東京地方裁判所判決 平成20年7月22日

症状固定時27歳の女性会社員が顔面醜状及び疼痛(7級12号相当)の後遺障害を負った場合において、傷害分120万円の慰謝料、後遺障害分1250万円の慰謝料を認めた。

       主   文

 1 被告は,原告に対し,719万1430円及びこれに対する平成18年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求を棄却する。
 3 訴訟費用は,これを9分し,その8を原告の,その余を被告の負担とする。
 4 この判決は,原告勝訴の部分に限り,仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 請求
 1 被告は,原告に対し,5893万5181円及びこれに対する平成18年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 仮執行の宣言
第2 主張
 1 請求原因
  (1) 交通事故の発生及び被告の責任
    原告は,平成18年6月29日午後11時15分ころ,東京都台東区蔵前4丁目2番1号の道路において原動機付自転車を運転中に,被告が運転する普通自動車に追突され,傷害を受けた(以下,この交通事故を「本件事故」という。)。
    被告は,酒気を帯びた上で,その運転する自動車を規制に係る最高速度である時速50キロメートルを超える時速約75キロメートルで走行させ,時速約35キロメートルで走行していた原告運転の原動機付自転車に衝突させて,そのまま現場から立ち去ったもので,原告に生じた損害について,不法行為による賠償責任を負う。
  (2) 損害
   ア 治療費等 205万5790円
     原告は,本件事故により,頭部挫創及び全身打撲の傷害を受け,15日に及ぶ入院を含め,その治療のために,上記の金額を要した。
   イ 入院雑費 2万2500円
     上記の入院期間について,1日当たり1500円として,上記の金額となる。
   ウ 通院費 1万1200円
   エ その他の治療関係費 3万0377円
   オ 休業損害 83万4988円
   カ 後遺障害による逸失利益 4684万2148円
     原告が本件事故により受けた傷害は,平成19年1月30日,自動車損害賠償保障法施行令別表第2の第7級12号に相当する顔面醜状及び疼痛の障害を残して症状が固定した。
     原告は,高校生のころから旅行会社の添乗員となることを希望し,本件事故の発生した当時は,株式会社Aにバスの添乗員として勤務していたが,本件事故発生後に退職し,その後も職業に就いていないものであって,原告は,本件事故により受けた傷害の症状が固定した当時の27歳から67歳までの40年の就労可能期間において,労働能力を56パーセント喪失した。傷害の症状が固定した当時の年齢等からすると,原告は,上記の期間中に,毎年,平成17年賃金センサス第1巻第1表の全労働者の平均年収額である487万4800円の収入を得ることが可能であったもので,原告の逸失利益は,次の計算により,上記の金額となる。
     487万4800円×0.56×17.159(40年についての年5分の割合による中間利息の控除に関するライプニッツ係数)=4684万2148円
   キ 慰謝料
     傷害分 140万円
     後遺障害分 1800万円
       原告の受けた後遺障害の内容,程度等のほか,原告が本件事故の発生した当時に20代の未婚の女性であったことや,本件事故の態様の悪質さ等を考慮すべきである。
   ク 弁護士費用 530万円
  (3) よって,原告は,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,(2)記載の金額の合計から支払済みの1356万1822円を控除した残額のうち5893万5181円及びこれに対する不法行為の日である本件事故の発生した平成18年6月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
 2 請求原因に対する認否
   ア 請求原因(1)の事実及び被告が原告に対して不法行為による損害賠償責任を負うことは認める。
   イ 同(2)の事実については,ア,イのうち原告が15日間入院したこと,ウ,エ,オ並びにカのうち原告が本件事故によりその主張するような後遺障害を受けたこと及び本件事故が発生した当時に原告はバスの添乗員であったところ本件事故発生後に退職したことは認めるが,その余は否認し,主張は争う。
     入院雑費の計算に当たっては,1日当たり1100円をもって相当というべきである。
     また,本件事故が発生した当時の原告の職業は,バスの添乗員であって,容姿が直接に集客や売上げに影響するものではなく,また,原告の顔面に残った傷害痕は,髪の生え際近くにあり,髪型等を工夫することによって目立たなくすることができ,顔面の運動や機能に障害をもたらすものではないのであるから,これによる就労への影響は認められず,原告が勤務先を退職したこととの間の因果関係も存在しない。
     慰謝料については,傷害分としては,51万7000円をもって相当というべきである。また,後遺障害分に関しては,被告の飲酒の程度はビールをジョッキに2杯であり,本件事故が発生してから1時間45分後の飲酒検知時において正常に歩行することなどが可能であったこと,被告は本件事故を生じさせた直後は動揺していったん自宅に戻ったものの,すぐに自らの行為を反省して警察に自首し,損害賠償金の一部として200万円を支払うなどもしていること等をしんしゃくすると,409万円をもって相当というべきである。
第3 判断
 1 請求原因(1)の事実及び被告が原告に対して不法行為による損害賠償責任を負うことは,当事者間に争いがない。
 2 同(2)について
  (1) 同(2)の事実のうち,ア,ウ,エ及びオは,当事者間に争いがない。
  (2) 同(2)のイの事実のうち,原告が15日間入院したことは,当事者間に争いがなく,その間に要した雑費としては,1日当たり1500円をもって相当と認め,その合計は,2万2500円となる。
  (3) 同(2)のカの事実のうち,原告が本件事故によりその主張するような後遺障害を受けたこと及び本件事故が発生した当時に原告はバスの添乗員であったところ本件事故発生後に退職したことは,当事者間に争いがない。そして,証拠(甲1,6,11の1・2,13,乙6,原告)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,昭和54年○月○○日生の女性で,本件事故が発生した当時に26歳であったところ,本件事故により受けた傷害痕は,左側頭部から左前額部にかけての人目につく線状瘢痕(前額部先端で二股に分かれ,下辺で長さ約6.5センチメートル,幅約0.5センチメートル)であること,原告は,高校生のころから海外旅行の添乗員となる希望を有し,法政大学英文科に進学して,在学中に一般旅行業務取扱主任者(当時)の資格を取得し,大学を卒業した後は,海外旅行関係の事業を行う株式会社Bに就職して,約5年にわたり,旅行代理店の業務に従事した後,最終的にはその希望する海外旅行の添乗員としての業務に従事するべく株式会社Aに就職し,まずは主として国内のバス旅行の添乗員として勤務していたところ,本件事故に遭遇したこと,原告の受けた傷害痕は髪型等を工夫することによりある程度目立たなくすることは可能であるが,原告としては,接客業の性格を有する添乗員としての勤務に求められる清潔感等を考慮すると,上記の傷害痕は添乗員として勤務する上で支障となるものと考え,同社を退職したこと,原告は,その希望していた海外旅行の添乗員となることを断念し,現在は救急救命士となるべく準備を行っていることが認められる。
    以上の事実関係,中でも,原告がかねて希望し,本件事故がなければ遠からず従事することができたであろうと見ることを妨げる事情の特段見当たらない海外旅行の添乗員としての業務には,接客業の性格もあることや,本件事故により原告が受けた後遺障害の部位・程度,原告の年齢等を考慮すると,当該後遺障害が就労に影響を与え得るとの原告の主張は,首肯するに足り,その影響の程度については,平成19年1月30日に本件事故により受けた傷害の症状が固定した当時の27歳から10年にわたり,10パーセントを下回るものではないと認めるのが相当である。
    そして,上記のような原告の経歴やその有する資格等に照らすと,原告は,上記の期間において,症状固定時に直近の平成18年賃金センサス第1巻第1表の大学を卒業した女性労働者の平均年収額である440万1100円の収入を得ることが可能であったと認めるのが相当であり,原告の逸失利益は,次の計算により,339万8397円となる。
    440万1100円×0.1×7.7217(10年についての年5分の割合による中間利息の控除に関するライプニッツ係数)=339万8397円
  (4) 同(2)のキのうち,傷害に関する慰謝料については,既に認定したとおり,原告が本件事故により受けた傷害は,全身打撲を含め,入院15日を要する程度の相当重篤なものであったこと,証拠(甲6,8,乙9,11ないし23)によれば,原告は,上記の入院の後,傷害の症状が固定した平成19年1月30日までに,日本医科大学付属病院に7日,城東社会保険病院に12日通院したことが認められ,このような事実を踏まえると,上記に関する慰謝料の金額としては,120万円をもって相当と認める。
    また,後遺障害に関する慰謝料については,既に認定した原告の後遺障害の内容・程度等のほか,証拠(甲2ないし4,9,10,乙1ないし5,被告)によれば,本件事故は,見通しのよい道路を通常に走行中の原告運転の原動機付自転車の後部から被告運転の普通自動車が規制に係る最高速度を時速20キロメートル以上超過して衝突したという態様のもので,被告は,本件事故の発生から1時間半以上を経過した時点に実施された飲酒検知においても,呼気1リットル中に0.45ミリグラムのアルコールが検知される状態だったのであり,衝突の衝撃はフロントガラスが割れる程度の強いものであって,交通事故が発生したことは明らかと見られる状況であったにもかかわらず,所要の救護等の措置をとらずに現場を立ち去ったことが認められ,上記の証拠によれば,被告は後に反省して警察に出頭し,相応の刑事処分を受け,200万円の損害賠償金の内払をした等の事情が認められるものの,このような事情を考慮しても,なお,本件事故の態様は悪質なものであるといわざるを得ないこと,さらに,原告は本件事故の発生した当時に20歳代の未婚の女性であり(原告),既に認定したとおり本件事故の結果として原告が高校生のころ以来希望していた職業に就くことを断念するに至ったこと等をしんしゃくし,上記に関する慰謝料の金額としては,1250万円をもって相当と認める。
  (5) 以上に述べた金額の合計は,2005万3252円となるところ,本件にいて原告の主張するところを踏まえ,上記の金額から支払済みの1356万1822円を控除すると,残額は649万1430円となり,これと相当因果関係の認められる弁護士費用の金額としては,70万円と認める。
第4 結論
   以上によれば,原告の本件請求は,不法行為による損害賠償請求権に基づき,第3の2(5)記載の合計719万1430円及びこれに対する不法行為の日である本件事故の発生した平成18年6月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,認容し,その余は,理由がないから,棄却することとする。
       東京地方裁判所民事第27部
              裁判官   八木一洋

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