傷病名 脳挫傷(右側頭葉),左硬膜外血腫,右硬膜下血腫,左側頭骨骨折,嗅覚障害
     通院 平成15年7月17日から平成16年3月19日までに25回
   ク 東北大学医学部附属病院耳鼻咽喉・頭頚部外科(甲7,13)
     傷病名 味覚減退(高度)
     通院 平成15年7月23日から同年9月11日までに6回
  (4) 症状固定,後遺障害等級の認定(甲12~14,15,23)
   ア 原告X1は,平成15年9月2日,国立仙台病院整形外科のA医師から,左鎖骨骨折により鎖骨部変形の後遺障害が残ったとの診断を受けた。
     原告X1は,同月11日,東北大学医学部附属病院耳鼻咽喉・頭頚部外科のB医師から,頭部外傷により左耳の難聴・耳鳴り,味覚障害,嗅覚障害の後遺障害が残ったとの診断を受けた。
     原告X1は,平成16年3月29日,東北厚生年金病院神経内科のC医師から,脳挫傷(右側頭葉),左硬膜外血腫,右硬膜下血腫,左側頭骨骨折により高次脳機能障害などの後遺障害が残ったとの診断を受けた。
   イ 原告X1は,平成16年12月29日,頭部外傷後の精神・神経症状については自動車損害賠償保障法施行令2条別表第2(以下「自賠責等級」という。)第7級4号(神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの),左鎖骨部変形については自賠責等級12級5号(鎖骨に著しい奇形を残すもの)に定める後遺障害に該当し,左難聴・耳鳴りについては自賠責等級12級に定める後遺障害に相当するが,味覚障害,嗅覚障害については同表に定める後遺障害に該当せず,併合して自賠責等級6級に相当する後遺障害が残ったと認定された。
     原告X1は,財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構紛争処理委員会に対し,この認定に対する紛争処理の申請をしたが,平成19年1月12日,この委員会から,前記の認定に変更がないとの判断を受けた。
  (5) 損害のてん補
    原告X1は,本件事故により被った損害のてん補として,合計1373万1829円の支払を受けた。
 3 争点及び主張
  (1) 損害の有無・額
   ア 治療費,入院雑費,通院交通費,通院付添費
    (原告らの主張)
     原告X1は,本件事故により,左側頭骨骨折,左硬膜外血腫,右硬膜下血腫,右側頭葉部脳挫傷,高次脳機能障害,左伝音性難聴,左外耳炎,味覚障害,嗅覚障害,左鎖骨骨折の傷害を負った。その治療のために,国立仙台病院での18日間の入院と,妻である原告X2に付き添ってもらって,国立仙台病院,東北厚生年金病院,東北大学医学部附属病院に合計63回の通院をする必要があった。
     原告X1は,この入院,通院のため,これらの病院での治療費53万5257円,国立仙台病院での入院雑費2万7000円,これら病院への通院交通費3万2670円,通院1回当たり6500円の割合での付添交通費40万9500円を負担した。
    (被告の主張)
     原告X1は,東北大学医学部附属病院で,味覚障害の治療を受けているが,この障害が本件事故により生じたものか明らかではない。この病院での治療費(2万7950円),この病院への通院交通費は本件事故により生じた損害とは認められない。
     また,原告X1は,平成15年4月1日から,仙台市○○市民センターにおいて,1人体制で,受付,電話応対,館内巡視などの業務に従事している。そして,自分で自動車を運転して,このセンターに通勤している。このことからすると,原告X1が通院するのに付添いは必要でないから,付添交通費は本件事故により生じた損害とは認められない。
     したがって,本件事故により生じた損害は,国立仙台病院,東北厚生年金病院での治療費50万7307円,国立仙台病院での入院雑費2万7000円,国立仙台病院,東北厚生年金病院への通院交通費2万5840円だけである。
   イ 将来の看視・介助費
    (原告らの主張)
     原告X1には,本件事故により,高次脳機能障害の症状が残っている。その意思疎通能力(記銘・記憶力,認知力,言語力など),問題解決能力(理解力,判断力など),作業負荷に対する持続力・持久力,社会行動能力(協調性など)が損なわれている状況を踏まえると,その症状は,自賠責等級5級2号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの)に該当するとみるのが相当である。また,勤務時間中に寝入ってしまう,やかんで湯を沸かしている間に寝入ってしまうなどとの病的な日中の眠気を催すようにもなった。
     このため,原告X1は,その平均余命期間23年間にわたって,妻である原告X2による看視・声かけ・介助などの介護がなければ,1人で日常生活を送ることは不可能である。そのための費用は1日当たり2000円を下回らない。
     したがって,原告X1は,本件事故により,以下の計算式のとおり,将来の看視・介助費として1098万2996円の負担を余儀なくされた。
     なお,民法の解釈では,利息の計算方法として,単利(ホフマン係数)を原則としているから,控除利息も複利(ライプニッツ係数)ではなく,ホフマン係数で計算すべきである。
    〔計算式〕
     2000円×365日×15.0452(平均余命期間23年に対応するホフマン係数)=1098万2996円
    (被告の主張)
     原告X1は,平成15年4月1日から,仙台市○○市民センターにおいて,1人体制で,受付,電話応対,館内巡視などの業務に従事している。そして,自分で自動車を運転して,このセンターに通勤している。このことからすると,原告X1が日常生活を送るのに,原告X2による看視・声かけ・介助などの介護が必要でないから,将来の看視・介助費は本件事故により生じた損害とは認められない。
   ウ 逸失利益
    (ア) 基礎収入
     (原告らの主張)
      原告X1(本件事故当時55歳の男性)は,本件事故当時,無職であり,平成15年4月から仙台市○○市民センター非常勤嘱託職員として勤務することになっていた。
      しかし,平成14年4月までの31年間はD株式会社で勤務し,最後は工場長まで務め,平成13年,平成14年には平均賃金よりも40パーセント以上の高額の給与収入を得ていた。
      また,退職するまでに,1級土木管理施工技士,1級舗装施工管理技術者,測量士補などの資格を取得していた。退職後は,再就職をするために,マンション管理士試験の準備,宮城職業能力開発促進センターで建築CADの訓練をしていた。市民センターの非常勤嘱託職員として勤務することにしたのは,試験勉強に専念して,本格的な再就職をするまでのつなぎにすぎない。
      このような状況からすると,原告X1は,本件事故がなければ,賃金センサス平成17年第1巻第1表の男子労働者・高卒・55~59歳欄記載の平均賃金578万2900円程度の収入を得ることができたから,この額を基礎収入とみるのが相当である。
     (被告の主張)
      原告X1は,本件事故,無職であり,市民センターの非常勤嘱託職員として勤務することになっており,現在もその勤務を続けているのだから,その勤務での平成16年分の給与収入額169万0271円を基礎収入とみるのが相当である。
      原告X1が取得を目指していたマンション管理士は,その試験の難易度からすると,取得するまでに相当の期間が見込まれるし,一般に,55歳以上の男性が平均賃金を得られるような再就職先を見つけることは困難であるから,本件事故がなければ平均賃金程度の収入を得ることができたとみるのは相当ではない。
    (イ) 労働能力喪失割合
     (原告らの主張)
      原告X1には,本件事故により,①自賠責等級5級2号に該当する高次脳機能障害,②自賠責等級12級5号に該当する左鎖骨の変形障害,③自賠責等級12級に定める後遺障害に相当する左耳難聴・耳鳴り,④自賠責等級12級に定める後遺障害に相当する嗅覚障害の後遺障害が残っている。これらの後遺障害は併合すると,自賠責等級4級に定める後遺障害に相当するから,少なくともその労働能力の90パーセントが失われている。
      被告の主張の根拠になっている財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構紛争処理委員会での判断は,自賠責での基準の枠内のものにとどまる。また,この判断は画像上の異常所見を重視したものであり,その後に自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会が発表した「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」で,高次脳機能障害の程度を判断するに当たって社会的行動障害の有無・程度を重視するべきであるとの最新の医学的知見にも反している。
     (被告の主張)
      原告X1は,平成15年4月1日から,仙台市○○市民センターにおいて,1人体制で,受付,電話応対,館内巡視などの業務に従事している。そして,自分で自動車を運転して,このセンターに通勤している。このことからすると,財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構紛争処理委員会での判断のとおり,本件事故により原告X1に残った後遺障害の程度は,併合して自賠責等級6級に定める後遺障害に相当するにとどまり,失われた労働能力は67パーセントを上回らない。
      財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構紛争処理委員会では,画像上の異常所見を含めて前記の判断をしているが,この判断枠組みは原告らが挙げる「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」でも変えられていない。
    (ウ) 中間利息控除
     (原告らの主張)
      民法の解釈では,利息の計算方法として,単利(ホフマン係数)を原則としているから,控除利息も複利(ライプニッツ係数)ではなく,ホフマン係数で計算すべきである。
     (被告の主張)
      実務上,ライプニッツ係数で計算されている。原告X1に限ってホフマン係数で計算しなければならない事情は見当たらない。
    (エ) まとめ
     (原告らの主張)
      以上のとおり,原告X1には,本件事故により,前記の後遺障害が残ったことで,就労が可能な67歳までの12年間に得ることができたはずの利益を失った。その金額は,以下の計算式のとおり,4796万1001円である。
     〔計算式〕
      578万2900円(賃金センサス平成17年第1巻第1表の男子労働者・高卒・55~59歳欄記載の平均賃金)×0.9(労働能力喪失割合)×9.2151(労働能力喪失期間12年に対応するホフマン係数)=4796万1001円(1円未満切捨て)
     (被告の主張)
      原告X1が,本件事故により,得ることができたはずの利益は,以下の計算式のとおり,1003万7184円にとどまる。
     〔計算式〕
      169万0271円(市民センターでの給与収入の額)×0.67(労働能力喪失割合)×8.863(労働能力喪失期間12年に対応するライプニッツ係数)=1003万7184円
   エ 傷害慰謝料
    (原告らの主張)
     原告X1は,本件事故により傷害を負い,前記のとおりの入院,通院を余儀なくされたことで,精神的苦痛を被った。その苦痛を慰謝するための慰謝料は180万円を下回らない。
     国立仙台病院歯科,皮膚科,泌尿器科,眼科への通院は,いずれも脳外傷に伴う諸症状が出たためである。検査,対処療法的なものにとどまっているからといって,本件事故により生じた傷害を治療するために必要でなかったとみるのは相当ではない。また,通院期間が409日間,実通院回数が63回であるが,だからといって,実通院回数の3.5倍程度の日数を慰謝料算定のための通院期間とみることは相当ではない。通院期間の全部を慰謝料算定のための通院期間とみるべきである。
    (被告の主張)
     東北大学医学部附属病院での治療は本件事故により生じた傷害を治療するのに必要のないものである。したがって,この通院期間は慰謝料算定のための期間に含めるべきではない。
     また,原告X1の通院期間は409日間にわたっているが,その頻度は不規則である。国立仙台病院歯科,皮膚科,泌尿器科,眼科での治療は,検査,対処療法的なものにとどまり,本件事故により生じた傷害の治療に必要があったのか疑いを入れる余地がある。
     したがって,このような通院の期間,頻度,治療内容・経過を考慮すると,実通院回数(63回)の3.5倍程度の日数を慰謝料算定のための通院期間とみるべきであるから,原告X1の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は149万円を上回らない。
   オ 後遺障害慰謝料
    (原告らの主張)
     原告X1には,本件事故により,併合して自賠責等級4級に相当する後遺障害が残った。原告X1は,このことで精神的に苦痛を被った。この後遺障害の程度,その人格が強制的に変更されたなどの後遺障害の内容を踏まえると,その苦痛を慰謝するための慰謝料は2000万円を下回らない。
    (被告の主張)
     本件事故により原告X1に残った後遺障害は,併合して自賠責等級6級に定める後遺障害に相当する程度にとどまる。このことで被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は1180万円で足りる。
   カ 近親者固有の慰謝料
    (原告らの主張)
     原告X2は,原告X1に高次脳機能障害が残ったことで,計り知れないほどの喪失感,絶望感,緊張感,将来への不安感を感じている。このことを慰謝するための慰謝料は300万円を下回らない。
    (被告の主張)
     原告X2が被った精神的な苦痛は,X1が死亡したのと比肩するほどではないから,慰謝料の支払を求めるまではできない。
   キ 弁護士費用
    (原告らの主張)
     原告らは,本件事故による損害の賠償を求めるため,弁護士に委任し,本件訴訟を提起する必要があった。そのための弁護士費用は原告X1については680万円,原告X2については30万円を下回らない。
    (被告の主張)
     争う。
  (2) 過失相殺
   (被告の主張)
    被告は,蒲町方面から加害車両を運転し,本件交差点の手前にある停止線の付近で加害車両を一時停止させた。その後,徐行で進行しながら,右側(遠見塚3丁目方面)から左ウインカーを点けて本件交差点で左折しようとしている自動車(以下「対向車両」という。)が進行しているのを確認して,そのまま時速約20ないし30キロメートルで進み,本件交差点の直前で,左折してきた対向車両とすれ違った。ところが,対向車両の後ろを走行し,本件交差点の通過を始めた被害車両が,加害車両からみて対向車両の陰になっていたため,気づくのが遅れて本件事故を引き起こした。
    本件交差点は,県道荒井荒町線と加害車両が走行していた道路が鋭角に交わるY字交差点であり,被害車両の進行方向からみると加害車両の進行方向の見通しがいい。
    原告X1は,本件交差点の通過を始めるとき,加害車両も進入しようとしていることを確認できたはずだし,自転車で対向車両の後ろを走行して本件交差点の通過を始めたら,被告から自分がみえづらいことも予測できたはずである。原告X1が,本件交差点の通過を始めるとき,対向車両との車間距離を十分に取り,加害車両の動きを十分に確認していたら,本件事故が発生せず,あるいは発生してもその結果が小さく済んだ可能性がある。
    そうすると,これらの事情のほか,被告が一時停止の標識に従って加害車両を一時停止させていることも考慮すると,原告X1に対する損害賠償の額を決めるときには,その損害額の20パーセントを控除すべきである。
   (原告らの主張)
    被告は,T字交差点である本件交差点の突き当たり路から,右折進入を始めている。
    突き当たり路からT字交差点に進入するときは,交差道路の安全を確認するだけで足りるのに対し,直進路からT字交差点を通過するときは,突き当たり路から進入する車両などは徐行してくれると期待するのが一般の運行慣行と考えられるし,直線路の方が突き当たり路に比べて交通量も多く,主要な道路であることが通例である。突き当たり路からT字交差点に進入した者の過失割合は,十字交差点に進入するのと比べて,大きいとみるべきである。
    また,本件交差点では,被害車両が進行していた道路が優先道路である。加えて,被害車両は自転車であるから,過失割合を決めるに当たっては,被害者保護,優者危険負担の事情を考慮すべきである。
    被告は,本件交差点の通過を始めていた被害車両が,加害車両からみて対向車両の陰になっていたため,気づくのが遅れたと主張する。しかし,このことが事実であれば,原告X1からみても,加害車両に気づくのに遅れたことを意味するから,このことは過失割合を決めるに当たって,原告らにとって有利な事情とみるべきである。
    これらの事情からすると,原告X1には,本件事故を発生させたり,事故の結果を大きくさせる落ち度は見当たらないから,損害賠償の額を控除されるほどの過失はないとみるべきである。
第3 裁判所の判断
 1 認定事実
   前提事実,関係証拠(甲1~6,8~14,16~20,21,23,25~39,72~76,80,乙1,2,4〔枝番を含む。認定と異なる部分を除く。〕)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
  (1) 従前の状況
   ア 原告X1(昭和22年○○月○○日生まれの男性)は,中学校卒業後,D株式会社に勤務し,昭和57年からは単身赴任をしており,早期退職の募集に応じて平成14年4月30日に退職した。退職時には山形県内にあるアスファルト合板工場で工場長を務め,835万2400円の給与収入を得ていた。この会社で勤務しているとき,工業高等学校に進学・卒業したり,測量士補,1級土木施工管理技士,1級舗装施工管理技術者などの資格を取得していた。
     退職後は,再就職をするために,マンション管理士試験の準備,宮城職業能力開発促進センターで建築CADの訓練をしていた。
     原告X1は,同年12月,本格的な再就職をするまでのつなぎとして,財団法人仙台ひと・まち交流財団が募集していた市民センター非常勤嘱託職員採用試験を受けた。
   イ 原告X1は,本件事故前,温厚な人柄であった。健康状態や精神状態に問題があった様子はうかがわれない。また,退職後は,自宅で,妻の原告X2ら家族との生活を始め,映画鑑賞,釣りなどの趣味を楽しんだり,草刈り,どんと祭りの準備など町内会の活動に積極的に参加していた。
  (2) 本件事故の状況
   ア 本件交差点付近の状況
     本件交差点は,西側(遠見塚3丁目方面)からみると,県道荒井荒町線と加害車両が走行していた道路が鋭角(Y字型)に分岐し,東側(荒井方面)からみると,県道荒井荒町線と国道4号仙台バイパスからの出口路が鋭角(Y字型)に分岐する交差点であり,被害車両,加害車両のいずれの進行方向からも,相手方車両の進行方向の見通しはいい。
     加害車両が走行していた道路には,本件交差点の手前に,横断歩道,一時停止の標識と停止線の表示がある。
   イ 被告は,蒲町方面から加害車両を運転し,本件交差点の手前にある停止線の付近で加害車両を一時停止させた。その後,徐行で進行しながら,右側(遠見塚3丁目方面)から左ウインカーを点けて本件交差点で左折しようとしている対向車両,この車両に後続する2,3台の自動車が進行しているのを確認して,そのまま進み,本件交差点の直前で,左折してきた対向車両とすれ違った。このとき,被告は,被害車両が対向車両の後ろを走行し,本件交差点の通過を始めており,加害車両と5メートル程度までに近づいているのに初めて気づき,急ブレーキをかけたが,間に合わず,加害車両の前部左側を被害車両の左側面に衝突させて,原告X1を転倒させた(本件事故)。
   ウ 原告X1は,前屈みの姿勢で,ドロップハンドルの被害車両を運転していた。本件事故に遭うまで,ハンドルを切ったり,ブレーキをかけるなどの回避措置を講じていない。
  (3) 治療経過
   ア 原告X1は,本件事故により,左側頭骨骨折,左硬膜外血腫,右硬膜下血腫,右側頭葉部脳挫傷,左鎖骨骨折の傷害を負い,救急車で,国立仙台病院脳神経外科に搬送され,平成15年1月18日から同年2月4日まで,この病院に入院した。
     原告X1には,入院当日から3日ほど,刺激なしで開眼するが見当識障害がみられ(ジャパンコーマスケール2),1週間後までには意識が清明になった(ジャパンコーマスケール2)。
     入院当日の実施されたCT検査の結果,左側頭部に硬膜外血腫,右側頭部に硬膜下血腫,右側葉部にわずかな脳挫傷が認められた。退院後の同年5月7日と平成17年4月18日に実施されたMRI検査の結果,これらの硬膜外血腫,硬膜下血腫,脳挫傷の痕跡は認められなかった。この日と入院当日のMRI検査の結果を比較すると,脳室の拡大,脳萎縮などの画像所見は認められなかった。
   イ 原告X1は,国立仙台病院を退院した後,左側頭骨骨折,左硬膜外血腫,右硬膜下血腫,右側頭葉部脳挫傷,左鎖骨骨折の傷害のほか,左耳の耳鳴り・難聴,顎の痛み,頻尿,目の疲れ・まぶしさ,異常な眠気,疲労感,倦怠感,脱力感,などを訴え,前提事実記載のとおり,国立仙台病院に通院した。
   ウ 原告X1は,国立仙台病院脳神経外科での診察で,頭痛,イライラ感,眠気,疲労感,記憶力の低下などの症状を訴え,また脳波検査の結果,右側頭部にスパイクがみられたことから,東北厚生年金病院神経内科を紹介され,前提事実記載のとおり,ここに通院した。
     神経心理学的検査の結果は,平成15年8月14日に実施された認知機能検査(MMSE)が30点満点で28点,長谷川式知能評価スケール(HDS-R)は30点満点で25点,かなひろいテストの見落とし率が29.5パーセントであり,正常値をやや下回っていた。全般性脳機能検査(WAIS-R)では,言語性検査IQ(VIQ)が113点,動作性検査IQ(PIQ)が111点,偏差IQ(IQ)が113点であり,正常値の範囲内であった。
     原告X1には,治療を受けているとき,精神状態,性格の高度の変化として,飽きっぽい,集中力が低下して気が散りやすいとの様子がみられた。中等度の変化として,物忘れ,新しいことの学習障害,粘着性・しつこい・こだわる,感情の起伏や変動が激しく,気分が変わりやすい,計画的な行動をする能力の障害,自発性や発動性の低下があり,指示や声かけが必要になった,社会適応性の障害により友達付き合いが困難になったとの様子がみられた。また,治療を受けているとき,10分くらい座っているだけで眠ってしまうなど,日中に強い眠気を催していることをうかがわせる様子がみられた。脳波検査の結果でも,安静閉眼ですぐに睡眠パターンに移行する様子がみられた。
     東北厚生年金病院神経内科のC医師は,前記の状態を踏まえて,平成16年3月29日付け自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書,平成18年5月15日付け意見書で,高次脳機能障害であると診断している。
   エ 原告X1は,嗅覚,味覚の異常を訴え,前提事実記載のとおり,東北大学医学部附属病院耳鼻咽喉・頭頚部外科に通院した。
   オ 原告X1は,東北厚生年金病院神経内科のC医師から紹介されて,平成17年3月28日から,東北大学医学部附属病院精神科に通院している。
     東北大学医学部附属病院精神科のE医師は,平成17年6月12日付け精神障害者保健福祉手帳用診断書で,①病名を器質性感情障害,②現在の症状として抑うつ状態(思考・運動抑制,抑うつ気分),不安及び不穏(強度の不安・恐怖感),③生活能力の状態として,適切な食事摂取,身辺の清潔保持,通院と服薬,身辺の安全保持・危機対応,趣味・娯楽への関心,文化的社会的活動への参加は自発的にできるが援助が必要,金銭管理と買い物,他人との意思伝達・対人関係,社会的手続や公共施設の利用は援助があればできる,④日常生活能力の程度として,精神障害を認め,日常生活に著しい制限を受けており,時に応じて援助を必要とするとの意見を申し述べた。また,平成18年3月24日付け意見書で,原告X1にみられる眠気について,外傷後過眠症(慢性・中等度)であると診断している。
  (4) 自宅・勤務先での状況
   ア 原告X1は,平成15年4月1日から,仙台市○○市民センターにおいて,非常勤嘱託職員として勤務を始め,1人体制で,午後4時15分から午後9時15分まで,受付,電話応対,館内巡視などの業務に従事していた。市民センターでは,日勤の職員は午後5時まで勤務しているので,ほかの職員と一緒に勤務する時間は45分間である。平成17年4月1日,仙台市△△市民センターに転勤し,それまでと同じ業務に従事している。自分で自動車を運転して,これらのセンターに通勤していたが,原告X1に運転させることを心配した原告X2ら家族は,仕事で疲れている退勤のときは原告X1に運転させず,自分たちで運転している。平成16年分の給与収入は169万0271円である。
     原告X1には,これらの市民センターで,①ことばをはっきり言わなかったり,話の内容がころころ変わり,流れと脈絡のないこと突然話し出すため,職員や利用者との会話が成り立たないことがある,②職員からの引継ぎ事項をすぐに忘れる,③利用者におつりを渡すときに,「2000円-1550円=450円」程度の計算ができないため,電卓を使っている,④以前はできたブラインドタッチができなくなり,パソコンへの入力に時間がかかる,⑤ホワイトボードへの書き忘れ,誤記,鍵の閉め忘れといった単純ミスを繰り返す,⑥利用者に起こされるまで居眠りをしていたり,いつも眠そうでいる,⑦職員の言うことを聞き入れない,⑧感情の起伏が激しく,突然,職員に対して攻撃的な態度を取るとの様子がみられている。市民センターの館長から分限処分を示唆されたこともあった。もっとも,原告X1も,ほかの職員との衝突を避けるため,ほかの職員とは必要なこと以外は話さないようにしている。
   イ 原告X1は,現在,自宅で,妻の原告X2,長男,二男,三男と一緒に生活している。
     自宅では,排せつ,食事,着替え,入浴などの日常生活動作は介助を受けなくても1人でできるが,①ことばをはっきり言わなかったり,正しく言わなかったり,話の内容がころころ変わり,流れと脈絡のないこと突然話し出すため,家族との会話が成り立たないことがある,②やかんでお湯を沸かしているのを忘れて空だきしたり,ふとんにこたつのヒーターを直で当てて,こたつを組み立てたため,ふとんを焦がす,セルフのスタンドでおつりの受取りを忘れる,③「1000円-670円=330円」程度の暗算ができない,④感情の起伏が激しく,突然,家族に対して攻撃的な態度を取ったり,それまで振るったことがなかった暴力を家族に振るう,⑤被害者意識,被害妄想が強い,⑥自発性や発動性が低下し,指示や声かけをしないと日常生活動作を自分から進んでしなくなったり,兄妹との付合い,町内会との活動も拒み,自宅に引きこもっているとの様子がみられている。
 2 争点(1)についての検討
  (1) 治療費 認容額・50万7307円
    前記認定によると,原告X1は,本件事故により,左側頭骨骨折,左硬膜外血腫,右硬膜下血腫,右側頭葉部脳挫傷,高次脳機能障害,左伝音性難聴,左外耳炎,左鎖骨骨折の傷害を負って,その治療のため,国立仙台病院,東北厚生年金病院に入院,通院する必要があったことが認められる。関係証拠(甲40,72~75)によると,そのための国立仙台病院,東北厚生年金病院での治療費は合計50万7307円であることが認められる。
    被告は,原告X1が本件事故により高次脳機能障害の傷害を負ったことを争う。しかし,前記認定のとおり,原告X1には,入院当日の実施されたCT検査の結果,左側頭部に硬膜外血腫,右側頭部に硬膜下血腫,右側葉部にわずかな脳挫傷が認められた。入院当日から3日ほど,刺激なしで開眼するが見当識障害がみられた。関係証拠(乙42,46)によると,本件事故後にみられている精神症状は高次脳機能障害の症状と合っている。原告X1を診察したC医師は,前記認定の状態を踏まえて,高次脳機能障害と診断している。これらの事情からすると,原告X1は,本件事故により,高次脳機能障害の傷害を負ったとみるのが相当である。原告X1には脳萎縮,脳室の拡大が認められないが,関係証拠(乙46)によると,それだけで,高次脳機能障害の傷害を負っていないとみるまではできない。被告の主張は採用できない。
    原告らは,原告X1が本件事故によりこれらの傷害のほかに,味覚障害,嗅覚障害の傷害も負って,その治療のため,東北大学医学部附属病院に通院する必要があったと主張する。しかし,前記認定のとおり,原告X1が平成15年7月23日(本件事故の約6か月後)からこれら障害の治療を受けたことまでは認められるが,本件全証拠を検討しても,これらの障害が生じた時期や生じた原因がはっきりせず,これらの障害が本件事故により生じたとまでは認めることはできない。原告らの主張は採用できない。
  (2) 入院雑費 認容額・2万7000円
    原告X1が,本件事故により負った傷害を治療するため,国立仙台病院での入院雑費2万7000円を負担し,この入院雑費が本件事故により生じた損害であることは争いがない。
  (3) 通院交通費 認容額・2万5840円
    前記判断のとおり,原告X1は,本件事故により負った傷害を治療するため,国立仙台病院,東北厚生年金病院に通院する必要があった。関係証拠(甲32~40)及び弁論の全趣旨によると,国立仙台病院,東北厚生年金病院に通院するための交通費は合計2万5840円であることが認められる。
  (4) 付添交通費 認容額・0円
    原告らは,原告X1が通院をするに当たって,原告X2の付添が必要であったと主張する。
    しかし,前記認定のとおり,原告X1は,国立仙台病院を退院して約1か月後には,自分で自動車を運転して,仙台市○○市民センターに出勤できていた。本件全証拠を検討しても,国立仙台病院,東北厚生年金病院の医師から,原告X2の付添いを指示されていた様子はうかがわれない。
    これらの事情からすると,原告X1が通院するのに原告X2の付添いは必要であるとまでは認められないから,付添交通費は本件事故により被告が負担しなければならない損害とは認められない。
  (5) 将来の看視・介助費 認容額・0円
    原告らは,「原告X1には,本件事故により,自賠責等級5級2号に該当する高次脳機能障害の症状と病的な日中の眠気がみられるため,原告X2による看視・声かけ・介助などの介護がなければ,1人で日常生活を送ることは不可能である。」と主張する。
    しかし,原告X1にみられる後遺障害の程度は後記判断のとおりである。
    また,前記認定のとおり,原告X1には,自宅でも高次脳機能障害による精神症状がみられているが,指示や声かけをすることで,自宅では,排せつ,食事,着替え,入浴などの日常生活動作は介助を受けなくても1人でできている。やかんでお湯を沸かしているのを忘れて空だきしたり,ふとんにこたつのヒーターを直で当てて,こたつを組み立てたため,ふとんを焦がすことはあった。原告X1が自発性,発動性を低下させていることも含めて検討すると,火災などの事故が起こらないように,原告X2が原告X1の動きに気を配らなければならないことは想定できるが,自分の日常生活を犠牲にして,随時の看視が必要なほどであるとまでは認められない。
    したがって,将来の看視・介助費は本件事故により被告が負担しなければならない損害とは認められない。
  (6) 逸失利益 認容額・2144万0978円
   ア 基礎収入
     原告らは,「原告X1は,本件事故がなければ,賃金センサス平成17年第1巻第1表の男子労働者・高卒・55~59歳欄記載の平均賃金578万2900円程度の収入を得ることができた」と主張する。
     前記認定のとおり,原告X1は,中学校卒業後,平成14年4月までD株式会社に勤務し,工場長まで務めたり,工業高等学校に進学・卒業したり,測量士補,1級土木施工管理技士,1級舗装施工管理技術者などの資格を取得しており,その勤務態度は良好で,勤務意欲,学習意欲も高かったとみるのが相当である。退職後は,再就職をするために,マンション管理士試験の準備,宮城職業能力開発促進センターで建築CADの訓練をするなど,再就職の意欲も高かった。そして,市民センター非常勤嘱託職員採用試験を受けたのは,本格的な再就職をするまでのつなぎであった。
     このような事情からすると,本件事故がなければ,マンション管理士の資格を取得できて,現在の給与収入(169万0271円)よりも高い収入の得られる本格的な再就職ができていた可能性があったとみるのが相当である。
     しかし,関係証拠(乙3)によると,マンション管理士試験の合格率は55ないし59歳の受験者では7.3パーセントにとどまっており,本件事故に遭わなくても,相当期間,市民センターでの勤務が続いていたとみるのが相当である。また,一般に,中途退職した中高齢者が平均賃金程度の収入の得られる再就職先を見つけるのは困難な状況である。
     これらの事情の(ママ)事情を総合すると,原告X1は,本件事故がなければ,賃金センサス平成17年第1巻第1表の男子労働者・学歴計・全年齢計欄記載の平均賃金552万3000円の60パーセントである331万3800円を得ることができたとみるのが相当である。
   イ 労働能力喪失割合
    (ア) 原告らは,「原告X1には,本件事故により,①自賠責等級5級2号に該当する高次脳機能障害,②自賠責等級12級5号に該当する左鎖骨の変形障害,③自賠責等級12級に定める後遺障害に相当する左耳難聴・耳鳴り,④自賠責等級12級に定める後遺障害に相当する嗅覚障害の後遺障害が残っている。これらの後遺障害は併合すると,自賠責等級4級に定める後遺障害に相当するから,少なくともその労働能力の90パーセントが失われている。」と主張する。
    (イ) 原告X1に②,③の後遺障害が残っていることは争いがない。
    (ウ) また,原告X1には,高次脳機能障害により,前記認定のとおりの症状がみられるが,その程度は意思疎通能力,問題解決能力,作業負荷に対する持続力・持久力,社会行動能力のどれか1つの能力が大部分喪失したとか,2つ以上の能力が相当程度喪失したとみるまではできない。財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構紛争処理委員会でも,前記認定のとおりの症状を踏まえて,4つの能力の失われた程度を検討して,同じ判断をしていることからみても,原告ら主張のとおりにみることはできない。
      したがって,原告X1に残った高次脳機能障害は自賠責等級7級4号で定める程度にとどまるとみるのが相当である。
    (エ) また,前記判断のとおり,原告X1が本件事故により嗅覚障害の傷害を負ったとは認められないから,④の後遺障害が残ったとは認められない。
    (オ) 以上のとおり,原告X1には,本件事故により,①自賠責等級7級4号に該当する高次脳機能障害,②自賠責等級12級5号に該当する左鎖骨の変形障害,③自賠責等級12級に定める後遺障害に相当する左耳難聴・耳鳴りが残っており,これらの後遺障害は併合すると,自賠責等級6級に定める後遺障害に相当するとみるのが相当である。
      ただし,原告X1に残った後遺障害が併合6級に相当する程度のものではあるが,その精神・神経症状を考慮すると,実際に就労することには非常な困難を伴うだろうことは容易に想像できる。現在の勤務を続けられているのは,原告X2ら家族の援助と,使用者が仙台市の外郭団体であり,原告X1の状況に配慮をしているところがあろうことも容易に想像できる。このことを考慮すると,実務上,後遺障害等級6級の労働能力喪失割合は67パーセントとされているが,本件では,通常は後遺障害等級5級の労働能力喪失割合とされる79パーセントの中間値である73パーセントを労働能力喪失割合とするのが相当である。
   ウ 中間利息控除
     原告らは,「民法の解釈では,利息の計算方法として,単利(ホフマン係数)を原則としているから,控除利息も複利(ライプニッツ係数)ではなく,ホフマン係数で計算すべきである。」と主張する。
     しかし,実務上,特段の事情のない限り,中間利息を控除するに当たってはライプニッツ係数で計算されていることは裁判所に顕著である(「交通事故による逸失利益の算定方式についての共同宣言」・判例タイムズ1014号62ページ)。本件全証拠を検討しても,本件で,被告がホフマン係数での計算することを争っているのに,この係数で計算をしなければならないほどの特段の事情は見当たらないから,ライプニッツ係数で計算するのが相当である。
   エ まとめ
     原告X1が,本件事故により,得ることができたはずの利益は,以下の計算式のとおり,2144万0978円である。
    〔計算式〕
     331万3800円(基礎収入の額)×0.73(労働能力喪失割合)×8.8633(労働能力喪失期間12年に対応するライプニッツ係数)=2144万0978円(1円未満切捨て)
  (7) 傷害慰謝料 認容額・150万円
    原告X1は,本件事故で負った傷害を治療するため,国立仙台病院,東北厚生年金病院に入院,通院する必要があった。そのことで,精神的苦痛を被ったと認められる。この傷害の程度,治療経過・内容を考慮すると,その苦痛を慰謝するための慰謝料は150万円とみるのが相当である。
  (8) 後遺障害慰謝料 認容額・1300万円
    前記認定のとおり,本件事故により原告X1に残った後遺障害は,併合して自賠責等級6級に定める後遺障害に相当する程度である。
    しかし,原告X1は,前記認定のとおりの状況で,市民センターでの勤務を続け,日常生活を送ることはできているが,それまでの温厚で,意欲的に仕事に取り組む人柄から著しい人格の変化を強いられた。そのために,本格的な再就職,長らく単身赴任のため別居していた家族との円満な同居生活,趣味など,勤務先を退職したときに考えていた希望のほとんどすべてをかなえることができなくなったのであり,その後遺障害の程度だけでなく内容も含めて検討すると,その被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は前記金額とみるのが相当である。
  (9) 近親者固有の慰謝料 認容額・100万円
    原告X2は,長らく単身赴任のため別居していた原告X1との円満な同居生活を楽しもうとした矢先,本件事故により,生活が一変し,温厚だったはずの原告X1から,それまで振るわれたことのない暴力を振るわれたり,暴言を言われながら,人格の変化を強いられた原告X1との生活を余儀なくされている。このことに,原告X1が本件事故により負った傷害,残った後遺障害の程度,生活の状況,原告らの年齢,原告X2のこれまでの苦労,負担,将来に対する不安感などを併せて考慮すると,原告X2が多大な精神的苦痛を被っていることは容易に想像できる。この苦痛は原告X1の生命が害された場合にも比肩できるといえる。原告X2は,民法709条,710条に基づいて,自分の権利としてこの精神的苦痛を慰謝するための慰謝料を請求できると解する。そして,その慰謝料は100万円とみるのが相当である(横浜地裁平成6年6月6日判決・交通事故民事裁判例集27巻3号744ページ参照)。
  (10) 弁護士費用 原告X2についての認容額・10万円
   ア 弁論の全趣旨によると,原告X2は,本件事故による損害の賠償を求めるため,弁護士に委任し,本件訴訟を提起する必要があったことが認められる。そのための弁護士費用は10万円とみるのが相当である。
   イ 弁論の全趣旨によると,原告X1も,本件事故による損害の賠償を求めるため,弁護士に委任し,本件訴訟を提起する必要があったことが認められる。しかし,損害額から過失相殺,損益相殺をするときには,その残額がある場合にそのための弁護士費用を認めるかどうか判断すべきであるから,ここでは判断しない。
  (11) 認容額の合計 原告X1について3650万1125円
              原告X2について110万円
 3 争点(2)についての検討
   前記認定のとおり,加害車両が走行していた道路には,本件交差点の手前に一時停止の標識と停止線の表示があり,県道荒井荒町線には,これらの標識,表示はないのだから,被告には,被害車両が本件交差点を通過するのを妨げてはならない義務があった。また,被害車両が進行していた本件交差点では加害車両の進行方向から被害車両の進行方向の見通しはよかったのであるから,本件交差点に差し掛かる前に,右側に注意していれば,本件交差点に進入しようとしている被害車両に気づくことができたはずである。実際に,本件交差点に進入する前に,対向車両だけでなく後続の自動車には気づいている。ところが,被告は,5メートル程度に近づくまで,本件交差点の通過を始めていた被害車両に気づかないで,本件事故を引き起こしている。被告は,「対向車両の後ろを走行し,本件交差点の通過を始めた被害車両が,加害車両からみて対向車両の陰になっていたため,気づくのが遅れた。」と主張する。しかし,被害車両は自転車であり,自動車である対向車両との速度差を考えると,加害車両と対向車両がすれ違ったときに,たまたま対向車両のすぐ後ろを走行し,加害車両からみて対向車両の陰になっただけであるとみるのが相当である。本件全証拠を検討しても,このときになるまで被害車両の動きを確認できなかったとみるべき事情は見当たらない。このときに陰になっていたからといって,そのことで,被告の過失割合を小さくみることはできない。
   一方,本件交差点では被害車両の進行方向から加害車両の進行方向の見通しはよかったのであるから,原告X1も,本件交差点に差し掛かる前に,左側に注意していれば,本件交差点に進入しようとしている加害車両に気づくことができたはずである。また,自転車で対向車両の後ろを走行して本件交差点の通過を始めたら,被告から自分がみえづらいことも予測できたはずである。加害車両の動きに注意を払って,ハンドルを切ったり,ブレーキをかけるなどの回避措置を講じていたら,本件事故が発生せず,あるいは発生してもその結果が小さく済んだ可能性がある。ところが,原告X1はこれらの回避措置を講じなかった。しかし,この落ち度は,被告の過失に比べると,本件事故の発生に及ぼした影響は小さく,被告の過失が本件事故の大きな発生原因であると判断する。
   したがって,これらの事情を総合考慮すると,原告X1に対する損害賠償の額を決めるときには,その損害額の10パーセントを控除すべきである。
 4 賠償すべき損害の額
  (1) 原告X1
    前記判断のとおり,原告X1が本件事故により被った損害の額は3650万1125円である。この損害額から10パーセントの控除をすると,その残額は3285万1012円(1円未満切捨て)である。
    前提事実のとおり,原告X1は,本件事故により被った損害のてん補として,合計1373万1829円の支払を受けた。その控除後の金額は1911万9183円である。
    前記判断のとおり,原告X1は,本件事故による損害の賠償を求めるため,弁護士に委任し,本件訴訟を提起する必要があった。そのための弁護士費用は200万円とみるのが相当である。
    したがって,被告が原告X1に対して賠償すべき損害の額は2111万9183円である。
  (2) 原告X2について
    前記判断のとおり,被告が原告X2に対して賠償すべき損害の額は110万円である。
第4 結論
   以上によれば,原告X1の請求は2111万9183円及びこれに対する本件事故の発生日である平成15年1月18日から支払済みまで民法で定める年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める部分,原告X2の請求は110万円及び平成15年1月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める部分はいずれも理由があるから認容し,そのほかの部分はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法65条1項ただし書,64条本文,61条,仮執行の宣言について同法259条1項を適用して(相当ではないから,訴訟費用の負担を求める部分には仮執行の宣言を付けない。),主文のとおり判決する。
    仙台地方裁判所第1民事部
           裁判官  近藤幸康

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