東京地方裁判所判決 平成21年3月30日

男性パイロットが頸椎捻挫,腰椎捻挫(14級10号)の後遺障害を負った場合において、傷害分170万円,後遺障害分180万円の慰謝料を認めた

       主   文

 1 被告は,原告に対し,1043万7733円及びこれに対する平成14年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求を棄却する。
 3 訴訟費用はこれを5分し,その4を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 請求
   被告は,原告に対し,5000万円及びこれに対する平成14年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   本件は,原告が運転する車両に被告が運転する車両が追突した交通事故について,原告が,被告に対し,民法709条に基づき,損害の一部及び事故日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 1 前提となる事実(当事者間に争いがない)
  (1)(本件事故)
    日時:平成14年10月16日午後1時15分ころ
    場所:神奈川県川崎市宮前区犬蔵2丁目18番5号先路上
    態様:原告が運転し信号待ちのために停車中であった普通乗用自動車(品川○○に○○○○)に,被告が運転する普通貨物自動車(横浜○○○さ○○○○)が追突した。
  (2)(責任)
    被告には,民法709条に基づく損害賠償責任がある。
  (3)(自賠責保険における後遺障害等級認定)
    原告は,本件事故により,頚椎捻挫,腰椎捻挫の傷害を負い,その症状は平成17年4月14日,固定し,自賠責保険での事前認定手続において,「局部に神経症状を残すもの」として,後遺障害等級別表第二第14級10号に該当すると判断された。
 2 争点
   損害の算定
 3 争点についての当事者の主張
  (1) 原告の主張
   ア 治療費        186万6555円
     原告は,本件事故により,次のとおり,通院した。
    (ア) 昭和大学横浜市北部病院
      平成14年10月16日(実日数1日)
    (イ) 久が原整形外科
      同年10月27日から平成17年4月14日(実日数112日)
    (ウ) 渋谷接骨院
      平成14年11月9日(実日数1日)
    (エ) 伊牟田接骨院
      同月12日から平成16年9月28日(実日数21日)
    (オ) 都立荏原病院
      平成14年12月12日(実日数1日)
    (カ) 鈴木鍼灸物療院
      平成15年4月1日から同年5月2日(実日数2日)
   イ 通院交通費等     3万7582円
   ウ 休業損害       307万8932円
     原告は,旅客機のパイロットとして勤務している会社員であるが,本件事故により,60日間の休業を余儀なくされた。本件事故前年の収入は1873万0172円である。
   エ 逸失利益       1億6893万9842円
    (ア) 原告は,現在でも,首・肩・腰・背中の痛みや,指のしびれ等が残存している。
      原告は,本来であれば,長時間のフライト等が必要となる職場へ転籍して相当な収入を得られたところ,本件事故による疾患のため,転籍を断った。また,パイロットという職業は,身体の状態について,通常の職種に比して格段に厳格な基準が設定されており,現に,原告においても,6か月に一度実施される「第一種航空身体検査」の基準を満たさない限り,現在の職業を継続することはできない。原告は,現時点では幸いにも上記身体検査に適合して,パイロットとしての勤務自体は可能となっているが,原告の後遺障害は,将来的に進行する可能性もあり,パイロットしての資格自体を失う危険性がある。したがって,逸失利益の算定に当たって,基礎収入は,パイロットしての職を失い,いわゆる地上勤務となった場合を前提とすべきであり,事故前年の収入が1873万0172円であったところ,大卒男子の全年齢平均(平成17年)の収入は672万9800円であることにかんがみれば,喪失率は65%を下らないというべきである。
    (イ) 基礎収入は,平成17年から平成19年までの間の平均である2135万4448円とすべきである。
      労働能力喪失率は,症状固定時から10年間は40%,それ以後の定年までの19年間は65%とすべきである。
      労働能力喪失期間は,勤務可能な65歳までとすべきである。
   オ 通院慰謝料      224万円
   カ 後遺障害慰謝料    110万円
     なお,逸失利益が評価されない場合には,それと同額を慰謝料額に加算して,後遺障害慰謝料を請求するものである。
   キ 既払金
     治療費186万6555円,通院交通費3万7582円,休業損害220万8120円については認める。その他の1万0580円については,支払があったことについては認めるが,請求の対象外であるから,既払金であることを争う。
   ク 弁護士費用      1700万円
  (2) 被告の主張
   ア 治療費
     治療費の額については認める。
   イ 通院交通費等
     認める。
   ウ 休業損害
     原告は,平成14年11月11日に仕事に復帰し,その後,同年12月5日までは欠勤も有給休暇も病欠もなく,勤務を続けている。したがって,同年11月11日以降は,休業の必要性がない。そして,休業損害の対象は有給休暇費消日に限られるから,同年10月30日,31日,11月4日から7日,9日の合計7日分である。
     基礎収入は,事故前3か月の平均賃金によるべきである。
     したがって,休業損害は28万9828円の限度で認める。
   エ 逸失利益
     基礎収入を1873万0172円とすることについては,争わない。
     労働能力喪失率については,5%であることについては特に争わないが,65%であることについては否認する。
     労働能力喪失期間については,4年程度に制限すべきである。
     したがって,逸失利益は332万0859円の限度で認める。
   オ 通院慰謝料
     120万5000円の限度で認める。
   カ 後遺障害慰謝料
     110万円とすることについては争わない。その余は争う。
   キ 既払金        412万2837円
    (内訳)治療費       186万6555円
        通院交通費     3万7582円
        休業損害      220万8120円
        その他       1万0580円
   ク 弁護士費用
     否認する。
第3 当裁判所の判断
 1 損害の算定
  (1) 治療費186万6555円及び通院交通費等3万7582円が本件事故による損害であることについては,当事者間に争いがない。
  (2) 休業損害
   ア 原告は,本件事故により,60日間の休業を余儀なくされたと主張するのに対し,被告は,平成14年11月11日には勤務復帰しているから,それ以後については,休業の必要性は認められないと主張している。確かに,原告は同日,勤務に復帰している。しかしながら,証拠(甲12の2,17,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,同月中旬から下旬にかけて,副操縦士定期路線審査が実施されることになっており,この資格更新の審査及び定期訓練等を受けなければ,副操縦士としての資格を失うことから,復帰したのであって,その後,航空身体検査医の判断により,再び,休業を命じられ,同年12月8日から平成15年1月10日まで,休んだことが認められ,このような事情に照らすと,平成14年11月11日以降について,休業の必要性がないとはいえない。
     もっとも,休業損害は,現実の収入の減少であると解されているところ,原告に,本件事故から上記の平成15年1月10日までの間に,減収が生じたことを認めるに足りる証拠はない。そして,本件事故日から平成14年11月10日までの間と,同年12月8日から平成15年1月10日までの間における有給休暇の費消は,19日であると認められる(甲7,乙2)。したがって,休業日数として19日を認めるのが相当である。
   イ また,原告は,事故前年の収入(1873万0172円)を基礎収入とすべきであると主張するのに対し,被告は事故前3か月間の収入を前提とすべきであると主張する。しかしながら,原告は,本件事故前の平成14年7月後半から同年9月15日までの間,「定期運送用操縦士」の国家資格を取得する訓練を行っていたために,実フライトがなく,収入が減少していたのであるが(原告本人),上記のような訓練が,休業期間中においても継続していたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,事故前3か月間の収入ではなく,事故前年の収入を基礎収入とするのが相当である。
   ウ この結果,休業損害として,97万4995円(≒1873万0172円÷365×19)が認められる。
  (3) 逸失利益
    原告は,後遺障害による労働能力喪失率は40%ないし65%であると主張し,被告はこれを争うものである。しかしながら,原告の後遺障害の内容は,いわゆる神経症状であって,他覚的所見を伴わないものである(甲3)。そして,症状固定後,現時点までに,本件事故の後遺障害による収入の減少があったことを認めるに足りる証拠はない。また,原告は,本件事故当時,副操縦士資格操縦士であったが,平成17年11月に機長資格操縦士となり,現在,B767型機に乗務し,飛行時間が7時間を超え,成田と北京の往復で8時間の飛行時間になることや,国内運行で1日4便乗務することもあり,機乗制限や機種変更等に至ることなく,パイロットとしての乗務を続けているのである(甲17,原告本人)。
    原告は,将来,後遺障害が進行して,パイロットしての資格を失う可能性があることを主張する。しかし,そのような蓋然性があることを認めるに足りる証拠はない。国土交通省航空身体検査指定医Aは,原告には椎間板の変性が認められ,今後,加齢変化が加われば,自覚症状も進行し,右手のしびれや頚部痛が悪化した場合,操縦操作に支障を来すことになる旨述べるが(甲16),本件事故によって椎間板の変性が生じたとは認められず,本件事故の影響というよりも,原告が本来有していた椎間板の変性に加齢変化が加わることを懸念するものと解される。したがって,同医師の意見をもとに,上記蓋然性を認めることはできない。
    上記によれば,後遺障害による労働能力喪失率は5%程度と認めるのが相当であり,本件に現れた事情を併せて総合考慮すると,労働能力喪失期間は10年程度(ライプニッツ係数7.7217)とするのが相当である。
    基礎収入については,原告の症状固定は平成17年4月14日であり,被告も1873万0172円とすることについては争わないことから,1873万0172円を基礎収入とするのが相当である。
    この結果,逸失利益として723万1438円(≒1873万0172円×0.05×7.7217)が認められる。
  (4) 通院慰謝料
    原告の傷害の内容,症状固定までの期間及び通院状況のほか,収入の減少を防ぐために努力していたことがうかがえることなどを考慮すると,通院慰謝料として170万円を認めるのが相当である。
  (5) 後遺障害慰謝料
    上記のような後遺障害の内容,程度のほか,原告の従事する職業を踏まえた将来に対する不安等,本件に現れた事情を総合考慮すると,後遺障害慰謝料として180万円を認めるのが相当である。
  (6) 既払金
    被告から原告に対する損害賠償として,合計412万2837円の支払があったことが認められる(甲6,弁論の全趣旨)。
  (7) 弁護士費用
    上記の損害の合計から1361万0570円から既払金を控除すると,948万7733円となることから,弁護士費用については95万円の限度で本件事故による損害と認める。
 2 結論
   以上の次第で,原告の請求は主文第1項の限度で理由があるから,主文のとおり判決する。
     東京地方裁判所民事第27部
        裁判官 齊藤 顕

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