東京地方裁判所判決 平成21年5月26日

会社員兼2輪車プロレーサーが脊柱変形(11級7号)、頸椎捻挫に伴う頸肩痛(14級9号、併合11級)の後遺障害を負った場合において、傷害分124万円の慰謝料、後遺障害分500万円の慰謝料を認めた。

       主   文

 1 被告らは,原告に対し,連帯して,金2304万2266円及びこれに対する平成17年9月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用は,これを7分し,その1を被告らの,その余を原告の負担とする。
 4 この判決は,仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 請求
 1 被告らは,原告に対し,連帯して,金1億6117万7143円及びこれに対する平成17年9月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 訴訟費用は被告らの負担とする。
 3 仮執行宣言
第2 事案の概要
   本件は,下記1(1)記載の交通事故(以下「本件事故」という。)により,負傷して後遺症が生じ,二輪車レースができなくなった等と主張する原告が,被告らに対し,不法行為(被告Y1(以下「被告Y1」という。)については民法709条,被告Y2(以下「被告Y2」という。)については自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条本文)に基づき,損害賠償として,連帯して1億6117万7143円及びこれに対する本件事故の日である平成17年9月4日から支払済みまで,民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 1 争いがない事実等(当事者間に争いがないか,後掲の証拠により容易に認められる。
  (1) 本件事故の発生
   ア 日時   平成17年9月4日午後10時10分ころ
   イ 場所   神奈川県大和市中央1丁目7番20号先路上(以下「本件事故現場」という。)
          なお,本件事故現場の状況は別紙1のとおりであり,本件事故現場先に交差点がある。(乙3)
   ウ 原告車  原動機付自転車(旭区た○○○○)(以下「原告車」という。)
   エ 被告車 自家用普通乗用自動車(相模○○○ふ○○○○)(以下「被告車」という。)
   オ 事故態様 本件事故現場先の交差点手前において,原告車と被告車が近づき,原告が被告車と接触し,原告が転倒した。(なお,本件事故の原因,状況については,後記のとおり争いがある。)
  (2) 原告の傷害の程度と治療経過
    原告は,本件事故により,第11胸椎圧迫骨折,背部痛,頚椎捻挫,胸椎捻挫,腰椎捻挫,右下肢打撲等の傷害を負い,以下の治療を受けた。
   (ア) 大和徳洲会病院
     平成17年9月4日から同月30日まで通院(実通院日数2日)
   (イ) いわい整形外科ペインクリニック
     平成17年9月7日から平成18年3月31日まで(実通院日数100日)
  (3) 原告は,平成18年3月31日で症状固定となり,脊柱の障害,頚椎部の運動障害,胸腰椎部の運動障害(特に後屈ができない。)及び頚,肩,腰,背などの痛み,緊張感,上下肢のしびれ,頭痛などを始めとする神経症状が残り,自賠責保険・共済紛争処理機構において,自賠法施行令2条別表第二の後遺障害等級(以下「後遺障害等級」という。)併合第11級と認定された。
  (4) 被告Y1は,本件事故当時,被告車を運転し,左方不注視,安全運転義務違反の過失によって本件事故を発生させており,民法709条により,本件事故による原告の損害を賠償する責任を負う。
  (5) 被告Y2は,本件事故当時,被告車を保有し,自己のために運行の用に供していたのであるから,自賠法3条により,本件事故による原告の損害を賠償する責任を負う。
  (6) 原告の既受領金額は,被告らの任意保険から372万9858円及び自動車損害賠償責任保険からの331万円の合計703万9858円である。(甲12ないし25,弁論の全趣旨)
 2 争点及びこれに対する当事者の主張
  (1) 本件事故の態様及び過失割合
  (原告)
   ア 原告は,本件事故現場先の交差点にさしかかる手前で,原告車と並走していた被告車に幅寄せされた。危険を感じた原告は,被告車にこれ以上幅寄せをしないよう,被告車後部側面を片手でたたいて注意を促したにもかかわらず,被告車がさらに幅寄せをしてきたため,原告は,被告車と歩道の間に挟まれて,歩道に乗り上げ,歩道上の鉄製のポールに激突した。
     原告車の前方には水たまりがあり,転倒の危険があるためブレーキはかけられなかったのである。
   イ 被告らの主張は争う。
     被告車にキズがつかなかったとしても,それは原告の左足が原告車と被告車との間にはさまれてクッションの役目を果たしたにすぎない。
     被告らは,時速30キロメートル程度であればパニックブレーキにはならないから,ブレーキをかけられたはずであると主張するが,それは二輪車を運転したことのない者の暴論であり,水たまりにおいてブレーキをかければ,時速30キロメートルであっても二輪車は容易に転倒してしまうのである。
     原告は,ある程度の間被告車との並走が続いたため,右手で被告車の車体をたたき,注意を喚起し,被告Y1も異常に気付いていた。それにもかかわらず,被告Y1は幅寄せを続けたのであり,原告は,被告車の左側面をたたいて自己の存在を知らしめようとしたにすぎないから,本件では100パーセント被告Y1に過失があり,過失相殺はすべきではない。
  (被告ら)
   ア 原告の主張は争う。
   イ 原告は,道路左側を走行していたところ,本件事故現場付近に来て,被告車の斜めすぐ後方から,その左側を抜けようとした際,被告車が左側に寄ってきたので被告車の車体をトントントンとたたいて寄らないように合図をしたが,被告車が寄ってきたので,縁石に乗り上げて転倒し,そのときポールに衝突して負傷したのである。
     被告Y1は,本件事故現場先の交差点を直進しようとしており,相当激しく雨が降っていたので速度はあまり出していなかったところ,同交差点に入ろうとした直前に車の後部でトントントンという音を聞いたが何の音かは分からなかったのである。また,被告Y1は接触のショックも感じていないし,被告車にはキズもついていない。
     原告は,被告車の左側を追い抜くという危険な行為をするのに被告車の動静について注意を怠ったこと,ハンドルから手を離して被告車を右手でトントントンとたたく時間的余裕があったのであれば,ブレーキをかければ容易に本件事故を避けられたと考えられること,大雨で水が流れていたとしても,上記のような時間的余裕があれば,時速30キロメートル程度で走行していてブレーキをかけることでパニックブレーキになるとも考え難いから,損害の算定については大幅な過失相殺がなされるべきである。
  (2) 原告の損害
   (原告)
   ア 治療関係費                78万0930円
    (ア) 大和徳洲会病院           11万1710円
    (イ) いわい整形外科ペインクリニック   59万9400円
    (ウ) アドバン薬局             6万9820円
     なお,各文書料3000円を含む。
   イ 通院交通費                   4万2840円
   ウ 休業損害                  326万8928円
    (ア) 会社員分               6万8928円
      事故前3か月の給与103万3953円(1日1万1488円。1円未満切り捨て。以下同じ。)で,有給休暇を6日間使用した。
    (イ) 二輪車のレーサー分        320万0000円
      被告側の保険会社(富士火災海上保険株式会社)が提示したもの。
   エ 通院慰謝料                 124万0000円
     通院期間は209日であり約7か月である。
   オ 後遺傷害逸失利益           1億4368万4303円
    (ア) 会社員分             1566万4303円
      基礎年収478万3227円で,労働能力喪失20パーセント,症状固定時(32歳)から67歳までの35年間の中間利息を控除したライプニッツ係数16.3742を乗じた額である。
      478万3227円×20/100×16.3742=1566万4303円
    (イ) 二輪車のレーサー分      1億2802万0000円
      原告は,二輪車(ドラッグレース)のレーサーであり,基礎年収800万円で,労働能力喪失100パーセント,症状固定時(32歳)から65歳までの33年間の中間利息を控除したライプニッツ係数16.0025を乗じた額である。
      800万円×100/100×16.0025=1億2802万円
      なお,被告らは上記基礎年収を否定しているが,原告のスポンサード契約(以下「本件契約」という。)には以下のような①リフォーム企業の参入がないこと,②企業キャラクターとイメージの植え付けにインパクトがある特殊な形の車両(カウリングの面積が非常に大きいため強いアピールが可能)であること,③観客動員数が他の全日本選手権よりも多く,幅広い年齢層にアピールが可能であること,④TBSでの地上放送が予定されていたこと,⑤東京都とレース団体が合同で行う企画の計画が進んでいたことなどの事情から,テレビを始めマスメディアに登場する機会も多く,高い宣伝効果があるなど,A株式会社(以下「A」という。)にとってメリットがあり,800万円は破格の安い金額なのである。
      二輪車レースは極めて人気の高いものであり,日本ではなじみが薄いかもしれないが,アメリカではドラッグレースは3大モータースポーツといわれるほどであって,レース以外にもイベントや展示等でスポンサーには十分な広告効果が得られるものである。
   カ 後遺障害慰謝料              420万0000円
   キ 既払金                 -703万9858円
   ク 小計                1億4617万7143円
   ケ 弁護士費用               1500万0000円
   コ 合計                1億6117万7143円
  (被告ら)
   ア 原告の主張のうちアないしウは認める。
   イ 通院慰謝料については争う。同慰謝料額は71万8600円が相当である。
   ウ 後遺障害逸失利益は争う。
    (ア) 会社員分の基礎収入や症状固定時の年齢は認めるが,当初の後遺障害等級認定で非該当であったことや,症状固定後も原告が二輪車のレーサーとしての仕事もしていること,コピー機の出張修理を主な業務とする会社員としての仕事に支障が生じ,減収が生じているとは考えられない。
      後遺障害残存年数も争う。
    (イ) 二輪車のレーサー分としては,基礎収入及び後遺障害残存年数を争う。
      原告は,症状固定後も二輪車のレーサーの仕事をしている。
      また,原告の収入の基礎としている800万円は本件契約の契約金であるが,本件契約をしたAの代表取締役は原告の弟であり,規模も小さく,平成16年,平成17年上半期は赤字決算であった上,平成15年からの3年間の広告宣伝費は,本件の契約料以外は年間160万円以下であること,現時点では同社自体が廃業していると考えられることに加え,本件契約は,平成16年に利益が上がった同社が,出したものにすぎず,原告の出場するドラッグレースについてほとんど知られておらず,人気がなく,テレビでもほとんど放送されず,レース数も少ない状況において,800万円ものスポンサー料が広告費として見合うとも考えられないから,800万円の基礎収入を,将来にわたって得られたであろう蓋然性はないというべきであり,原告には,二輪車のレーサーとしての逸失利益はない。
      仮に,逸失利益が認められるとしても,レース用のバイク代349万円を始めとして多額の部品代等がかかるのであり,こうした経費を控除すると,逸失利益は認められないというべきである。
   エ 後遺障害慰謝料は争う。
   オ 既払金は認める。
   カ 弁護士費用は争う。
第3 争点に対する判断
 1 争点(1)(本件事故の態様及び過失割合)について
  (1) 前提となる事実に加え,証拠(甲2,101,乙3,原告本人。ただし,甲101及び原告本人は,以下の認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
   ア 本件事故は,平成17年9月4日午後10時10分ころ,本件事故現場で発生した。
   イ 原告及び被告Y1は,別紙1のとおり,本件事故現場を大和駅方面から柳橋方面に向かって,被告Y1は被告車を運転して道路中央やや右側を,原告は原告車を運転して被告車の左側を,それぞれ時速約30キロメートル程度で並走していた。
   ウ 本件事故現場の先は交差点になっており,別紙1のとおり,交差点手前の車線は区分されていないが,車線上の右側に右折の道路標示と左側に直進・左折の道路標示がなされている。
   エ 被告Y1は,交差点の約18メートル手前(別紙1②地点)において,被告Y1がハンドルを左に切ったところ,同②地点から10.7メートル進行した地点(同③。そのときの原告の位置は同(×)1)において原告車と接触し,原告車は,同(×)1地点から8.7メートル進行した地点(同(×)2)で縁石に接触し,その後進行方向左側の歩道に乗り上げ転倒し,原告車は,同(×)2から8.5メートル進行した地点(同(×)3)の鉄製ポールに衝突し,原告は,原告車と共に転倒した。
   オ 原告は,被告車が近づいてきたことを認識し,原告車を運転しながらブレーキをかけることなく右手で被告車の左後部をたたくなどして進行し,被告Y1は,原告が被告車をたたいた音に気付いたものの,特段の措置をしないまま進行し,別紙1(×)1地点(そのとき被告車は同③地点)で衝突し,その後縁石の切れ目から歩道に乗り上げ,鉄製ポールに衝突している。
   カ 本件事故の天候状況は雨であり,相当の雨量であった。
  (2) 以上からすると,本件事故は,本件事故現場において,直進するために被告Y1が被告車を道路左側に進路を変更する際に,左方の状況をよく確認しないまま進行したため,被告車の左を走行していた原告車に乗った原告に接触し,原告車も被告車もそのまま進行を続けたため,原告車の前方の進路が狭まり,原告車が道路左側の歩道に押し出されるようにして同歩道に乗り上げ,鉄製ポールに衝突したと認められる。
    被告Y1が別紙1②地点で左にハンドルを切ったことにつき,原告は,被告Y1が左折しようとしていたと主張するが,被告らはこれを否定し,被告Y1は直進しようとしていたと主張しているところ,道路状況によれば,直進車と左折車は同一車線を走行するようになっていることからすると,被告Y1は,直進するために道路標示に従い,道路左側に寄ったと考えられ,左折しようとしていたと認めることはできない。一方,被告らは,原告が,被告車を左から追い抜こうとしたと主張しているが,原告はこれを否定し,被告Y1も実況見分の際に警察官にその事実を申し述べた形跡もないから,やはりその事実を認めることはできない。
  (3) そうすると,本件事故は,四輪車である被告車が道路標示に従って通行するために進路変更しようとした際,二輪車である原告車と接触・衝突等した事案であるというべきである。
    もとより,進路変更するにあたって,運転者は車両周囲の状況に注意を払わなければ,とりわけ変更方向の前後の状況は注視しなければならないところ,被告Y1の運転状況については,被告Y1が左方に注意を払った形跡はなく,原告が被告車をたたいた音に気付いていながら,これを確かめもせずに漫然と走行していたと認められる(なお,原告は,陳述書(6)(甲101)において被告車がウインカーを出していないと述べているが,これのみをもってウインカーが出ていなかったとは認め難い。)。
    その一方で,原告も,原告車を運転中に,警笛を鳴らすでもなく,ブレーキをかけることもなく,原告車を進行させていたと認められるところ,原告は,ブレーキをかけることは転倒を誘発するからできなかった旨主張する。
    確かに,被告らも認めるとおり,本件事故当時に強い雨が降っていたことからすると水たまりができていたことが推認でき,そこで急ブレーキをかければ,二輪車である原告車が転倒する可能性は否定できないところではある。しかしながら,原告は,警笛をならしたわけではなく,ハンドルから右手を離して被告車をたたいており,原告は,それでも被告車が寄ってきたために原告車と衝突し,歩道に乗り上げたと供述していることを考えれば,それなりの時間的余裕はあったものと考えられる。また,本件事故当時,原告車がブレーキをかけた場合の水たまり等の影響を考えなければならないのは原告の指摘するとおりであるが,時速30キロメートル程度で走行していたのであるから,急ブレーキでなくとも,ブレーキをかけることで速度を落とすことは可能であったと考えられるし,それでもブレーキをかけること自体で転倒の危険があるのであれば,原告が,当該速度で進行することが危険であったというべきである。
    これらの点に加え,被告Y1の指示による別紙1②地点から同③地点までの距離が10.7メートル(時速30キロメートルで1.284秒)であり,被告車が同③のときの原告の地点(同(×)1)から原告車が縁石にぶつかった地点(同(×)2)まで8.7メートル(時速30キロメートルで1.044秒)であること考えれば,原告にも十分な余裕まではなかったことも考慮すると,原告と被告Y1との責任割合は,原告10に対して被告Y190と考えるが相当である。
 2 争点(2)(原告の損害)について
  (1) 原告の損害のうち,治療関係費78万0930円,通院交通費4万2840円,休業損害326万8928円については当事者間に争いがない。
  (2) 通院慰謝料については,原告の受傷部位や治療経過等は前提となる事実(2)のとおりであり,これらによれば124万円が相当である。
  (3) 後遺障害逸失利益について
   ア 原告の後遺障害慰謝料に関して,前提となる事実,証拠(甲28,57,72,76から78まで,102,104及び原告本人。ただし,以下の事実認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨に加え,後掲の証拠によれば以下の事実が認められる。
    (ア) 原告は,平成8年から平成11年にかけて,二輪車の国際A級ライセンスを取得し,二輪車のドラッグレースに出場するプロレーサーであり,平成9年にはレースでクラス最速タイムを出して2位に入賞したり,平成10年にはハイランド・ドラッグレースチャンピオンシップ第1戦(ただし,本番テスト的な意味合いが強いもの。)において,新規参入で初優勝をしたほか,平成8年にオートポリスでおいて行われたゼロ-ヨンフェスティバルや平成11年に鈴鹿サーキットで行われたオールスター戦(1万9000人を動員)で,デモンストレーションランを行うなどしていた。
      なお,この間の原告のプロレーサーとしての収入状況は不明であるが,確定申告をするほどの収入はなく,レース活動で生計をたてていたとはいえなかった。
     (甲58,59,61ないし63)
    (イ) ドラッグレースとは,正式には4分の1マイル(402.33メートル)等の競技場の一定区間の直線を,大出力のエンジンを搭載した自動車(二輪車を含む。)で,停止状態から発進し,ゴールまでの時間(数秒間)を競う,アメリカを発祥とするレースであり,通常は2台がレースをして勝負を行うものである。一気に加速して短時間で走りきるため,二輪車であっても,4分の1マイルのレースでは,トップ選手になると,7秒ほどで勝負がつき,最高速度は時速200キロメートル後半から300キロメートル近くになり,平均時速でも時速200キロメートル近いスピードが出るため,運転姿勢も,極端に前傾して風圧を避けることが必要となるところ,原告は,二輪車で,レベルの最も高いクラスであるプロストックバイク部門に参加していた。
     (甲76,79から87まで)
    (ウ) 原告は,婚姻を機会に平成12年から平成15年までは,レース活動を休止していた。
    (エ) 原告は,平成16年になって,レースに復帰することを考え,原告の弟が代表取締役を務めるAとの間でスポンサード契約(本件契約)を締結し,平成17年(2005年)度の契約料金は800万円であったが,確定申告はしていない。
     (甲28)
    (オ) 原告は,平成16年12月22日に,レース用の二輪車を349万円で購入し,平成17年には26万7102円以上の経費(このほかに,身体の維持管理やレース前後のスタッフの人件費等もかかる。)をかけて,自車の車体やレーシングスーツにAのロゴやキャラクターを付けてレース活動に復帰し,同年5月の復帰初戦に優勝し,同年7月10日の第2戦,同年8月27日の第3戦にも出場した。
     (甲32,34から47まで)
    (カ) 原告は,A以外にもの,Bから15万円,Cから5万円のスポンサー料を受領していたほか,「D」というチームに属して,車両のメンテナンスやレース場までの輸送等のサポートを受けていたほか,ヘルメットやオイルなどの会社から物品サポートを受けるなどしていたが,本件事故前にAとの契約更新の話をしようとしていたところであったが,他に,契約を求められたり,交渉をしていた会社があった事実はうかがえない。
      なお,原告に対するこれらのスポンサーやサポートは現在一切なくなっている。
    (キ) 原告は,本件事故により,第11胸椎圧迫骨折により,脊柱に変形を残す障害が背部痛を含めて後遺障害等級11級7号に,頚椎捻挫に伴う頚肩痛等の障害につき後遺障害等級14級9号に該当し,併合11級であると判断された。
     (甲31)
    (ク) 原告は,本件事故による後遺障害の影響もあり,体の機能としては,ドラッグレースで勝負できるだけのデータが残せず,平成18年に2回,平成19年にも1回,全日本選手権シリーズに出場したものの,平成20年4月ころを最後に,レースに参加することはなくなった。
     (甲55,56,75)
    (ケ) ドラッグレースは,我が国ではそれほどなじみのあるモータースポーツとはいえず,有料放送で海外のレースが取り上げられることはあったものの,レースそれ自体を取り上げるテレビ放送(中継や中継録画)はほとんどなく,東京都知事の肝いりで,東京都のイベントとして三宅島でのイベントが東京ローカル放送のMXテレビで取り上げられたり,ドラッグレースの存在がテレビ番組の中で取り上げられる程度である。
     (甲64から66,67の1,2,68,70,71,103)
      また,全日本選手権(四輪車も一緒の大会)は,ドラッグレースの専用コースではなく,距離も4分の1マイルより短く,また,路面に滑り止めのような薬剤を塗布することもなく行われるが,観客は1万3000人から1万5000人程度動員している。
     (甲98,99,100)
      一方,ドラッグレースは,アメリカではそれなりに人気があるモータースポーツのようであり,選手層は幅広いが,わずか7秒ほどで勝負がついてしまうこともあって駆け引き等の経験も必要であり,20代の者から40代,50代の者や中には60歳を過ぎた選手も出場している。
     (甲69の1から11,79から86,)
    (コ) 原告は,レースに参加するかたわら,コピー機の修理,点検をする株式会社E(以下「E」という。)でも稼働し,平成16年においても478万3227円の収入がある。同社では,原告のレース活動を応援していた。
     (甲27,72,73)
    (サ) 原告は,本件事故後もEでの稼働を続けており,事故前の横浜の営業所で体を使う勤務から,築地を経て,現在は麹町の営業所で,体はあまり使わない仕事に変更となり,給与として年間は400万円台の後半程度を受領している。
    (シ) Aは,リフォーム等を扱う会社であるところ,平成15年は2500万円以上の経常利益を上げ,広告宣伝費も157万1850円かけ,平成16年は経常損失は53万8880円(赤字)であり,広告宣伝費は本件契約のスポンサー料800万円を含めた951万7248円をかけ,平成17年上半期は360万1631円の赤字決算であり,広告宣伝費に45万3600円をかけていたが,現在では,その存続自体もはっきりしない。
     (乙5から7まで)
   イ これらの事実を前提に,まず,原告の会社員分の逸失利益を検討する。
    (ア) 原告の基礎年収が478万3227円であること,症状固定時の原告の年齢が32歳であったことは当事者間に争いがない。
    (イ) 原告は,本件事故の後遺障害につき,後遺障害等級11級であり,一般的に同級で考えられている労働能力の喪失率を20パーセントであると主張する。
      しかしながら,現時点において,原告にはそれほどの減収は見られない。これらは,会社の配慮や本人の努力もあると考えられる一方で,原告は,事故後しばらくは,本調子ではないとはいえ,時速200キロメートル以上で走行する可能性のあるドラッグレースに出場していたことを考えると,身体的影響がそれほど大きなものであったとは考え難いから,その労働能力喪失率は10パーセントと考えるのが相当である。
      なお,原告は,会社員としては,通常の勤務を続けられる蓋然性は極めて高いから,症状固定(32歳)後,労働可能年齢である67歳までの35年間(中間利息控除をしたライプニッツ係数16.3742)につき,これを認めるのが相当であり,その額は783万2151円となる。
      478万3227円×10/100×16.3742=783万2151円
   ウ 次に二輪車のレーサーとしての逸失利益を検討する。
    (ア) まず,原告が本件事故当時,プロのレーサーであった点については,特に被告らも争ってはいない。そこで,原告の基礎年収であるが,原告は800万円と主張し,この金額は,原告の本件事故時のAとの本件契約に基づくスポンサー料であるが,①一般的な二輪車のプロレーサーの基礎年収やスポンサー料の額は判然としないこと,②本件契約の相手方が,原告の親族が経営する会社であり,収益状況に変化が見られるばかりか,現在においてはその存在も判然としないこと,③ 日本においては,二輪車のドラッグレース自体が,それほど一般に知られているものとはいえず,マスコミでの取り上げられ方も,レースそのものが中継や中継録画で放送されることはほとんどなく,イベントの一つやドラッグレースの紹介的な取り上げられ方が主であり,スポーツニュースなどでもレース結果が取り上げられることがないこと,④ 原告においては,これまでに,A以外には,高額なスポンサー料を得た実績がないこと等を考えると,原告が主張するように年間800万円のスポンサー料が必ず得られる蓋然性があるとは到底認められない。
      とはいっても,原告も一定の実績は残しており,一部モータースポーツファンの間では,ドラッグレースに根強い人気があり,平成10年のオールスター戦で1万9000人を動員したり,四輪車と一緒であるとはいえ,全日本選手権に1万3000人から1万5000人が集まることを考えると,一定の広告効果があることは否定できず,これに対するスポンサー料の支払がなされるであろうことも推認でき,現に,著明な会社がスポンサーとなっていると見られる例がみられる(甲89から95まで)。
      加えて,レース用二輪車の購入は毎年ではないようであるが,レース参加のためには,原告の身体の維持管理,当日のスタッフなどの人件費がもかかるのであり,サポートチームや支援企業の存在を考えても,一定の経費がかかること,原告においてメインスポンサーであるエコプランニング以外の金銭的サポートが年間20万円であったことも考慮すると,原告の二輪車のレーサーとしての基礎年収は200万円と考えるのが相当である。
      なお,原告は,自らが将来嘱望されていたことやアメリカでの人気の高さを根拠に挙げているが,原告が優勝したのは本格的なドラッグレースとは距離や仕様などが異なるレースにおいてであり,また,全日本選手権といっても,ポイントランキングを気にせず,車両のセッティングも本来のものと変えていないこともある(甲72)ようなレースが行われている状況での戦績であって,本件事故当時において,原告が,アメリカに渡り,アメリカ(ママ)おいて活躍できる蓋然性を認めるに足りる客観的証拠はない(甲58,59,91と甲61の1から11までの記録等の比較において,アメリカと日本とではまだレベルに差異があるものと認められる。)から,これを考慮することは相当ではない。
    (イ) 次に,原告の症状や,事故後の身体状況,レース内容等を考えると,原告が,事故前と同様のパフォーマンスを示すことができず,一つ間違えば命にも関わりかねないレース態様を考えると,本件事故により,原告はドラッグレースを行うプロのレーサーとして活動することはできなくなったというべきであるから,その労働能力喪失は100パーセントである。
    (ウ) また,労働可能年数について,原告は,65歳まで可能であると主張し,証拠(甲47,69の1ないし11,103)によれば,現実に,日本においても40歳を超えたレーサー(最年長で46歳)や,アメリカにおいては,40歳はおろか60歳を超えても現役のレーサーとして活動している者がいることが認められる。しかしながら,上記証拠上も60歳以上の者ばかりが出場しているわけではなく,誰でもが60歳以上になってもプロレーサーとして活躍できるとはいえず(証拠上の記録も,生涯を通じての最高記録であり,その年齢でのものとは限らない。),原告が高齢になってもレースに出場できる特別のレーサーであると認めるに足りる証拠はなく,その蓋然性があるとはいい難いから,原告の主張する年齢まで稼働できると認めることはできない。ただし,ドラッグレース自体はある程度の年齢までできることは認められるから,上記証拠などを参考に少なくとも40歳までの活動が可能であったものと認める。
      そうすると,労働能力喪失期間は,症状固定(32歳)後8年間(ライプニッツ係数6.4632)となる。
    (エ) 以上によれば,原告は,本件事故により二輪車のレーサーとして活動できなくなり,その逸失利益は1292万6400円となる。
      200万円×100/100×6.4632=1292万6400円
    エ よって,本件事故による原告の逸失利益は2075万8551円である。
  (4) 後遺症慰謝料については,原告の後遺障害等級11級を前提とした上で,原告が,二輪車のレーサーとして活動できなくなったことも加味すると500万円が相当である。
  (5) 以上を合計すると3109万1249円となるところ,前記1(3)のとおり,本件事故については原告にも過失(10パーセント)があるから,過失相殺をすると2798万2124円となる。
  (6) 加えて,原告は,本件事故により既に703万9858円の支払を受けているから,これを控除すると2094万2266円となる。
  (7) 弁護士費用については,本件事故と相当因果関係のあるのは210万円とするのが相当である。
  (8) そうすると,原告の損害は2304万2266円となる。
 3 結論
   以上によれば,原告の請求は2304万2266円及びこれに対する本件事故の日である平成17年9月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度でこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
    東京地方裁判所民事第27部
           裁判官  千葉和則

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