東京地方裁判所判決 平成20年5月12日

症状固定時37歳の女性会社員が脳外傷等頭部外傷、右膝関節靭帯損傷、上下顎骨骨折、顔面骨骨折による顔面部の醜状障害等(併合6級)の後遺障害を負った場合において、傷害分の慰謝料400万円、後遺障害分の慰謝料1300万円を認めた

       主   文

 1 被告らは,原告に対し,連帯して1277万6474円及び内金1157万6474円に対する平成15年6月26日から支払済みまで年5分の割合による金員,内金120万円に対する平成13年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用はこれを9分し,その8を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。
 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 請求
   被告らは,原告に対し,連帯して1億0539万2587円及びこれに対する平成13年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   本件は,幹線道路の横断歩道を横断中の原告と,直進してきた被告Y1(以下「被告Y1」という。)運転のタクシーが衝突した交通事故について,原告が,被告Y1に対しては民法709条に基づき,同タクシーの保有者であり,被告Y1の使用者である被告Y2株式会社(以下「被告会社」という。)に対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条,民法715条に基づき,損害賠償及び事故日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の一部について,支払を求めた事案である。
 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実又は文章末尾に記載の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定することができる事実)
  (1)(本件事故)
    日時:平成13年3月30日午前0時50分ころ
    場所:東京都品川区東中延2丁目9番12号
    態様:原告は,信号機により交通整理のされている横断歩道を徒歩で横断中,原告の左側から交差点に進入してきた被告Y1運転の普通乗用自動車(練馬○○い○○○○。以下「被告車両」という。)と衝突した。
  (2)(被告会社)
    被告会社は被告車両の保有者である。また,被告Y1は被告会社の従業員であり,本件事故は,被告Y1が被告会社の業務を遂行していた際に,生じた。
  (3)(傷害,入通院の状況等)
    原告は,本件事故により,広汎性軸策損傷,両膝関節靱帯損傷,上下顎骨折等の傷害を負い,独立行政法人国立病院機構東京医療センター(以下「東京医療センター」という。)に搬送された。その後の入通院の状況は次のとおりである。
   ア 東京医療センター【甲24,43,52,67,乙4】
    (ア) 入院
     ①平成13年3月30日~同年7月26日(118日間)
       脳神経外科
     ②平成14年4月22日~同年5月3日(12日間)
       口腔外科
    (イ) 通院
     ①平成13年11月~平成14年11月  脳神経外科
     ②平成13年11月~平成17年1月   口腔外科
   イ 昭和大学藤が丘リハビリテーション病院(以下「藤が丘リハビリテーション病院」という。)【甲25,40,53,59,69,乙5】
    (ア) 入院
      平成13年7月26日~同年10月3日(70日間)
    (イ) 通院
      平成14年2月~平成17年11月
   ウ 順天堂大学医学部附属順天堂浦安病院(以下「順天堂浦安病院」という。)【甲26,36,46,55,65,乙6】
    (ア) 入院
      平成15年12月3日~同月9日(7日間)
       整形外科
    (イ) 通院
      平成13年10月~平成17年11月
       脳神経外科,麻酔科,整形外科,眼科,耳鼻咽喉科
   エ 東京歯科大学市川総合病院(以下「市川総合病院」という。)【甲27,42,48,58,70,乙7】
    (ア) 入院
     ①平成15年1月15日~同月23日(8日間)
       耳鼻咽喉科
     ②平成15年2月26日~同年3月18日(21日間)
       歯科口腔外科
     ③平成16年9月15日~同月21日(7日間)
       歯科口腔外科
    (イ) 通院
      平成13年10月~平成17年10月  歯科口腔外科,耳鼻咽喉科
   オ 帝京大学医学部附属病院【甲28,乙8】
     平成13年11月~  通院(眼科)
   カ 医療法人社団愛悠会もぎ矯正歯科病院(以下「もぎ矯正歯科医院」という。)【甲29,41,60,77,83,乙9】
     平成13年11月~平成17年10月  通院
   キ 藤原歯科クリニック【甲44,47,乙10】
     平成14年1月~   通院
   ク 順天堂大学医学部附属順天堂医院(以下「順天堂医院」という。)【甲54,57,66,乙11】
    (ア) 入院(形成外科)
     ①平成15年8月19日~同年9月3日
     ②平成16年2月10日~同月20日
     ③同年11月29日~同年12月8日
     ④平成17年5月2日~同月12日
    (イ) 通院
      平成15年4月~平成17年12月   形成外科
      平成17年6月~同年12月      脳神経内科
   ケ 杏林大学医学部付属病院【甲61,68,乙12】
     平成16年12月~  通院(形成外科)
   コ 赤坂山王クリニック【甲71,乙13】
     平成17年9月    通院
   サ 財団法人東京都保健医療公社荏原病院(以下「荏原病院」という。)【甲72,乙14】
     平成17年9月    通院(脳神経外科)
   シ 国家公務員共済組合連合会三宿病院(以下「三宿病院」という。)【甲73,乙15】
     平成17年9月    通院(脳神経外科)
  (4)(後遺障害の等級認定)
    原告は,平成15年6月23日,本件事故による後遺障害について,次の内容により,自賠等級併合第6級に該当するとの通知を受けた。【甲23】
   ア 脳外傷等頭部外傷に伴う神経系統の機能・精神の障害については,軽易な労務以外の労務に服することができないものとして,第7級4号に該当する。
   イ 右膝関節靱帯損傷に伴う右膝関節の可動域制限については,健側の4分の3以下に制限されていることから,第12級7号に該当する。
   ウ 上下顎骨骨折に伴う咬合・そしゃく障害については,そしゃくに相当時間を要するものとして,第12級に該当する。
   エ 顔面骨(下顎骨・頬骨)骨折後の顔面部の醜状障害については,「女子の外貌に醜状を残すもの」として,第12級14号に該当する。
   オ 眼球運動障害については,事故と障害との因果関係が不明確であり,また障害の程度も判然としないことから,後遺障害としての評価は困難である。認定できたとしても最終等級には影響しない。
   カ 視力障害については,矯正視力が右左ともに1.2であるから,非該当である。
 2 争点
  (1) 被告らの責任の有無,過失割合
  (2) 損害の算定
 3 争点(1)(被告らの責任の有無,過失割合)についての当事者の主張
  (1) 原告の主張
    被告Y1は,被告車両を運転し,本件事故現場の交差点の対面信号が赤色になっていたにもかかわらず,それを見落としてそのまま交差点に進入し,被告車両を原告に衝突させた過失があるので,民法709条に基づく責任がある。また,被告会社は,被告車両の保有者で,本件事故当時,被告車両を自己のため運行の用に供していた者であり,被告Y1は,被告会社の従業員で,業務として被告車両を運転中に本件事故を惹起したのであるから,被告会社には自賠法3条,民法715条に基づく責任がある。
    なお,原告の過失については否認する。
  (2) 被告らの主張
    本件事故時,被告Y1の対面信号は青色を表示しており,原告は,歩行者専用信号が赤色を表示していたにもかかわらず,横断して,本件事故に遭遇した。したがって,相当の割合による過失相殺がされるべきである。
 4 争点(2)(損害の算定)についての当事者の主張
  (1) 原告の主張
   ア 症状固定日について
     原告は,平成15年6月に後遺障害についての等級認定を受けているが,これは特に重大な後遺障害が残る可能性の高い脳機能等について経過観察中心の治療となった段階で,被害者請求を行ったものであり,最終的な症状固定の段階のものではない。
     原告に対する治療は,受傷後,特に生命への危険の大きい症状,緊急を要する症状から優先して順次行われ,最終的には平成17年12月1日,一応の治療を終了した。したがって,平成17年12月1日を症状固定日とすべきである。
   イ 治療関係費
    (ア) 医療費       454万6334円
      詳細は,別紙1(原告準備書面2に添付の表に,原告準備書面3において訂正があった部分を差し替えたもの)の「医療費」欄記載のとおりである。
      なお,仮に症状固定日が平成17年12月1日以前であったとしても,それ以降に行われた治療には必要性,相当性が認められるから,本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。
      また,被告らは,左肘部管症候群の入院治療について,本件事故と無関係であると主張するが,本件事故以前には左肘部管症候群の症状はなく,その原因となるような要素もなかったのであるから,少なくとも本件事故を間接的な原因として生じた症状と考えるのが自然である。
      さらに,藤原歯科クリニックについては,もぎ矯正歯科では,東京医療センターや市川総合病院の医師らと協議し,将来の外科手術を前提に歯列矯正を進める方針を決定し,その治療の一環として藤原歯科クリニックを紹介され,治療を受けたのであるから,その治療費は本件事故と相当因果関係がある。
    (イ) 薬剤費       14万2591円
      詳細は別紙1「薬剤費」欄記載のとおりである。
   ウ 付添費
    (ア) 付添看護費     137万7100円
     ① 入院付添費
       原告の母A(以下「A」という。)は,原告が平成13年3月30日から同年7月26日まで東京医療センターに入院中(118日)及び同年10月3日まで藤が丘リハビリテーション病院に入院していた際(70日),付き添った。また,退院後は,車椅子の利用が必要であったため,通院に際しては,原告の夫であるB(以下「B」という。)らが付き添った。
       したがって,122万2000円(=6500円×(118日+70日))が損害となる。
     ② 通院付添費
       原告が,平成13年10月4日から平成14年1月末までの間,通院する際に(計47日),A若しくはBが付き添った。したがって,15万5100円(=3300円×47日)が損害となる。
    (イ) 付添人交通費    13万4120円
      Aの(ア)①に伴う交通費である。
     ①東京医療センター分  9万6320円
      片道430円×2(往復)×112日=9万6320円
     ②藤が丘リハビリテーション病院分  3万7800円
      片道270円×2(往復)×70日=3万7800円
    (ウ) 見舞交通費     8万9540円
      原告が入院中,Bは原告の見舞に行った。
   エ 通院交通費      41万5125円
     詳細は,別紙1「交通費1」欄(高速代,駐車代,タクシー代等),「交通費2」欄(バス,電車,ガソリン代等)記載のとおりである。なお,上記金額は,原告が平成13年10月4日から平成14年1月末まで順天堂浦安病院へ通院するに際し付き添ったAの交通費を含むものである。
   オ 入院雑費       41万7000円
     次の入院日数278日について,1日1500円の入院雑費は本件事故による損害である。
    (ア) 東京医療センター
      平成13年3月30日~同年7月26日(118日)
      平成14年4月22日~同年5月3日(12日)
    (イ) 藤が丘リハビリテーション病院
      平成13年7月26日~同年10月3日(70日)
    (ウ) 順天堂浦安病院
      平成15年12月3日~同月9日(7日)
    (エ) 市川総合病院
      平成15年1月16日~同月23日(8日)
      平成15年2月26日~同年3月18日(21日)
      平成16年9月15日~同月21日(7日)
    (オ) 順天堂医院
      平成15年8月19日~同年9月3日(16日)
      平成16年12月1日~同月8日(8日)
      平成17年5月2日~同月12日(11日)
   カ 転居家賃       360万円
     原告は,本件事故時,東京都品川区にある夫の実家で居住していたが,藤が丘リハビリテーション病院退院後も,しばらくの間,車椅子での生活を余儀なくされた。当時の原告の自宅は,居室が2階にあって,車椅子での生活は困難であった。また,順天堂浦安病院に通院するためには,乗り継ぎが3回必要であり,健常者でも1時間以上の通院時間を要した。そのため,同病院に近い千葉県浦安市内に転居せざるを得なかった。
     本件事故時,月2万円を実家に支払っていたが,転居後の家賃は12万円となったことから,その差額10万円については,3年間分につき本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。
     なお,原告の転居がBの転勤に伴うものでないことは,Bの転勤が本件事故以前の平成12年4月1日であることから,明らかである。
   キ 器具・装具費,転居費,自宅改修費,医師謝礼等
                365万6481円
     詳細は,別紙1「その他」欄記載のとおりである。なお,自動車購入費について説明するに,原告は,退院後も当面の間車椅子での生活となることが見込まれ,当時,自家用車はセダン型の車両であり,車椅子での乗降は困難であったことから,ミニバン型の車両を購入したのである。
   ク 休業損害       2396万0852円
    (ア) 原告は,平成13年3月31日で勤務先であるC株式会社を退職し,同年5月1日から株式会社Dへの就職が内定していた。
    (イ) 平成13年3月30日~同月31日
      事故前の収入は年395万7585円であるから,2万1685円となる。
    (ウ) 平成13年4月1日~同月30日(家事従事期間)
      基礎収入は351万8200円(賃金センサス女子労働者の全年齢平均賃金)とすべきであるから,28万9167円となる。
    (エ) 平成13年5月1日から平成17年12月1日まで
      原告が株式会社Dから支給される予定であった賃金は年516万円であるから,2365万円となる。
   ケ 逸失利益       5314万5461円
     基礎収入:年516万円
     労働能力喪失率:67%
     労働能力喪失期間:症状固定日である平成17年12月1日から原告が67歳となるまでの30年間
   コ 慰謝料        1900万円
    (ア) 入通院慰謝料     600万円
      原告は,本件事故があった平成13年3月30日から症状固定の平成17年12月1日までの1708日間,計10回,278日の入院を要する治療をした。
    (イ) 後遺障害慰謝料    1300万円
      原告は併合6級の等級認定を受けているが,このほかにも嗅覚が完全に失われたことを考慮すると,上記金額が相当である。
   サ 弁護士費用       958万1144円
   シ 原告は,本件事故に関し,別紙2(原告準備書面6添付の表)記載のとおり,自賠責保険,障害基礎年金及び高額療養費の支払ないし支給を受けているが,これら自賠責保険金等は,まず,各支払日までの遅延損害金の支払債務に充当されるべきである(最高裁平成16年12月20日第二小法廷判決)。この結果,別紙2記載のとおり,弁護士費用を除く残債務は1億3143万0440円となる。
  (2) 被告らの主張
   ア 症状固定時期について
     原告は,症状固定時期を平成17年12月1日と主張している。しかし,原告は,平成15年6月23日,後遺障害等級認定を受けており,その後,治療を継続するも,同認定結果は維持されたままである。そこで,原告の症状固定時期については,次のように解すべきである。
    (ア) 脳外傷等頭部外傷に伴う神経系統の機能・精神障害について
      藤が丘リハビリテーション病院作成の後遺障害診断書における症状固定日である平成14年9月30日とすべきである。
    (イ) 右膝関節靱帯損傷に伴う右膝関節の可動域制限について
      順天堂浦安病院における平成14年11月1日の診察時に症状固定の診断がされていることから,同日を症状固定日とすべきである。
    (ウ) 上下顎骨骨折に伴う咬合・そしゃく障害,顔面部の醜状障害について
      これらの障害については,平成15年4月3日を症状固定日と解すべきである。この点,原告は,平成15年4月以降も治療が継続されたことから,症状固定には至っていなかったと主張している。しかし,これらは,傷害の治療ではなく,後遺障害の改善のためのものというべきであり,審美的な意味合いが強いものである。
   イ 治療関係費について
     症状固定後の医療費,薬剤費については,本件事故との相当因果関係は認められない。
     また,原告は,順天堂浦安病院において,平成15年12月3日から同月9日まで,左肘部管症候群で入院治療しているが,かかる治療は本件事故と相当因果関係がない。
     さらに,藤原歯科クリニックでの治療は,歯周炎と虫歯に対する治療であるから,本件事故と相当因果関係を認めることはできない。原告は,もぎ矯正歯科が藤原歯科クリニックでの治療を指示したと主張するが,実際のところは,原告が歯のかぶせ物の素材をメタルボンドに変えたいと言い出したために,紹介されたにすぎない。
   ウ 付添費
     付添の必要性は認めるが,日額は争う。入院付添費は5000円,通院付添費は3000円が相当である。なお,原告の母親による付添は,必要性がないばかりか,むしろ原告の回復を遅らせた原因であったことから,これを損害と認めることはできない。
   エ 通院交通費
     不知。症状固定日以降の通院交通費については,本件事故と相当因果関係がない。
   オ 入院雑費
     争う。
   カ 転居関係
     本件事故と転居との間に相当因果関係はないから,転居家賃,転居費用はいずれも本件事故による損害とは認められない。
   キ 器具・装具費,転居費,自宅改修費,医師謝礼費
     原告が本件事故後に購入した自動車は,本件事故とは関係なしに,購入した時期が単に本件事故後であったというにすぎず,また,自動車購入の必要性もないから,その購入費用は本件事故と相当因果関係がない。
   ク 休業損害
     原告が,再就職後に原告主張の収入が得られる蓋然性については否認する。基礎収入については,平成12年賃金センサス女子労働者全年齢平均賃金349万8200円とすべきである。原告の就労不能期間は,本件事故から平成14年6月末までの14か月間である。
   ケ 逸失利益
     基礎収入は349万8200円とすべきである。
   コ 慰謝料
     後遺障害慰謝料については1180万円の限度で認める。その余はいずれも争う。増額事由はない。
   サ 弁護士費用
     争う。
   シ 損害のてん補
     別紙2の「年月日」欄,「支払額」欄,「備考」欄の各記載内容については争わない。
第3 当裁判所の判断
 1 争点(1)(被告らの責任の有無,過失割合)について
   証拠(甲2,乙1,証人G,同H)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故現場となったのは,第二京浜国道(国道1号線)で,片側3車線の道路であったこと,原告は,職場の同僚と飲食後,帰宅しようとして,本件事故現場の横断歩道を,歩行者用信号が赤であったにもかかわらず,横断を開始したこと,被告Y1は,第二京浜国道を川崎方面から五反田方面に向かって,被告車両を運転して走行し,本件事故現場の対面信号が青であったことから,交差点内に進入しようとしたところ,右方から歩いてきた原告と衝突したことが認められ,これに反する原告の主張は採用することができない。
   上記の事実によれば,被告Y1に前方不注視の注意義務違反があり,民法709条に基づく損害賠償責任が認められ,また,被告会社にも民法715条に基づく損害賠償責任が認められるが,原告も歩行者用信号が赤であったにもかかわらず,横断しており,幹線道路であったことや本件事故が発生した時間帯等も考慮すると,原告に75%の過失割合を認めるのが相当である。
 2 争点(2)(損害の算定)について
  (1) 治療関係費について
   ア 症状固定日について
     原告は,症状固定日が平成17年12月1日であるとして,同日までの治療関係費を損害として主張するのに対し,被告らは,症状固定日は平成15年4月3日であるとして,同日以降の治療関係費については本件事故による損害であることを否認している。
     そこで,まず,症状固定日について検討するに,証拠(甲3,5)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成14年9月30日に,脳外傷,両膝靱帯損傷について,症状固定の診断を受け,平成15年4月3日,東京医療センターのE医師により,上下顎骨折に伴う咬合・そしゃく障害,顔面部の醜状障害についての後遺障害診断書が作成され,これらを踏まえ,原告は,前記前提となる事実のとおり,平成15年6月,脳外傷等頭部外傷に伴う神経系統の機能・精神の障害,右膝関節靱帯損傷に伴う右膝関節の可動域制限,上下顎骨骨折に伴う咬合・そしゃく障害,顔面部の醜状障害について,後遺障害の等級認定を受けたことが認められる。そして,上記認定後,認定された等級について変動が生じたことは認められない。
     しかしながら,症状固定とは,客観的に事故による傷害の症状がこれ以上改善することを望めず,傷害自体に対する治療を継続する必要性,相当性がない場合をいうものと解され,症状固定の時期は事故による傷害の労働能力に対する影響のみによって判断されるべきものではない。そして,原告には,平成15年4月3日の時点においても,左顔面神経麻痺や顔面多発骨折後外鼻変形が残存していたのであって(乙11),これらが本件事故によるものであることは明らかであるところ,原告は,平成16年12月1日,肋軟骨移植による外鼻修正術を受け,平成17年5月6日,変形外鼻修正術を受け,外鼻に関する治療は平成17年12月1日に終了したことが認められる(甲21)。これらの左顔面神経麻痺や顔面多発骨折後外鼻変形に対する形成外科的治療は,それまでの整形外科的治療と連続して行われる一体的な治療というべきものである。また,上記のE医師作成の後遺障害診断書には,症状固定日の記載がない上,順天堂浦安病院のF医師は,平成15年5月9日の時点において,顔面神経麻痺につき,「今後治癒の見込みはなく」としながらも,「(大きな改善は見込めないものの)異常運動と不全麻痺の多少の改善は期待できる」,「約2年間の経過を観察します」と診断しているのである(甲9)。
     このほか,原告が等級認定を受けた後に行われた治療の内容等も考慮すると,症状固定日は平成17年12月1日と認めるのが相当である。
   イ 医療費について
    (ア) 証拠(甲3から12,18から22,24から29,36,39の1,40から44,46から48,51の17,52から55,57から61,65から73,76から78,82,83,99,100,乙4から15,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告が,医療費として,症状固定の平成17年12月1日までに,合計453万5004円(内訳は別紙1「医療費」欄記載のとおり)を支出したことが認められ,後述の(イ)から(カ)までの費用を除き,必要性,相当性が認められる。
    (イ) まず,被告らは,左肘部管症候群の治療については,本件事故と相当因果関係がないと主張する。そして,証拠(甲20,乙6)によれば,原告は,順天堂浦安病院整形外科において,平成15年6月30日から平成16年11月4日まで,左肘部管症候群の診断名において治療を受け,また,平成15年12月3日から同月9日まで入院したことが認められるが,担当医師は,左肘部管症候群は本件事故と無関係であると判断しており(乙6・10頁),他に本件事故によって発症したものであることを認めるに足りる証拠はない。したがって,左肘部管症候群にかかる医療費は,損害から除かれるべきである。
      そして,平成15年6月30日から平成16年11月4日までの同病院整形外科にかかる医療費は,次のとおり,合計16万8050円である。
      (内訳)平成15年 7月28日   920円
                8月11日   860円
               11月11日   5720円
               12月 9日   14万2670円
                  12日   10円
                  22日   6300円
          平成16年 3月 1日   3170円
                  23日   410円
                5月10日   1370円
                  11日   3820円
                  25日   990円
                6月17日   1160円
                7月16日   220円
               11月 4日   430円
    (ウ) また,原告は,平成14年6月から,藤原歯科クリニックで治療を受けているが,これは歯周炎と虫歯に対するものであり(乙10),本件事故と相当因果関係があると認めるに足りる証拠もないから,藤原歯科クリニックでの治療費2万4380円(内訳は次のとおり)は,本件事故による損害とは認められない。
     (内訳)平成14年6月14日   6520円
           15年1月 6日   1万1340円
              6月14日   6520円
    (エ) 赤坂山王クリニックでの平成17年9月20日の診察は,スキューバダイビングに参加するための健康診断であるから(甲71,乙13),その医療費2100円も,本件事故による損害とは認められない。
    (オ) 原告は,平成17年9月,荏原病院や三宿病院の脳神経外科で診察を受けているが,その必要性,相当性は明らかでないから,これらの病院での医療費4310円(内訳は次のとおり)も,本件事故による損害とは認められない。
     (内訳)平成17年9月21日   2070円(荏原病院)
                28日   2240円(三宿病院)
    (カ) 原告は,平成15年6月9日,嗅覚障害を訴えて,順天堂浦安病院の耳鼻咽喉科で診察を受け(乙6・173頁),平成17年12月1日には,順天堂医院の耳鼻咽喉科において,嗅覚障害と診断されているが(甲22,乙11の9),本件事故によって嗅覚障害が生じたと認めるに足りる証拠はないから,上記病院の耳鼻咽喉科での治療費2万5230円(内訳は次のとおり)は本件事故による損害とは認められない。
     (内訳)平成15年 6月 9日   210円
                 12日   4810円
               8月 4日   210円
              12月22日   210円
           16年 2月28日   420円
               4月24日   220円
               5月14日   430円
              11月22日   430円
              12月 7日   7350円
           17年 6月 6日   5620円
              12月 1日   5320円
    (キ) この結果,(イ)から(カ)までの費用の合計は22万4070円であるから,431万0934円が本件事故による損害となる。
   ウ 薬剤費について
     証拠(甲34,38,50,63,75)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,別紙1「薬剤費」欄記載のとおり,本件事故から平成17年12月1日までの間に,薬剤費14万2591円を支出したことが認められるが,イの医療費で述べたことのほか,各診療費領収書における処方せん料の有無に照らすと,次の薬剤費1万6020円については損害とは認められないから,これを控除した12万6571円を本件事故による損害と認める。
    (内訳)順天堂浦安病院整形外科にかかる分
         平成16年 3月 1日   430円
                 23日   1220円
               5月10日   2270円
              11月 4日   3010円
        順天堂浦安病院耳鼻咽喉科等にかかる分
         平成15年 6月 9日   1570円
               8月 4日   530円
           16年 2月28日   4250円
               5月14日   1310円
              11月22日   1430円
  (3) 付添費について
   ア 付添看護費
     証拠(原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,Aは,原告が東京医療センターに入院中,118日間,藤が丘リハビリテーション病院に入院中,70日間,それぞれ付き添い,原告の傷害や治療の内容からして,付添の必要性,相当性が認められるから,1日につき6500円の付添看護費を認めるのが相当である。したがって,122万2000円(=6500円×(118日+70日))は本件事故による損害と認められる。
     また,原告が藤が丘リハビリテーション病院に通院する際,A又はBが,計47日,付き添い,その必要性,相当性が認められるので,15万5100円(=3300円×47日)を本件事故による損害と認めるのが相当である。
     この結果,付添看護費については137万7100円が損害となる。
   イ 付添人交通費
     証拠(原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告が東京医療センターに入院中,Aが付き添った際,交通費として往復860円を,112日について支出したものと認められるから,9万6320円(=860円×112日)は本件事故による損害と認められる。
     また,Aは,原告が藤が丘リハビリテーション病院に入院中,70日間,付き添い,その交通費が往復540円であったことも認められるから,3万7800円(=540円×70日)も本件事故による損害と認められる。
     この結果,付添人交通費については13万4120円が損害となる。
   ウ 見舞交通費
     原告は,原告の入院中,Bが見舞いに来たとして,計8万9540円の交通費を損害として主張しているが,見舞いに来たことが認められるとしても,その交通費は本件事故と相当因果関係のある損害であるとは認められない。
  (4) 通院交通費について
    証拠(甲30,37,49,62,74)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,付添人の交通費も含め,別紙1「交通費1」,「交通費2」欄記載のとおり,本件事故から平成17年12月1日までの間に,合計41万0385円の費用を要したことが認められる。
    しかしながら,医療関係費について述べたのと同様の理由により,9832円(内訳は次のとおり)については控除されるべきであるから,40万0553円を本件事故による損害と認める。
   (内訳)順天堂浦安病院整形外科にかかる分
        平成15年11月11日   340円
             12月 3日   36円
                 9日   36円
        平成16年 3月 1日   340円
                23日   340円
              5月11日   340円
                25日   340円
              6月17日   340円
              7月16日   340円
      赤坂山王クリニックにかかる分
        平成17年 9月20日   1740円
      荏原病院,三宿病院にかかる分
        平成17年 9月21日   1880円(荏原病院)
                28日   2060円(三宿病院)
      順天堂浦安病院耳鼻咽喉科等にかかる分
        平成15年 6月12日   340円
          16年 2月28日   340円
              4月24日   340円
             11月22日   340円
             12月 7日   340円
  (4) 入院雑費
    前記前提となる事実の入院日数によれば,左肘部管症候群による平成15年12月3日から同月9日までの入院日数を除いても,症状固定までに原告主張の278日の入院日数が認められるので,入院雑費として41万7000円(=1500円×278日)を本件事故による損害と認める。
  (5) 転居家賃
    原告は,退院後,車椅子を利用した生活となり,証拠(甲97)から認められる本件事故時の自宅の構造や,本件事故時,東京都品川区中延に居住しており,順天堂浦安病院までの通院を考えると,転居の必要性,相当性がなかったとまではいえないが,少なくとも原告が主張する差額家賃については,本件事故と相当因果関係のある損害であるとは認められない。
    したがって,転居した後の差額家賃についての原告の主張は採用することができない。
  (6) 器具・装具費,転居費,自宅改修費,医師謝礼費等
    証拠(甲17,31,33,35,39,45,51,64,76,94,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,別紙1「その他」欄記載の費用合計365万6481円を支出したことが認められるが,次の理由により,自動車購入費215万4600円については本件事故と相当因果関係のある損害であるとは認められないから,これを除いた150万1881円を本件事故による損害と認める。
    すなわち,原告は,それまでに乗っていたセダン型の車両では,車椅子の昇降が不便であることから,ミニバン型の車両を購入したとして,215万4600円を損害として主張するが,確かに,セダン型の車両では車椅子での昇降に支障があったものと認められるが,車椅子での生活が永続的なものではないことからすると,本件事故と車両の買替えとの間に相当因果関係があるとまではいえない。
    なお,被告らは,原告はそれまでBの転勤に伴って転居しており,本件事故時,Bは千葉県船橋市内で勤務していたのであり(甲98),千葉県浦安市内への転居がBの通勤の便宜を考慮した面が全くないとまではいえないが,Bは本件事故以前の平成12年4月1日から既に船橋市内で勤務していたことからすると,被告らが指摘する事情をもって,引越費用が損害であることを否定することはできない。
  (7) 休業損害
   ア 原告の本件事故前年の収入は395万7585円であり(甲89),原告は,平成13年3月31日にそれまでの勤務先であった派遣会社を退職し,同年5月1日から株式会社Dに就職する予定であったことからすると,平成13年3月30日から同年4月30日までの間については,原告主張の2万1685円,28万9167円が本件事故による休業損害であると認められる。
   イ 原告は,平成13年5月1日から平成17年12月1日までの休業損害として,2365万円を主張している。
     そこで,基礎収入について検討するに,証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件事故時,派遣会社に勤務し,前年の収入は395万7585円であったところ,以前に勤務していた株式会社Dが中途採用を募集していると聞き,応募し,平成13年5月1日から,基本給月30万円,住宅手当月3万円,賞与年2回(月給の4か月分程度が従来の支給実績)との条件で勤務することになったことが認められる。これらの事実のほか,以前に同社に勤務していた際には年505万5230円の収入を得たこともあったこと(甲95)も考慮すると,原告は本件事故時の勤務先での収入よりも高額の収入を得る蓋然性があったものと認められる。しかしながら,原告は本件事故時,Bの実家に居住しており,転居先の賃貸マンションもB名義であったこと(甲16),本件事故時,原告は内定を受けた段階であって,実際に同社で勤務するには至っていなかったことを考慮すると,原告主張の516万円から住宅手当分を控除した額の9割に相当する432万円を基礎収入とするのが相当である。
     次に,休業期間,休業率について検討するに,原告の傷害の内容,程度,治療の内容等を考慮すると,症状固定の平成17年12月1日までを休業期間とするのが相当である。そして,上記のとおり,原告は,平成15年6月に等級認定を受け,その後,認定された等級について変動が生じたことは認められないことからすると,休業率については,平成13年5月1日から平成15年4月3日までの703日間については100%,同月4日から平成17年12月1日までの973日間については67%とするのが相当である。
     この結果,上記期間の休業損害は,次の算式により,1603万6194円となる。
    (算式)432万円÷365日×703日+432万円÷365日×0.67×973日
        ≒832万0438円+771万5756円
        =1603万6194円
   ウ この結果,休業損害は1634万7046円となる。
  (8) 逸失利益
    上記のとおり,基礎収入については432万円とするのが相当である。そして,原告は,後遺障害につき併合6級の等級認定を受けていることからすると,本件事故による労働能力の喪失率は67%と認められる。また,原告(昭和43年○月○○日生・甲1)は,症状固定日(平成17年12月1日),37歳であったことからすると,67歳までの30年間を労働能力喪失期間(ライプニッツ係数15.3725)とするのが相当である。
    この結果,逸失利益は4449万4164円となる。
  (9) 入通院慰謝料
    原告の傷害の内容,症状固定までの入通院日数,手術の回数等を考慮すると,入通院慰謝料として400万円を認めるのが相当である。
  (10) 後遺障害慰謝料
    上記のとおり,原告は併合6級の等級認定を受けていることのほか,後遺障害の内容に顔面部の醜状障害があることを考慮すると,原告主張の1300万円を認めるのが相当である。
  (11) 損害のてん補
   ア 原告が,別紙2記載のとおり,自賠責保険金,障害基礎年金及び高額療養費の支払,支給を受けていることについては,当事者間に争いがない。
     原告は,障害基礎年金と高額療養費を控除するに際しては,まず弁護士費用を除く損害の遅延損害金に充当されるべきであると主張している。
     障害基礎年金は,国民年金法が「憲法第25条2項に規定する理念に基き,老齢,障害又は死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止し,もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする」ことを踏まえ(国民年金法1条),傷病により障害等級に該当する程度の障害の状態にあるときに,支給されるものである(同法30条)。同法においては,被保険者は保険料を拠出し(同法87条以下),障害の直接の原因となった事故が第三者の行為によって生じた場合,政府は,受給権者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する(同法22条1項)。また,高額療養費は,健康保険法が「労働者の業務外の事由による疾病,負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の疾病,負傷又は出産に関して保険給付を行い,もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする」ことを踏まえ(同法1条),療養の給付について支払われた一部負担金の額又は療養に要した費用の額からその療養に要した費用につき保険外併用療養費等として支給される額に相当する額を控除した額が著しく高額であるときに支給されるものである(同法115条1項)。同法においては,被保険者は保険料を拠出し(同法156条1項),給付事由が第三者の行為によって生じた場合には,保険者は保険給付を受ける権利を有する者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する(同法57条)。
     障害基礎年金及び高額療養費は,本件事故が原因となって支給されたものであり,本件事故による損害との間に同質性があり,また,上記のような代位規定があることも考慮すると,公平の見地より,損益相殺的な調整を図る必要がある。本件は過失相殺を行うべき事案であるから,過失相殺とのいわゆる先後関係が問題となるが,障害基礎年金及び高額療養費は,損害の賠償を目的とするものではなく,また,被保険者が保険料を拠出したことに基づく給付としての性格を有していることも考慮すると,過失相殺前に控除するのが相当である。なお,障害基礎年金及び高額療養費は,いずれも損害の一般的なてん補を目的とするものではなく,個別の法令上の根拠に基づき,一定の要件の下に給付されるものであって,上記のような制度目的や要件に照らすと,療養の給付にかかる高額療養費についてはもとより,障害基礎年金についても,年金受給権者の生活保障にその目的があるから,履行遅滞に基づく損害賠償請求権である遅延損害金に充当することは想定されていないものと解するのが相当である。
     したがって,障害基礎年金及び高額療養費については,過失相殺前に損害の元本に充当されるべきであり,上記(1)から(10)の損害の合計8610万9369円から障害基礎年金と高額療養費の合計522万4559円を控除すると,8088万4810円となる。
   イ 上記の8088万4810円に原告の過失割合(75%)を考慮すると,過失相殺後の額は2022万1202円となる。
     そして,原告は,別紙2記載のとおり,自賠責保険金として,平成13年5月31日に40万円,同年11月29日に11万6232円,平成15年6月25日に1036万8000円の支払を受けている。自賠責保険金は,賠償責任を前提とするものであるから(自賠法3条参照),過失相殺後に控除されるべきであり,また,自賠責保険金は自賠法16条の3第1項が規定する支払基準に従って支払われるが,この支払基準は保険会社以外の者を拘束するものではないことを考慮すると,原告が遅延損害金から充当することを主張する本件においては,遅延損害金から充当するのが相当である(民法491条1項参照)。
     この結果,別紙3記載のとおり,残元本は1157万6474円となる。
  (12) 弁護士費用
    (11)の残元本に照らすと,弁護士費用については120万円を損害と認めるのが相当である。
第4 結論
   以上の次第で,原告の請求は,上記の残元本1157万6474円と弁護士費用120万円を合わせた1277万6474円及び1157万6474円に対する自賠責保険金の最終支払日の翌日である平成15年6月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,120万円に対する本件事故日である平成13年3月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の限度で理由があるから,主文のとおり判決する。なお,被告らの仮執行免脱宣言の申立てについては,相当でないから,これを付さないこととする。
    東京地方裁判所民事第27部
        裁判官 齊藤 顕

⑦ 7級の事例
○東京地方裁判所判決 平成19年7月23日
症状固定時36歳の男性会社員が左上肢のRSD(労働能力喪失率56%)の後遺障害を負った場合において、傷害分120万円の慰謝料、後遺障害分1200万円の慰謝料を認めた。

       主   文

 1 被告は,原告に対し,7010万0318円及びこれに対する平成14年10月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告は,参加人に対し,別紙事故目録記載の交通事故に基づく参加人の原告に対する損害賠償債務が7010万0318円及びこれに対する平成14年10月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を超えて存在しないことを確認する。
 3 原告及び参加人のその余の請求をいずれも棄却する。
 4 訴訟費用は次のとおりの負担とする。
 (1)甲事件については,これを5分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
 (2)乙事件については,これを10分し,その9を参加人と負担とし,その余を原告の負担とする。
 5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 請求
 1 甲事件
   被告は,原告に対し,1億2525万3269円及びこれに対する平成14年10月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 乙事件
   原告は,参加人に対し,別紙事故目録記載の交通事故に基づく参加人の原告に対する損害賠償債務が791万1955円を超えて存在しないことを確認する。
第2 事案の概要
   本件は,原告運転の車両と被告運転の車両が衝突した交通事故について,原告が,被告に対し,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条による損害賠償を求めた事案(甲事件)と,被告と自動車保険契約を締結していた参加人が,原告に対し,参加人が負担する同契約に基づく損害賠償債務が791万1955円を超えて存在しないことの確認を求めた事案(乙事件)である。
 1 前提となる事実(争いのない事実又は文章末尾に記載の証拠及び弁論の全趣旨より容易に認定することができる事実)
 (1)(本件事故)
    別紙事故目録記載のとおり。
 (2)(責任)
    被告は,被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車両」という。)の所有者であり,自己のために自動車を運行の用に供していたものであるから,自賠法3条に基づく損害賠償責任がある。
 (3)(本件保険契約)
    参加人と被告は,本件事故当時,被告車両について家庭用総合自動車保険契約を締結していた。
 (4)(傷害)
    原告は,本件事故によって,外傷性頚部症候群,解離性健忘症,左上肢反射性交感神経性ジストロフィー(RSD),左下肢知覚鈍麻・運動障害・疼痛,胸部交感神経切除後左眼眼裂狭小,右上半身代償性発汗の傷害を負った。
 (5)(身体障害者認定)
    原告は,平成16年6月15日,左上肢機能障害(3級),左下肢機能障害(4級)により,身体障害程度等級2級に認定された。【甲6】
    また,原告は,同年9月9日,解離性健忘症により精神障害等級1級の認定を受けた。【甲7】
 (6)(自賠責保険の後遺障害等級認定)
    原告は,平成16年7月23日,左上肢のRSDは後遺障害等級12級12号に該当するとの認定を受けた。原告は,後遺障害は3級に相当するとして,異議を申し立てたが,結論は変わらなかった。【甲25,26】
 (7)(損害のてん補)
    原告は,自賠責保険から224万円の,参加人から1180万3809円の,それぞれ支払を受けた。
 2 争点
 (1)後遺障害の程度
 (2)損害の算定
 3 当事者の主張
 (1)原告の主張
   ア 後遺障害の程度について
     原告は,本件事故により,左上肢のRSDを発症し,その程度は,「1上肢の用を全廃したもの」(後遺障害等級5級6号),「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」(同5級2号),若しくは「神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの」(同7級4号)に該当する。
     また,左下肢も左上肢と同様にRSDであることが認められ,知覚鈍麻,疼痛等により良肢位を取り,ひきずって歩行するなど,その程度は少なくとも後遺障害等級12級12号に該当する。
     さらに,原告は,左上肢及び左下肢のRSDに伴い,解離性健忘症,うつ病の精神症状を発症しており,重篤である。
     左難聴,左耳閉感,左手皮膚症状,皮膚症状等も発症している。
     これらの症状を総合すると,本件事故の後遺障害による原告の労働能力喪失率は79%である。
   イ 治療費         279万4744円
     本件事故日である平成14年10月5日から症状固定の平成16年11月30日までの治療費である。
   ウ 入院雑費        1万2000円
     入院8日間(平成15年3月5日から同月12日まで)
   エ 通院交通費       31万0780円
     通院回数    379回
     往復の交通費  820円
   オ 休業損害        1729万4257円
   (ア)平成14年10月分    90万円
   (イ)同年11月から平成15年4月分まで  540万円
   (ウ)同年5月から平成16年11月30日まで(580日)
                   1099万4257円
   カ 傷害慰謝料       210万円
     入院8日間,通院26か月半
   キ 逸失利益        8402万1076円
     基礎収入:691万8800円(平成15年システムエンジニア男性35~39歳の平均賃金)
     労働能力喪失率:79%
     労働能力喪失期間:30年間
   ク 後遺障害慰謝料     1500万円
     原告は,被告の代理人であった者から,「麻薬漬け」などと侮辱され,参加人の担当者の無責任な言動により,翻弄された。このほか,不誠実な訴訟活動があったことも,慰謝料の増額事由として考慮されるべきである。
   ケ 症状固定後の治療費等  186万7031円
     平成16年12月から平成19年1月までの治療費等の一部を請求する。
   (ア)治療費    145万6391円
   (イ)通院交通費  41万0640円
   コ 弁護士費用       1103万円
 (2)被告の主張
    認める。
 (3)参加人の主張
   ア 原告の後遺障害の程度について
     原告の後遺障害の内容は,左上肢の痛み及び拘縮に加え,左下肢は知覚鈍麻,疼痛によりひきずって歩行している状態である。しかし,「左上肢が良肢位に固定して」いることや「左上肢の左肩関節以下の拘縮が著明」であることを裏づける他覚的,客観的な所見はなく,自賠責保険の認定手続において,2度にわたり,12級12号に該当するとされている。また,左下肢については,「知覚鈍麻・脱力」の診断を受けたが,RSDの診断を受けたものではない。したがって,労働能力喪失率は14%である。
     そして,RSDによる痛みは慢性期になると徐々に減少するといわれており,症状固定日である平成16年2月18日以降は,若干の増悪があったとしても,今後は徐々に減少していくことが想定されるので,労働能力の喪失期間は10年とすべきである。
   イ 治療費     280万1494円
     平成14年10月5日から平成16年1月31日までの治療費である。
   ウ 入院雑費    1万2000円
   エ 通院交通費   19万6100円
   オ 休業損害    808万7220円
     基礎収入:588万0300円(平成14年男性労働者35~39歳の平均賃金)
     休業期間:502日
   カ 入通院慰謝料  172万2632円
   キ 逸失利益    623万6318円
     基礎収入:576万8600円(平成15年男性労働者35~39歳の平均賃金)
     労働能力喪失率:14%
     労働能力喪失期間:10年間
   ク 後遺障害慰謝料 290万円
第3 当裁判所の判断
 1 労働能力の喪失率等について
 (1)原告は,前記のとおり後遺障害を主張しているが,本件事故によって原告の左上肢にRSDが生じたことについては当事者間に争いがない。しかし,左上肢のRSDが原告の労働能力に与える影響の程度については,原告は,「上肢の用が全廃した」,「軽易な労務以外の労務に服することができない」などとして,79%若しくは56%の労働能力の喪失率を主張するのに対し,参加人は,自賠責保険の認定結果を踏まえて,14%程度にとどまると主張している。そこで,まず,原告の左上肢のRSDが労働能力に与える影響の程度について検討する。
 (2)証拠(文章末尾に記載のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
   ア 原告は,本件事故後,多摩丘陵病院に救急車で搬送され,頚椎捻挫と診断された。原告は,その後,同病院には平成14年10月7日に通院しただけであった。【乙1】
   イ 原告は,同日,日本医科大学付属多摩永山病院(以下「多摩永山病院」という。)の麻酔科で診察を受けたところ,後頭部痛,頚部痛が認められた。そして,同月16日にも受診したが,左上肢に激痛が認められたことから,同病院のA医師(以下「A医師」という。)は,星状神経節ブロックと温熱療法を施行した。
     原告は,同年12月19日,同病院の精神神経科で受診したところ,痛みが激しいとき,健忘が出現すると認められ,解離性健忘と診断された。なお,原告は,同病院の整形外科でも診察を受けたが,整形外科的には特に異常は認められなかった。
     原告の左上肢の疼痛はその後も改善しなかったことから,原告は,平成15年3月6日,左胸部交感神経節を切除する手術を受けた。【甲3,乙2の2】
   ウ 手術後,激痛はなくなり,健忘症は消失したが,痛み,手の重みなどは残存した。A医師は,手術後も,左上肢の痛みと筋萎縮及び骨萎縮の増悪予防のため,頚・胸部傍脊椎神経ブロックを継続して施行してきたが,同年10月下旬ころから,左上肢の激痛が再び持続するようになった。そのため,原告は,ブロック療法以外に,鎮痛剤を服用するようになった。【甲3,乙2の2】
   エ 原告は,同病院の麻酔科に,平成15年10月は13日,11月は11日,12月は14日,平成16年1月は12日,2月は12日,3月は14日,4月は14日,5月は13日,6月は13日,7月は13日,8月は16日,9月は13日,10月は1日,11月は15日,12月は18日,平成17年1月は11日,2月は7日,3月は10日,4月は10日,5月は9日,6月は11日,7月は8日,8月は10日,9月は9日,10月は9日,それぞれ通院して,一時的な除痛を得るためのブロック療法を継続して受けた。
     原告は,その後も通院し,平成18年9月は11日,10月は10日,11月は11日,12月は8日,平成19年1月は14日,それぞれ通院した。【甲3,8,17,42,46】
   オ 原告は,平成16年4月から,同病院でB医師(以下「B医師」という。)の診察も受けるようになったが,同病院の麻酔科の外来診療は週3回しかないことから,平成17年8月ころから,同医師が勤務する武蔵野病院のペインクリニック科に通院して,ブロック療法を受けるようになった。原告は,同病院に,平成18年10月は7日,11月は5日,平成19年1月は5日,それぞれ通院した。
     現在,原告は,1回のブロック療法において,5か所に局所麻酔薬を注射している。【甲19,42,47,証人B】
 (3)左上肢の後遺障害の症状固定日について
    後遺障害による労働能力の喪失率は症状固定日を基準として判断されるところ,原告は,症状固定日を平成16年11月30日と主張するのに対し,参加人は同年2月18日であると主張しているものと解される。
    しかしながら,原告の主治医であるA医師は症状固定日を平成16年2月18日とする後遺障害診断書(甲2)を作成し,原告はこれに基づいて自賠責保険を請求している上,原告は,同日後も治療を受けているものの,これは,RSDの症状を改善させるためではなく,症状が増悪することを防ぐ目的であると認められ(甲4参照),同日から同年11月30日にかけて症状が格別に悪化したとはうかがえないことも考慮すると,原告の左上肢の症状は平成16年2月18日に固定したと認めるのが相当である。
 (4)左上肢のRSDによる後遺障害の程度について
    原告は,身体障害の程度について,左上肢機能障害につき等級3級と判断されていることに加え,前記認定事実のように,左上肢の激痛を除くため左胸部交感神経節切除術を受け,その後もブロック療法を受けていたが,激痛が再び持続するようになって,鎮痛剤も併用するようになり,症状固定後も,多摩永山病院のみならず武蔵野病院にも通院してブロック療法を受け,両病院で診療を担当しているB医師は,治療の頻度について,「(週に)最低3日で,多いときは4日,5日になっていると思います」と証言しており(証人B調書8頁),証拠上,正確な通院回数は完全には明らかでなく,症状固定後常に同医師が証言するような頻度で治療を受けていたとは認められないにしても,前記認定事実によれば,かなりの頻度で治療を受けていたことが認められるのであって,1回の治療において,5か所に局所麻酔薬を注射をしなければ効果を期待できない状況にあり,原告が受けている治療がRSDの治療として相当性を欠くとまで認めるに足りる証拠もないことなどを総合考慮すると,症状固定時における原告のRSDによる疼痛の程度は,もはや通常の労務に服することができる程度のものということはできず,軽易な労務以外の労働に常に差し支える程度の疼痛であると認められる。
    なお,原告の左上肢は,症状固定時,ブロック療法や鎮痛剤の効果で,完全に拘縮するまでには至っておらず,軽い物を持つことができ,車の運転もすることができることからすると(丙10から14,証人B),左上肢の用が全廃したとまでは認められない。また,原告は,左上肢につき,「特に軽易な労務以外の労務に服することはできない」とも主張するのであるが,RSDの場合,激しい痛みのために動かすことができず,その結果,筋萎縮が進行し,廃用状態となることがあるが,後遺障害の等級認定においては,「1上肢の用を全廃したもの」と「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」が同程度に取り扱われていることに照らすと,原告の左上肢が全廃状態とまでは認められない以上,労働能力の喪失率を判断するに当たっては,「特に軽易な労務以外の労務に服することはできない」状態にあると認めることは相当でない。
    他方,参加人は,自賠責保険の認定結果を踏まえて,12級相当であると主張するが,同認定結果は,MRI検査や単純レントゲン検査等客観的資料の提出を受けることなく,判断されたものである。RSDによる筋萎縮,骨萎縮の程度を判断するに当たって,MRI検査等の画像所見が有用であることは否定できないが,自賠責保険における等級認定においてはともかく,損害賠償の算定においては,これらがないからといって,RSDによる労働能力の喪失は12級(14%)程度であると判断することは相当ではない。また,C医師は,原告の労働能力の喪失率は14級10号相当であると述べているが(丙7),当事者間において,原告の左上肢がRSDであることについては争いがないところ,同医師はそもそもこの点について決定的根拠はないとしていることからすると,その前提からして,同医師の意見は採用することができないところである。
 (5)左上肢以外の後遺障害について
    原告は,左下肢も左上肢と同様にRSDであり,その程度は12級12号に該当すると主張するが,A医師は,後遺障害診断書(甲2)に,左下肢につき知覚鈍麻,脱力と記載するにとどまり,RSDと確定診断をするには至っていない(甲13)。また,B医師も,RSDであると考えているものの,遅れて生じた症状であることから,医学的にも議論があり,診断する人によっても意見が分かれるところである旨述べている(証人B調書23頁以下)。したがって,本件事故によって左下肢にもRSDが生じたと認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。
    このほか,原告は,後遺障害として,解離性健忘症,うつ病,左難聴,左耳閉感,左手皮膚症状等も主張しているが,仮にこれらの症状が将来において回復の見込みのない後遺障害に該当するとしても,左上肢のRSDによって認められる労働能力の喪失程度に影響を与えるような後遺障害であるとまで認めるに足りる証拠はない。
 (6)以上により,原告は,本件事故による後遺障害によって,労働能力を56%程度喪失したものと認められる。
    そして,RSDという後遺障害の内容や,これまでの治療状況,上記の労働能力喪失率に照らすと,労働能力喪失期間は症状固定時の年齢からの就労可能年数と認めるのが相当である。
 2 損害の算定について
 (1)治療費
    原告は,平成16年11月30日までの治療費として279万4744円を主張し,参加人は,同年1月31日までの治療費として280万1494円を主張している。
    前述のように,原告の左上肢の症状は平成16年2月18日に固定しているが,その後もブロック療法等を続けなければ,症状が増悪することに照らすと,同日以降の治療についても必要性が認められる。
    そして,証拠(丙1)及び弁論の全趣旨によれば,平成16年11月30日までの治療費は280万1494円を下回るものではないと認められ,同額における治療内容が本件事故による治療として必要性,相当性を欠くものであったとまでは認められない。
    したがって,平成16年11月30日までの治療費として280万1494円を認める。
 (2)入院雑費
    入院雑費として1万2000円が損害であることについては当事者間に争いがない。
 (3)通院交通費
    証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成16年11月30日までに多摩永山病院の麻酔科等に合計375日通院したことや,自宅から同病院までの往復の電車代が820円であったと認められる。したがって,30万7500円(=820円×375日)を損害と認める。
    なお,参加人は,原告は実際には車ないしタクシーで通院していたとして,19万6100円が損害であると主張しているが,参加人の算定は平成16年2月18日までのものと認められるが(丙4),上記のとおり,症状固定後といえども,治療の必要性が認められ,加えて,参加人の算定は駐車場代に限定しているところ,車による通院となれば,燃料代も考慮しなければならないことに照らすと,参加人主張の金額に損害をとどめることは相当とはいえない。
 (4)休業損害
   ア 証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば,原告と(株)Dは,引渡しを平成14年10月末日とする経営管理プログラム作成契約を締結しており,同契約に基づき同月25日に90万円の支払を受けることになっていたが,本件事故により支払を受けることができなかったことが認められる。したがって,同月分の休業損害として90万円が認められる。
   イ 原告は,同年11月から平成15年4月までの6か月間についても,同契約が更新される予定であったとして,同期間の休業損害540万円を主張し,契約が更新される予定であったことを裏づける証拠として同社からの回答書(甲11)を提出するが,同回答書においても,以後の契約は必要があれば改訂等を加えながら重ねていく旨記載されていることからすると,月90万円がその後6か月間,支払われる蓋然性があったとまでは認められない。
   ウ 原告は,平成13年に955万円の所得があったことが認められるが(甲27),原告は,本件事故時,給与所得者ではなく,平成13年以前の所得状況も不明であることからすると,同額程度の安定的な収入があったとまでは認められない。原告は本件事故時35歳のシステムエンジニアであり(甲9,弁論の全趣旨),平成14年の男性システムエンジニアの35~39歳の平均賃金(企業規模計)は666万7100円であることに照らすと,休業損害の算定に当たっては,666万7100円を基礎収入とするのが相当である。
     そうすると,平成14年11月から症状固定の平成16年2月18日まで(475日)の休業損害は,次の算式より,867万6363円となる。
    (算式)666万7100円÷365×475
        ≒867万6363円
   エ 以上により,休業損害は957万6363円となる。
 (5)傷害(入通院)慰謝料
    原告は本件事故により8日間入院し,本件事故日である平成14年10月5日から症状固定の平成16年2月18日まで通院していること,及び傷害の内容や治療状況等を総合考慮すると,傷害慰謝料は180万円を下回るものではない。
 (6)逸失利益
    原告は,逸失利益の算定のおける基礎収入を691万8800円(平成15年システムエンジニア男性35~39歳の平均賃金)と主張するのに対し,参加人は576万8600円(平成15年男性労働者35~39歳の平均賃金)を主張している。
    前述のように,原告の労働能力喪失期間は,症状固定時の36歳から就労可能年数である67歳までの31年間(ライプニッツ係数15.5928)となるところ,同期間を通じ,原告主張の平均賃金程度の収入を得られる蓋然性を基礎づける証拠があるとまではいえず,また,平成16年の男性システムエンジニアの全年齢平均賃金(企業規模計)が546万4100円であることに照らすと,逸失利益の算定に当たっては参加人主張の576万8600円を基礎収入とするのが相当である。
    この結果,逸失利益は,次の算式により,5037万1230円となる。
   (算式)576万8600円×0.56×15.5928
       ≒5037万1230円
 (7)後遺障害慰謝料
    原告の後遺障害による労働能力喪失率は上記のとおりであるが,RSDという症状からして,原告は現在の状態を維持するために今後も治療を継続しなければならないことなど,本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると,後遺障害慰謝料として1200万円を認めるのが相当である。
    なお,原告は,被告の代理人であった者や参加人の担当者の言動等を理由に慰謝料の増額を主張するが,これらが慰謝料を増額させるほどの違法性があったとまで認めるに足りる証拠はない。
 (8)症状固定日以降の治療費等
    原告は,平成16年12月1日から平成19年1月31日までの治療費として145万6391円を主張し,上記の期間,治療のため多摩永山病院に327回,武蔵野病院に75回,通院したとして通院交通費41万0640円を主張している。
    しかしながら,症状固定後においても,ブロック療法のため通院の必要性は認められるところ,前記認定事実のとおり,証拠上認められる上記期間の多摩永山病院(麻酔科)への通院日数は166日であり,武蔵野病院への通院日数は17日である(なお,証拠上,麻酔科以外にも通院した事実が認められるが,その必要性,相当性は必ずしも明確でない。)。そして,証拠(甲42)上認められる,上記期間における両病院での治療費は合計70万7120円である。また,多摩永山病院への往復の交通費は820円,武蔵野病院への往復の交通費は1900円であると認められる(弁論の全趣旨)。
    したがって,多摩永山病院への交通費13万6120円(=820円×166日),武蔵野病院への交通費3万2300円(1900円×17日),治療費70万7120円が損害として認められる。
 3 上記2の損害の合計7774万4127円であり,前記前提となる事実のとおり,原告は損害のてん補として既に1404万3809円の支払を受けているので,これを控除すると,残額は6370万0318円となる。
   これを踏まえると,弁護士費用として640万円を損害と認める。
 4 以上の次第で,原告の請求は主文第1項の限度で,参加人の請求は主文第2項の限度でそれぞれ理由があるから,主文のとおり判決する。
    東京地方裁判所民事第27部
        裁判官  齊 藤   顕
(別紙)
       事故目録
  日 時:平成14年10月5日午前2時23分ころ
  場 所:東京都多摩市南野3丁目15番地
  態 様:原告運転の普通乗用自動車(多摩○○○た・○○○)が対面信号機の赤色表示を確認して停止しようとしたところ,後方から進行してきた被告運転の普通乗用自動車(新潟○○○て○○○○)が衝突した。

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